魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0417:古い言葉で子供。

 南大陸は魔素が少ない。西大陸のように大勢の者に魔力が多く備わることはないが、南は時折に魔力量が異様に多く備える者を誕生させる。人間、魔物、魔獣、果ては植物までも。面白いことは少ないが、得られるものはあったのだろう。でなければ魔素の薄い南大陸に留まる価値は少ない……先のことを考えていると窓を叩く音が聞こえ、椅子から立ち上がって移動し窓を開ける。

 

 『ああ、生きていたのか。腹が小さくなっているな、俺がいない間に産まれたのか?』

 

 ある日の夜。久方ぶりに黒竜が戻ってきた。暇だからと言って自由行動を許していたのだが、相変わらずの言葉使いである。主人は私であるのに、態度は大きいままであった。開いた窓から入るなり、テーブルに飛び降りて私と視線を合わせる。

 

 「ええ、少し前にね。それより貴方、今までなにをしていたのかしら?」

 

 少し前、自身の腹に宿っていた仔が産まれた。黒髪黒目の子が誕生する可能性の高い男の種を仕込み無事に産み落とした。今は隣の部屋で拾った子供と一緒に寝ている。

 

 『東大陸の人間に魔術を教えてみた。竜の俺でも人間に魔術を仕込むことができたぞ。――黒髪黒目じゃないか。良かったな、お前の思い通りになって』

 

 黒竜が籠の中で眠る赤子を見て告げた。そう、産まれた子は黒髪黒目だったのだ! しかも魔力量が物凄く多く備わっているし、私の血が半分流れているから憑依し易い存在である。一定の年齢まで育てて、今の身体を捨て産まれた子に乗り移るのもアリだ。

 

 「竜でも人間に魔術を仕込むことができたのね。良いことじゃない。で、東大陸の国を一つくらい手に入れられて?」

 

 黒竜は人化もできる。その際に無力では困るので魔術を手解きしていたのだが、東大陸で魔力持ちの者を見つけて、魔術を教えたようだ。東大陸は魔術の存在が珍しいと聞く。魔力の多い人間が魔術を習得し、上手くいけば国一つ落とすくらい簡単であろう。私は政に興味はないので国など欲しくもないが、他者を跪かせたい者であれば王になるのも悪くない話だ。

 

 『無理だろう。東大陸は魔術を使いこなせる者を見つけることが難しい。一人、二人に教えた所で国を落とせる訳がない』

 

 「あら、残念。貴方が裏で手を引いている国、なんて面白いから見たかったのに」

 

 本当に面白くない。東大陸の情勢が悪くなれば大勢の者が死ぬ。私が持つ魔導書には死者を従える魔術が記されていた。楽しそうだから試してみたかったのに、黒竜は肝心な所で役に立たない。

 

 『人間の国なんざ欲しくないさ。そんなことより報告だ。俺より強い竜が二頭いた。そして、人並み外れた魔術師もいる」

 

 「へえ、興味深いわね。どこの国にいたのかしら?」

 

 おそらく魔素の多い場所で長い時間を過ごしたのだろう。しかし、そんな場所があっただろうか。それに竜が二頭一緒に行動するなんて珍しい事だが……。

 

 『共和国だ。いきなり現れた。俺の存在を知られる訳にはいかないだろう。だから戦わず逃げた』

 

 「共和国に竜がいるなんて……もしかして亜人連合国」

 

 逃げずに戦って共倒れしてくれれば良かったのに。目の前の黒竜より強いとなれば苦戦することは必至である。新しい身体を手に入れれば、今より数段強くなれるが竜二頭を相手にして勝てるかどうかは微妙だ。

 

 『おそらくな。あそこには古代から生きる竜がいると聞いたことがある。もうくたばりそうだと聞いているんだが……あんなに強い竜がいるなんて知らなかった。もっと人間を喰って強くならないと』

 

 窓から机に移動して椅子に腰を下ろす。亜人連合国の成り立ちは古い竜が逃げてきた竜や亜人を受け入れたことで、国という形を作ったと聞いている。古い竜とやらがどこまで古いのかは知らないが、古代から生きていたというならば。

 

