魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0408:なんだか大変な状況に。

 二学期が始まって一ケ月が経っている。共和国から鸚鵡さんの情報が入ってくると共に、別の手紙が届いた。

 

 アルバトロス政府を経由して届いた手紙には、プリエールさんが預かっている鸚鵡さんの番は健康そのものであり、彼女の自宅で静かに暮らしているとのこと。他に五十年ほど前から鸚鵡さんを飼っている方を見つけたので、確認をお願いしたいと書かれていた。

 

 そして同時に共和国政府から送られてきた手紙には、ルグレと呼ばれる少年――会談の場で話に割り込んできた人である――が暴走し始め、黒髪黒目の私を利用しようと企んでいる……と記されていた。

 

 物理的に距離が離れているし、ルグレ少年には監視が付けられており、妙な行動を取れば直ぐに捕まえる算段らしい。

 

 大勢の前で私から言葉を賜ると叫び、共和国の人々にも彼の言葉を信じた方がいる。辺境の街で民衆の方が会場の外に集まっていたのは、ルグレ少年が企んだことなのだろうか。あの場で馬車の中から手でも振っていれば、アイドルのように扱われていただろう。

 

 一応、アルバトロス王国に情報が漏れ出たことを共和国に釘を刺して頂いたけれど、個人の動きを制限できないだろうし、民主主義であるならば王政制度の国より厳しい処分は無理かもしれない。

 

 黒髪黒目信仰よりも、ルグレ少年が暴れる方が面倒極まりない事態と成り得ることもある。

 

 「…………」

 

 アルバトロス王都にある子爵邸の執務室で届いた手紙に目を通して、どう行動するのが正解だったかと考えていた。クロは私の肩から降りて、執務机の上で顔を右に左に倒しながらこちらを見ていた。

 

 「難しい顔をしているな、ナイ」

 

 「どう致しました?」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが、黙り込んでいた私を不思議に感じて声を掛けてきた。

 

 「黒髪黒目信仰がある共和国でどう動くべきだったかなあと、考えていました」

 

 本当にどう行動するのが正解だったのか。ひとつ間違えればアルバトロスに迷惑を掛けていた可能性もあるし、自分の言動には気を付けておかないと。

 黒髪黒目信仰がどの程度かイマイチ分かっておらず、集まって声を上げられてもアイドルと同じと考えてしまう。宗教観が元々薄い所為か、わたしを崇めている状況が信じられないのだ。

 

 「難しいな。その国の者であれば、黒髪黒目信仰がどれほど浸透しているのか、民の考え、政を執り行っている者の考えが多少なりとも理解できる」

 

 「アルバトロスには黒髪黒目信仰はありませんもの。珍しい、という感覚はありますが、ナイが女神さまの生まれ変わりとは思えません。こればかりは仕方のないものではありませんか?」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが難しい顔を浮かべ意見を述べた。

 

 「まあ、ナイがいると情報を漏らした共和国政府は右往左往しなければならないだろうな」

 

 「で、ありましょうね。アルバトロス王国が抗議したならば、ナイも抗議しても良かったのでは?」

 

 おそらく右往左往したことにより、今持っている手紙が送られてきた気がする。まだ最後まで読み終えていないけれど、お二人の話を聞いてから手紙に目を通すか。

 

 「牽制を掛けるという意味では効果がありますが、誰が情報を漏らしたか分からない以上、無暗に圧を掛けても問題になりそうですから」

 

 東大陸では黒髪黒目信仰があるからと横柄な態度で望むのも違うし、命令なんてすれば内政干渉となってしまう。相手が無茶をしない限り、アガレスの強制召喚の時のように無茶はできないのだ。

 

 「……ナイであれば個人で共和国を落とせるだろう」

 

 「アガレスで大暴れしていましたからねえ。共和国で力を見せつけても良かったでしょうに」

 

 アガレスでは敵陣の中に五人だけ放り込まれた状態になったから力で訴えただけで、お貴族さまとして赴いていたなら無茶はしない。

 

 「その場合、黒髪黒目信仰が酷くなりませんか?」

 

 更に崇められたらどうしようと考えてしまう。

 

 「畏怖の対象として見られるのもアリだろう」

 

 「崇められ、御利益を求められるよりマシでしょうね」

 

