魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0403:手紙で学ぼう。

 学院がお休みの日。

 

 焼き芋さんが女性陣と託児所の子供たちに高評価を得たので、食べたい人は食べて構わないとお触れを出しておいたら、気付かぬうちにさつま芋さんの在庫が尽きていた。

 結構な量があったはずなのに消費が凄く早かったと首を傾げていると、犯人が分かってしまった。どうやら妖精さんが焼き芋さんを気に入ったようで、こっそりと盗みに入っていたらしい。

 亜人連合国のエルフの街にさつま芋の皮が転がっており、ダリア姉さんとアイリス姉さんが『妖精たちが勝手に持って行ったようなの』『ごめんね~』と連絡が入ったのだ。一応、種芋としてとっていたものが残っていたので、子爵邸の畑の妖精さんたちにさつま芋さんのお世話をお願いした所だ。

 

 「美味しく育つと良いな」

 

 頭の上に種芋さんと掲げた妖精さんたちが、家庭菜園畑を歩いて畝に一個一個植えている。最初こそ驚いたけれど、妖精さん可愛いなあと微笑ましく見守っていると、後ろで控えていたジークとリンが私を見下ろした。

 

 「ナイが口にすると現実になりそうだ」

 

 「美味しかったし、早く育つと良いね」

 

 そっくり兄妹が笑みを浮かべた。私が口にしなくとも、畑の妖精さんならば早く美味しく育ててくれるはず。焼き芋さんが美味しくてまた食べたい気持ちもあるのだけれど、スイートポテトさんを食べたいし、豚汁にさつま芋を入れて甘いお味噌汁を飲みたいのだ。食い気がかなり先行しているけれど、お婆さまが面白がって畑の妖精さんに正体不明の種や苗を渡すよりマシだろう。以前にケシが生えたこともあるから、割と気を払っているのだ。

 

 『また食べたいね~』

 

 クロも気に入っているようだし、こっそりエルとジョセとルカとジアもこちらを気にしている。彼らはさつま芋さんの蔓も目的なのだろう。生で良い音を鳴らしながら美味しそうに食べていたし。ヴァナルも雪さんと夜さんと華さんもさつま芋さんを気に入っている。熱いのは苦手だけれど、冷めた焼き芋を美味しいと頬張っていたのだから。

 

 「ね」

 

 クロの言葉に返事をして、ジークの肩の上を見る。そこには幼竜さんがちょこんと乗っており、私をみてくるんと首を回している。

 ようやく私と視線を合わせても顔を隠さないようになってくれた。これで調子に乗って手を伸ばせば、ジークの腕の中に器用に移動して脇に顔を突っ込む。まだまだ距離は縮まりそうにないと苦笑いを浮かべる。

 

 『ジークの肩の上が気に入って、良くいるからねえ。飛べない一因かもしれないねえ。敵に襲われないし……』

 

 クロも幼竜さんを見ながら口にする。私に慣れてくれるのと、飛べるようになるとどちらが先になるだろう。時折、辺境伯領の大木の下から小さい竜さんたちがやってきて、幼竜さんに飛び方を伝授しているのに。

 ディアンさまは長い目で見れば良いと仰っているのだが、竜の皆さまの長い目って百年や千年単位ではなかろうか。

 

 「ナイのこと、どうして怖がるんだろう……」

 

 リンが少し不満そうに口にする。まあ、初対面がアレだったから苦手意識を持たれた気がする。

 

 「仕方ないよ。少しづつ慣れているみたいだし、今はまだ我慢の時かな」

 

 「む」

 

 「ジークとリンには懐いているし、クロもいるから大丈夫だよ」

 

 むーと考え込むリンに苦笑いを浮かべる私。今の面子で一番自分の身を守れないのは幼竜さんである。団体行動になるとみんなが守ってくれるし、私も守るからなにがあっても平気なはずだ。

 

 「だが、いつまでも竜を俺の肩に乗せておくわけには……」

 

 ジークは幼竜さんを肩の上に乗せていることで注目を浴びている。個人的にはジークにも竜関係の二つ名を賜って頂きたいところだが、ジーク的には微妙なようで。

 

 「ジーク。それを言っちゃうとクロにも降りて貰わないとね」

 

 『え?』

 

