魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0424:南へ渡るための種。

 三学期が始まって一ケ月が経っている。南大陸に進むための足掛かりは、ゆっくりと構築されていた。

 

 南に渡った商人さんの話によると、文化の発展の度合いは西大陸よりも下であるが、魔術はどうにか存在しているとのこと。魔物の存在も確認されており、荒くれ者が冒険者となり日々の生活費を稼いでいるらしい。

 大きな街は安全が保障されているが、小さな町や村となると魔物と野生動物に襲われる心配をしなければいけない。護衛として王国から騎士さま方と魔術師さまを付けられているので、有難い限りと話しているそうだ。

 

 部屋の扉を開放したままお茶を飲みつつ、ジークとリンと私で南のことを話し合っていた。アルバトロス王国と王妃さまの母国が動いてくれるから、私がやることは入ってくる報告を待つだけ。

 自分から動けないというのも妙な感じだけれど、公爵さまから『人を使って、情報や品物を得ることも覚えなさい』と宿題を賜ったから大人しく待つ腹積もりではある。

 

 「一応、噂を流してくれているみたいだけれど……」

 

 西大陸の黒髪黒目の者が南に興味を示し、どこかの国と縁を持つことはできないだろうかと悩んでいる……と噂を流して貰っている。今まで私の身に降りかかったことを赤裸々に語って頂き、真実を流して貰い興味を持つ方を狙っている。

 大事な天馬さまを傷付けた黒い竜を探しているから、情報があれば即教えて欲しい、とも。南の方々の反応は微妙なようで、私の話を聞くと黙り込んで暗い顔をするので良い反応を得られないと商人さんは困っていた。

 

 「流石に南大陸中に知れ渡るには時間が掛かるな」

 

 「時間が掛かるのは仕方ない。噂が流れ切れば、向こうから興味を示しそう」

 

 ジークとリンは落ち着いたもので、相手が乗り込んでくるならば叩き斬るのみと言いたげである。戦力として凄く頼もしい限りだけれど、無茶はしないで欲しい。

 なにが起こるかわからないから穏便に済ませたい。でも、ジークとリンは私に危険が迫れば、自分の命を犠牲にしてでも守ろうとしてくれるのだろう。逆に私も彼らが危ない目に合うのであれば、自分の命はかなぐり捨てるけれど。

 

 もちろん、その中にはクレイグとサフィール、クロもロゼさんもヴァナルも雪さんと夜さんと華さんも入っているし、お猫さまもジルヴァラさんも妖精さんたち。ソフィーアさまとセレスティアさまに子爵邸で働く方々、フィーネさまとメンガーさまに、アリアさまロザリンデさま、公爵さまに辺境伯閣下と夫人方、亜人連合国の皆さまも入っている。

 みんな心の中に芯が一本通っているから、私の心配なんて必要ないかもしれないが、それでも悩んだり迷ったり、助けが必要な時には手を差し伸べたい相手だ。

 

 「わっぷ!」

 

 突然椅子の横から黄色ちゃんが勢い良く後ろ脚の力で跳ねて、私の膝上に前脚を置き右耳をベロベロと長い舌を伸ばして舐め始める。

 それを見た他の仔たちがワラワラと椅子を取り囲み、私の前に赤色ちゃんと白色ちゃん、左横に青色ちゃんと緑色ちゃん、そして右横で黄色ちゃんが総攻撃を仕掛けてきた。はふはふ鼻息を荒くして目を輝かせながら、私の膝上に脚を置く。産まれて二ヶ月が経ち、随分と大きくなっているから五頭同時に膝上に乗ると前脚だけでも重い。

 

 ヴァナルと雪さんたちは微笑ましそうに見ているだけで、助けてくれない。むしろ私が相手だから、思いっきりいってしまっても良いと考えていそうである。クロは身の危険を感じて、いつの間にかリンの肩の上へと移動していた。最近のクロは仔たちの行動を予測して、絡まれないように先回りして危険を回避していた。

 

 「ジーク、リン、クロ、助けてー!」

 

