魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
わたしが政治家の道を目指したいと貧裕会の皆さまに告げて、一週間が経とうとしています。共和国は十八歳から参政権を認められ、それと同時に議員への立候補も可能です。
学園卒業と同時に十八歳を迎えるので、皆さんからは卒業してからでも遅くはないのだからと説得されてしまいました。両親にも話をしましたが、興味はないようで好きにしなさいという感じです。
「わたしには持ち得るものがありません。なにか良い方法があると良いのですが……」
自宅の部屋で鸚鵡のソルくんと番の奥さんを見ながら、ぼそりと呟きました。一週間前、政治家を目指すと宣言しましたが実の所、なにをやるべきか、どうすれば良いのかを理解していません。
選挙に立候補して議員になったとして、政党に入らなければ意味がないとも聞きます。民主主義は多数決です。議席数の多い政党が共和国の実権を握ることになり、法案を通すのも有利なのだとか。
伝手を持たないわたしが、最大政党に入ることは難しいでしょうし、そもそもルグレさんのお父さまが最大政党の一員です。彼のお父さまを支持する方々がルグレさんを認めれば、あっさりと票が集まるのでしょう。
『ドウシタ、ニンゲン?』
ソルくんの奥さんが首を傾げながら問いかけます。ソルくんは『遅刻するぞー』という台詞は凄く流暢に喋ることができますが、それ以外の言葉を発することはありません。
ただわたしが喋る内容はなんとなく理解しているようで、嘴で合図をくれたり、一鳴きして訴えてくれます。奥さんはカタコトですが、ソルくんより喋ることができるので偶にこうしてお喋りをしています。と言っても鸚鵡さんなので、完全に人間の言葉を理解していないはずです。
「少し、考えたいことがありまして」
ソルくんの奥さんは右へ左へと頭を動かして、わたしと視線を合わせました。
『ニンゲン、バカ。カンガエテモ、イミ、ナイ』
「あはは……そうかもしれませんが、沢山考えて、正しい道を選ばなければきっと後悔だけが残りますから」
ソルくんの奥さんは人間があまり好きではないのか、割と厳しい言葉をくれます。でも今のわたしには慰めの言葉よりも、こうして厳しい声を掛けてくれる方が良いのかもしれません。
『?』
流石に難しかったようで、ソルくんの奥さんは頭の上に疑問符を浮かべて、隣にいるソルくんの毛繕いを嘴で始めました。仲が良くて羨ましい限りです。わたしはきっと、もうルグレさんとはソルくんたちのように並ぶことはないのでしょう。
正直、なにが正しいのか、なにが間違いなのかは難しくて分からないと思います。でも時間が経てばわたしか、わたし以外の誰かが答えを出してくれるはず。貧裕会からは貧民の位置付け改善を主題に掲げる政党の方を紹介してくれるそうです。上手くいけば、その政党から支援を頂けると。
功績も、知名度も持っていないわたしを支持してくれることは本当にありがたいと思います。
ただわたしは、黒髪黒目のお方と会ったという事実があるので、ミナーヴァ子爵さまとの縁を持ちたいと考えているのかもしれません。本当はこんなことをしたくはないのですが、なにも持ちえないわたしの唯一の武器となるでしょう。
でもミナーヴァ子爵さまのお名前をわたしの口から出してはならないですし、もし相手から紹介して欲しいと条件を付けられたなら話を断るつもりです。
お互いに利用しているようで、少し嫌になってしまいますが、今の状況を考えると綺麗事は言っていられないのでしょう。
ふいに部屋の扉をノックする音が聞こえました。この音の鳴らし方は母のようです。どうぞ、と返事をすると扉が開き母が立っていました。
「プリエール、お客さんよ」
「お客さん?」
一体誰でしょうか。学園には友人と呼べる方はルグレさんくらいでした。貧裕会の皆さまはわたしの家に寄ることはありません。他の交友関係は幼い頃からの友達なので、母は顔も名前も知っているため名前を告げないのはあり得ません。
「ええ。貴女、少し前から大丈夫なの? ……お金が掛かることはしないで頂戴ね。ただでさえ鳥に餌なんてあげなければならないのだし……」
父も母も貧民ゆえにお金の掛かることを嫌います。共和国政府が政策として執り行っていた、優遇制度を知らなければわたしは学園に通うことはないまま働きに出ていたでしょう。
