魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
お酒が随分と入ったフソウの皆さま方と、かなりの量を飲んでいるのに全く顔に現れていないナガノブさま。夜の時間が深くなり、私が隠しながらあくびをしていたことに気付いて宴会はナガノブさまの一声で解散となった。
ナガノブさまとフソウの皆さまに案内されながら来客用の部屋に通されたのだが、随分と広い部屋である。畳、何枚敷かれてあるのだろうと数えたくなる気持ちが萎えてしまうほどに。洋式ではなく和式だから、もちろん畳の部屋。床の間には掛け軸と大きな壺が飾られ、寝台には天蓋付きの豪華なもの。
もう遅いからゆっくり休めと言い残して去って行くナガノブさまを見送りながら、部屋の中にはいつものメンバーだけになっていた。外にはアルバトロスの警備の方たちとフソウの警備の方たちが控えていて、交代で警備をするようだ。超広い部屋だけれど、どこか懐かしい雰囲気と匂いが郷愁を煽る。
『良い匂いがするね。なんの匂いだろう?』
クロが首を捻りながら、私の肩の上で問いかけると、雪さんと夜さんと華さんがクロを見上げる。答えたいけれど、私に問うているから遠慮したようだ。
「畳の匂いだよ。イグサって植物を編んでいるって言えば良いかな? 匂いがはっきりしているから、張り替えたばかりなのかもしれないね」
視線を下に下げてから、クロを再度見る。ああ、そっか。越後屋さんで買い付けした時は、畳の匂いはほとんどしなかったし、ドエ城の謁見の間も同じく畳の匂いは薄かった。クロとジークとリンにヴァナルあたりは、嗅ぎなれない匂いだろうし、なんだろうと不思議に感じても仕方ない。
畳の緑が濃いので、作られてからさほど時間は経っていないだろう。随分と懐かしい気がするなあと、部屋の真ん中を見る。女中さんたちの手によって、天蓋付きの台の中には既にお布団が敷かれてある。
畳の上で寝るのは久しぶり、なんだけれど……敷布団三枚重ねはどうなのだろう。あと面白いのは掛布団が長方形ではなく着物の形になっており、確か夜着と呼ばれるものだったような。テレビの時代劇に流れていたなあと目を細める。江戸時代の一般庶民からすれば、かなり豪華なお布団なので最大限のもてなしだろう。
『植物から作られているんだね。ベッドの上に降りても良い?』
「構わないよ」
クロにとってお布団は、ベッドに見えるようだ。私の肩から飛んで、ぽすんとクロがお布団に降りた。三枚重ねのお布団の柔らかいようで、クロの軽い体重でもしっかりと沈んでいた。片脚を上げ、反対側の足を布団に付けてを交互に繰り返して遊んでいる。微笑ましいと見守っていると、ジークとリンが私の隣に立った。
「ジーク、リン、寝れそう? ベッドじゃないから、ちょっと心配」
言い終えて二人の顔を見上げると、ジークとリンは小さく笑っていた。
「床に直接寝るのは久しぶりだが、ちゃんとした敷物があるからな。問題ないさ」
「うん。寒くて震えることもないから平気」
床で寝る行為に慣れていないジークとリンのことが心配になってくるが、貧民街時代を経験している所為で、どこで寝ても問題ないようだ。私も貧民街生活を経験しているから野宿でも問題ないが、貴族の生活に慣れつつあるのでちょっとした懸念事項である。贅沢に慣れると、落ちた時に怖いなあと言う不安もある。
「そっか。いつも通りだけれど、今日もよろしくお願いします」
こればかりは主従関係となり、一緒の時間に就寝とはならない。布団の上で遊んでいたクロが私の肩の上に戻ってきた。
「ああ、任せろ」
「うん。ナイに危害を加える人なんて近づけさせないから、安心して寝てて良いよ」
ジークとリンが笑みを浮かべる、ふと、彼の肩に乗る幼竜さんに視線が行った。こてんと首を傾げる姿はやはりクロと似ている。