 なるほど、そういう考えもあるのか。でもそれは最終手段のような気がする。なにもしていない一般の方に手を掛けるわけにはいかないし、面倒を起こした人だけを狙い撃ちしたいのだけれど。参ったなあと、手紙の続きに視線を落とし残りを読み進める。

 

 「え……」

 

 確か共和国、というか東大陸では魔術は珍しいものだったような。記されている事実に違和感を覚えて妙な声が出た。

 

 「どうした?」

 

 「どう致しました?」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまの声が重なり私を見る。机の上にいたクロが何事かと、飛び上がって私の肩の上に移動した。

 

 「会談の場で話に割って入った少年を覚えていますか?」

 

 「ああ、もちろんだ」

 

 「ええ。とてつもなく失礼な殿方でしたので、ご尊顔は確りと覚えておりますわ」

 

 ルグレ少年はお二人にマークされているようだし、碌な覚え方をされていないのではないだろうか。まあ、これから話すことで更にイメージは悪くなりそうだが。

 

 「魔術を覚えたようです。共和国では魔術の使い手はいないと、手紙にも記されております」

 

 ルグレ少年はどこで習ったのだろう。アガレス帝国に赴き誰かに教わったのか、それとも西大陸の者が共和国へ渡ったとでも言うのだろうか。移動手段が乏しい世界で国外に赴くことは難しい。それこそ空を飛ぶ幻獣や幻想種にお願いできる環境でもない限り。ならばルグレ少年は自己流で編み出したとでも言うのか……。

 

 「そしてプリエールさんからの情報では、洗脳か催眠の類とのことです」

 

 面倒なことになっていた。魔術を使えない人や知らない人がほとんどの国では、対抗できる手段がない。そして直情型であろうルグレ少年のことである。妙なことに使いそうだ、といの一番に頭に浮かんでしまったのだ。

 共和国政府はアルバトロス上層部に魔術について詳しく教えて欲しいと願い出たとのこと。私に迷惑を掛けるつもりはないので安心して欲しいとも記してあった。

 

 「……何故、ルグレが魔術を使えることをプリエールが知っている?」

 

 「ええ。洗脳や催眠系の魔術であれば黙っている方が得策ではないでしょうか」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまも同様に疑問のようだけれど、少々違う面で心配をしているようだ。プリエールさんも怪しいのでは、と。とはいえその辺りは手紙にも記されていた。

 

 「ルグレ少年がプリエールさんに直接教えたようですね。彼女たちが通う学園で打ち明け、二人は対立関係となってしまったようです」

 

 プリエールさんもルグレ少年も来年に行われる国政選挙に出馬すると書かれていた。ルグレ少年は共和国の最大政党、ようするに与党から、プリエールさんは無所属で貧民を支援している政党と支援者と最大政党の大統領派の方々の後ろ盾を得ている。

 二人とも『差別をなくしたい』というのが国政参加の理由なのだそうだ。十八歳で出馬できる共和国は凄いと思ってしまうが、社会経験もないまま立候補して大丈夫なのだろうか。

 

 「は?」

 

 「行動が理解できませんわね」

 

 ソフィーアさまが懐疑な顔を浮かべ、セレスティアさまが鉄扇を広げて顔を隠した。私も良く分からない。共和国の差別をなくすために、二人は一緒に行動していたのではないのだろうか。

 あれ、もしかして黒髪黒目の私がいたせいでシナリオが大きく変わっていっているのだろうか。でも、ルグレ少年には転生者疑惑もあるので話が変わってもおかしくはない。それにルグレ少年の人格が純粋にゲームの人物のままだとしても、一つ選び取るものが違えばシナリオが大きく変わる可能性は十分にあるのだから。

 

 「私も理解できませんが……魔術を覚えたという話は危ういですね。共和国の方々では対抗する手段がないのですから」

 

 洗脳された人間の末路は、一年生の一学期にあった出来事に集約されている。度合いにもよるけれど、洗脳された人が罪を背負うことがなければ良いが。ルグレ少年は……正直どうなっても知らない。

 

 「どうする?」

 

 「ええ。共和国から要請がない限りはアルバトロスもナイも動けません」

 

 共和国からはアルバトロスに魔術について教えて欲しいと要請を出していることをお二人に伝える。共和国政府が魔術について頼れる国がないならば致し方ないだろう。共和国政府も他国に頼ったならば、見返りを求められることは覚悟しているはず。

 

 「……私も協力を、と言いたいところですが。しゃしゃり出ると黒髪黒目信仰を都合良く利用されそうですね」

 

