魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
このお貴族さまの屋敷は、今まで依頼を受けてきた中で一番の修羅場じゃないかと心の中で叫んでいた。
リーダーが命を取り留めたのも束の間、私たちは黒髪黒目の背の小さな女の子……というか竜使いの聖女さまが住まう屋敷の中へと案内された。
リーダーは宿泊客用の部屋に寝かされ、リーダーに治癒魔術を施してくれたアルバトロスの聖女さまも別の客室のベッドに連れていかれている。私がリーダーに治癒を施したけれど、止血が限界だったから本当に助かった。
五節の治癒魔術を誰かが発動した所を見るのは初めてで、治癒を施してくれた彼女の魔力量の多さが窺い知れる。そして魔力切れを起こしそうになった彼女に、追加で魔力を分け合った竜使いの聖女さまも恐ろしいほどの魔力量の持ち主だ。
なにより驚いたのは、誰かに魔力を譲渡したこと。
普通、他人の魔力と己の魔力が合わなければ、魔力の受け渡しは成功しないし、成功したとしても半分吸収できれば良い方だ。けれど竜使いの聖女さまはほぼ全てをリーダーの傷を治してくれた女の子へと受け渡していた。信じられない、と見ていたけれど自分の目で確りと見てしまったのだから事実である。ふう、と息を吐いたけれど、今の吐いた息は緊張を紛らわせるもので。
リーダーが客室へと案内されたあと、私たちは別室へと通された。
何故か貴族さまのお屋敷や部屋には妖精が飛び、ケット・シーと言われている猫又が闊歩し、スライムが床を這っている上に、通された部屋でケルベロスとフェンリルが大きな犬くらいのサイズでちょこんと仲良く座っている。
その上、竜使いの聖女さまはその名の如く、肩の上に竜を乗せているのだけれど、白銀の小さな竜から発せられている雰囲気は普通じゃない。おそらく魔力の豊富さで体の大きさを変えているのだろうと分かるくらいには。いつのまにか人型サイズの妖精――あとで彼女の名前がジルヴァラだと教えて頂いた――まで現れていた。……庭では天馬が四頭住んでいるみたいだし。
竜使いの聖女さまも、冒険者ギルド本部に隣接する広場で見た時よりも魔力量が膨大に増えているような。異常な魔力の伸びに驚くけれど、平然とした顔でいる竜使いの聖女さまが異常なのでは。
そして竜使いの聖女さまの側で侍っている四人、金髪の長い髪をシニヨンで纏めている女の子と巻き髪が凄く派手な金髪赤眼の女の子に、背の高いそっくりな二人の男女の方たちの実力の底が見て取れない。
おそらく双子のきょうだいである子たちが佩いている剣は一級品の業物だと、詳しくない私でも理解できる。武器に妥協を許さないリーダーが見れば凄く興味を持ちそうだけれど今は夢の中。一時は彼の命を諦めていたけれど、助かったから本当に良かった。アルバトロスの聖女の質は高いと噂されるのは、事実だからだと実感できた。
「金髪の女の子は大丈夫なの?」
「五節唱えた治癒なんて無茶をしたね~」
亜人のエルフ二人が、竜使いの聖女さまへ声を掛けた。二年前に彼女たちを見た記憶がある。亜人が珍しくて野次馬を敢行したのだけれど、こんなに側で見ることになるなんて。魔力の多さは人間の比ではないし、纏っている空気も一味違う。どうして黒髪の聖女さまと彼女の側近の方たちは、その事を気にも留めていないのか。
「だがそのお陰で青年は救われた。感謝せねばなるまい」
額の横から角が生えている男性も、二年前に冒険者ギルド本部の広場で見たことがある。銀髪の迷惑者――名前を呼ぶのも憚られるので、こう呼ばれるようになっていた――のお陰で、昇級試験審査が厳しくなっており、その昇級試験審査の改革案を冒険者ギルドに突き付けた方だったはず。
