魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
私に接触を試みようとしている共和国のヒロインさんとヒーローさんのことは、彼らの母国の人たちに任せようというアルバトロス上層部は判断を下した。
ただ、私が彼らに会いたいのであれば会っても構わないけれど、問題は起こさないでね、とのこと。アルバトロス上層部の皆さんが結論付けたのであれば文句はないし、ヒロインさんとヒーローさんに会う気はないので、長期休暇は気兼ねなく過ごそうと幼馴染たちと決めたところ。
長期休暇から二週間も経てば屋敷ですることが無くなってしまい、学院から出された課題もほとんど済ませてしまい、暇を持て余している。
暇だからと託児所の子供と遊ぼうとすると、ご当主さまが斯様なことをしなくてもと言われ、それを聞いていたサフィールも苦笑いを浮かべていた。
それならばと子爵邸裏の家庭菜園に赴いてみたのだが、丁度収穫して良いお野菜が珍しく育っておらず直ぐに退散する羽目になってしまう。子爵邸の図書室も目新しい本はないし、自腹で本を買い揃えてもらおうと頭の中にメモを残した。夜の帳が下りごはんを終えて、自室のベッドの上に寝ころび天井を見ながら口を開く。
「ずっと子爵邸にいるのも飽きてきた……」
ソフィーアさまが領地に戻っているので、行儀が悪いと咎められることはない。少し寂しいかもと感じてしまうのは、ソフィーアさまとセレスティアさまが私の中で存在感を増している証拠だろうか。寝転がったことで私の視界には天井しか映らない筈なのに、ひょいっとクロの顔が視界に現れた。どうやら私の顔の所まで飛んできたようで、面白そうな顔をながら目を細める。
『どこかに出掛ける?』
クロが声を掛けて、顔を傾げた。覗き込まれている状態なので、クロの顎下が見えているのが面白い。ご機嫌なのか、ベッドに尻尾を打ち付けている音も聞こえている。
「それも良いかもね。公爵さまのお誕生日の贈り物にフソウのお酒を贈るのも良いかもしれないって考えているし、あと南の島の大蛇さんに挨拶にも行きたいなあ。沼のお米さまもどうなっているか気になるよね」
私がやりたいことを述べると、カーペットが擦れる音がして、そちらへと顔を向ける。お貴族さまって『希少品』というものに目がない。フソウのお酒がアルバトロスのお貴族さまの口に合うのであれば、社交界で話題となるだろう。
公爵さまであれば有用に使ってくれるだろうし、使わなくとも個人的に晩酌で飲んで頂けるだけでも嬉しいのだから。ドワーフさんたちもお酒が好きだと聞いているから、いつもお世話になっているので贈りたいと考えている。気に入ってくれると嬉しいし大蛇さんの沼も気になっているので、そろそろ自分の目で確かめたい。
ベッドサイドに雪さんと夜さんと華さんの顔が三つ並ぶ。のそりと立ち上がる音が聞こえ、遅れてヴァナルもベッドの上へ顔を乗せた。
『フソウの酒であれば、ナガノブが詳しいですよ』
『越後屋でも問題はないでしょうが、高級なものであればナガノブの方に分があるかと』
『フソウの酒は良いですよ。ザルの者でも酔わせる酒、なんてものもありますから』
雪さんと夜さんと華さんによると、ナガノブさまは酒豪であり味にも拘っているのだとか。帝さまもお酒に強くてお付きの人との飲み比べ勝負で負けたことがないそうだ。私はお酒を嗜まないので美味しさは分からないし、越後屋さんも商売人だから味の良し悪しは知っているはず。向かって良い許可が頂けるなら、行きたいなあと顔を並べているヴァナルを見る。
『?』
雪さんと夜さんと華さんの言葉を聞いたヴァナルが頭の上に疑問符を浮かべていた。どうやらお酒が分からなかったようで、彼女たちにお酒はなにかと聞いている。
嬉しそうに雪さんと夜さんと華さんがヴァナルにお酒のことを教えているけれど、ヴァナルは理解したもののお酒に興味はない様子。酔ったところを見てみたいけれど、フェンリルにお酒って大丈夫なのだろうか。
寝転がって体の向きを変え、ヴァナルの頭を撫でると目を細めて受け入れてくれた。もっと撫でろと伝えているのか、鼻から甘い鳴き声が漏れている。雪さんと夜さんと華さんはそんなヴァナルを見て微笑んでいる。
