魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
朝、学院へ行く前にアリアさまとロザリンデさま、エルとジョセとルカとジアにヴァナルと雪さんと夜さんと華さんの仔が無事に産まれた、と報告すると凄く喜んでくれた。
アルバトロスも亜人連合国もフソウの皆さまも喜んでくれているし、学院でも特進科の皆さまが喜んでくれるはず。案の定、盛大に喜んでくれたのは彼のお方で、早く授業が終われと願っているようで、トレードマークのドリル髪がわさぁと広がっていた。
特進科三年生に所属しているメンバーは割と高貴な方々が多い。公爵令嬢さまに辺境伯令嬢さま、近衛騎士団団長子息に、聖王国の大聖女さま、隣国の第三王子さま、聖女のアリアさまと貴族位を持っている私。
メンガーさまは伯爵家の三男坊で先に上げた人たちと少々線引きされている……というか、メンガーさまが空気を読んで一歩引いていると言うべきか。彼がこの輪の中に入れないことをフィーネさまが気にしていることが丸わかりで、彼女の様子に気付いたソフィーアさまとセレスティアさまが手を回したようである。
放課後、凄く微妙な顔をしたメンガーさまとマルクスさまとギド殿下が肩を並べて、女子組と混ざることになる。
「…………」
居たたまれないメンガーさまと、苦笑いを浮かべているギド殿下に今の状況を軽く捉えているマルクスさまの差が面白いけれど、いきなり高位グループに連れ込まれた彼の気持ちは理解できる。私も一年生の頃ならば、今の彼のような気持ちになっていたはず。
でも、メンガーさまと話を直接できないこともあり、遠回りにお誘いすることもあるので、近くにいて頂いた方が良いのは誰がみても明らかで。それにフィーネさまがちょいちょい気になっているようだから、どうにかならないかなあ……なんて考えてもいる。所属国が違うので恋愛は難しいだろうけれど、ロミジュリみたいなやり取りを成す日が彼らにくるのだろうか。
他人さまの心配も良いけれど、自身の相手の心配もしなきゃならない時期が差し迫っているのも承知していた。
「突然すみません。ヴァナルと雪さんたちの仔が産まれました。以前から気にかけて頂いていましたし、ご報告をと考えてギド殿下とマルクスさまに呼んで頂くようにお願いしました」
流石にソフィーアさまとセレスティアさまが裏で手を回したとは言えず、表面上の理由をメンガーさまに告げる。私から声を掛けると余計な噂が立ちそうだし、こうして回りくどい行動を取っている。
「お、おめでとうございます。いつかこの目で産まれた仔を見てみたいものです」
微妙にどもったメンガーさまに苦笑いを浮かべる。雪さんたちが産んだ仔は、一か月程度は産室で過ごす予定だ。その間は入場制限を掛けるので、見るなら一ケ月後になるのだろう。その頃には目も開いているし、自分の脚で確りと歩けるようになっているはず。今はまだ手のひらサイズの小さい仔たちだけれど、生後三十日ともなれば随分と大きくなっているのではなかろうか。
「早く皆さまと会えるようになると良いのですが」
ヴァナルと雪さんたちは私の影の中に入って学院に赴いていたから、仔が育てば彼らも私の影の中に入るのだろうか……あれ、ロゼさんとヴァナルと雪さんたちと仔どもたち五頭が、私の影の中に入ることになるの……。肩の上にはクロが……竜が乗っているし、どういう状況なの、コレ。
「…………」
今更だが、宇宙にまで飛んで行った猫の気分である。学院に竜とフェンリルとケルベロスと彼らのハーフの仔たちと一緒に過ごしているって、かなり異常では。私は人間の枠組みに収まっているのか、と不安になってくる。
「ミナーヴァ子爵?」
「ナイ?」
「どうしました、ナイ?」
「ナイさま?」
「ナイさま……?」
「聖女殿?」
「なんだ?」
私の目の前に立っていたメンガーさまと横に控えていたソフィーアさまとセレスティアさま微妙な顔になり、アリアさまとフィーネさまが首を傾げ、内心を掴めていなさそうなギド殿下とマルクスさまが片眉を上げる。
先ほど考えたことを口に出したとして『今更だ』とみんなに言われるのがオチである。なんでもありませんと口にして、学院を後にするのだった。
◇
まさかリーム王国のギド殿下と近衛騎士団長子息であるマルクス・クルーガーと関わるなんて。そして特進科三年生のヒエラルキーのトップである彼らと教室で輪の中に入るだなんて……一体どうしたと言うのか。