 私の言葉がジークではなくクロに着弾して、びくんとクロが身体を起こした。幼竜さんがジークの肩から降りれば、クロは一体どこへ行くのだろう。ソフィーアさまは驚くだろうし、セレスティアさまは超絶喜ぶはず。アリアさまはクロと仲良くお喋りしそうだし、ロザリンデさまは失神しそうだ。リンは普通に肩の上に乗せて歩きそうである。

 

 『ナイの肩に乗っちゃ駄目?』

 

 「ごめん、ごめん。仮定の話だよ。でもジークだけに竜の方が乗ってるってちょっと違和感があるというか、バランスが悪いというか……」

 

 言い終えてリンの方を見る。やはりそっくり兄妹はそっくりでないと落ち着かないので、シルエットも同じでいて欲しい気持ちがある。どうにも違和感があるから、クロにはリンの肩の上にいて欲しい所だけれど、クロは私の肩の上が定位置だから無理を言えない。

 

 『代表に相談してみる? リンの肩の上に乗りたい仔がいるかもしれないよ?』

 

 クロの言葉を信じるなら、肩乗りサイズの竜さんが他にもいるようだ。可愛いけれど、流石に亜人連合国や辺境伯領の大木の下から王都に移住するのは大変だろう。

 

 「流石にそれは不味い気がする。やっぱり自然の中で育った方が良さそうだしね」

 

 『うーん。あまり関係ない気もするけれど……』

 

 「自然の流れに任せるしかないから、リンの肩の上に乗れるサイズの竜さんは諦めて……さ、教会と孤児院に行こうか」

 

 畑の用事を終えたので、今日のもう一つの予定を済ませる。教会には聖女として、孤児院にはお貴族さまとして慰問である。子供たちの調子も気になるし、最近顔を出していなかったので今日赴こうと決めていたのである。

 ジークとリンは教会騎士服に着替え、私も聖女の衣装に着替える。ヴァナルと雪さんたちとジルヴァラさんとお猫さまはお留守番である。用意して頂いた馬車に乗り込み、貴族街を抜け商業地区へ辿り着く。ほどなくして馬車が止まると、窓からは教会の大扉が見えていた。

 

 「久しぶりかも」

 

 『そうかも?』

 

 馬車の中で私の独り言にクロが答えてくれた。ご無沙汰だったので、シスターと神父さまに怒られやしないかと苦笑いになりながら馬車を降りる。ジークとリンと私と護衛で教会の聖堂に進めば、シスター・リズとシスター・ジルの姿があった。お祈りを捧げている途中のようで、終わるまで邪魔をしないように信徒席へ腰を落とす。

 思えば教会でもいろんなことがあったけれど、今では良い思い出だろう。ステンドグラスから差し込む光が、聖堂で祈りを捧げている二人に降り注ぎ神秘的な光景になっていた。暫く待っていると、祈りを終えたようでシスター・リズが私たちの方へ振り向き、釣られてシスター・ジルもこちらへ顔を向ける。

 

 「ナイさん」

 

 「ナイちゃん、お久しぶりです」

 

 「お久しぶりです、シスター・リズ、シスター・ジル」

 

 信徒席から立ち上がり、お二人に頭を下げる。幼い頃からお世話になっているので、頭の上がらない人たちにカウントされていた。とりとめのない世間話と、語って良いと許可を得ていることを伝えれば『相変わらずですね』『無茶をしますねえ』と言葉を頂く。自分自身でも信じられないけれど、いろいろなことに巻き込まれ過ぎだと感じている。

 でも自分の身に降りかかってくるのだから、対処するしかないので割り切っておかないと辛くなるだけ。みんながいればどうにかなると考えておく方が楽である。その結果アルバトロス上層部に迷惑を掛けているけれど。

 

 「ナイさん、お礼の手紙を預かっています。最近、こちらへこられなかったので枚数が多くなっていますね」

 

 「相変わらずですねえ、黒髪の聖女さまの人気は。取って参りますので、少しお待ちを」

 

 シスター・ジルが踵を返して聖堂横の扉へと進んで行く。シスター・リズと世間話をまた交わしていると、シスター・ジルが戻ってきた。聞いた通り、いつもより手紙の枚数が多い。

 治癒院で治癒を施すと、お布施の他にもこうしてお礼の手紙を頂くことがある。文字が書ける人限定となるので、大量というわけではないが、それでも普段より多かった。検閲は教会で済ませ、問題のないものしか渡されないのでお礼を認めたものである。ありがとうございます、と手紙を受け取って教会を後にした。

 

