魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0374:クレイグとサフィールの話。

 ――ナイのやつはどこまで行く気なんだろうな。

 

 俺とナイが王都の貧民街で初めて出会ったのは、いつ頃だっただろうか。随分と前の記憶であやふやだが、黒髪黒目の小さな餓鬼が徒党を組んでいた俺の前に現れた。

 黒髪黒目のやせっぽっちの餓鬼が抱える食料を狙ってのことだが、奪われることに腹を立てたナイと、明らかな立場の弱いヤツから奪えなかった苛立ちをぶつけた俺とナイは罵り殴り合いの喧嘩に発展した。クレイグ、と俺の名を呼ぶ仲間の声に構わず、目の前の変なやつに立ち向かった。

 一応、女だってことは分かっていたし加減はしていたが、ナイはそれどころじゃなかったらしい。金的を狙うし、噛みつきまでするのだ。俺と一緒に行動していたもう一人は止めることなく、ただ見ているだけでなにもしない。喧嘩が酷くなれば大人を呼びに行く腹積もりだったのだろう。

 

 『お前……必死すぎだろ……なんで譲らねえんだ』

 

 これ以上やっていられないと、先に降参したのは俺の方。チビな女に負けるとは思っておらず、俺の自尊心がやられそうになったが、目の前の奴は永遠に負けを認めないと理解して先に両手を上げたのだ。決して、俺が腕っぷしで負けそうになったからじゃない……。

 

 『私が手に入れたものだから。それに君は元気そうだし』

 

 むっと口を結び、土塗れになった食料を拾い上げるナイ。今じゃあ考えられないが、そんなものですら俺たちには有難いもので、腹を満たすために必死こいて集めたもの。それを奪おうとしたのだから、ナイの反撃に遭ってもしかたないのだが……貴族となったナイの今を考えると本当に信じられない光景だし、俺しか知らないことだ。

 その時一緒にいた奴は死んでいるし、サフィールは一年遅れて仲間になり、ジークとリンは更に遅くに仲間になり徒党を組んだのだから。

 

 『はあ? どういうこったよ……元気じゃねえよ。腹が減ってしかたねえ』

 

 『そっか。じゃあ、頑張って』

 

 ボロボロの服の袖で口の端を拭うナイに、当時の俺は目をひん剥いた。

 

 『な!? おい! 分けてくれたって良いじゃねえかよ! なんでお前一人で食料を独り占めするんだ!』

 

 いや、ほら。お互いに健闘したのだから食料を分け与えても良いだろうに。ナイは何故か食料を一人でねぐらに持ち帰って食べる気のようだから。

 

 『徒党を組んでいるんだから、自分たちで探せば良い。そのためにつるんでいるんでしょう?』

 

 『そりゃ、そうだが……って、おい! 待てよ!!』

 

 すたすたと背の小さいアイツが背を向けて歩き始めた。結局、食糧は手に入らないうえに無駄に動いてしまい腹が減っただけ。また追いかけて後ろから襲うこともできたが、動く気はしなかった。

 

 『なんだ、アイツ』

 

 同じ貧民街に住んでいるのに彼女と今まで出会わなかったのは、根城にしている場所が違ったのだろう。当時のナイが大人に頼っているとは考え辛いが、数日後にまた再会してひょんなことから彼女が俺たちの仲間入りを果たしたのだ。

 

 ナイは子供の割には頭がまわり、機転が利いた。食料も王都の店のごみ漁りを敢行する際は、路地裏を汚すなと口酸っぱく言われた。面倒だと反論する俺たちに、道路を汚してごみがでなくなったり対策を施されると食べ物が手に入り辛くなると彼女は告げる。店の人間に頭を下げて余り物が欲しいと懇願し、悪意ある大人から頭を踏まれても文句も垂れず我慢しているだけ。

 そこまで卑屈になる必要があるのか分からなかったが、結局ナイは徒党を組んだ俺たちのために、ああやって我慢をして食料を手に入れてくれた。そのことに気付いたのは随分と後で、当時の俺は腹立たしくて拳を握りしめながら、理不尽な世の中を嘆いているだけだったが。

 

