魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0041:地下室。

 翌日。急いでいたのか学院から宿舎へ戻ると、すでにクルーガー伯爵家から迎えの馬車が待っていた。

 御者の人が言うにはジークとリンだけではなく、私も同行して欲しいと言伝を伯爵さまから頂いているそうで、二人にどうすべきか聞くと一緒に来てくれとのことだった。

 

 「私、要るかな?」

 

 学院の制服を着たまま伯爵家の馬車へと乗り込むと、馬が歩き始めたのかかくんと体が揺れた。

 

 「後で俺たちから話を聞くより、現場にいた方が状況は正確に把握しやすい」

 

 確かにそうだけれど。妙なことになりそうなら公爵さまや教会を頼ることになるので、正確な情報は大事になる。

 先に知るのも後で知るのも一緒だし、ジークの言うとおり場にいた方が正確に状況は把握できる。報告の際に間違ったことを伝える心配は減るから、まあいいかと納得。

 

 クルーガー伯爵家の馬車に揺られ王都の整備された道を行き、貴族街へと入る。最初は騎士爵や男爵家、子爵家の家々が並び建つ景色から、さらに上の階級の人たちが住む区域へと入った。

 子爵家と伯爵家では家の規模が随分と違うなと、くだらないことを感じながらクルーガー伯爵邸へと辿り着く。

 

 「よくきたね。――聖女さま。ご足労申し訳ありません」

 

 馬車を降りると、玄関先で執事さんと一緒に待っていた伯爵さまがこちらへとやって来る。以前に会った時と変わらないが、奥方さまとの仲は大丈夫なのだろうか。家の中のことは私が心配すべきではないなと頭を振って、彼に確認したいことを口にする。

 

 「いえ。しかしジークフリードとジークリンデ、そしてクルーガー伯爵家の問題に私が首を突っ込んでも良いのでしょうか?」

 

 「構いませんよ。それにハイゼンベルク公爵家や教会に報告が行くのでしょう。ならば人伝の言葉より自身の眼で確かめてもらい、報告をなさっていただく方が良いと考えまして」

 

 あ、なんだろう。ジークとリンが男爵家へ籍入りしたことを根に持っているのだろうか。……先に二人に目を付けていたのは伯爵さまだ。

 公爵さまに横から掻っ攫われる形になってしまったから、なにか牽制の意味でもあるのだろうか。でも、相手はあの伯爵さまだ。彼の言葉通りの意味しかなくて、深い理由はない可能性だって十分ありうる。

 

 「少々、聖女さまには似つかわしくない場所になりますが、ご容赦ください」

 

 「ある程度の耐性はありますので、お気になさらず」

 

 劣悪な環境には慣れて――戻りたくはないが――いるし、凄惨な場面にも――魔物討伐同行時に内臓が出てる怪我人とかザラに居る――ある程度耐えることが出来るだろう。

 

 「ジークフリード、ジークリンデ。君たちもいいかい?」

 

 「はい」

 

 「はい」

 

 伯爵さまの言葉のあと寸分の狂いもなく二人が同時に返事をし、玄関ホールを抜け裏庭へと出る。そうしてたどり着いた先は別館だった。

 扉を執事さんが開け中へと入る。伯爵邸より小さい規模だけれど、置かれている調度品や建屋に使われている建材は質の良い物だと、素人が見てもわかる。しかし、ここに連れてこられたならば伯爵さまの『似つかわしくない』という言葉はどこで意味を発するのだろう。

 

 「ごきげんよう、聖女さま」

 

 「ごきげんよう」

 

 何故か別館の中に居た伯爵さまの奥方さまに挨拶をされるので、こちらも返すとにっこりと微笑む。

 

 「ジークフリード、ジークリンデ。――この度はわたくしたちの不手際、申し訳ありませんでした」

 

 「夫人、どうかお気になさらず」

 

 奥方さまが丁寧な言葉で二人に謝罪を伝える。流石に頭を下げたりはしないけれど、立場が下になる人間にこうして謝るのは本当に珍しいこと。

 一体、何があったのだろうと疑問を感じながら、執事さんを先頭に伯爵さま奥方さま、私、ジークとリンという順番で長い廊下を進み始めた。

 

 そうしてまたホールを抜け、別館の端へと辿り着くと重々しい扉が目の前にあり、伯爵家が雇っている護衛も数名控えていた。

 

 執事さんが鍵束を腰から取り出し、南京錠の鍵穴へと鍵をさし込んで回すとかちゃりと大きい音が鳴る。しばらく執事さんが扉の前でごそごそ作業をしていると、ようやく重い扉が開きこの場にいる全員の顔を執事さんが伺う。

 

 「足元には十分お気を付けください。――旦那さま」

 

 「ああ、行こう」

 

