魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

367 / 740
0367:問い詰めてみよう。

 勇者さまが謁見場から退室して暫く。ふと気になることが頭に過ぎった。

 

 ――だって俺は勇者だ! 勇者の顔だ! 身体だ! 君たちはこの顔を見れば俺が勇者だと理解できるだろう!?

 

 副団長さまが録音していた音声を聞いた勇者さまの台詞。この台詞ってゲームプレイ済みの人じゃなければ言えないのではと疑問に感じてしまったのだ。やらかしてしまった勇者さまから聞き出して意味があるのか、ないのかの判断がイマイチ掴めない。どうしようかと悩んだ末、ソフィーアさまとセレスティアさまを通じてアルバトロス上層部へお伺いを立ててみた。

 

 返ってきた返事は、勇者さまの行動は狂気じみたもので真相を知る糸口があるならば問い質すのもアリだとお答えを頂けた。なら、喉に小骨が突き刺さっている状態は気持ちが悪いし、ゲームを知っているメンガーさまと一緒に幽閉塔へ行ってみようとなったのだ。巻き込んでしまうメンガーさまには申し訳ないが、ゲーム知識のない私が勇者さまに『転生者ですか?』と正直に問うても誤魔化される可能性がある。

 

 ゲームの登場人物に凄く固執している雰囲気のある勇者さまのことだ、同じ作品が好きだったと知ればなにか新たな情報を得られるかもしれない。私が勇者さまに問い質したい一番の理由は、銃という代物の危険性を知っているのに人に向けて撃った理由を知りたいだけ。

 日本人であろうが、欧州人、米国、その他地域の人であれど危険な物であることは子供でも知っている。銃という物に頼り、人を撃ってしまった勇者さまに怒りを覚えている自身に少し困惑しながら、日を改めて幽閉塔へ向かう許可とメンガーさまへ手紙を認めるのだった。

 

 ――長期休暇まで、あと二週間という頃。

 

 アルバトロス城の庭の端、目立たないように建てられた幽閉塔の前でメンガーさまを待っていた。呼びつけておいて遅れるのはあり得ないし、指定時間までまだ少しの余裕がある。

 いつもの子爵邸のメンバーでメンガーさまの到着を待っていた。爵位持ちが先にきているとメンガーさまが恐縮する、とソフィーアさまに告げられたのだが、こればかりは性分である。人を待たせるのはあまり好きではないので、時間前行動が身についていた。幽閉塔のどこかしらには元第二王子殿下がいるはずと塔を見上げていると、ふいに影が差す。

 

 「ナイ、どうして勇者が前世の記憶持ちだと知りたいんだ?」

 

 「ええ。今までの貴女であれば興味は持たなかったはず。なのに今回は自らアルバトロス上層部へ申し出るなんて意外ですわ」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが私の側に立って問われた。確かに以前の私であれば気にはせず、起こったことを呑みこんで流されるままだったはず。でも今回はちょっと気になるというか、危険な物と知っている筈なのに気軽にぶっ放してしまった勇者さまに疑問が湧いていること、そしてもう一つが……。

 

 「多分ですが……なにも知らない人が撃たれたことを後悔している気がします。私がもっと強く警戒をするように伝えていれば、勇者さまから銃を取り上げることが可能でしたから」

 

 冒険者ギルドに銃は飛び道具で危ないと知らせていたけれど、どうも伝わり方が弱かったみたい。今回のことで西大陸は銃規制を敷く準備を整えているそうだ。

 冒険者ギルドも、撃たれたSランクパーティーリーダーの状況を鑑みて賛成に回った。威力は申し分ないし、魔物や魔獣がいる世界で力のない人が持てば有効だけれど、それ以上に人に向けた時が危ないと判断された。

 私の後ろに控えているジークとリンは微妙な顔を浮かべながら、私の話を聞いている。おそらく撃たれた時に自分たちが対処できるのか考えているのだろう。剣と魔法のファンタジー世界みたいだし、アニメや漫画で観た銃から放たれた銃弾を真っ二つにできそうだけれど……ジークとリンには危ない目にあって欲しくない。

 

 「そうか。だが一番悪いのは撃った奴だ。魔物や魔獣相手に放つのであれば問題ないが、人間に放てばどうなるかなど誰でも想像がつく」

 

