魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
家宰さまから連絡を受け登城すると、近衛騎士の方の案内により会議室に通された。
部屋には既にディアンさまとベリルさま、魔術師である副団長さまの姿があり、宰相さまや公爵さまに辺境伯さまも会議室に続々と姿を現している。アルバトロスのお偉いさん方が集合しているなと感心しながら、黒髪黒目信仰のとばっちりで呼び出された子爵位を持つ聖女がこの場にいるって如何なものだろうか。
まあ、鸚鵡さんと面会したいと願って、黒髪黒目信仰のある共和国に赴いたのだから自業自得だろう。騒ぎになる可能性もきちんと加味していたのだから、今回の件は私を起点に騒ぎが起こってアルバトロスの面々と亜人連合国の皆さまが動くことになったのだし。
文句は言わない方が華だよねと一人頷けば、私の肩の上に乗るクロが小さく首を傾げていた。そうして陛下が会議室の上座に腰を下ろす。
「さて、始めよう。急ぎの報告をしたいとのことで、急遽集まって貰った。アルバトロスの魔術師を共和国へ送り届けてくれた、亜人連合国代表には感謝する」
「いや、事のついでだ。気にするな、アルバトロス王よ」
ディアンさまたちは、黒い竜について情報を集めるために共和国と許可を頂き向こうに赴いた。副団長さまはルグレ少年が洗脳魔術を習得したことで、共和国が混沌に包まれないようにと対策を伝授するために向かったと聞いている。
「して、ルグレと名乗る男の暴走は止まったのか?」
陛下が共和国に赴いていた面々に視線を向けた。そうして向こうに赴いていたメンバーで一番偉い方である、ディアンさまが小さく手を上げると陛下が小さく頷くのだった。
「その件については、ヴァレンシュタインから聞いた方が良いだろう」
ディアンさまは副団長さまへと視線を向ける。いつの間に副団長さまの家名を呼ぶ仲になっていたのだろうか。亜人連合国とアルバトロスの面々の関係が進んでいるならば、喜ばしいことであろう。
「ご指名を受けましたので、僕から説明させて頂きますね」
にこりと笑みを携えている副団長さまが席を立ち、陛下に視線を向けて許可を取る。そうして副団長さまから共和国で起こった出来事を聞くのだった。
ルグレ少年は街頭演説にて聴衆の皆さまを洗脳していたようだ。彼の魔力量が低くて大した効果はなく、同道していた魔術師さまの手に因って洗脳解除できたとのこと。彼のお父上――次期大統領候補――も洗脳を受けており、一番やばい状況だったけれど、対処が早くできたので日常生活に支障はないそうだ。
でも、喋り辛くなってしまい、弁舌を要する政治家には不向きになったことと、息子であるルグレ少年のやらかしの責任を取って政界を引退するとのこと。長く続いた政治家家系の一つが潰えてしまったそうだ。
「共和国上層部が荒れる心配はなさそうです。ただやはり、貧富の差による差別の解消を望んでいるようですねえ」
差別解消を現大統領も考えているようだが、なかなか難しい状況であるらしい。そもそも最大政党は中立を標榜しているので、ある意味日和見主義の集まりである。
ちなみにもっと差別――言っている本人たちは区別と称している模様――を広げようとしている政党もあれば、差別を解消しようとしている政党もあるのだとか。もちろん最大政党が中立派なので、連立政党となるのは難しいようだが、今回の件で一つの希望が灯ることになったそうだ。
「プリエールと呼ばれる少女が大統領と接触を果たし、差別解消に乗り出したようですよ」
