魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0042:三人の答え。

 目の前の男の首を切れと言われて、困惑する私たち三人。

 

 ――奥方さまに試されているのだろうか?

 

 目の前の男は元貴族である。父親の代で叙爵されたと聞くので、高位貴族の可能性は低いだろう。二人は男爵位を持つ人の息子と娘として籍に入っている。

 私も、お貴族さまに準じる聖女という役職を持っている。そしてこの場には伯爵さまと奥方さまが居るという事実。

 

 男は伯爵さまに喧嘩を売っている。口頭なのか書面を交わしているのかまでは知らないが、伯爵さまとの約束事を破り、あまつさえお金まで着服したのだ。今、伯爵さまに切られても誰も文句は言わないし、むしろ迎合するのだろう。

 

 「誰か、剣を持て」

 

 「は!」

 

 奥方さまの命令に護衛の騎士が短く答え、地下室の片隅に置かれていた木箱から取り出し、恭しく彼女へと渡す。

 そうして奥方さまは片手で鞘を掴んで、何故か私へと渡してくれた。鞘を左手に、柄を右手で掴んで少しだけ腕を動かす。

 

 手渡された剣は飾り気はないものの、手入れの行き届いた両刃の剣だった。

 

 「ひいっ!」

 

 鈍く光った剣が男を射抜いたのか、怯えた声をだす。子供の頃、随分と大柄に見えたのだけれど、鎖に繋がれ膝を突いて怯える姿に以前のような威勢は全くなく。

 あの時の剣幕はどこに行ってしまったのだろ。怒りに任せて仲間を切った男は随分と震えている。死を目の前にして、少しくらいは切った子のことを思い出してくれただろうか。

 

 「――はあ」

 大きく息を吐いてから、目を閉じると同時に少し引き抜いた剣を納められた状態へ戻して、ゆるゆると首を振った。

 

 「目の前の男性に、私は確かに怒りを覚えています。――ですが、首を落とせと言われ嬉々として行動を起こせる感情は持ち合わせておりません」

 

 王国の、この世界のルールを知らなかった幼かった頃とは違う。またあの時と同じように感情のまま行動に出れば、今度こそ本当に大事なものを落としてしまう。それに目の前の男にも家族がいるだろう。どこかで悲しんでいると知ってしまえば、切ったことを後悔してしまう。――だから。

 

 「閣下や夫人のご厚意には感謝いたしますが……聖女としても個人としても、目の前の彼の命を奪うことは出来ません」

 

 深くお辞儀をして奥方さまに剣を返すと、納得してくれたのか受け取ってくれ、そのまま少し体をずらした。

 

 「ジークフリード」

 

 「俺は……私は聖女さまに仕える騎士です。剣を抜くときは彼女を脅かす存在が目の前に立ちはだかった時のみです。――なんの脅威もない無抵抗の男を切ってなにになりましょうか」

 

 私に一度視線を寄越して、奥方さまへ戻すジーク。

 

 ふうと一つ息を吐いて、奥方さまが次に剣を向けたのは、残りの一人。

 

 「私も、兄と同じ意見です。――母さんを……母を失った原因なのかもしれませんが……もう済んでしまったことだから」

 

 拙いながらも、キチンと言葉にして自分の気持ちを吐き出すリン。彼女へ向けていた剣を奥方さまは護衛の騎士へと返して、私たちに向き直る。

 

 「では、この男を不問に処すと?」

 

 「いえ、然るべきところ、司法組織へ預けるべき案件かと」

 

 未成熟ではあるけれど警察のようなものもあるし、裁判所もある。警察組織は軍や騎士が執り行い、そこから罪人が引き渡され裁判にかけられるそうだ。あまり関わったことがないので、詳しくは知らないけれど。

 

 「わかりました。二人はどう考えますか?」

 

 私から視線を外し、横にいるジークとリンへ視線を向ける奥方さま。伯爵さまは黙りこくっているけれど、良いのだろうか。

 

 「私も聖女さまと同じ意見であります。もう既に終わったことですから」

 

 「兄と同意見です」

 

 右に倣えのようになっているのだけれど、良いのだろうか。二人に視線を向けると目を細めて微笑んでくれた。どうやら『気にするな』ということらしい。

 

 既に乗り越えているのだから、後ろを向く必要はない。

 

