魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0362:愉快な方々。

 神獣さまにとってアルバトロス王国内での出来事は、驚きの連続だったようだ。周りの人たちの背が高いこと――私の身長くらいの方が落ち着くと言われてしまった――や、天馬さまにスライムと妖精さんズ。

 魔力量を多く備えている人たちにも驚いていたし、国に障壁を張って護っていること。ヴァナルと一緒に、大きい体躯で感心している所はちょっと可愛い。亜人連合国領事館の来賓室で、ディアンさまたちとの面会を果たしていた。

 

 『竜が二頭も揃っておられる……』

 

 『あ、いや三頭ですね』

 

 『エルフを初めてみました』

 

 ディアンさまとベリルさまを見て神獣さまが零した第一声だった。ディアンさまとベリルさまとクロで三頭と言いたいらしい。

 フソウ島では亜人の方はおらず、話に聞いていただけで本物は見たことがなかったとのこと。神獣さまが亜人連合国へ赴いてドワーフさんたちや亜人の方々を見たらどんな反応を見せるのか。どうもフソウ島では竜は凄く珍しい生き物と捉えられ、厄災級の幻想種と捉えられているようだった。

 九条さまはディアンさまたちの背の高さと、額の横から角が生えていることが信じられない上に、エルフのお姉さんズの薄着姿に顔を真っ赤にして初心な反応を見せている。あれ、フソウの男性って女性のそういう姿に耐性ってないんだっけ。まあ、着物だとかっちりしているし、破廉恥と言って女性は肌を隠すものかな。邪な視線ではなく文化の違いからくる照れなので、ダリア姉さんとアイリス姉さんも気にしていない様子。

 

 「そう驚く必要はあるまい。西大陸北西部、ようするに亜人連合国に赴けばもっと竜が住んでいるからな」

 

 「ええ、若。ご興味があるならば亜人連合国へご招待いたしますよ。ユキさん、ヨルさん、ハナさん」

 

 人化している竜のお二人、ようするにディアンさまとベリルさまが神獣さまへと言葉を向けた。竜の皆さまが増えて、辺境伯領の大木のたもとや南の島に移住しているものねえ。

 魔素が薄くても大丈夫な方は東に移ってみるのもアリだと言っているらしく、しれっと次期アガレス帝となるウーノさまと交渉しているようだし。ワイバーンの皆さまはアルバトロスで竜騎兵隊として働き、こちらで住処を得ていた。ちなみにワイバーンの皆さまも順調に数を増やしている。

 

 ベリルさまの言葉に神獣さまは言い淀んでいる。どう答えて良いか分からず、答えを考えあぐねているようだった。

 

 「ケルベロスは初めて見たわ。地獄の番犬と言われているくらいだし、フソウ島の番犬ということなのね」

 

 「みたいだね~。でも番を見つけちゃったら仕方ないよね。抗えないものだって聞くし~生まれた仔をフソウに譲渡するんだっけ?」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが神獣さまをしげしげと見つめ、悪戯好きな妖精さんが神獣さまのゆらゆらと揺らしている尻尾を持ち上げようと遊んでいる。神獣さまは妖精さんの悪戯を迷惑だとは欠片も感じていないようで、尻尾で叩かれて飛んでしまわないように気を配っていた。

 お姉さんズ曰く幻想種や魔獣の皆さまには『番』という縛り――もちろん例外はある――があって運命と受け入れるしかないのだって。

 うーん。一目見て体に電流が走ったと言う人もいるから、一目惚れというヤツなのだろうか。それも一生抜け出せない縛り。大変そうだと思う反面、浮気をしないので人間のように移ろわないのは良いことだろうか。

 

 「はい。フソウ国の帝家と将軍家には約束を交わしております」

 

 とまあ、彼らとはそういう約束を取り交わしている。神獣さまとヴァナルも納得しているし、仔を沢山産むと気合を入れていた。あまり増えすぎると住む場所に難儀するから考えて欲しいと伝えると、勝手に野原に放って生き残れないならそれまでだと言い切られてしまう。

 いや、そんな寝覚めの悪いことはできないし、フソウの方たちにも申し訳が立たないと伝えれば自然に生きる生き物だからこんなものだと、また言われてしまう。人間と魔獣さまとの価値観は埋まることはないらしい。

 

 「そっか。大事になっていないなら良かったわ」

 