 「古代竜……貴重じゃない。確か竜は終の死に場所を見つけるのでしょう? 魔石を残してくれたなら、魔導書の良い餌になるわ」

 

 古代竜が残した魔石を手に入れたのならば、私が持つ魔導書に喰わせれば更なる進化を期待できる。アルバトロスの黒髪の聖女を贄にしても良いのだが、人間を魔導書に喰わせるには大掛かりな儀式魔術が必要だ。

 

 『亜人連合国に行くのか? 俺は今の状態なら行きたくないな』

 

 「行かないわ。今の状況では不利だもの。せめて身体が新しくなるまでは我慢しなくちゃ」

 

 黒竜は言いたいことを言い終えたのか、開いたままの窓から夜の暗闇に飛び込んでいった。戻ってくるのならば良いけれど、本当に気ままな竜である。

 しかし……黒竜より強い竜が存在するだなんて本当に面白い。強くなった時には是非、竜たちと戦ってみたいものである。そしてアルバトロスの黒髪の聖女や銀髪の魔術師とも。

 きっと、心滾る戦いになるのだろう。そして私の力を強い者に見せつけるのだ。強者に敵わず心砕け、跪いて服従させるのがとても気持ち良いものだと私は知っている。嗚呼、早く力を手に入れたい。もっと、もっと魔術の深淵を覗いて強き者となり、この世に恐怖を蔓延らせたい。私の願いはもうすぐ叶う。にやりと笑って席を立ち窓をぱたりと閉めた。

 

 ――夜が明ける。 

 

 ここ暫くの間、一睡もしていない。長く生きたこの身体がもう持たない証拠のように思えた。魔術を極めていないのにこのまま死にたくないが、都合の良いことに南大陸で運良く魔力量をかなり多く持つ子供を拾うことができた。栄えている国の首都で拾った子供と一緒に暫く宿に泊まっていたが、家を借りた方が便利だと気付いて小さな部屋を一つ借りている。

 

 「おはよう。よく眠れたかしら?」

 

 部屋を移動して扉を開けると、寝ぼけ眼の拾った子供がベッドの上で目を擦っていた。赤子用の籠の中には当然、産まれたばかりの子どもが眠っている。拾った子供がベッドから立ち上がって、籠の中を覗き込んだ。

 

 「小さいね……可愛い」

 

 籠の中で眠る赤子を見た拾い子が感嘆の声を漏らしていた。貧民街で見つけ死にそうだった子供は随分と私に懐き、いろいろな事を吸収している。魔術を教えてみれば、才能があるのか直ぐに使いこなしていた。

 どうやら万能なようで、攻撃系に防御系に身体強化魔術を苦も無く使いこなしている。他にも家事全般を仕込んで、目の前の子供にやらせていた。金を出せば下働きの者を雇えるが、子供が下働きの者の代わりになっている。三度の食事と寝床を与えれば素直に私の命令を聞く良い駒である。

 

 「ええ、そうね。とても可愛いわ…………でも、外に出るとみんなに嫌われてしまうでしょうね」

 

 産み落とした赤子が可愛いなど微塵も感じたことはないが、世の母親や人間は総じて産まれたばかりの子供を可愛いと褒めそやす。それに倣い言葉にしてみたのだが、悲しい顔を浮かべる私は舞台役者のようだと心の中で笑う。数年後には産み落とした子の身体を乗っ取る予定だし情など無駄な感情でしかない。

 

 「どうして?」

 

 拾い子が顔を顰める。貧民街で生きていたことで、自身が認めていない者は嫌いなようだ。私も最初は彼女から警戒されていたが、徐々に距離を詰めて今では信頼を得ている。

 産まれた国の常識には疎い。貧民街で生きてきたから仕方ないが、時折、教えることが面倒になるが、知識は身に着けておいた方が良い。小間使いにするならば常識や知恵を仕込んでおかなければ、買い物で騙されることになるし、面倒なことになることもあるだろう。

 

 「黒髪黒目はこの国の……いいえ、南大陸に住んでいる人たちから嫌われているの。昔、昔にね、黒髪黒目の者が大暴れして、みんなが迷惑を被っていたのよ」

 

