魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0360:子爵の居ぬ間に。

 会議室に集まった面々の顔を見る。アルバトロス王国の頂点である私は、正面の一番良い場所に一人で座し左右に広がる机に並ぶ者たちの顔を眺めていた。しかしまあ、良く集まったものだ。たった一人の少女について語るべく、これだけの人数が集うなどなかなかにあり得ない。

 とはいえ筆頭聖女の異能で貧民街から見つけ出され、たった十歳の頃に公爵家の後ろ盾を得たのは、彼女の才だったのであろうか。

 ここではない別の世界で生きていた過去の記憶があると聞いているが、それでも一国の重鎮たちが十八歳の少女に注目するなど、なかなかに難しいことだ。当の本人は、出世欲のなさから私や私に連なる者たちに目を付けられていることは不本意のようであるが。ふう、と息を吐き会議室を取り仕切る為に声を上げる。

 

 「ハイゼンベルグ公爵よ……声を掛け過ぎではないか?」

 

 私に一番近い席の左側に座す叔父に声をかけた。会議を始めたいところだが、参加者がこんなに多くなるとは思いもよらず。

 私の思いつきを聞いて貰う為に、身内や宰相と財務卿あたりに声を掛けておいたのだが。叔父はどうしてこんなにも人を集めたのだ。――叔父の場合、その方が面白いことになるからと不敵に笑うのだろう。私の隣に立っている宰相と財務卿、護衛のヴァレンシュタイン魔術師団副団長が苦笑しながら叔父を見ている。

 

 「いいえ、陛下。ナイ、ミナーヴァ子爵に恩がある者は沢山おりましょう。話に噛んでおいたほうが良い人物を召喚した次第でございます」

 

 叔父は私を慮って丁寧な言葉で告げた。確かにミナーヴァ子爵に恩がある者は多かろう。実際、会議室の中には彼女と関わった人物が多いのだから。随分と離れた場所には、縮こまっているフライハイト男爵がおり、カルヴァイン男爵も座している。

 その手前には新たに当主の座に就いたフェルカー伯爵が。フェルカー家が廃家を逃れたのはひとえに、ミナーヴァ子爵が父親に対して頓着していなかったことに尽きる。

 彼女が父親に今更名乗り出たことを許さず、手引きしたフェルカー家も許さないと告げれば、アルバトロス上層部……私は厳しい処分を下さなければならなかった。フェルカー伯爵家もある意味で彼女から恩を受けているのである。

 

 彼らの隣には教会枢機卿に、黒髪の聖女の専属護衛を務める双子が籍入りしたラウ男爵の息子である伯爵の姿。リヒター侯爵も姿を見せている上に、更に手前になるとリーム王国の第三王子であるギドの姿も。叔父の隣にはミナーヴァ子爵のもう一つの後ろ盾であるヴァイセンベルグ辺境伯の姿もある。

 

 そして叔父の対面に座しているのは亜人連合国の代表と女エルフの二人。魔力が高い所為か周囲を少々委縮させているのだが、黙ったまま私に視線を向けていた。彼らを呼んだのには理由がありすぐさま許可を下してくれたことに感謝している。さて、先ずは。

 

 「そうか。ミナーヴァ子爵に王家、そして彼女との関係が強い者たちから錫杖を与えようと考えている。賛同者は王家、ハイゼンベルグ公爵家、ヴァイセンベルグ辺境伯なのだが、嫌な者がいれば退室しても構わぬ」

 

 一拍置いて、咎める気はないと付け加えておく。ミナーヴァ子爵は北大陸のミズガルズ神聖大帝国へ赴いており、秘密裏に事を進めることができる。妖精のいたずらで彼女に話が露見する可能性も考えたが、それは亜人連合国の者が止めてくれると確約をくれていた。

 

 「誰も居らぬな。しかし、それぞれ用意できる程度は違おう。無理はするな」

 

 金であれ、錫杖の素材であれ出せるものはそれぞれに違い、無理をさせるつもりはない。単純に、ミナーヴァ子爵に贈った際に彼女が断り辛い状況を作りたかっただけである。

 あまり無茶をすると彼女は嫌がるだろうが、最近は諦めたのか、それとも心変わりをしたのか二年前より随分と確りとした態度となっていた。初めて彼女を謁見場で声を掛けた際、びくりと肩を震わせた少女はもういないのだろう。

