魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
もうすぐ一学期も終わるという日の始業前、唐突に私の机の前に立ったセレスティアさま。
「ナイ、お話があるのですが少し時間を頂いてもよろしくて?」
着席したままだと失礼なのでゆっくりと立ち上がって礼を執ってから口を開く。
「構いませんが、今でしょうか」
もうすぐ予鈴が鳴るし、長い話ならば中途半端で終わってしまうだろう。少し考える様子を見せたセレスティアさまが開いていた鉄扇を閉じ、私を見下す。
「そうですわね、ではサロンを一室借りましょう。申請しておきますので、放課後そちらで」
「わかりました」
また礼をして別れて席へ着くと予鈴が鳴り、やる気のなさそうな教諭が教室へとやって来て、朝のホームルームの時間が訪れるのだった。
そうして昼休みも過ぎて午後の授業も終わった放課後。セレスティアさまの隣には何故かソフィーアさまが。
話の内容に関係があるからジークとリンを借りたサロンへと呼ぶために、マルクスさまが使いっ走りにされていた。セレスティアさまに尻に敷かれているなあと、教室を大股で去っていく彼の背中を見つめ、小さくなった頃に二人に向き直る。
「では参りましょうか」
「はい」
特進科前の廊下を真っ先に出ていくセレスティアさまを少し遅れてソフィーアさまが追い、私も後に続く。
高位貴族のご令嬢が闊歩している所為なのか、学院生たちが自然と道を譲り廊下の端へと寄る。本当にお貴族さまの階級って顕著だ。私が一人で歩いていたらこうはならない。二人の御威光に預かりながら、早足で歩く。二人の足が長い所為か、同じ歩数で進んでも距離が空いてしまう悲しい事実に、チクリと胸が痛む。
「こちらですわ」
とある一室の前で立ち止まるセレスティアさまがドアノブに手を掛けて扉を開く。蝶番の音は全く鳴らないまま部屋へと踏み入れると、学院が手配している侍女の人がいろいろと用意をしてくれていたようだ。
セレスティアさまが一番初めに入り、続いてソフィーアさま。最後に私が、侍女の人たちに黙礼をしつつ部屋の中へと私も入る。侍女の中には行儀見習いとして働き、貴族の人もいるから気が抜けない。
「お茶の準備を。――そうですわね、四人分よろしくお願いいたしますわ」
四人分ということは、ジークやリンは勘定に入っていないようだ。交流を深めたいというのならば、二人の分も用意するのが普通。これは仕事の話になるのかなと考えつつ、セレスティアさまが指示した席へと座る。
「二人を連れてきたぞ、セレスティア」
「マルクスさま、ご苦労さまです。――ジークフリード、ジークリンデ……突然の呼び出し申し訳ございません。本日は聖女さまにお話があって、お二人にもこちらに来ていただいた次第ですわ」
最近爵位持ちになった二人だからか、他の人たちの接し方に少し変化があるような気がする。以前ならもう少し乱暴な物言いで後ろに控えていろと言われただろう。
「はっ」
「はい」
話の内容から察した二人は私の後ろに回り込んで、後ろに並ぶ。二人の扱いに物申したい所だけれど、仕事の話ならば仕方ないと頭を振る。
そうしているとずかずかとこちらにやって来たマルクスさまが、どっかりと乱雑に椅子へと座る。
「マルクスさま、もう少し優雅に振舞えませんこと?」
侍女の人はそれぞれ紅茶を置くと、礼をして退室していった。お茶を淹れ終えれば、戻るシステムのようだ。
おかわりの際はどうするのだろうか。貴族の人が自分で行動を起こすことは滅多にない、と机の上に目を向けると呼び鈴が鎮座しているのでそれで呼び出すのかと、一人で納得。