「聖女さまは魔力不足で倒れただけなので、時間が経てば目が覚めるかと」
竜使いの聖女さまがお三方へと返事をすれば、エルフの二人が肩を竦めて私たちを見た。
――正直言って、生きた心地がしない。
私の隣にいるガサツなパーティーメンバーも、いつもより小さくなっている気がする。攻撃魔力一辺倒な彼女が同席していれば、ウッキウキでこの状況を眺めていたかもしれないが、生憎と私は魔術師として変態の領域には達していない。
「ま、自称勇者が一番悪いけれどね」
「ちゃんと責任を取って貰わないとね~」
ふうと息を吐くエルフの方々の言葉に、こくりと頷く竜使いの聖女さまと彼女の護衛の人たち。確かに自称勇者、北の青年が一番悪いけれど……ジュウと呼ばれる不思議な武器を舐めていた私たちも悪い気がする。
ギルド本部から十分に気を付けろと通達されていたのに、侮っていたところがあるから、リーダーは脇腹に大きな傷を負うことになったのだから。こればかりは猛省しないといけない。
「さて。申し訳ありませんが、我々には事態説明をアルバトロス王国へ行わなければなりません。何度も同じことを聞かれることになりましょうが、事実のみをお答え頂きたい」
一人掛けのソファーに座す竜使いの聖女さまが私たち二人に声を掛けた。二年前よりも随分と確りとした雰囲気だし、貴族の雰囲気も纏っているような。広場の噴水の側で守られるように囲まれていた彼女と見た目は同じだけれど、風格を身に纏いどっしりと構えているようにも感じられた。
「承知いたしました。冒険者ギルドに所属するSランクパーティーメンバーの名に傷はつけられません。皆さまの質問に正直にお答えいたします」
「俺も彼女と同じです。Sランクパーティーメンバーとして、なにより俺たちのリーダーの傷を治してくれた恩人に嘘など吐けない。嘘を吐く理由もない……です」
敬語が苦手なガサツな男の言葉に、小さく笑った竜使いの聖女さま。失礼だったかなと不安になるけれど一瞬で彼女は鳴りを潜めさせ、私たち二人に事の経緯を最初からお願いしますと告げるのだった。
――最初から丁寧に、北の青年が冒険者ギルドへと現れた頃からの話を、考察や疑問を交えながら竜使いの聖女さまたちへ話し終えた。
「危険な代物だと我々の通告では想像し辛いものだったのでしょうね。未知の物に疑念を抱くのは致し方ありませんが……北の青年をアルバトロスから放逐し自由にさせたことで冒険者ギルドの方々を危険な目に合わせてしまったこと、お詫びいたします」
竜使いの聖女さまが頭を下げる。貴族としてではなく聖女として頭を下げたようだ。貴族さまが平民へと頭を下げることはなく、仮に謝ったとしてももっと歪曲的な物言いになって分かり辛い所がある。
確かに『ジュウ』と呼ばれる武器の説明を聞いてもイマイチ理解が及ばなかった。掌サイズでも殺傷能力を十分に備えていると聞いても、魔術で対抗すれば敵うと考えていた。あの時に、北の青年が構えたモノがリーダーの身体に大穴を開けるなんて、少しも考えていなかったのだから。
「我々も謝らなければなるまい。同族が暴れなければ問題は起きなかったはずだ。すまなかった」
暴れていた竜は亜人連合国所属とは聞いていないのだが、同族として人間に迷惑を掛けてしまったことは心苦しいのだとか。亜人連合国は閉鎖的で人間を目の敵にしていると聞いていたのに、どうしてこうも礼儀正しいのだろう。
今回、被害を受けた村や領には見舞金と復興資材が届けられていて、実際に私たちも資材を運んでいた竜――私たちを子爵邸へと運んでくれた竜二頭だ――をこの目で見ている。幼い頃、寝物語に親から聞かされた話とは随分と違っているから驚きだ。
