魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0420:南の女神さま。

 ――あと少しで冬休みが終わる頃。

 

 教会の治癒院を開いている場所を借りて、王妃さまの母国の例の方々を招いていた。王妃さまとアルバトロス王国の判断で追い返したけれど、黒髪の聖女の慈悲で呼び戻されたという体である。

 本当に病気であれば旅は辛いだろうが、私が赴いて騒ぎになると面倒である。致し方ない処置と言いたい所だが、今回の件は私がアルバトロス上層部にお伺いを立てて許可を得ているので問題は少ない。最近、私が提案したことがほとんどそのまま通っているので、発言権が上がっている気がする。その事実に目を逸らすけど。

 

 で、王妃さまの母国から例の一行がアルバトロスにやってきて、私の目の前に雁首を並べている。アルバトロスの面子は、子爵邸の面々に教会の皆さまと上層部の外交官さま、宰相さまの部下さんに近衛騎士の方と護衛に何故か副団長さまが同席している。

 更に亜人連合国の方も気になるようで、ダリア姉さんとアイリス姉さんもいらっしゃるし、一体どうしたのだろうか。

 

 聞いた話によると、前回訪れた人数よりも多くなっているとのこと。

 

 うーん、父親事件で聞き取り調査が入っているから、その間に彼らは私のことを調べたようだ。まあ、いろいろと私の噂は流れているので『黒髪の聖女』と耳を挟めば、黒髪黒目信仰である彼らは黒髪の聖女の瞳の色を真っ先に気にするはず。

 遅かれ早かれ、彼らとは顔を合わせることになっていたのかもしれない。膝を突いて私に頭を下げている彼らだけれど、他にも爵位持ちの方もいるので、あまり私だけを慮るのは止めて欲しいのだが。

 

 「黒髪の聖女さま。此度は真に感謝致します」

 

 半歩分前に出ていた男性が床に視線を向けたまま言葉を紡いだ。とりあえず相手方が頭を垂れている状況をどうにかしようと口を開く。

 

 「口上よりも先にすべきことがありましょう。頭を上げ、お立ちください。――病気の方はどちらに?」

 

 兎にも角にも病気の方の治療が先であるし、謀っていたなら締め上げなければならないと目を細めながら彼らを見る。

 

 「御意」

 

 先頭の男性が下げていた頭を更に下げたあと、後ろにいる人に声を掛けた。ちょっと待って。御意ってなに、御意って。どこぞの大学病院の院長先生ではあるまいし、大げさすぎるのだけれど。承知致しました、でも大袈裟なような気もするが、相手は商人の方々である。

 

 貴族を相手にすることもあるだろうと、無理矢理に自分の頭を納得させていると一人の女の子が女性に連れられて前に出てきた。かなり辛そうな表情で演技には見えない。

 申し訳ないことをしたが、他国の人がアルバトロスの聖女を頼るのは難しいので仕方のない所もあるし、彼らは私を名指ししたから余計に治療を受け辛くなっていた。まあ、私が彼らをアルバトロスに呼び戻したのだけれど。

 

 「お子さんはこちらへ。症状は、どのようなものでしょうか?」

 

 辛そうなので、お子さんは一先ず椅子に腰を掛けて頂いた。痩せているし、呼吸も浅いので絶不調というのが見て取れる。貧民街に住む子供のようには瘦せこけていないが、健康な子供とは言い難い。

 

 「数年前から熱と腹痛、食欲もないうえに吐いていますし、元気もありません……」

 

 「何故、治癒師か聖女さまに治療をお願いしなかったのですか?」

 

 数年も前から症状が続いていれば、大人であってもキツイし辛い。どうして長期間、病気の子供を放っておいたのか。親ならば子を心配して、方々駆けまわりそうだけれど。

 

 「怪我は直ぐ治すことができますが、病気となるとなかなか治せる方がいませんでした。この子には辛い思いをさせて申し訳ないですし、代われるものであれば代わりたい……」

 

