魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
南大陸へ商いを行おう計画は、王妃さまの母国の例の人たちの協力を経て、人を派遣することになった。今まで私自身が動いているから、人に命令して物事を進めることを覚えなさいと公爵さまからの助言があったためである。
素直に従ったのは、もう直ぐ冬休みも終わるし三年生三学期をきちんと学院で過ごそうとジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまと相談して決めたことが一番大きい。
南へ赴く方はフェルカー伯爵の伝手を教えて頂き、私が、ミナーヴァ子爵家が雇った。西大陸から南大陸へ船での移動となるため、危険手当としてお給金は相場より良い値段を出している。
美味しそうな食べ物のレシピと西大陸では珍しいお野菜と果物を探して欲しいことと、西大陸のアルバトロス王国の黒髪の聖女が『黒い竜と顔を隠した魔術師を探している』と噂をばら撒いて欲しいともお願いしていた。陸路を経て海路を使用するので長旅となるが、頑張って欲しい。
で、私が治癒を施した子供は問題なくアルバトロス王都で一週間を過ごし、王妃さまの母国へ戻ると同時、私が雇った方も彼らと共に旅立って行った。どうか無事に彼らが南大陸へ辿り着きますようにと願いながら……。
子供の病気を治して欲しいと願い出た例の一行は、私に一目会えたことで満足したらしい。このまま平穏無事に終わるか分からないが、一難は去って行き別の問題を解決すべく新たに動きだしていた。
彼らの話によると、身長の低い黒髪黒目の女性が南大陸に赴けば、怖くて平伏されることは間違いないそうだ。南大陸の女神さまは彼の地に住まう方々に割と当たり散らした過去があり、現身のような姿だから凄く恐れられるとのこと。その話を聞いたので、人を雇って南へ派遣したということも理由の一端だった。
――あと数日で冬休みも終わる頃。
今日の予定は、フソウの皆さまにヴァナルと雪さんと夜さんと華さんの間に儲けた仔たち五頭をお披露目することである。
竜のお方の背に乗って移動してきたのだが、仔たちは私の影の中に入れないので大きな籠を用意して、その中で過ごして頂いていた。ちょっと小さい籠だったので、五頭がみっちりと詰まっている姿は凄く可愛い。甘い鳴き声を出しながらヴァナルと雪さんたちに見守られ無事にフソウへ辿り着いた。魔術具で写真を沢山取っている方がいたので、後で複写して頂こうと心に刻む。
なのでミナーヴァ子爵家の面子はいつも通り、ジークとリン、ソフィーアさまとセレスティアさまに護衛の皆さまである。そして……。
『私たちはどうしましょうか?』
『街中を歩けば、皆さまが驚くでしょうし……』
今回、エルとジョセとルカとジアが一緒にフソウに赴いている。最近ずっと子爵邸に籠っていたので、私たちに同行するなら危険も少なかろうと出掛けた次第。
フソウに赴く前に仔たちと彼らは顔合わせをしたのだが、直ぐに打ち解けていた。ルカが歩くとその脚の間を黄色ちゃんが器用にすり抜けていく。犬のアジリティーのショーを見ているようだと感心しながら、身体の大きさが全然違うから五頭の仔たちに群がられてもびくともしていなかった。
ジアは初めての外だから、興味津々のようで長い首を上に下にと忙しい。そんな彼女をお兄ちゃんであるルカがキョロキョロしないと言いたげに、横に寄り添っていた。フソウの季節も冬であり、アルバトロス王国より随分と寒さが厳しい。私たちは厚着をして防寒対策はバッチリ施しているが、エルたちはいつも通りだ。話を聞けば暑さ寒さには強いので平気だとのこと。
「話は通してあるから大丈夫だよ。ドエの方たちにヴァナルと雪さんたちと産まれた仔をお披露目するために、歩いて行くからエルたちも一緒に行こう」
