魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――無理だ。
わたしの政界に入りたいという願いを聞いた、貧裕会の皆さまが口にした言葉でした。確かに無理があるのでしょうが、議員となる資格は十八歳を超えれば誰でも得られます。ルグレさんを止めるためには……貧民の皆さまの現状を変えるには行動に移すしかありません。
今までにいなかった貧民の声を代弁できる人を生み出さなければ。上手くいけばルグレさんと一緒に政治の場で訴えることだってできはずです。
「変わる訳がねえよ。俺たち貧民はずっと貧民のままだ。百年先でも富める者が俺たちを見下しせせら笑っているのだろうよ」
一人の男性が大きな声を上げて、わたしを厳しい視線で射抜きました。きっと彼は今まで理不尽なことに沢山向き合ってきたのでしょう。その思いが握りしめた拳に現れていました。
「待ってください! 変えるためにこの会が在るのではないのですか?」
理不尽なことに沢山合ったと悲観し現状は変わらない、と前を向けなくなることとは別です。より多くの方々が現状を変えたいと願えば、必ず共和国の差別意識を変えることができるはずです。そして貧裕会の皆さまは、貧民の方々の意識を変えるため種を撒き続けているのですから。
「確かにな。けどよ、俺はプリエールみたいに頭が良くねえ。学ぶ機会も少なくて、碌な仕事に就けやしない。どうやって現状を変えるんだよ!」
難しい問題であるとは考えます。だからこそもっと多くの方々が学びの機会を得るために、仕事の幅が広がるようにと奔走するために政治家になるのです。
「一気に変えることは無理です。わたしが政治家になったとしても、変わるのは何十年も先のことになるかと……でも今いる場所から動かなければ、なにも変わらないのですよ? わたしたちのあとに続く方が希望を持てるようにしなければ!」
わたしもルグレさんが危うい発言をしなければ、学園で学んで卒業し、なにかしらの仕事に就いて……という普通の道を選んでいたでしょう。
ルグレさんが黒髪黒目のお方に会い、考えを曲げて生き急いでいる姿を見ていると、どうにかしなければという意志が強く芽生えます。同時に現状のままでは駄目だと悟りました。
そして誰かに任せているだけでは、なにも得られないと。ルグレさんは優しい方です。貧民であるわたしに声を掛けてくれ、人として扱って頂き、他愛のない話を何時間でも喋ることができる方。彼が変わってしまった理由は良く分かりませんが、話せばきっと黒髪黒目のお方を利用した意識改革は無茶だと理解してくださるはず。
「っ!」
男性の握り込んでいた拳にさらに力が入り、腕が引き絞られました。あ、これは……殴られるなあと、どこか他人事のようにゆっくりと流れる光景を見ているだけしかできません。
「はいはい! 熱くなるのは良いけれど、弁で勝てないからって女の子に手を上げようとするのは最低じゃないか」
手を叩いて『ぱん!』と大きく音を鳴らしたまとめ役の女性。男性は、彼女の言葉にぐっと歯を食いしばって引き絞った腕をだらんと下げたのです。
「で、プリエール。どうして急に政治屋になりたい、だなんて言い出したんだい?」
彼女がわたしと視線を合わせて、話してみなさいと強く訴えてきます。
「それは……」
相談しても良いのでしょうか。ルグレさんの件は貧裕会の皆さまには関係のないことです。合わせている視線を床へ逸らすと、彼女は苦笑いを浮かべました。
「あのねえ、プリエール。黙っていちゃ分かるものも分かりゃしない。ルグレって子が切っ掛けだろうけど、他にもなにかあったんじゃないのかい?」
ルグレさんが暴走し始めていることを先の説明で会の皆さんは知ってはいますが、全てを話した訳ではありません。全てを打ち明けるか迷い、協力して頂くなら隠し事は駄目だと気が付いて顔を上げます。
「……黒髪黒目のお方にお会いしました」
伝える気はなかったのですが、言わなければ始まらないと会の皆さまが知ることとなりました。共和国において全ての人々が黒髪黒目のお方を崇めていると言って良いものです。
信仰の厚さは個人によりますが、黒髪黒目のお方は何百年も御生れなされず、存在を否定する方も出始めていました。そこにアルバトロス王国に住まう方がいると知れば、話が大きくなっていく可能性がありました。
ミナーヴァ子爵さまは黒髪黒目であることを誇ることもなく、ただ黒髪黒目という特徴を持って産まれただけと認識しているようでした。そんな方が共和国の皆さまから、崇められればどう考えるかなんて、相手の立場になって考えれば直ぐに分かります。
崇められていることが信じられず『皆、自決せよ!』と冗談で言葉を発すれば、共和国では疑いもなく死を選ぶ方がいてもおかしくはないのです。だから……ルグレさんとミナ―ヴァ子爵さまとの再会は防がなければ。
「え?」
「はっ!?」
「……ふむ」
まとめ役の女性、わたしに殴りかかろうとした男性と先生が声を上げ、他の皆さまもぴたりと身体を動かさなくなった数瞬後に。
――えええええええええええええええええええええええええ!!