 「そうですわね。子供が遊び半分で撃つのとは訳が違います。成人して冒険者登録を済ませたなら、同業の者に危害を加えればどうなるかなど誰でも分かるでしょうに」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが微妙な顔で話している私にフォローを入れてくれる。確かに撃った勇者さまが一番悪い。悪いのだけれど、防げたよなあと考えてしまうのだ。こればかりは起こってしまったことだから、後悔するよりも問題解決と勇者さまが何故撃ってしまったのか真実を明らかにする方が先だろう。

 

 「皆さん、お待たせして申し訳ありません!」

 

 迷惑にならない程度の声を上げて、メンガーさまがこちらへ小走りでやってくる。彼の後ろには城に勤める近衛騎士の方々の姿もある。

 メンガーさまも随分と出世したのではないだろうか。このまま王城の官僚職を得そうだけれど、メンガーさまの目指したい将来ってどんなものだろう。いつもお世話になっているし、できうるかぎり協力したいのだが……今はまだ先のことだと頭を振る。挨拶を交わすと、いの一番に聞かれたこと……。

 

 「あの……ハイゼンベルグ公爵閣下からの手紙で知り驚いたのですが、勇者が銃を人に放ったのは本当ですか? あ、いえ、閣下の手紙の内容を疑う訳ではないのですが……どうしても人に撃ったことが信じられなくて……!」

 

 メンガーさまが息を整えながら言葉にした。私も信じられないが、起きてしまった事実である。公爵さまがメンガーさまへ手紙を寄越したならば、報告書も一緒に添えられているはずだ。経緯は記されているしメンガーさまも目を通しているだろうと、彼の言葉に頷くだけに留めた。

 

 「そんな……俺と同じ日本人と考えていたのに……! 何故、人に向けて撃ったんだ!」

 

 呆けた顔から次第に歪むメンガーさま。私と彼と同じ気分なので気持ちは理解できるつもりだ。恐らくだけれど……勇者さまは私たちより頭のネジが何本か抜けてしまったのだろう。ああ、いや。メンガーさまは頭のネジはきちんと締まっているけれど、私の場合、時折緩み抜けるまでには至っていないはず。有難いことに緩んだネジは周りの方々が締めてくれる。

 

 「私たちの勇者さまに対する認識が甘かったのかもしれませんね……起こってしまったことが消えることはありませんが、勇者さまに問い質して何故撃ったのかスッキリさせたいのです。わたくしの我儘に付き合わせて申し訳ありませんが、ご助力をお願い致します」

 

 言葉の途中で一人称を変えた。個人的なお願いというよりも、貴族として聖女としてお願いしたいという意思を表したつもり。メンガーさまの頭の回転は速いから、私の意図は伝わっているはず。

 

 「承知いたしました。微力ではありますが、真相解明に助力いたします」

 

 メンガーさまが頭を下げてくれる。元の姿勢に戻った彼に、私は一つ頷いて幽閉塔の中へとみんなで進む。係の方に案内されたのは地下にある牢の中。天井から染み出た水が時折落ちている、そんな場所。

 

 「……! ベルナルディダとディフィリアとメリディアナとシラヤに会わせろ! アルバトロスにいるんだろう!? 俺と会えば必ず愛に目覚めてくれる!!」

 

 私たちを視認した勇者さまは鉄格子を握りしめ、大きな声を出した。

 

 「ミズガルズ神聖大帝国の第一皇女殿下ベルナルディダさま方はアルバトロスへの留学を終え、先日母国へと旅立ちました」

 

 勇者さまのお願いは聞けない。だって皇女殿下方はもうミズガルズへと戻っており、政治的理由がなければアルバトロスに戻ることはないだろう。

 一瞬伝えるかどうか迷って、隠す必要はないと判断した。一応、勇者さまへなにを問うのかなにを聞き出すのかは、アルバトロス上層部へ提出しているし、聞き出した答えも報告書に認めなければならない。情報の引き出し具合は私に一任されていた。子爵位持ちだし、国に貢献しているから構わないとのこと。

 

 「な! なら、またあの長い道程を彼女たちは辿らなければならないのか! 北のミズガルズは西大陸より発展している! 本当なら大陸横断鉄道を利用して移動できる身分の彼女たちに馬車移動を強制させたのか!」

