魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

410 / 740
0410:黒い竜の行方。

 プリエールと名乗った少女は真っ直ぐな子である、というのが私の感想だった。治癒の魔術をヴァレンシュタインに教わりたいと意気込んでいたが、流石に他国の者が勝手に決められない。

 とりあえず、洗脳を受けていた聴衆はアルバトロスの魔術師によって解呪され、術を受けた害は殆どないとのことだ。術を施した子供の魔力の低さ故に影響が少ないのだそうだ。無辜の者に影響がなかったのは良いことだと共和国政府の者と話をしながら、共和国首都にある政府官邸へと戻っていた。

 

 そうして今、魔力の概念が乏しい共和国政府内で、どう取り扱うか協議がなされている。正直、難航していると言わざるを得ない。私の産まれは竜であるので、扱えるものはブレスと己の牙と爪となる。魔法や魔術は基本的に操れない。だが知識として魔術や魔法を誰かに教えることは可能である。

 人間は誰かから学びを受け、魔力を覚醒させ、そこから魔術を習うのだとヴァレンシュタインから聞いた。基礎魔術であれば魔力放出型の人間であれば大体が使え、あとは魔力量や各個人の才能で決まるとのことだった。

 

 ヴァレンシュタインは目の前で執り行われている協議に助言役として呼ばれている。私も興味があったので同席を頼み許可を得ることができた。

 会議場にいる共和国の各々は魔術の利便性に目を付け推奨する者もいれば、魔術の危険性を説いて反対意見を述べる者、どちらの意見でもない者たちが混在している。

 大量の魔力を持ち得た者が強力な魔術を扱えるようになれば共和国政府は対抗手段がないと叫び、大量の魔力を持ち得た者が治癒を施せば多くの者が助かると声高に言う。どうやら新たな概念を受け入れるには難しい状況のようで、簡単に話は終わらないだろうと私の隣に座す、ヴァレンシュタインの顔を見る。

 

 「代表殿。協議は長くなりそうですねえ」

 

 「そのようだな。結論を急いで間違えた道に進むよりは良いことだが……」

 

 竜やエルフのように長く生きることができるのであれば、じっくりと考えてもさほど問題はないが人間が生きている時間は短い。その間に才能ある者が魔術を受ける機会もなく、この世から去ってしまうのは惜しいと考えてしまうのは私の勝手な想いなのだろうか。

 

 「答えを急ぐ必要はないだろう。我々がアルバトロス王国を頼ったのは、彼の者の暴走に対抗手段が欲しかっただけ。最大の難局は逃れている。あとは逃げたドラゴンの行方次第だ。また、誰かを捕まえて同じことを仕出かす可能性もある」

 

 共和国で一番偉い者、大統領がちらりと私を見た。どうやら逃げた竜を我々と同族と捉え、彼が敵視していることに私が怒らないか心配だったようだ。 

 我々、亜人連合国に住まう竜は人間との融和を掲げている。魔力や魔術の概念がない国で、魔力がある者を探し魔術や魔法を教えるようなことはしない。おそらく黒い竜は一頭で行動していたのだろう。

 人間と関わったのは単純に寂しかったのか、利用して面白おかしいことに仕立て上げたのか……なんにせよ、亜人連合国に所属していない竜と確定し、ハンベルジャイトが追跡している。詳細は直ぐに入ってくるであろうと、大統領に気にするなと視線で伝えるのだった。

 

 協議が終わり、来賓室で休憩を取っていると、脇腹を押さえながらハンベルジャイトが戻ってきた。

 

 「若、申し訳ありません。黒い竜に逃げられてしまいました」

 

 彼の者が見定めた相手を取り逃すなど珍しい、と何故逃したのか理由を聞く。

 

 「追跡自体は順調でした。しかしある地点に赴き私が街を背に負っている状況になると、相手が突然巨大化してブレスを放ちました。避けることは可能でしたが、ブレスの先は街でしたから」

 

 なるほど。黒い竜は我々が人間に加担していると判断して、小狡い手を使ったようだ。ハンベルジャイトが逃げられないことを理解した上で、ブレスを放ったのだろう。

 

