魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんの肉球の間から生えていた毛は、副団長さまが嬉々として回収していった。ちなみにセレスティアさまも副団長さまを説得して、毛を少々頂いていた。
換毛期に入ればもっさりと毛が手に入るのに、と告げれば、抜け落ちた毛と切った毛では意味合いが違うらしい。よく分からない理屈だなあと首を傾げながら、共和国政府に出した手紙のお返事が戻ってきたのである。
割と早い対応だなと感心しつつ、プリエールさんにも鸚鵡さんは元気かと状況確認の手紙を送っていた。彼女からの返事は鸚鵡さんのことのみが記されており、ルグレ少年の愚痴などは書かれていない。多少の愚痴くらいは聞くのに、どうやら『内政干渉だ』と私が言い切った台詞を気にしているようだった。いや、まあ、彼女から解決して欲しいと望まれても困るけれど。
ルグレ少年には黒い竜について是非ともどんな竜だったのか教えて頂きたいものである。
ベリルさまに怪我を負わせている――卑怯な手段だったけれど――うえに、魔術について詳しくない共和国の人に魔術を教え、洗脳しようと試みたこと。
主人もいるようなので、主人についてなにか知っていると良いのだが……そんなに上手くいくかなという気持ちもある。
立ち止まっていては前に進めないので、たとえ無駄だとしてもルグレ少年から話を聞いた方が良いだろう。向こうが私を下に見ている節があるので、不遜な態度で挑むことになるけれど。
うーん。前世の不良時代の言葉使いに変えてみようか。でも、アルバトロスの皆さまが同席しているので『ミナーヴァ子爵がご乱心!?』なんて事態は避けたい。地方在住だったことと方言が汚い地域だったので、かなり口汚く罵れる自信がある。
共和国の方々にどう思われようと関係ないが、アルバトロスの皆さまに恐怖の大王さまが降臨したと思われると複雑な気分になってしまう。竜を差し向けた記憶もあるが、あれは私が働いたお金を盗んだ方たちが悪いのだからノーカウント。
――で、みんなの足形を取った一週間後。
ルグレ少年がアルバトロスにやってきた。やってきたというより、亜人連合国のディアンさまとベリルさまが共和国に向かい、ルグレ少年と共和国政府の皆さまを引き連れてきた、という方が正解である。
本当は海を渡り西大陸へ上陸した後、陸路でアルバトロスまで赴くのが正規ルートであるが、黒い竜の情報を手に入れたいがために、ディアンさまとベリルさまがあちらの国へ赴いたのだ。ベリルさまの負傷は綺麗に治って飛行は問題ないそうだ。大丈夫ですか、と彼と話して治癒を施したのだが、ディアンさまが微妙な顔を浮かべ、ダリア姉さんとアイリス姉さんも微妙な顔をしていた。
子爵邸の自室で着替えを終える。介添えの侍女さんたちが私の今日の衣装に首を傾げているけれど、特に突っ込まれることもなく登城する準備が整った。部屋を出て廊下で待機していたジークとリンに合流する。ジークの肩の上には幼竜さんが、リンの肩の上にはクロが乗っている。
雪さんたちとヴァナルは最近、産室で過ごすことが多くなっているので、ヴァナルの頭の上が準定位置であるロゼさんは少し寂しそうだ。
『聖女の服じゃないんだね』
クロがリンの肩の上から飛び上がり、私の周りを何度か飛んで肩の上にゆっくり降りる。
「うん。聖女の衣装だと、共和国の方々に信仰の対象として見られかねないから」
登城するのだが、今日は聖女の衣装を纏っていない。理由はルグレ少年に聖女と知られたくないからである。共和国の方々にも見せたくない恰好ではあるが、一番見て欲しくないのはルグレ少年だ。
碌なことを言わないだろうし、彼の寿命を彼自身で縮めそうなので、お貴族さまが仕事着として着る服を選んだ。貴族のご令嬢ではなく当主なので、パンツスーツに近いものである。身長がもう少し高ければ恰好がついただろうけれど……まあ仕方ない。ジークとリンも以前共和国に赴いた際に着用していた、黒い教会騎士服もどきだった。
『確かに厄介なことが少しは避けられるのかな?』
クロがこてんと首を傾げ、ジークとリンが一歩前に出る。幼竜さんはジークの肩の上でじっとしているし、私を気にしている様子はない。少しづつ距離を縮めているけれど、まだ手は出せなかった。
