魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
実家のフライハイト男爵領から王都に戻って参りました。本来ならばまだ実家にいるのですが、ちょっとした問題とやりたいことができたので急遽予定を変更しております。アルバトロス城前で大きな門扉を見上げながら、隣に視線を向けます。
『大丈夫かなあ、怒られるかな?』
気落ちした声のワイバーンさんが私を見ながら声を……少し違いますね。魔力を使って私に直接気持ちを届けてくれています。目の前の彼はアルバトロス竜騎兵隊に所属するワイバーンさんです。乗り手である騎士さまと気持ちが通じず、少し嫌になってしまい訓練場からフライハイト男爵領まで飛んできました。たまたま魔石鉱山へ赴こうとしていた私と出会い、お話することができました。
ちょっとした問題がこの件となります。
ワイバーンさんは嫌になって逃げてきたことを反省しているのですが、怒られるのが怖くて王都に戻り難いと教えてくださいました。
ならばと男爵領の教会を通じ、王都の教会と連絡を取りアルバトロス上層部へ伝えて頂いたのです。怒っていないし、謝らないといけないのは騎士の方だと手紙を頂いたので、まだ戻り難いと仰るワイバーンさんと一緒に王都にきたのです。やりたいこともありますので……。
背中に乗せるよと仰ってくれたので、馬車よりずっと早い時間で戻ってこれました。ちなみにワイバーンさんの声は私の家族に聞こえません。
ワイバーンさんとお喋りができるのは、アルバトロスではナイお姉さまだけと教えて頂き、私が二人目なのだそうです。ちょっと、いえ凄く嬉しいと飛び上がりましたが、もしかして以前ナイさまに魔力を譲渡して頂いたことが関係しているのかもと考えています。
「大丈夫です! 貴方のことを怒っている方はいません。もし気になるなら、ごめんなさいと皆さんに謝りましょう! 私も一緒に謝りますので!」
顔を下げていたワイバーンさんの顔を撫でると、目を細めて首を持ちあげてくれました。良かったと安心したら、自然と私の顔に笑みが零れます。ワイバーンさんが数歩私に近寄って、ぐりぐりと顔を寄せてくれました。こんなに素直な子なのに仲違いをしたという騎士さまは、一体なにが問題なのでしょうか。
きちんと心を通わせることができれば、こんなに情を示してくれるのに。とはいえ、ワイバーンさんの気持ちを聞くことができる方は限られています。これは私がワイバーンさんの気持ちを代弁すべきでしょうと、気合を一つ入れました。
『ありがとう。アリア~』
門を守る騎士さまが不思議そうな顔をしていますが、今回の件を担うことになり入城許可証を頂いております。聖女の衣装を纏うか迷いましたが、フライハイト男爵家の娘として赴いているので学院の制服を着用しました。彼らに許可証を見せると、敬礼をして開門してくださいました。お城の中に入ると近衛騎士さまと竜騎兵隊の隊長さんが私たちを出迎えてくれます。
「アリア・フライハイト嬢。此度の件、お手数をお掛けしております」
近衛騎士さまと竜騎兵隊さんの衣装は違うので一目見れば分かります。私に言葉を掛けてくれたのは、竜騎兵隊の隊長さんでした。
「お気になさらないでください。この仔が戻り難いと仰っていますし用事もあったので、折よく王都に戻ることができましたから!」
私は問題ないと伝え、隣にいるワイバーンさんに視線を向ける。ワイバーンさんは隊長さんを知っているようで、一歩二歩と前に歩いて脚を折りたたみます。翼を広げて伏せの態勢を取りました。どうやら『ごめんなさい』と伝えたいようで、少し間延びした小さな声がワイバーンさんの喉から漏れ聞こえてきました。
「君が気に病むことはない。悪いのは我々の方だ。君の気持ちを理解できずすまなかった」