 「まさか、怪我を?」

 

 竜の姿であったなら、防御は自身の身体で受けるしかない。人化していれば、エルフたちから習った魔法を少しばかり使えるのだが……エルフのように魔法に長けてはおらず、ダリアとアイリスからは扱いが下手糞だと毎回言われている。魔力を無駄に注ぎ込んでいる上に、威力調整が大雑把と評されている。

 

 「少々。ですが、大したものではありません。上手く事が運べばあの子に治療して頂けるでしょうし、名誉の負傷……とは言えませんか。再度になりますが、逃してしまい申し訳ありません」

 

 「誰も君を責められんさ」

 

 共和国は自前の力で黒い竜を追うことは不可能だった。アルバトロスは今回は黒い竜を目的としていない訪問で、ある意味部外者である。共に行動しているので情報は知れ渡るだろうが、黒い竜を逃したハンベルジャイトを責められまい。

 

 「公式の場ですし、ご衣装が白を基調としているので目立ってしまいますよ? 治癒を施せる部下がいますので連れて参りますね」

 

 「そうだな。せめて血止めくらいはしておくべきだろう」

 

 笑みを携えたままのヴァレンシュタインが部下を呼び、私は微妙な顔になっているハンベルジャイトに苦笑しながら告げた。

 

 「少しですが黒い竜と言葉を交わすことができました。どうやら共和国には暇潰しに赴いたようです」

 

 面白くもなんともなかったし、食べた人間も不味いと…………人間を食べたのか。

 

 人間を食べた竜は何故か悪に染まってしまうと、ご意見番から聞いたことがある。理由は分からないが、邪竜と呼ばれる存在となるのだとか。

 

 亜人連合国から出る機会が少なかった上に、人間を食べようなどと微塵も考えたことがなかったので、本当にそんな同族がいるのか不思議であった。

 だが黒い竜を見た時に感じた嫌な雰囲気は、もしかすると人間を食したことによるものだろうか。ただ弱肉強食の世界で生きる者としては、個体の趣味嗜好にとやかく言うつもりはない。自身の信念や理念に相容れず相手が理解できないのであれば、力によって排除することもあり得る。

 

 「主の下へ帰ると仰っておりましたねえ。首にうっすらと魔力の痕跡がありましたから、従属の術を施されているのでしょう」

 

 ハンベルジャイトが小声で人間に術を施されている時点で小物だと囁いて直ぐ、彼の顔面が蒼白になった。

 

 「………………小物に怪我を負わされた私は一体」

 

 ずーんと肩を落とすハンベルジャイト。彼のこんな姿を見ることができるとは。いつも笑みを浮かべ誰に対しても物腰柔らかく接して、自身の心の内を隠しているのに。

 

 「若、私はあの子に嫌われてしまうのでしょうか……無能、なんて言われた日には、もうあの子と合わせる顔がありません……」

 

 そしてご意見番の生まれ変わりにも、と告げハンベルジャイトは両手で頭を抱え込む。長身の男が情けない姿を取っているが、ほぼ身内しかいないので構わないだろうと、彼の行動に口を出さない。ただ放っておくと妙な方向へ行きそうなので、とりあえず否定をしておかねばと口を開いた。

 

 「あの子がそのようなことは言うまい。それより先に君の怪我を心配するだろう」

 

 あの子は優しい子だ。失態を犯しても責めることはないし、次に取り返せば良いと言うはずだ。――しかし。

 

 「今回の件は黒幕がいると判断しても良さそうだな」

 

 黒い竜はある程度自由に行動しているが、従属の術を施されているなら主の命には逆らえまい。今回、共和国にやってきた目的がただの娯楽であり、人間を食べるためだったのならば共和国政府にも伝えておかなければ。

 

 「そうですね。黒い竜を見つけることも先決ですが、主がいるのならば術を施した者も見つけませんと……」

 

 落ち込みから少し立ち直ったハンベルジャイトが私と視線を合わせ、もしかして空飛び鯨と黒天馬を襲った者ではと付け加えると、同席していたヴァレンシュタインが興味深そうに右手を顎に当てた。

 

