魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
冒険者ギルドから私たちSランクパーティーに北の青年の監視依頼が舞い込んだ。で、人の良いリーダーはホイホイと引き受けて、ギルドからの情報によって竜の被害を被った村の近くまでやってきた。丁度良い所だったようで、北の青年は近くを飛んでいる竜に狙いを定めていた。今、空を飛んでいる竜は亜人連合国から復興資材を村に運んでいる最中と聞いている。
大きな竜だけれど、亜人連合国にはもっと大きな竜がいるそうだ。今目の前を飛んでいる竜も随分と大きいのに更に大きな竜がいるとは。本当に、竜の討伐依頼が取り下げられて良かったと安心する。私たちは命を掛けなきゃならない職業だし、誰かが困っているなら助けなくちゃならないけれど……やはり自分の命と仲間の命は大切なものだから。無駄に散らせば哀しむ人もいるし、本当に良かった。
そうしてリーダーが北の青年に声を掛けて、幾度かのやり取りを交わす。少し前、北の青年が冒険者ギルド本部でパーティーに入りたいと、リーダーに頭を下げた時の印象は危ない人……だった。だって話が通じているようで通じていないし、自分勝手な言葉を吐いてリーダーや私たちのことなんてお構いなし。
心のどこかに引っ掛かりを覚えていたけれど、今回北の青年を監視して欲しいとギルド本部から依頼を受けて納得した。どうやら彼は北大陸のミズガルズと西大陸のアルバトロスから危険人物として注意喚起され、彼には影も付けられていると知らされた。黙っていてごめんねとリーダーが謝ってくれたけれど、ギルドから口留めされていたそうだ。SランクパーティーとAランクパーティーリーダーしか情報を与えられていなかった。
情報って大事だし、北の彼に影がつけられていると本人に知られれば厄介なことになるから、情報を限定されても仕方ない。
そうして知らされた北の彼の情報を聞いて『ジュウ』ってなにと首を傾げた。情報によると大砲を小さくして、腕で掲げられるようにしたものなんだって。火薬で金属の塊を発射し、体を突き抜けて致命傷を与えるのだとか。腕に掲げられるほどの大砲に威力がある訳はないと、リーダー以外のみんなは笑っていたけれど……。
リーダーが北の青年の説得は無理と判断して、鳩尾に良い一発を入れた。リーダーはSランクパーティーの長を務める実力の持ち主。彼に敵う人を見たことがないし、銀髪で虹彩異色だったトーマよりも確実に強い。だからリーダーが負ける訳がないと思い込んでいたツケを払う時がきたのだろう――
――なにかが弾けるような、短く大きな音を初めて聞いた。音の出どころは、北の青年が伸ばした腕から。妙な鉄の塊を持ってリーダーに向けたと視界に捉えた時にはもう遅かった。
「え?」
「なに?」
間抜けな声が漏れ、私の隣に立っていたもう一人の仲間も声を漏らしていた。リーダーに向けられた鉄の塊はおそらくジュウと呼ばれるもの。私たちがそんなに威力なんてあるわけないよと一笑していたもの。
「……かはっ」
ずっと一緒に冒険者として戦ってきたリーダーが、肺から息を吐いたけれど妙な音が混じっている。不味い、と感じたその時にはもう遅く口から血を吐き出したリーダーが地面へと倒れ込む。
「おい、なにをしやがった!!」
「ぐほ!」
パーティーの前衛を担っている切れやすいアイツが一番に北の青年に駆け寄り、今度は確実に意識を刈り取った。北のアレは彼に任せておけば良い。私はSランクパーティーの後衛職としての務めを果たさなければ。
どんな修羅場だって乗り越えてきたのだから、きっとリーダーの怪我も私の治癒で治せるのだから。地面に突っ伏しているリーダーに駆け寄ると、右脇腹に大きな穴が開いて体の中の臓器がむき出しになっていた。傷を見た瞬間、あ……駄目だと頭に過ぎり術を発動させようと、体の中の魔力を練っていたのに、すこんと止まってしまった。
「早くリーダーに治癒を!」
「できない……できないよ……! だってリーダーのお腹にこんなに大きく穴が開いているんだよ!? 傷を塞いでも……リーダー…は……リーダーはっ!!」
生き延びられないという言葉を口にできなかった。仲間のみんなは魔術の知識と医療の知識が乏しいから、リーダーの傷を見ても私が治せると勘違いしている。