 「二千年も神獣として奉られていたらねえ~渋るのも仕方ないよ」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんがうんうんと頷き、神獣さまが三頭とも頭を同じ方向へこてりと傾げた。時折見せるジークとリンの癖と一緒だと神獣さまを見ると、私に気が付いて尻尾を足に絡ませてくる。どうしたのかと私も首を傾げると、どうやら単純に近くにあったものを掴んだだけらしい。

 ヴァナルも私のお腹の辺りに顔を近づけたので、頭を撫でると目を細めて受け入れてくれる。何故か神獣さまも私に体を向けて、頭を体に擦り付けてくる。何故ぇ……と渋面になるが、とりあえず一頭一頭の頭を撫でると、ヴァナルと同じように幸せそうな顔になっていた。

 

 「ナイちゃんの魔力が心地良いのよ」

 

 「じゃないと懐かないだろうしね~」

 

 うんうんと頷く亜人連合国の面々。とりあえず、今度暇な時に亜人連合国へと赴く約束を取り付け子爵邸へと戻る。戻ったのだけれど……まあ、はっちゃける人たちが控えていた訳で。

 

 「ナイ、ナイ! 今までずっと貴女の侍女として黙っておりましたが、フソウの神獣さまときちんとご挨拶を交わさせて頂きたいですわ!! 白竜さまの背の上ではきちんとした会話を交わすことが叶いませんでしたから!」

 

 セレスティアさまがアッパーな方向へ感情が入り込んで、テンションが凄く高い。ベリルさまの背中にまた乗れたことも嬉しかったし、彼の背中で軽く神獣さまとご挨拶していたのに物足りなかったようだ。彼女に呆れた視線を向けているソフィーアさまは無言で『騒がしくてすまない』という視線を私たちに送ってくれる。止めようとしてもセレスティアさまは止まらないし、放置という手段を選んだらしい。

 

 「聖女さま。貴女という方はどうしてこうも次から次へと! まあ僕は魔獣の皆さまの生態調査ができるのであれば、なにも文句はないのですが」

 

 今まで我慢していたセレスティアさまが限界を迎えると同時、子爵邸に赴いていた副団長さまもテンションがアッパーな方向に入っていた。彼の場合、探求心が暴れている結果だろう。神獣さまが『うわあ……』みたいな視線でお二人を見ているが、諦めて欲しい。お二人とも悪意を持っていたり、危害を加える気は全くなく、幼少期からの憧れと飽くなき探求心がそうさせているだけ。

 エルとジョセとルカとジルにお猫さまとも仲良くしているし、ヴァナルとも友好的だから。一緒に戻っていた九条さまたちも、豹変したセレスティアさまと突然登場した副団長さまに驚いて目をひん剝いている。本当に子爵邸の中は混沌とし始めている。子爵邸で働く人たちにもきちんと説明しなければ、混乱しそうだなあと息を吐いた。

 

 ――数日後。

 

 戻って直ぐ、学生の本分を果たすため学院へと通いつつ、九条さまとフソウについて話し込み、お米さまやお味噌さんとお醤油さんの技術を開示できないか相談したり、アルバトロスとの交流を持つための準備やらをいろいろと奔走していた。

 政治面に関しては本職の方のお仕事なので、邪魔をせず隣に座って営業スマイルを浮かべているだけだけど。神獣さまは秒で子爵邸の環境に慣れていた。番であるヴァナルが一緒にいるだけで幸せだし、魔素が多いから過ごしやすいそうな。

 あと懐妊の準備の為に力を貯め込まなきゃいけないから、良い環境だって。神獣さまの言葉にうんうんと同意するエルとジョセ。まあ、二頭も子爵邸の環境が良いからと一時的――これ重要――に棲み付いたからなあ。

 

 セレスティアさまはふふふとご機嫌だし、ソフィーアさまはいつも通り。時折、神獣さまの話し相手になっていて、彼女はちょっと楽しそうだった。

 ジークとリン、そして孤児仲間のクレイグとサフィールは今更だから、もう驚かないと鋼の精神を見せている。子爵邸の面々も当主である私が連れてきた神獣さまだから、問題はないだろうと状況を直ぐに飲み込んでいた。

 

 目をクルクル回しているのは私だけ? と首を傾げるのだった。

 

 ◇

 

 トーマの時も大変だったけれど、これから強い風が吹くような気がする。そわそわと僕の心の中を掛ける不安の原因は、少し前にやってきた新人冒険者の青年だった。

 