 

 いや、うん。竜の背に乗り戻っているのだけれどね。勇者さまの中では、皇女殿下方はまだ西大陸を馬車で移動していると思い込んでいるらしい。ミズガルズ側からアルバトロス王国と接触したのだから、勇者さまの言葉は勘違い甚だしい。アルバトロスがミズガルズを歓待する理由はないのだし。

 

 「本来であればそうなりましょう。西大陸には大陸横断鉄道は存在せず致し方のないこと。大貴族さまと別れ単独行動しかできない勇者さまに、馬車や鉄道以外の移動をご用意できるのでしょうか?」

 

 流石にそろそろ竜の方々の背に乗って移動するのも大変なので、気球の籠のようなものをアルバトロス王国の職人さんとドワーフの職人さんに依頼しているけれど。馬車と鉄道を使えないなら、あとは徒歩移動かアルバトロスか亜人連合国に頼んで飛竜便を利用する他ない。

 

 「それは……」

 

 さて、勢いが弱まったならば付け込む隙ができたかな。考えが悪党のソレであるが、四の五の言っていると勇者さまに問う機会を永遠に失いそうだ。

 

 「勇者さま。率直にお聞きいたします。貴方さまは転生者でしょうか?」

 

 「え、なっ! な、なにを言う! 俺は……勇者だ! 転生者なんて紛い物じゃない……! 日本で生きていた記憶なんて持っていない! あんな惨めな思いをしたなんて……う、ああああああああああ!!」

 

 狼狽え叫んだ勇者さまが気を失い、石畳の床に突っ伏した。今回は彼が気を失ったからといって出直すつもりは毛頭ない。

 

 「――"夜が明ける、人よ目覚めよ"」

 

 たった一節の魔術だけれど、気を失った方に施すことがある。討伐遠征で魔物の群れの中、気を失った人は置いていくしかない。戦力を失いたくない時は強制的に目覚めさせ移動を促す。

 

 「あ、れ?」

 

 「申し訳ありません、勇者さま。わたくしの質問に答えてください」

 

 私の行動にドン引いてる方がいるけれど、今の機会を失えば勇者さまとの面会は望めそうにない。横暴だ、人権侵害だと彼に罵られそうだが、人を撃ったことをきちんと反省して貰わなければと意を決し、もう一度口を開くのだった。

 

 ◇

 

 気絶した勇者さまを強制的に気付けしたことに、周囲の方たちが驚いている。私の問いに答えて貰ったというよりも、錯乱して自爆し口が滑ったものだから、勇者さまは私の問いに答えてなどいない。聞きたいこと……というよりも、問い質したいことがまだあるから、気絶したままでは困る。勇者さまは無理矢理に起こしたことで、疲れた様子を見せているが喋るくらいはできるはず。

 

 「勇者さま。答え辛いのであれば、先にお伝えしましょうか。わたくしは今の肉体と記憶よりも前の記憶があります。所謂、前世の記憶というものです。もう一度問います、貴方は転生者ですか?」

 

 顔色一つ変えず、私は牢越しに勇者さまへ再度問う。彼は石畳の床に膝を付きながら、私の顔を見上げて口を開けた。

 

 「……嘘を吐くな! 言うだけならどうとでも繕える!」

 

 話が進まない……。既にボロが出ているけれど、勇者さまは自爆したと気付いていないか、気付かないフリをしているのか。

 

 「確かに。では、証拠を示しましょうか? ――」

 

 適当に、世界で起きた大きな出来事を羅列していく。米国のテロ事件、日本の大地震、何十年も在位していた女帝の崩御。第一次世界大戦、第二次世界大戦の始まり……知っていることを適当に。

 

 「…………」

 

 勇者さまが私に言葉に反応する様子はない。ふう、と短く息を吐く。

 

 「――二〇二〇年六月。とあるパソコンゲームメーカーが発売した『勇者光臨』はご存じでしょうか?」

 

 メンガーさまから聞いていたエロゲーのタイトルを告げる。割と普通なタイトルだなというのが、初めて聞いた時の感想である。あまり詳しくはないけれど、いたって普通のタイトル。電波ソングとかはエロゲーが走りだと聞いてるけれど、メーカーが真面目に作ったものなのだろう。いや、どのメーカーも真剣に作っていているし、売れなければ赤字を抱えるだけ。