学がなければ肉体労働や単純作業に就くしかありません。父も母も若い頃はそれで良かったのですが、長年無理をしたせいで働きに出ることが少なくなりました。だからお金を消費する行動には凄く敏感になっています。貧民だから仕方ないと父も母も諦めており、先の見えない未来を憂いています。
「お母さん……ソルくんたちの餌代は大丈夫だから心配しないで。餌を融通してくれる方がいるから。あ、で、お客さんって誰なのかな?」
ソルくんたちの餌代は共和国政府の方々が出して頂くことになりました。黒髪黒目のお方であるミナーヴァ子爵さまも援助すると申し出てくださったのですが、鸚鵡の餌代くらい共和国が出せますと政府高官の皆さまが子爵さまを押し切りました。
そしてミナーヴァ子爵さまはソルくんと奥さんのために南の島から、定期的に果物を送ってくださるそうです。凄く輸送費が掛かりそうだからと辞退を申し出れば、他にも島出身の鸚鵡さんがいるかもしれないから、見つけた時は南の島産の果物を渡して欲しいと逆にお願いされました。
「これを渡されたのだけれど……読めないから……」
母が差し出したものは、一枚の名刺でした。白地の上にシンプルに名前と所属省が書かれたものです。どうしてそのような方がわたしを訪ねてきたのだろうと息を呑みました。とりあえず、お客さまを待たせるわけにはいかないと、部屋を出て玄関へと進みます。
「君がプリエールさんだね?」
「はい。プリエールと申します」
質の良いスーツに身を包んだ男性が被っていた帽子を脱ぎ、胸に当ててわたしの名を呼びました。わたしも失礼のないようにと小さく頭をさげると、彼も自己紹介をしてくれました。
「ご両親にも同席して頂き、私の話を聞いて頂きたいのだが……時間はあるだろうか?」
「……それは」
わたしの後ろに控えていた母に顔を向けると、困った顔を浮かべて父の下へと向かいました。暫く待っていると、父と共に玄関先に戻ってきました。
「小汚い所ですが、中へどうぞ」
父と母は政府の方を家の中へと招きます。我が家にはリビングはありますが、来客室なんてものはありません。お客さんの応対はリビングとなりました。
「アポイントも取らず急に赴いて申し訳ない。ただご息女と話したいことがあり、訪問させて頂いた次第です」
政府の方は貧民のわたしたちを見下すことなく丁寧に接してくれています。父と母へ顔を向け今日家に赴いた理由を述べていますが、両親はただただ緊張している様子。大丈夫かと心配になりますが、政府の方は父と母にも話を通さなければならないと申していたので、二人に下がって欲しいとは言えませんでした。
「は、はあ。娘がなにか問題でも起こしましたか?」
「まさか学園でご迷惑を掛けるようなことを?」
「いえ、その点に関してなにも問題はありません。本日お伺いさせて頂いたのはルグレ・――の最近の動向を詳しく知りたかったのです。ご息女は彼と仲が良かった」
父と母に視線を向けていた彼はわたしに向き直りました。
「君は彼とアガレス帝国に向かい黒髪黒目のお方に会えないまま戻ってきたね。そこから君が飼っている鸚鵡の話を聞いたアルバトロス王国のミナーヴァ子爵が会いたいと申し出て、お会いすることになった」
なにも間違ってはいないのでわたしは一つ頷きました。両親にはアガレス帝国に向かうことも、ミナーヴァ子爵さまにお会いすることも打ち明けています。黒髪黒目のお方に会うためか快諾してくれました。ただお金が掛かることはしないでくれと、困った顔を浮かべていましたが。
それからルグレさんの様子が変わったことに言及し事情を知らないかと問われ、先日ルグレさんと再会した日のことをお伝えしました。
「なっ! 魔術を覚えた、と?」
「はい」
驚く顔をした政府高官の方に安堵の息を吐きます。目の前の彼が共和国政府内でどの立ち位置にいらっしゃるのかは分かりませんが、これで少しでもルグレさんの暴走を止められるのならば、彼のことを話した価値はあります。
貧裕会の皆さまにもお話しましたが結局なにも手を打てないままでしたし、政界に入ると意気込んでいたルグレさんを止めるには、わたしも政界に足を踏み入れるしか方法が浮かびませんでしたから。差別をなくすという目的は一緒なのに、どうして道を違えてしまったのでしょうか。
「プリエールさん。事態は不味い状況にある。どうか我々に力を貸してくれないだろうか?」
「もちろんです」
真剣な顔で問いかける彼に、わたしは直ぐに同意しました。そうして彼からルグレさんの最近の様子を聞くことができました。ルグレさんは凄く危険な橋を渡ろうとしていると、意見が合致したのです。