 ルグレ少年は『差別をしないで欲しい!』という私の言葉が欲しいだけだ。それ以外に利用価値を見出してはおらず、黒髪黒目であることも重要視していないだろう。

 

 「他国だからな」

 

 「ナイが共和国に赴いたことが漏れていたことを理由に介入できれば話は簡単ですが」

 

 共和国政府が介入は勘弁してくださいと頭を下げるのがオチではないだろうか。

 

 「私が手を出すのは不味いので、先ずは手紙を記そうと……」

 

 私の言葉にソフィーアさまとセレスティアさまが頭の上に疑問符を浮かべ、肩の上に乗るクロもこてんと首を傾げた。静かに部屋の壁際で控えていたジークとリンも心配そうな顔でこちらを見る。

 まあ、大したことを記す気はない。魔術師団に所属する魔術師さんはアルバトロス王国が管理しているので、私は勝手に派遣できない。教会を頼って聖女さまかシスターを派遣することもできるけれど……国と教会が許可を出さなければ無理難題である。

 

 もう少しハードルが下がりそうな冒険者ギルドを紹介して、魔術について学べば良いだろう。冒険者の方々であればフットワークは軽いし、共和国政府の許可があれば入国できる。

 

 ルグレ少年が洗脳の魔術を覚えたならば、プリエールさんか共和国政府の方々に洗脳の魔術を解くものや治癒を覚えて頂き地道に草の根活動をして頂くほかない。彼ら以外にも立候補者はいるから簡単に国政参加できるとは思えないが、ルグレ少年は親の跡目を継げばワンチャンありそうである。

 

 彼が議員になれば共和国政府が大変なことになりそうだと、私が記す手紙には内容を確りと書き込み、分かり易く伝える。そしてソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまのトリプルチェックをお願いしようと息を吐くのだった。

 

 ◇

 

 大陸から大陸を渡るのは久方ぶりだ。とはいえ長き間、西大陸の亜人連合国からほぼ出ることはなかったのだから、以前にアガレス帝国へ渡った時と、今回共和国へ赴いた期間は凄く短い時間であるが。

 共和国首都の上空を私とハンベルジャイト、白竜がゆっくりと旋回して市街地より先にある誰もいない野原に降り立った。服を受け取りいそいそと纏い、ハンベルジャイトの顔を見る。

 

 「参りましょうか、若」

 

 にこりと笑うハンベルジャイトの顔は私と良く似ているが、表情は彼の方が多彩であった。人化の際に真似た人物が同じ故の結果なのだが、元である竜の色が色濃く響いて私は黒髪に若草色の瞳、彼は白髪に赤目であるが。

 ダリアとアイリスに顔の造りを変えないのかと問われたことがある。もう慣れてしまった人化なので、顔を新しくするとなると無駄に魔力を消費してしまう。

 

 「ああ。しかし、このような短期間で我々が空を自由に飛べるようになるとはな」

 

 本当に短い時間――竜だから一瞬とも言って良いかもしれない――に広い空を飛ぶようになるとは。

 私は亜人連合国代表の仕事がある故に、ハンベルジャイトのようにあの子を背に乗せて空を飛ぶ機会が少ない。少々、長年の相棒に嫉妬を抱きそうになるのだが、致し方ないことであろう。あの子はどこか遠くへ赴く度に我々に益を齎してくれる。

 

 「良いことではありませんか。皆も喜んでいますしね」

 

 空を見上げていた視線を真っ直ぐに戻すと、何度か見た顔が視界に映った。

 

 「そうだな。――ヴァレンシュタインは今回はどうするのだ?」

 

 にこりと笑みを携えたままの男に声を掛けた。今回は共和国から魔術について教えて欲しいと要請され、目の前の男たちがアルバトロスから派遣されたのである。

 

 我々亜人連合国は共和国の空を竜が飛んでも問題視しないように願い出ることと、暴れる竜や迷惑を掛ける竜がいれば対処すると伝えるためにやってきていた。あと、人間の肩の上に乗る黒い竜がいると聞いたので、はぐれの竜なのか、それとも一頭で過ごすことを好む竜なのか、話ができると良いのだが。

 とある人間に懐いているようなので、あの子のような人間であれば良いが、共和国から話を聞くに嫌な予感しかしなかった。

 

