魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――納豆とお醤油と白米という黄金トリオ。
それがあるだけで子爵邸に赴いた価値はあるけれど、滅多に出会わない天馬と挨拶を交わしたり、肩の上に妖精が止まる子爵邸は不思議な幻獣ワンダーランドと言っても良いのかもしれない。
竜単体でも珍しいのに、小さな竜を肩の上に乗せているナイさまが異常なのである。本人は魔力量が多いことが懐かれている原因だと謙遜しているが、ナイさま本人が彼らを嫌っているなら懐くはずはない。生き物って人間の感情に敏感だから、ナイさまが自分で思っているよりも大事にしているのだろう。そのことに気付いていないのがナイさまらしいと言うか、なんと言うか。
ナイさまの影の中にはスライムとフェンリルが潜んでいるのだが、彼女に危険が迫った時だけ現れると噂されており滅多に見ることはない。私もアガレス帝国へ拉致された時に見ただけで、それから彼らの姿を見ていない。彼女の影から視線を外すと、来賓室――ミューラー家の来賓室より狭い――の中を黒い影が横切る。
「ひえ!」
驚いて変な声が出てしまった。一瞬だったけれど、私たち以外誰もいないはずなのに。
「フィーネさま?」
「どういたしました?」
私の声に驚いたナイさまとメンガーさまが私を心配そうに見る。
「い、今なにか、黒い影が横切って……」
私の言葉にメンガーさまが首を傾げ、ナイさまが何かを考える仕草になった。
「黒い影……? もしかして……お猫さま!」
黒い影が動いた先へナイさまが声を掛けると、ゆっくりとした足取りで家具の陰から黒猫が出てきた。私たちの前へと悪びれることもなく進み、前脚を揃えて絨毯の上にちょこんと座った。身体は細いのに、お腹がちょっと弛んでいた。ナイさまご飯のあげすぎなのではと頭の中に疑問符を浮かべると、猫が口を開いた。
『なんじゃ? 暇で暇でしょうがないから様子を見にきただけだぞ。脅かすつもりはなかったのだがなあ』
ね、猫が喋った。え、猫が喋……って、でも竜も天馬もフェンリルも喋るのだから猫が喋ってもおかしくはないのかな……多分。なにか私の中の常識が飛んで行きそうになるけれど、ナイさまがとんでも発生装置である。もっと不思議なことがあってもおかしくはない。
「お猫さま、今日は来客があると伝えたじゃないですか。どうしてこういう時だけ活動的なのですか」
ふうと息を吐くナイさまと、彼女の肩の上でこてんと首を傾げるクロさま。てしてしと彼女の背中を叩くクロさまの長い尻尾が、ちょっと気持ち良さそう。
『猫は勝手気ままなものよ。お主、客がくると我に教えただけで動くな、と言っておらなんだぞ。あと魚の匂いがするのだ! 我にも食わせろ!』
「それは、そうですが。魚は鰹節なのでお味噌汁に使いました。お味噌汁は塩分が多すぎるので、お猫さまには駄目です。後で削って貰いますから、今は我慢してください」
鰹節まで買って帰っていたのか。と、いうことは鰹出汁のお味噌汁なのか。ちょっと楽しみと考えてしまうのは現金かなあ。ナイさまの料理の腕は分からないけれど、ゲロマズ料理を作るとは思えないので期待しておこう。
駄目だといいつつ、折衝案を出している。そんな彼女を甘いと言うか、優しいと言うかは人によって違うはず。私はナイさまにおねだりする猫ちゃんが可愛いから、問題ないけれど。
『いいのか! いいのか!?』
猫さまの丸い黒目がきゅっと細いものに変わり、尻尾がゆらゆらと揺れて三本に空目した。テンションが高くなると猫もこんなことができるのかと納得……できるわけない。空目かと思った猫の尻尾はちゃんと三本あり、幻覚ではなかった。喋る猫でも驚きなのに、猫の尻尾が三又になっているのならば猫又かケットシーと呼ばれる猫なのでは。
ナイさまは普段通りの光景かもしれないけれど、私とメンガーさまは驚きっぱなしである。もしかしてまだ驚かなければいけないのだろうか。いや、もう流石に打ち止めだろうと自分の心を納得させる。