けれど私が近づいて手を伸ばすと顔を逸らすし、リンがむっとした顔でなんとも表現し難い雰囲気で幼竜さんを見ていた。おそらく今まで懐かなかった仔がいなかったから、彼女にとっては複雑なのだろう。
「あ、ジーク。幼竜さんどうしよう? 流石に一緒は不味いよね」
「そうだな。ナイの部屋の方が安全だ」
ジークの言う通りで、問題が起きると困る上に彼にも責任が下る。クロに視線を向ければぐしぐしと顔を擦り付けたあと、ジークの肩の上に乗る幼竜さんの隣に飛んで行った。一見、黙っているように見えて、喉から声が出ている気がする。大人の竜の鳴き声とは違うし、魔力を声に込めているのか本当に不思議な音。
『ボクと一緒に寝るって』
どうやらクロは幼竜さんを説得してくれたようだ。言葉にせずともクロに気持ちが伝わったことが少し嬉しいけれど、いい加減幼竜さんが私に慣れてくれないかと愚痴を言いたくなる。
「そっか。じゃあ、籠を用意して貰おう。それなら幼竜さんがゆっくり寝れるだろうし」
『うん。ごめんねえ』
気にしないで、とクロに伝え、部屋付きの世話人さんを呼ぶ。子爵邸で侍女さんを呼ぶときは呼び鈴を鳴らすけれど、フソウの場合は『誰かいませんか?』と問えばすっと襖越しに世話人さんがやってくる。もしかして忍者だろうかと勘繰るが、隣の部屋で待機しているのだろう。
障子を挟んで気配を消しているようだ。私は気配に鈍いので分からなかったけれど、ジークとリンが気付いている。
危ないことにはなりはしないと籠を用意して頂き、その中に座布団を敷いて頂いた。冷えるから、厚手の布にくるまれた湯たんぽも用意――もちろん私の分も――されている。そうして枕の位置から少し離れた籠の中に飛び移ったクロが、足踏みしながら寝心地を確かめた。
『なんだか寝心地が違うね』
ちょっとワクワクしている雰囲気のクロに笑みを浮かべ口を開く。
「寝れるかな?」
『大丈夫だよ。いつもとちょっとだけ違うから、楽しみながら寝る~』
クロの言葉にそっかと返事をすると、ジークの肩から幼竜さんも籠の中へゆっくりと降りた。ぐりぐりと二頭の竜が顔を擦り合っている。
セレスティアさまがいれば物凄く喜びそうだなあと、何故か彼女の顔が浮かんだ。ソフィーアさまとセレスティアさまといる時間が長くなったからだなと結論付けると、ジークとリンが『おやすみ』と言い残して部屋から出て行った。
「みんな、おやすみなさい」
私の言葉にクロとヴァナル、雪さんと夜さんと華さんが返事をくれ、影の中にいるロゼさんがぬっと動いたのが分かる。
ヴァナルはいつもと違う場所だから、寝る場所を確保するのに少し迷って私の足元の位置に。当然そうなると雪さんと夜さんと華さんはヴァナルの横にちょこんと横たわった。
枕元には小さな行灯に火を灯していたので、ふっと息を吐けば部屋は真っ暗になる。魔石で明かりを灯さないのは雅だねえと、少し感動を覚えながら目を閉じる。少し眠るまで時間が掛かったけれど、夜が深まれば寝るのが人間だろう。私の意識は随分と深い所まで沈んでいた。
『どうして……どうしてお前たちが斬られなければならぬのだ!』
真っ暗な視界から、ぼんやりとした映像が浮かぶ。小さく首を傾げれば、これは夢だろうと確信を得てしまう。大小二本を佩いたお侍さんが、地面に倒れ血を流している女性と子供の前に跪いて嗚咽していた。
状況が理解できないから、思考を張り巡らせるしかない。地面に倒れた人たちはお侍さんの家族だろうか。場所はおそらくお侍さんの家だ。立派な武家屋敷で庭には立派な松や楓が植えられている。はらはらと落ちる葉が身動き一つとらない女性と子供に降り注いでいた。
『斬るならば拙者を斬れば良いものを……何故関係のない嫁と息子を斬ったのだ……許せぬ!』