隊長さんが膝を付きワイバーンさんへ言葉を掛けました。彼の言葉を聞き、気落ちしていたワイバーンさんは少し持ち直したのか、立ち上がって閉じた翼をまた大きく広げています。
『良かった。逃げ出してごめんなさい』
ワイバーンさんの言った声は騎士の方々に届いておらず、機嫌が戻ったと理解しただけのようです。このままでは、また問題が生じてしまうとワイバーンさんの気持ちを伝えるべく口を開いた。
「隊長さま。ワイバーンさんは、逃げ出してごめんなさいと仰っています」
「被害報告はないので、むしろ我々は騎手を呼び出して頭を下げさせなければならぬでしょう。しかしフライハイト嬢は彼の気持ちが分かるのですか?」
こんなに優しい仔が人に危害を加えるなんて信じられませんが、疑われても仕方ないのでしょう。ワイバーン一頭でも力がなければ、大怪我を負ってしまいます。
少し悲しい現実ですが、人に被害があった場合は軍や騎士、冒険者の方々によって討伐されるのが常です。突き付けられた現実に悲しくなりますが、今はワイバーンさんのことでしょう。隊長さまと目を確りと合わせます。
「はい。魔力を通して彼の気持ちが伝わってきます。人の言葉もきちんと理解されているので、きちんと対応すればこんなことにはならなかったはずです……彼の騎手さまとお話することができると良いのですが」
ワイバーンさんの顔に手を伸ばして撫でると、目を細めながら受け入れてくれました。尻尾を左右に揺らしているので気持ち良いみたい。ふむ、と考える様子を見せる隊長さまは、とりあえず竜騎士隊の訓練場に行こうと仰りました。出入口門から随分と奥まった場所にあるため、結構な距離を歩くことになります。
田舎の男爵領で育ちましたから問題はありませんが、ワイバーンさんは『飛んだ方が早いのになあ~』と首を傾げていました。分かれ道に辿り着き、いつもは右に曲がって補填部屋に赴いていますが、今日は左へ進むようです。こちらですと示した騎士さまの後ろを付いていこうとすると、気配を感じ立ち止まりました。
「あら、アリアさん?」
聖女の衣装を着た、良く見知ったお方が立っていました。少し驚いた表情を見せた後、直ぐに微笑みに変えて私に声を掛けてくださったのです。
「ロザリンデさま、お久しぶりです!」
一ヶ月振りの再会に喜びますが、ロザリンデさまにはお願いしたいことがあります。やりたいことと言うのがコレなのですが、長く立ち話をするわけにもいけないので、騎士さまに彼女と少しの間お話することの許可を取りました。
「お願いしたいことがあって手紙を認めてきました! 読んで頂けると嬉しいです!」
学院の長期休暇はバカンスの時期なので、大体のお貴族さまは領地に戻ったり避暑地や別荘へと向かいます。ロザリンデさまもご実家に戻っていたのですが、補填のために王都に戻っていたのでしょう。偶然って凄いと感謝しながら、お手紙を差し出すと快く受け取ってくださいました。内容は魔石の鉱脈でダウジングを手伝って欲しいというものです。
リヒター侯爵家はフライハイト男爵家の後ろ盾となってくれています。ナイお姉さまの錫杖造りの話を勿論知っておりますし、お話しても問題ないと結論がでて父を経由してリヒター侯爵閣下にもお知らせ済み。
「ありがとうございます。家に戻り次第、目を通しますわ」
「よろしくお願いしま……え、あっ」
笑顔を浮かべたロザリンデさまを見ていると、ワイバーンさんが彼女の背中に回って鼻先を優しく当てました。
「きゃ!」
『一緒に行こう~。なんだか黒髪の聖女さまの気配がするから、みんな喜ぶよ~』
ぐいぐいとロザリンデさまの背を押すワイバーンさん。ロザリンデさまは凄く驚いていますが、怖がっているよりも、どうしてワイバーンさんが背を押しているのか理解できず目を回しているようです。
「ナイさまと同じ気配がするから、竜騎士隊の訓練場に一緒に行きましょうとワイバーンさんが仰っていますよ!」