 確か、南大陸を創造した女神によって力を得て、体つきの良い女をことごとく狙ったと聞いている。何故、女ばかりを狙ったのか意味が不明なままだ。

 時折産まれる黒髪黒目の特徴を持つ者は南大陸において畏怖の象徴である。ある者は力が強く周囲に迷惑を掛けていたが、国でも倒せない珍しい魔獣を一撃で倒した、とか。たった一人で国軍を相手にし壊滅させた、とか……彼ら彼女らは例外なく女性を敵視していたと逸話が残り、存在自体は有難いのだが、周りの者が御せない故に恐怖されていたのだ。そして時代が過ぎ、いつの間にか畏怖の対象として捉えられていた。

 

 「アンファン、きっと産まれた子はみんなから嫌われてしまうけれど、貴女と私だけでも愛してあげましょう?」

 

 拾った子には『アンファン』と名前を付けた。古い言葉で『子供』という意味があるのだが誰も気付きはしまい。気付いたのであれば魔術を深く学んでいる者だけである。

 

 「うん。先生もこの子も私が守ってあげる! だから今日も魔術を教えて!」

 

 アンファンには私のことを『先生』と呼ばせている。名前を忘れてしまったし、まあ丁度良い呼称だろう。魔術の先生で間違いはないのだから。魔術の飲み込みはそれなりだ。魔力量を多く持つ特性が、細かい魔力操作を雑にさせている。この辺りを意識すれば、もっと魔術の威力が上がるし魔力消費も抑えられるのだが。

 まあ、まだ十歳の子供である。気長に……とはいかないがあと一年ほどで一人前に育てあげなければ。一年後はこの身体が持っているのか怪しい頃合いである。

 

 「そうね。一先ずは朝ご飯にしましょう。魔術の授業はそれからね」

 

 「はーい!」

 

 ふふ、と笑うアンファンに絶望を与えれば、どんな顔になるのだろう。今から楽しみでならないと胸を躍らせるのであった。

 

 ◇

 

 がっつりとアルバトロスの中枢部に関わってしまっているなあと、冬の高い空を見上げる。

 

 『エーリヒ。共和国に赴き、子供に止めを刺してきて欲しい。ナイの代わりにな』

 

 冬休みに入って、アルバトロス城に召喚した俺に告げたハイゼンベルグ公爵閣下の言葉が頭を過る。彼の声に俺は即座に口を開いて、自身よりも例の人物が愛していると公言した、プリエールと名乗る少女に終止符を打って頂いた方が効果的では、と疑問を呈した。

 

 閣下はもちろん理解しておられ、止めの場に共和国政府が彼女を召喚するとのこと。閣下から聞いた話では、ルグレと呼ばれる共和国で騒動を起こした者は、責任を負うためアルバトロスに連れてこられ、ミナーヴァ子爵と対面で一問一答を繰り広げたそうだ。詳しい内容を聞けば、貴族制度の在り方を全く理解していない問題人物であった。転生者の可能性を見出していたが、子爵は他に優先させるべきことがあった。

 

 問題児が面倒を共和国で起こさないようにと、今回俺が派遣される訳だが……同道者が凄いことになっている。

 

 「あの……場違いで申し訳ありません」

 

 アルバトロスの外務官と書記官に魔術師も同道者なのだが、俺が乗っている超巨大な白竜さまの後ろに付いている大型竜の方に座乗している。後ろの竜の方の背に乗ろうとすれば、亜人連合国の方々にちょんちょんと肩を叩かれ、白竜さまの背の上に座乗することになったのだ。

 

 どうして、と頭を抱えそうになるが、おそらく亜人連合国の方々は俺が緊張しないように、今の内に距離を縮めておこうという考えなのだろう。アガレス帝国からアルバトロスに戻る際、彼らと面識を持っているが距離感は遠いままだった。きっと彼らなりの気遣いとミナーヴァ子爵のお陰である。

 

 「ん? そんなに気にしなくても」

 

 「そうだよ~ナイちゃん、中途半端に終わっちゃったから不満が溜まっているみたいだし、君には頑張って貰わないと」

 

 エルフの女性二人が顔を見合わせたあと、俺へと視線を向けた。確かに子爵には不満やストレスが溜まっているのかもしれない。だって、あの子爵が共和国に特産物や美味しいものはないかと聞かなかったのだ。

 