お侍さんの気配が悲しみから怒りに変わり、復讐心が沸いているようだ。怒りに駆られるお侍さんだが、彼女たちを斬った相手は断定できない。でも、小さな確信があった。
『拙者が伸し上がっていくことが許せなかったのか……ならばもろとも斬ってくれる…………!』
お侍さんが立ち上がり庭の蔵へ足を運び、持っている刀で鍵を斬った。鉄製のものを刀で斬れるのか……と感心していると、お侍さんは蔵の奥に進み、大きな箱の前で止まる。留め具を外して蓋を開けると、フソウのお侍さんが佩いている刀より、五割ほど刀身の長い刀が鎮座していた。
『これならば……! 拙者のかけがえのないものを斬った全員を斬ることができよう』
お侍さんが大きな刀に手を伸ばすと、場面が切り替わる。何度も人を斬るシーンを見せられるのは、ある程度耐性があっても不愉快だった。肉を斬る音の生生しさ、生臭い臭い。他にも要因があるのだが、一番の原因は目の前のお侍さんが悲しんで人斬り侍になっている理由がイマイチ把握できていないから。
『お、お前は!』
『拙者の大事な者をお主らは斬った。お主らが向けるべき刃は拙者であるはずだった。さすれば、こんなことにはならなかっただろうに……』
刀身の長い刀をワンモーションで抜刀していることに驚いていれば、お侍さんの前にいる人の首と胴体が綺麗に分かれた。
懐紙で刃に付いた血を拭い鞘に刀を収めると、お侍さんの頭上から網が落ち『御用だ!』と大きな声が響き渡る。身動きが取れなくなったお侍さんは、岡っ引きの方々に取り押さえられ文字通り御用となる、筈だった。
網に絡まっているお侍さんが目の前の人たちを一度に数名斬って難を逃れようとした。でも後ろから斬りかかられて、地面に突っ伏す形となる。どんなに実力があっても多勢に無勢では敵わなかったようだ。
『あと二十人……誓った復讐すら完遂できぬ不出来な拙者を皆は笑うのだろうな……だが……これで終わるわけにはいかぬのだ……』
どうやら彼の復讐は終わっていないようだ。斬られた場所から流れ出る血が、地面に落ちた大きな刀に付いていく。
――キラセロ……!
がつん、と突然なにかにぶん殴られたような感覚に、深く沈んでいた意識が随分と浅い所まで引き上げられる。
一瞬、まだ寝ていたいと欲が走ったものの、目を閉じたままでは不味いと無理矢理に意識を覚醒させて目を開け飛び起きたのだった。
◇
――キラセロ……!
寝ている最中、突然低く重い声に殴られて飛び起きた。
「え?」
はっと目に捉えた映像を頭の中で処理をする。足元にはヴァナルと雪さんと夜さんと華さんの姿。真っ黒な彼女たちは目に捉え辛いけれど、ヴァナルのお陰でどうにか姿を確認できた。枕近くの籠の中にはクロと幼竜さんがむくりと起き上がり、きょろきょろと部屋を見渡す。何故かロゼさんが影の中から姿を現し、ぽよんとスライムの体を畳の上で揺らした。
『マスター、大丈夫? ロゼ、マスターが驚いたのが分かった。変な感じがしたから、ソレで起きた?』
「うん。夢を見て目が覚める直前でなにか聞こえて。でも大丈夫だよ、ロゼさん。ありがとう」
心配している気配のロゼさんがにょにょにょと体を伸ばして、お布団の上に上がって私の体の横に沿い、ぷるんと揺れたロゼさんの体に手を置いた。いつも冷たいロゼさんの体は温かくなっているので冬仕様のようだ。アルバトロスで寒い時期には、こうしてロゼさんは体を温かくして私の側でじっとしていることがあったから。
『なにか今、嫌な感じがしましたが……夢はみておりませんが……』
『気の所為でしょうか。そう捉えるには随分とはっきりとしたものでしたね』
『……丑の刻です。魑魅魍魎が跋扈するには良い時間ですが、さて』