ああ、いや……おそらくだが、俺、エーリヒ・メンガーという男の立場が少しづつ変化している証拠なのだろう。ミナーヴァ子爵とハイゼンベルグ公爵令嬢とヴァイセンベルク辺境伯令嬢とフライハイト嬢は教室から去っている。残ったのは俺と聖王国の大聖女さまとギド殿下にクルーガー伯爵令息である。聖王国の大聖女さまであるフィーネさまの下にはアリサ・イクスプロード嬢が隣に控えていた。
「大丈夫ですか?」
大聖女さまが俺の横で心配そうに顔を見上げている。ミナーヴァ子爵より十センチほど背の高い彼女だが、アルバトロス王国の成人女性と比較すると彼女も十分に小柄だ。納豆を美味そうに食べる銀髪美少女というギャップが酷い人であるが、根がおっとりしているのか『大聖女』の役職を取り払えば、どこにでもいる女の子である。
「え、ええ。まさか、サロン以外でミナーヴァ子爵と会話を交わすとは考えていなくて……少し驚きました」
俺も学院の三年生になって将来を考える時期になっているのだから、良い機会だと捉える方が気が楽かもしれない。公爵閣下にはミナーヴァ子爵のフォローを頼むと告げられているし、裏切る気がないのであれば働いた分の見返りはきちんと用意すると仰ってくれている。
メンガー伯爵家は兄が継ぐことは決定しているので、俺が実家で世話になることはないだろう。というか……実家にいれば親父にミナーヴァ子爵との縁を持てと要求されるはずである。
父のように子爵を利用する気はないが、自立して歩める道はアルバトロス上層部の官僚になるか、公爵閣下の伝手に頼るかのどちらかだろう。まだ結論を出さなくても良いが、冬休みに入る頃には決めておかねば。
「急にすまなかった。今まで言葉を交わすことはなかったが、ミナーヴァ子爵と縁を持っているならば交流を持った方が良いと判断した。貴族としても、友としても良い関係でありたいものだ。これからよろしく頼む。ギド・リームだ。教室内では立場はさほど気にしなくて良いだろう。気軽に名を呼んでくれ」
ギド殿下がにっと笑って片手を差し出した。ハイゼンベルグ公爵令嬢の婿となり、アルバトロスに腰を据えるのだと聞いている。リーム王国の聖樹の件を知れば、真っ当な判断なのだろう。
一年生の二学期に初めて見た時から時間が経ち、顔立ちに幼さが抜けていた。リーム王国では騎士になり王を支える予定だったので、がっしりとした大柄な男である。
「エーリヒ・メンガーと申します。ミナーヴァ子爵とはアガレス帝国の時からお世話になっています」
差し出された手を確りと握って顔を見合わせる。にかっと笑みを浮かべる彼はまさしく乙女ゲーのヒーローそのものだ。ゲームのようにフライハイト嬢と恋仲になることはなかったが、ハイゼンベルグ公爵令嬢と婚約を済ませたのだから、元々運が強いのだろう。
「そう畏まらずとも良いさ。これから、よろしく頼む」
ギド殿下の言葉に『ええ』と返して、クルーガー伯爵子息に顔を向けると微妙な顔になった。
「マルクス・クルーガーだ。家の爵位は同じなんだ、マルクスで良い。これからよろしく頼む」
一年の頃、アリス・メッサリナと元第二王子殿下たちの行動を教室の片隅から見ていただけなのに、こうして彼とも交わることになるのか。本当に人生はなにが起こるか分からないと、彼の手を握って自己紹介を済ませて、ギド殿下とマルクスは教室から去って行く。
「メンガーさま。これから一緒にいられる時間が増えますね!」
フィーネさまが笑みを浮かべる。同郷だから仲間意識が強いのだろう。彼女はミナーヴァ子爵にも懐いているのだから。俺と一緒に過ごしても、聖王国の大聖女である彼女が得をすることはない。でも、彼女と話しているとどこか懐かしい気分になっている自分にも気付いている。
綺麗な銀糸の髪を煌めかせながら、納豆を食べている姿は滑稽だが、日本人なのだなとしみじみと感じることができるのだから。
彼女の横で微妙な顔になっているイクスプロード嬢が少し気になるし、噂好きな友人に揶揄われるのだろうなと覚悟を決め。
「ええ。学院生活も残りわずかですが、よろしくお願いします」
学院を卒業すれば、彼女と別れることは確実である。聖王国とアルバトロス、自分たちが籍を置いているのは違う国なのだから。胸にチクりと刺さるなにかを無視をすれば、彼女たちは俺の下を去っていくのだった。
◇
ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんの仔が産まれて一週間が過ぎ、手のひらサイズから随分と大きくなっている。とはいえまだまだ小さいけれど。
子爵邸の主室の隣の部屋、産箱の中で仔たちは過ごしている。雪さんたちとヴァナルがお世話をしているので、私たちの手が掛かることはない。
みんなにお披露目するのはもう少し待って欲しいと雪さんたちからお願いされているので、産まれた仔と面会したのはクロとロゼさんと私のみ。ベランダからエルたちが覗いていることもあるけれど、産箱までの位置に少し遠いので産まれた仔は見れなかったので残念そうにしていた。
セレスティアさまも早く見たいようで、扉に耳を付けて仔の鳴き声を聞いて楽しんでいた。ソフィーアさまに呆れられても問題はないらしい。
『黒い仔が二頭』
『白い仔が三頭』
『皆、元気で可愛いものです』
まだ足取りが確りとしていないけれど、自力で床を這いながら雪さんたちのおっぱいを探しているし、目はまだ開いていないのに産まれた仔たちでじゃれ合いを繰り広げている。開きそうで開かない目は、もうすぐ開くだろうとのこと。開いても視力はよろしくないので、まだまだ危なっかしいと見守りつつの生活になりそうだけれど。
白い毛並みの仔たち……最初に産まれた赤色の仔と白色の仔と黄色の仔は凄く仲が良いのか、固まって一緒に過ごしていることが多い。後から産まれた黒い毛並みの、緑色の仔と青色の仔は産箱の中でふらふらと立ち上がって、ぼてっと倒れたり、産箱の端っこで隠れて寝ていたりと個性が出ていた。あ、ちなみに産まれた子たちの頭は普通でした。ケルベロスの血よりフェンリルの血が色濃く出たのかも。
「雪さんと夜さんと華さんは大丈夫? ずっと付きっ切りだし、部屋から出ていないけれど……」
私が小さく顔を傾げると、クロも肩の上でこてんと首を傾げる。それを見た雪さんたちも小さく顔を傾げながら私と視線を合わせた。
この一週間、学院から戻ると直ぐに産箱のある部屋に入って、彼女たちと仔たちの様子を確認している。本当は立ち寄らなくても彼女たちだけの力で子育てできるだろう。でも心配なものは心配だし、フソウにも報告しなくちゃいけないし、と理由を付けて顔を出していた。
『大丈夫ですよ』
『魔素が濃いですから』
『考えていたよりも回復が早いです』
雪さんたちは産箱の中でお座りをしてばふばふと尻尾を振る。ヴァナルは仔が気になるようで、鼻先で突っついてみたり、ペロペロ舐めて毛繕いしていた。
「そっか。食べたいものとかある? なにかあるならお願いして買ってきて貰うよ」
くんくん鼻を鳴らしながら雪さんたちに群がる五頭の仔。ふやふやの子供の毛にぽってりと出ているお腹、まだ仔のはずなのにがっしりとしている大きな四本の脚。どこを取っても可愛いなあという言葉しか出てこず、写真の魔道具を使って記録と連絡用に沢山画像を納めている。
雪さんたちは魔素が十分に満ちているから問題ないし、産まれた仔たちも最高の環境と言ってくれた。そういえばフソウからアルバトロスに移って、なにか食べている所を見たことがない。聞いてみると、魔素が十分に満ちていればお腹は空かないとのこと。フソウでは時折お肉が食べたくなっていたが、アルバトロスだと食欲が湧かないとか。
それはそれで問題のような気もするけれど、彼女たちが言っていることを信じるしかないのだろう。ヴァナルもヴァナルでお腹空いた、とか言わないし、なにか食べている所を見たことがなかった。本当に不思議だなあと首を傾げながら、フソウに送る手紙の内容を雪さんたちと一緒に考える。
「あ、そうだ」
フソウで思い出したことがあった。
『どうしたの、ナイ』
私の肩の上でクロが聞き返してくれる。
「ナガノブさまから頂いたフソウ刀……仕舞いこんでいたけれど、子爵邸のどこかに飾ろうかなって」
以前、フソウに赴いた際にナガノブさまから頂いていたフソウ刀は、自室のクローゼットの中に仮置きしている所だ。帝さまから頂いた水晶は部屋の机の上に鎮座している。
副団長さまに水晶の使い道を聞いてみると、魔石と変わらないものらしい。帝さまから言われた通り身近に置いておけば、漏れた魔力や魔素を取り込んで力を蓄えるとか。妖精さんが時々、水晶の上に座って『魔力を注いで』『どーんと!』なんて言う時があるので、注がない方が良いと判断している。
ラッキーアイテムみたいなものだろうと水晶は飾ってあるのだが、フソウ刀だけ飾らないのもナガノブさまに悪い気もしてきたのだ。
『おや』