「あまり食べ過ぎても良くないですから、適量ですよ。ジルヴァラさん、お猫さまをお願いします」
ジルヴァラさんと呼ばれた人は子爵邸の侍女の方かなと待っていると、扉から現れた人は人間ではないと直ぐに理解できた。存在がはっきりしない、と言えば良いのだろうか。特殊な雰囲気を持つ女性は銀の髪に白い肌、少し冷たさを感じる表情は人間離れしていた。
『連れて行きますね』
ジルヴァラさんが両手を差し出すと、猫さんがぴょんと軽く飛び彼女の腕の中に納まった。腕を器用に動かして猫さんが楽になる体勢を選んでいる辺り、猫を抱くことに慣れている様子。凄く人間離れした美しさを持つ、ジルヴァラと呼ばれたその方は雰囲気からして妖精だろうか。人の大きさもある妖精って凄く珍しいと思うけれど。
「よろしくお願いします、ジルヴァラさん。お猫さま、あとで鰹節食べましょうね」
『仕方ない。後で必ずだぞ!!』
上から目線の猫さまに腹を立てるどころか、少し可愛いなあと微笑む。ナイさまが準備をしてきますと言い残し、ジルヴァラさんたちと一緒に部屋から出て行く。着席して待っていて欲しいとお願いされたのだが、どこに座れば良いのだろうとメンガーさまと顔を見合わせる。
「申し訳ありません。ここ数日、ようやく食べられると子爵は喜んでおりました。どうぞ、お好きな所へおかけください」
ナイさまの専属護衛を務める一人、ジークフリード・ラウ男爵子息さまが丁寧な物腰で案内してくれた。妹さんのジークリンデさんは黙ったまま。そういえばマトモにご挨拶も済ませていないような。
お二人はいつも一緒にナイさまの後ろに控え、眼光鋭く警備を担っている。私の護衛を務めてくれる聖王国の騎士たちは、双子の兄妹の実力はかなり高いと仰っていた。確かに妹のジークリンデさんは親善試合で北大陸の聖騎士さまに勝っていた――殴り合いの果てにだけれど――から、みんなが言うように強いのだろう。
「ご丁寧にありがとうございます。えっと……フィーネ・ミュラーと申します。ご挨拶が遅れ申し訳ありません」
遅くなってしまったけれど、なにもしないままより良いだろう。今日はナイさまが男性がメンガーさまだけだと問題があると仰って、彼女の護衛であるジークフリードさんを誘っているのだから。
小さく頭を下げると、ジークフリードさんとジークリンデさんはそっくりな顔で少し驚いた顔になって直ぐ、柔和なものに変わる。ジークリンデさんの顔の変化は乏しいから、ちょっと怪しいかもしれないけれど。
「こちらこそ遅くなりました。ジークフリード・ラウと申します。アガレス帝国ではミナーヴァ子爵が……ナイが世話になりました。彼女の側にいてくださり感謝致します」
ジークフリードさんとジークリンデさんはナイさまと幼い頃からの付き合いがあり、貧民街で共に過ごし生き抜いたと聞いている。学院では学科が違うし、護衛騎士としてナイさまの後ろに控えているから気付き辛いけれど、仲間としての絆の強さを感じられた一言だった。
女の子の側に男の子がずっと侍っているのって大変じゃないのかな。彼女とかできれば嫉妬されそうだし、ジークフリードさんは乙女ゲームのキャラだからかなりイケメン。モテるだろうに浮いた噂は一切聞かず、黒髪聖女の双璧という二つ名まで賜っている。
「俺はジークフリードさんとは挨拶を済ませていますが、妹さんとは初めてですね。エーリヒ・メンガーと申します。立場上、名前を呼ぶ機会はないと思いますが、よろしくお願い致します」
メンガーさまが頭を下げると、意外だったのかジークリンデさんは一瞬驚きつつ、直ぐに平静に戻り彼女も頭を下げた。
「ジークリンデ・ラウです。よろしく、お願いします」
ナイさまの護衛騎士だし、彼らは生粋の貴族ではない。ナイさまの後ろ盾のハイゼンベルグ公爵閣下が、クルーガー伯爵の要請から逃れるために、自身の寄子の家に籍入れさせたと聞いている。