副団長さまの言葉に会議室にいる面々が『おや』という顔になる。彼女の名前はアルバトロス上層部では、鸚鵡さんの飼い主として広く知られている。
優しくて真っ直ぐな子だったし、ルグレ少年と恋仲にあったようだが……今回の件で二人は冷めた仲となったようだ。プリエールさんも政治家を目指して活動を始め、ゆっくりと支持者を増やしているとのこと。
学園も卒業しておらず先の話ではあるが、支援者や協力者が増えれば差別解消は夢物語ではなくなる。ただプリエールさんの世代のうちに解消できるのは難しいだろう。こういうものは、かなり長い時間を掛けて人の意識を変えて行くものである。ルグレ少年のように生き急げば、失敗する可能性の方が高い。
「治癒魔術を教えて欲しいと彼女に懇願されましたが、やんわりとお断りしておきました。今の状況であれば不要なものでしょうし、陛下が必要だとご判断されるならば僕たちはまた共和国へ赴く次第です。そして少々懸念しなければならぬことが……――」
副団長さまが笑い顔から困り顔になる。いつも笑みを浮かべて掴みどころのない様子を演出しているのに、珍しいこともあるものだ。どうして困り顔になったのかと思考を張り巡らせようとした時、ディアンさまが小さく手を上げる。
「――そちらは私が説明を担おう」
ディアンさまがゆっくりと席から立ち上がると、お願い致しますと副団長さまが小さく頭を下げて腰を下ろした。陛下も文句はないようで、なにも言わずに小さく頷くのみだった。陛下が認めてしまえば、アルバトロスの面々が否を唱えるはずはなく。ディアンさまによる説明が始まる。
「先ず、結論からだ。子供が肩の上に乗せていた黒い竜は亜人連合国所属の者ではない。逃げた黒い竜と話を交わした彼によると人間を喰ったらしい」
嫌な話をしてすまないなとディアンさまが付け加えた。ルグレ少年が従えていた黒くて小さな竜は、ディアンさまたちを確認するなり逃げてしまったそうだ。
竜を失ったルグレ少年は為す術もなく、一人取り残されてディアンさまとベリルさまと副団長さまに魔術師の方々に取り囲まれながら、ディアンさまと一対一の対話を行ったとのこと。
話をしている途中でルグレ少年がディアンさまの圧に負けて気を失い、共和国上層部によって連行され隔離処置をうけたそうだ。副団長さまが悪さをこれ以上しないようにと、魔力制限の掛かる魔術具の指輪も渡しておいたとか。
一方で、ベリルさまは逃げた黒い竜を追いかけたものの、巨大化した黒い竜は街を背負っていたベリルさまにブレスを吐いて攻撃したようだ。
ベリルさまは自身が避けてしまえば共和国の街に大きな被害が出ると判断して、身を挺して受け止めたとのこと。怪我は大したことはないようだが、本当に大丈夫だろうか。ちらりと彼を見ると、お腹の辺りを押さえて困ったような顔になっていた。本当に大丈夫なのか心配なので、後で確認を取ろうと頭に刻み込む。
「どうにも黒い竜は人間に従属の魔術を施されているようだ。ある程度、自由は認められているものの、主の意志には逆らえまい」
「街に平気でブレスを打ち込むことができる竜です。各国に注意を促すように手配しております。ただ我々は伝手が少なく、情報を渡せる国も限られてしまいます」
ベリルさまが椅子から立ち上がりディアンさまの言葉を継いで、アルバトロス王国からも各国へ警告を促して欲しいと目を伏せた。取り逃してしまったことを重く捉えているようだし、いつもの飄々とした雰囲気が消えている。
「捕り逃してしまった私が告げるべき言葉ではありませんが、南の島で黒天馬を襲った竜ではないかと推測しております」
あと空飛び鯨も、とベリルさまが付け加えた。
――あ?
