魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ルグレという少年はアルバトロス王国で尋問を受けたというのに、今現在平気な顔をしていることが信じられない。俺の後ろに控えているエルフのお二方とミナーヴァ子爵のスライムとアルバトロスの尋問官に責め立てられて、情報を吐かされているというのにだ。
精神面が強いのか、異常なだけなのか……。
俺に区別はつかないが、自身が置かれている状況を掴めていないことに頭を抱えそうになる。北大陸の自称勇者しかり、銀髪オッドアイの元冒険者しかり。
俺は小心者だ。周りを見て、状況を見極め自分が置かれている状況を掴み、行動を起こすか否かを決める。日本人らしい行動だと考えているのだが……目の前の男も元日本人、もしくは地球出身の者なのだろうか。
「……誰だ、お前」
失恋のショックはどこへ行ったのか、むっとした表情で俺を睨みつける少年。同い歳と聞いているのだが、子供のように不貞腐れている姿はアルバトロスで貴族の方々を見ている俺には小者にしか見えない。
「アルバトロス王国、エーリヒ・メンガーだ。君に聞きたいことがあって共和国を訪れている」
とりあえず名乗っておく。俺が他国の者と知れば多少は目の前の男の態度が違うかもしれないし、望みは薄そうであるけれど危機感を持つかもしれない。
「…………」
無言で俺を見ているようで、俺の後ろに控えているエルフのお二方を見ているのだろうか。気にするべきことではないと、男に厳しい視線を向けて本題に入る。
「君は『以前の記憶』があるんじゃないか?」
少し暈した言い方ではあるが今の言葉で通じるだろう。
「なっ?」
直ぐに態度に出るのは如何なものだろうか。政治の場に立ちたいと願っていたならば、多少の演技くらいできないとやっていけないのに。
アガレス帝国に拉致されて以降、貴族の、それも王族に近しい方々と関わるようになって、俺も随分と世渡りが上手くなった気がする。出世をする気はないが将来の道筋は確保できている。
トラブル製造機であるミナーヴァ子爵は大変だろうが、彼女が珍しい食料を見つけて一緒に食べて、美味しい料理を発案するのは面白いし、こうしていろいろな国に出向くことができるのは案外楽しい。目立たないように生きていたつもりが、いつの間にか子爵の手に依って引き上げられていた。それを恨むことはないし、後悔もしない。
ただ、そろそろトラブルは打ち止めにしてくれないと、アルバトロス上層部の皆さまのストレスがマッハになりそうではある。ミナーヴァ子爵は巻き込まれ体質だし、無理な願いなのかもしれないが。
「お前……転生者か!」
ルグレ――呼び捨てで十分だろう――が護衛の方々を押しのけようとして阻まれる。俺の下にこれないと悟った彼は、その場に留まるしかなかった。
「…………はあ。そうだよ」
この部屋にいる共和国の方々には俺が過去の記憶を持つ者だと知らせてある。そしてゲームが舞台の世界であることも、だ。
深い所までは告げていないが、口の堅い者を集めていると聞いているし、ぶっちゃけてしまうと共和国の方々に俺が前世の記憶持ちと知れたところで問題は少ない。気持ち悪いと思われる位が関の山だろう。そのくらいであれば問題などないに等しい。
「知っているのか、この世界を」
ルグレの言葉に首を振る。確かにゲームの知識があったから、ある程度この世界のことを知っていると言って良いだろう。だが全てを知っているわけではない。ゲームのシリーズを全てプレイしているフィーネさまでも未来など予想はできないし、己の周囲で起こったことしか把握できていないのだから。
「知っているのは極僅かだ。だから周りをちゃんと見なきゃいけないし、考えて行動しなきゃいけない。君はさ、記憶に囚われて一つのことしか見れていなかった」