そうして竜使いの聖女さまは、情報交換だと言って北の青年がアルバトロスから放逐された理由を、差し障りのない範囲で語る。
「え、キモイ……あ、いえ! 失礼いたしました!」
正直な言葉が正直に口から出てしまった。私の言葉を責める訳でもなく、アルバトロスの方々と亜人連合国の方々は苦笑いになっているから、私の態度を問題にはされないようだ。
いや、うん、あのね……女として言わせて貰うと、いくらカッコいい人が『君を妻に迎えたい』と言っても、他にも娶りたい女性がいると知れば千年の恋も冷める。冒険者ギルド本部の委員会からも教えられていたけれど、改めて聞いても気持ち悪いという気持しか湧いてこなかった。北の青年は本当に碌なことをしていないと呆れた所に、部屋を照らすなにかが現れた。
「ひゃ!」
その光は人型の妖精の所へと行き、しばらくすると竜使いの聖女さまの耳元でなにかを告げる。
「驚かせてしまい申し訳ありません。治癒を施した彼が目覚めたようです。意識ははっきりしているようなので、参りましょう」
竜使いの聖女さまは謝りつつも、目覚めたリーダーの下へ行き確認を終えれば、説明の為に城に赴こうと仰るのだった。
◇
事態の経緯を冒険者の方から子爵邸の来賓室で聞いていると、妖精さんが舞い込んできてジルヴァラさんへと何かを告げてふっと消えた。そうしてジルヴァラさんが私に耳打ちをする。
――怪我を負ったSランクパーティーリーダーが目を覚ました。
ジルヴァラさんの言葉にひとつ頷いて、声に出した。私の言葉を聞き、泣きそうになっている仲間の冒険者である男女二人を見て良かったと安堵する。子爵邸の庭では彼らを運んでくれた竜の方々も『オキタ!』『ナオッタ!』と喜んでいるし、一緒に庭にいたエルとジョセとルカとジアも喜んでいるようだ。
お猫さまは関係ないと言わんばかりだけれど、ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんは良かったと安堵してくれているし、クロも『アリアが頑張った甲斐があったね』と私の耳元で囁いてくれた。ロゼさんは我関せずで影の中だ。興味のあること、ないことにくっきりと差があるなと苦笑い。
様子を見に行くと起き上がられるのだが、無理をさせるわけにはいかず部屋で休んでいて欲しいとお願いすると、本人も自身の状態を理解しているのか『ご迷惑をお掛けしました。自身の自惚れが招いた結果であり、反省しております』とリーダーの彼が告げた。今後彼らがどうなるかはアルバトロスと冒険者ギルド次第だろうか。
そろそろ城に行こうとすると、ふっと影が差す。
「ナイちゃん、いけ好かないのがアルバトロスに事態説明に赴いているから、私たちもそろそろお城に向かいましょう」
ダリア姉さんがにっこりと笑う。彼女にいけ好かないと呼ばれた方は白竜さま、もといベリルさまである。おそらく村の復興に立ち会うために派遣され、現場に居合わせたようだ。
「君たちも一緒だよ~。流石に目覚めたばかりの人を連れて行く訳にはいかないしね~」
アイリス姉さんが冒険者の二人を見て声を掛けると確りと頷いてくれた。ディアンさまも同行するようで、椅子から立ち上がる。
アリアさまが目覚めるにはもう少し時間が掛かるのでロザリンデさまに彼女を預け、子爵邸の地下室から王城へと転移した。王城へ参るのにヴァナルと雪さんと夜さんと華さんを一緒に連れて歩くには不都合があるので、影の中へと入って貰った。
フソウ島からアルバトロス王国に来ている九条さまたちは、王都の街に出ていろいろと自国の益になりそうな技術や商品を物色中である。護衛の方々が付いているし、案内役の人も付いているから九条さんたちは心配ない。大樹公さまからいろいろな品を買い付けろと命令されているようで、九条さまは困り顔だったけれど。