「いいじゃねーか、学院なんだし」
「今から話す内容は領地の話となります。きちんとした態度で向かうべきでしょう」
「そりゃそうだが……わかった、わーったよ!」
ギロリとセレスティアさまに睨まれてたじろぐマルクスさま。そんな二人を横目で見つつ、侍女から差し出された紅茶を口にしているソフィーアさま。
色濃い面子だよなあと感心しつつ、私を呼び出した本人の言葉を待っていると、ようやく夫婦漫才から抜け出したセレスティアさまが私に向き直る。
「正式な依頼は後日教会へ出すのですが……聖女ナイ、長期休暇を利用してどうかヴァイセンベルク辺境伯家の領地と寄り子の方々の領地の魔物討伐に同行して頂けませんか?」
そういえば以前、セレスティアさまのお茶会に誘われた時、ご令嬢方が魔物討伐の依頼が多くなっているとため息を零していたけれど、それと関係があるのだろうか。
「教会を経た依頼となれば私に否やはありません、セレスティアさま」
私の言葉にホッと胸を撫でおろしている彼女。お貴族さまが、こういう姿を見せるのは珍しい。いついかなるときも優雅に、感情はなるべく表には出さずが基本だから。
依頼となれば教会からのお仕事として、従軍し魔物討伐へ繰り出すことはある。そういえば久方ぶりなので、持っていくものとかチェックをしないと、なんて考えているとセレスティアさまが私を窺いつつ口を開いた。
「辺境伯であるわたくしの父の名で後日教会へ指名依頼を出す予定ですの。学院でこうして顔を合わせているのですから、先にお知らせしておいた方が良いと思いまして」
確かに何も言われないよりは印象は良いだろう。私はお仕事になるので気にはしないが、他の聖女さまでお貴族さま出身の人なら文句くらいは言い放ちそうだ。
「お気遣い感謝いたします。――そういえば以前のお茶会で魔物の出現が増えているとご令嬢の方々が申しておりましたが、それに関係が?」
「よく覚えていましたわね。直ぐに話題が切り替わったというのに……」
「偶々です。仕事柄、騎士団や軍に同行しますので情報は手にしておいた方が何かの役に立つ可能性もありますから」
なんとなく、これ以上魔物の出現が増えれば間引きの為、教会や王家に依頼が行くだろうと予測はしてた。まさかセレスティアさま本人からこうして依頼を頂くとは考えていなかったが。
「確かに。――わたくしも当事者として参加いたしますし、マルクスさまも腕試しと実戦経験を兼ねて参加します」
お貴族さまにとって情報は大事なものである。時には大金を生み出すかもしれないし、時には醜聞となって家格を落とすことになる。
「私も参加させてもらうぞ。辺境伯閣下に許可は頂いているからな」
「本当、ソフィーアさんはお暇なのですね」
「ああ。――だが、以前より充実しているよ。城では見られなかった光景が映るかもしれんしな」
セレスティアさまの嫌味を奇麗に受け流すソフィーアさま。
彼女は王子妃教育を受けていたから、学院が終わった後は直ぐに王城へ出向いていたけれど、最近は別のことに注力しているようだった。
何をしているかは分からないが、以前『やりたいことがある』と言っていたので、それに関することだろう。
けど、魔物討伐に同行するのは意外だ。
セレスティさまは自分の領地のことだし、マルクスさまは婚約者の領地だし騎士として経験を積みたいのなら納得できる。
閉じてしまった王子妃以外の道を模索して足掻いているのかもしれないと、ソフィーアさまを見た瞬間。
――あれ、長期休暇……下手をすれば魔物討伐で潰れてしまう可能性が出てきてる?