彼の言葉を聞いた瞬間、頭の中が沸騰する。まさか共和国に捕まえるべき相手がいたとは。一度、お話してルカと無害な空飛び鯨さんを傷つけた理由を聞きだしたい所だし、主がいるというならば何故止めなかったのか、もしくは命を下したのか聞きださないと。
「ナイ、落ち着け」
後に控えているジークが私の耳元でそっと呟いた。彼の言葉にはっとして周りを見ると、どうやら魔力を盛大に垂れ流していたらしい。
陛下方を始めとしたアルバトロスの面々は顔が引き攣っているし、ディアンさまとベリルさまは私の怒りは尤もみたいなスタンス。副団長さまはあらあらまあまあみたいな顔で私を見ている。珍しくクロが私の魔力が漏れていることに言及しなかったのは、空飛び鯨さんやルカを慮ってのことだろうか。
「ありがとう、ジーク」
とりあえず魔力が暴走しかけたことを止めてくれたジークに感謝を告げ、失礼しましたと皆さまに頭を下げた。
「共和国の問題が粗方片付いたようだが、新たな不安要素が発生したな……だが、黒い竜の主の足取りや存在を掴めていないのだろう?」
陛下が仕切り直しとばかりに声を上げた。そういえば私の父親騒ぎの時に妙な人が紛れ込んでいたなあと、珍しく私の頭が働いた。もしかして、と副団長さまの顔をみるとにこりと笑みを浮かべてくれる。
「ああ。すまないな」
「申し訳ございません。最後まで追いかけることができれば、相手の素性をもっと分かったのですが……」
ディアンさまとベリルさまが謝罪を口にすると、陛下が気にするなと仰った。とりあえず、あの怪しい人の存在を浮上させておかないと、みんなが見逃してしまいそうだと小さく手を挙げて発言許可を取る。
「以前、わたくしの父親騒動の際に、副団長さまとわたくしだけに存在をちらつかせた魔術師が怪しくないでしょうか?」
私の声に会議室に集まった面々がどよめき立つ。隣近所に座している方たちと、言葉を交わしていた。でも、不確定要素だし決まったわけではない。副団長さまは良く気付きましたというような顔になっているのだが、もしかして今の今まで問題視していなかったのだろうか。
私が気付かなければ流石に報告するだろうけれど、副団長さまの考えがイマイチ読み辛い。
「確かに怪しいが、まだ確証はない。それにミナーヴァ子爵やヴァレンシュタインに興味を持っているとなれば、必ず接触を試みよう」
陛下が私の言葉を聞いて、決まったわけではないと告げてくれた。もし、共和国で魔術を広めようとした竜がルカと空飛び鯨さんを傷付けたならば。もし、私と接触を試みるのならば、手加減は必要ないなと一人静かに心の中で頷くのだった。
◇
――会議から数日後。
少々由々しき事態となっているので、共和国に向けて急いで手紙を認めた。もちろんアルバトロス上層部の許可を取っているし、アルバトロスからもお願いの書面を送って頂く。
内容は、黒い竜についてルグレ少年から直接聞きだしたいというもの。とはいえ、向こうに赴くと黒髪黒目信仰のために騒ぎになると面倒だから、ルグレ少年をアルバトロスに連れてきて欲しいという随分と上から目線の手紙だ。難癖を付けられれば、私が共和国を訪れていると国民の皆さまへ情報漏洩させたから信頼できません、と突っぱねるつもりではある。ただ、そうなるとルグレ少年と話ができないので、匙加減が難しい所だった。
妙な魔術師の気配もするし、アルバトロス王国の障壁展開は通常よりも広範囲のものとなっている。私が以前、お城の魔術陣を破壊したことで術式の燃費が良くなっているので、そんなに負担にはなっていないそうだ。
術式を破壊した時は心底申し訳ないと反省していたけれど、棚から牡丹餅というか怪我の功名というか、良い方向に働いて良かったとみんなと話していた。
亜人連合国の竜の皆さまも西大陸の警戒を強めると言って、許可の出た国の上空を警戒飛行している。巨竜の方か飛行速度が速い竜の方が担っているそうで、疲れたなら王都に寄って欲しいと声を掛けていた。魔力が欲しいと飛来した方はいないので、大事にはなっていないようだった。
とまあ、会議の内容と今後を子爵邸の執務室で話している所である。メンバーはいつもの面子なのだが、珍しい人がいる。共和国で当人も関わっていたのだから別に構わないけれど、少し前に話があると言って姿を見せたのだ。そのついでに共和国の話になったとも言えるけれど。