ジークフリードさんとジークリンデさんの名前を呼ぶ機会はそうないはず。でもこうして穏やかに挨拶ができたならば、ゲームの登場人物だからとか関係なく彼らとも仲良くなりたい。挨拶を終え椅子に腰を下ろせば、ナイさまが来賓室に戻ってきた。
「お待たせしました。フィーネさまとメンガーさまのお口に合うか分かりませんが、出来るかぎり再現できたと思います。来賓室では不都合なので食堂に移動しましょう」
へへへと笑い嬉しそうなナイさま。ずっと食べたいと願っていたし、顔が緩む彼女の気持ちは十分に理解できる。私は先に納豆を食べていたから、気持ち的に落ち着いていられるけれど、ずっと食べたいとナイさまは願っていたから。
メンガーさまも醤油と味噌の開発で、せっかくなら食べたいですと言って頑張っていたのだし。みんなで席から立ち上がり、子爵邸の食堂へと向かう。しかし、ジークフリードさんとジークリンデさんの口に日本食は合うのだろうかと首を傾げるのだった。
◇
Sランクパーティーリーダーさんも無事回復し、勇者さまは絶賛取り調べ中だが日常は日々過ぎて行く。
――ようやくまともな日本食が口にできる。
フソウ島で買い付けた商品の数々は、お醤油さんとお味噌さんとお米さまだけではなく、出汁が取れる昆布と鰹節にいりこなども越後屋さんが荷物の中に入れてくれていた。
商品の中に入っていた手紙には、越後屋さんを選んでくれたこととこれからもご贔屓にという挨拶が記されていたから、今後も沢山越後屋さんに顔を出すことになるだろう。
九条さまはアルバトロス王国の各地を回って、見聞を広げると言って旅立って行った。勝手な行動のように見えるかもしれないが、アルバトロス上層部から護衛と案内役の人が付いているので、道に迷ったりすることはない。逆にアルバトロスからの使者も受け入れるとフソウ国から連絡を受けているので、そのうちにアルバトロスからも誰かフソウ国へ赴くはず。
とある学院がお休みの日。フィーネさまとメンガーさまを子爵邸へ招いて買い付けたフソウの品を食べてみようとなっていた。子爵邸に幻獣や妖精さんとか不思議な動物が集まり過ぎて驚いていたけれど、驚きつつも私が肩の上に竜を乗せているのだから子爵邸では普通だと言い聞かせて心を納得させたらしい。
なんだ、それ、と思ってしまうが、私も諦めて納得した方が良いのだろうか。まだまだ増えそうな気配が……いや、確実に増える――ヴァナルと神獣さまの仔は確実に産まれる――だろうし、そのうち王都の子爵邸だけでは賄えないのではと考えてしまう。ままならなくなれば、子爵領にも引っ越すことを考えないといけないのかと、子爵邸の料理人さんたちに作り方を見せつつ料理を作っていた。
包丁を持たせて貰えないのは複雑だけれど、料理人さんに任せた方が綺麗に切れるし、指示に対して的確だからなあ。ちょっと寂しいなと感じつつ、記憶の奥底から作り方を引っ張り出して簡単だけれど日本食が完成した。侍女さんたちとワゴンに載せて食堂へと歩く。美味しいと言ってくれると嬉しいのだが、私の料理の腕は至って普通。おそらく今日、作り方を見ていた料理人さんたちの方が上手く作れるという確信があるが、今日だけは自身で作りたかったのだ。
食堂へと入ると、フィーネさまとメンガーさま、ジークとリンが席に座って待っていた。クレイグとサフィール、ソフィーアさまとセレスティアさま、そして子爵邸で働く人たちも興味があるとのことなので、後で振舞うことになっている。慣れない品だから大丈夫か心配だけれど、受け入れてくれると嬉しいな。日本食が広がって、新しい料理が発明されるかもしれないのだから。
「白ご飯、お味噌汁、卵焼き……至って普通、どころか質素ですが、ようやく日本食にありつけます。ジークとリンは食べ慣れないから、無理はしないでね。あ、フィーネさまには納豆付きですよ」
