魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
搗きたてのお餅を頂いて、砂糖醤油に安倍川餅に、餡子餅、豆餅、よもぎ餅を楽しんでいたら、帝さまに大食漢であると断言された。確かに一度に五個のお餅を食べるのは、普通の女性だと量が多い方なのか。
美味しいし、滅多に食べられない搗きたてということで張り切ってお腹に収めたけれど、聖女の格好をしているから気を付けた方が良かったか。あと紅白の蒸かし饅頭も配っていると聞き、頂いた次第だ。古い和菓子店で売られている、手作り感満載のお饅頭に凄く形が似ていて味も美味しかった。
――翌朝。
ベッドではなく畳の上のお布団で寝たのは久しぶりだと背を伸ばすと、しずしずと朝の支度を始めようとみんなが借りている部屋に入ってくる。
雪さんと夜さんと華さんは帝家の皆さまと過ごすと言って、ここにはいない。ロゼさんとお迎えに行くので時間に遅れてはいけないと、ソフィーアさまとセレスティアさまにフソウの女中さんの手を借りて聖女の衣装を纏う。
「ありがとうございます」
着替えを手伝ってくれた方々に軽く頭を下げておく。
「礼は必要ないのだがな」
ソフィーアさまが苦笑しているので本気で言っていない。彼女が本気の時は顔面凶器というか……視線で相手を射殺せるレベルのものが投げられる。なので今の台詞は苦言程度のものであるし、優先度合いは低いもの。
「ナイらしいではないですか。フソウの方にも手を貸して頂いておりますし、今日はよろしいのでは」
セレスティアさまが小さく笑いながらソフィーアさまの言葉をやんわりと否定する。彼女も今回の件を重く受け止めてはいないし、子爵邸で私は侍女の方々に手を貸して貰うと最後にお礼を伝えているのは日常茶飯事だ。
頭を下げ過ぎてはならないが、お礼を述べた方が私に対する印象や心象が良い。前の人生の文化と価値観が色濃く残っている所為もある。生粋のご令嬢であるお二方は、侍女にお礼を伝える行為というものを見ると違和感を覚えるものらしい。
セレスティアさまは慣れてきている感があるものの、真面目なソフィーアさまはむず痒くて仕方ないのだろう。『すみません』と返せば『当主が謝るな』と彼女から言われるだけだし黙っておいた。
借りた部屋から外に出てジークとリンと合流しドエ城の長い廊下を歩いて行く。松の廊下とかあると面白いな、ときょろきょろしながら目的の場所へと辿り着いた。そこにはナガノブさまと九条さまが私たちを待ってくれている。
「みなーばぁ、よく眠れたか?」
「はい。十分に」
ナガノブさまが良い顔で私に問いかけ答えておく。二人の横でエルとジョセとルカとジアも待ってくれていた。昨日はナガノブさまたちフソウの面々が代わる代わるエルたちの背に乗ってヒャッハーしていた。
セレスティアさまが乗馬――で良いのかな――を楽しんでいる男性陣に微妙な顔で佇んでいたのだが、彼女の心情は『羨ましい』の一言に尽きるのだろう。エルたちと仲良くなったお陰なのか、厩の馬さんたちの食事改善や運動量の調整もなされるようで、フソウのお馬さん事情が良くなると良いのだが。
「帝家には九条が一緒に赴くので、連れて行ってやってくれ」
「承知致しました。九条さま、よろしくお願い致します」
ナガノブさまから九条さまへ視線を移すと、九条さまが半歩前に出る。
「本日は案内人として同行させて頂きます。こちらこそ、よろしくお願い致します」
恭しく頭を下げられると、私の影の中からロゼさんがぴょーんと勢い良く出て、地面を転がっていく。慣れていないフソウの面々はぎょっとしているし、ナガノブさまと九条さまは『真、不思議な生き物よ』『ですねえ』と呑気に構えてる。
「ロゼさん。転移よろしくお願いします」
『ん!』
私の下に転がりながらきたロゼさんは身体を器用に縦に伸ばして、分かったと言いたげに左右に身体を何度か揺らした。