 ああ、まあ……病気は怪我と違って見えないものだから、治癒を不得意とする方が多い。発疹を治すことができても、発症理由を知らないので再発する。

 

 まだまだ医療の発展は先だな、と目を細めると女の子の眼に黄疸が掛かっていることに気が付く。目が黄色い……肝臓が悪いのだろうか。肝炎も疑わしい気もする。

 衛生的に綺麗とは言い難い環境に住んでいるだろうし、生肉や生野菜、果物を食べて菌に感染することがある。目の前の女の子だけではなく、他にも同じ症状を訴える人がいそうだ。病気のあたりが付いたなら、あとは治癒魔術を施こし対処を伝えるだけだが……今回は保護者である女性ではなく、王妃さまに情報を渡そう。私が余計なことを告げれば、今この場にいる方たちの感情がどんな方向へ変化するのか分からないから。

 

 「そうでしたか。失礼な発言をお許しください」

 

 専門的な知識を持った医者ではないが、聖女である。魔術という不思議パワーで治る可能性があなら、ある意味良い世界であろう。もちろん治せず、救えなかった命もあるけれど……多分、目の前の子の病気は治るはず。

 

 「――"君よ、陽の唄を聞け""清き水により、悪しき物を洗い流せ"」

 

 こんなもの、だろうか。病気の重さの判断は聖女個人の裁量である。治らなければまた術を施せば良いだけだが、今回は他国の人であるしアルバトロスに簡単にこられないので難しい判断を迫られた。

 あとは女の子が持つ回復力と食事と睡眠と水分を確りと取れば良いだろう。この場にいる方々は商人なので、身形がきちんと整っているので衣食は事足りているようだから。

 

 「黒髪の聖女さま、感謝致します!!」

 

 子供の母親が涙を流しながらお礼を告げる。魔術を施しただけでは治りきらず再発する可能性と対処法を口頭で説明しておく。そうして子を椅子から移動させて、彼らの代表と視線を合わせた。

 

 ――さてと。

 

 また床に膝を突いて頭を下げる面々に小さく息を吐く。共和国で出会った黒髪黒目を信仰している方々とはまた違うタイプに見えるが、彼らの本心はどこにあるのだろう。腹の探り合いになりそうだと目を細めると、代表の人がゆっくりと顔を上げて私と視線を合わせた。

 

 「誠にありがとうございます、黒髪の聖女さま」

 

 「いえ、聖女の務めを果たしたまでです。教会とアルバトロス王国から此度の寄付についての話がありましょう」

 

 治癒については事のついでである。というか、黒い竜の行方を捜すために南大陸の国とコンタクトを取りたいのだ。南大陸から西大陸に辿り着いた彼らであれば、南大陸の国と交流があってもおかしくはないと目星をつけたが、さてどうなるか。

 

 「承知致しました。孫を助けて頂いたこと、一生忘れませぬ」

 

 女の子のお爺さんだったのか。そりゃ必死になるなあと腕を伸ばして、応接机の方へと身体を向ける。

 

 「どうぞ、お掛けください。遠路はるばるやってきたお客人を直ぐに追い返したとなれば、アルバトロス王国と教会の不名誉となりましょう」

 

 個人ではなく、あくまで国と教会の面子を守るために代表の方々と話の場を設けるという体にしておいた。恐縮しながら彼らは椅子に腰を掛け、私と向き合う。

 うーん……アルバトロスと教会組はみんな立っており、私だけが椅子に座る形となっている。例外は書記官さまとなるが、相手方は公式記録に残ると理解しているようで彼らから話をしようとはしない。

 用意されたお茶にも手を出す気配はないので、私が先に口を付けると、彼らもおずおずとお茶を飲んだ。ごくりと音が鳴ったことに『しまった』という顔をありありと浮かべるので、マジで緊張しているようだ。

 

 「長の旅、お疲れさまでした。病気を患っておられる方には厳しい旅路だったでしょう」

 

 「とんでもございません。母国では頼れる治癒師も聖女さまもおりませんでした。アルバトロス王国の聖女さま方の質の高さと、黒髪の聖女さまのお噂を聞き、望みは薄いと知りつつ旅に出ました」