「減ると良いんだがな……」
「失礼なあの男は、またナイになにか言うと思う」
ジークは困った様子で、リンは少々怒っているようであった。巻き込まれるのはいつものことだし、仕方ないんだけれど……言葉を賜るだけで状況が改善できると認知している思考はどうにかならないものだろうか。
ただ、ルグレ少年は共和国政府の皆さまに目を付けられている状態だし、副団長さまが魔術を使えないように魔力制限の掛かる魔術具を渡しているそうだ。副団長さまの見解だと、ルグレ少年の魔術はアルバトロスに住まう人たちであれば術中に陥ることはないだろうと教えてくれた。
兎にも角にも情報を手に入れに行きましょうと、子爵邸の地下室に降りてアルバトロス城へと転移し、出迎えの近衛騎士さまと共に、ソフィーアさまとセレスティアさまとも合流する。
「ナイ、上層部の方々になにを頼んでいるんだ……却下されているぞ」
「わたくしは彼の者にお似合いの場所だと考えますが、まあ、聖女の貴女が赴く場にふさわしくないのでしょうね」
ソフィーアさまが微妙な顔で、セレスティアさまが少し残念そうな顔で仰った。彼女たちの横にいる近衛騎士さまも事情を知っているようで、私から視線を少し逸らしていた。
ルグレ少年と面会できると聞いて、面会場所を拷問部屋にできませんかとアルバトロス上層部に問い合わせていたのだが却下されたらしい。セレスティアさまの言葉から推測できるように、聖女の私には不釣り合いな場所と判断されたか、共和国側を慮ったのか、どちらかであろう。却下されたなら仕方ないけれど、まあ面会場所は来賓室のような、高貴な方を招く場所ではないことは確実だった。
案内役の近衛騎士さまを先頭にみんなで列を成して歩いて行く。道行く人とすれ違うのだけれど、何故か視線を向けられる。ここ最近は私が城内をウロウロしても、見られることは少なくなっているのに今日はどうしたのだろうと首を傾げるが、いつもの聖女の衣装ではなかった……。
「似合わないのかな……?」
ちんちくちんの私がぴっちりとしたスーツ系の服を着るのは少々滑稽なのだろう。ソフィーアさまとセレスティアさま、リン辺りが着れば凄く格好良く着こなすはず。つい、愚痴のようなものが口から漏れて、クロがぐしぐしと顔を擦り付けた。
『そんなことないよ』
「珍しいだけだろう」
「聖女の衣装以外で城に赴いたことなど、ほぼないのでは? 皆さまの視線は仕方ありませんよ、ナイ」
クロとお二人に気にするなと言われるけれど、今日の視線の刺さり具合はお尻がむず痒くて仕方ない。面会場所までの我慢かと気持ちを切り替えて、顔を真っ直ぐ前に向ける。
今回の面会はルグレ少年が私にどんな言葉を吐いても、共和国の責任にはならないと取り決めをしてある。共和国の責任となると、彼らの頭が不毛地帯と化しそうだからアルバトロス上層部にお願いしておいた。もちろんルグレ少年と共和国政府がグルだった場合は許されないけれど。
「ミナーヴァ子爵、こちらの部屋となります」
近衛騎士さまに案内された先は、お城の警備の厳しい場所ではあるが、豪華とは程遠い質素な広い部屋だった。こんな部屋あったのだなあと感心していると、手錠を掛けられたルグレ少年と共和国政府の皆さまが私を待っていた。
アルバトロス上層部からも外務卿さまと書記官さま、何故か公爵さまと辺境伯さまもいらっしゃる。後ろ盾のお二人は私が聖女の衣装を纏わないことを知っているけれど、珍しいのか目を細めてまじまじと見ている。そのうち見飽きたのか視線を外して、共和国政府の皆さまへと視線を変えたけれど。
ディアンさまとベリルさま、ダリア姉さんとアイリス姉さんも同席しているので、共和国政府の皆さまが少し驚いていた。
「ごきげんよう。またお会いしましたね」
にっこりと笑みを浮かべてルグレ少年と視線を合わせた。私の肩の上にいるクロがびくりと身体を揺らす。一応、寸劇の手順はルグレ少年以外には知れ渡っている……ので、開口一番に口を開いたのは誰でもない、私であった。
「…………」
こってりと共和国の皆さまに絞られたのか、ルグレ少年は黙ったままである。思いを口にしないのであれば私の都合を優先させて頂くと、もう一度口を開く。