みんなの前に並べられる。お箸とお茶碗も越後屋さんが気を使ってくれて、どうですかと勧めてくれていた。私は二つ返事でお願いしたので、本当に良い買い物をしたものだ。
肩の上のクロが興味深そうに料理を見ているが、クロは果物と魔力が好物である。食べてみる、と勧めても『ごめんね』と返事があったのだ。嫌いなものを無理に食べる必要はないが、少し寂しかったりする。
「……」
「…………」
フィーネさまとメンガーさまは、無言で料理をじっと見ながらごくりと喉を動かした。
「ああ」
「うん」
ジークとリンは私の言葉に返事をくれ、興味深そうに見ている。一応、お箸を彼らの前に出しているけれど、扱いが難しいからスプーンとフォークとナイフも並べられている。ちょっと変な雰囲気があるけれど、美味しく食べてくれればそれで良いし、口に合わなければ残せば良い。私が二人の分を平らげれば良いだけ。
私も自分の席へと座り、久方振り……約十八年振りの日本食を目の前にする。白く輝くご飯からは少し甘い匂いがするし、お味噌汁からはお味噌の匂いとほのかに鰹節の匂い。具材はジャガイモさんとタマネギさんである。ジークにはちょっと甘いかもしれないが、野菜の甘味なので大丈夫だと踏んでいる。
卵焼きは匂いはしないけれど、お醤油さんを掛けて口の中へ放り込めば、きっと懐かしいあの味がするはず。だし巻き卵にするか迷ったけれど、失敗しそうなので無難に卵焼きにしておいた。
味付けを濃くするか迷ったけれど、今回は色合い重視にしてお砂糖とお塩を適量。男性がいるので甘めだとキツイだろうと、お砂糖は抑えめである。
大根さんは普通にアルバトロスに存在するので、擦りおろして薬味として添えている。辛いのは苦手だから私にはナシ。あと、フソウに赴く前に亜人連合国のドワーフ職人さんに玉子焼き機を拵えてもらっていた。ちなみに材料は銅を指定。鉄と違うのか分からないけれど、和食料理人さんが好んで使うと聞いていたので興味本位である。
「それじゃあ。――いただきます」
私は手を合わせて、いただきますと声を出した。
「いただきます」
「いただきます」
ジークとリンが私のあとに続くと、フィーネさまとメンガーさまが驚いた顔になった。あ、そっか。
貧民街時代に癖で『いただきます』と言っちゃったものだから、ジークとリンは当たり前になっているけれど、フィーネさまとメンガーさまは久方振りなのだろうか。アルバトロスでは神さまに祈ってから食べるのが主流なので、意外に思ったかもしれない。
「ずっと前につい癖でみんなの前で口走ってしまって。それからはジークとリンと仲間の二人も私と同じように食事前は『いただきます』と口にするようになりました」
すみませんと苦笑いで誤魔化すと、お二人は呆れつつも笑ってくれた。怒っていないようで良かったと、小さく息を吐く。
「ナイさま……でも、ナイさまらしいです」
フィーネさま。すみません、抜けていて。仲間内となると気を許しているので、割とだらしないというか気を張らないのでありのままを見せてしまう。なので呆れずにずっと側にいてくれるジークとリンとクレイグとサフィールには感謝しているのだ。異世界で諦めずに生きているのは彼らの存在があったから。
「ええ、子爵らしい。なら俺も遠慮なく。――いただきます!」
メンガーさまがフィーネさまに同意して、ぱんと手を合わせてお腹から声を出していただきますと唱える。
「あ、私も! へへ。いただきます!」
フィーネさまもメンガーさまに続いて、音を立てず手を合わせて声を上げた。そうしてそれぞれお茶碗を手に取ったり、汁を手に取ったりと特徴が出ていて面白い。
私は先ず、白ご飯にお箸をつけた。左手でお茶碗を持ってお箸でご飯を掬い取る。白く立っているご飯粒に目を細めて、口の中へと運び入れ咀嚼すればほんのりと甘い味が広がり鼻を抜ける。ああ、白ご飯だと凄く懐かしく感じて、もう一度お箸を運び口の中へと導く。ゆっくり、ゆっくりと歯で噛んで味を噛みしめて、目がしらにくるものを我慢しながらずびっと鼻を啜る。