フソウの皆さまに今回天馬さまも同行しますとお伝えしているので問題はない。あとはドエの城下町に住んでいる方々が驚かないかだけである。警備のお侍さんたちもいるし、私たちもいるから妙な事態にはならないだろう。飛び込んでくる人がいれば、すぐさま止められるのがオチである。下手をすれば首と胴がお別れするし。
『フソウの皆さまと交流ができると良いのですが』
『良い関係を築きたいものです』
目を細めて心配そうにエルとジョセが私に顔を近づけるので、足と手を伸ばして額の辺りを撫でる。彼らなら大丈夫だ。物腰が柔らかいし、気さくな天馬さまである。
「天馬さまが移住できそうな場所がフソウにもあると良いね。フソウの帝家と幕府に保護対象に認めて貰えると良いけれど」
帝さまとナガノブさまであれば直ぐに首を縦に振ってくれそうだけれど、私が話を通すより天馬さまたちときちんと話し合って頂く方がきっと良い。
『これは頑張って、フソウの方々にお願いしなければ』
『同じ種が増えることは良いことです。理解ある方であれば嬉しいですね』
エルとジョセが言い終わると、ルカが何故か嘶きながら前脚を上げた。わさーと広がる三対の翼から、黒い羽が落ちたので回収しておく。なにか悪いことを考える人がいるかもしれないし、念のためだった。
ジアはお兄ちゃんになにをしているの、と呆れたご様子。まだ喋れないけれど、なんとなく雰囲気は分かるのだから不思議なものである。
「お迎えに上がりました」
私たちのやり取りを待っていてくれたお迎えの武士さまが丁寧に頭を下げる。
「本日と明日、よろしくお願い致します。では、打ち合わせ通りに」
私もドエ式のお辞儀をして籠の中に乗り込んだ。打ち合わせ通りというのは、ヴァナルと雪さんたちがドエの街を闊歩することである。私は最後方で籠に乗っての移動となる。豪華な籠に乗る手前でクロがぐしぐしと顔を擦り付け私を見た。
『ボクも外にいても良いかな?』
「良いんじゃないかな。ヴァナルの頭の上は今回は避けて貰って、エルたちと一緒ならそう騒ぎにならないはずだよ」
ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが先頭を歩き、その後ろに今回産まれた五頭の仔たちが行く。籠の中に入ったままであるが、小さいフェンリルとケルベロスのハーフの仔だし、フソウの神獣さまの仔である。フソウの方々がさぞ喜ぶだろうし、天馬さまと竜に見慣れて頂けば驚く人たちが減るだろう。
お迎えの武士さまも特になにも告げないので問題はないようだ。籠へ乗り込み、ジークとリンは徒歩で、ソフィーアさまとセレスティアさまは別に用意して頂いた籠で移動となる。
そうして城下町に入るなり、沢山の方たちが雪さんたちとヴァナルを出迎えてくれていた。ドエ城まで続く真っ直ぐな大きな道にできた人だかりは、ドエの都にこんなに人が住んでいたのかと驚く。
フソウの旗を振りながら『神獣さまー!』『おめでとうございます!!』『可愛い!』『五頭もいらっしゃる!』と嬉しそうに声に出している。小さな子供も興味深そうに見ながら、ご両親に『わんこ、大きい!』と告げ、ご両親が慌てて訂正させていた。
――本当にめでたいなあ。
フソウ上げてのお祭り騒ぎである。出店もあって大層賑わっていた。お寿司に飴細工にいか焼き、かば焼きに焼き鳥のお店もある……いか焼き食べたいなあ、と漂ってきたタレの匂いに心を惑わされるし、鰻って食べたことがないけれど美味しいのかなあと、お腹を鳴らせばドエ城へと辿り着く。
「神獣殿ーー!!」
門を抜け籠から降りると、ナガノブさまが凄い勢いで雪さんたちの下へと走って行く。興奮して私の歓待を忘れてしまうかもしれないと、事前に手紙に記してくれていたから問題ない。ナガノブさまは相変わらずだなあと笑っていると、帝さまと大巫女さまがゆっくりとこちらへと歩いている。