 「僕はアルバトロス王のご命令通り、共和国の方々から才能がありそうな方を見つけて、魔術についてのアドバイスを施すか、対洗脳系の魔術具を提供するか取り決めを致します」

 

 どうやら洗脳の魔術に対抗できるように共和国の人間から魔力持ちを探し出し、対策を立てるようだ。あの子から共和国に宛てた手紙を彼が所持しているようで、内容が気になるところではある。まあ、あの子であれば妙なことは記すまい。

 

 「……ほどほどにな」

 

 ヴァレンシュタインという男は私の背の上で、凄く機嫌良さげに地上の構造物を書き記したり、珍しい植物を見つけると嬉しそうにしていた。

 何故、竜である私が人間に対して危険を感じるのだろう。魔力は私より劣っているのは確実なのだが、ダリアとアイリスから魔法を教わっていた傑物である。

 エルフの魔法を人間がどう解釈したのか興味はあるが、ダリアとアイリスに聞いてもヴァレンシュタインについて聞いてくれるなという態度を取る。あの二人が人間に対して触れたくないというのはかなり珍しかった。

 

 「もちろん、心得ておりますよ」

 

 にこりと更に笑みを深めたヴァレンシュタインに先へ行こうと促すと、共和国から出迎えの馬車がきた。共和国政府の高官が私たちを出迎え、さっそく馬車に乗り込む。後ろにも馬車が続き、アルバトロス外交官と亜人連合国の護衛たちが乗っている。

 

 「なにもなければ良いのですがね」

 

 「そうだな」

 

 ハンベルジャイトの言葉に同意して、ヴァレンシュタインの顔を見るとまだ笑みを携えたままだった。

 

 「僕は魔術が広まるのであれば、文句はありませんから」

 

 目の前の男は国がどうこうより、己の欲に忠実であるようだ。厄介な男と一緒になってしまったものの、アルバトロスを裏切る気はないし、なによりあの子に魔術を教えている。彼の教え方は上手な部類にはいるようで、あの子の魔力も安定していた。目の前の男が人の道から外れてしまえば、とんでもない魔物となってしまいそうだが……上手く自身で制御しているようだった。

 

 「さて、行こう」

 

 私の言葉にハンベルジャイトとヴァレンシュタインが確りと頷く。扉を二度叩く音が聞こえ御者が扉を開くと、私たちを出迎える共和国政府の者たちが大勢並んでいた。

 

 「ようこそ。亜人連合国の皆さま、アルバトロスの魔術師の方々よ。遠き地より共和国へ来てくださったこと感謝いたします」

 

 出迎えの者たちは共和国の高官のようで、後に大統領と直接面会するとのこと。晩餐会等の交流の為の催しは辞退してある。

 こちらの大陸の食事は魔素が少なく食べた気がしない……話し合いが目的なのだから、と無理矢理に共和国側を説得した。アルバトロス側も交流ではなく、魔術が使えそうなものを見つけて教育を施すだけであると共和国側からの要請を断っていた。向こうも、願い出た立場なので強く望めなかったようだ。

 

 「気にしないで欲しい。我々は同族がいるかもしれないことと、鸚鵡の飼い主への挨拶に参っただけだ」

 

 「アルバトロスも共和国の皆さまの要望を叶えるためにやってきましたので、過剰な待遇は必要ありません」

 

 私に続いてヴァレンシュタインがにこりと笑みを携えて、共和国の者たちに伝えた。相手側は少々面食らっているようだが、話を早く進めた方が良いと急かして会談の場へと案内を受ける。

 

 「初めまして、亜人連合国、代表殿。そしてアルバトロス王国、ヴァレンシュタイン卿」

 

 どうやら目の前の男がこの国の頂点であるようだ。見慣れない衣装――あとでスーツと聞いた――に身を包み、彼が名前を名乗ったのだがあまり興味は湧かなかった。

 名前を名乗る習慣がないこと、ヴァレンシュタインは簡単に名乗って目の前の男、共和国の大統領と握手を交わす。男の瞳には我々に恐怖を感じている様子はなく、先ずは及第点といった所だろうか。西大陸では竜が人間の姿に化けていると腰を抜かし、恐れる者もいるのだが……流石、一国を背負う者である。恐怖を心の奥底に隠しているか、胆力が備わっているのだろう。

 

 椅子へと案内され、着座するとともに大統領が声を上げた。

 