ちょっと嬉しくなって、ロザリンデさまの手を握ります。多分、ナイお姉さまの別館に住まわせて頂いているので、お姉さま由来の魔素が付いていたのかも。
流石に勝手をするわけにはいかず、ロザリンデさまは近衛騎士さまと竜騎兵隊の隊長さんと護衛の教会騎士さまに許可をとりました。どうやら来訪者が増えても問題なく、ワイバーンの皆さまが喜ぶなら望むところだと仰ってくださいました。やったー! と喜んでいるワイバーンさんと一緒に王城内を進んで行きます。こちらにきたのは初めてだと、きょろきょろと視線を向けていると訓練場に辿りつきました。
『おかえりー!』
『戻ってきた~!』
『心配したよ』
と口々に仲間のワイバーンさんたちがワイバーンさんに集まります。個体差が余りないので分かり辛いですが、右へ左へ首を傾げるワイバーンさんたちはクロさまと良く似ている気がします。
『ごめんねえ……ちょっと嫌になっちゃった』
『手綱捌きが強すぎるみたいだから』
『ちゃんとした判断、難しい~』
訓練場にいるワイバーンさんたちは皆さん『雄』の個体だそうです。喋り方が幼いので可愛らしいですが、逃げ出したワイバーンさんと一緒に尻尾がダダ下がりになっていました。
あ、これは落ち込んでいるなあと直ぐに分かってしまいます。私の隣にいるロザリンデさまも気になるようで『大丈夫でしょうか?』と心配してくれました。一応、隊長さんにワイバーンさんたちの会話を伝えると難しい顔になります。
「む……やはり彼の騎手を連れてくるべきですね。少し場を離れます、申し訳ございません」
隊長さんが走って騎手の方を呼びに行き、暫く待っていると困り顔の騎手さまが私たちの下へとやってきました。騎手に気付いたワイバーンさんたちが一斉に顔を向けて、ぎょっと驚きましたが大丈夫でしょうか。
『もう少し優しい手綱捌きが良いなあ』
ワイバーンさんが騎手さんに寄り、気持ちを伝えました。
「……」
騎手さんには届いておらず私が代弁すると難しい顔で考えております。
「強い方が分かり易いと考えていましたが……すまない。君にとって私の手綱捌きは乱雑だったようだ」
言葉が伝わりづらいので、小さな齟齬は出てしまいます。仲直りできるかなとロザリンデさまの顔を見ると、他のワイバーンさまたちが『仲直りー!』『これからも頑張るー!』と仰りながらくるくると私たちの周りを走ります。
意思疎通をどうにかできないかなと考えていると、後日、竜騎士隊から教会を経て、ワイバーンさんたちの通訳を暇な時にお願いできないかと打診が舞い込むのでした。
◇
――南大陸・某国、某所
カサカサと音を立てながら汚い鼠が私の前を横切った。国が変わっても、領土が変わっても、貧民街の雰囲気はどこも変わらない。辛気臭い臭いが満ち、人間の瞳には光が灯っていないのだ。貧民街を堂々と歩く私を眼光鋭く見る輩は、私が持っている金か金目の物を狙っているのだろう。まあ、襲ってくるのなら命を刈り取り臓器でも頂くけれど。
『随分と腹が目立ってきたな』
私の肩に乗る使い魔の黒竜が下を向き、目を細めながら問うてきた。
「ええ、そうね。記憶が曖昧だけれど、残した記録からだとあと少しで十ヶ月が経つわ。十ヶ月で生まれれば無用ね。私が欲しいのは古代人の血を色濃く引く赤子だもの」
二百年も生きている所為で記憶の欠落が激しい。まあ魔導書に日々の行動記録を残しているし、記憶がなくとも記録があれば覚えていなくても問題は少ない。確か胎に仕込んだのが去年の秋だった。面白半分で自身の身体に種を付けたのは良いが、自分以外の異物を抱いている感覚は不快以外のなにものでもない。
『必要ないなら、俺が喰っても良いか?』
「構わないけれど、私の身体が持たないようなら新たな依り代として最適なのよ。魔力量次第だから……産み落とした赤子の魔力が低ければ貴方が処理すれば良いわ」