 執事さんを先頭に地下へと下りていく。そう深いものではなく、直ぐに下へと辿り着いた。地下室だからか、それとももう少しで陽の沈む時間だからか、暗く湿気が多いというのがこの場へ来て最初に抱いた感想だ。

 執事さんが持つ明かりだけだと、彼と伯爵さまと夫人が居る周りを照らすのが限界。ようやく目が慣れてくると、石畳の床に鉄格子が見え、その奥には鎖に繋がれた一人の中年男性の姿が。

 

 その更に後ろの壁には拷問器具が奇麗に並べられている。

 

 割と種類がある気がするのだけれど、伯爵さまの趣味なのだろうか。いや、まさかねと頭を振って、繋がれている男に目を向ける。

 

 「う……誰、だ……」

 

 少し弱っているのか目が虚ろで、あまり状況を理解できていない。頬がコケているし、所々に傷がある。おそらくは口を割らなかったので、尋問の果てに拷問へと移行したのだろう。ある程度の耐性があるとはいえ、良いものではないと目を細めて、男の顔をよく見る。

 

 ――あの時の……。

 

 じっと見つめ、記憶の端に微かに残っていた記憶を、無理矢理に取り出す。そうだ……この男は。頭を殴られたような衝撃の光景に眩暈を覚え、数歩後ずさる私だった。

 

 ◇

 

 暗く湿気た地下室の牢屋。あの目の前に居る繋がれた男は……。

 

 「……はっ」

 

 気持ち悪くなって、片手で口元を抑える。そうだ、目の前の男はジークとリン、私が八歳の頃。孤児仲間の一人が道を突然飛び出し、馬車を引く馬を驚かせ、その場に留まることを余儀なくされ苛立った男が、感情のまま仲間を切り殺した。その張本人が今、目の前に居る。

 

 「ナイ?」

 

 非公式な場だから、珍しくジークが声を掛けて、たたらを踏んだ私の顔を見る。

 

 「顔色が良くないな。外に出るか?」

 

 「だ、大丈夫。――ジーク……リン……覚えていないの……?」

 

 仲間を切り殺した男はおそらくお貴族さまだ。馬車に家紋があり、逆らってはならない人物だと理解していたのに、当時の私は怒りに身を任せて噛みついた。男が更に逆上すればジークやリンの身も危なかったと、後から気が付いて一人で猛省していた記憶がある。

 

 「何がだ?」

 

 「?」

 

 どうやら二人は覚えていないようだ。小さかった頃だし、生きるか死ぬかの毎日だったし、何人も孤児仲間は死んでいる。

 だから二人が覚えていなくても仕方ないし、責める気もない。前世の記憶がある所為か、幼い頃の記憶がはっきりと残っている私の方が異常だし、男が年を経て痩せているのも二人が気付いていない原因の一端だろう。

 

 「――閣下、夫人。申し訳ありませんが、少しだけお時間を頂けますか?」

 

 「ええ、構いませんよ」

 

 「水を持たせましょう、少しお待ちください聖女さま」

 

 ジークがこの屋敷の主人たちに声を掛けると、私の視界、ようするに牢屋の中の男が映らないようにに二人が前に立つ。伯爵家の騎士が急いで階段を登っていく音が、やけにはっきりと聞こえた。

 

 「ナイ、黙るな」

 

 「ちゃんと教えて」

 

 リンが私の片方の脇に腕を回して、おぼつかない足を支えてくれる。二人に伝えてもいいものなのだろうか。

 現場は二人も見ており、一緒に仲間の死を悲しんでいたのだから。そして仲間を埋葬することもできないまま、ただ彼の死体が街の衛兵に回収されるまで放っておくことしかできず、己の無力さを痛感したのだ。

 

 「随分と前になるけれど……あの子が馬車の前を飛び出して、切られた時のこと……覚えてない?」

 

 「お前、まだ覚えていたのか」

 

 「ナイも覚えてたんだ。でも、なんで今?」

 

 そっか。仲間が死んだことを覚えていても、その原因を作った男のことまでは覚えていないようだった。

 覚えていない方が良いに決まっている。私のように、こうして突然訪れた再会で、心の中に仄暗い感情が満ち始めているのだから。

 

 「あー……うん。覚えていないならいいんだよ。思い出さない方が良いだろうし」

 

 思い出さない方が良い、知らない方が良い。牢の中の男はジークとリンの母親が亡くなってしまったことに関わっている人物なのだから。

 さらに余計なものまで背負わなくていい。私の軽率な行動で、更に彼らの心に傷を負わせるようなことになって欲しくはない。

 

 「ナイの態度で何かがあったのは察することが出来るし、今黙っていても俺たちが思い出してしまえば結局は同じだぞ」

 

 「…………あの子を切った本人だよ。今、目の前に居る男の人」

 

 私を真っ直ぐ見据える紫色の瞳四つに射抜かれ、結局は吐露する羽目になる。

 

 「え」

 