むくりと起きた雪さんと夜さんと華さんが、それぞれ言葉にした。ヴァナルも気が付いたようで『イヤなカンジ』とぽつりと零した。
『みんな分かったの? ボクも嫌な気配がしたから目が覚めたんだけれど……原因までは分からないなあ』
クロがうーんと考えながら口にして教えてくれた。幼竜さんはまだきょろきょろしているので怖いのだろうか。
――一体なんだろうと不思議に思いつつ、なにかあっても問題だからと布団から出て羽織を纏って部屋の外へ視線を向ける。
「ナイ、目が覚めたのか?」
ジークが私が起きたことを察知して襖越しに声量を絞って声を掛けてくれた。月明りで襖越しに見える姿が乙だなと、少し妙なことを考えながら口を開く。
「ジーク。入っても良いよ」
私の声にゆっくりと襖が開いてジークの姿を捉えた。彼は部屋には入ってはこず、敷居の前で膝を突いてこちらを見ている。入ると問題になることもあるし彼の行動は無難な選択である。心配そうな顔でこちらを見て、小さく首を傾げた。
「大丈夫か? なにか問題が?」
「体調は全然平気。ただ奇妙な夢を見て、声が聞こえて目が覚めたんだけれど……クロたちも妙な気配を感じたって」
私の言葉を聞いてむっと口を一文字に結んだジークが立ち上がった。座っている私と立ったジークだと身長差がかなりあって、見上げる首が痛い。
「そうか。すまん、リンを呼ぶぞ。事の次第をアルバトロスとフソウの面々に伝えても良いか?」
ジークの腰に佩いているレダが『マスターが凛々しい顔をしておりますわ! 素敵!』となにか言っているけれど、聞こえない……聞こえないから。
あれ、まさか先ほどの『キラセロ……!』と言う声は、レダかカストルが発した念のようなものだろうか。でも、彼らの声とは程遠いものだし、魔力の質が違う気がする。考えても仕方ないと、ジークの目を確りと見た。
「うん、問題ないよ。というか、むしろお願い。嫌な感じだったから、なにもなければ良いけれど」
本当になにもなければ良いのだが。私の不安を感じ取ったのか、雪さんと夜さんと華さんが立ち上がり、ジークの方へ顔を向けた。
『ああ、申し訳ありません。じーくふりーど殿』
『よろしければ、ナガノブを叩き起こすように伝えて頂けると』
『私たちの名を出せば、其方に責は及びません』
いつもより少し厳しい雰囲気の雪さんと夜さんと華さんが立ち姿からお座りの姿勢になった。ゆっくりとヴァナルが立ち上がり、雪さんたちの横に並ぶ。
「承知いたしました」
小さく頭を下げたジークは、部屋近くに待機していた護衛の方々に伝えているようだ。数人の声が漏れ聞こえて、どたどたと木の床を走って行く音が聞こえた。その間に着替えようと、部屋付きの女中さんを呼び出して着付けを手伝って貰う。
フソウの衣装とアルバトロスの衣装の仕組みが違って慣れない手付きだが、それでもお城の女中さんを務める方々の手捌きは見事なもの。着替えを終え感謝を告げると彼女たちは部屋の隅に控え、少し待っていればジークとリンが姿を現して部屋へ入ってくる。
「ナイ、大丈夫?」
リンがへにゃっとした顔で私の下に座り込む。どうやら寝汗を掻いていたようで『怖い夢でも見た?』と問いかけられた。大丈夫だと彼女の疑問に返事をして、変な声が聞こえたことを伝え『キラセロ……!』と言っていた気がすると伝えれば、厳しい視線をカストルへと向けた。
『お、俺じゃねえ! 極めて遺憾だぞ!! 斬りたい欲求は持っているが、斬る相手は選ぶからな!!』
『私でもありません。私は忠実なマスターの僕。健やかに生きるために必要なマスターの睡眠を妨害する行為など取りません』