地下室に大きな声が響きました。
「な、ちょ、え? プリエール本当なのかい!?」
「ま、マジなのか!? 黒髪黒目のお方を見たのか!?」
「……」
先生以外、目を丸くしてわたしに迫りながら問いかけます。嘘は吐いていませんし、お会いしたのも事実です。ルグレさんとアガレス帝国に赴いて黒髪黒目のお方と会うことは叶いませんでした。
皆さん、わたしが黒髪黒目のお方に会えなかったことに気落ちしていましたから、別の方に会えたことを凄く驚いています。この世界に二人も黒髪黒目のお方が存在していたなんて、と。
「わたしが飼っている鸚鵡のソルくんと会いたいと相談され、面会が叶いました。夏休みが終わる直前に国境の街へ赴いたのはそのためです」
面会が叶わない場合もあるだろうと、詳しい内容は伏せていました。ミナーヴァ子爵さまとお会いしてから、この地下室に赴いたのは今日となるので皆さんは初めて知る事実です。
「首都に住む貧民が外に出ることはないから、凄く不思議だったんだけれど……そういうことかい。で、どんな方だったの、プリエール?」
「申し訳ありません。共和国政府から多くを語るべきではないと言われております」
まとめ役の女性が納得しつつ、疑問も投げてきました。ただわたしは政府の方から誰彼に黒髪黒目のお方に会ったと言わないようにと言い含められています。もちろん判断はわたしがして良いと告げられていますが、会えたことを自慢するのは違うと考え、父と母と先生にしか伝えていませんでした。
「む。そっか、そりゃ仕方ないね」
彼女がふうと肩を落として力を抜きました。ごめんなさい、多くを語れないのです。皆さんのことは信たる仲間ですが、黒髪黒目のお方の話となれば政治を飛び越えて信仰の話となってしまいますから……。
「な、なんだよ、ソレ! 俺らには黒髪黒目のお方の人となりを知らなくて良いと政府は考えているのか!?」
男性は肩を上げ、顔を赤く染めてわたしに強く言葉をぶつけます。
「まあ、待ちな。黒髪黒目のお方が望んでいることかもしれないから、あまりプリエールを責めるんじゃないよ」
まとめ役の女性はミナーヴァ子爵さまの立場になって考えてくれたようです。諫められる方がいて良かったです。
「……女神さまの生まれ変わりだ……きっと背が高くて美しい方に違いない」
決めつけてしまうのは恐ろしいことだと、男性の言葉でハッとしてしまいました。もし彼がミナーヴァ子爵さまとお会いすれば、気落ちしてしまうのでしょうか。
内政干渉をする気はないとはっきりと仰っていたので可能性は凄く低いと思いますが、強い憧れが壊れたとき彼は黒髪黒目のお方に八つ当たりしてしまいそうで心配です。
「な、なあ? 黒髪黒目のお方に俺たちの現状を知って貰えれば状況が変わるんじゃねえか?」
「それはあり得ません。内政干渉になるとはっきりと申されましたから」
これだけは伝えておかなければと、少し語気を強めて言葉を紡ぎました。わたしの言葉になにか言いたげな男性ですが、黒髪黒目のお方の言葉と理解して、それ以上はなにも言いません。
「共和国に産まれてくれれば望みはあったのだろうけど……他国に産まれちゃあ、そう言われても仕方ないのか。先生、どう考えるんだい?」
まとめ役の女性が小さく息を吐いて、先生に視線を向けました。本当に共和国に産まれてくださればと思いますが、現実はそうならなかった。そうならなかったのです。だから自分たちで道を切り拓くしかないのでしょう。
「黒髪黒目のお方がいたという事実だけで十分ではありませんか。そして我々は我々のやるべきことをやるしかありませんよ。プリエールさんは政治の道へ進もうとされております。ならば、彼女の補助を確りと勤め上げねばならないでしょう」