「貴方さまにいくつかお聞きしたいことがございます。質問を宜しいでしょうか?」
聞きたいことは黒い竜についてである。共和国側も聞きだしているので意味は薄いかもしれないが、聞き取り役が変わるので新たな発見があるかもしれない。
「……何故、一方的に問われなければならないんだ。公平を期すなら、互いに一問一答だろう!」
公平もなにもないし、ぶっちゃけると平民とお貴族さまであるのだが……まあ、良いか。転生者であり共和国は身分制度のない国だから、貴族と平民の差を理解し辛いのかもしれないし。共和国の皆さまが青褪めた顔になっているけれど、彼らに文句を付けることはないので安心して欲しい。ルグレ少年を助けようとする輩がいるならば、その人は容赦しないけれど。
「良いでしょう。では、そのように。貴方からの提案です、必ず一問一答、そして問いかけにきちんと答えて頂くようにお願い致します」
逃げた答えはナシだと強調しておく。
「もちろんだ。俺が持ちかけたものだからな」
取引に思えたのならば幸せだなあと目を細めて、一問目はド直球に聞いてみようかと口の端を歪に伸ばす私であった。
◇
ルグレ少年と一問一答の受け答えをすることになった。
ちなみに、であるが……ディアンさまとルグレ少年が相対した時に、彼の魔力で少年が気絶したと聞いたので、アルバトロスの面々と亜人連合国の皆さまは魔力制御の魔術具を身に着けている。魔術師団から借り受けたのだけれど、副団長さま曰く……私は一個では足りないので三個ほど身に着けておけば共和国の皆さまが、放出された魔力に因って気絶することはないだろうとのこと。
ルグレ少年に気を遣う必要はないのだが気絶して逃げられても困る。なので普段付けている魔術具と、借りた魔術具が指に鈴生り状態だった。
床に手錠付きで膝を突いているルグレ少年を見下ろし、私は椅子に腰を下ろす。今回は演出上、周りの皆さまに許可を得て、私だけが着席を許されている状態だ。部屋には豪華な椅子が一脚だけ置かれ、あとは石造りの床が見えているだけ。
陛下がこの場にいればできないけれど、彼は報告待ちなので私は成果をきちんと持ち帰らなければ。大仰に足を組みたい所だが、微妙に椅子から足の踵が浮いているので恰好が付かないと諦めた。
「さて、どちらから質問を致しますか?」
一問一答のやり取りで、先攻と後攻ではどちらが有利になるのだろうか。分からないけれど、確実に分が悪いのはルグレ少年である。なので私はどちらでも良い。
「なら、俺からだ。どうして俺の願いを叶えてくれなかった」
むっとした顔でルグレ少年が私を見た。うーん……公爵さまほどの眼力はないし、陛下のようなどっしりとしている気配もない。ソフィーアさまとセレスティアさまが怒っている時の方が怖いし、ジークとリンの戦闘中の張り詰めた空気のようなものも感じられなかった。
「以前にもお伝えした通り、共和国への内政干渉となってしまうからです」
彼の願いを叶えても、碌な展開しか起こらないだろう。仮に『差別をなくしましょう』と私が声を上げ、共和国の方々が意見を汲み取った所で一時のものだろう。時間が過ぎれば、言葉によるまやかしなど消えてしまうものだ。だから共和国の誰かが立ち上がり、御旗を掲げるしかないのである。
「あんたが声を上げてくれれば、こんなことにはならなかった! プリエールは必要のない苦労を背負うことになっている。どうしてくれるんだ!」
ルグレ少年が語気を強めたことで、共和国の皆さまの顔がまた青褪めた。今回ばかりは、彼が不遜で傲慢な態度を取ろうとも共和国政府を責めないと取り決めているのでご安心を。まあ、気が気じゃないことも理解できるけれど……。
「どうもこうも。私は共和国の者ではないので関係ありません。ところで一問一答に既になっておりませんが……まあ、いいでしょう。貴方は私の年齢をいくつだと判断しておられますか?」
目の前の少年は直情型だよなあと小さく笑い、質問を投げる。共和国から提供された情報によるとルグレ少年は私と同じ十七歳だ。背の低さと顔の幼さで判断していないかなあと、まずは簡単に答えられるものから初めてみた。時間は十分にあるのだし、お互いにお互いの理解を深めていこうではないか。