 

 「では、話を進めよう。錫杖製作の依頼先は亜人連合国の代表に任せる」

 

 「承った。大恩のある彼女に贈る品だ。手抜きは一切しないし、職人であるドワーフも気合が入ろう。そして可能であれば、我々もアルバトロスの話に参加させて頂きたい」

 

 代表が素材の提供は任せて欲しいと、柔和な顔で言った。本当に亜人連合国の者はミナーヴァ子爵に関わることには積極的である。

 亜人連合国の開祖であるご意見番を救ったことが一番大きな理由であろうが、それにしたって肩入れしすぎでは……と考えてしまうが、竜が増え国土が狭くなり悩んでいればミナーヴァ子爵が南の島を拡張させたからな。人が島を隆起させたなど信じられないのだが、目撃者に証言者が大勢いる上に本当に島が拡張したのだ。経緯はどうであれ、信じる他ない。

 

 「有難いことではあるが、良いのか?」

 

 念の為にもう一度確認を取ると、代表が確りと頷いた。隣のエルフ二人は妖艶に微笑んでいる。下心のある男であれば鼻の下を長く伸ばしていただろう。それくらいに美しいのだが、彼女たちは危険である。 

 北の大貴族相手にあのような手段を取るなど……一見、得しているように見せかけて、小さな所で大変危険なものを仕込んでいた。宰相と財務卿が陛下も契約を成さる際は隅から隅まで目を通してくださいね、と私に詰め寄ったのだが、ちゃんと隅から隅まで書類に目を通しているのは知っているだろうに。

 

 「聖女の錫杖と一言にしても、いろいろと種類があるからな。どうしたものか……ヴァレンシュタイン、枢機卿、なにか良い案はあるか?」

 

 贈るにしても、彼女の趣味嗜好もあるだろうし、聖女としての体面も守らなければならぬ。全て金で拵えて与えても良いのだが、金にがめついとイメージが付いても困るだろう。であれば、魔術に精通しているヴァレンシュタインか教会枢機卿に聞くべきだと言葉を投げた。

 

 「陛下、失礼いたします。魔力の通りが良くなるのであれば、杖であろうとも剣であろうとも問題はありません。でしたら、ミナーヴァ子爵のお姿に似合うものや彼女の好む物で宜しいのではないでしょうか」

 

 相変わらず、ヴァレンシュタインはにこにこと笑い食えぬ男である。

 

 「ヴァレンシュタイン卿の仰る通りかと。しかしミナーヴァ子爵はどのような物が好みなのでしょうか。装飾品は魔力制御の指輪しか身に付けておりませんし……」

 

 教会枢機卿がヴァレンシュタインの申したことに補足する。

 

 「あ奴の場合、高価な物を身に付けていると誰かに盗まれるかもしれない、という意思が強いからなあ。盗めるのであれば、盗んでみろという話ではあるが」

 

 話を聞いていた叔父が蓄えた髭を撫でながら言葉を紡いだ。貧民街で過した経験がある為か、高い品を身に付けるには抵抗があるようだ。エルフの反物――希少品――で誂えた聖女の衣装を纏っている時点で、話に齟齬がでてしまうのだが口にするのは野暮である。

 彼女から貴重品を盗める者はそうそう居ない。彼女の身の回りは精鋭の騎士や軍の者たちで固めてあるし、彼らを出し抜けた所で叔父の孫娘と辺境伯令嬢が守り、更に二つ名持ちの護衛騎士が付いているのだから。フェンリルとスライムと竜も彼女の側から片時も離れない。なによりミナーヴァ子爵本人も魔術を扱え、身を守る術を持っているのだ。そうそう破られはすまい。

 

 「素材を全て金で作ったとしても、ミナーヴァ子爵には重かろうしな」

 

 資金はアルバトロス王国の予備費から出す。馬鹿みたいに金をつぎ込めないが、ひとつの国が持つ予備費から捻出したものなので、結構な額になる。財務卿が渋った顔であったが、これからのアルバトロス王国とミナーヴァ子爵の貢献を考えると、頷くしかなかったようだ。

 

 「ならば竜の鱗や爪を使えば良いだろう。彼女が使う品と聞けば皆喜んで差し出してくれる。質の良い魔石があれば良かったが、生憎と長剣を製作する際に消費したからな」

 

