魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0372:三年生の長期休暇。

 長期休暇に入った。

 

 これから二ヶ月間は学院はお休みとなる。学院生のほとんどは実家の領地に戻るか、避暑地や別荘地に向かって休暇を楽しむ。私も長期休暇を楽しもうといろいろと考えていたのだが、竜の卵の件もあるので、王都の子爵邸でゆっくり過ごそうと決めた。

 

 南の島も気になる――まだ土地面積を増やしているとか――けれど、竜の皆さまとダークエルフさんが開拓に励んでいるし、大蛇さまが島の生き物を統括してくれているので双方が問題を起こすことはない。時間があれば赴いて、大蛇さんに挨拶したいけれど。

 

 フソウ島の大樹公さまとも手紙のやり取りをする手筈となっており、私からアルバトロス上層部へ渡りフソウ島へと届けられる。フソウの神獣である雪さんと夜さんと華さんとヴァナルの仔ができれば、直ぐに連絡することを約束していた。彼らは夜になると子爵邸からふらっと外に出ているので、仲良きことは良きかなと見送っている。

 

 アリアさまも過度な負荷がかかる魔術行使の影響もなく、実家のフライハイト男爵領に戻っているし、ロザリンデさまも侯爵家が持つ別荘地へ向かっている。

 ソフィーアさまとセレスティアさまもご実家の領地へ戻っているし、子爵邸で働く方々もローテーションを組んで長い休みに入っていた。卵の件があるのでセレスティアさまは挨拶回りを済ませて、そそくさと王都に戻ると仰っていたし、副団長さまも観察日記を付けると言って子爵邸に赴く回数を増やしている。

 

 子爵邸は普段よりも人気が少なく静かである。午前中、家宰さまと一緒にお貴族さまとしての仕事を済ませ、お昼からは自由時間。フソウの越後屋さんにお礼と今後ともよろしくという内容を認めた手紙を送り、ついでに大樹公さまへの手紙も認める。

 ミズガルズの皇女殿下からもお手紙が届いていた。迷惑を掛けて申し訳なかったことと、勇者さまの件が片付いたこと、機会があれば冒険者パーティーリーダーの人へ謝罪を行いたい旨が記されていた。アガレスのウーノさまからも手紙が届いているし、やり取りの相手が国を越え、大陸を越えているのだから凄いことである。

 

 「ふう。終わった」

 

 『終わったの、ナイ? やり取りする人たちが多くなったねえ』

 

 子爵邸の自室で手紙を書き終えて椅子に座ったまま背伸びすると、クロが首を傾げながら私を見る。

 

 「本当にね。でも、まあ……大変だけど悪いことじゃないしね。美味しい物を手に入れられるし」

 

 『ナイは全部、食べ物に集約されているね……まあ、ナイらしいけれど』

 

 やり取りする人は本当に増えた。違う国のお偉いさんたちが私と関わっているのは、益があるからである。私も私で益があるから関りを持っているのだから、お互いさまだろう。

 面倒事が舞い込むとアルバトロス上層部に丸投げしているから、アルバトロス上層部の皆さまには頭が上がらない。公爵さまは楽しそうだし、陛下も困ったような顔をしつつ難題を解決しているのだからやり手だろう。開放しっぱなしの部屋の入口に気配を感じて顔を向けると、へらっと笑う良く知る人が立っていた。

 

 「ナイ」

 

 リンが私の名前を呼ぶ。リンとジークも、クレイグとサフィールも実家はないので子爵邸でゆっくり過ごすと決めていた。特に行きたい場所もないので、仕事量を普段より落としているから彼らにもゆっくりとした時間が流れている。

 

 「ん、どうしたのリン?」

 

 リンに声を掛けると彼女は小さく笑う。長い足を動かして私の下まで歩いてくる。

 

 「一緒にいても良い?」

 

 「いつも一緒にいるでしょう。どうしたの急に」

 

 ジークとリンとはいつも一緒だ。彼らは聖女の護衛騎士で、私は聖女だから出掛ける際は必ず一緒なのに。

 

 「だって……ナイの側にはいるけれど……最近はあまり喋れないし、ナイは皆に人気だから寂しい」

 

 彼女の言う通り一緒にいるけれど、会話の機会は減っていたかもしれない。最近は勇者さまの件やアリアさまのことで走り回っていたし、彼女たちもお城に一緒に向かうものの側に居るだけ。リンが私の服の袖を掴んで、なんとも言えない顔になる。美人が台無しだなと彼女の顔をみながら口を開いた。

 

 「リン、部屋でゆっくり話そう。新学期が始まるとまた忙しくなるから」

 