会のメンバーが確りと頷いてくれます。学園を卒業すると十八歳を迎えます。職歴もなにもないわたしが政治の道を目指すなんて無謀かもしれませんが、でも……ルグレさんを止めるためには……同じ位置に立たなければ戦えないのです。
そして黒髪黒目のお方を頼らず、わたしたちの力でけで少しでも差別を解消してみせると、みんなで意気込むのでした。
数日後、ルグレさんが学園へ休学届を出したことをまだ知らないまま。
◇
なにか最近、雲行きが怪しい気がする。
そう感じてしまうのは、共和国首都にある議事堂近くにある政府高官たちが働く場所に一人の若者がきたことが原因だろうか。
次期大統領に一番近い男と言われている老齢な男の側に、一人息子であるルグレという少年が侍り始め少し官邸内の雰囲気が変わったのだ。
何故と問われると説明し辛いのだが、次期大統領に一番近い男と言われる彼の態度が少々妙である。以前は確りとした受け答えをしていたし、仕事を溜めることもなかった。最近になって仕事を捌いていないことが多くなり、視線をある一点に定めたままぼーっとしていることがある。
いつからそうなったと記憶を遡れば、数日前に彼の息子が現れた時からだ。彼の男の執務室の前、私は目の前の扉をノックする前に思い止まった。
「大丈夫なのか……?」
自然と口から声が漏れて、私の隣に立つ部下が懐疑な顔を浮かべる。済まないと、私が告げると彼は片眉を上げた。
「どういたしました?」
「いや……なあ、少し話を聞いてくれるか」
扉をノックしようとした腕を下げ彼へと身体を向けて、話をしたいと切り出した。部屋の中の人物に会おうとしたのは、最近仕事が滞っているので催促のお伺いを立てるためだった。少し後回しにしても問題はなく、とりあえず最近私が次期大統領候補に抱いている不安を聞いて貰った方が良いだろうと話を切り出した。
「ええ、構いませんよ」
部下は快く頷いてくれた。もしかすれば件の人物の変化を私以外にも感じ取っている者がいるかもしれない。私一人で悩むよりも、多くの者から知恵を借りた方が得策だと、館内の休憩所に向かうのだった。
「それで改まってどうしました?」
珈琲を片手に持ち、部下は小さく首を傾げた。スーツ姿で男ばかりの場所ではあるが、官僚である私たちの憩いの場であり、情報収集の場でもある。他にも休憩に立ち寄った同僚や上司に部下が会話に花を咲かせていた。共和国の発展を願い、より良き未来を目指そうと志を同じくする同志たち。
「最近、彼のお方の様子が少しおかしくないか? 前まできっちりと仕事を終えていた彼が、この数日滞り気味になっている。歳の所為とも言えてしまうが、仕事量があんなに落ちるものだろうか」
「確かに彼の様子に少々変化があったように感じます。あまり言いたくはありませんが、息子さんを後継者と言って執務室に招いた辺りでしょうか」
部下も次期大統領候補の変化を感じ取っていたようだ。それもやはり、息子のルグレを連れてきた時から変化があったと感じている。私の気の所為ではなかったのだと安堵をするも、問題が浮き彫りになってしまった。彼や彼の息子が共和国に反するならば、私たちは止めなければならない。
だが、雲行きが怪しいと感じているだけで確たる証拠もなく、こうして部下と様子が変だと相談するくらいである。もっと大きく出ててくれれば分かり易いが、大きく行動を取られても困ってしまう。
「肩に黒いドラゴンを乗せているしな……ドラゴンなんてどこから連れてきたんだ……」