 亜人連合国の代表が私を見据えて教えてくれた。本当に貴重な素材を軽い調子で提供しないで頂きたい。まさか、ミナーヴァ子爵もこうして彼らから軽い調子で賜っているから、私にとんでもない献上品を度々贈るのか……。原因の一端が見えた気がしたが、今は見ないふりをしておこう。ミナーヴァ子爵に贈る錫杖について考えるべきである。

 

 「竜の素材だけって癪だから、エルフからもなにか素材を提供しましょう。魔石、ねえ……流石にエルフも持っていないわ」

 

 「あ、樹齢一万年くらいの木から彫り出そうよ。魔力も多いし、ナイちゃん、教会で舞を舞った時に拾った枝から葉が生えた~って言っていたしね。魔石、かあ」

 

 聖女の錫杖が成長するかもしれないよ~と会議室の重々しい空気を、エルフの一人が打ち破った。確かに報告で拾った枝から葉が生えてきたと聞いていたが……。しかし、魔石か。錫杖であれば、魔石や宝石類は欲しい所だ。聖女だから、あまり華美にならぬように気配りしなければならないが、一つ二つであれば問題は少なかろう。

 

 「東大陸に頼ってみるか。あちらは魔石の産出地だ。巨大魔石とまでいかずとも、拳の大きさのものを買い付けできるやもしれん」

 

 アガレスの帝室に頼ればどうにかなるだろう。黒髪黒目信奉している風土があり、あちらの皇女殿下ももうじき帝の座に就くと聞いている。

 実権を握っているなら更に安易に話が通るであろうと、ヴァレンシュタインを見れば確りと頷いたので問題はないようだ。仕上げに魔力を込めたいと亜人連合国側から打ち明けられ、アルバトロスの聖女と魔術師、亜人連合国の高い魔力持ちの者が集い魔力を込めようと決定するのだった。

 ふむ。魔力提供だけであれば私も多少の力添えができると名乗り出たのだが、警備の関係上危ういからと断られてしまったが。

 

 ◇

 

 ミナーヴァ子爵が北大陸のミズガルズ神聖大帝国に向かって数日が経っている。俺も同行するのかと考えていたら公爵閣下から『エーリヒはアルバトロスに残れ』との指示が下った。

 既に大貴族にはミズガルズから逮捕願いがアルバトロス打診されて、フェルカー伯爵家に騎士団と軍が突入して捕まっていること。勇者はアルバトロス王国を出て、冒険者ギルド本部へと向かって、ミズガルズに戻るのが難しくなっていることが選ばれなかった理由らしい。

 

 ミナーヴァ子爵には申し訳ないが、俺が北大陸に赴かなくて良かった。彼女であればゲームの展開に囚われず、自身が持つ力で切り開くことができるのだから。

 

 「エーリヒ」

 

 昼が過ぎ、午後の授業を一齣終えた休み時間、特進科三年生の教室で噂好きの友人が声を掛けてきた。三年近くこの教室で過していれば、ミナーヴァ子爵がいない日はなにかしら政治的問題が起こっているという認識になっている。

 その証拠に、彼女の侍女を務めるハイゼンベルグ公爵令嬢とヴァイセンベルク辺境伯令嬢の姿はなく、乙女ゲーム二期のヒロインであるアリアが寂しそうに、自席にちょこんと座っていた。彼女は二年生の途中から特進科へと編入している。明るい性格で誰とでも話すことができる上に、アルバトロスの聖女であることが特進科に在籍している者に認められていた。

 

 「ん、どうした?」

 

 「いや、お前、ミナーヴァ子爵と懇意にしているだろう。北大陸に行かなかったんだなって」

 

 友人はぽりぽりと後ろ手で頭を掻きながら俺を見る。俺が王城に出入りしていることは、耳聡いクラスの連中だからみんな知っている上に、ミナーヴァ子爵と聖王国の大聖女さまと学院のサロンでお茶会を催していることは周知の事実。クラスメイトの男子連中に揶揄われることもあったが、ギド殿下とクルーガー伯爵子息が気を使ってくれ、俺が困っていると話に割って入ってくれていた。

 

 「行かなくても良いと判断されたからな。まだ学生の身分だし、爵位を持っている訳でもない。当然の判断じゃないか?」

 