 「聖女さま!」

 

 「ジーク兄、リン姉!」

 

 孤児院に赴くなり、子供たちに囲まれる。今日はお菓子を持ってきていなかったので、興味のない子たちは直ぐに自分たちがやりたいことをし始めたけれど。

 院長に挨拶をして、子供たちは問題ないかと聞いてみると特に大きな問題もなく経営も順調とのこと。それなら良かったと院長室を後にして、子供たちの様子を伺う。肩の上のクロに興味を示したり、ジークとリンに遊ぼうと誘う子供たち。元気が良くてよろしいと感心していると、一人の子が持っていた手紙に視線を向けた。

 

 「聖女さま、それ、なに?」

 

 「手紙だよ。一緒に見て文字を読む練習してみる?」

 

 視線を合わせて、勉強がてらに読んでみようと誘ってみる。内容は誰が読んでも問題ないものだし、教会の検閲を受けているので妙なことは書いていない。

 

 「うん!」

 

 勢いよく返事をする子に笑みを返して、長椅子に一緒に腰掛けた。何枚もある手紙の中から一枚を抜き出して、広げて子供に差し出して私は覗き込む形になる。

 

 「ゆっくりで良いから、読んでみようか」

 

 「えっと……くろかみのせいじょさま。ず、ずいぶん、と……じかんが、たちますが」

 

 子供が手紙に視線を落として、文字を読み始めた。少したどたどしくはあるが、文字を読むことができている。教えてきたことは無駄じゃなかったなと嬉しくなりながら、子供の声に耳を傾けていた。

 『治癒を受けたあの日から貴女のことが忘れられません。漆黒の髪に、僕を捉える宵闇色の美しい瞳。怪我の痛みを堪えていた僕を気遣う優しい言葉』……なんだか雲行きが怪しくないかな。これ、お礼の手紙なのかな。なんで教会の検閲を抜けたのだろうか。

 

 「あのひ、ぼくは、せいじょさまにひとめぼれしました! おつきあいすることは、かないませんが、どうかおもうことはゆるしてください!」

 

 なぜか最後の方になればなるほど、子供の声が力強いものになっていた。

 

 「げほっ!」

 

 思いもよらなかった子供の言葉にむせてしまった。今の今までお礼の手紙しか受け取ったことしかないのに、どうして最初に選んだ一通が告白紛いの手紙なのだろうか。

 そして子供にも悪いことをしてしまったような気がする。大きな子供の声に院長先生が部屋から顔を覗かせているし、他の子供たちの相手をしていたジークとリンも私に微妙な視線を向けていた。教会の検閲を抜けられたのは『お付き合いをお願いします』ではなく『想うことは許してください』と記されたことが原因か。

 

 「よ、読んでくれてありがとう。助かったよ」

 

 上擦る私の声に子供は無邪気に笑い、側で子供たちの相手をしていたジークとリンが微妙な顔をしているのだった。

 

 ◇

 

 教会で妙な手紙を読んでしまい滞在予定を短くして、そそくさと子爵邸に戻ってきた。手紙の内容を知ったリンが少々ご機嫌斜めであるが、時間が経てば機嫌は戻るはず。

 予定を切り上げて戻ってきたので子爵邸で働く方々が首を傾げているが、恋文紛いの手紙を頂いたと吹聴する気はないし、悪気があって記したものではないと分かるので誰彼に見せるつもりもなかった。午後のおやつの時間に仲間内みんなが食堂に集まり、リンが機嫌が悪いことに気付いたサフィールから飛び火して、手紙の件を話すことになった。

 

 「ナイが恋文まがいの手紙を貰うとはなあ……世も末だな」

 

 クレイグがスイートポテトを頬張りながら、私が手紙を頂いた感想を述べた。確かに私が恋文紛いの手紙を貰うとは一ミリも考えていなかった。

 美人で独身で平民の聖女さまは良く恋文を頂き、困っていた所は見たことがあるけれど。お貴族さまの愛人に、という場合もあるので、教会と聖女さまが相談した上で教会がお断りを入れるか、受け入れるか決めていた。大変だなあと他人事で済ませていたことが、まさか自分に回ってくるなんて。まあ、お付き合いをしてくださいと書かれていれば、私に渡されることはなかっただろう。

 

 「クレイグ言い過ぎだよ。自分が貰った時はどうするつもりなの?」

 