「兎にも角にも、共和国の出方次第か」
「そうですわね。ルカさまや空飛び鯨を襲った者を許せるはずがありません。ナイ、ここは厳しく参りましょう」
ソフィーアさまとセレスティアさまが真剣な顔で仰るし、今回は黒い竜がルカを襲った当事者かもしれないので厳しくいく予定である。家宰さまは頭脳派なので荒事に口を出す機会は少ない。私たちから意見を求められれば答えるというスタンスをずっと取っている。
「そうですねえ。貴重な天馬を傷付けるなど言語道断。黒い竜は亜人連合国所属ではないようですし、代表殿も人を喰べた竜は碌なことをしないと仰っていたので遠慮は必要ないかと」
珍しい人が割とノリノリで仰った。内容が物騒だけれど、副団長さまが本気を出せば竜を消し炭にすることが可能なような。言いたくはないが、一年生の合同訓練でフェンリルを霧散させたのだし……。
しかしまあ彼が子爵邸内にいるのは珍しいのである。時折、お猫さまや雪さんと夜さんと華さんの様子を伺いにくるけれど、基本はエルとジョセと天馬さまの分布図や生息域を調べ、どうすれば効率的に個体数が増えるかと頭を悩ませているのに。
「副団長さま。話は変わりますが、どうしてこちらに?」
「いえね、噂をお聞きしたのです」
彼と出会ってから二年が過ぎている。副団長さまはお貴族さまであるが、貴族より魔術師のイメージが強く、割と砕けた態度で話している。彼も気にすることはないし、今の状況であれば私の方が爵位が高いので周りの方たちも問題にしない。魔術の先生と弟子という関係でもあるし、ロゼさんと会わせてくれた人なので、副団長さまとの関係は良好といえよう。
「噂、ですか?」
なにか噂なんて流れていただろうか。ここ数日は黒い竜の話で持ち切りだし、アルバトロス王国も亜人連合国も少々空気が張っているのだが。とんでもない噂でも流れていれば面倒なことこの上ないなあと、副団長さまの金色の瞳を見る。
「ええ。とても大事な噂です」
「その大事な噂とは?」
知らないのだから、聞いてみないと判断できない。副団長さまは勿体ぶっている気がするけれど、どうしたのだろう。
「ヴァナルくんやフソウの神獣さまの足形を取ると聞きつけました! 僕も彼らの足形が欲しいのです!」
凄く前のめりに副団長さまが告げた。噂というよりは……ほぼ個人的な情報ではないだろうか。私室の隣の部屋で産箱を組み立てていた時に、なんとなくこんなことができると良いね、と雪さんたちとヴァナルと話していただけなのに。
大したことではないので良いけれど、漏らしたのは一体誰だろうと辺りを見渡す。というか、セレスティアさまではなかろうかと彼女へいの一番に視線を向けると、扇子を広げて口元を隠し視線を逸らされた。犯人は直ぐ隣にいたよ、と少し呆れつつ……彼女も自制は利いているはずだから誰彼に吹き込んではいないはず。
「ヴァナルと雪さんたちが構わないというなら、良いと思いますが……」
副団長さまが欲しいと仰ったのは、どうやら資料目的のようだ。生態を調べており、できることならエルたちのものも欲しいと仰った。
私が勝手に反対するのはよろしくないので、当事者の皆さまが良いのであれば問題はなかろうと副団長さまに告げると、至福の表情を浮かべている。本当に欲望に忠実な方だけれど、学術調査みたいなことも兼ねているので文句は言えなかった。
『ナイ、ナイ』
クロが私の名前を呼んで、視線が合う。
「ん、どうしたのクロ?」
『ボクもボクの足形取ってみたい。どんなものか興味ある』
「まあ足の裏ってなかなか見えないからねえ。ヴァナルと雪さんたちと一緒に取ろうか」
四足歩行の生き物が自分の足の裏を見ることってないのだろう。クロは自分の足の裏が気になるようで、確かめるつもりらしい。クロが足形を取ってみたいという言葉に凄く、すごーく反応した方が二名いた。自分で聞く気はないようで、私に縋るような視線を送ってくる。
「えーっと……クロ、副団長さまとセレスティアさまの分もお願いして良い?」
『ん? 構わないよ。でもボクの足形なんて欲しいものなの?』
クロの疑問に答える術を持たない私は、恍惚の顔をしているお二人に自分たちで説明してください、という視線を向けた。
「物凄く価値があります! 竜の足形を取った人間は過去に一人もおりませんから!」