疑問が頭をよぎり、私のささやかな楽しみも閉じてるじゃないか……。聖女ってある意味社畜だよなあと遠い目になるのだった。
◇
セレスティアさまの実家であるヴァイセンベルク辺境伯家が治める領地の魔物討伐依頼の話が舞い込み、それを了承して解散しようと各々行動を始めた時だった。
「ああ、そうだ。――ジークフリート、ジークリンデ……親父とお袋が話があるから屋敷に来いつってた。使いを今日出すらしいから、手紙の内容を確かめてくれ」
お茶は冷めていたけれど、勿体ないので飲み干すまでジークとリンに待って欲しいと言って、私だけが椅子に座っていた時だった。ソフィーアさまとセレスティアさまは入り口付近まで歩いていたけれど、こちらに何故か残っていたマルクスさまの声を聞き振り返る。
「わかりました」
マルクスさまの言葉にジークが答え、リンは頷くだけ。珍しく――失礼なのかもしれないが――真剣な表情で少し声のトーンも落ちていたマルクスさま。
一体どうしたのだろうと後ろに控えていた二人の顔を見るけれど、心当たりはなさそうだった。片手を挙げてすたすた歩くマルクスさまと合流したセレスティアさまとソフィーアさまは、私たちを残して部屋を出ていった。
「何だろうね」
「ああ。男爵家の籍に入ったし、週に一度の伯爵さまとの食事会は夫人が止めてくれたが……」
「何かあるのかな?」
とまあ三人で顔を合わせても伯爵さまと奥方さまの真意はわかるはずもなく。部屋の片づけは学院が雇っている侍女の人の役目なので、とりあえず教会の宿舎へ帰って使者からの手紙を受け取り内容を読んでから考えようと決め。
片づけが他人任せで良いだなんて、お貴族さまが多く通う学院らしいと苦笑いしつつ部屋を後にし、帰路へと就くのだった。
そうして宿舎へと戻ると教会の職員さんが顔を出し、ジークとリン宛の手紙があると手渡しされる。
私は関われないから自室に戻ろうとすると、ジークに止められリンに両肩を掴まれてくるりと転換され、何故か彼女の部屋へと連行された。
「いや、私が関わっちゃ駄目なんじゃ……」
「妙なことになれば、お前に打ち明ける羽目になる。なら最初から知っておけば良い」
「だね、兄さん」
確かに私たちで持て余す案件なら公爵さまや教会に相談するけれど。でも最初から私が関わるのはなんだか違う気がするけれど、当事者がそういうのなら構わないか。
「わかった、居ればいいんでしょ、居れば」
とまあ投げやりな言葉を二人に言い放ち、リンの部屋のベッドに腰掛ける。ジークは机の近くで立ったまま、リンは椅子に座って丁寧にペーパーナイフで開封し始めた。
「兄さん」
リンが開封した手紙の中身を取り出してジークに渡すのは、信頼の証なのだろう。
「ああ」
手紙へと視線を落とすジークを二人して見つめる。どうやら手紙の内容は長くはなく、直ぐに目線が上がってリンへと手紙を渡すとリンも同じように視線を落とす。
「ナイ、はい」
「読んでいいの?」
「いいんじゃないかな」
「構わない。――大したことは書いていないからな……」
なんだか微妙な顔をしているジークに違和感を感じつつ、受け取った手紙に視線を落とす。どうやら書いた人は伯爵さまのようだ。奇麗とは言い難い字で綴られている。
「……なんで今更」
そう、本当になんで今更この話題を持ってくるのだろうかと、ぼそりと口に出してしまう。
「まあな。それになんで俺たちを呼ぶんだか」
「ね」
手紙の内容はジークとリンに関わること……二人の母親が亡くなってしまった元凶を捕まえたので二人の好きにしていいから明日伯爵邸へ来い、というなんとも言えない手紙。
「ごめん、聞こえたか……で、どうするの?」
落としていた視線を上げて、二人に問いかけた。貴族籍に入ったジークとリンだ。相手が平民ならば切っても咎められない。だから相手を『私刑』にしても問題にはならないだろう。
もしくは伯爵さまの部下や関係者なのだろうか。それならば伯爵さまがケジメを付けなければならないし、処分を二人に任せるというなら理解は出来なくもない。罪を犯したら司法に預けるのが一番だと考えてしまうのは、前世の記憶があるからだろう。
「取りあえず伯爵邸には赴く。来い、ということだしな……」
ひとつ息を吐くジークに、彼を見ながら困ったような顔をしているリン。感情の置き所が分からないのか、部屋には妙な空気が流れているのだった。