 「その可能性も捨てきれませんね。しかし……竜を従える人間、ですか。僕の興味だけで言葉を発して良いのならば、どんな魔術師なのか凄く関心があります。とはいえ……幻想種を従えるなど一体どうやったのでしょう?」

 

 彼があの子の家で保持している魔術書には、それに近しいことが記されていたそうだが、共生に近い契約魔術であり従属とは違うものらしい。

 

 「確か古代人と呼ばれる方々は幻想種や魔獣を従えたと聞き及びます。古い著書でも残って解読ができれば可能ですし、同じものが存在している可能性も否定できませんね、若」

 

 私とハンベルジャイトの会話を聞いていたヴァレンシュタインの目が大きく開かれた。

 

 「………………もしかして黒幕であろう魔術師は古代の魔術書を開くことができた?」

 

 なにか思うことがあったようで、先ほどのハンベルジャイトのように頭を抱えている。部下たちにどよめきが走り、どうしましたか副団長! と彼に駆け寄っていた。

 

 「魔術師として僕は負けているのですね……古代から伝わる魔術書を僕は開くことができませんでしたから。嗚呼、アルバトロス一の魔術師などと名乗れません」

 

 「副団長! 貴方は凄い魔術師です! 攻撃に関してならば貴方を超える者はいませんよ!」

 

 「ええ! 時々変態的な発言をしますが、どうにか常識人の範囲で収まっているではありませんか!」

 

 部下の者たちがヴァレンシュタインを慰めているようだが、果たしてそれが慰めの言葉になっているのか謎だ。

 

 「はっ! いつも我慢している葛藤を捨て去れば、僕は更に魔術師として大成できる!?」

 

 「だ、駄目ですよ、副団長! 国から研究費を頂くために我慢しているのでしょう!?」

 

 「そうです! 副団長が本気を出したら不味いことになってしまいます。まだまだ人間の枠でいて頂かないと!」

 

 人間でいることを首の皮一枚で繋がっているように思えてならないが……この混沌とした状況をどう打開すれば良いのだろうか。

 

 「……」

 

 「……魔術師は本当に変態なのですね」

 

 黙ったまま彼らのやり取りを見ている私の横で、ハンベルジャイトがぼそりと呟くのだった。

 

 ◇

 

 三年生の二学期が始まり、二ヶ月が過ぎていた。雪さんと夜さんと華さんのお腹が少し目立つようになっているし、おっぱいも張っているので誕生まであといくらも時間がないのでは、とみんなで目出度い目出度いと話してる所だ。

 当のお三方は流れに任せますというスタンスで、番であるヴァナルが『大丈夫?』とか『階段、キを付けて』と甲斐甲斐しく彼女たちを気遣っている姿は、初々しく微笑ましい。どこかの誰かさんがヒャッハーしているけれど、子爵邸内では気にする方が随分と少なくなっていた。

 

 「ジーク、リン。三番お願いします」

 

 「ああ」

 

 「ん」

 

 私がそっくり兄妹の名前を告げると、二人は木の板を取って手渡してくれた。板には三番の文字が記されており、木工作業が素人の私でも分かるように気遣ってくれている。

 

 「しかし釘を全く使わないとは」

 

 「ええ。ですがこれで、産まれた仔たちが怪我を負う可能性が低くなりましょう。ナイもよく考えましたわね」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが感心した様子で頷いた。以前に雪さんたちの産室を設けると話をしていたので、お二人は屋敷のどこかに設置すると考えていたようだけれど、流石に当主夫人用の部屋になるとは全く考えていなかったようだ。

 私に旦那さまはいないので空室なのは当然だけれど、お二人は思い切った選択をしたものだと呟いていた。おそらく生粋のお貴族さまと、とばっちりで成り上がった貴族の意識の差であろう。普通は当主夫人の部屋は夫人専用の部屋であり、代を引き継いだ際には婚姻しているのが当然だから。

 

 「手、手を怪我しないでくださいね! ナイさま!」

 

 「きょ、強化魔術が切れたら再度施しますわ」

 

 アリアさまが心配そうに、ロザリンデさまが真剣な表情で告げた。私か誰かが怪我を負えば、アリアさまとロザリンデさまが治癒を施してくれる。作業を行うと知った彼女たちが、申し出てくれたのだ。