そう、東大陸でドラゴンを見たことはないし、ドラゴンなんて滅んだというのが通説だった。共和国の通説を覆したのは、数週間前に西大陸のアルバトロス王国から参られた黒髪黒目のお方のミナーヴァ子爵さまである。
流石、女神さまの生まれ変わりだと黒髪黒目のお方と出会った者は口を揃えて言い、貧民のプリエールと呼ばれる少女と対等に接していた姿に痛く感動したようだ。私も黒髪黒目のお方に一目会いたいが、おそらく運が向いておらず、共和国の辺境の街へ赴くことはなかった。
「ドラゴンは西大陸からやってこられたのでしょうか。そしてルグレ氏を気に入った、と」
そういえば西大陸に住まうドラゴンの飛行許可をミナーヴァ子爵さまは願い出ておられたな。書記官が提出した議事録を端から端まで目を通しているので、先の会談でのことを見逃していることはないはず。
「本当にドラゴンがただの人間に懐くのか疑問だ。黒髪黒目のお方であるなら納得できるが……」
ただの人間にドラゴンが懐くのだろうか。それとも、小さなドラゴンだから少年が力づくで従えたのだろうか。疑問が際限なく浮かんでくる。
「西大陸のアルバトロス王国と亜人連合国は、ドラゴンや魔獣に魔物が暴れて共和国だけで対処できない事態に陥り、要請があったなら討伐に協力すると申し出てくれていますね」
「ああ。だが国と国とのやり取りだ。当然タダという訳ではないし、見返りを求めるとはっきりと伝えられているな」
今回の会談で共和国は新たに亜人連合国との繋がりを得て、アルバトロス王国とも以前より強い繋がりを持った。ミナーヴァ子爵さまはアガレス帝国経由で共和国入りを果たしたため、帝国との繋がりも太くなっている。
こう考えると良いこと尽くめなのだが、ミナーヴァ子爵さまとプリエールという少女との会談にルグレという少年がしゃしゃり出たのは解せない。一応、謹慎処分が下っているが自宅謹慎であったし、官邸に姿を現したのは反省なんて全くしていないのではと感じてしまう。むしろ嵐を呼び起こすのではと思えてしまうのだ。
「亜人連合国に小さな黒いドラゴンについて、問い合わせをしてみるのも良いのかもしれませんね。確かドラゴンが多く住まう亜人連合国では管理もできていると聞き及んでいます」
野良のドラゴンが暴れていれば対処することも可能であるし、説得が可能であるなら討伐せず亜人連合国が引き取ると聞いている。しかも引き取るドラゴンが被害を及ぼした場合、ある程度の補償をしてくれるとか。
凄く良すぎる条件で少々怖いくらいだが、ドラゴンの数が減り増やさなければならないので、その程度ならば構わないとのことだ。一応、増加傾向にあるので未来は明るいらしいのだが、共和国に住まう者にとって西の状況を詳しく知る者が少なく確認のしようがない。問い合わせてみても良いのでは、と部下が首を小さく傾げた。
「……なるほど。確かに今取れる一番の最善策かもしれないな。大統領にお伺いを立ててみよう」
一人で悶々と考え込むよりも、雑談をして解決策を生み出すのも悪くはない。部下に礼を告げ、大統領の執務室に赴くことを決意する。そして先ずは次期大統領候補の下へ行こうと席を立ち、部下と共に歩き始めた。
「失礼致します」
名を名乗り、次期大統領候補の執務室へ部下と共に足を踏み入れる。
「本日の書類を引き取りに参りました」
執務机の前に立ち、目の前に座す男と視線を合わせる。以前は眼光鋭い彼の瞳であったが、今はそれを感じられない。そして椅子に座す彼の少し後ろには、小さな竜と共に少年が控え不敵な笑みを浮かべている。
まだ学園を卒業していない未成年だというのに堂々たる態度には感心する。そして黒髪黒目のお方に突っかかったことも、別の意味で感心していた。