 「そうか。――……言われてみれば確かにあの時の太った男に似ている」

 

 痩せているし、月日が過ぎている所為で随分と老けているし、ド派手で目立つ衣装だったあの時とは打って変わって、平民服に身を包んでいるから、同一人物と分かり辛い。

 

 「失礼いたします、水をお持ちいたしました」

 

 護衛の騎士の人に礼を言って、カップに入った水を一気に飲み干す。行儀が悪いけれど、今の気分をどうにか変えたかった。水を飲んで少し落ち着いた私を見て、伯爵さまがこちらへとやってくる。

 

 「聖女さま、ジークフリート、ジークリンデ。――あの男をご存じで?」

 

 私が居るから、敬語にならざるを得ない伯爵さまが、男を背にしつつ一瞥する。

 

 「はい。存じているかと思いますが、私は貧民街出身の孤児です。その時に少々……彼とは面識があります。ただ、覚えているかどうかは分かりませんが」

 

 孤児の存在なんてお貴族さまから見れば、路傍の石だ。そんな昔のことは覚えていないだろう。仮に覚えていたとしても、鼻で笑われるのがオチである。

 

 「少し詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 他愛のない話だし、伯爵さまに話したところで何の問題もない過去の出来事である。数分もしない内にあの出来事を話し終えると、伯爵さまと奥方さまは微妙な顔をして牢の中の男を見るのだった。

 

 「なるほど。二人だけではなく聖女さまとも関係があったとは。――とはいえ王都の中の出来事ですから、そういうことがあっても不思議ではないのでしょうね」

 

 そう言って、伯爵さまが訥々と語り始める。

 

 牢の中の男は二代目で、先代である父が功績を上げて叙爵したそうだ。その方法はヤクザの様な強引な手法を取り、悪名が広がっていったそうな。

 ただ男は王都の不動産を随分と多く取り扱っていた。伯爵は男と接触し、家を一つ用意して欲しいと頼むと、人好きのする笑みを浮かべて快諾した。

 

 「私の失敗でしたねえ」

 

 そう零しながら伯爵さまはまた言葉を続ける。

 

 迷惑を掛けないようにと黙って伯爵邸を去ったお手付きの侍女を探すことに、そう時間は掛からなかったそうだ。女の身ひとつで王都を出て、違う街で定住するには随分とお金が掛かる。伝手もない元侍女は、王都の安宿で日々をどうにか凌いでいたのを伯爵さまが見つけ、男が紹介した家を与え支援をした。

 

 そして奥方さまの妊娠と侍女の妊娠報告がなされ、伯爵さまが知ることになる。

 

 長子と同時期に腹違いの子が出来るのは不味いし、日々腹の大きくなる奥方さまの姿を見て、お手付きの侍女との再会は諦め金銭支援のみに徹したそうだ。

 

 「その考えが甘いというのです。何故、関りの薄い者に安易に金銭を渡すのか……」

 

 今度は奥方さまが、たじろぐ伯爵さまに代わって言葉を紡ぐ。

 

 金銭支援は家を用意した不動産屋、ようするに男を仲介して行っていた。ただ随分とアコギな手法で商売をしていた目の前の男は破滅する。

 お貴族さまの間では良い噂はなく、知らぬ間に地雷を踏んでいたのだろう。男の貴族としての栄光は直ぐに終わり、家も財産も失って露頭に迷う羽目になったそうだ。

 

 それが最近のこと。

 

 「ジークフリードとジークリンデは手に職をつける為に職人の家に弟子入りしたと聞き、独り立ちの準備を始めていると思い込んでいましたから、私。すっかり騙されていましたよ」

 

 母親を失いジークとリンが路頭に迷っていたという事実を、伯爵さまが最近まで知らなかった理由がようやくわかった。

 

 事業を手広く広げたあげく資金繰りがどんどん悪くなっていたので、小金を得ようと必死だったらしい。

 最初はきちんと手渡していたそうだが、お金に困っていた男は一家族分の生活費でも魅力的だったらしく、途中から着服し始める。伯爵さまには迷惑を掛けられないと、元侍女……ようするにジークとリンの母親はその事実を伏せたまま、働きに出て体を壊し治療を受けられないまま亡くなってしまったそう。

 

 お手付きの侍女が死んだ事実を隠したまま、お金だけ男は得ていたそうな。

 

 相手が伯爵さまだったので、ここ最近までバレなかったようだ。そうしてちょっと、いや大分間抜けな伯爵さまに代わって奥方さまが事態に介入して露見。

 

 「さあ、聖女さまでも、ジークフリードでもジークリンデでも構いません。目の前の男の首を落としてしまいなさい。――これで少しは気が晴れるでしょう?」

 

 果たしてそうなのだろうかと、三人顔を見合わせるのだった。

 

 




 ちょっと無理矢理に繋げてみました。荒いと思います。
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