だから破滅したんだよ、と言葉を続けた。
「破滅なんて……認めない! 俺は黒髪黒目の者を見つけた! だから俺は……差別をなくせという言葉をあの女の口から引き出さなきゃならないんだ!」
どうしてそんなにゲームに拘るのだろう。まるでゲーム通りに進まなければ、差別はなくならないと思い込んでいるようだ。
「でも、出来ていないだろう。本当なら黒髪黒目の者から言葉を賜れたのかもしれないが、お前の記憶にある黒髪黒目の者と、アルバトロス王国の黒髪黒目の者とは別人だろうに」
頑なに意地を張るルグレの姿に厳しい視線を向けている自分に気付く。あ、俺、目の前の男のこと、嫌いなんだな……北大陸の自称勇者も酷かったが、同等かそれ以上に思い込みが激しいタイプである。この手の者に言葉を尽くしても、響く可能性は低い。なにを考えているのか分からないが、周囲の状況を認めず自分の意志や気持ちだけを他人に押し付ける。
「確かに別人だ! でも黒髪黒目の女がいた! だから言葉を欲した! それのなにが悪い!」
悪いだろう。ミナーヴァ子爵はアルバトロス王国の爵位持ちだ。貴族として国に尽くさなければならず、他国の政治に口を出せば問題となるだろうに。
「ミナーヴァ子爵が黒髪黒目と偽っていればどうする? 勝手に黒髪黒目とお前が言いふらしたのに激高して殺してしまいそうな勢いだな」
共和国の信仰を逆手に取って国を攪乱できることもあるのだ。魔術で髪色と瞳の色を誤魔化せるなら、魔術の存在しない共和国ならば造作もないことである。
「嗚呼、お前に魔力がもっと備わっていれば、こうすることもできただろうな。――"光よ、照らせ"」
その証拠に魔術を使って自身の容姿を黒髪黒目に変える。本当に変わった訳ではなく、光の具合で誤魔化しているだけだ。共和国に赴く前に、アルバトロスの魔術師に願い出て師事を受けた。
初級と中級魔術の間に位置する代物なので、割と簡単に覚えられることができたが、変装が安易にできてしまうため秘匿されている術である。今回、俺が術を教えて頂けたのは公爵閣下が手を回してくれたこと、俺なら悪用しないというアルバトロス上層部の判断が降りたから。
突然、俺が髪と目の色彩を変えたことに共和国の面々が目を丸くしていた。魔術を知らない人たちだから致し方ないが、こんな悪用の仕方もあると知っておいた方が良い。
「く、黒髪黒目……だと!」
「魔術で髪と目の色合いを変えているだけだから、本物の黒髪黒目じゃないがな。少し知恵が働けば、こうやって共和国を陥れることができただろうな。黒い竜から魔術を教わったというのに、この手のことを考えられない君は政治家に向いていない」
海千山千の騙し合いを超えたりするのだから、直情男に政治家なんて無理な話だろう。腹芸もできないのなら、最初から諦めて別の道を模索する方が健全だ。まあ、実家が政治屋だったので将来の道をそっち方面に進むと考えるのは致し方ないのかもしれないが。
「人を騙してどうする!」
「おいおい。魔術で洗脳を試みた奴の言葉じゃないな」
洗脳なんて本当になにを考えているのか。魔術師の派遣が間に合って良かった。こんな奴に洗脳されたなんて知れば、共和国に住まう人たちが報われない。
「信仰心を逆手に取ろうとしているだろう!」
「君もな。どうして安易な方法に走った? プリエールさんを救うと意気込むのは良いが、記憶を頼り過ぎだろう」
じっと目の前の男を見つめる。
「黒髪黒目の言葉で差別がなくなるなら、一番簡単で手が掛からない方法じゃないか……クソゲーだと笑っていたが、目の前に現れた挙句、俺はヒロインに惚れた。だったらゲーム通りになると考えて、黒髪黒目を利用してなにが悪い。でも……っ」