私の血を半分引いているのだ。人格転写する術が魔導書にあったから、試してみるのも良いだろう。術式は魔導書に記されているので、あとは魔術陣と魔力さえあれば術の発動自体は簡単である。私自身の人格転写を施す前に、成功率がどの程度か調べなければならないが。
『分かった。しかし、持ちそうにないのか。流石に人間の身体は二百年も生きられぬようにできているのだな』
黒竜が目を細めながら視線を上げ、歩く先を見る。二百年、良く持った方ではないだろうか。人間の寿命は七十年ほど。三倍近く持っているのだから、頑丈な肉体だったと言えよう。
「そうね。長命が売りの竜とは違うもの」
『竜の命の長さは魔力の多さに直結しているからな。少なけりゃ十年、二十年で死ぬ個体もいるぞ』
五百年以上生きていることを誇りにしているのか、ふふんと鼻を鳴らした竜は弱い個体を嘲笑う。
「それは珍しい事例でしょう。普通の竜でどれほど生きるのよ?」
流石に竜として産まれた個体が十年、二十年で果ててしまうのはあり得ない気がする。敵に襲われ、怪我を負い息絶えたと言うなら納得できるが。
『二、三百年だろう。西大陸の北西部へ逃げた腰抜け共は随分と長く生きるらしいがな。群れて慣れあっている奴らが強いとは到底思えん。単純に閉じ籠っているから魔力の消費が少なくて長く生きているのだろうよ』
「あら、えらく饒舌じゃない。亜人連合国の者たちが嫌いなのね」
亜人連合国の土地は不毛の大地と呼ばれているが、実の所、魔素は多い。随分と長く生きている竜が残したものだと聞いた気がするが……さて、誰から聞いたのか。くすりと笑った私を睨みつける黒竜の機嫌はよろしくない。従属の魔術を施しているからこそ、竜のご機嫌を窺わなくて済んでいた。
『……で、今日の目的は? 汚い所は嫌いだと以前口にしていただろう』
いつもであれば貧民街に私は立ち寄らない。こんな小汚い場所に誰が近づきたいのか。
「凄い魔力を感じたけれど消えちゃったのよね。新しい身体が必要だし、丁度良い感じの魔力だったから赴いてみたのだけれど……意味はなかったようね。見つからないわ」
南大陸へ渡った目的は、黒髪聖女の父親から聞いた話に興味を持ったからだ。彼のルーツは南大陸にあり、彼らの一族は一族抗争に負けて西大陸の最南端にある国へ渡りついた。どうやら黒髪黒目を生みやすい一族だったようだから、一族抗争に勝った者たちは魔力に優れているのではないかと探しにきたのだ。
南大陸をウロウロしていた最中、凄い魔力を感じてこの場に辿り着いたのだけれど……。貧民街にそのような者がいるとは到底思えない。だが街中を探しても見つからないので、最後の賭けとして嫌々足を踏み入れた。
死に直面している者が最後の輝きとばかりに魔力を放出することがある。もしかすれば死に際の悪足掻きだったのかもしれないと、壁際に転がる少女を見た。
痩せこけていて、骨と皮だけ。ボロを纏っているが、ところどころに穴が空いて、服の機能を果たしていない。生きているか死んでいるのか分からないなと、腹の動きを見ると辛うじて動いていた。浅い呼吸だから、そう持たないだろうと視線を上げ道を進もうとした時だった。
「あ……だれか……たす、けて」
か細い声が耳に届くが、関わっても得にはならず足を進めようとすれば『喰って良いか?』と黒竜が囁く。好きにしなさいと小さく息を吐けば、嬉しそうに私の肩から飛んでいき命が尽きる寸前の少女の前に降りた。
「嗚呼、周りの者たちに分からないようにお願いね」
貧民街に住む者の命の価値は低く誰も気にしないかもしれないが、誰かが叫べば面倒なことになるかもしれない。口を大きく開け、少女の肉に喰らおうとする寸前だった。
『面倒だな……ま、仕方ないか』
竜がありありと溜息を吐けば、骨の軋む音が響く。どうやらある程度大きくなって、少女を一飲みするようだ。
「ひっ!」