事態はお城の中に広がっているのか、官僚の方々が忙しなく廊下を行き来している。お城に入った私たちは謁見場手前の控室へと案内されて、陛下がくるのを待っていた。
冒険者二人は王城へ入ることが滅多にない所為か、凄く緊張しっぱなし。大丈夫だろうかと心配になるけれど、これからまた事情説明をしなきゃならないし、ギルドにも同じことをしなきゃいけないだろう。
「若、皆さま。彼の方の命は取り留めたと聞き及びましたが、本当でしょうか?」
控室にひょいと姿を現したのはベリルさまだ。冒険者ギルド本部近くにある国の村からアルバトロスまで飛び、冒険者たちと勇者さまを運んできてくれた方。誰も彼の言葉に答えず私に視線を向けるので、説明を果たすために口を開いた。
「はい。アリアさまが治癒を施してくださり、一命を取り留め目が覚めるまでに至っております」
アリアさまがSランクパーティーリーダーに緊急事態だからと治癒を施したので、寄付は後から相談だろう。
アリアさまは受け取りを拒否するかもしれないが、教会の体面もあるし他の聖女さま方との兼ね合いもあるから、冒険者ギルドかパーティーリーダー本人と交渉の場を設ける所くらいまでは話を進めておきたいし、冒険者の方々が無罪放免となると良いのだが……難しいだろう。
「そうでしたか。大きな音を聞き驚いて近くへ参ってみれば、血を流して倒れた方がいらっしゃいましたからね。それと自称勇者さまも」
にこりと笑みを携えるベリルさま。その笑顔にはどんな意味が込められているのか。とにもかくにもアルバトロスまで運んでくれたことを、冒険者二人はベリルさまに凄く感謝していた。
竜が暴れなければ発生しなかった事案かもしれず、勇者さまも無茶をしようとはしなかっただろう。冒険者ギルド本部から命を受けて勇者さまの回収に向かった彼らもとばっちりだ。
銃が存在しない西大陸へ持ち込んで、ぶっ放してしまった勇者さまも大概だよなと思うけれど。しかしまあ面倒なことになってしまった。これはアルバトロス、亜人連合国に冒険者ギルド、北のミズガルズを巻き込んだ大騒動に発展しそうなのだから。
謁見するのが気が重いけれど、関わってしまったのだから仕方ない。そうして謁見場へと入り、重々しい空気を纏った陛下が姿を現した。冒険者ギルドの上層部も謁見場にいるから、話を聞いて転移魔術陣を使用して移動してきたのだろう。流石にミズガルズは遠すぎて誰もきていないけれど。
怪我を負った青年の無事を聞いて安堵の息を吐くと、捕らえられた勇者さまが騎士の方々に連れられて謁見場へと入ってくる。むっとした表情で陛下を見上げる勇者さま。これ以上抵抗しても、なにを言っても彼の未来は変わらないだろうが、言い訳くらいは聞くのだろうか。
「勇者よ……何故、敵意のない者に武器を向けた」
陛下の言葉と同時、私の近くにいる冒険者二人の手がぎゅっと握り込まれているのが見えた。
「敵意? 敵意はありましたよ。俺の行動の邪魔をしたのだから、撃たれても当然でしょう。俺はベルナルディダたちを娶ると決め、強くなると彼女たちに約束した」
「それが独りよがりだと何故気付かぬ。勇者の言葉にミズガルズの皇女がきちんと答えたことはあるのか? ――ヴァレンシュタイン、例の物を!」
陛下に呼ばれると、副団長さまが謁見場の隅から姿を現し勇者さまの前へと歩いて行く。捕らえられているから勇者さまが副団長さまに喰ってかかることはない。懐から魔石を取り出して魔術を一節詠唱すると、声が聞こえてきた。これは……ミズガルズの皇女殿下と勇者さまの声だ。
『――ベルナルディダ、ディフィリア、メリディアナ、シラヤ! 必ず俺が迎えに行く。それまで待っていてくれ!!』