ゲーム通りに進んでいると思いきや、アガレス帝国に前作主人公がおらず焦っていたようだ。ゲームのシナリオの破綻をミナ―ヴァ子爵で補おうと試みたらしい。子爵に執着していたのはその為か。本物の黒髪黒目を見つけてしまい、ゲームシナリオ通りになるようにと考えたようだ。無理矢理ではあるが。
「悪いな。子爵である彼女の意志を無視したものだし、そもそも黒髪黒目のお方が、お前の望んだ言葉以外を告げた時はどうするつもりだったんだ?」
「……考えたくはなかった。それにあの女は頑なに内政干渉になると態度を変えなかったから、あの女の口から無理矢理にでも吐かせたくなったんだ」
ぼそりとルグレが呟く。どうやら男の本心のようだった。頑なに認めなかったのは、自分が破滅の道を歩んでいると知っていたからだろう。
哀れだな……鸚鵡の件で会談を開いていた時に子爵に突っかかった時点で諦めていれば、まだ救われていただろうに。ゲームに囚われてしまい、周りが見えなくなったようだ。一番、見なくちゃいけないプリエールさんのことを差し置いて。
「女性の扱い方を覚えておくべきだったな。そうすればフラれることも、黒髪黒目のお方から『差別を失くせ』という言葉を賜れなくとも、なにか別の言葉を頂けただろうに……」
ふう、と息を吐く。床を見る男に喋る気力はもう残っていない。閣下の言いつけを守れたのかどうかは分からないが、これ以上話しても無意味だろうと施していた術を解く。
「ようやく折れたかしら?」
「どうにかね~本当にしつこい男だったよ~」
俺の背後からエルフのお二方の場にそぐわない明るい声が聞こえてきた。これ、プリエールさんは大丈夫だろうかと彼女へと視線を向ける。
なんとも言えない表情を浮かべた彼女は、横に立つ女性に支えられていた。自分の所為で多くの人たちが事件に巻き込まれたとでも思い詰めているのだろう。共和国の方に彼女の精神面のケアをお願いしておこう。
半年後に彼女はアルバトロス王国に魔術を習いにくるようだから、落ち込んだままならミナーヴァ子爵を頼って動物セラピーならぬ魔獣・幻獣セラピーでもお願いすれば少しは気が晴れる。
最低限の責任は果たしたと、共和国の方々に話は終えたと告げた。さて、あとは共和国の美味しい品でも探してアルバトロスに戻ろうと、同道している方々へ視線を向けるのだった。
◇
学院が冬休みに入って数日が経っている。――アルバトロス王国・王都・外壁入場門。
ピーロロロロロ、と晴れ渡る寒空を大きな鳥が鳴きながら飛んでいる。数日前から王都の外門で少々目に余る光景が繰り広げられていた。
問題を引き起こしている者を追い払っているのだが、相手は必死なのだろう。何度も門番に追い払われようとも、王都へ入場を試みている。片田舎から王都へ商品を売りにきた者や旅人から注目を浴び、門番にも迷惑だろう。入場列に並んでいる者たちも困惑しているようで、早急に解決したい所だ。
「どう考えます、ソフィーアさん」
セレスティアが私に声を掛ける。彼女と一緒に外壁の上で外の状況を伺っていた。自慢の鉄扇を広げて口元を隠し目を細めているが、殺気を隠せていなかった。並の者であれば彼女の圧に耐えられないだろうが、私は彼女と幼い頃から付き合いがあるので慣れてしまっている。
「また面倒が舞い込んできた……と言いたくなるが、今目の前で起こっていることをナイに告げねばならないことの方が気が重い」
騒ぎを起こしている者は、王妃殿下の母国の者である。そして厄介な事実はナイの祖父の関係者である。おそらく声を荒げている者たちも、ナイと血縁関係があるのだろう。本当に面倒事が尽きないなと、仕えている主の顔を思い浮かべる。凄く嫌な顔をしているのだが、私の気の重さが見せた幻であろうか。
「確かに。しかしナイには知って頂いておかなければ」
「分かっているさ。アルバトロスとナイの状況を正しく掴めていないことが、今回の行動を起こした理由だろう。しかし、目に余るな」