『飾って頂けるなら』
『刀もナガノブも喜びましょう』
「本当は使うのが一番良いけれど……片刃の刀と両刃の剣じゃあ扱い方が違うって聞いたから。私も刀を扱えないし、飾ることしかできないけれど」
聖女が腰に大小二本を差しても、ねえ……? ジークかリンであれば似合ったかもしれないが、彼らはフソウ刀を直ぐ折ってしまいそうだと言っていた。時代劇でよく見る台座……で良いのかな。刀を置いているアレがないので、王都の職人さんに作って頂く予定だけれど。
「レダとカストルみたいに喋るようなったら怖いよね。そうなったらナガノブさまに預かって貰おうかな」
あ、でも頂いた品を預かって貰うのは随分と失礼な行為か。レダとカストルのようにフソウ刀が喋るようになれば、また賑やかになるなあ。道具は使ってナンボだから、使い手がいないことが残念で仕方ないけれど。
産箱の近くに腰を下ろすとヴァナルがやってきて、顔を近づけすんすんと鼻を鳴らす。よくする行動なので特に気にすることなく、ヴァナルの顔を撫でると気持ちよさそうに受け入れてくれ尻尾を大きく左右に揺らしていた。
『喋る刀ですか。フソウの七不思議になりそうですね』
『喋ったならば、ナガノブや皆に教えて差し上げましょう』
『きっと面白い顔を披露してくれますよ』
「フソウって七不思議の話があるの?」
怖いもの聞きたさについどんな話があるのかと聞き返してしまった。怖い話はあまり好きじゃないのに。ヴァナルがクロがいる反対側の方に顔を乗せたので、腕を伸ばしてぎゅっと抱きしめる。もふもふの毛が顔に当たってちょっと気持ち良い。ロゼさんのツルツルボディーとはまた違った肌触りである。
『ええ、ありますよ』
『帝家の初代は男ではなく女だ、とか。井戸の幽霊が割った皿は実は百枚ほど、とか』
『ドエ城には千年生きる鯉がいる、今生の帝は十歳を過ぎてもおねしょをしていた、なんてものもありますねえ』
最後は盛大な個人情報ではなかろうか。フソウの外に漏れても良いのか微妙である。それにあと三つはどこに行ったのと言いたくなるが、これ以上フソウの個人情報に触れる訳にはならないと黙っておいた。
『この家も、ある』
「え、嘘?」
ヴァナルが私の耳元で自信満々に告げた。なにかあったかなあと頭を巡らせるが、なにも……いや、待て。現実をちゃんと見よう。七不思議で収まるのだろうか、このお屋敷。
『噂、してた』
勝手に増える図書室の蔵書、ある場所に置いてあった物が勝手に移動する、屋敷内で光る玉が現れる、子供の笑い声が聞こえる……。それに勝手に増えている幻想種、草花の育成が早い、裏庭の家庭菜園では尋常ではない量の野菜が取れている、厨房の食材が勝手に増えることもあれば減ることもあるのだとか。
ほとんど妖精さんの仕業じゃないかと頭を抱え、今度お婆さまに苦言を呈すべきだろうか。勝手に幻想種が増えるのと草花の育成が早いのは、私の阿呆みたいな魔力量の所為だろう。魔術具で制御しているものの、余剰分は外に放出している状態なので魔素が高くなるのは仕方ない。クロたちが吸い取ってくれているのに、それでも有り余っているのだろうか。
『面白い屋敷ですねえ』
『妖精たちは楽しんでいるようですが』
『屋敷の者たちの驚きは仕方ないのでしょう』
なんだかおっとりとしながら雪さんたちが子爵邸七不思議について言及するけれど、図書室に変な魔導書が舞い込んできたり、未知の草花が咲いていたり、竜の卵が空から降ってきたりすると対応が大変なのです。私の感覚がだんだんと麻痺している気もするけれど、なにかある度にアルバトロス上層部に報告しなきゃならないのは少々気が引ける。
今は王都の貴族街にある子爵邸、ようするにタウンハウスに住んでいる訳だけれど……学院を卒業して領地のお屋敷に移り住むことになれば、もしかして今以上の不思議が巻き起こる可能性が十分にあり得るのだろうか。
溜池事業のついでにとお願いしたビオトープでは竜の番が卵を産んで、孵るのを待っているところだ。まさか増えないよねえ、とクロの顔を見ればこてんと首を傾げる。いや、もしや竜以外の違うなにかが増えてしまうパターンであろうかと、ヴァナルをぎゅっと抱きしめた。
『主なら大丈夫。増えてもへーき』
ぐりぐりと肩の上で顔を動かすヴァナル。まあヴァナルと雪さんやクロやエルたちみたいな大人しい幻獣であれば歓迎するけれど。これで大暴れする幻獣でも現れた日には対処が大変だなあと、遠い目になるのだった。