彼女たちは私に嫉妬心は湧かないそうだ。群れの長だから問題はないとのこと。良く分からないけれど喧嘩はしたくないし、雪さんと夜さんと華さんも温和だから仲良くやれているはす。元気な仔供を産んで欲しいから、無理や無茶はさせられない。
ヴァナルの頭をひとしきり撫でると、雪さんと夜さんと華さんも撫でて欲しいという視線を向けたので、それぞれの頭を撫でる。
「アルバトロスの許可と、亜人連合国とフソウの許可を頂けたら行ってみよっか。あ、あとジークとリンとクレイグとサフィールにも聞いてみなきゃ」
クロが私のお腹の上によじ登りまた顔の前までやってきて、ぺたんと身体をベッドの上に付けた。クロも撫でて欲しかったようで、上目遣いで私を見ている。仕方ないなあと顔を指の腹で撫でれば、気持ち良かったのか後ろ脚が勝手に動いていた。
「とりあえず、ジークとリンに相談してみよう」
聖女を務めている私が外に出るには護衛が付けられる。ということは護衛騎士さまがいなければ外に出られない。だから専属護衛であるジークとリンがいてくれなければ始まらない。
ベッドから身体を起こして、侍女さんを呼ぶ呼び鈴を鳴らす。子爵位を賜った頃は自分で動いてしまい、しょっちゅう苦言を頂いていたのだが、最近は自分で動かず侍女さんにお願いしている。私の部屋に幼馴染が集まっている時だけは例外で、食堂に夜食を貰いに行くこともあるけれど。
部屋に顔を出してくれたのは、騎士爵家出身の侍女さんだった。まだ若手に入り侍女頭さんに注意を受けていることもあるけれど、十分に務めを果たしてくれていた。ジークとリンを呼んできて欲しいこととお茶を用意して欲しいとお願いすれば、かしこまりましたとお辞儀をして部屋を出て行った。
ベッドからテーブルへと移動して椅子に腰を下ろす。侍女さんたちと気軽に世間話をするにはまだ少し時間が掛かりそうだ。ヴァナルは床に伏せると、雪さんと夜さんと華さんも一緒に寝転がる。籠の中の幼竜さんは籠の中で大人しくしていた。私の肩に乗ったクロと話しながら待っていると背の高いそっくり兄妹が姿を現して、部屋の扉を開放したままこちらへと足を進めた。
「どうした、ナイ?」
「ナイ、どうしたの?」
「ジーク、リン。呼びつけてごめん」
部屋へと赴いた二人に、先ほどまで考えていたことを伝えてみる。二人とも私の意見を聞いて、私がやりたいことを否定しない。
間違ったこととか危ないことであれば直ぐに否定されるけれど、お出掛けしたいという私の願いを否定されたことはなく、いつも付き従ってくれていた。有難いことだし凄く感謝しているのだが、二人はそれで良いのだろうか。
「二人は長期休暇中にやりたいことはないの?」
ジークとリンと私は揃って外に出歩くことが多いけれど、大抵は日常品の買い出しで、そのついでにご飯を食べに行ったりするだけ。二人の意見を聞いて出掛けることは少なかったなあと、聞いてみる。
「あまり考えたことはないな。現状に不満はないし、仲間のみんなが幸せなら俺はそれで良い」
「私も兄さんと一緒。ナイとみんなが一緒にいられればそれで良いかな」
落ち着いた声色でジークとリンが答えてくれた。うーん……貧民街時代が壮絶過ぎて、こうして日常を送れていることが凄く幸せだから。私も仲間のみんなと私に関わり支えてくれる方たちが幸せならそれで良いと考えるけれど。
「そうじゃなくて、行きたい所はないの? 食べたいものとか、欲しい物とか。あと遊びたいとか、演劇観たいとかあるでしょう?」
娯楽は少ないので、ちょっと難しいかもしれない。でもこれが切っ掛けで二人に趣味のようなものが見つかると良いのだけれど。
「……そう言われると難しいな」
「ね、兄さん」
ジークとリンが顔を見合わせて、困ったような顔になる。今すぐ意見を言えというのは酷なことだろうか。
「今まで私のことでジークとリンを振り回してきたし、やってみたいこととか遊びに行きたい所を探してみようよ。難しいならクレイグとサフィールも誘って、みんなで探そう」