「十二歳前後だろう。何故、黒髪黒目の者が内政干渉をしては駄目だと決めつける? 共和国は黒髪黒目信仰だ。別に構わないだろ……それくらい……」
答えを聞いた瞬間に、ちょっとイラっとして頂いた魔術具の一つに皹が入った。そうか……私の外見ってそんなに幼く見えるのか。共和国の方々も背の高い方が多いので、見た目がちんちくりんで申し訳ねえなと目を細める。というか最後の方の小声は彼の本心だろう。安易に考え過ぎだと溜息を盛大に吐きたかった。
「私はアルバトロス王国の子爵位を持つ貴族です。他国に介入するような言動を取れば、共和国政府から宣戦布告とみなされても仕方ありません。なので、内政干渉はしないとあの場で申したのです。――貴方は貴族と平民が区別されることをどう捉えていますか?」
私も一答になっていない気がするけれど、きちんと伝えておかないと目の前の少年が誤解しそうである。一答ではないと、突っ込みも入らないし良いかとスルーを決め込んだ。
「なくすべきものだろう。区別をしてどうなるんだ……アンタは下に置かれている者が可哀そうだと思わないのか?」
前世の記憶を持つ身としては、身分制度はない方が良いに決まっている。けれど……識字率も悪い、簡単な四則演算もできない、教育も行き届いていない所で、今から身分制度を廃止して、次から選挙戦だと言われても、平民の方のほとんどは理解できない。
こういうものは時間を掛けて教育水準を上げ、王政制度の是非を自分たちで考えられるようになってからの話である。
「全く。区別や差別されていることを嘆くのであれば、自分たちで立ち上がり訴えていくべきでしょう。逆に立場がある者が嘆いたのであれば、改善できるように動けば良いだけ。文化が未成熟故にそうなるには程遠いようですが……――貴方は私になにを求めているのですか?」
全く、は言い過ぎなのかもしれないが、同情したところで目の前の少年に着け入れられるだけ。なので余計なことは言わなかった。
「くどい。俺がアンタに求めていることは『共和国で差別がなくなるように』という言葉一つだけ。それ以上求めちゃいない。――たったこれだけで良いのに頑なに拒むのは何故だ?」
そういえばディアンさまの問いかけに答えたあと、少年は気絶したのだっけか。もう一度、ディアンさまと同じ問を投げかけてみるのも一興かと、口を開く。
「そちらこそ、しつこいのでは。私の答えは先ほど申した通りです。――もし私が『共和国で富める者と貧しき者の差をもっと明確にしろ』と告げれば貴方はどうするつもりなのですか?」
「言わなきゃ良いだろう。知らない方が幸せ――……」
どうして思ったこと、考えたことを全て口に出してしまうのだろうか。黙っておいて体裁を整えれば多少はマシな展開になっただろうに。もう話をしても無駄だと判断して、イラっとした気持ちを晴らすように体の中の魔力が渦巻けば、借りた魔道具三つが全て壊れた。あとで弁償しなければ、と頭の片隅に置いておく。
よし、プラン変更である。椅子から立ち上がって、リンの腰からカストルを抜いた。話しても進展する気配はないし、目の前の少年と同じく手荒な手段を取りましょう。
私の行動は事前に伝えてあるので誰も動かないけれど、事情を知らないカストルとレダが『こんな小者斬りたくない!』『ああん、マスター! そのような剣よりわたくしを使ってください!』と抗議した。
突然の声に共和国の面々が驚く。剣で脅すこともあるだろうけれど、斬る価値のない人間を斬る気はないのでご安心くださいねと言ってあるのだが、剣が喋るとは思わなかったようだ。竜やエルフがいる世界だし、かなり驚いているのは文化や大陸の違いからだろう。とりあえずカストルが重いので『軽くなって』と伝えるとカストルは私のお願いに従ってくれた。
「――身勝手過ぎますね。茶番は終わりにしましょうか。斬られる前に答えてください。黒い竜の行方は?」
「……知らない! あのドラゴンは勝手に逃げたんだ! 俺はなにも知らない!」
首元にカストルを突き付けると、少年の口から『ひっ』と呼気が漏れた。カストルには悪いことをしているけれど、もう少し我慢してくださいな。