 俺は仲間内の頂点に立っているつもりで、結局はナイに支えられていただけだ。今ですら彼女の庇護下にいる……けれど、ジーク、ジークフリードが前に俺に告げたように、俺たちが彼女に迷惑を掛けるわけにはいかない。もう子供じゃないから少し頭を捻れば、ナイが俺たちを手元に置いている理由なんて直ぐに察することができる。

 

 ナイは聖女になると決め、たった五年で成り上がり貴族となった。貴族はあまり好きになれないと彼女は言っていたのに、その貴族になっちまうとはなんて不運なのだろうか。

 

 とはいえ、貴族という地位はタダの聖女であったナイにとっては良い物だろう。教会と国から利用されるだけの立場から一転し、モノ申す事ができる立場となった。

 それに嫌だ嫌だと言いつつも、領地をきっちり発展させているあたりアイツらしいというか。まあ、子爵領へと派遣された代官の手腕もあるのだろうが、食い気があり過ぎるナイだから食料関係に手を抜いていない。灌漑工事に新規開拓、新しい作物の特産化などを提案してくる。領地の人間もミナーヴァ子爵の言うことであればと張り切り、手を抜かないのだから領地の発展は当然なのかもしれない。

 

 ふうと息を吐いて、机の上に広げた紙を見る。ミナーヴァ子爵家が雇った家宰殿から、勉強がてらに領地の出納帳を見てお金の出入りを覚えなさいと告げられていた。割と広い自室で背伸びをしていると、扉を叩く音が二度響いたので入室を許可する。

 

 「クレイグ。公爵さまがサフィールと一緒に公爵邸にきなさいって」

 

 上等な私服を着込んだナイが部屋に姿を見せた。相変わらず身長が伸びずにいるから、見下ろしてしまうのは仕方ねえ。ナイが気にしているのは知っているし、夜にこっそり山羊の乳を飲んでいるのも知っている。ただ口にすると激怒するか落ち込むか、拗ねるので黙っている。俺、優しいよな。前なら面白半分で揶揄っていたのだが、もう直ぐ成人を迎える年齢なのだから子供気分じゃいられないし、ナイもナイで事の深刻さは理解しているだろう。

 

 「そうか、と言いたいが、当主のお前が俺を呼びにきてどうするんだよ。雇っている連中の仕事取るんじゃねえ、ったく……てか、なんで公爵閣下が俺とサフィールを?」

 

 うぐ、と俺の言葉に詰まるナイ。

 

 何故、公爵閣下が俺たちをと首を小さく傾げれば、ナイの後ろには護衛騎士であるジークとリンの姿が。相変わらず、彼女に付き従っている二人の表情は読めないが、俺とサフィールよりナイに向けている感情は特別だ。ずっと一緒にいる時間が長く、聖女として務めるナイの実力を一番間近で見ているし、利用されるだけだったナイを一番間近で見ていたのもジークとリンだ。今のナイの境遇を良しとしている所がある。

 ナイも馬鹿じゃなく、国と教会から利用されることを良しとしていた所があるから、ある意味で超面倒な三人の関係だよなあ。

 

 「手紙には書かれてなかったから理由は分からないけれど、悪い話なら問答無用で連行されているから問題は少ないはず」

 

 最後に小声で聞こえないように『分かんないけど』と付け足すな、ナイ。公爵閣下であれば俺たちを無下にすることはないだろうが、公爵家の当主とただの平民では天と地どころか天と地獄くらいの差がある。それなりに付き合いはあるはずだが、それでも単体で呼び出されることなどあり得ない。だから。

 

 「ナイも一緒か?」

 

 子爵位を持つナイに聞いてみたると、彼女の肩の上に乗る幼竜が首をくるっと傾げる。よくそんな角度まで回るなと感心するのだが、まあ竜だしな。

 竜の卵が子爵邸に落とされて竜が増えると喜んでいたが、無事に孵るのだろうか心配だ。孵らなければ問題視されそうだからなあ。卵を預かる当の本人が、なにも考えていないのが一番の心配かもしれんが。

 

 「うん。公爵領に戻る前に話しておきたいって」

 

 「俺とサフィールで行くより、ナイがいた方が気楽だな。しかしまあ……人の仕事は取るなよ。今は休みで実家に帰っている連中が多いから仕方ねえけどよ」

 