『わたくしたちは自称勇者さまを待つ義理も義務もございません! そもそも貴方が勇者足りうる理由はどこにあるのでしょう!?』
『なっ! ……だって俺は勇者だ! 勇者の顔だ! 身体だ! 君たちはこの顔を見れば俺が勇者だと理解できるだろう!? そして魔王を倒し、角を持ち帰った! それでも足りないのか!』
『勇者さまが顔と身体で決まる訳ではありません。確かに伝承では魔王を倒した方が勇者と呼ばれることになりましたが……足りないのは貴方に対しての信用や信頼でございましょう。一夫一婦が常であるミズガルズで突然わたくしたちを娶ると申したことは、非常識でしょう』
『ならば、俺が勇者足りうれば良いんだな!!』
『いいえ。もう、勇者さまとの関係構築は無理でございましょう』
『いや、まだ俺の実力を君たちに見て貰っていない! 君たちに似合わないというなら、君たちの夫として然るべき者になれば良いのだから! ――俺は腕を鍛え直して、再び君たちの前に立つ!!!』
勇者さまと皇女殿下のやり取りが結構な音量で謁見場に響いた。副団長さまにはカメラもどきの魔術具作成を依頼して、見事に完成させてセレスティアさまが凄い勢いで写真を撮っていたけれど……音声録音をいつ完成させていたのだろう。
元々は映像記録できるものが欲しくて副団長さまに依頼して、難しいと言って難航していたのに。どうやら音声だけ録音することはできたみたい。しかしまあ、映像はないけれど声だけでも勇者さまがかなり無茶を言っていることが分かる。
完全にフラれているのに、諦めていない。恋愛以外の場面であれば、諦めないことって大事だけれど。恋愛面で諦めない心を見せると、それはただのストーカーであり、迷惑極まりない行為だ。皇女殿下方には、録音することの許可は取ってあるだろう。流石に、黙って録音したと知れば良い気分ではないだろうから。
「客観的に聞けば、多少は勇者が己の口から吐いた言葉が無理であることを理解できよう」
少し疲れた様子の陛下と、気持ち悪いと一歩引いているアルバトロス上層部の皆さま。
「個人のやり取りを勝手に記録に残すとは、どういうことだ!」
確かに個人のやり取りを勝手に記録に残しているけれど……問題はない。前世の現代社会であれば私的な所をこっそりと録音したことを咎められるかもしれない。
だけれど今は王政が敷かれている世界であり、文化が成熟しているとは言い難い。だから勇者さまの言葉を聞いてもいまいちピンときていない方がほとんどで、個人を尊重せよと言われてもいまいち分からない世界である。
「なにを言う、勇者よ。アルバトロス城の中で起ったことだ。私が指示を下せば皆従い、私が白を黒と言えば黒になるのだぞ? それにミズガルズの皇女殿下たちには許可を得てある。もちろんミズガルズの帝室にも。問題はあるまい」
ですよねえ。アルバトロス王はマトモな方だから白を黒だと言い張ることはないけれど、やろうと思えばやれる方である。王国でたった一つの玉座に就く重さを知っている。陛下の言葉を理解している方々は、うんうんと頷いて勇者さまへ哀れみの視線を向けた。
「だが、貴方は俺の……俺たちの前にいなかった! 何故このような卑怯なことをする!!」
「卑怯? 卑怯と申したか」
くく、と口を歪に伸ばして笑う陛下。あまり見たことのない顔で、怒っていることが窺い知れる。
「西大陸では武器として存在していない品を使い、西大陸の者に害を与えたお前に卑怯と言われるとは滑稽だ。実に愉快な気分だよ。――此度の件はお前を放逐したアルバトロスにも責任がある。最後まで踊り切って貰う」
そう告げる陛下に二の句を告げようとした勇者さまの口は塞がれ、謁見場から強制退室させられるのだった。