 もう終わったことで、過去になっているのだから。そして死んだ人は戻ってこない。罪を犯したというのならば然るべき罰を受けるのが妥当だろう。私刑に処せば、そのことをずっと引きずってしまいそうだから。

 

 「三人の意見は承知しました。――旦那さま、如何なさいます?」

 

 「そうだね。格好よく男の首を切るべきだろうけれど、私は聖女さまとジークフリート、ジークリンデの意見を尊重したい。――騎士団、いや軍へ引き渡そう」

 

 忘れていたけれど伯爵さまは近衛騎士団団長さまである。その下部組織になる騎士団とは懇意なので、伯爵さまの力が及ばない軍の方へ引き渡すようだ。

 

 「わかりましたわ。手配いたしましょう。――貴方が侍女に手を出さなければ、こんなことにはなっていなかったというのに……」

 

 奥方さまの言葉は尤もだけれど、それだと私はジークとリンに出会えないので、微妙な顔になる。それを察知したのか、リンが半歩距離を詰めて肩が触れ合う。

 

 「それは……そうだけれどね」

 

 下半身が耐えられなかったんですよね。女癖が悪いと言われているから仕方ないとはいえ、まさか巡り巡ってこんなことになるとは。

 

 「妙な所で旦那さまは慎重になるのは何故でしょうか。あの侍女に手紙を出したり、接触していればわたくしが対処していたというのに……」

 

 「……だってバレると君が怒るじゃないか。だからこっそり金銭支援だけしてたんだ」

 

 「当たり前です! なぜ貴方は仕事のこと以外になると、こうもボンクラになってしまうのか……そして肝心な所は踏み外さない。どうしてこんな男を好きになってしまったのか……」

 

 尻すぼみになっていく奥方さまの言葉は私たちには届かず。結局最後は伯爵さまと奥方さまの夫婦喧嘩が始まる。

 

 「そろそろ去勢をいたしますか?」

 

 「え?」

 

 「陛下や聖女さまの後ろ盾である公爵閣下に連絡を取れば、可能でしょう」

 

 「待って、ねえ、待って!」

 

 ものすごく焦っている伯爵さまを尻目に、奥方さまは言葉を続ける。もしかして奥方さまワザと私と接触したのかな。公爵さまは後ろ盾だから、経緯を話せば協力を取り付けられるし、公爵さま経由で陛下にも話を持っていくことが出来る。

 伯爵家の恥部を晒すことになるけれど、どうにもならないと判断したなら後は進むだけ。

 

 「騎士団長としての仕事ぶりは部下から信頼を得ていますが、こと女性関係となると貴方の評価は地の底です」

 

 護衛の騎士の人たちが奥方さまの言葉にこくこく頷いているのだけれど大丈夫なのだろうか。まあ、それだけ伯爵家とは関係が優良なのだろう。

 

 「うぐっ……それは……」

 

 「今回で最後です! 次に女性関係の問題が発覚すれば、いろいろと立ち回らせて頂きます!」

 

 護衛の騎士の人たちが呆れ顔で見守っているのだけれど、伯爵さまの立場が危なくなってるよ。ちゃんと女性関係を断つことが出来るのかが問題……超難問な気がする。というか伯爵さま、女性関係の評判が悪いことは自覚してたのか。

 

 そうして夫婦喧嘩を眺めること暫く、また執事さんの後をついて行き帰路へと就いた。

 

 後日、奥方さまから謝罪の手紙が届いた。内容は私たちを試したこと。

 

 どうやら奥方さまは私たちが剣を取れば、その場で止めるつもりだったそうだ。過去に仲間を切られているとはいえ、その現場を証言してくれる者もいなければ、証拠もないのだから。

 私刑になってしまうし、聖女と聖女の騎士としての評判は落ちてしまう。悪評が立って困るのは自分たちなのだからよく考えて行動するように、と。

 

 貴族として聖女として真っ直ぐに生きていきなさいという激励と、貴族の矜持や立ち回り方が綴られたものが、もう一通添えられていたのだった。

 

 あ、男は軍へと引き渡され、裁判にかけられて『ガレー船送り』となったそうな……。

 

 ◇

 