私が最後に零した愚痴に同意するセレスティア。ナイの価値を正しく評価できていれば、平民が彼女に手を出そうとは考えまい。他国の者であっても、貴族制度がある国に住まう者なら貴族と平民の差を嫌でも理解している。
共和国の例の男は勘違い甚だしい人物であったし、共和国には差別はあるが身分の差がない故に馬鹿な行動に走ったようだが。眼下で繰り広げられている光景も、共和国の男のように厄介な事態に発展しないようにと願うばかりだ。ナイの心労が計り知れない。魔獣や幻獣のトラブルの方が気が楽だ、と思える状況は如何なものだろうか……。
「お願いです! アルバトロス王国の黒髪の聖女さまに会わせて頂きたい!」
ミナーヴァ子爵ではなく、黒髪の聖女の名を出すのか。貴族の名を出していれば、子爵家の者が直接出て行けた。ジークフリードとジークリンデに頼んで強制退場させる方法もあるし、飛竜便を手配して南の国へ送り返すことができたのに。
「駄目だ! 国へ帰れ!」
報告によると、数日前からこの状況らしい。流石に目に余るので、王都の入場管理をしている門番たちから上層部に報告が上がった。
ナイが絡んでいたために迅速に対応し協議され、諦めて国へ帰るだろうと答えを出したのに諦める気配がない。そうして子爵家に報告が上がったのが昨日の夜だった。今日も件の者が現れるだろうと現場に赴いた。
「どうしてですか!? 病気の者がいるのです。黒髪の聖女さまに治癒をお願いしたい! 寄付は問題なく払えます!」
「そういう問題ではない! 良いから帰れ! 寄付が払えるのであれば、規模の大きい領都の教会に行け! ほぼ必ず聖女さまがいらっしゃり、病気を治してくださるぞ!」
ほとほと困り果てている門番に同情を抱きながら、セレスティアの顔をみようとした時、外門の上に見知った人物が現れる。後ろには沢山の護衛を連れており、この場にはふさわしくない人物であった。
「……馬鹿なことを。ソフィーアちゃん、セレスティア、母国の者が失礼を。ミナーヴァ子爵にはわたくしがきっちりと国に送り返しておくとお伝えしてくれる?」
現れたお方は王妃殿下である。少々癖のある方であり、男でも女でもイけると私的な場で公言している人物なのだが、少々やり過ぎた所為でここ数年大人しくしていた。状況を考えるとアルバトロス王国で母国の者が問題を起こせば、自身が不利になるし、母国にも迷惑を掛ける状況であろう。早々に解決するために、ここまで出張ってきたようだ。
「殿下、どうしてこちらへ?」
ナイにきっちりと自分の成果を伝えようとしているのは逞しい限りだ。
「報告はわたくしも聞いているもの。母国の民が無茶を言っていると聞いて飛んできました。もう少し早く対応ができていれば良かったのですが、国にも連絡をいれなければなりませんし、今となった次第」
はあ、と溜息を吐く妃殿下に釣られて私も溜息を吐きそうになる。面倒な状況であるのは誰でも同じだろうか。今の状況を楽しんでいるのであれば、状況を面白がっている人物か眼下の者たちを利用したい者だろう。
妃殿下が出てきたのであれば確実に状況を処理してくれるだろうと、お願い致しますと目線を下げれば殿下は部下へ指示を出す。
「諦めてくれると良いのだがな」
「ええ、そうですわね」
ぞろぞろと入城門に現れた妃殿下の私兵が……って、南の国の騎士も交じっているな。時間が掛かったのは母国の騎士を連れてきたこともあるのか。これで正式に回収されたことになるし、取り押さえを失敗してもう一度アルバトロスに姿を現したとなれば、妃殿下の責任も問われよう。おそらく妃殿下も真面目に動いている。
「諦めて頂かねば困りますわ…………まあ、国へ戻れば一族諸共、監禁ですが」
眼下の様子を見ていた妃殿下がぼそりと最後になにかを呟いた。
「殿下、なにか仰いましたか?」