 生きる世界が違うのか公爵閣下の空気は並々ならないものを感じる。それを平然と受け止めていたナイも凄いのだが、ナイの場合は気付いていないか深く考えていないだけだろう。今だって、なにも考えずに俺を呼びにきたし。妙な所で頭は回るのに、どうして細かい所で気を回せないのだろうか。不思議である。

 

 「うー……善処する」

 

 本当に対処するのか怪しいな。ナイはいつもの調子だから放っておけば良いかと、公爵閣下とのお目通りに失礼のないように着替えた俺たちは馬車に乗り込んで公爵邸へと赴く。聖女の衣装を纏い、しずしずと頭を下げるナイを見て吹きそうになるのを我慢していると、貴族のやり取りは不要だと申した公爵閣下が俺とサフィールに視線を向け。

 

 「貴族籍に入らんか?」

 

 と、突拍子もないことを言い放つのだが……『え』と目をひん剥くナイの方が驚いているのは何故なのか。確かに俺たちが平民のままであるのは不味いのだろう。

 ナイの地位――というよりも立場が正解か――が上がり過ぎているし、ナイの一番の弱点は俺たちであると理解している。ジークとリンのように武力に優れている訳ではなく、街中で攫われれば為す術もない。貴族籍の者という箔を付ければ、多少の効果はあるはず。

 

 ならば、この話に乗っても問題はない。

 

 そもそもナイに迷惑をこれ以上かける気はないし、俺が籍に入るであろう貴族家は関わることで益が齎されると踏んでいる。言い方は悪くなるが、それなら俺も彼らを利用する――だから、俺たち二人の返事は決まっていた。サフィールと視線を合わせて確りと頷き、公爵閣下を見つめ返す。

 

 「よろしくお願いします、閣下」

 

 「ご迷惑をかけることが多々あるかもしれませんが、よろしくお願い致します」

 

 俺とサフィールが閣下に頭を下げると、彼は確りと頷いた。ただハイゼンベルグ公爵家の息が掛かる家ではなく、ヴァイセンベルグ辺境伯家と懇意にある家に籍入りするそうだ。まあ、貴族間のパワーバランスもあるだろうし、裏でいろいろとやり取りを済ませているのだろう。どこの貴族の家に入るのかはまだ未定だが、俺たちは黙って従うだけ。

 

 「しかし、子爵邸が手狭になってきているなあ。どうしたものか……」

 

 閣下がちらりとナイを見て、彼女がたらりと一筋の汗を垂らす。確かに子爵邸は一般的な子爵位の家と違い随分と手狭である。そもそもが警備の人数の多さと待機宿舎に子供を預かる為の託児所、名のある聖女が住まう別館。裏庭には家庭菜園があるわ、庭には天馬がいるわ等々。新しくヴァナルの番も別の国から連れて帰っているし、竜の卵まで増えた。

 

 「現状維持が妥当かと。聖女に高い爵位はあり得ませんしね」

 

 ナイの言葉に微妙な視線を向ける閣下と俺たち。本当に、ナイはどこまで突っ走るつもりなんだと隣に座るサフィールの顔を見て、陞爵すればアイツ……頭抱えるんじゃねーかと肩を竦めるのだった。

 

 ◇

 

 公爵さまから呼び出しを受け、僕とクレイグが貴族籍に入ることが決定して数日。ヴァイセンベルグ辺境伯さまの寄子の家に入る予定なのだが、妙な家だと問題だからと選定に時間を掛けているらしい。

 

 とはいえナイたちが通う学院の長期休暇が終わる頃には決めると仰っていたので、その頃には僕たちも貴族となる。籍入りした家の方々と仲良くなれるのかは分からないけれど、無下に扱われることはないと確信していた。

 だって、ナイの恩恵が欲しくて手を挙げたのだろうし、僕たちを無下に扱えば彼女が怒る。彼女が怒るということは後ろ盾である公爵閣下とヴァイセンベルグ辺境伯閣下に、王国と教会も怒る可能性が高い。普通に考えると、僕たちに手出しはできないのだ。まあ、その僕たちに手出ししようとする無謀な人がいるかもしれないから、防衛策として籍入りするのだけれど。

 

 今日も今日とてナイの家、子爵邸の託児所で預かった子供たちと一緒に過ごしていた。

 

 夏に入ったということで、子爵邸で働いている方々も長期のお休みに入り預かっている子供は少ない。ナイは王都の一角に家を借りて託児所を開くと言い準備をしている。ただ子供たちを預かるから、騒音問題とか考えなければならず不動産探しの時点で難航中。