 

 代表の話を聞けば、女の子は半年ほどまえから症状があり治癒魔術を施しても再発を繰り返し途方に暮れていたそうだ。一年ほど前に私の父親の件で調査が入ったこと、近々でも調査が入ったことにより、アルバトロス王国の聖女を頼ってみようと一族会議で決まったって。

 一族から逃げ出した例の父親が私を捨てたと聞いて合わせる顔はないと諦めていたが、商会の次々代を継ぐ孫が死んでは元も子もないと恥を捨ててアルバトロスにきたとのこと。

 

 「先にはっきりとお伝え申しておきます。件の人物はわたくしの実父であると魔術により証明されました。ですが仮に貴方が血の繋がった祖父だとしても、わたくしは認めることはありません」

 

 ご一行さまに、黒髪黒目として私に期待されても困るし、一緒にこないかと問われても行けないのは分かり切っていることだが、はっきりと告げておいた方が良い。有耶無耶にしておけば話が拗れる場合もあるだろう。

 

 「………………はい。重々、心に刻み付けます」

 

 ぐう、と唇を噛みしめる代表に、私の実父の行動がマシであれば希望はあったのかもしれないがアレな行動だったし、そもそも自分の子を捨てるなという話である。でも捨てられなければ『ナイ』という個は生まれていなかったし、ジークとリン、クレイグとサフィールも今生きているかも分からない。

 

 「さて、ここからは黒髪の聖女としてではなく、ミナーヴァ子爵として語らせて頂きます」

 

 「はい」

 

 にこりと笑みを浮かべると、代表は背筋を伸ばして私と視線を合わせた。王妃さまの母国で商家を営んでいるならば、お貴族さまとも関わりを持っているのだろう。この手の切り替えは得意なようだ。

 

 「南大陸の国と交易はありますか?」

 

 「昔の縁を頼り少しばかり。西では貴重な香辛料が南大陸では手に入りますので……」

 

 やはりか。南大陸から逃げ出したと聞いているが、南と綺麗に縁を切ったわけではないようだ。南大陸で手に入る香辛料が貴重であれば、西大陸で売り払い富を得ることができる。

 

 「では、南大陸の商会と引き合わせて頂きませんか?」

 

 どうにか南大陸へ穏便に渡れる手段を得られそうだとほくそ笑む。

 

 「そ、それは……どうでしょうか……子爵さまには失礼なことを申し上げねばなりませんが、良いでしょうか……?」

 

 もちろん構わないと、確りと頷いた。南大陸では黒髪黒目は信仰対象であるが、畏怖されていると聞いている。そのことだろうと、先に結論を出した。

 

 「南大陸では黒髪黒目のお方は畏怖の対象です。それも小柄な女性は特に恐れられております」

 

 何故と問うと男性は口を開く。彼らは女神さまの特徴であった黒髪黒目を信奉しているそうだ。だから南大陸では鼻つまみ者となり、一族との抗争に負けて西大陸に逃げてきたと。

 

 「……南大陸を創造した女神さまは黒髪黒目で気性が荒く背が小さかった、と。他の大陸を創造した女神さまに嫉妬しており……その……言い辛いのですが、胸の大きな女性は女神さまに嫌われ不幸に陥ると信じられているのです……」

 

 待って。畏怖されている理由そんなことからなの……。あ、先ほどの女性の胸は慎ましやかだった。西大陸に住まう女性の平均以下である……もしかして彼ら一族の女性って貧乳一族だったのだろうか。

 そりゃ、他の人たちから疎まれても仕方ないのではないだろうか。南の女性の多くが胸の大きな人であれば、女神さまの怒りを買い不幸になる。子供が産まれにくいとなれば、人口が減って税収も減るのだから大変だ。しかし『南大陸の者たちに鉄槌を』と言い放ったのは何故だろう。そんなに一族の女性に貧乳しか生まれないことに恨みを抱えていたのだろうか。――ともかく。