エルたちはドエ城で待ってくれているそうだ。その間はナガノブさまが彼らをもてなすとのこと。楽しんでいるようでなによりと笑えば、ロゼさんの下に魔術陣が現れて帝家に転移する。そういえばロゼさん詠唱していたかな、と首を傾げるが既にロゼさんは影の中に戻っていて聞けなかった。
「帝がお待ちしております。こちらへどうぞ」
帝家の大門の前に辿り着くと、係の方が声を掛けてくれる。私の存在は知れ渡っているので、顔パスで通り抜けることができた。そうして帝さまのプライベート領域に入り、何十畳もある部屋へと案内された。少し待っていると帝さまと雪さんと夜さんと華さんとヴァナルと五頭の仔たちが一緒にやってくる。
一晩、アルバトロスに行った話をしていたのだろうか。恥ずかしい話が伝わってなければ良いのだが、長く生きた雪さんたちの価値観はおっとりとしているものであった。ぽろっと帝さまの子供の時の話を零していたように、私の粗相が帝さまに知られていれば頭を抱えなければならない。
「おはようございます、みなーばぁ、アルバトロスの面々も」
「おはようございます」
帝さまに頭を下げると、籠から出ていた仔たちが私の下へ駆け寄ってくる。五頭が群がると身体を倒れないように維持するのが大変だ。仔たちはクロに遊んで貰いたいようで、必死に私の脚を登ろうと試みていた。クロはクロでベロベロ攻撃が苦手で、不戦敗を喫している。
相手をしてあげてとお願いしても、五頭全員は無理! と顔を隠しながらくるりと体の向きを変え、長い尻尾を私の首に巻きつける。竜なのに……と零すと『竜でも敵わないから』とぺしょんと頭を下げている姿が可愛いから良いけれど。仔たちはヴァナルに回収されて、みんな籠の中に納まった。
「さあ、少し遅くなりましたが朝食に致しましょう。皆さまの口に合うと良いのですが」
帝さまがパン、と手を叩くと障子の扉が引かれて、膳を持った方々が私たちの前に置いてくれた。朝食なので至ってシンプルなものだけれど、朝から焼き魚の鮭とお味噌汁とお漬物と銀シャリさまを用意するのは大変だ。
賄い方がいらしゃるから帝さまが作るわけじゃないけれど、自分で作るとなれば大変である。作ってくれた方々にも、命を捧げてくれた食物にも感謝をしながら――。
「――いただきます」
とみんなで声を上げてお箸を取る。クロにはフソウの果物が用意され、乱切りされた柿がお皿に盛られていた。良かったねえとクロを見ると、初めてみる果物に興味があるようでじっと見つめている。
甘くて美味しいよと伝えると、どうやら柿をじっと見ていた理由は味ではなく、お皿の上に脚を乗せるとお行儀が悪いからと気にしていたようだ。持っていたお箸を置きカットされた柿をひとつ手に取って、クロの口元にあてるとかぽっと開いた口に丸呑みされる。クロが何度か咀嚼して、ごくりと柿を飲み込んだ。
「美味しい?」
『美味しいよ~』
私の問に目を細めながら幸せそうに食べているクロが味を答えてくれる。帝さまが胸を撫で下ろし、フソウの護衛の方々もホッとしていた。
果物って、当たりはずれがあるから、クロが食べている柿は当たりを引いたようだ。私もお箸を持ち直して、焼き鮭にお箸を入れて身を崩し箸で身を取って口に運ぶ。本当は汁物から手を伸ばすらしいのだが、帝さまから好きに食べて良いと言って頂いているので、一番初めに興味を引いた焼き鮭を選ばせて頂いた。
「美味しい」
ふふふ、と自然と笑みが零れた。お醤油を差すと味が濃くなるし鮭の味が消えてしまうと、お皿の隅にお醤油を数滴垂らして味を楽しむことにする。
銀シャリさまを口に運んで咀嚼すれば、だんだんと甘みが引き立ってくるし、お米の粒もしゃきっとしていた。南の島で取れたお米さまとはまた違う味だし、日本のお米の味にはフソウのお米の方が近いし美味しい。秋頃に大蛇さまから『米ができたぞー』と連絡が入って、収穫をお願いしているから引き取りに行くか、運んで貰わないとなあ。