 これはアルバトロス側も注視しており、一体どうしたと内心穏やかではないらしい。俺だって、その話を聞いた時は驚いた。え、あの子爵がとフィーネさまと一緒になって顔を見合わせたのだから。

 推測するなら『面倒が引き起りそうだから』と彼女は言いそうであるし、もう一つが東大陸の魔素が薄いので当然東で育つ作物も魔素含有量が少ない。アガレスの食堂で食べた品が物足りなかった理由が真実を突き付けている。彼女であれば、この辺りだろうと考えていた。

 

 でも、やはり美味しい食料を探し求めないミナーヴァ子爵に違和感を覚えてしまう。

 

 『そうですよ。黒い竜について新たに情報が齎されることもありましょう。期待しております』

 

 どこからともなく念話のような声が届いてくる。この声は白竜さまのものだ。背中の上の会話は彼の耳に届いていた。凄く大きな身体だから顔まで凄く距離があるのに、不思議なものである。

 

 「逃がした貴方に言われたくないわね」

 

 「良い事言っているようでいて、格好悪いよ~白竜~」

 

 『…………』

 

 エルフのお二人による言葉のナイフが白竜さまの心に刺さってしまったようだ。まあ、黙って竜の方の背の上に乗っているよりも、こうして会話を楽しんだ方が時間が過ぎるのが早い。海のど真ん中にある例の南の島を越えているから、路程の半分は消化しているはず。

 

 「殴っても良いし、魔術で攻撃しても私たちが治すから問題ないわ」

 

 「そそ。遠慮なくいっちゃって良いよ~」

 

 エルフのお二人が簡単そうに言うが、俺は問題児を殴るつもりはない。俺の手が痛いだけだから、言葉だけで済ませる。乙女ゲームの主人公であるプリエールが一番の適任者だろう。真っ直ぐで周りを慮れる人物と報告で聞いているが、実際にはどんな人なのか。

 

 ――とりとめのない会話を繰り広げていれば、時間が過ぎていき。

 

 共和国の首都に辿り着いた。アルバトロスより建物が近代的ではあるが、欧州圏の古き良き街並みと似通っている。出迎えの共和国政府高官の方に案内されもてなしを受ける間もなく、件の人物を捕えている場所へ足を踏み入れた。少し湿気が多いようで肌に纏わる空気が重いし、空気が淀んでいるのか独特の臭いが鼻の奥に広がった。

 

 ……俺の横にエルフのお二方と人化した白竜さまが並んでいるが、共和国の方々に同列に捉えられやしないかと不安になる。公爵閣下の指名により、俺はアルバトロスの代表ではある。でも爵位持ちでもないタダの学院生なのに……愚痴を頭の中に垂れ流しても意味はないと確り前を見た。

 

 部屋の扉へ足を踏み入れると普通の部屋だった。先に客がおり、俺たちを視認するなり勢い良く立ち上がり頭を下げた。

 

 「初めまして! アルバトロス王国、亜人連合国の皆さま。この度はお会いできて光栄です!」

 

 まだ幼さが残る声ではっきりと告げた人が、プリエールと名乗った。フィーネさまに教えられた通り、明るく素直そうな子である。

 簡単な説明と今回の目的を聞き、俺たちも彼女へ今日の目的を明かす。少し顔を顰めたあと直ぐに鳴りを潜めさせ、己の気持ちを押し隠したようだ。まあ、そりゃ嫌だよな。最後の追い詰めのようなものだし、女の子が立つ場ではないのだろう。俺は今回の件を上手く片付けたなら、陛下から爵位を頂く手筈になっている。

 

 領地持ち、ではなく法衣の年金生活が望めるもので位も一番下である。公爵閣下からは気軽に貰っておけと告げられたが、がっつりアルバトロス中枢部に首を突っ込んでいると苦笑いしたけれど。ミナーヴァ子爵と関わりを持ち、アルバトロス上層部の方々には目を掛けて頂いている。恩返し、なんて大袈裟なことはできないが、爵位分の働きくらいはしないと給料泥棒となってしまう。

 

 さあ、頑張るかと気合を入れると、件の人物が護衛に囲まれてやってきた。

 