 先ほど見事に木槌で手を打った私にアリアさまが痛み止めを施してくれて、力のない私を見たロザリンデさまが身体強化の魔術を掛けてくれたのだ。個人的に申し出ただけだし、聖女としてではないから報酬は不要と彼女たちに言われている。

 報告書に記すのでアリアさまとロザリンデさまの行動はアルバトロスと教会、果てはフソウに筒抜けなので、そちらからの報酬に期待してくださいと心の中で感謝しておいた。

 

 ――産箱作ろう計画は多くの方々が関わっている。

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが釘を使わないことに感心をしていたが、木工品を作るための詳しい知識は私たちに備わっていない。産まれた仔たちが釘で怪我をしたら危ないからどうしようと悩んでいた時に、ふと前世の記憶が蘇ったのだ。

 お寺や神社って宮大工さんが専門で造り上げ、釘を使わず、木材を加工して上手くはめ込んで完成させていたよなあ、と。思い出したら吉日で、フソウの帝さまとナガノブさまにお手紙を出した。雪さんたちの産箱を作りたいのですが、釘を使わないで組み上げる方法を知りませんか? と書いて。

 帝さまもナガノブさまも私の手紙を読んで、宮大工さんが適していると直ぐに気付いて『継ぎ』の技術を図面で教えてくれた。

 

 あと子宝で有名な神社の御守りを送ってくれたので、ヴァナルの首に下げておいた。雪さんたちに下げず、どうしてヴァナルにと子爵邸の方々は不思議に感じたらしいが、三つ送ってくれれば雪さんたちそれぞれの首に掛けたけれど、一つしかなかったので旦那さんであるヴァナルの首に掛けたのだ。フェンリルが『安産祈願』と書かれた御守りを下げているのは、ちょっとおかしいけれど願う気持ちは変わらないのだし問題はないはず。

 

 で、図面を送ってくれたものの加工技術はないので、亜人連合国のドワーフさんたちに――もちろんフソウには許可を取っている――見せて、読み解いて頂いたのだが、素人が直ぐにできるはずがないと笑い飛ばされた。

 エルフの街の大木を切り出すし、木材加工はドワーフさんたちに任せておけと言われてしまい、その辺りを関わることはなかった。生木はエルフの皆さまと妖精さんたちが魔法を使って乾燥作業を終えてくれている。本当は一年も二年も掛かることなのに、魔術や魔法の技術って便利だなあと感心していた。

 

 「四番お願いします。――……っと。また自分の手を打つところだった」

 

 三番の木板を組み込めば『コ』の字まで出来上がった。そうして次の四番をお願いしてぴったりと端と端を合わせて打ち込み作業を開始した途端に、自分の手を木槌で打ちそうになった。

 『ひゃ』っとアリアさまが息を呑み痛そうな顔になり、ソフィーアさまとセレスティアさまとロザリンデさまは『何故そこで手を打ちそうになるんだ?』と私を訝しげに見て、ジークとリンは『またか』『大丈夫かなあ』という顔になる。

 

 『貴女、案外不器用なのね』

 

 私の肩の上にはお婆さまが乗っていた。いつもクロが乗っているけれど、今日ばかりは邪魔しちゃ駄目だからとクロはロザリンデさまの肩に乗っていた。クロが彼女を選んだ理由は『あんまりお話ができていないからね~』という気軽なもの。対して乗られた本人は凄く緊張している。先程、噛んでいたのはクロの所為である、多分。

 

 「お婆さま。思ったことをそのまま口に出すのはどうかと思います」

 

 で、お婆さまは部屋に集まっている妖精さんの監督を務めている。妖精さんは興味と好奇心で集まったのだけれど、木板に祝福を施してくれていた。その様子を感知したお婆さまは、悪戯をしちゃう子がいるかもしれないと監督役に名乗り出てくれたのだ。本人が一番悪戯を敢行しそうであるが、不可思議生物が増えるということで今日は真面目モードみたい。

 

 『良いじゃない。私は妖精だもの。しかし、まあ……贈り物が凄いわねえ。期待の表れかしら?』

 