もしくは分かっていながら私に治癒を施せと言っている。でもね……魔術師が駄目だって一度思ってしまうと、術を構築して発動させた所で効果は半分も得られない。それに、リーダーの酷い傷を治すには私の魔力が足りないはず。
「良いから、やるの!! リーダーを助けられるのはアンタしかいない! 私は攻撃一辺倒な魔術師だからアンタに任せるしかないのよ!!」
「頼む、リーダーを助けてくれ! 時間があれば違う術師に診せることもできる! 傷を塞いで止血だけでも構わない! このままじゃあ俺たちのリーダーが……!」
いつも余裕癪癪な顔で魔物を狩っている二人が悲壮な顔で私に訴える。あ……たとえ私がリーダーの傷を完治できなくても、確かに誰か別の人にお願いできれば!! 私より治癒魔術が得意な人がギルドにいるかもしれない。そうと決まれば……。
「リーダー……死んじゃ駄目だよ……またこれから冒険するんだよね? ――"君よ陽の唄を聴け""光よ彼の者に注ぎ給え""安らぎと安寧を"」
三節もの治癒魔術を唱えたのは初めてだった。みんな実力者だし、致命傷を避けようと無意識に体を動かして受け身や最小限の傷に留めようとするから。
今回は完全な不意打ちで避ける暇もなかった。ジュウに対する認識が甘かったことが、リーダーを命の危険に晒してしまった。ぐっと歯噛みして悔しい気持ちを堪えながら、発動した魔術を継続させるため魔力を注ぎ込んでいた。
「な……おい。竜がこっちにくるぞ! 大丈夫……だろうな……?」
冒険者ギルド本部で亜人連合国の竜の亜人を見たことはあるけれど、本物の竜を見た機会なんて数えるほど。脳筋の彼が驚くのは無理もなく、私だって空を見上げて確認したい気持ちを抑えて、リーダーの傷口と顔を見る。
「こちらに二頭飛んでくる。亜人連合国所属の竜とはいえ、気を抜かない方が良いわね」
攻撃一辺倒な仲間の魔術師も呟いた。リーダーの顔色は優れないけれど、傷を塞いだお陰なのか苦しむ様子はなくなった。でも、傷を塞いだだけで体の中身を魔術で再生できていない。このままじゃあリーダーは生きていけないかもしれないし、冒険者として再起することも不可能だ。どうしてこんなことに、と悔やんでも悔やみきれない。
「……でかい」
「大きい」
二人の呟く声が聞こえると、竜の翼から発した風が私たちにまで届く。ゆっくりと近づいている気配を感じながらも、魔術は発動させたまま。リーダーが死んじゃえば私たちはみんな別れてしまうだろう。リーダーがいてこそのパーティーなのだから、絶対に生きて貰わなければ困る。
『オオキナ音、キコエタ』
『ダイジョウブ?』
「…………」
「…………」
どうやら竜の方は人の言葉を操れるようだ。吃驚している二人は黙り込んだままでどうしたのだろうと後ろを振り返ると、目の前には大きな竜が二頭いて首を右や左に傾げている。
『ニンゲン、タオレテル』
『チガタクサン。ダイジョウブ?』
更に私たちへと二、三歩近づいて倒れているリーダーを覗き込むと、心配そうに目を細める。
「……! そこに寝転がっている男にやられたんだ! どうにかできないか!?」
「お願い、リーダーを助けたいの! なんでも良いから方法はないのかしら!?」
二人が二頭の竜へと大きな声を上げ、私も加勢しようと口を開いた。
「ねえ、竜って治癒魔術を使えるの!?」
失礼かもしれないが、なりふり構っていられなかった。私は必死に大きな声を上げ二頭の竜に聞いてみる。
『ゴメンネ、ツカエナイ……』
一頭の竜が首を下に下げて申し訳なさそうに項垂れたけれど、逆にもう一頭の竜が首を大きく上げながら言葉を伝えてくれる。
『アルバトロス! セイジョさま! アルバトロスのセイジョさま!』
『!! ソウダ! イコウ、アルバトロス!』
二頭の竜は良いことを思いついたと言いたげに、空へと顔を上げて翼を大きく広げた。そうか、聖女で有名なアルバトロスならリーダーを治せる人がいるかもしれない。竜の方たちにアルバトロスへ連れて行って欲しいとお願いしようとすると、もう一つ気配が増えた。
「おや……どういたしました?」
白い髪に白い肌、額には白くて大きな立派な角が生えている背の高い男性。この世のものとは思えない美しさだけれど、どこかで彼を見たことがある。