 一年生の同じ時期とは違って、いろいろな方と関わっている。幼馴染組との付き合い方を変えるつもりは一切ないけれど、彼らと一緒に過ごすはずだった時間を削ることもある。ままならないなあと苦笑いしても、リンはなんだか暗い雰囲気のまま。以前なら嬉しそうに笑って返事をくれていたのに。

 

 「うん……」

 

 元気がなかった。あれ、本気で悩んでいるのかなと私の服の袖を掴んでいた彼女の手を握ると、クロも心配そうにリンの顔を覗き込んだ。

 

 「リン、どうしたの?」

 

 「うー……」

 

 リンの腕がいつの間にか伸びていて私の腰を掻き抱く。ふっと足が浮いて、リンが私を抱き上げた。彼女は騎士なので私を持ち上げることは朝飯前。多分きっと、何時間でも抱えられるだろう。息を吐いて力を抜きリンの首に腕を回して、彼女と視線を合わせた。

 

 「重症だ……大丈夫、じゃないか。でもリン、そろそろ慣れなきゃ。みんなと離れるつもりはないけれど、卒業すれば環境が変わるかもしれないよ」

 

 上手く言えないけれど卒業すれば、私を取り巻く環境が一気に変わりそうな気がしているから。アルバトロス上層部から無茶なことは言われることはないだろうが、結婚相手を見つけろとか良い相手はいないのかと口出しくらいはされるだろう。

 

 「そんなの嫌だ。変わらなくていい。ナイが聖女になるって決めたから、私と兄さんはナイの護衛騎士になるって決めた。だから……ずっと変わらなくていい」

 

 「知ってるよ。あの時から、ううん。貧民街からずっと一緒にいてくれることは本当に感謝してる。ジークとリンが護衛を辞めたいって望まない限り、私の専属護衛は二人だけ」

 

 みんなが居なければ私は貧民街で生きようと……生き抜こうとは考えなかった。

 

 「ナイが私たちを裏切らないのは分かってる。でも……それでも……不安だよ」

 

 私がトラブル体質で、沢山の出来事を引き起こすから。彼女的に目まぐるしく変わる状況と、増え続ける交友関係に不安があるようだ。リンは人付き合いが苦手で、一年生の時から友人が増えた気配はないから余計だろう。

 

 「じゃあ、どうすればリンの不安はなくなるの?」

 

 「……分からない。ふいにナイがどこかに消えてしまいそうな嫌な予感はずっとあるから……アガレスの時より酷いことになりそうで怖い」

 

 リンの整っている顔が歪む。リンの勘は良く当たるけれど、今回ばかりは心配しすぎではないだろうか。また強制召喚なんて執り行って巻き込まれれば、西大陸と東大陸の国々が凄く怒るはず。

 今回、勇者さまと大貴族さまの件でアルバトロスとコンタクトを取ったミズガルズも、召喚魔術禁止条約に加盟する気だし、強制召喚騒ぎが起これば北大陸のお偉いさん方も巻き込んだ大騒動となってしまう。

 

 「そうならないように、リンとジークが私の側にいてくれるんでしょう?」

 

 「……うん。でも前は……ナイがアガレスに攫われたから後悔してる」

 

 「あれは仕方ないよ。ロゼさんでも防ぐことができなかったからね。馬車の外にいたリンに責任はないよ」

 

 とはいえ、なにも責任を取らないのは問題だから、護衛の皆さまはしばらくの間減給されていたけれど。あ、影の中でロゼさんがしょべって潰れている。ごめん、ロゼさん。悪気は全くないし、ロゼさんを責めるつもりはないから許して欲しい。って、クロまでしょげてる。私の肩の上で翼がだらんと下がっているのだ。え、そこしょげる所なの。あれは誰にも責任はなくて、アガレス帝国の皇子たちが悪いだけだから! あ、ほら、魔力、魔力あげるから拗ねないでってば。

 

 「…………」

 

 なにかしら彼女の中でいろいろと思うことがあるようだ。難しい顔でなにか悩んでいる様子だった。

 

 「リンが男の子だったら良かったかもね。結婚すれば離れることはないだろうから」

 

 冗談を言って肩を竦め、リンの顔に手を伸ばす。まあ、愛がなければ仮面夫婦だったり離婚という手法も取れるけれど。リンか私が男であれば、案外婚約問題はそそくさと解決しているような気がする。

 

 「私が男だったら?」

 

 リンが難しそうな顔から、私の話に気を取られて不思議そうな顔となる。少し、重い雰囲気を変えることができただろうか。

 

 「うん。例えば、例えばの話だよ。結婚してくださいって私がリンに言ったらどうする?」

 

 「嬉しい。結婚しよ」

 