 

 「…………誰か嘘だと言って」

 

 なんとも言えない空気が部屋全体に流れている。頭を抱えたくなるのを我慢している私は凄く偉いのではないだろうか。

 

 「っ、事実なのです……!」

 

 真剣な顔で告げた代表は私の胸を一瞬だけ見て視線を逸らした――…………世界は残酷だ。

 

 ◇

 

 南大陸を創造した女神さまの気性は荒い。

 

 胸が慎まやかであった女神さまに同情したい気持ちはあるが、成長しきると胸はそれ以上大きくなることはないし、背も伸びることはない。豊胸手術ができれば良いが、豊胸手術を施した女神さまというだけで残念感が漂ってくる。

 ちなみに南の女神さまは、他大陸の女神さまより格が低いうえに体形もアレで、三大陸の各女神さまに嫉妬の心を抱いているのだとか。

 

 代表の男性曰く、私の特徴は南大陸の女神さまと似通っており、代表団の方々にとって私は畏怖する対象ではなく崇める対象とのこと。

 

 私は女神さま自身ではないし、崇められても困ると伝えると渋い顔をしていた。彼らは南大陸出身者としては、珍しく女神さまを畏怖せず崇めているとのこと。南の方々の多くは南大陸を創造した女神さまが怖い神さまと捉え、過去の事案から黒髪黒目の者に対して警戒を抱くし、黒髪黒目の女性には特に気を使っているのだとか。

 

 東大陸同様に黒髪黒目が生まれることは稀であるが、誕生すると女神さまの気性に似通っているので気が荒く、女性として生まれるとやたらと胸の大きい女性に嫉妬の塊を向けてしまう。

 

 とりあえず治癒を施した子供もいるので直ぐに旅路に就くのは堪えるとのことで、アルバトロス王都の宿屋さんに一週間ほど宿泊するそうだ。その間に術を施した子供に問題があれば再度治癒を施すと伝えてあるし、アルバトロスの監視付きであることも彼らは承知している。

 

 王妃さまの母国の方々と別れ、子爵邸に戻り家宰さまに報告を済ませた所だ。上層部と教会には明日、正式な報告書を送る。書記官さまと副団長さまが同席していたので、あらましは彼らから聞き取るだろう。家宰さまが微妙な顔になり女性の話となるから口は噤んだまま、ソフィーアさまとセレスティアさまに視線を向け、どう答えたものかと助けを求めていた。

 

 「…………聞き辛いが、ナイは気にしているのか?」

 

 ソフィーアさまが片眉を上げながら私に問う。

 

 「……」

 

 ド直球の質問に答える気は起きず、口を噤んだままの私にソフィーアさまがしまった、とありありと表情に出した。

 気にはしているけれど、身長が伸びないのは阿呆みたいな魔力量の所為だし、胸が大きくないのは遺伝的なもの。なんで実父の血族の特徴を色濃く引き継いだかなあと微妙な気持ちになる。胸は……身長が高いフィーネさまの胸は立派だから、背が小さいことを言い訳にできない。

 

 「ナイ。ナイは貴女しか持ち得てないものが沢山あります。南の女神さまのように卑下をなさらずとも良いのではないですか」

 

 「…………」

 

 セレスティアさまがどーんと胸を張って言い切った。胸の大きいお二人に言われても説得力というか、惨めさがちょっぴし増えるだけである。

 寄せれば多少は盛れるし……誤魔化せば胸があるようにできるのだから……ぅう。壁際で控えているジークとリンは微妙な顔でこちらをみているし、肩の上のクロは気にしている様子はなく普段通りである。

 

 「もしかして、南の女神さまのようになるのか?」

 

 「なりませんよ。怒っても虚しくなるだけですから」

 

 怒っても意味がないし、期待は薄いが将来に希望を託そう。もしかすれば奇跡が起こって身長が伸びれば、胸も大きくなるかもしれない。あまりに大きいと重くて大変とか走ると胸が痛いとか聞くけれど、大きくなってみないと分からないことである。