『ナガノブ、久しぶりです』
『元気な仔が五頭、無事に産まれましたよ』
『見てください、この愛らしい仔らを』
雪さんたちが彼に声を掛けて、仔たちが乗る籠を引き寄せた。中にいる五頭の仔たちは頭の上に疑問符を浮かべて、初めて見る顔に興味津々である。すんすんと鼻を鳴らして、一生懸命に匂いを嗅いで敵か味方か判断しているようだ。
「御身がご無事でなによりです。そして五頭もの仔をお産みになったこと、心よりお喜び申し上げます。いや、めでたい! ヴァナル殿にも感謝申し上げる!」
ナガノブさまがなんとも言えないデレデレの顔を浮かべながら仔たちを見たあと、ヴァナルに顔を向けた。雪さんたちの横にお座りしていたヴァナルが立ち上がって、彼の前に移動する。
『気にしない。みんな元気。産まれたことを喜んでくれる、幸せ』
へたんとお尻を地面に付けて、尻尾をばふばふ振っているから本心のようだ。ナガノブさまに右前脚を上げて『よろしくね』と言わんばかりに、彼と硬い握手を交わしている。ナガノブさまは嬉しかったのか、目尻に温かいお水を溜めているような。
「可愛らしい仔たちですな。成長が楽しみです」
『うん』
男性同士で気が合うのか、ヴァナルが優しいのか打ち解けている様子に安堵していると、帝さまと大巫女さまがやってきた。
その間にナガノブさまが私の下へときて『後回しにして申し訳ない。此度の件、フソウの全ての者に代わり感謝する!』と小さく頭を下げてくれた。いえいえと返していると帝さまは雪さんたちとの挨拶を終えて、私の方へとやってきた。
「久方ぶりです、みなーばぁ。雪と夜と華の出産に立ち会って頂きありがとうございます。母子ともに健康なのは貴女のお陰でございましょう」
「いえ。私は見守っていただけです。無事に産まれてきたことと健康なことは、きっと彼女たちが持ち得る強さの証かと」
私は産室で夜更かししただけで、大したことはしていない。無事に産まれたのは雪さんたちとヴァナルが心穏やかに過ごしていたことが、大きな要因ではないだろうか。籠の中でふんすふんすと鳴いている五頭を帝さまと一緒に見ていると、ナガノブさまがやってきた。
「めでたいことだからな! 今日はフソウ全土で祝いの席じゃ!! 皆、騒ごうぞっ!!」
帝さまの横に並んだナガノブさまが大音声を発し、彼の掛け声を聞いたフソウの皆さまは拳を握り……。
――応っ!
声を張り、天高く拳を空へ突き上げた。
◇
祝いの席の前に、フソウの皆さまから彼らは視線を浴びていた。
帝さまとナガノブさまと大巫女さまとフソウの方々が、エルとジョセとルカとジアを見てぽかーんと口を開けている。どうやら初めて天馬さまを見たようで、不思議な生き物として捉えているようだ。フソウには神獣さまがいらっしゃるのだし、驚くものなのか不思議である。
「こちらがみなーばぁが仰っていた、天馬ですか?」
「本物だ! 凄いぞ、本物だ!」
不思議そうにエルたちを見つめる帝さまと、子供のような声を出しながら目を輝かせているナガノブさま。
ナガノブさまはセレスティアさまと意気投合しそうだなあと、ちらりと彼女の方を見るとご令嬢として確りとした態度であった。フソウに赴いていることもあって、お仕事モードである。凛々しい姿を久しぶりに見たなと少し失礼なことを考えながら、エルたちに視線を向けてひとつ頷く。
『お初目に掛かります、フソウ国の皆さま。私は天馬のガブリエルと申します』
『初めまして。彼の番のジョセフィーヌです。後ろの二頭は私たちの仔で、黒い仔がルカ、赤い仔がジアと申します。まだ人の言葉は喋れないのでご容赦を』
エルとジョセが私の横に並び、帝さまとナガノブさまに挨拶をした。どうして私と一緒に過ごしているのか経緯を伝えて、仲間の天馬さまがフソウに赴けば手を出さないで欲しいと願い出る。