 俺が国の命令でミズガルズに赴いて死んだ、なんてことになれば国の責任になる。貴族の端くれだから国に殉じた名誉の死かもしれないが、メンガー伯爵家が国に抗議してもおかしくはないからな。まあ、俺の親父が国に抗議できる胆力を持ち得ているかは謎であるが。

 

 「そういうもんか。北の話を聞けると思ったんだがなあ……」

 

 ほとんどのヤツは一生をアルバトロス王国で過し、国外の国へ赴くことは滅多にない。しかも、西大陸ではなく北大陸に向かったのである。興味が強ければ強いほど、北の話は気になるのだろう。俺はゲームでどんな国か知っているから興味は薄く、落ち着いていられるのだが。

 

 「なら、ミナーヴァ子爵に聞けば良いだろう? それかハイゼンベルグ公爵令嬢かヴァイセンベルク辺境伯令嬢に聞けば良い」

 

 この言葉に尽きる。彼女たちであれば普通に接すれば普通に言葉を返してくれる。まあ、その話しかけるという行為が相当に壁が高いのだが。俺はアガレスへとミナーヴァ子爵と一緒に巻き込まれてしまったから、アガレスで彼女に助けて貰って以降、随分と話しかけやすい環境を手に入れている。

 

 「馬鹿を言え、俺が聞ける訳がない。彼女らと喋ったことなんて一度もないんだぞ」

 

 話の主たちが教室にいない所為か、いつもより声が大きかった。気持ちが分かるが、もう少し音量を絞った方が良いのではないだろうか。まあ、俺たちの話に聞き耳を立てている人間は少なく、問題も少ない。

 

 「まあ、なんだ。頑張ればいつかは喋ることができるだろう。卒業式までにはどうにか声を掛けて、名前くらいは憶えて貰わないとな」

 

 長期休暇を終えれば、二学期となり直ぐに三学期が訪れる。そうなればもう俺たちは学院を卒業して成人を迎える。

 味噌と醤油製作が難航していたが、北大陸のフソウ島のことを思い出し、ミナーヴァ子爵にも話が伝わっているそうだから、今頃彼女は満面の笑みを浮かべて買い付けに向かっているかもなあ。自身が稼いだ金で、アルバトロスとミズガルズから許可を取っているならなにも問題はない。彼女が北へと赴く前、必ず手に入れて戻ってきますと告げ本人の黒髪が揺れていた。

 うん。魔力を漏れ出させるくらい欲しかったのか。味噌と醤油開発が成功しなくて申し訳ないと俺と大聖女さまが頭を下げると、恐縮しっぱなしだったけれど。

 

 友人がミナーヴァ子爵たちと卒業式までに会話できるのかは分からないが、悪意や下心があれば気付かれる。ミナーヴァ子爵はのほほんとしているようで、身内以外には割と手厳しい所があるからなあ。一歩、彼女の内側に入ることができれば普通に関係が築けるのだが。

 

 「頑張ってどうにかなるものじゃない気もする……」

 

 「まあな。切っ掛け……――?」

 

 友人と話していると気配を感じて、後ろを振り向く。そこには聖王国の大聖女さまがおり神妙な顔を浮かべて俺を見ていた。隣には聖女であるイクスプロード嬢の姿。ちらちらと大聖女さまへと視線を向けているから、大聖女さまの信奉者と聞いているから心配で仕方ないようだ。

 

 「どう致しましたか?」

 

 「メンガーさま、少しお話があります。本日の放課後、お時間は空いているでしょうか?」

 

 少し余所行きようの顔で告げた大聖女さま。銀髪の美少女が納豆を幸せそうに食べている所を見ている所為か、クラスの連中が彼女に向ける視線と違うものを俺は向けてしまう。でも、前世で大好物だったと聞いているし、馬鹿にする気はないのだが……やはり銀髪の美少女が納豆を食べているコケティッシュな光景は受け入れ難いもので。

 

 「はい。今日の放課後であれば問題ありません」

 

 ミナーヴァ子爵のいないアルバトロスは平和そのものだ。まるで彼女が台風のような言い方だが、子爵の持つ魔力のお陰でいろいろと問題が巻き起こっている。ミズガルズもアルバトロスが国境沿いに障壁を張り国の護りを固めていると知ったから、妙な輩に追われないようにと王国に皇女殿下方が留学にきていたのだから。

 