 子供が五月蠅いのは当たり前だし気にしなくて良いのではと問えば、後で文句を言われて立ち退きになれば面倒だから、なるべく回避しておきたいとのこと。そこまで気を払う必要があるのか分からないが、彼女なりに気をつかっているようだった。

 

 お昼も過ぎ、おやつの時間の前だった。僕の下に女の子が小走できた。身長差で僕の顔を見上げながら嬉しそうに笑い、一冊の本を差し出した。

 

 「サフィールお兄ちゃん、ご本読んで!」

 

 乳歯が抜け、前歯が一本欠けている女の子。にっと笑って丸見えになっていた。女の子と視線を合わせるために膝を落として屈んだ僕に差し出した本はナイが用意してくれた、子供用の本だった。

 定期的に物語が記された本や手習いの本が購入されている。子供たちには確りと教養を身に付けて欲しいし、読書に慣れておけば大人になった時に役に立つはずと、安くはないのにナイの方針で随分と増え充実したものになっていた。

 

 「構わないけれど、少し待って貰って良いかな? お昼寝したベッドの片づけを先にしたいんだ」

 

 子爵邸で預かる子供は年齢の割に随分と確りしている。ご両親の教育が良いのか、暴れる子供はいないし泣き叫ぶ子供もいない。ご両親が同じ敷地内にいるという安心感があるのか、託児所を開いたばかりの頃に懸念していたことは起こらなかった。

 

 「じゃあ、手伝う!」

 

 「ありがとう。それじゃあ僕と一緒にやろう。あと本を読み終われば丁度おやつの時間かな。今日はなにが出るんだろうね?」

 

 貧民街で生きた経験を持つ僕たち、特にナイは食に拘っている所がある。貧民街から保護された当初は毎日食べ物が齎される状況に満足していたのに、今では新しい野菜の品種の開発に勤しんでいるのだから。

 子爵邸の裏庭で畑の妖精が一生懸命育ててくれるのだが、目を逸らしたくなるくらいに植物の成長が早い。時折、亜人連合国の妖精がいたずらで不思議な種を与えて、アルバトロス王国では見かけない植物が生えてくることもある。

 びゃああああああ、と叫びながら走る人参が生えた時は驚いた。しかも天馬のみんなが叫び声をあげる人参を生で食すから、凄惨な光景……というか聞こえる音が悲惨だったし。それでもまあ、驚きつつも楽しい日々だ。なにか問題が起こっても、対処できる人たちが子爵邸には揃っている。

 

 「おやつ! 楽しみ!!」

 

 子爵邸の家庭菜園が原因なのか分からないけれど、託児所のおやつの内容も充実していた。子爵領で採れたとうもろこしや、とうもろこしを材料にしたものに、バナナやオレンジが提供される。

 ナイが北大陸から戻った時は『オセンベイ』なるものが提供された。子供たちは味の薄さに驚きながらも、食感が面白かったらしい。あと子爵邸の料理人さんが作ってくれたお菓子も出されるから、本当に凄く恵まれた環境下にある。

 

 「ね。僕も楽しみだ」

 

 笑う女の子を見ながら僕は立ち上がり手を彼女へと差し出すと、小さな手が僕の掌の上に置かれた。女の子らしく、今日のおやつはなんだろうと悩みながらお昼寝用のベッドが置かれている部屋に入った。

 シーツを回収して女の子に渡すと、彼女は一生懸命にシーツを抱えて籠の中へと放り込む。微笑ましい光景に目を細めながら作業を進めれば、直ぐに終わった。あとは下働きの方に回収したシーツを渡せば、今日の主な仕事は終わる。

 

 「サフィールお兄ちゃん、本! ご本!」

 

 女の子が待ちきれなかったのか、僕を急かして本を差し出した。随分と確りした装丁の本は、いつの間に増えていたのと疑問に感じつつ、託児所の大部屋にある椅子に座り本を開いて一行目に目を通した。

 

 ――昔、昔。魔力を多く備える者が多くいた頃のこと。

 

 あれ、と首を傾げる。確かナイは古代人の生まれ変わりだから、魔力を豊富に……いや人並み以上の魔力を有していると本人とクロから聞いている。もしかして古代の人々がいた頃の話なのかと頭の隅に置いて、文字を読み進めながら言葉を口に出す僕に目を輝かせながら続きを待つ女の子。