アルバトロスのご飯に文句はないけれど、やはり元は日本人なのだとしみじみ感じる。アルバトロスのお米は長米だからぱさぱさしていて味がしない。本当に久方振りの白ご飯の味に泣きそうになるけれど、まだお味噌汁と卵焼きさんにも手を付けていない。さて、次はどちらに手を伸ばそうと迷っていると、私より迷っている人がいた。
「……ジーク、リン。やっぱり食べ辛い?」
泣きそうなのをバレないように、もう一度鼻を啜る。貧民街で過していたから、食には貪欲でなんでも口にできるから、ジークとリンを誘ったけれど。
「ああ、いや。どうしたものかと考えていた」
「二本の棒を使ってみたいけれど、複雑……」
片方の眉を上げて、そっくり兄妹が困った顔になっていた。その様子に苦笑しながら口を開く。
「食べる順番はないから、好きな物から手を付けて良いよ。慣れないと大人でも苦戦するから、お箸は二人には難しいかな。……食事中に席を立つのはお行儀が悪いけれど、許してください」
フィーネさまとメンガーさまに断りを入れて席から立ってジークとリンの側に行く。ナイフとフォークを使わずお箸を使おうとしているのは、二人なりの気遣いだろう。二人の横に立って、持ち方をレクチャーすると二人はどうにかこうにか形になる。お箸って、いろいろとできるから便利なんだよね。海外の方には不思議に思われているだろうけれど。
「すみません、みっともない所を」
「ごめんなさい」
ジークとリンがフィーネさまとメンガーさまへ頭を下げた。お二人はそんな彼らを見て、優しい表情だ。
「謝らないでください。お箸を使って食べてくれるのは嬉しいですから!」
「ええ。俺たちのためというのは理解しています。みっともない、だなんて少しも思っていません」
お二人の答えだった。海外の方が日本の文化に馴染もうとしている姿って嬉しいから、同じ気持ちなのだろう。私もジークとリンがお箸を使って食べてくれるなら嬉しいし、教えるのも苦ではない。
ジークとリンは器用なのか、慣れないながらもどんどんモノにしている。そんな姿を三人で見守りつつ、懐かしい味を泣きそうになりながら楽しんだ。そうして腹八分目といった所で、雑談を繰り広げる。
「再度になってしまいますが……フソウにあるなら、みりんも手に入れたいですね。照り焼きに唐揚げ、料理の幅が広がりますので」
「あ、良いですね! 鳥の照り焼きに唐揚げ、豚の生姜焼き……トンカツ、お鍋も……夢が広がります!」
メンガーさまがみりんが欲しいと念を押した。フィーネさまもいろいろと思い出して、欲しいもの食べたいものを上げている。今度、フソウに赴いた時に必ず買ってこよう。買えるかどうかはまだ分からないけれど、言うだけならタダだし。お二人から欲しい物リストを上げて頂いていると、扉が勝手に開く。
『なんだか良い匂いがしたので』
『フソウの匂いがします』
『少し前のことなのに、凄く懐かしいですわ』
声を上げながら雪さんと夜さんと華さんがヴァナルと一緒に来賓室へとやってきた。一応、お客さんがくると伝えていたけれど、気ままな方たちである。匂いに釣られてやってきたようだ。
あとホームシックなのかな。声には出さないけれど、フソウが懐かしいのかも。気持ちは理解できるので、彼女たちが望むなら一度赴いても良いのかも。買い付けもできるし。私の近くでちょこんと腰を下ろした雪さんと夜さんと華さんとヴァナル。食べはしないけれど、懐かしいからしばらく居させて欲しいとお願いされた。
「け、ケルベロス!? 本物!?」
「え? 話には聞いていましたが、本当に?」
フィーネさまとメンガーさまが驚く。いや、うん。驚いているお二人に、雪さんと夜さんと華さんが自己紹介し、ヴァナルも片言ながらアガレスの時はお世話になりましたと挨拶をする。恐る恐る名乗るお二人を苦笑しながら見守り、これ以上増えない――神獣さまとヴァナルの仔が増えるのは確定――よね、と視線を右に逸らすのだった。