 ――彼が勇者って本当なのだろうか。

 

 ギルド本部運営委員会から、北大陸から自称勇者の少年が冒険者登録を済ませたと聞いたのが三週間ほど前。彼が北大陸のミズガルズ神聖大帝国からやってきた事実は、個人ランクもしくはチームランクがAランク以上の者たちに限られていた。

 Aランク以上ということはSランクである僕たちのチームメンバー全員知っているけれど、青年の評価はトーマと同等か少し劣るくらいと導き出されていた。それでも勇者と名乗る青年はトーマと違って社交的だし、パーティーを組んで強い魔物を難なく倒しているから、彼が加入したチームの評価はかなり上がる。トーマも彼くらい社交的であれば、東大陸のアガレス帝国で鉱山送りなんてことにはなっていなかっただろうに。ふう、と短く息を吐いた僕を見て、パーティーメンバーの一人が首を傾げながら小さな唇を開いた。

 

 「どうしたの、リーダー?」

 

 大きな丸い瞳で僕を見る彼女は、チームの後衛を担っている支援職の子だ。魔術で強化、治癒、防御を引き受けてくれ、状況判断も的確。時折、支援職の人を馬鹿にする前衛の人を見るが、どうしてそのような考えに至ってしまうのか不思議でならなかった。――話が逸れた。

 

 冒険者ギルド本部にある、受付と酒場が併設されている大きな部屋で僕たちパーティーメンバーはご飯を食べながら、少し離れた場所で同じく食事を摂っている自称勇者の青年をこっそりと窺っていた。

 彼は臨時で組んだパーティーメンバーと楽しそうにお喋りに花を咲かせ、食事を摂っていた。エール片手に豪快に食事を摂る姿は冒険者そのもので。

 

 「ああ、いや。北の青年のことを少し、ね」

 

 僕たちの間では、自称勇者さまのことを『北の青年』と呼んでいた。名前を聞いたけれど、西大陸では少し特徴的で本人に聞こえても問題だろうと、仲間内で通り名を考えたのだ。

 

 「ああ、アルバトロス王国でやらかしたんだっけ。トーマの件くらいから滅茶苦茶有名になってるよね、あの国。ミナーヴァ子爵……竜使いの聖女さまの方が通りが良いか。彼女に手を出してはいないけれど、留学していたお姫さまに暴言吐いたとかなんとか?」

 

 お姫さまへ不用意に声を掛けたことも問題だけれど、竜使いの聖女に手を出していたら北の青年はトーマのようになっていたのだろうか。僕は彼女をアルバトロスの謁見場で見ることはなく彼女の実力を測ることはできないが、そもそも竜を従えている時点で人間以上の規格外だ。

 彼女の評判は優しい聖女さまとも聞くこともあれば、苛烈で容赦がないと評する人もいる。ただ後者の評価を下した人はなにかしらの罪を背負った者だから、優しい聖女さまというのも間違いではないのだろう。聖王国やリーム王国での行動が凄く派手なだけで……多分。

 

 「君はちゃんと話を聞いていないね。少し違うよ。お姫さまたちに実力を磨いてくると言い放って、彼はギルド本部へやってきて冒険者登録を済ませた」

 

 ギルド本部運営委員会は彼を要注意人物と指定して、彼の行動を見張るようにとも通達されている。今の所問題行動はないし、普通のどこにでもいる青年である。事情を知っている高ランク冒険者は首を捻っているし、僕もそろそろ彼の評価を変えるべきでは……と考え始めている所。

 

 「で、今は個人Bランク、チームだとAは確実。結構貴重な戦力だよね。まあ、顔も実力もリーダーの方が良いから、Sランクになるにはかなり時間が掛かるんじゃない? 知らないけれど」

 

 たった数週間で個人Bランクへ上り詰める人は稀有だ。実力と頭の良さを兼ね揃えていなければならないし、トーマの件で昇格が難しくなっているのにやすやすとBランクまで上っていた。もしかすれば冒険者ギルド本部が、実力者に彼を監視させるために裏で手を回しているのかもしれないが、これは僕の予想でしかないから口には出せなかった。

 

 「手厳しいね、君は。ちゃんと日々の訓練を怠らず、冒険者として現場に立ち続ければ良い腕の冒険者になれるだろうね」

 

 北の青年を評価するなら、僕は今の様に答える。まだ粗削りだけれど、ちゃんと真っ当に訓練を積めば僕のパーティーに誘ってみたいと考えるくらいには。

 