私の言葉に分かったと返事をくれるジークと小さく頷いたリンに笑って、おやすみなさいと告げベッドの中へと潜り込むのだった。
◇
――長期休暇も半分が終わり、あと一ヶ月で二学期が始まる。
私に会いたいと願い旅に出た共和国のヒロインさんとヒーローさんは、共和国のお偉いさん方に回収されたそうだ。東大陸から西大陸へ個人で渡ることはかなり無謀だし、聖王国の宣教師さんも彼らのお願いを断って、黒髪黒目の私に会いたいという願いは叶わない。
アルバトロスから共和国にはお礼の書簡を送り、私の名前を出し『世界が平和であることを願います』と綴って貰った。ヒロインさんは差別されている地域出身とのことで、多少なりとも意味が通じて解消されると良いのだけれど。
個人の旅行なんて無理のある世界だから、仕方ないといえば仕方ないのだろう。そもそも貴族位も持たない共和国の市民の方が私に会いたいと願っても、会えないし。教会が実施している治癒院に赴けば、かなりの低確率で会えるかもしれないが。
申し訳ないことをしたような気分であり、厄介事が事前に解消された気分でもあった。
「気にしたら負けかな……」
真っ青な空の下で息を吐く。雲一つない空……と言いたいけれど、視界の遥か遠くには入道雲がもくもくと浮かんで夏らしさを醸し出している。
暑いけれど、日本のじめじめむんむんな気候ではなくカラッとしているのでまだマシだし、耐えることができた。ぼそりと呟いた私の言葉をクロが耳にしたようで、脚踏みをしながら私の顔を覗き込む。
『どうしたのナイ?』
「ううん、なんでも。南の島はもう直ぐかな?」
クロの言葉に答えて、眼下に広がる海を見た。一面の青に笑みが零れ、水深の浅い場所はコバルトブルー色で、南国にきたのだなあという気分。南の島に行きたいとアルバトロス上層部に相談すると、護衛を付ければ構わないと返事を頂き、北大陸のフソウ島にも赴きたいとお伺いすると、九条さんたちを送り届けてくれるなら、と返事がきたのだ。
ちゃっかりしているなあと笑っていると、九条さんたちは後学のために南の島にも興味があると仰った。それならばフソウから南の島ではなく、南の島からフソウへ赴こうと話が付いた。後、何故か外務卿さまの部下さんも同行している。フソウでアルバトロスの使者として挨拶をすると仰っていたが、もしかして私がやらかすから付けられたのだろうか。半分お仕事、半分はお休み感覚で赴いているのだけれど、クレイグとサフィールはお留守番となり、フソウの出島でお買い物リストをメンガーさまに書いて頂いている。リストはロゼさんに預けて、絶対に失くさないようにしていた。
それはさておき。南の島は亜人連合国の方々が管理しているのだが、私が九条さんたちの入島許可を求めれば直ぐに許可を頂けた。
「一面海だからな。距離が掴みにくい」
「だね、兄さん。でも凄く綺麗」
ジークとリンが遥か先の島の方角を見据えながら口を開いた。確かに眼下に広がっているのは海ばかりで、大きな島もない。目印になるものが少ないのに、飛竜便としてお願いした竜のお方は島の位置を覚えているそうな。急ぐ旅でもないので、長距離移動が得意な竜の方の背に乗り、ゆっくりと空の旅を楽しんでいる。
ヴァナルとロゼさんは興味深そうに海を見ているし、雪さんと夜さんと華さんも二度目の空の旅に感動していた。お腹に仔供がいるので、空の旅に耐えうるのか聞いた所、産まれるのはまだ少し先なので問題ないとのこと。
無事に産まれて欲しいと願えば、彼女たちは嬉しそうに私の身体に顔と身体を擦り付けてくれた。幼竜さんは、いつも通りジークの腕の中である。最近、ちょっと飛びそうな気配を醸し出しており、ジークの頭の天辺から、しゃがみ込んだリンの所まで下降している所を子爵邸で見ている。自由に飛べるのもそろそろかなと笑うと、視界の横に人影が差した。
「おお、あれではないですか!?」
九条さまが右手人差し指を差して、遥か遠い先を示した。私にはさっぱり分からないけれど、ジークとリンとクロも視認したらしく、目を細めながら頷いていた。九条さま以外のフソウの方々は頭に疑問符を浮かべているので、視力は私と同じくらいとみた。暫く飛行を続けていると、大蛇さまが住まう南の島を確認する。