カストルらしい言い訳と、レダらしい宣言だった。しかし、レダの言葉は大仰に聞こえるけれど説得力があるのは、常日頃から『マスター、お可愛らしい我がマスター!』と口にしているからか……。『お、誰かくるぞ!』『人の気配が近づいていますね』とカストルとレダが告げると沈黙態勢に入り、ロゼさんがひょばっと私の影の中に入る。
夢で見た感じた質が違うし、レダとカストルは白だろう。では、誰だとなるが、とりあえずこちらへくる方の対応をしなければ。どすどすと床を進む音が大きくなって、白襦袢姿のナガノブさまが姿を現した。彼の後ろに付いてきていた小姓の少年が羽織を被せたが、少し乱れた襦袢の隙間から鍛えられた筋肉が見えた。
「神獣殿、如何なされた!? みなーばぁには申し訳ないが、神獣殿の言葉はフソウにおいて何事にも優先されるものだ。理解してくれ、入るぞ!」
彼の言葉に小さく頷く。私が男であれば敷居の前で立ち止まらないまま、ナガノブさまは部屋に入っただろう。
リンがいるし、フソウとアルバトロス両国の護衛の方々も部屋に集まってきているから不貞を疑われることはない。ただお互いに夜着なので気を使わなければならなかった。どかどかと畳の上を歩いたナガノブさまが、神獣さまの前でどかりと腰を落とす。
『ああ、ナガノブ』
『起こして申し訳ありません』
『少々、気になることがあり、就寝中の貴方を呼んで頂きました』
三つ首の大きな犬と髷を結ったお侍さんが対峙する姿ってなんだか面白い。面白いが漂う空気は真剣そのもの。私も正座で彼らの様子を見守ることにすればクロが私の肩に乗り、幼竜さんはジークの肩の上に移った。
ヴァナルはフソウの神獣として振舞っている雪さんと夜さんと華さんに気を使い、私の隣にちょこんとお座りする。ヴァナルのふさふさの銀の体毛に手を伸ばしたくなる欲求を堪えて、確りと前を見た。
「お気になさるな。して神獣殿、如何なされた?」
むっと難しい顔になるナガノブさまと、感情を読み取れない雪さんと夜さんと華さん。
『ここにいる皆が嫌な気配を察知いたしました』
『竜と番さま、そして番さまの主が気付いたのです』
『全員が同じ気配を感じるなど異例でしょう。なにかあったのではと貴方を呼び出した次第』
「なるほど。詳しい話は後程聞くとして……城の者を全員叩き起こしましょう。そして朝廷にも連絡を……!』
ナガノブさまが襖の方へ顔を向けると、いつの間にか控えていたお侍さんが『御意!』と声を出して、廊下を早足で歩いて行く。
「それで、皆が感じた嫌な気配とは……?」
『そちらの説明は彼女に任せましょう』
『私たちより、はっきりとしたものを捉えたようです』
『夢の内容を教えて頂けますか?』
ぐるんと、ナガノブさまの顔と雪さんと夜さんと華さんの顔が一斉に私へ向く。夢の内容はとりとめのないものだ。奥さんと子供を斬られたお侍さんが復讐に走ったというもの。最後には公的機関にとらえられて、あっけなく死んでしまったこと。どういう経緯で復讐に走ったのか詳しくしらないし、夢の主に同情するにはまだ早かった。
「みなーばぁよ……呪いの刀の主の夢を見たのか」
「え?」
まさか、帝さまが住まう場に祀られていたあの呪いの刀のことだったのか……。しかし、聞いていた話と毛色が違うような?
「諸説がいろいろとあってな。前にお主に伝えた話は一番有名なものなのだが……」
苦い顔を浮かべたナガノブさま。もしかして一番メジャーな話を私に教えてくれたのは、隠したいなにかがあったから……だろうか。突っ込まない方が良いかもしらないと彼の渋面を眺める。
「ナガノブさま! 一大事でございますっ!!」
廊下を何人もの人が走ってこちらにくる音を鳴らしながら、ナガノブさまの名を連呼している。そうして滑り込むように部屋の前の襖に何人も頭を垂れた。
「帝が……帝の意識がなくなりました!!!」
「なっ!?」
滑り込んだ人の声に、一同なにがあったとフリーズするのだった。