「……ああ、そこに置いてある。今日の分はそれで全部だ。持って行ってくれ」
「承知致しました」
以前であれば間を置かずに言葉を発していたのに。どうして少し間が空いてしまうのか。引退か大統領の座に就くかの岐路に立たされている彼であるが、耄碌するにはまだ早いだろうに。違和感を感じつつ、私と部下はいつも通りに直ぐに部屋から立ち去った。そして顔を見合わせる。
「やはり以前とは変わってしまったような気がします」
「だな。早く手を打った方が良いだろう。大統領に私が直接話そう」
大統領選は二年後だ。野党候補もいるが、我々の政党が無難に勝ち、現大統領が二期目を務めるか、新たな大統領が誕生するかのどちらかである。やるべきことが沢山あるなと頭を抱え、今日も自宅に帰れそうにないと部下と共に笑みを浮かべた。
「大統領。少々内密な話が……」
数時間後、大統領の執務室へと赴いて共和国の頂点に立つ人物と相対する。五十代中頃の偉丈夫であった。
「どうした? お前が深刻な顔を浮かべる時は碌なことがないと私の頭の中で警鐘が鳴っているのだがな」
執務机の前で手を組んで不敵に笑う大統領。どうにも自分が抱えている不安が顔に出ていたようだ。感情が外に漏れないようにと訓練しているのに、大統領は目敏く見つけたようで小さく息が漏れる。
ただ、話しやすい状況に持って行ってくれたことには感謝しなければならないと、部下と話していたことを全て彼に語る。
「……なるほどな。後継者のルグレ、だったか。以前、会ったことがあるが、どうにも周りの人間を確りと見ていないような気がする。もう一度会ってみるのも面白いかもしれないが……今は控えておこう」
そうして大統領は決断してくれた。亜人連合国へ漆黒の小さな竜の問い合わせ、次期大統領候補と息子のルグレとその周辺に密偵を付けること。プリエールという少女と接触して事の次第を伝えることも条件に付けた。何故、と疑問が走る。プリエールという少女はただの貧民であり、言いたくないが共和国において価値は低い。
「妙な顔になっているな」
「あ、申し訳ありません」
また顔に出ていたようだ。気が緩んでいるのだろうかと、小さく首を振る。
「どうした、言ってみろ」
「何故、プリエールと呼ばれる少女に今回の件を?」
「よく考えてみろ。彼女は黒髪黒目のお方と面会した豪運の持ち主であり、伝手を持っている。我々はアルバトロス王国との伝手を持ったが、彼女は黒髪黒目のお方との伝手を直接持っているのだよ」
そして学園に通い、ルグレと呼ばれる少年と仲が良かったそうだ。ああ……確か鸚鵡を買い与えた者として会談に同行したのだった。そしてぶち壊しているが。
「アルバトロス王国からはどうして黒髪黒目であるミナーヴァ子爵が共和国民に漏れたと抗議の書状も届いている」
我々は万全であったはずだ。だというのにどこからか黒髪黒目のお方が共和国へ赴いていると情報が漏れていた。まさか、少年が情報を漏らした……のか……。
「黒髪黒目のお方に危険が迫るのであれば、彼女を頼り知らせることもできよう。もちろんアルバトロス王国にもな……我々はプリエールという少女の価値を見誤ってはならない」
もちろん黒髪黒目のお方が所属するアルバトロス王国にも知らせるが、一番早く伝わるのは直接伝手を持っている彼女に限ると大統領は仰った。そうしてプリエールという貧民の少女と共和国政府は繋がりを持つことになり、波乱の道を歩むことになるのだが……それはまだ少し先の話である。
「……私も黒髪黒目のお方に一目お会いしたかった」
部屋を出て行く私の後ろ姿を眺めながら、ぼそりと呟いた大統領の言葉が耳に届くことはなかった。