 サフィールが困ったような顔でクレイグを咎めてくれた。クレイグのいつも通りの冗談だし、サフィールも理解して咎めている。

 

 「俺が貰う訳ねえよ、サフィール。聖女じゃねえし……って、サフィール、貰ったことがあるのか?」

 

 クレイグが片眉を上げながら話を切り替えた。男の子だし、可愛い女の子からラブレターとか貰うことは憧れなのだろうか。

 

 「僕もないよ。仮の話。恋文ならジークは貰ったことあるんじゃない?」

 

 断言したサフィールがジークに会話のボールを投げた。投げられた本人は一瞬驚いた顔をしたものの、直ぐに鳴りを潜めさせいつものすまし顔になっている。

 

 「貰ったことはあるが……大体は顔か金が目的のものだ。それに恋文なら俺だけじゃなく、リンも渡されているぞ」

 

 ジークの言葉に男衆が夢も希望もないという顔になり、無口で無表情で愛想の欠片もないリンが恋文を貰っている、だと……と驚愕の表情に変わった。

 

 「貰ったことはあるけれど、迷惑なだけ」

 

 リンはむーんと微妙な雰囲気になってスイートポテトを口に運ぶと、もう一度フォークで切り分けて私の方へ差し出したので、遠慮なく一口頂いた。甘い、美味しい。

 

 「……それ、欲しい奴が聞けば憤死するんじゃ」

 

 「あまり外で言わない方が良いよ、リン」

 

 クレイグとサフィールの言葉に小さく頷く彼女。美人さんだし胸大きいし、貴族籍に入っているし、教会騎士を務めているから狙い目のようだ。リンの場合、手紙を読めば本気なのか打算があってのものなのか本能的に嗅ぎ分けてしまう。羨ましい特殊能力だけれど、リンの勘の恩恵は私も受けているので問題はないか。

 

 『人間は大変そうだねえ』

 

 クロが机の上でしみじみと呟いた。クロの前にはお皿が置いてあり、焼き芋さんが鎮座している。前脚で器用に一口サイズに割って、美味しそうに食べているから気に入ったようだ。スイートポテトはお砂糖さんが入っているので、自然の味をそのまま楽しめる焼き芋さんの方が好みなのだとか。幼竜さんもクロと一緒に頬張っているから美味しいようだ。

 

 「竜の方たちはお互いの気持ちを伝えたりしないの?」

 

 『強さによるかな。単体で子供を残せる仔は必要ないし、求愛の行動を取る雄もいれば、番だからそのままくっついちゃう仔たちもいるからねえ』

 

 前脚で器用に焼き芋さんを抱えたまま、私を見上げるクロ。可愛いなあと目を細めると、クロは尻尾を左右に振ってご機嫌な様子。

 

 「個体差が――」

 

 あるんだねえ、と口にしようとすると大きな音が鳴り、人の気配を感じた。

 

 「――ご当主さま!」

 

 家宰さまが慌てた様子で食堂に舞い込んだ。どうしたのだろうと、食べる手を止め姿勢を正して彼を見て一つ頷く。

 

 「し、子爵領の低い土地に作った小さな池に妖精がたくさん現れていると、領の代官から報告がありました! あと竜のお方が卵を産んだと……!!」

 

 「ぶへっ!」

 

 家宰さまの報告にいの一番に反応したのはクレイグだった。単純に家宰さまの報告に驚いただけかもしれないが。

 

 「クレイグ、汚いよ!」

 

 「す、すまねえ……俺たちは良いから、話の続きをしてくれ」

 

 サフィールが苦言を呈し、クレイグが家宰さまと私を見て続きを促す。子爵領の話を今の面子に聞かれても問題はなく、話の詳細を聞こうと口を開いた。

 

 「妖精さんたちが協力を願い出てくれたことは報告で知っていますが、竜の方が卵を産んだと言うのは?」

 

 妖精さんたちがビオトープの作成に力を貸してくれるようになったことは代官さまからの報告で聞いている。そのあと、ダリア姉さんとアイリス姉さんを通してお婆さまに酷いことにならないようにと釘を刺して頂いた。その効果もあってか、草花や苔の育成が少々早いくらいで他は問題なかったはずなのに、どうして竜の方がビオトープにきて卵を産み落としてしまったのでございましょうか。

 

 「溜池作成の手伝いにきてくれていた二頭の卵らしいのです……代官からは、様子を伺いにきて欲しいと要請が入っております」

 