あ、思い出した。銀髪の馬鹿がやらかした時にギルド本部にきていた、黒い髪に黒い角を持っていた竜の亜人の方とよく似ているから、亜人連合国の方だと直ぐに理解できた。
パーティーメンバーの二人が新たに現れた白い男性に事情を話せば、彼が竜に変化してアルバトロスに連れていってくれるとのこと。目の前にいる二頭の竜よりも速く飛べ、何度も亜人連合国からアルバトロスへと行き来しているから個体を識別してくれると教えて貰った。
『事態は急を要します。飛ばしますから、しっかりと掴まっていてくださいね。北の彼はアルバトロスへ連れて行きましょう。北のミズガルズにも連絡をいれなければなりませんしねえ』
凄くすごーく大きい白い竜のお方が不思議な感じで言葉を伝えてくれる。
『ボクもイク!』
『オレモ!』
二頭の竜の言葉を聞きながら、大きな大きな白い竜の背の上に上がる。随分と高い位置で驚くけれど、リーダーを助けるためだから文句は言っていられない。北の青年は縄で縛りあげ、魔術でも拘束しておいた。二頭の竜の方も器用に空を飛んで白い竜の背中へと降りると、ガサツなパーティーメンバーがリーダーを抱えて口を開く。
「おうよ! 振り落とされねえように、俺が確りとリーダーを抱えておく!」
任せろと気合十分。私はリーダーの傷の痛みが少しでも緩和するようにと魔術を施している。魔術一辺倒な彼女は地上で声を張りあげて……。
「お願い! 私はギルド本部に事態を知らせてくる! ちゃんとリーダーをアルバトロスまで送り届けなさいよ!」
「分かった。絶対にアルバトロスまでリーダーを送り届けるよ! そっちも気を付けて!」
私も竜の背中の上から声を張ると『飛びますよ』という真っ白な竜の声が聞こえて、ゆっくりと地面を離れたあと凄い勢いで空を飛び始めるのだった。
◇
ミナーヴァ子爵邸の別館にある娯楽室の窓から外を見ながら、ナイお姉さまがいらっしゃることに思いを馳せておりました。
ナイさまが北大陸にあるミズガルズ神聖大帝国からお戻りになられ、『気に入って頂けるか分かりませんが、アリアさまとロザリンデさまにお土産を』と、もう直ぐ別館の娯楽室へといらっしゃいます。子爵邸の別館で過ごすようになってからナイさまにはお世話になってばかりです。子爵邸で働くみなさんもお優しく気さくな方々が多く、お庭には天馬のエルさんとジョセさん、ルカくんとジアちゃんたちが気さくに相手をしてくださいます。
裏庭には小さな畑があり、畑の妖精さんたちが一生懸命にお野菜を育てていたり、ナイお姉さま曰く、お猫さまも子爵邸で気ままに過ごされております。時折、私たちが住む別館にも顔をだしてくれ、寒い日があればベッドの中へと潜り込み一緒に寝てくれるので凄く可愛らしいのです。お猫さまがお産みになられた仔猫さんたちは、貴族の方々に引き取られ幸せにくらしているそうです。
更に最近、子爵邸へと参られた妖精のジルヴァラさんも、偶に別館へと顔をだしお掃除を担ってくれるんです。申し訳ないなと思いつつも、妖精さんの宿命らしく家のことを任せられると凄く喜ぶのだとか。
本当にミナーヴァ子爵邸で過ごす毎日は、楽しくて楽しくて仕方ありません。
お姉さまはまだかなあと、空を見上げると青い青い空の端に黒い点が動いています。最初は鳥さんかな、なんて考えていたのですが時間が経てば経つほど大きくなっているのです。
「アリアさん、ずっと外を見たままでどういたしました?」
一緒にお姉さまを待っているロザリンデさまが小さく首を傾げながら声を掛けてくださいました。
「空の中に黒い点が浮いています。鳥さんかなとずっと見ていたらどんどん大きくなって……」
私の言葉が気になるのかロザリンデさまも一緒に窓から空を見上げます。不思議に思い二人でずっと黒い点を追っていると、どんどん大きくなる影の正体は竜の方だと分かりました。
アルバトロスの王都上空には以前よりも多くの竜の方たちが飛来します。物凄く大きい竜から小型の竜の方、飛べない竜の方は飛べる竜の背中に乗ってやって来るのですが、どの方もミナーヴァ子爵邸を目指しています。二年前の大規模討伐遠征でナイお姉さまが竜の浄化を執り行ってからですが、本当に凄いことでしょう。
凄く大きな白い竜の背中の上から二頭の小型の竜が飛び出して、子爵邸を目指して飛んできているような?