「いいえ、なにも。ソフィーアちゃんとセレスティアが気にすることではありません」
誤魔化したように笑う妃殿下を問い詰める訳にはいかず、そうですかと頷くしかできなかった。
「どうして! どうして黒髪の聖女さまにお会いさせて頂けないのですか!?」
「他国の者に王都の聖女に会わせるわけにはならん!!」
過去、他国からアルバトロスの聖女を訪ねてきた者が、治癒の最中に聖女を手に掛けようとしたこともある。有名になれば、そのような危険もあり得るということだ。だから他国の者であれば国と国を経由して教会を頼るのだが……。
「殿下の国に聖女はいらっしゃらないのですか?」
単純な疑問であった。アルバトロス王国と妃殿下の母国は少し距離が離れており、二国ほど経由しなければ辿り着くことができず私も彼の国の詳しいことを知らない。
「いるにはいるけれど、アルバトロスのように質が高くないのよ。だからこそ訪ねてきたのでしょうけれど……状況を考えれば治癒よりミナーヴァ子爵自身が目的でしょうね」
母国の者が可哀そうだから、治癒を施して欲しいと言い出す殿下でなくて良かった。
「黒髪の聖女さま! 我々の希望の光! どうか南大陸の者に裁きの鉄槌を!!」
私兵に囲まれ外門から離れていく哀れな一行に、もうくるなと心の中で心底願う。どうしてこうナイを中心に厄介が起こるのだろうか。そしてナイを頼ろうとするのだろうか。
「勝手なことを」
「自ら下せば良いだけではないですか」
厳しい目を向けながら、姿が見えなくなるまで監視していたその横で明らかに頭を抱えている方がいらっしゃった。
「はああ……頭が痛いわ………………」
妃殿下が盛大に溜息を漏らしながら、頭に手を当てて本音を零したようだ。気持ちは理解できるので、今聞いた言葉は胸の中に仕舞っておこうと場を後にした。
――ミナーヴァ子爵邸・執務室。
先ほど目の前で起こっていたことを当主に報告しなければならないことに、少し気鬱さを覚えながらナイを待っていた。そうしてジークフリードとジークリンデと共にやってきたナイが自席に腰を下ろして私たちの眼を確りと見る。私とセレスティアさの横で家宰殿が心配そうに様子を伺っていた。
「――とまあ、面倒なことが起こってな」
「妃殿下がきっちりと国へ送り返していましたわ」
委細漏らさず、ナイに伝えた。少し考える様子を見せながら、彼女が口を開く。
「そうですか。相手方は黒髪の聖女の名を叫んでいたのですよね?」
いつもより少し声の域が落ちているし、顔、顔が悪い表情になっている。こういう時のナイは腹を括っているか、大きな行動に出ようとしている時である。嫌な予感がするが、先ずは話を聞いてからだ。
「ええ。病気の者がいるから治癒をお願いしたい、と」
「寄付を贈ることは可能だとも言っていたから、金には困っていない様子だったな」
セレスティアと私がナイの言葉に答える。
「なるほど。では、彼の方たちの願いを聞き届けましょう。黒髪の聖女を名指ししたのです。聖女が困っている者を見逃すはずがありません。国に戻ったというのであれば、南の国と接触します。都合良く王妃殿下の出身国ですし」
ナイ、ナイ。凄く悪い顔をしている上に、怖い笑みを浮かべるんじゃない。警護に就いている双子も『分かった』『派手に暴れよう』という顔になっている……。
彼女の肩の上にいるクロさまは『やり過ぎちゃ駄目だよ~』と耳元で告げているし、止める者がいない。祖父に止めて欲しいと頼んでも『ワシも行く』と言って油を注ぎ込む口だ。陛下にお伺いを立てるべきだろうかと悩んでいると、机の上に紙を出してアルバトロス上層部にお伺いの手紙を認めている。
――止められる者はいるのだろうか。
珍しくやる気になっている当主を見ながら、大丈夫かという心配と、ほどほどにしておけという言葉を飲み込むのだった。