竜に喰われてしまうと理解したのか、少女は悲鳴の代わりに喉を鳴らした。真っ暗だった瞳に、生きたいと願う光が灯り細い腕で地面を這いずり逃げようとしていた。
人間という生き物は命に執着している。私も魔術を極めるために、永遠の命を求める身だ。しかし弱ければ死ぬという世界の理を変える気はない。竜に喰われて死ぬのも運命だろうと、にたりと口を伸ばした。
「――いやだ! 死にたくないっ」
少女の身体から魔力が漏れ出し、私の黒い外套を翻す。今にも死にそうな者がこれほどの魔力を流れ出させるとは。しかも相手はまだ子供で、大人に成長すれば更に魔力量は増えるだろう。
『魔力が高いなら喰う価値が上がるな。もしかして、もっと恐怖を煽れば魔力が上がるのか?』
竜が無慈悲に零した言葉に、恐怖が限界にきたのか少女は気を失う。とりあえず喰う気なのを止めさせなければと、黒竜の横に並ぶ。
「それも良いけれどね。とりあえず喰うのは止めなさい」
少女の前にしゃがみ込んで腕を取る。脈はあり死んでいなかった。栄養不足で単純に身体が弱っているだけだろうか。兎にも角にも目的ができたのだから、生かす方向へ持っていかねばと鞄の中を漁った。
『どうして?』
むっと機嫌の悪くなる黒竜に視線を向けて、私はゆっくりと首を振る。
「この子供に用ができたの。だから喰っては駄目よ」
まだ諦めきれていない竜に『喰いたいなら、安い奴隷を買って喰わせてあげるから』と代替案を出しておいた。竜はぶつぶつ文句を言いながらも主の命には逆らえず、少女の側から離れて肩乗りの大きさへと戻った。
「薬草茶でも良いかしら……まあ、適当で構わないでしょう」
なにも与えないよりマシだろうと、鞄の中にあった薬草をすり潰した液状のものを口へ流し込む。殆どが喉を通らず零れ落ち、舌打ちを放ってしまった。今度こそ失敗しないようにと、少女の口に親指を突っ込んで無理矢理に薬草茶を流し込んだのだった。
『……うわ、酷え』
先ほどまで少女を喰いたくて仕方なかった竜に言われたくないのだけれど。
「さて、どこか宿でも取りましょうか。あ、貴方はもちろん外で待機していてね」
竜を肩の上に乗せて驚かれないのはアルバトロスの黒髪の聖女くらいである。彼女の存在を知っている、西、東、北大陸の者たちは竜を慮るかもしれないが、今私がいるのは南大陸だ。
南は東大陸同様に魔素量が低く、魔物や幻獣種は希少と聞いている。南の特筆すべき所は、魔素が低い大地だというのに時折とんでもない魔力持ちが産まれる所である。東大陸は魔石に魔素を取られているが、南は魔素を特異体質の人間が取り込むのだろう。
現に、目の前の少女は魔力が見えるほどに備えていたのだから。あまつさえ、死にかけているのに。
『へいへい。竜使いの荒いことで……』
ゆっくりと飛び上がって私の肩へと移動した黒竜を見ながら小さく笑みを浮かべ、身体強化魔術を施して少女の首根っこを掴み持ちあげる
「……臭いわね。はあ。先に洗浄の魔術を施せば良かったわ」
だらんと垂れる両腕が動くたびに、独特な臭いが鼻に届く。貧民街に住んでいたのだから仕方ないとはいえ、これは我慢ならない。魔力が勿体ないけれど、洗浄の術を唱えて臭いをかき消した。
ふうと息を吐いて、街の歓楽街の方面を見る。それなりに大きな街だから綺麗な宿を取ろう。ふかふかのベッドに少女を寝かせ、私は椅子に腰を下ろし彼女の目覚めをゆっくりと待とうではないか。黒い外套を翻して歩き始める。黒竜は人目に付かないようにと、空へと飛び立った。
「さて、どんな善人を演じようかしらねえ」
少女を騙して、優しい人間を演じよう。貧民街で朽ちかけていた子供だ。捻くれているかもしれないが、ある程度の時間優しさに触れればころりと騙され懐くはず。
そして私の真の目的を知った時、少女は絶望の淵に立たされる。そしてそのまま堕ちてしまえば良いと心から願うのであった。