「こちらを目指しているのでしょうか?」
「竜の方が飛来するのは、ナイさまの所か竜騎兵隊の方々の様子を伺う時」
ふっとロザリンデさまが私の真横に立つと良い匂いがします。流石侯爵家のご令嬢です。香水でしょうか、嫌味のない甘やかな匂いで彼女にとても似合っていますね。
「体の向きから考えるに子爵邸を目指していますが、いつもと様子が違う……」
ロザリンデさまの言葉がどんどんと尻すぼみになっていくのが分かりました。確かに一直線に子爵邸を目指しているようですが、凄く慌てているようです。いつもであれば悠然とアルバトロス王都上空を何度も旋回しながら高さを落としていくのに……。ロザリンデさまも私と同じ気持ちのようで、真っ直ぐに口を閉じて真剣な表情で空を見ていました。
「なにかあるのかもしれません! ナイお姉さまの身に危険が及んでも駄目ですし庭に出てみます!」
お姉さまの身も案じていますが、子爵家当主であるお姉さまが今の状況に気付いていなければ、大事になってしまいそうです。だから私は――。
「お待ちなさいませ、アリア!」
――勢いよく窓から離れて娯楽室の扉を開けると、妖精のジルヴァラさんとすれ違います。私が急いでいることに驚き『きゃ』とお可愛らしい声を上げましたが、申し訳ありません今は急いでいるのです。
なにか凄く嫌な予感がしますし、中庭に出なくちゃという気持が凄く強いので。ロザリンデさまに初めて呼び捨てされたことに気付かないまま、遅れて彼女も私の後を追いかけてきます。彼女は生粋の貴族令嬢なので私の足の速さについてこれず、少し遅れる形となって庭へと出ました。
「誰か乗って……?」
随分と近くなった竜の背中の上には男性と女性の姿を認めることができました。速い速度で飛んでいる竜の方の勢いを必死に耐えているような気がしますが、竜の方は一切の遠慮がありません。いつも優しくて穏やかで背中に乗せてくださる時は私たちを慮って、ゆっくり飛んでくださるのに。
「ア、アリアさん……足、速すぎではありませんか……」
ぜえぜえと肩で息をしながら私の横に立つロザリンデさま。竜の方はもう目の前までやってきており、私たちに気付いてくれたようだ。誰も乗せていない竜の方が大きな咆哮を上げる。耳をつんざく咆哮を初めて聞いて少し驚いていると、竜の方二頭が子爵邸の庭へ降り立ち、勢いを削ぐため爪と脚を地面に食い込ませながら降り立ちました。
「わ、私の庭がぁぁあああ!」
麦わら帽子がトレードマークの庭師さんが頭を抱えて膝から崩れ落ちてしまいました。大丈夫でしょうか。
『タスケテ! セイジョさま!』
『クロカミのセイジョさま! ドコ!?』
二頭の竜の方はキョロキョロと子爵邸の庭を見回します。一頭の背の上から男の方と女の方が降りてきて、私たちに気が付きました。
男性の背中には年若そうな男の人がいて意識がないようです。もしかして彼を治して欲しくて、子爵邸にきたようです。ナイお姉さまのお名前は今や西大陸を越えて知れ渡っているようですし、こうした方々がやってきてもおかしくはありません。そういえば白い竜の方はどうなったのでしょうか。空には大きな竜のお姿は見えません。
「あ、あの! 突然申し訳ありません! 私たちは冒険者なのですが、リーダーが酷い怪我を負ってしまって! 私が魔術を施して命はありますが……このままじゃあリーダーが死んじゃうんです!! お願いします! 助けてください!!」
「突然すまん! 見ず知らずの俺たちが言えることじゃないが、頼む! リーダーを助けてくれ!!」