 

 「!! ――どうして女が知っている!」

 

 確かに女でエロゲーをプレイするのは珍しいのかもしれないが、普通にいるからなあ。ニッチな界隈なので嵌る人は嵌るようだから。

 勇者さまはエロゲーが男性がプレイすると思い込んでいたようで、驚いているようだけれど。メンガーさまにタイトルを伝えて頂くよりも、インパクトがあるだろうと考えたから私が伝えた訳だけれど。

 

 「どうして? どうしてですか……単純にプレイヤーだったのかもしれませんし、誰かが話していた所を聞いていただけかもしれません。さて、貴方が転生者であることが確定しました」

 

 「ああ、そうだよ! 転生者だよ! 勇者光臨の世界なら、俺が勇者だという事実は知っているだろう! どうして俺の邪魔をする! 俺はベルナルディダたちを手に入れたいんだ!」

 

 よし、掛かった。掛かったのは良いけれど、これから先の話で納得してくれるかは謎であるが。

 

 「手に入れたい……皇女殿下方を手に入れたいという貴方の身勝手な理由だけで、銃で関係のない方を撃ったことはどうお考えになりますか? 前世の記憶があり、日本に住んでいたのならば銃の危険性は十分に理解しているはずです」

 

 日本のエロゲーが海外に出回ることは珍しい。一度、海外で物議を醸しだしたことがあり、現在は日本のみの販売となっている。海外の方が手に入れるには来日して直接購入――持って帰れるのかは各国次第だろうけれど――するしかなく、勇者光臨をしっているなら日本人の可能性が高いのだ。

 

 「危険だと……! 危ないものだらけの世界で銃を持って身を守ることのなにが悪いんだ! 日本にいたというなら、アンタはこの世界がどれだけ危ないか分かっているだろうに!!」

 

 勇者さまが勢いよく立ち上がり、鉄格子を握ると鈍く金属の音が鳴り響く。勇者さまの身体から魔力が漏れているのか、彼の短い髪を揺らしていた。

 

 「確かに。ミズガルズで銃の所持が認められているのであれば、わたくしは貴方さまに言うべきことではないと口を噤んでいたでしょう。ですが……西大陸に住まう方の、戦う意思のない方に向けて撃った事実をどうお考えになりますか?」

 

 生まれ変わった先の世界は確かに魔物や魔獣がいて、命を危険に晒す機会の多い世界である。けれど……前世でも日本から出れば危ない所は沢山ある。環境に恵まれていた日本で過したからこそ、平和と自由を享受できていただけ。私だって危険な目にあって銃を持っていれば、誰かに撃っていたかもしれないけれど。Sランク冒険者から話を聞く限り、勇者さまは不意打ちで撃ったのだから。

 

 「後悔なんてしていない! 俺は俺の目的を達するために銃を撃った! アイツらが俺の邪魔をするから撃ったんだ!!」

 

 そっか。反省する気があるのならば、まだ救いの道があっただろうに。彼はゲームという舞台に弄ばれたのだ。現実を見れないまま、自分の望みだけを叶えたいというのならば……もう終止符を打つしかない。これ以上、彼の犠牲となる方を増やさないように。

 

 「貴方の望みのために犠牲を厭わないというのであれば、誰かの望みのために貴方が犠牲になっても良いと言う訳ですね」

 

 ……ということになってしまう。勇者さまは私の言葉に納得できないのか、目をひん剥いて口を開いた。

 

 「は? 何故そうなる!」

 

 「勇者さま。何故そうなると気付かれないのでしょう。少し考えれば分かることです」

 

 自身のことしか見ていないから、周囲の状況や誰かの機微に気が付けないのだ。少しでも考えることができるなら、魔人の村を無理矢理襲ったりしないし、皇女殿下方と婚姻を望んだりしないだろう。勇者さまはゲームの勇者さまに憧れていたのかもしれないが、

 

 「お、お前……! 俺を馬鹿にしているのか!!」

 

 「馬鹿になどしておりません。人に対して容赦なく銃を撃てる危険なお方だと認識しております。勇者さまのような危険なお方が、ミズガルズ神聖大帝国の第一皇女殿下方を娶ることが可能だとお思いですか?」

 