 「堅物で力の評価に厳しいリーダーが……誰かを褒めるって珍しいんじゃない?」

 

 彼の実力をきちんと見たわけではないが、情報屋からの情報に冒険者仲間からの情報を統合すると悪いものではない。どうして問題児として取り上げているのか首を傾げたくなるくらいには彼の評判は良く、連携に問題もないし誰かの足を引っ張る訳でも傲慢な態度を取っている訳でもない。

 

 「そうかな、正当なものだと思うけど」

 

 パーティーメンバーの僕の評価が厳しいものだなと苦笑いになると、目の前の彼女も小さく笑う。ふう、と息を吐いて離れた場所にいる北の青年へと視線を向けると、何故か目が合った。

 僕と彼の目が合ったことで同席している冒険者に軽く手を上げた北の青年はおもむろに立ち上がり、僕たちの方へと歩みを進める。一体どうしたのかと考えてもしかたないし、僕に用事があるのかもしれないと少し緊張を走らせながら彼がここまで来るのを待つ。僕のパーティーメンバーは面白いことになったと、にやにやと良い笑みを浮かべていた。どうやら退屈していたようで、これから面白いことになりそうだと期待しているらしい。本当に血気盛んというか、興味が強いと言うか。

 

 「貴方がSランクパーティーのパーティーリーダー?」

 

 北の青年は僕と同じ年齢くらいだろうか。あまり目立たない容姿だけれど雰囲気はある。脇の下には良く分からない金属の塊を下げていて、少し興味を引いた。取り敢えず、挨拶をするために立ち上がった方が良いだろうとゆっくりと席を立つ。身長も僕と変わらないくらいだった。

 

 「はじめまして。君のことは良く耳にしているよ。期待の新人冒険者だってみんなが言っているから」

 

 違う意味で期待されているのかもしれないが。

 

 「ありがとうございます。俺はズガルズ第一皇女殿下であるベルナルディダたちを幸せにするために力を欲しています。北の地で魔王を倒したのですが彼女たちはそれで満足できなかったようで、試練を与えられました」

 

 だから西大陸の冒険者ギルドで力を付けて、現在はアルバトロスに滞在している、ミズガルズ帝室の古い慣習に囚われている皇女殿下方を助け出すのだ、と。それを聞いた自分の顔が引き攣っていくのが分かった。同じく僕のパーティーメンバーも顔が引き攣っている。今の青年の発言が不味いものであると、口にした本人は気付いていない。

 

 「もう少し力を得られれば貴方たちともパーティーを組めましょう。もしその時になれば、どうぞよろしくお願い致します。今日はこれをお伝えしたく、失礼ながら声を掛けさせて頂きました」

 

 では、またと言い残して青年は先ほどまでいたテーブルへと戻って行くと、食事を再開していた。立ったままでは不味かろうと椅子に腰を下ろすと、パーティーメンバーの彼女が僕に顔を近づけて、小声で話し始める。

 

 「リーダー、リーダー! ……流石に無言は不味かったんじゃない? 巻き込まれるのが確定してる気がするよ?」

 

 うん。あの言い方だと僕たちは彼に目を付けられている。実力者として認められているけれど、巻き込まれれば面倒な事態に発展しかねない。

 

 「え、ああ、うん。ごめん、彼の言葉に圧倒されてしまったよ」

 

 そもそも皇女殿下はアルバトロス王国から北大陸の母国へと戻られている。この事実は極一部の人しか知らず、ギルドからは口外するなと言い含められていた。とすると、北の青年を西大陸から逃す気はなく、北に戻って皇女殿下方と揉めるよりも西大陸で実力のある冒険者として飼い殺しにするのが目的か。

 勇者であれば、女性を複数人娶っても問題ないのだが、北は一夫一婦が浸透していると聞いている。なるほど、ミズガルズは面倒な人物を西大陸へ上手く残したようだ。政治だから裏で取引があったのだろう。西大陸の各国が北の青年を野放しにしたのは、捕まえても価値がないと判断したか、確実な問題を引き起こすまで待っているのか。

 どちらにしても、北の青年がなにも行動に起こさずいれば、西大陸で静かに一生を過ごせるだろう。とはいえ、上昇志向の強そうな彼のことだ。トーマのように行動に起こすかもしれないから、注視しておかなければと気合を入れるのだった。

 

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