 「この度は共和国までご足労頂き感謝する。そして多大な迷惑を掛けていることも同時に詫びねばなるまい」

 

 大統領が謝罪の言葉を述べた。大統領という存在は一国の王と同じだと聞き及んでいる。簡単に頭を下げて良いものなのかと疑問に感じるが、アルバトロス王国へ向けての言葉であれば納得いく。

 共和国国内で問題が起こっており、魔術に対抗する手段がないとアルバトロスを頼ったのだから。伝手があるのならば、西大陸の国であれば魔術を扱える者は多く存在するから、アルバトロスでなくともよいのだ。

 

 「黒髪黒目のお方に迷惑が掛かってしまっている……黒髪黒目のお方を仰ぎ奉る我々としては、忸怩たる思いなのだが……」

 

 敵対派閥の子息が暴走して、他国を頼らざるを得なくなった、と。選挙制度に詳しくはないが、共和国に住まう者たちが投票によって国の代表者を選ぶらしい。

 我々亜人連合国は、各部族や種族から代表者を選出して持ち回りで代表者を選んでいる。聞き及ぶ限り悪くない制度であろう。ただ、代表者を見極めるための資質が、各々に備わってなければならないだろう。

 

 「魔術や魔法、それどころか魔力に縁がないのであれば致し方なかろう」

 

 「ええ。それに黒髪黒目のお方、ようするにミナーヴァ子爵ですが『私が黒髪黒目でなければ、今回の騒ぎにはならなかったはず』と申しておりました」

 

 私とヴァレンシュタインの言葉を聞いて、血の気が引いた大統領が口を開いた。

 

 「っ! そのようなことを仰っていたのですか……我々が不甲斐ないばかりに……」

 

 彼はぐっと唇を嚙みしめる。今の言から察するに、あの子を利用する気はないようだ。

 

 「大統領閣下。アルバトロス上層部は、問題のある方たちがミナーヴァ子爵に手を出すのであれば、共和国そのものを敵視する可能性もあると仰っております」

 

 んふふ、と笑ったヴァレンシュタインと一瞬で顔を青ざめた共和国の者たちの温度差が酷いことになっている。たった一人の男に、共和国の者たちは恐れを抱いたようだ。

 

 「ただ、アルバトロス王から穏便に済むように立ち回れと命じられております。僕の望みが叶うのであれば、ルグレと名乗る少年にお会いしたいものですねえ」

 

 私の隣に座すヴァレンシュタインは今回のことを面白がっていないだろうか。何故か『実験台が手に入りそうです!』と幻聴が聞こえた気がするのだが……まさかな。

 

 「我々亜人連合国も小さな黒い竜に会わせて頂きたい。魔術や魔法がない国に術を広める危険をなにも理解していないようだからな。あと新たに見つかった鸚鵡にも」

 

 私も己がやるべきことを大統領に伝える。

 

 「承知いたしました」

 

 同意を得たあと、さっそく新たに見つかった鸚鵡と話を済ませ、南の島に戻りたいと告げた鸚鵡は島へ、共和国に残りたいと願う者はこの地で幸せに生きていけるように支援を取り付けた。

 残りの仕事……ルグレという子供をかなり遠目から見る。街頭で演説をしているのだが、普通の人間である。耳を澄ませば『黒髪黒目の少女に会いたくはないか?』『議員になって大統領になった暁には、黒髪黒目の少女の言葉を賜る』と宣っていた。

 

 「……弱過ぎてはっきりと感じ取れませんが……洗脳の魔術でしょうかねえ。もう少し使い方が上手ければ、もっと多くの方々に術を施せたでしょうに」

 

 ヴァレンシュタインがぼそりと呟いた。どうにも西大陸で過ごした時間が長い所為か、微弱な魔力の感知が苦手になっているようだ。おそらく相手は気付いていない……暫く見ていると肩に乗っている黒い竜は我々に気付いて視線を寄越し、翼を広げて飛び上がった。

 

 「逃げたな」

 

 「逃げてしまいましたね、若」

 

 「ああ、実験体になりそうな竜が……逃げてしまいました……勿体ない……」

 

 曇天の空へと飛び立つ小さな黒い竜を追いかけることはしなかった。この場で竜の姿に戻れば、巨体故に共和国の者たちに迷惑が掛かってしまう。竜がいなくなったことできょろきょろとしているルグレに事情を聞こうと、共和国の面々と我々は彼のもとへ歩いていくのだった。

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