 なにかを考えているのか、へにゃっと顔を緩めるリンを見て苦笑する。

 

 「ほら、リンが男の子だったら話は簡単だったかも。学院を卒業したら婚姻問題は必ず上がるから……ね」

 

 まだ少し先の未来で、今まで目をそらしていたけれど向き合わなきゃいけない時期にきている。

 

 「なら、兄さんを娶れば良い」

 

 リン、実の兄を簡単に差し出さないでくださいな。ジークだって思春期の男の子だから、好きな女の子が一人や二人はいるだろうに。

 

 「リン、言い方。言い方がなにか違うよ」

 

 しかしまあ、リンさんや。娶るだと私が男になってしまうのでは。言い切った本人はドヤ顔になって『良いこと言った!』みたいな雰囲気を醸し出している。

 

 「でもナイは貴族のご当主さまだから、何人娶っても怒られない」

 

 正妻を据えて、愛人なら黙認してくれる可能性があるけれど。そもそも私は女で何人もの相手と関係を持つ気はない。

 

 「いや、怒られるからね? いろいろと不味いよ?」

 

 リンのとんでもない発言に笑いながら、夕ご飯の時間まで他愛のないことを喋り続けるのだった。

 

 ◇

 

 長期休暇に入った。今年は一年生の時とも二年生の時とも違い、ナイの家でゆっくり過ごすと決まっている。ここ最近、ナイと喋る機会も少なくなっているし、他の人たちもいないから邪魔が入らないので、ナイと一緒に過ごしたい私としては丁度良かった。

 

 夜。ご飯を終えて、お風呂に入る前に私の兄の下へ行く。

 

 「兄さん」

 

 自室で静かに本を読んでいた兄さんに声を掛けると、本から視線を外した兄さんが顔を上げ私を見た。数時間前にナイと話したことを思い出す。

 私が男であればと、ナイが冗談で呟いたこと。私は女だから男になれることはないし、男として生まれてきていれば即答したけれど……ナイと女の子同士で結婚なんてできないから。だから、ずっと彼女の側にいたいだけ。貧民街から教会に救い上げられて、ナイが聖女になると知り騎士になると決めた日から誓っていることだから。

 

 「どうした、リン」

 

 兄さんが読んでいた本を閉じた。私が兄さんの部屋に訪れるのは珍しいから、不思議そうな顔になっている。とりあえず用件を伝えなければと口を開いた。

 

 「ナイと結婚して」

 

 兄さんの部屋の扉の所で立ち竦んだまま目的を伝える。騎士の教育課程で、簡潔に分かりやすく伝えることは大事だと教わっていた。だから、私が考えていることを素直に口にする。ナイと兄さんみたいに賢くないし、口下手なのは分かっているから余計なことは口にしない。

 

 「は? ――いきなりなにを言い出すんだ、リン。自分の中で話は理解できても、俺はリンの心の内を読めるわけじゃない。前から言っているが、一足飛びに結果だけを口にするな」

 

 兄さんが椅子から滑り落ちそうになっていた。そんなに驚くことなのだろうか。ナイと結婚できれば兄さんも嬉しいはず。兄さんは血を分けた兄妹で、しかも双子。

 なんとなく彼が考えていることや、思っていることは伝わるし理解できる。随分と前からナイのことが好きみたいで、すごく大事にしているのが分かる。大事なもの、そうじゃないものの境界線がはっきりとしている兄さんだから凄く分かりやすかった。

 

 「兄さんは男だから。ナイと結婚すれば良い」

 

 女の私じゃあナイと結婚できないから、知らない男にナイを取られるくらいならナイと兄さんが一緒になればいい。

 ナイと兄さんが一緒になれば、一人になった私をナイが凄く気にするけれど……ナイは貴族で子供を産まなくちゃいけないから。貴族は好きになれないけれど、公爵さま以外にも悪くない人たちもいるとこの二年で知ったし、ナイなら貴族として間違ったことはしないって確信がある。

 

 「まだ話が繋がらないんだが……今の言い方だと、男ならナイは誰とでも結婚して良いと捉えることもできるぞ?」

 

 はあと短い息を兄さんが吐く。あ、そっか。たしかに今の言葉なら、クレイグでもサフィールでも良いって思われてしまうのか。

 

 「違うよ、兄さんじゃなきゃ駄目。クレイグはナイのこと、女の子としてみていない。サフィールはナイに怒らないから……兄さんしかいないよ」

 

 仲間を悪く言いたくはないけれど、クレイグとナイはお互いに友人としかみていない。私と兄さんがみんなと出会う前からナイとクレイグはつるんでいたらしい。出会って直ぐ、殴り合い罵り合いの大喧嘩をしたと聞いている。悪友みたいなものだから、男女の仲になることは絶対ないとナイもクレイグも言い切っていた。