そうしてお味噌汁のお椀に手を伸ばして、一口二口とお汁を飲む。鰹出汁を使っているし、お味噌も薄くも濃くもなく丁度良い塩梅で大変美味しい。お豆腐さんもわかめさんも美味しいし、極上のものを使っているのだろうなあと目を細めていると、帝さまが恥ずかしそうに口を開いた。
「お味噌は私が作っております。お味は大丈夫でしょうか?」
「美味しいです。優しい味がするので私は好きです」
お椀を置いて帝さまを見ながら答えると、嬉しそうに笑う彼女。どうやら呪いの刀問題が片付き元気になったから暇を持て余して、お味噌作りに挑戦したそうだ。周囲の方々は止めたものの、大巫女さまと一緒になって作ったとのこと。指導してくれる方もいたそうで、味に自信はあるけれど国外の人に合うのか心配だったらしい。
「みなーばぁは凄く美味しそうに食べますよねえ」
帝さまの言葉にうんうんと納得しているフソウの面々。美味しいのだから表情に出ても致し方ないし、仏頂面で食べていると料理長さんたちが心配そうな顔でこちらを見るのだ。
口に合わないものや好みでないものは、子爵家の料理長さんたちには正直に伝えている。有難い配慮だから感謝しているけれど、そんなに表情に出ているのだろうか。こてん、と首を傾げると帝さまがおかしそうに笑った。
「貴女はそのままで良いのでしょう」
またくすくす笑う帝さま。表情を操作するのは難しいし、美味しいのは事実だから彼女が仰った通りそのままで良いのだろう。あとは場所に依って、顔を引き締めていられるのならある程度の場面は乗り越えられる。
朝ご飯を終えて、雪さんたちとヴァナルと五頭の仔たちの未来を話し合い帰途に就く少し前。
ドエ城で見送りにきていたナガノブさまと帝さまの前で、籠の中から出ていた仔たちの一匹である黄色ちゃんがとある武士さんの足元におしっこを引っ掻けた。しかも割と凄い量を……足袋に草鞋だから染みるのは直ぐだったし、粗相をしてしまったと私は顔を青くする。謝ろうと一歩を踏み出そうとした時だ。
『ナガノブ』
『その者を徹底的に調べ上げなさい』
『叩けば埃が沢山出ましょう』
雪さんたちが声を上げナガノブさまが『はっ! その者を捕えよ!』と声を上げる。帝さまがお恥ずかしい所をお見せしましたね、とにこりと笑い、武士さんが回収されていく姿を隠した。彼ら曰く、神獣さまは悪いことをしている人は臭いでなんとなくわかるので、お仔たちもおしっこをして知らせてくれたのだろう、とのこと。そんな馬鹿な、と思いつつフソウ国内のことだから口は出せないと別れの言葉を告げ越後屋さんに立ち寄り、アルバトロスへと戻るのだった。
◇
――あ!
フソウに赴いた理由に、仔たちの名前を決めて貰おうとしていたのに、お祝いの料理に気を取られて忘れていた……やばい、どうしようと頭を抱えても後の祭り。切り替えて、今度手紙でお伺いを立てようと頭に刻み付けた。
そうして、フソウの越後屋さんで足りない調味料や食材を買い付けて、アルバトロスに戻ってきた。
メンガーさまにフソウ調味料セットを一式そろえて、チョコレートのお返しにしたいのだけれど喜んでくれるだろうか。あと、お餅とかもいろいろと。
フィーネさまにも納豆を用意したし、納豆好きな海外の方がいると納豆屋さんが知って新作を譲って頂いている。正直な感想をお願いしたいと伝えられたが、元日本人であるフィーネさまの評価って結局フソウの人の評価になるのでは、と首を傾げながら戻ってきた。で、フィーネさまにもきちんとお餅をお渡しする予定。
公爵さまと辺境伯閣下には高級な日本酒を、ご夫人方には反物を買っている。ソフィーアさまとセレスティアさまは気を使わなくて良いと言ってくださるが、お世話になっているので問題はない。
フソウからも、私個人に贈られた物とアルバトロス上層部へ贈られた品を預かっている。陛下に献上するために戻って直ぐ登城して、謁見場で陛下とやり取りを済ませたばかりだ。