 とりあえず、共和国のプリエールさん――こう呼ぶのは先ほど許可を得た。そもそも彼女に苗字はない――たちに先に場を譲る。

 部屋の壁にアルバトロスと亜人連合国のメンバーが並ぶ。魔術師の方は魔術関連で妙な事が起こらないようにという配慮から派遣されている。洗脳の魔術を教わったと聞いているが、他に魔術を教わっていてもおかしくはない。緊急時のために陛下方が心配してくれたのだから有難い配慮である。手錠に繋がれ、護衛の方々に周りを囲まれており身動きは取れない状態だ。

 

 「プリエール……どうしてそんなに良い服を纏っているんだ!?」

 

 確かに良い衣装を纏っているのが、アルバトロスの上位貴族や亜人連合国の方々が纏う服には届かない。プリエールさんは貧しい家庭出身と聞いているので、それを踏まえれば確かに良い物なのだろう。

 

 「ルグレさんのお父さまから贈られた品です。相応の立場を手に入れたならば、衣装も相応のものを纏う方が良いだろうと仰って頂きました」

 

 相応の場に立つのであれば、纏う衣装も適したものでなければならない、という考えは妥当である。俺も今回は公爵閣下から贈られた服を身に纏っている。いつもより背筋が伸びている気がするし、立ち方も普段と一味違う気がするのだ。

 

 「な、親父がっ……!? 君は俺が与えたものを持つべきだ!」

 

 なんだろう、このルグレという少年は。プリエールさんを物かなにかと勘違いしているのではないだろうか。そういえば鸚鵡を露天商から買ったのは彼であったか。気に入った女性を自身の持つ富で着飾るのが趣味――未成年で働いてもいないから親の金であるが――のようだ。悪趣味、の方が正解かもしれないが……。

 

 「うわ……最低」

 

 「最悪だし、自意識過剰~」

 

 俺の隣に並んでいるエルフのお二方が、周りに聞こえるように言葉を零した。彼女たちの言う通りだ。誰かになにかを施すことは助けとなるかもしれないが、時に傲慢と成り得る。プリエールさんはまだ学生ではあるが、共和国の未来を切り開くために行動を起こしている。彼も同じ志を持ち動いていたが、黒い竜に惑わされ失敗に終わっている。

 そりゃそうだ。洗脳により自身を議員の座に就かせ、アルバトロスのミナーヴァ子爵とコンタクトを取り『差別を失くせ』と言わせることができると信じているなんて本当におめでたい頭をしていると鼻で笑いたくなった。

 

 「確かに私はいろいろなことをルグレさんから教わりましたし、アガレス帝国に赴いて黒髪黒目のお方から言葉を賜ろうとしました」

 

 プリエールさんは言葉を続ける。鸚鵡を買ったことによってミナーヴァ子爵との縁ができ、直接面会して考えたそうだ。黒髪黒目の方は信仰の対象であるが、ただ一人の人間とかわらないのだと。

 ミナーヴァ子爵は現実を見ているので『差別を失くして欲しい』なんて言葉を零すことはないと悟ることができた。だからプリエールさんは確りと地に足を付けて、ゆっくりとした方法で共和国の差別を失くしていく。

 

 彼女を応援してくれる人はミナーヴァ子爵との縁を持ったことで、幸いにも増えている。アルバトロスに赴いて治癒魔術を習う道筋を付けた。政治について習う環境も整い、共和国の状況次第で政治家になるための道筋も立った。あとは真っ直ぐ歩いて行けば良いのだと、目の前の男に告げる。

 

 「本当に今までありがとうございました。尊敬はしていましたが、ルグレさんのことを好きだったかと問われれば正直、分かりません。ですが、貴方と共に過ごした時間は私にとって大事なものでした。――きっと、もう貴方と会うことはありません」

 

 彼女はそう言って男に頭を下げる。できた子だなあと感心する。俺なら都合の良いように利用してなんてことをしてくれたのだと罵りそうだ。

 

 彼女の声に少年はなにも言わない。別れをはっきりと告げられたことにショックを受けているのだろうか。しかし、少年を慮る必要はなく、やることはやらねば。次は俺の番かとプリエールさんに視線を向けて、一歩前に出るのだった。




タダのフランス語だったり……| |д・) ソォーッ…
|彡サッ!
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