 サフィールはナイとでも問題なく結婚できるけれど、ナイに従うだけになると思う。ナイが間違えたら、正す道を示せる人じゃないと。だからサフィールじゃあナイの相手は少し無理なんじゃないかなって。

 

 「……俺じゃなくても、ナイに相応しい男は沢山いる。俺は爵位も功績もないただの騎士だ。ナイの側に控えていることが精々だろう……それに、ナイの意思もある。俺やリンが勝手に決められるわけがない」

 

 兄さんが真っ当な答えをくれた。真面目で優等生な答えを。

 

 「ナイは自分から結婚は望まない。国から与えられた人と結婚できるかもしれないけれど……それだとナイは幸せになれないよ。だから兄さんがナイと結婚して」

 

 むっと自分の口が伸びるのが分かった。

 

 「待て、リン。勝手に決めるな」

 

 はあ、と深い溜息を吐いた兄さんは難しい顔をしていた。どうして自分の気持ちを隠すのだろう。私はナイのことが大好きで、ナイに伝えているのに。兄さんもナイのことが好きなのに気持ちを隠してしまうのか理解ができない。

 

 「勝手に決めていないよ。勝手に決めているのは兄さんと国と教会だ。みんなナイのことを利用してる。このままじゃあ、ナイは望んでいないのに誰かと結婚することになるよ。馬鹿な私にでも分かるから、兄さんは分かり切っているはずなのに……」

 

 ナイも分かっていて、学院から卒業した時のことを口にしたのだ。あれはきっと、そうなる可能性が高いから面倒になるかもしれないという、ナイなりの気遣いだ。ナイは自分のことより、私たちを優先させる。自分の気持ちを殺して、好きでもない人と結婚するかもしれない。私たちの誰かを人質に取られたり、利用されたらナイは受け入れるしかないから。

 

 「リン。……ナイはどう考えているのか聞いたのか?」

 

 兄さんの言葉に首を左右に振る。ナイに兄さんと結婚すれば良いと伝えれば、言い方を間違えて冗談として流されたから。

 

 「ナイの気持ちが向かない限り、誰が相手でも幸せになれないだろうに」

 

 ふうとまた息を吐く兄さんは、小さく笑った。

 

 「それは……そうだけれど。でも多分、ナイの横は兄さんが一番似合っているよ。身長は違い過ぎているけれど……」

 

 ナイは小さくて可愛いから、兄さんの隣に立つと子供と大人に見えてしまう。外見で判断したい人はすれば良い。兄さんとナイは落ち着いているから、ナイの身長さえどうにかなれば、凄く似合っているのに。

 

 「リン。分かっていると思うが、ナイの前で身長の話はするなよ?」

 

 「ナイの前では言わない」

 

 ナイは自分の身長が周りの人たちより低いことを気にしているのは分かっている。だから口にはしないし、ナイのことをチビとか餓鬼と言う人は嫌いだ。

 学院に通っているなら年齢が近いのは当然なのに、容姿を馬鹿にする人を好きになれない。小さくても十分に可愛いから、卑下することはないのに。でもナイは背が高い方が良いみたいで、私を見上げて羨ましいとよく口にする。私は周りの女の子たちより背が高いから、あげられるなら身長をナイにいくらかあげるのに。

 

 「魔力の多さで成長が阻害されていると聞いたが、低すぎるのも問題だろうしな。成長期がくると良いんだが……」

 

 兄さんが難しい顔になって腕を組んだ。ナイも気にしているし、子爵邸の人たちも心配している。侍女頭はナイの食事に気を使っていたし、身長や成長促進できる方法を探していたはず。今のままのナイでも十分に可愛いけれど、身長が高くなればもっと可愛くなるだろう。私はどんなナイでもナイだから良いけれど、男の人と並んだ時に釣り合いが取れる方が良いのは知っているから。

 

 「うん。――兄さん」

 

 「ん?」

 

 「私は、兄さんがナイと添い遂げるのが一番良いって考えてる。でもナイが他の誰かと結婚した時、私たちも幸せであるようにってナイは私たちの相手を探し始めるよ」

 

 多分、ナイは私たちに似合う相手を探してくれるだろう。断れば、困った顔をしながらまた探し続ける。ナイが持てる限りの伝手を使って。

 

 「……」

 

 「ナイの性格を知っていたら、兄さんも分かるよね」

 

 兄さんなら分かるはずだ。きっとクレイグとサフィールも長い時間を彼女と共に過ごしてきたのだから、分かるはず。黙ったままの兄さんに、ナイに無理をさせられないよと一言告げ部屋から去ったのだった。

 

 

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