◇
――人前に立つことに慣れてきました。
学園が終わった放課後、わたしは、通りの一角で台の上に立って声を張り上げています。周りには貧裕会の皆さまと少し前にお会いした政府高官の警備を務める方々がいらっしゃり、わたしに危険が及ばないようにと気を張っておりました。
どうしてわたしが街頭で演説を行っているかと言うと……ルグレさんの行動をお互いに共有し、協力関係となったことを切っ掛けとなります。
『初めまして、プリエールさん』
二週間ほど前に政府高官の方が家に訪れ、そのまま案内された先は大統領の私邸でした。執務机に座す方は柔らかく笑みを浮かべていますが、眼光鋭く覇気が凄く漏れ出ています。
『え……え?』
そうです。目の前のお方は現役大統領でした。驚きで言葉が出ないわたしに、彼は組んでいた手を解いてゆっくりと立ち上がりました。
『そう、驚かないでくれ。我々が協力関係にあるのならば、年齢、立場は関係なく同等だろう?』
私邸に招かれるなんてあり得ないことですが、目の覚めない現実にわたしの周りの環境がどんどんと変わっていることを自覚します。
大統領は、次期大統領候補であるルグレさんのお父さまとは同じ政党に所属しておりますが、派閥が違う故に『
一生飲むことがなさそうな紅茶を頂きながら、最近のことを大統領に告げました。貧裕会の皆さまと先生のことを話すと、先生のことを知っていると仰いました。一瞬、先生から光を奪った方だろうかと疑いの念を持ちましたが、大学時代の無二の友人で、大統領は政治家の道へ進み、先生は医者の道へと進んだそうです。先生の目が見えなくなったことは知らず、大統領は先生の現状に嘆いておられました。
『君は政治家になりたいのか?』
『はい。ルグレさんは直ぐにでも差別を解消するべきと仰いますが……わたしは人々の考えを直ぐに解消できるとは思えません。貧裕会の皆さまが撒いた種と差別をなくしたいと訴えている方々が撒いた種にわたしは水を注ぎたいのです』
といっても具体策は殆ど浮かんでいなくて、政治家になるというぼんやりとしたものしか浮かんでいません。でも、大統領との面会を切っ掛けに、良い風が吹いている気がします。
そうして大統領や彼の周りの方々が考えたことは、次期大統領候補とルグレさんに対抗できるように選挙戦までわたしを育てるというものでした。学園は必ず卒業をとのことでしたので、お休みをせず毎日登校をしております。
放課後は今のように街頭で演説を行い、わたしの顔を覚えて貰い、それが終われば政治について学ぶことになっていました。お勉強自体は苦ではありませんが、人前に立つことは慣れてきたとはいえ、少々苦手です。好奇の目に晒されていることが直接分かりますし、罵倒を投げてくる方もおられます。そういう時は周りで警護に就いている方々が、やんわりと説得して下がって頂くようにお願いしていました。
「わたしは貧民です。多くの方から『汚い貧民』と蔑まされてきました。父と母から昔の話を聞くと、今は状況が改善され、殴られることはなくなり罵られるくらいだからマシだと仰います――」
――確かに富める方と貧民との扱いの差は改善されているのでしょう。しかしながら貧しい方々の環境が大きく変わったとは言い難いのです。学べる機会が少ないことは、将来進む道を狭めてしまいましょう。
だからわたしは国政の場に立ち、貧しい方々の選べる道を増やしたい。進める道が、選べる道が多くなるのであれば貧しい生活から抜け出せる可能性があります。法案を通して、貧民の方々が学べるようになれば未来は明るくなります。
今はまだ小さな芽でも、五年先、十年先を見据えればきっと大きな花を咲かせることになるでしょう。そのためには皆さまの力が必要なのです――。
「――どうかわたしを政界の道へ進ませて頂きませんか?」
演説が上手くいっているのか……最初は手応えなんてありませんでした。誰も立ち止まらず聞いてもくれない。でも毎日同じ場所、同じ時間で演説を繰り返していると、次第に耳を傾けてくれ、最後には拍手をくれる方もいるのです。
その中には富める方も貧しい方もいました。現状をおかしいと感じいる方々がわたしの言葉を聞き届けてくれたのです! 凄く小さな一歩なのかもしれませが、なによりも嬉しいことでした。
「さ、プリエール。演説は終わったし移動しようか」
警備に就いてくれていた、貧裕会のまとめ役である女性がにかっと笑って私の下へときました。