そして亜人連合国の方々へもフソウから預かっている品がある。ナガノブさまがノリノリだったので、フソウに竜のお方が見物に行ったことが嬉しかったらしい。子爵邸からお隣にお邪魔して、ロゼさんに預かって貰っていた贈り物を渡したばかりだ。
「わざわざすまない、ナイ」
ディアンさまが私の正面に座って礼を言う。彼の後ろにはダリア姉さんとアイリス姉さんがむーと口を膨らませて、ディアンさまの背を睨みつけている。
彼女たちの横にはベリルさまが苦笑いを浮かべ、やれやれという雰囲気で見守っていた。フソウ国から預かった品はお酒とフソウ刀である。お酒はナガノブさまから、帝家からはフソウ刀を預かった。お酒はドワーフさんたちの胃の中に消えそうだし、フソウ刀もドワーフさんたちに徹底的に検証されそうだ、とは言えず笑みを浮かべて口を開いた。
「いえ。フソウの神獣さまをお預かりするにあたって助力頂きました。アルバトロス王国も私も、そしてフソウ国もディアンさま方のお心遣いに感謝しております」
雪さんと夜さんと華さんがヴァナルの番となって一番大慌てをしたのはフソウ国だ。二千年以上も国を護った神獣さまが、国を出るとか大問題である。
神獣さまと同列の存在となる竜の方々がフソウに赴くことになって、アルバトロス王国とミナーヴァ子爵はフソウ国の宝を奪った、と唱える方はいなくなったと帝さまとナガノブさまから聞いていた。
「礼を言わねばならないのは私たちだ。竜の数が増えて亜人連合国は手狭になっている。国を統べる者が、竜を受け入れてくれるのは有難い」
ディアンさまが私の肩に乗るクロを見た。ご意見番さまの生まれ変わりであるクロに感化されたのか、竜の方の数が増えている。辺境伯家の大木の下に番の竜の方が集まっているし、子爵邸に投げ入れられた卵もだし、子爵領のビオトープ擬きの卵もだし、ワイバーンさんたちも順調に増えていた。
天馬さまもアリアさまのご実家である男爵領に住み着いて、お腹が大きくなっていたと彼女から聞いている。アルバトロス王国と亜人連合国を起点に、いろいろと幻獣と魔獣の皆さまが増えていいて喜ばしいのだが、私の下に一番多く集まっているのは何故なのか。
手は掛からないし勝手に育ってくれるから良いものの、注目の的になるのでそろそろ打ち止めにして欲しい所だである。
「エルフも増えないかしらと願っているけれど、なかなかね……」
「どうして竜ばかり増えるかなあ~」
ダリア姉さんが苦笑し、アイリス姉さんが口を膨らませて私の下へとやってきて、ひょいと持ち上げらている間に彼女は椅子へ座り、私は彼女の膝の上に収まる。クロはリンの肩の上に移動して難を逃れ、ジークの肩の上に乗っている幼竜さんがクロを気にしてこてんと首を傾げていた。
「致し方なかろう。こればかりは自然のものだからな」
「そう願うのであれば、貴女方もお相手を探してみては?」
ディアンさまとベリルさまがここぞとばかりに、お姉さんズに言葉を発した。あ、これ言い返されるパターンのような気がするけれど、彼らは大丈夫だろうか。
「良い男がいないのよね」
「結婚とか面倒~」
エルフ以外の婚姻は認めないと掟で決まっているから、お相手探しも大変そうである。亜人連合国のエルフの街は百人程生活を営んでいるけれど、子供のエルフを見たことがない。お姉さんズくらいか、それより上という印象が強かった。
「どこかにエルフの方々が住んでいらっしゃると良いのですが……」
東西南北の大陸中を探せば、別のエルフの方々が住んでいるのではないだろうか。でも東大陸は魔素が少ないし、魔獣や幻獣は少ないと聞くから希望は薄い。なら北大陸ならば、ミズガルズの方々が未踏の地にエルフの方がいる望みはあるのではないだろうか。魔族の方たちも住んでいたのだし、エロゲが舞台の大陸なら……エルフの……ねえ?