 「俺は魔王を倒した! ――」

 

 「――だからゲーム通りにことが運び皇女殿下方を娶ることが可能だと仰りたいのでしょう?」

 

 勇者さまが言いたいことを私が上から被せる形を取った。ずっと同じことを主張しているから、彼が言いたいことは直ぐに分かってしまい、言葉を被せるのは簡単だった。

 

 「お前……!」

 

 「前世の記憶があり、平和な世界で生き、銃の危険性を知る方が……銃を知らない方へと向け撃ったことは許せません」

 

 どうして私はこんなにイライラしているのだろう。Sランク冒険者パーティーリーダーの方と仲が良い訳でもなく、助かったことに安堵はしているけれど……今まで治癒魔術が効かなくて見捨てた人なんて何人もいるというのに。私が知らない所で目の前の彼のやらかしを止められなかったことを悔やんでいるのか。正義感を拗らせているのか。

 

 目の前の勇者さまが表舞台に立つことはないだろう。だから問い詰めても意味はなく、私の自己満足で勇者さまを追い込んでいる。

 折れなければ、折れないで構わないけれど……せめて、自分が犯した罪を自覚して裁かれて欲しい。分からないままなら、どうしてこうなったと嘆き世界に恨みを募らせるだけだ。前世は『惨め』だったと言っていたが、それで生まれ変わった先の世界で自分の思い通りに生きて良い理由にはならない。

 

 「撃ってなにが悪いんだよ……お前になにが分かるんだ! 黒髪黒目、日本人たる容姿に生まれたお前に、俺の苦しみなんて分かるはずないだろう!」

 

 前世も今世も黒髪黒目だけれど、今いる世界だと黒髪黒目は珍しいから勇者さまのようなこの世界に馴染んでいる容姿が羨ましいけれど。

 

 「ええ、分かりませんよ。私は貴方の過去を知らない」

 

 少し聖女を演じるのが面倒になってきて、一人称が普段のものに変わっていた。勇者さまは気付いていなけれど、私に近しい方たちは気付いているようだった。

 

 「外国人だった母の血を色濃く引き、日本人として生きた俺の気持ちなんて……!」

 

 「少なくとも私の周りでは、ハーフの方を疎外したことなどありませんが……過去が不幸だからと言って、生まれ変わった先で自由に振舞っても構わないと?」

 

 「ああ、そうだよ! だから俺は勇者に生まれた! 選ばれたんだ! 俺はゲームで大好きだったディフィリアたちを手に入れて良いんだって神さまがくれたんだ!!」

 

 参ったなあ。説得というか状況認識さえままならないようだ。これ以上やり取りしても無駄な気がして諦めようと、顔を小さく左右に揺らす。

 

 「お前はズルい! なんだよ、竜を肩の上に乗せて恰好付けて! なんで大勢護衛を引き連れているんだ! 転生者の癖に生意気なんだよ! 俺が主人公なんだ! 主人公以上に目立つ転生者なんてこの世界にいちゃならないんだ!!」

 

 子供が駄々をこねているようだった。本当にこれ以上無駄だなと判断して、引き返そうと右足を小さく後ろに動かした時。

 

 「子爵、少し彼と話をさせて頂いてよろしいでしょうか?」

 

 不意にメンガーさまに声を掛けられ顔を見れば、少し難しそうな表情になっている。大丈夫かと心配になるが、メンガーさまであれば下手なことはしないだろう。どうぞ、と場を譲ればメンガーさまが勇者さまと鉄格子越しに相対した。

 

 「なあ……俺も転生者だけれどさ。少し思い出したんだ。もしかして、セーブデーターをダウンロードしたんじゃないか? 確か、誰かが無断で配布していて少し騒ぎになっていた気がする」

 

 全員攻略してからのオマケルートだから、最初から全員娶るなんてルートはゲームには存在していない、と。共通ルートを辿り、個別ルートをきちんと攻略してヒロインたちが持っている悩みを解決できていれば、四人全員を娶ることができたかもしれないとメンガーさまが仰れば、がっくりと項垂れる勇者さま。

 ああ、楽してゲームを攻略しちゃったのか。ゲーム業界の事情やインターネットが分からない方たちは首を傾げているけれど……前世の記憶を持っている私たちは、勇者さまの落ち込みように納得するのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。