 「ありがとうございます、メンガーさま。では、後ほど」

 

 「いえ、お気になさらず。では、後で」

 

 互いに頭を小さく下げて、大聖女さまが俺たちの下から離れて行く。少し間をおいて友人が俺の脇腹に肘打ちを軽く入れた。

 

 「色恋に発展しそうなのか?」

 

 「いや、あり得ないだろう。彼女が俺に興味がある訳ないし、そもそも聖王国の偉い人だ。釣り合わないしな」

 

 大聖女の資格である聖紋が現れて選ばれる。俺が目にしたことはないが、彼女の身体のどこかには確かな証拠があるはずだ。

 そうして聖王国の教会に認められ、大聖女の地位を与えられる。お飾りと笑う者もいるかもしれないが、ミナーヴァ子爵の一件で腐敗していた教会に新しい風を吹き込んだ立役者だし。なにもしていない俺とは大違いだし、俺が肩を並べてはならないだろう。

 

 「まあ頑張れ、エーリヒ。色恋はどこに転がってるか分からんしな」

 

 そう言って友人は片手を上げて去って行く。いつも噂を持ち込み、気のすむまで喋っていく奴なのだが今日は新しいネタを持ち込まなかった。どういうことだと首を傾げていると、授業開始のチャイムが鳴る。気持ちを切り替えて授業に挑むべきだと自席に座って、本日最後の授業を受ける。

 

 鞄に荷物を仕舞い込み特進科の教室を出て、サロンを目指す。そうして指定された時間になり、指定された部屋の前で護衛の人に頭を下げれば扉の前に立つことになる。目の前の扉を三度ノックすれば、どうぞ、という扉の向こうから聞こえるくぐもった声が耳に届いて扉を開ける。

 

 「失礼します」

 

 腹に力を入れ声を出して今日のサロンの主へ視線を向けると、静かに席を立って俺を見据えた。陽に透き通る銀糸の髪がいやに綺麗だった。

 

 「お呼び立てして申し訳ありませんでした。どうぞ、席へお座りください」

 

 「はい」

 

 短く口にして俺も彼女も椅子へ腰を下ろす。一体何故、俺は今日呼ばれたのか全くしらず、少し身構えてしまう。そうして開口一番、彼女が紡いだ言葉は……。

 

 「最近、ナイさまに忘れられている気がして……ゲームのことは詳しく知っていますが、あちらのゲームは全く興味がなくて……捨てられたらどうしよう……」

 

 ああ、と両手で顔を塞いだ大聖女さま。サロンには俺たちの事情を知っている方しかおらず、ゲームと口にしても問題はない。ないのだが、大聖女さまは今にも泣きそうな勢いだから護衛の人たちの視線が痛い。

 確かに乙女ゲームのシナリオは過ぎ去り、何故かエロゲーが舞台の話がアルバトロスに舞い込んできた。とはいえ、ミナーヴァ子爵がそんな理由で疎遠になるとは思えないし、そもそも醤油と味噌の開発を担っているのだから、心配など必要ないだろうに。だが、ゲーム知識で繋がった関係だから、大聖女さまにとってはゲームを知らないなら役に立てないという図式が出来上がっているようだった。

 

 「え、あ……ま、待ってください! 子爵は北大陸に向かって、米と醤油と味噌を手に入れてくると俺たちに言ってくれたじゃないですか! 子爵は口にしたことは守る人ですし、興味のない相手はそもそも取り合いませんよ!」

 

 「そう、なのでしょうか……確かに私にも調味料を手に入れて帰ると仰って頂きましたが、ついでの可能性もあります」

 

 なんだ、一体どうしたんだ。大聖女さまは。あまりの様子にどうしたのかと聖王国の護衛の方たちに視線を向けると、ゆっくりと首を振られ事情は知らないと言われてしまった。どうするよ、これ……と悩みつつ、制服のポケットからハンカチを出して彼女に差し出す。

 

 「ああ、ほら。ここには事情を知っている方しかいません。とりあえず、泣きたいなら泣いてしまいましょう。嬉しくて泣いても、悲しくて泣いても、ストレス発散になるそうですから。今まで溜め込んでしまったものを出してください」

 

 我ながら、女性の慰め方なんで全く分からず、付け焼刃の前世の知識で尤もらしいことを言って誤魔化すのだった。

 

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