「そういえば私たち以外、見かけないわね」
「聞いたことないね~大陸のどこにでも行けるナイちゃんが知らないんだし、他にいないのかな~?」
ダリア姉さんが腕を組んで胸を寄せ、アイリス姉さんの手が私のお腹に回されてぎゅっと締まる。きつくはないけれど、背中に当たるモノの感触がダイレクトで伝わります。まあ、良いのかなと思考を放棄してお姉さんズの言葉に耳を傾けた。
「うーん。情報を集めてみようかしら」
「面白い結果になるかもね~」
なにも動かないより良いのだろう。伝手なら私が持っているし、聞くだけならばタダ……とは言えないのが外交だけれども。
「で、二人は意中の相手を見つける気はあるのか?」
「………………」
「……」
ディアンさまの言葉に渋面になって黙り込むダリア姉さんとアイリス姉さん。ベリルさまは『おや?』と首を傾げているし、ディアンさまも『あれ?』みたいな顔になっている。竜の皆さまのように単体で仔を成すことができれば問題解決するけれど、残念ながらエルフの方々には無理である。
「竜の次はエルフとドワーフの番だと考えていたが」
「道は遠いようですねえ、若」
ディアンさまとベリルさまが顔を見つめながら苦笑する。いつも竜のお二人を言い負かしている、ダリア姉さんとアイリス姉さんが黙るなんて珍しい。
大丈夫かなとエルフのお二人へ視線を順に向ければ、口をへの字にして微妙な表情のままだ。ダリア姉さんとアイリス姉さんのお相手を生きている間に見られるのだろうか。どんな方なのか気になるし、いつかエルフの子供も見てみたい。人間の手に依って、亜人連合国に追いやられてしまったのだ。いつか西大陸でもいろいろな種族が共存している未来があっても良いだろう。
難しい顔のままのお姉さんズとディアンさまたちに別れの挨拶を告げ子爵邸に戻るのだった。
――数日後。
学院の三学期が始まった。始業式で生徒会会長の挨拶を済ませれば、あとは卒業式で答辞を述べるだけ。生徒会活動なんてほとんどないようなもので、お飾り生徒会長の役目も無事に終えられそうだ。
学院生活も残り三ヶ月を切って、特進科のクラス内では就職先と婚姻先の話に盛り上がっているのを横目に、私はフィーネさまとメンガーさまにフソウ土産を渡そうとサロンに呼び出しをしていた。
「フソウ土産です。今回はお餅を頂いています。他にも足りなくなった調味料や食品を買い付けましたので教えてくださればお送りいたしますよ」
「ありがとうございます、ナイさま」
「ミナーヴァ子爵、何度も申し訳ありません」
フィーネさまとメンガーさまの声に気にしないで欲しいと伝えて、冬休みの出来事や南大陸の情報を受け渡す。お二人とも難しい顔になって、黒い竜も怪しい魔術師も面倒な相手であると判断しているようだ。南大陸で余計なことをしていないか気になるし、被害を受ける方がいなければ良いのだけれど。
「難しい問題です。こちらから動きようがありませんし……南大陸へ渡る伝手もありませんから」
お二人の顔を確りと見て口を開いた。一応、アルバトロス上層部と商人さんが動いてくれているが、まだ報告が上がってこないのでどうなるのかは分からないままである。
「聖王国も南大陸の情報や伝手はありません。なにか理由をつけて宣教師を派遣することもできますが……」
「やらない方が無難でしょうね。派遣された宣教師の方がどうなるかも分かりません」
フィーネさまと聖王国も南大陸への伝手や情報はないようだ。メンガーさまも渋い顔をしている。共和国のルグレ少年の実態を知っているから、黒い竜により二人目、三人目が出てきてもおかしくない状況と判断しているようだ。
「しかし、ナイさま」
「はい、どう致しました?」
こてんと首を傾げたフィーネさまに、私も首を小さく傾げる。
「ご卒業なされれば、筆頭聖女選定の儀が執り行われるのではないですか?」
ヒットウセイジョセンテイノギ……忘れてた、と言えればどれだけ楽だろう。現時点で一番当選確率が高いのは私である。あとはアリアさまかロザリンデさまということになるのだが……。
「聖王国で噂が流れておりますし、注目もされています」
ゲームだとファーストIPの一シリーズ目の主人公であるアリスがその座に就いたのだとか。あれ、世直しの旅へ出たのにアルバトロス王国に戻ってきたのか。まあ、ゲームと現実は違うのだから、目を逸らすわけにはいかない。アルバトロス上層部と教会の判断に任せる他ないけれど、子爵位を賜っているし他の方に譲れないだろうかと頭を抱えるのであった。