 その辺りをお二人やリンに聞いてみたいところだが、聞けば気にしていると思われてしまう。羨ましいけれど、どうにもならないのだから仕方ない。

 

 「女神さまであれど、ご自身の特徴は変えられないのですねえ」

 

 セレスティアさまがしみじみと呟いた。確かに、神さまであれど自身の容姿を自由に変えることはできないようだ。こればかりは南の女神さまに同情するが、他の方を羨んで当たり散らしても意味がないというか。気持ちは十分に理解できるけれど……。

 

 「それで、ナイ。これからどうするつもりだ?」

 

 「黒髪黒目の私を利用してなにか画策していれば、そこにつけ込んで問題にして南大陸に渡ろうと考えていたのですが……無難に取引を終えましたからね。少し時間を掛けて南大陸への足掛かりを手に入れようかと」

 

 彼らが裏で動けばアルバトロスの影も一緒に動くだろう。王妃さまも自身が雇っている諜報員を付けると仰っていたし、彼女の母国である王家の方々もアルバトロスで粗相をしないようにと騎士の方を同道させている。

 代表の方々はアルバトロスで大手を振って行動できないから、私と取引した通りに南大陸の商家を紹介して頂くことになるはずだ。

 

 「商人として、ゆっくり南大陸へ渡る準備を整えます。南に渡れば私は恐れられる存在のようですし、西大陸のような面倒は少ないでしょう」

 

 面倒が少ないというのは、希望的観測である。とにもかくにも行ってみなければ分からないし、黒い竜と怪しい魔術師が向こうから接触することもあるだろう。その辺りは対策を立てて、臨機応変に動けるようにするしかない。

 

 「もしかして、美味いものと黒い竜を一緒に追いかけられると考えていないだろうな? ……――目を逸らすな!」

 

 ソフィーアさまに私の心の中を読まれていので、つい視線を逸らしてしまった。商人として出張るなら買い付けメインである。

 子爵領で領民のみなさまが丹精込めて作ったトウモロコシやお野菜さんを売ることも考えたが、アルバトロス内でも出回っていない状況だから公爵さまに国内に回せと言われそうである。最初の一歩は踏み出せたので、あとはアルバトロス上層部と教会の方々と要相談だし、移動手段は飛竜便を考えているから亜人連合国の皆さまとも相談しなければ。

 

 「ナイらしいではありませんか。黒い竜と怪しい魔術師も気になりますが日常は流れていきます。ずっと気を張っていれば、いつかは切れてしまいましょう。少し緩いくらいでも良いのでは。もちろん、やっておくべきことはありますが」

 

 セレスティアさまは気を張り過ぎて倒れてしまっては本末転倒だと言いたいらしい。学院を卒業していれば、直ぐに南大陸に渡っても問題ないけれど、今はまだ学生の身分である。

 ソフィーアさまとセレスティアさま、ジークとリンも学院を卒業しておけば箔が付く。私が我が儘を言って、休学や最悪学院を辞める事態は避けたい。

 

 「そうは言うがな。もし誰かに被害が出てみろ。ナイが怒ればまた大陸中を騒がすことになるぞ」

 

 え、ソフィーアさま……私は大陸中を騒ぎに巻き込む気はないのですが。以前は結果的に大陸中を巻き込んでしまったが、あれは冒険者ギルドや竜の皆さまと空を飛んだから致し方ないことである。

 

 「確かにナイが怒ると、亜人連合国の方も一緒に怒ってくださいますからねえ。でも、ナイの感情は正しいものでございましょう」

 

 セレスティアさま、私が魔獣や幻獣と関わることが多いから肯定的になっていないかな。気の所為かな。味方をして頂けるのは有難いが、彼女の下心が混ざっている気がする。

 

 「ナイの怒りを鎮めるのも私たちの仕事、か」

 