 代官様からの報告では、ビオトープで小さな竜の方々が二頭で卵を温めているそうだ。その話を聞いたクロが嬉しそうに目を細め、幼竜さんと顔をすりすりし合っている。

 

 「分かりました、亜人連合国の代表さまに連絡を入れてから伺います。屋敷の皆さまに夕ご飯までには戻るとお伝えください」

 

 とりあえずディアンさまとベリルさまに一報を入れた方が良いだろうと、自室に戻って連絡用の魔法具に手を翳す。直ぐにダリア姉さんとアイリス姉さんの声が聞こえて、ディアンさまを呼んで欲しいとお願いすれば明らかに気落ちした声になった。数瞬待っていると、ディアンさまの低い声が聞こえ説明すれば『めでたいな』と悠長な言葉を頂いたのだった。兎にも角にも子爵領に一緒にきて欲しいとお願いすると、快諾を頂けて安堵する。

 

 「ロゼさん、申し訳ありませんが、みんなを子爵領まで送ってください」

 

 『マスターのお願いなら!』

 

 ロゼさんにも快諾を頂き、ジークとリン、領事館から駆けつけてくれたディアンさまとベリルさま、何故かダリア姉さんとアイリス姉さんも一緒に子爵領まできていた。

 亜人連合国の皆さまは子爵領に赴く機会が少なく、周りをきょろきょろと珍しそうに見ている。お屋敷は工事中なので案内できないことに頭を下げ、兎にも角にもビオトープに行ってみようとみんなで歩いて行く。

 

 『卵、できちゃった』

 

 『できたのー!』

 

 こう、弾みで産んでしまったというような気軽な声だった。ビオトープの浅い水辺の端で二頭の小さな竜さんが仲良さそうに卵を温めていたのだ。

 水辺には妖精さんたちが沢山飛んでおり、産んだ卵を突っついてみたり、蹴りを入れてみたりと忙しい。水草を持って一生懸命植えている妖精さんもいれば、遊んでいる妖精さんもいる。確かに数が多いなあと目を細め、竜さんたちの方へと視線を向けた。

 

 「……何故、ここで産んだのですか?」

 

 愚問のような気もするが、きちんと話を聞いておかないと妙な方向へと進みかねない。ディアンさまたちは嬉しそうに卵さんを眺めているけれど、これからも増えてしまうのだろうか。

 

 『魔素が多いし、自然もあるから』

 

 『いつも一緒にいて、この仔となら良いかなって』

 

 そんな気軽さで産めてしまうのかと頭を抱えそうになる。

 

 「えっと……ここは人間が住んでいる場所で、もしかしたら卵を狙って盗りにくる者もいるかもしれませんし、領に住まう方々が興味本位で覗きにくる場合もあるかと……」

 

 一番の心配は窃盗である。冒険者が依頼の出ていない卵を盗ることはないだろうけれど、好事家が裏ルートで雇った人を差し向けるかもしれない。そういう心配事がなければ諸手を上げて喜ぶ案件である。

 

 『?』

 

 『ここに住む人たちみんな良い人だよー。仲良しさんだもん』

 

 私に顔を向けてこてんこてんと首を傾げる二頭の竜さんたち。可愛いけれど、ちょっと無邪気ではないだろうか。

 

 「危ないことがあれば、辺境伯領の大木の下へ移動して頂くこともあり得るかと」

 

 『あっちー?』

 

 『大きな竜がいるからね……』

 

 辺境伯領の大木の下は大きな竜の方々が先に陣取っているから、小さい竜の皆さまはこちらを選んだということか。なんだかワイバーンさんたちと理由が似ていて納得してしまいそうになる。彼らは自然に生きる生き物だから、弱肉強食の意識が強いのだろう。どうしましょうかとディアンさまに顔を向けた。

 

 「同族が増えることは喜ばしいが、彼女に迷惑を掛けるのは良くない。危険が迫れば辺境伯領か亜人連合国で卵を孵そう。それで良いか?」

 

 ディアンさまが二頭の竜さんたちに優しい声で問いかけた。

 

 『代表が言うならー!』

 

 『はーい』

 

 元気良く返事をする二頭の竜さんたちに、簡易的な防御魔術を張っておくこと、危ない目にあいそうなら直ぐに逃げることをお願いして子爵領を後にするのだった。




作業をしていたら、ハーメルンの更新を忘れておりました(汗 明日(10/25)も更新すると思います!
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