 「確かに凄いですよね」

 

 「すまないな。祖父も話を聞いて目出度い、と喜んでいてな……」

 

 ソフィーアさまが部屋の片隅に丸められている絨毯に視線を向けた。送り主は言われた通りハイゼンベルグ公爵さまからで、ふかふかの高級絨毯が子爵邸に送り届けられ、手紙には出産に使えるようなら使ってくれと書かれていた。

 

 「申し訳ありませんわ、ナイ。辺境伯の名で届けられておりますが……母が話を聞いて、いてもたってもいられず父を説得して贈った品です」

 

 セレスティアさまが困った顔になっているけれど、気持ちは有難いし消費するものなので問題はない。赤子が産まれた時に使うタオルや布を送ってくれたのだが、超高級品である。お返しをどうしようと考えているのだが、とりあえず公爵さまと辺境伯さまと辺境伯夫人に感謝の手紙を送らないと。

 

 『私たちもお礼を述べたいのですが……』

 

 『文字は書けませんし』

 

 『遠出は少々きつくなっております』

 

 『ヴァナルが行く?』

 

 部屋で作業を見守っている雪さんたちとヴァナルが申し訳なさそうに言った。彼女らとヴァナルがお礼に行くと騒ぎになってしまうのではないだろうか。

 公爵さまはどんと受け止めるだろうけれど、公爵家の皆さまが泡を吹きそうである。辺境伯さまも驚くだろうし――夫人だけは喜ぶだろうけど――辺境伯邸で働く人たちが直立不動になりそうである。

 

 「お礼は出産が終わってから、ある程度時期が経ってからで良いんじゃないかな? 無事に仔が産まれることがお礼になるだろうし」

 

 赴くのが大事になるなら子爵邸に招くのもアリだろう。産後の肥立ちが気になるからと言い張れば自然な理由に成り得るのだから。でもまあその前にお礼の手紙を認めなければ、私が……。

 

 「あ」

 

 ふとした思い付きに声が漏れてしまう。周りのみんながどうしたと首を傾げているけれど、話の相手は雪さんたちとヴァナルなので彼らと視線を合わせた。

 

 「手形、じゃないけれど足形取らせてもらって良い? 文字が書けないなら、私が代筆すれば良いし、印鑑もどきは足の形で証明にならないかな?」

 

 私の言葉に雪さんたちとヴァナルが良い顔になってくれた。お礼の手紙は認めるのだし、そのついでに雪さんたちの足形を取らせて頂こう。雪さんたちとヴァナルは良い案だと判断してくれ、尻尾をぶんぶん振っている。

 

 「また騒ぎになりそうなことを……」

 

 「まあナイですもの。わたくしもヴァナルさんの足形は欲しいですわね」

 

 はあと深々と溜息を吐くソフィーアさま。足形を取るだけで騒ぎになってしまうのか疑問である。足形のついた紙に魔力が宿るわけではないし、足形の隣に『ありがとうございました』という文字と共に雪さんたちとヴァナルの名前を書き込むだけである。

 

 セレスティアさまはいつも通りの反応だなあと、少しおかしくなって。そうして暫く産箱がちゃんと『ロ』の形になって完成すると、妖精さんたちが祝福を施してくれた。部屋の角に設置して、公爵さまから頂いた絨毯を中に敷き詰める。直ぐに汚れるから勿体ない気もするけれど、柔らかい方が良いだろう。雪さんたちに居心地を確認して頂きながら改良の余地はないかと話し合っていると、家宰さまが部屋にやってきた。

 

 「ご当主さま。登城して欲しいと連絡が入りました。東大陸の共和国から皆さまが戻ってこられたようです」

 

 彼の声で部屋の空気が引き締まる。ルグレ少年が黒い竜の手により魔術を覚えたと知り、アルバトロス王国からは副団長さまたちが、亜人連合国からはディアンさまとベリルさまが共和国に赴いていた。戻ってきたならば、共和国政府とある程度の話を付けてきたのだろうと『直ぐに参ります』と家宰さまに返事をして、介添えの方々の手を借りて聖女の衣装に着替えるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。