副団長さまが凄くテンション高めに言い切った。確かに竜の足形を取った人間なんて、酔狂者とか変わり者の類になるだろう。
「クロさまのお可愛らしい足形を手に入れる機会など……この先一生ありませんわ!!」
セレスティアさまがご令嬢さまとしてキリっとした顔で言い切った。クロにお願いすれば、いつでも手に入れられそうだけれど……言い出し辛いのか。先ほどまでの不穏な空気はどこかに消えていた。日常は流れて行くのだから、四六時中気を張り詰めていても疲れるだけだと気持ちを切り替える。
「フソウに手紙を書かなきゃいけませんし、副団長さまもセレスティアさまも忙しいでしょうから、今からでも良いですか?」
私の言葉にお二人が凄い勢いで頷いた。相変わらずの師弟コンビだなあと小さく息を吐けば、ソフィーアさまがいつの間にか側にいて、私の耳元で囁いた。
「ナイ……すまないが、頼みがある」
凄く申し訳なさそうな声で、エルたち天馬さまの足形を貰えないだろうかとお願いされた。おそらくソフィーアさま本人が欲しい訳ではなく、エルの背に乗って嬉しそうにしていたギド殿下のためだろう。
ソフィーアさまとギド殿下はゆっくりと距離を詰めているようでなにより、とエルたちの許可が下りればと返すと、彼女はほっと安堵の息を吐いて私にお礼を告げる。
「じゃあ、部屋に行きましょう」
そうしてみんなを引き連れて自室に戻って産室に足を運ぶと、部屋が気に入っているのかヴァナルと雪さんたちが出迎えてくれた。
「お腹、大きくなったよね」
ぺたぺたと絨毯の上を歩いて雪さんたちがこちらにくる。ぺたんとお尻を下ろしてお座りの体勢で、私の顔を見上げる。
『もう一ケ月も経てば産まれてくるかと』
『この胎にいくつ命が宿っているか分かりませんが……』
『仔ができるというのは、こんなにも愛おしい気持ちになれるのですね』
子供を産んだことはないので母親の気持ちは理解できないけれど、ジョセの出産や竜の卵さまが孵る瞬間に立ち会ってきた。今回も無事に元気で生まれてきて欲しいと、彼女たちのお腹をゆっくりと撫でる。
『タノシミ。でも雪と夜と華の方が大事。ムリ、しない』
ヴァナルも初めての子供だから父親として、待ち焦がれているようだ。ヴァナルであれば子煩悩だろうし、子育ても心配していない。
副団長さまがいくつか雪さんたちに質問をして、母体に問題はないと判断していた。こういうところは本当に副団長さまは頼りになる。犬や猫の出産記録やらを探して、知識を身に着けたようで私より詳しかった。
「前に言ってた足形取ろうと思うんだけれど良いかな?」
私の声に構わないと彼らが頷いて、用意していた道具を持ち込み、足裏にインクを塗り付ける。木の板の上に真っ白な紙を置いて、先ずは雪さんたちの脚裏をぺたり。
「あ……」
私が短く呟くと、雪さんたちも『あらあらまあまあ』と声を上げた。長毛種だから肉球の間から生えた毛によって、綺麗な肉球の形が取れなかった。
「ちょっと肉球の間から生えてる毛が邪魔かな……切っても良い?」
もう一回取るよりも、ちゃんと生えている毛をカットして押した方が綺麗に取れるとお願いしてみる。問題はないようで、正座した私の膝上に足を乗せて貰って、肉球を傷付けないように毛を切っていく。
「神獣の足裏の毛を刈る聖女……」
「凄い光景ですわね。ナイが羨ましいですわ」
「触れることができるのは聖女さまくらいでしょうねえ」
ソフィーアさまとセレスティアさまと副団長さまがしみじみと呟くけれど、欲しいと言い出したのはどこの誰だろうか。ジークとリンは、こういうシーンに慣れているので、静かに見守っているだけだ。
「綺麗に取れたね。次はヴァナルの番だよ」
呼ばれたヴァナルがくるくると私の周りを何度か回って、落ち着く位置で伏せをして私の膝上に前脚を置く。雪さんたちより確りとしている脚に男の子だなあと感心しながら肉球の間から生えている毛を綺麗に切り取って……ぺたり。
不思議そうに見ているヴァナルや雪さんたちに苦笑して、彼らの名前を紙に書き込んで『産箱、綺麗に出来上がりました』と記すのだった。
そうして、クロにエルたちの足形を取る。欲しいと希望した人は望みの足形を持って帰っていた。私も私でみんなの足形をもう一度取って、部屋の片隅に飾るのだった。興味で参加したロゼさんだけ、ただの丸だったけれど。