「得体のしれない竜の言葉に惑わされ、魔術を身に着け共和国の方々の身を危険に晒したのですね。知らない者の言葉に誑かされてはいけないと、幼い頃にご両親に教えられているはずでは。私のような子供でも理解しているのですが?」
嫌味発動である。さて、少年が認めてしまえば私以下、ようするに十二歳以下のお子ちゃまであるし、認めなければ首が飛んじゃう危機である。どうでるかなーと、恐怖で震えている少年に向かって微笑みを浮かべる。きっと悪い顔をしているのだろう。
「俺が子供?」
「ええ。身形は大人と遜色なくとも、心は子供でしょう。貴方が我が儘を通し、無茶をして共和国政府の方々は迷惑を被っております。例えば、此度の遠征費用が幾らかかったと貴方は知っておりますか?」
子供に諭される気分ってどんな感じなのだろうか。惨めに感じて反省してくれるのであれば、こうして話している価値は多少なりともあるけれど。
でもなあ……ルグレ少年のやらかしが酷いし、正直彼がどうなっても知らない。ただ反省していなければ、罪に対し罰を与えてもあまり意味はないので、今回のことをきちんと理解した上で共和国からの制裁を受けて欲しいものである。私たちは黒い竜の情報が欲しいから、この場を用意しただけだから。
「知る訳がないだろう。俺は勝手にアルバトロスに連れてこられただけだ……」
「ふう。本当に知らないことは幸せですね。貴方が魔術によって共和国の方々を術中に掛けました。アルバトロスの魔術師が魔術を解除した費用も知らないのでしょうね」
共和国の方に視線を向けると、一人の男性が一歩踏み出してルグレ少年が大立ち回りしたことによる被害額がどんどんと告げられる。一個人で補償できない金額だし、大物政治家の家系でも厳しい額ではないだろうか。
実家の資産額がどれほどのものか知っているのか疑問だが、割と巨額になっているので彼も知っておくべきだろう。顔色がどんどん悪くなるルグレ少年に追い打ちをこれ以上かけても意味はないが、黒い竜について洗い浚い喋って頂かなければ。
「もう一度問います。いえ、知っていることを全て吐いてください――黒い竜についてお話しください。私の大切な方が黒い竜によって傷付けられているのです」
「アンタの大切な存在なんて知らない。俺だって大切な子を助けるために動いたのに、アンタに断られた。なんで教えなきゃいけないんだ……」
はっ、と鼻で笑われて、私の中でなにかが切れた気がする。あー……男がアルバトロスと亜人連合国のメンバーの魔力により、気絶しないように副団長さまが手を打ってくれて良かったと安堵する。
「…………――」
手からカストルが床に落ち、かたんと硬質な音が鳴ったと同時。腕を振り上げて、少年の鼻頭に真っ直ぐ右手を打ち込んでいた。
痛みから直ぐに立ち直りにやりと笑った男を見て、私の右手だけがジンジンすることに更に腹が立ってきた。それじゃあ遠慮なくと、右足を上げて金的狙いで、思いっきりつま先をねじ込むように狙いを付ける。
『ナイ!』
「ナイ、この男を殴っても黒い竜の居場所や情報を得られることはない」
「殴るなら私がナイの代わりに殴るよ」
蹴りを入れようとした瞬間、クロとジークとリンの声が耳に届いて男を遮るように前に出た。
「ごめん、今回は止めないで……自分で殴る」
イライラとしている所為か、漏れ出る魔力によってゆらゆらと髪が揺れる。男が『ひっ』と声を漏らすけれど気絶できないようで、更に魔力を出して脅しているとカツンと床を鳴らす音がした。
「もう止めておけ、ナイ。情報を吐かせるなら専門の者に任せればよかろう」
公爵さまの声で少し落ち着きを取り戻す。腹立ち紛れに誰かを殴ってもスッキリしないことは前世で学んでいる。世の中ままならないなあと公爵さまを見て、ひとつ頷くのだった。
『誰かー! 床に落ちたままの俺を哀れに思って!?』
【お知らせ】魔力量歴代最強な転生聖女さま~の第二巻が12/5に発売となります! 各書店さま、通販サイトさまで予約受付中です! 内容はWEBからの時系列入れ替え、建国祭の婚約破棄事件一万七千字を取り下げて、四万字弱書き直しております!
三巻を書きたいので皆さま、どうぞよろしくお願い致します!┏○))ペコ