ばっと頭を下げた女性と、背負っている男性が滑り落ちないように頭を小さく下げる男の人。けれど……どこの誰とも分からない方に治癒を施すのは憚られます。治癒院へと訪れた方を治すのであれば、お布施をして頂けるのなら治すことができます。どこの誰かと分からない人に治癒を施すと、あとでどうなるのか分からないのですから……。
でも、私は聖女です。アルバトロスの聖女なのです。目の前で苦しんでいる方がいるのであれば、私は聖女として治癒を施し命を救いたい。
「あの! 黒髪の聖女さまではありませんが、傷を見せてください!!」
流石にナイお姉さまを詐称――黒髪ではないので直ぐ露見しますが――する訳にもなりません。それに彼らが悪い人であったとしても、助けを求めている方たちを見捨てるなんてことはできません!その前に悪い人であれば竜の方たちが、彼らを背に乗せてアルバトロスの王都にまでやってくるとは思い難いのです。
「あ、ありがとうございます!」
「すまない、頼む!!」
男の方が背中から男性を下ろして、地面へと寝転がしました。騒ぎに気が付いたのかエルさんとジョセさんにルカくんとジアちゃんがこちらへとやってきました。ロザリンデさまが状況の説明を担ってくださると、ナイさまを呼んできてくださるとのこと。有難いと感じつつ、視線を地面の男性に落とします。
「……これは、酷い」
ロザリンデさまがボソリと呟きました。彼女の仰る通り、地面の男性は右のお腹の部分が大きく削れて、大きな穴が開いていました。まだ息はありますが……このままでは長くは持たないでしょう。だからこそ、お二方は私に縋るような視線を向け、二頭の竜の方も心配そうにこちらを見ながら首を傾げています。
「治るのか!?」
「私の魔術じゃあここまで治すのが限界だったの! アルバトロスの聖女さまは質が良いって聞いているから! 誰でも良い、リーダーを助けて!!」
彼、彼女らの気持ちに答えたいですが……一度傷を塞いでいるので、ここから再生させるにはかなり高難易度の治癒魔術を使用して、魔力を大量に消費します。
それこそお城の魔術陣へ魔力を補填するよりも消費することになり、数日間は動けなくなってしまう。――でも、私に必死に訴えている彼らの気持ちを無下にはできないし、目の前で倒れている人を見捨てることなんてできないから!
「――"君よ陽の唄を聴け""光よ彼の者に注ぎ給え""安らぎと安寧を""失った誇りを尊厳を取り戻せ""再び命の輝きを"」
治癒魔術の最高難易度のものを唱えました。五節唱えるなんて初めてですし、一度も使ったことがないのでちゃんと効果があるのかすら疑問です。詠唱を終えると地面に横たわっている男性に変化が訪れました。失われた部分の再生が始まり、真っ赤な肉が見えてきました。このまま順調に再生が行われると良いのですが。
「頑張ってください! 誰よりもなによりも、治りたいという気持が一番なんですっ!! どうか! どうか……!!」
施術を受けている方の気持ちがなによりも一番大事であると聞いております。お願いです。どうか助かって!
頭を下げて頼むと仰り、心配している方もいるのですから、ちゃんと生きていくべきです。
「アリアさま!!」
ナイお姉さまの叫ぶ声が聞こえました。お姉さまが叫ぶなんて珍しいと口元が緩むと、ソフィーアさまとセレスティアさまが私の名前を叫ぶ声に他の方々のこちらにくる足音が聞こえて意識を失うのでした。