 あと数日で終業式というところで、夕ご飯を食べている最中に声を掛けられる。

 宿舎から教会のお御堂へとシスターに案内され、中には神父さまの姿。

 そうして着席を促され、魔物討伐への従軍願いが舞い込んできたと説明を受けることになった。

 

 内容はヴァイセンベルク辺境伯家周辺地域に最近頻発している魔物の出現報告に、自領で対処できる域を超えたとのこと。

 軍や騎士団に魔術師団から人員を選定と編成を行い、国も協力して欲しいと嘆願され国王陛下の承認が下りた。

 

 学院で事前にセレスティアさまから聞き及んでいたので、特段の驚きもなく神父さまから話を聞いていたのだが、今回は規模が大きい。予定されている編成部隊がいつもより多く、輜重部隊の数も増強されている。

 

 そして国の要請で教会から派遣される聖女の数も増やされていた。

 

 ソフィーアさまとセレスティアさま、マルクスさまも軍や騎士団に同行するようなので、長期休暇を狙い時期が合うように調整したのだろう。

 

 「何もなければいいけど……」

 

 「だな」

 

 「ね」

 

 神父さまの説明を聞き終えたジークとリン、私は顔を見合わせる。

 

 「いつもどうにかなってきたんだ。今回もどうにかなるさ」

 

 「だね、兄さん」

 

 「ん」

 

 ふっと笑うジークって言葉を紡ぐとリンと私が返事をする。自然と突き出された右腕に拳面を三つ合わさる。

 とはいえ気を抜くことは出来ない。魔物討伐とはいえ魔獣が出現する可能性だって十分にあるのだし。

 

 「買い出し、行かなきゃね」

 

 「いつ行くんだ?」

 

 「どうしようか。――もう日がないからなるべく早く済ませたほうがいいよね」

 

 「うん」

 

 食事や寝床は用意されるけれど、細々としたものは自前となっている。おそらく拠点を作ってそこから調査範囲や討伐領域を広げていくのだろう。

 以前に買った鉈やナイフは使えるけれど、火打石や革鞄を新調したい。ジークとリンも必要なものがあるだろう。

 王都の商業区域に出掛け、ぷらぷらするのも楽しいから。まあ、商品を手軽に取ったり試着をすることは出来ないので、本当に見るだけだけど。前回の鍛冶屋さんはジークとリンの紹介があったから、ああして手に取ることが出来たのだ。

 一見ならば手に取った瞬間に、窃盗を疑われて取り押さえられるのがオチである。

 

 「あ、終業式の後にしよう。午前中で帰れるし、王城に行かなくてもいいんだし」 

 

 とまあ何時ものように私が勝手に予定を決めたのだった。

 静かに頷く二人に笑みを向けて、お風呂に入りベッドの中へと潜り込むのだった。    

   

 そうして終業式前日。学院の教室。

 

 「ナイ、お前に会わせたいお方がいる」

 

 「……はい」

 

 ソフィーアさまが敬う言い方をしなければいけない人物はずいぶんと限られる。嫌な予感しかせず、彼女の言葉に答えるまでに少しの間を要したのだった。

 教室から彼女に連れられて学院のサロンへと辿り着く。扉の前にはセレスティアさまとマルクスさまの姿。そしてその後ろに控えていたのはジークとリン。

 

 「ジークとリンも?」

 

 「ああ、セレスティアさまとマルクスさまに呼ばれた。お前も来るから、と」

 

 ジークの言葉にセレスティアさまが小さく頷き、マルクスさまはその横にじっと立っている。

 夫婦喧嘩が始まらないのが珍しいなと目をぱちくりさせながら、話の内容は聖女として私と面会したいのだろう。

 

 ちなみに、聖女一人で行動させたり一人で行動すると、国や教会から怒られる。聖女自身も教会から厳しく指導されるし、相手側にも苦情の手紙を送るのだから。

 平民出身の聖女さまはお貴族さまのルールに慣れていない。昔、聖女さまの無知に付け込んで悪巧みをした輩がいたそうだ。そこから護衛の騎士が必ず就けられるようになり、公の場ではセットで行動するのが常になっている。

 

 「さて、すまないが待たせる訳にはいかない。――心配はしていないが、粗相のないようにな」

 

 「ナイならば、大丈夫ですわ」

 

 「まあ、俺よりはマシだな」

 