 ふうと大きく息を吐いたソフィーアさま。いろいろ彼女たちに心の中で申しているが、こうして考えて私を止めようとしてくれるのは有難いことだ。お二人と家宰さまに感謝していると、扉の向こうから『カリカリ』と木を引っ掻く音が聞こえてきた。直ぐあとに扉をノックする音が直ぐ聞こえたので、ジークが扉を開けて対応してくれる。

 

 「ナイ。仔たちが遊びにきたようだ。中に興味があるらしい」

 

 「雪さんたちの仔が?」

 

 どうやら私の部屋から出て執務室に辿り着いたようだ。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんも一緒にきているそうで、執務室前で彼らに出会った侍女さんが声を掛けお伺いを立ててくれた、とのこと。私の部屋から出るのは産まれてから一ケ月後が経ってからの予定だったが、期間が早まった様子。

 

 「!」

 

 「!!!?」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまが驚いた様子を見せる。ヴァナルと雪さんたちが判断したなら問題はないし、一応、お三方に許可を頂いてみんなを中に招き入れた。

 扉から五頭の仔たちのうちやんちゃ組の三頭が一緒になって走って私の下へとくる。残った二頭はマイペースにゆっくりと床にぽてぽて脚を付きながら、こちらにやってきた。椅子から降りて床にしゃがみ込むと三頭がわらわらと前脚を伸ばして、クロをペロペロしようと必死によじ登ろうとする。

 

 『う、ごめんね~』

 

 クロは以前、容赦のないペロペロ攻撃を受け涎まみれになり、それから苦手になったようである。私の肩から飛び立って、一番背の高いジークの肩へと逃げ込んだ。彼の肩の上にいた幼竜さんが嬉しそうにクロに挨拶をして、二頭並んでこちらを見ている。

 

 「逃げちゃった。可愛いのに」

 

 ふふ、と笑いながら三頭の頭を撫でると、残りの二頭が遅れてやってきた。一番やんちゃな黄色ちゃんが私の顔まで辿り着いて、べろんと舌を伸ばして耳を舐めた。くすぐったいけれど、黄色ちゃんに悪気はないし問題ない。

 

 そうしてひとしきり頭を撫でていると、後ろからとんでもない気配を感じ取り振り返れば、凄く期待の眼差しを向けるご令嬢さまがいらっしゃった。雪さんたちの方を見ると問題はないようで、セレスティアさまを手招きすれば姿が視界から消えて、私の横にいつの間にかしゃがみ込んでいる。

 突然の出来事だったのに、五頭の仔たちは怯えることもなく珍しいお方に会えたことに興味津々で、セレスティアさまの膝を匂って危害を加えない人かどうか確かめていた。暫く眺めていると、赤色ちゃんが彼女の膝の上に脚を置き、よじ登ろうと試み始める。

 

 「幸せです。もう死んでも後悔はいたしません」

 

 膝の上に登りごぞごぞし始めた赤色ちゃんに恐る恐る手を伸ばし、真ん丸な毛玉を撫でるセレスティアさまがぼそりと零した。まだ死ぬには早いと突っ込みを入れようとすれば、先に口を開いた誰かがいた。

 

 『セレスティア、死んじゃ駄目。まだ仔、産まれる。だから、駄目』

 

 彼女の言葉に反論したのはヴァナルだった。セレスティアさまの横に座って、彼女の顔を覗き込んでいる。

 

 「……!! なんて幸せなのでしょう!」

 

 セレスティアさまの肩にぐりぐりと顔を擦り付けるヴァナル。嬉しそうでなによりと、苦笑を零していると他の仔たちはソフィーアさまと家宰さまの匂いを嗅ぎにくんかくんかと鼻を必死に鳴らしている。仔たちに触れても良いか許可を取って、彼女と彼は床にしゃがみ込んで毛玉ちゃんズを嬉しそうに撫でていた。

 

 『我が仔たちをよろしくお願い致します』

 

 『フソウの皆にも早くおみせしたいものですね』

 

 『きっと喜んでくれましょう』

 

 雪さんと夜さんと華さんが微笑ましそうにみんなを見ながら、こてんと首を傾げて言葉を紡ぐのだった。

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