「ご丁寧に、ありがとうございます。フソウで帝の位に就いております。みなーばぁとは縁あって仲良くさせて頂いておりますよ」
「この地にて征夷大将軍を務めている、ナガノブだ。天馬たちが飛来したなら、確かに馬鹿な者たちが捕獲を試みることもあろう。其方たちのような者ならば共存が可能だ。急ぎ、協議したのち触れを出そう」
帝さまとナガノブさまがお認め下さったならば、天馬さまたちの保護は決まったも同然だろう。エルたちが人の言葉を理解して温和であることも、話が直ぐに纏まった大きい要因だ。
『急な話というのに、ありがとうございます』
『竜のお方も増えておられます。我々天馬も負けておられませんので』
目を細めながらエルとジョセがフソウの方々に頭を下げると、ルカとジアも嘶きで答えていた。良かったねとエルとジョセの顔に触れると、ナガノブさまが凄く羨ましそうな視線を向けてくる。
苦笑いをしてエルとジョセにお願いと伝えれば、ナガノブさまにエルが『乗ってみますか?』と言い、ジョセが『ルカでもジアでも構いませんよ』と告げた。え、マジで良いの? という顔になったナガノブさまに帝さまが『子供のようにはしゃぐのは止めなさい』とぴしゃりと言われ、彼はしょぼんと肩を落としている。
それなら明日に、と話が纏まり宴会場に移動を促された。エルたちはドエ城の庭を探索していますと言って別れる。
――お昼前。
ドエ城の大広間で華やかな宴会が開かれていた。帝さまがドエ城にいらっしゃるのはかなり珍しいことなので、護衛の方々が緊張している。炊事場の方々も変な物を出してはいけないと、気を張っているとナガノブさまから教えて頂いた。
当の帝さまは賊に襲われてもヴァナルと雪さんたちがいること、護衛の皆さまがいらっしゃるのでどんと構えていれば良いし、ご飯は毒見役がこの場に沢山いるから問題ないと言い切った。ふふふ、と笑っている帝さまに大巫女さまが『大事あれば困ります!』と苦言を呈しても、やんわりと流されている。
雪さんと夜さんと華さんとヴァナルと五頭の仔たちは、一段上がった上座でまったりと過ごしてる。仔たちは大勢の人たちが集まる場所にいるのは初めてだから、最初は驚いて籠の中で大人しくしていたけれど慣れてきたのか、すんすんくんくん鼻を鳴らして籠から脱出を試みていた。出たら出たでヴァナルと雪さんたちが対応してくれるから放置でも構わないと、帝さまとナガノブさまの顔を見る。
「愛いなあ。真、小さき時は人でも神獣でも獣でも可愛らしいのう」
「ナガノブ、愛でる心が其方にあったのですねえ」
帝さまの言葉にナガノブさまは言い返せないまま微妙な顔になっていた。割と人の心がないような台詞だったけれど、帝さまは本気で言ってはいないし、ナガノブさまも問答無用で人を斬る場合があるらしいから反論はできないようだった。
「みなーばぁ、雪たちがアルバトロスに渡ってから、密な連絡感謝いたします。貴女も忙しいでしょうに。雪たちが向こうで過ごしている様子を知れ、安堵いたしました」
帝さまが笑みを深める。雪さんたちの足形は貴重だから、大事に飾っているそうだ。ヴァナルの分もあるし、仔たちの足形もある。まだ小さいので赤色の食紅を利用したから、舐めてしまっても健康に影響はない。
親である雪さんたちと比べると、対比されて小ささが凄く分かり易かった。流石に産まれたばかりの頃は足形を取れなかったので、少し前初めて取ったのだが、小さくて可愛い足形はいろいろな方々の心にクリティカルヒットしていたし、欲しいと手を挙げる人が多かった。
仔たちは面白かったのか、紙の上を歩いてべたべたと足形を付けていたので数には困らないが、譲渡先は考えておかないと誰彼にでも入手できるものと勘違いされても困る。