 ソフィーアさまの再度の言葉で、やはり高位貴族の誰かと面会するようだ。とはいえ、この学院にはソフィーアさまと同格の人はいない筈だけれどと首を傾げる。

 目的がなければこうして紹介はされないだろうし、一体誰なのだろうと開く扉を見つめ、部屋の中がはっきりと視界に捉える。

 

 ――第一王子殿下と婚約者の隣国の王女さま。

 

 金のサラサラの髪を窓から入る光に反射させ、奇麗に天使の輪が浮かんでる。切れ長の目に青い瞳。鼻筋も通っているし、口元も完璧。

 そして第一王子殿下の隣に静かに座っている女性は、隣国の王女さまで殿下の婚約者。王子妃教育と王国の文化に馴染む為に学院へ留学中だそうで。入学式や建国祭のパーティーで遠目に見たことがあるだけで、お二人とも三年生なので関わることはなかったのだが。

 

 「ソフィーア、手間をかけたね」

 

 元第二王子殿下の元婚約者なのだから、顔は知っていて当然だし交流もあるのだろう。

 セレスティアさまとマルクスさまも知っているようだ。軽く礼を執っている。

 

 「いえ、殿下の頼みです。遠慮なく申し付け下さい」

 

 椅子から立ち上がって私たちを迎える第一王子殿下は人好きのする笑みを浮かべ、こちらを見た。将来の王太子殿下である。

 万人に受けるように笑い方まで習っているのだろうか。それにしたってすごいイケメン。

 

 「ようこそ聖女殿。この度はいきなり呼びつけて申し訳ない」

 

 「お気になさらないでください、殿下」

 

 「さあ、座って。――是非とも味わって頂きたい上手い茶を用意した。口に合うと良いのだが……」

 

 着席を促されたので席へと座る。当然、ジークとリンは私の後ろに。正面に第一王子殿下、その横に王女さま。私の右側にソフィーアさま左側にはセレスティアさま、更にその横にマルクスさまである。

 妙な状況だなあと、目を細めるとこの部屋で一番位の高い第一王子殿下が口火を切るのだった。

 

 「此度は急な魔物討伐の命に従ったことに感謝すると、陛下からの言伝を頼まれてね。時間もなく使者も出さずこうして学院で伝える羽目になってしまったよ」

 

 嫌なら断る選択肢もあるが、断ると聖女としての評価が悪くなるので今回も受けた次第。殿下は簡単に謝ることが出来ないからか、遠回しに『すまない』と伝えているようだった。

 

 「殿下、お心遣い感謝いたします。国王陛下にも聖女としての務めを果たして参りますとお伝え頂けますか?」

 

 「ああ、それは勿論。――今回の件は普段よりも規模の大きいものになるし、期間も長い。城の魔術陣へ魔力補填を行う人材を長期間留守にさせるのは手痛いが、辺境伯殿からの依頼もあるのでね」

 

 そう言って殿下はセレスティアさまに視線を向ける。

 

 「はい、殿下。ヴァイセンベルク辺境伯家は此度の事態を重く受け止めております。魔物の出現が頻発していること、被害報告も増えていること。そして報告範囲が広いことも頭を抱える原因です」

 

 いつもの口調は鳴りを潜め、きちんと殿下と対話していた。セレスティアさまの独特なお嬢言葉に慣れているから、妙な感じだけれど。どうやら魔物の出現が多発している上に広範囲で報告が上がるので、手を焼いているようだ。辺境伯家周辺の領地も事態は同じで困っているとのことだ。

 

 「辺境伯殿でも持て余して、王家に助けを求めてきた。尋常ではない事態だよ」

 

 はえーそうなのか、と他人事のように話を聞いていると、殿下の顔が私へと向けられる。

 

 「聖女殿は魔獣出現の際に死者を出さなかったと聞いている。期待しているよ」

 

 「はい、殿下のご期待に添えられるよう尽力してまいります」

 

 そう言われるとこう返すしかないよなあと、遠い目になりながら味の分からないお茶を啜り、ほどなく解散となる。

 呼び出された意味を感じられなかったなあと帰路へ就き、翌日は終業式を終え。

 

 長期休暇は遊び倒すと決めていた予定を初っ端から砕かれ、長期休暇二日目までは旅支度を。三日目に王都から出発する為に、王城へと足を向けるのだった。

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