 

 ――魔術を極めた五人は、己の技術が後世に伝わるようにと書に記した。後に賢者の書と伝わる五冊の魔導書である。

 

 本に記されている言葉が難しくないだろうかと女の子を見ると、続きとせがまれてしまった。小さな女の子には少し堅い語り口調であるものの、彼女の興味は失われていない。なら、気にしつつも読み進むべきと判断して、本に視線を落とす。

 

 五人の賢者の得意分野は『火』『水』『風』『光』『闇』となり、彼らが残した魔導書はそれぞれの特質を生かした魔術が記され、どれも極められたものであり魔法に近い代物である……そうだ。

 

 そういえば、子爵邸の図書室に知らないうちに魔導書があったと以前ナイが言っていたけれど、もしかして五冊の内の一冊なのでは。

 魔術師団副団長が凄く良い顔で子爵邸の図書室に入った後に、絶望した表情で退室し、ナイと一緒に戻って凄く良い顔になって戻ってきたことがある。いや、まさかと頭を振るけれどナイのことだ。ナイ以外には開かないと言われる魔導書は、この五大賢者が残した魔導書の一冊のような気がしてならない。

 

 魔導書は長い時間の経過と共に自ら意思を持つようになり、魔導書の主として相応しい人物を探し求め、魔導書の力を増やすために主人に協力を求めるのだとか。

 どんどん力を溜めているのは、いずれ現れる五冊全部を統率できる者のため。その日を夢見て、魔導書は日々力を蓄えているとのこと。ただ、それぞれ意思を持っている魔導書五冊が、ちっぽけな人間を認める日がくることがあるのか懐疑的。むしろ魔導書五冊全て揃い踏みし、五冊が大地に住まう人たちを統率する方が現実的ではないのか。

 

 「難しくない?」

 

 もう少し安易な言葉で記されているけれど、まだ幼い子供には難しい話のような気がする。というか普通の冒険譚とかの方が面白いのでは……今手に持っている本は過去のことを語っているだけだし。

 

 「良く分からないけれど、面白い!」

 

 にししと笑う女の子に笑みを浮かべた僕は、正しく分からなくとも面白いなら良いことだし、意味が分からないなら僕や親に意味や経緯を聞いて理解すれば良いとまた本に視線を落とす。

 

 ――さあ、御伽噺を始めよう。

 

 魔術の高みを目指し、しのぎを削った五人の魔術師の物語を。時には手を取り合い、時には互いの足を引っ張り騙し合い、時には死の淵を覗き込んだ五人の魔術師の生き様を。

 

 いやいやいやいや。幼い女の子に読み聞かせする話じゃないからね。魔術師は実力者であるほど変態と呼ばれているから、魔導書を生み出した五人は確実に変人だろう。前途ある幼い子供に妙な感情や夢が湧いたらどう責任を取ってくれるのだろうか。いや、まさか目の前の女の子には魔力が多く備わっていて、この手の本を引き付け易いのだろうか。

 

 「サフィールさん、子供たちのおやつの準備が整いました」

 

 大部屋に屋敷で働く人の声が響いた。その方は調理場を任されている一人で、年齢も僕たちと同じくらい。よくこうして託児所の部屋に姿を現して、おやつができたと知らせてくれる。これ以上読み聞かせると不味そうな内容もありそうだし、丁度良かったと小さく息を吐いた僕は、部屋の扉の前に立つ人へと顔を向けた。

 

 「ありがとうございます。今行きますね! ――さ、おやつの時間だから受け取りに行こう」

 

 「やった、おやつ!!」

 

 本を読んでいる時より嬉しそうに笑う女の子。お菓子には敵わなかったかと、僕も笑いつつ託児所にいる人たちに声を掛けて、一歩足を踏み出す。

 

 ――卵が孵ったぁ!

 

 と、屋敷の主の声が響く。え、孵るのはまだまだ先と聞いていたのに早くないかな、と子爵家のお屋敷で働く人全員が考えたに違いない。




 【お知らせ】・作業したいことがあるので、三週間ほど更新停止させて頂きます! 再開は8/2~の予定です! よろしくお願いいたします。┏○))ペコ
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