「いえ。手紙は苦手で、上手な文章ではなく申し訳ありません。それに帝さまとナガノブさまにはいろいろと融通して頂いております。お互いさま、ということで」
「確かに、みなーばぁの手紙は報告書を読んでいるようでした。もう少し、語彙を増やして季節の移り変わりや自身の心の機微を記して頂けば良くなりましょう。――みなーばぁの融通して欲しいものは食べ物ばかりではないですか。もう少し衣服や装飾品にも興味を持ちなさい」
くすくすと笑う帝さま。手紙については、定型の挨拶を引っ張って流用しているだけだから、風情とか雅というものには縁遠い文になっていたかもしれない。季節は気にしているけれど、季節に対しての言葉の数がフソウよりアルバトロスは少ない。自分の心の機微はどうだろう……貧民街生活が大変過ぎてあまり動じない上に、予想の斜め上を行く巻き込まれに頭を抱えているから、こう細かい自分の心情に疎くなっているのかも。
そして、服や装飾品に興味を持ちなさいという助言に、後ろで話を聞いていたソフィーアさまとセレスティアさまが凄く頷いている。衣装を沢山持っていても、一度袖を通すだけなのはもったいない意識が根付いている。
孤児院や子爵邸で働く方々に払い下げれば良いと、ソフィーアさまとセレスティアさまは仰るが普段着と仕事着と聖女の衣装だけで十分だった。
貴族としてお茶会と夜会に参加するようになれば話は別だけれど、今の段階では無駄な買い物に思えてしかたない。そんなだからお二人から衣装を頻繁に贈られている。
「話し込んでいてはみなーばぁも楽しめないですね。ナガノブがフソウ中から旬の品を集めております。貴女の美味しそうに食べる姿を見ていると、こちらまで嬉しくなります。ささ、膳の前へ」
帝さまに導かれて上座の位置に腰を下ろす。左隣に帝さま、右隣にナガノブさまに挟まれ、後ろには雪さんたちとヴァナルと仔たちがいる。
完全に身内扱いではと首を傾げていれば、帝さまがお酒の入った小さな杯を手に取って『弥栄!』と声を上げた。確か江戸時代の頃って『乾杯』の代わりに『弥栄』だったと誰かに教えて貰った記憶が残っている。
「みなーばぁ! フソウの者にまで気を使って貰ってすまないな。有難く頂戴しておいたが、構わないのか?」
「はい。おめでたいことですし、フソウの皆さまが喜んでくださっているのは、沿道で集まった人たちの姿を見て実感しております。問題ありませんよ」
ナガノブさまの言葉に答える。ナガノブさまは神獣さまの仔が産まれてめでたいと、ドエの都やフソウの方々にお酒や食べ物を振舞っている。私もフソウの神獣さまを預かった者として、フソウの皆さまにお酒と食べ物、子供にはお菓子を越後屋さんにお願いして大量に買い付けた。
どう配布して良いのか全く分からないので、ナガノブさまを頼ってフソウの方々に配った次第だ。隅々にまで行き届いてはいないだろうが、気持ちの問題である。みんながお祭りムードを楽しめたなら、それで良い。
「そうか。後で餅つきを城内で行って、皆へ振舞う。フソウ以外では珍しいと聞いているから、気が向けば参加してくれ!」
ナガノブさまがにっと笑って、一気に杯の中のお酒を飲み干した。お餅つき、という言葉に懐かしさで記憶が蘇る。前の子供の頃、施設にご近所さまからもち米の差し入れが入り、施設のみんなと一緒に餅つきをして食べていた。
子供が餅の形を整えているから、大きさが歪だったけれど搗きたてのお餅は凄く美味しかった。黄な粉餅に餡子入りによもぎ餅に水餅にといろいろ作っていたなあ。お餅であればアルバトロスに持ち返って、フィーネさまとメンガーさまにも楽しんで頂けるかもしれない。
「あの、少し分けて頂くことはできますか?」
「少しと言わず、沢山持って行って良いし、食べていけ!」
豪快に笑うナガノブさまに感謝を告げて、宴会の時間がある程度過ぎるとドエ城の庭に出て餅つき大会が始まるのだった。