「……まだ、拡大中なのかな?」
大きくなっているとは聞いたことと、自身の目で見るのとは大違い。私の言葉にみんなが同意して、目を細めながら島を見ていた。去年より大きくなっているのは確実で、一回りくらいは土地面積が広がっているのではないだろうか。
『どうだろうねえ。海のど真ん中だから誰かに迷惑を掛けるわけじゃないから。ボクはまだまだ大きくなって欲しいなあ』
クロ的には島はもっと大きくなって欲しいようだ。確かに竜の皆さまが住まう土地は随分と限られているし、増えることに文句はない。むしろ増えろとさえ願ってしまう。人間の迫害により竜の皆さまや亜人の方々は亜人連合国に閉じ籠った結果が今となるのだから、外に出てみたい、外に興味があるというならば、私は彼らの願いを叶えたい。
竜の方がどんどんと高度を下げ、広い砂浜へ着陸した。背中の上でお礼を伝えると、お気になさらずと仰ってくれた。
「着いたな。降りよう」
ジークが幼竜さんを抱えたまま、竜の方の背から出っ張りを利用して砂浜へと辿り着く。他の方々もひょいと飛び降りていて、運動神経が良く羨ましい限りだ。
「行こう、ナイ」
私の横にいたリンが声を掛けて、手を差し出す。彼女の手を取って、ゆっくりと竜の方の背の上から降りる。
砂浜で暫く待っていると、ダークエルフのお姉さんがやってきて私たち一行を出迎えてくれた。そうして彼女が後ろへ振り向くと、沼の主である大蛇さまが姿を現したのだが……あれ、島だけじゃなくて大蛇さまも大きくなっていないかな。首を傾げているとダークエルフのお姉さんが口を開こうとした時だった。
「
九条さまが刀の柄に手を掛けて、フソウの皆さまが臨戦態勢を取る。あれ、説明してたのだが、九条さまは別の蛇さんと捉えてしまったのだろうか。白い大きな大蛇さまは彼らを見て、面白そうな顔になる。
『手を出す気はないし、喰ったりもせんぞ。落ち着いて武器を置くのだ』
大蛇さまの言葉に『しゃ、喋った!』と驚く九条さまたち。そういえば島の主の大蛇さまとしか伝えておらず、言葉を話せるとはお伝えしていなかった。みんな割と喋れるので説明しなくとも伝わっていると考えてしまったのが不味かったようだ。
「申し訳ありません、九条さま。目の前のお方は出立前にお伝えした島の主の大蛇さまです。喋ることができ、島の主としてわたくしたちとは仲良くさせて頂いております」
前に立ちはだかってくれた九条さまたちの横に並んで説明し忘れていたことを説明すると、喋ることに驚いて刀の柄から手を離して呆然と立ち尽くした。
『左様に! 我は前主の意思を継ぎ、島を守る蛇である。しかしまあ、どこの者なのだ? 変わった格好をしておるのう』
立ち上げていた首を砂浜へと付けた大蛇さまの顔が目前まで迫る。大蛇さま。蛇さんが顔を立ち上げてS字になっていると臨戦態勢とか攻撃態勢とか興奮している証拠だと、前世の某動画サイトで観たのだが、それが原因で九条さまたちが勘違いしたのでは。真意は定かではないし、ふと思い出しただけなので深い意味はないのだが。
「な、なんと。このように大きな蛇が悪さをしないとは……我々フソウの言い伝えでは身の丈を超える大蛇は人を喰い、悪さをするという逸話があるのです。我らの無知で無礼を働いてしまいました。申し訳ありませぬ」
九条さまが頭を下げれば、大蛇さまがちろちろと舌を出して機嫌が良さそうだった。
『気にするでない。勘違いは誰にでもあろう。それより遊びにきてくれたのだろう? 島を堪能していってくれると嬉しいのう』
「余所者の我々への気遣い、感謝いたします。南の地域は初めて訪れます故、故郷に良き報告ができるよう堪能させて頂きます」
深々と頭を下げる九条さまと機嫌の良さそうな大蛇さま。そういえば大蛇さまの行動範囲は沼の周囲だったのに、砂浜まで姿を現しているけれど大丈夫なのだろうか。干からびて骨だけになるとホラーなので、そうはならないで欲しいと願いながらダークエルフのお姉さんに挨拶をして、大蛇さまに沼地のお米はどうなっているのかと問いかけるのだった。