「はい!」
「無理していないかい? 最近のアンタは忙しすぎやしないか? 偶には休んだって良いんだよ?」
確かに忙しいですが、わたしたちの未来のためと思えば疲れなんて感じている暇はありません。
「大丈夫です。最近はわたしの話を聞いてくださる方が増えていますし、この後のお勉強会も楽しいですよ。一緒に学びませんか?」
「プリエール、無茶をいわないでおくれ。アンタが学んでいることはかなり高い知識がないと理解がおっつかないんだよ。ああ、でも先生からちょっとした計算や共和国の昔の話を聞いているんだ。確かに知識が増えることは面白いねえ」
貧裕会の皆さまも刺激を受けたのかどうかは分かりませんが、隙間時間に勉強会を開いて文字の読み書きを学んだり、歴史、文化に政治のことを学んでいるそうです。わたしが参加すると教える側に回ってしまうからと言われ、どのような感じで開かれているのか分かりませんが、皆さまの心に熱が灯り始めている気がしました。
「ゆっくりでも良いと思います! わたしも皆さんに負けないように頑張りますね!」
なにもかも諦めている父と母の姿を見てきました。でもこうして前を向き、環境を、境遇を変えようと試みる方はいるのです。だからわたしはそんな方々の道を切り拓きたい。
「全く。プリエールの真っ直ぐさは誰にも真似できやしないよ」
ふっと笑ったまとめ役の女性の腕がわたしの肩に回りました。お互いに顔を見合わせたその時のことです。
「プリエール……」
「……ルグレ、さん」
わたしの名前を呼ぶ声が聞こえ振り返ると、学園を休学しているルグレさんがスーツ姿で立っているのでした。肩には小さな竜を乗せて……。
◇
プリエールは街中で演説なんてしているのだろう。内容を聞くと優しい彼女らしいものだった。曰くゆっくりで良いから差別をなくしたい。そのためには学ぶ機会を得ることだと主張している。
学を身に着け差別されないなら誰も苦労はしない。だったら黒髪黒目の言葉を利用し、洗脳でもした方が早いではないか。プリエールは俺の側にいれば、それで幸せになれるのに何故無駄な行動を取るのだろう。腹の底に重いものが溜まり、気が付けば護衛を引き連れながら彼女の下へ歩いていた。
「なにをしている?」
「ルグレさんこそ、何故こちらに?」
きょとんとした顔を浮かべて俺を見た彼女は、ぎゅっと胸の辺りで手を握る。
「……たまたまプリエールを見つけて声を掛けただけだ。で、なにをしているんだ?」
「演説をしていました。ルグレさんも政界へ進出するのであれば、わたしも政界に進出しようと決めたのです。もしご一緒に差別をなくすことに協力できる……――」
プリエールの目指す未来は随分とゆっくりとしたものだ。俺も以前は目指していたが、黒髪黒目がいると知った今は利用して変革を求める。そうすればきっと彼女は大学に進めるはず。ゲームでは俺と一緒に大学に通っていたのだから。前世では黒髪黒目信仰なんて胡散臭いし、何故黒髪黒目の言葉一つで差別が解消されたのか不思議でならなかった。
でも、共和国に産まれて気が付いた。黒髪黒目信仰を仰ぐものは多く、そして信仰心も厚い。実際、共和国政府の連中はミナーヴァ子爵を丁重に扱っていた。あんな子供に。
「――無理だ。プリエールの方法では何年待っても差別はなくならない」
「確かにわたしの目指す道はゆっくりとしたものです……」
「なあ、プリエール。俺の力を見てくれ。絶対にプリエールを差別から救ってみせる」
俺の言葉を聞いたプリエールの顔が歪む。そんな彼女に俺は笑みを浮かべ群衆に叫んだ。
「俺はルグレ・――! 次期共和国大統領と名高い父を持つ者だ! 俺は彼の跡を継ぎ、差別のない共和国を築き上げる!」
そう、そのために政治家になると決め、父には洗脳の魔術を施した。このことは誰も気付いていないはず。早く差別をなくしてプリエールと一緒になりたいと心から願っている。
「俺は黒髪黒目のお方と話したことがある! 幼い容姿ではあるが、確りとした方だった。だが彼女は我々に言葉を残すことはなかった! 俺を政界へ伸し上げてくれたならば、黒髪黒目のお方から言葉を賜ると必ず約束する!」
「なっ!」
俺の言葉を聞いた聴衆とプリエールたちが驚いた。なにを驚いている。黒髪黒目は実在するのだ。会えないはずはないだろう。父の跡を継げば、直ぐにでも面会が叶うはずだ。だから俺はどうしても議員になりたいのだと、黒髪黒目信仰を信じていると偽って共和国民を取り入れるのだ。