 私は仔たちの勢いに負けて、椅子からずり落ちて床にお尻を付く。危ないと悟ったのか、青色ちゃんと緑ちゃんが身体を呈して下敷きになってくれた。

 私が乗ってもビクともしていない辺り、流石フェンリルとケルベロスのハーフである。感心している間に黄色ちゃんの顔が視界に映り込み、また長い舌を出して私の顔面をベロベロ舐め始める。

 

 美味しくないのに、飽きもしないで割と頻繁にベロベロ総攻撃を頂いていた。どうにか腕の力で多い被さった仔たちの身体を押しのけることができるのだが、高い声で『きゃん!』と鳴かれることもあるので無理ができず為すがままだ。

 

 『自己責任だよ~ナイ~』

 

 「え、根に持ってたの!? って、そこは駄目ー! 舐めないでーー!!」

 

 くんかくんかと匂いを嗅がれたり、妙な位置をベロベロと舐められて、助けを求め腕を伸ばせば、ヴァナルと雪さんたちがようやく手を貸してくれた。仔たちが五頭ならんで絨毯の上にお尻をへちょんと下ろして、反省していますとポーズを取っている。その横にヴァナルと雪さんたちも腰を下ろして、説教はご自由にという雰囲気になっていた。

 

 「黄色ちゃん、手加減して頂けると助かります」

 

 黄色ちゃんの前に正座で腰を下ろすと、ヘッヘッヘッと舌を出して頭の上に疑問符を浮かべている。座ると体の大きさが変わらない、と私が手を出せば、右前脚を上げて身体を斜めにした。

 

 「妙な声が聞こえたが……――ぶふっ!」

 

 「ナイ、羨ましいですわ! わたくしも頭の上に脚を置かれたいです!!」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが開放された扉の前に立って声を掛けてきた、と同時に黄色ちゃんの右前脚が私の頭の上にポン、と軽く乗せられたのだ。どうやら先ほどの私の悲鳴が届いていたようで、心配になって様子を伺いにきたようだがタイミングがすこぶる悪かった。

 

 ドヤ顔の黄色ちゃんと、背を丸くしながら顔の位置が下がっていく私。クロは面白いものを見たという雰囲気だし、ジークとリンは『いつものことだな』『そうだね』という無言の会話をしている。

 ヴァナルと雪さんたちは『主……』『あらあらあらまあまあまあ』みたいな感じ。お猫さまがいれば金色の眼を細めながら、大笑いされていただろう。ジルヴァラさんがいたらオロオロして困っていそうだし、彼女が子爵邸のお掃除を担ってくれていて良かった。

 

 「…………なんで」

 

 笑いを堪えているソフィーアさまに、状況を見てむすっとしているセレスティアさま。今なお黄色ちゃんの脚が頭の上に乗ったままだし、他の仔が立ち上がって背中に回ってお尻の辺りの匂いを嗅いだり、膝の上に乗ってお股の位置に鼻を押し付けたりして大変な状況である。

 

 毎日お風呂に入っているので、匂いはしないはずだけれど恥ずかしいのでそろそろ止めてください、と膝の上に乗った白色ちゃんを持ち上げ、黄色ちゃんの脚をやんわりと掴んで絨毯の上に下ろした。手のひらサイズから随分と大きくなったものだと感心しながら立ち上がり、ソフィーアさまとセレスティアさまに顔を向ける。

 

 私が立ち上がったことで、遊びの時間は終わったと仔たちは解釈したのか五頭で勝手に遊び始めた。ヴァナルと雪さんたちの上に乗ってみたり、脚を伸ばして『遊んでー』と誘っている姿は微笑ましい。ピーピーパーパーと鼻を鳴らしていた時期は過ぎ去り、一鳴きした声もヴァナルと雪さんたちの鳴き声に似てきている。

 

 「ナイ、大丈夫か?」

 

 「どうにか。クロとジークとリンが助けてくれませんでした」

 

 ソフィーアさまの言葉に、私は口をへの字にしながら答えるとリンが私の横に立って乱れた髪を直してくれる。ひょいっとリンの腕が私のお尻に回って、軽く持ち上げられた。そうして座っていた椅子に下ろされ『見捨てられたんです』ソフィーアさまに訴えれば彼女は苦笑いを浮かべて口を開く。

 

 「危機的状況であれば必ず助けてくれるだろうに。なら、危なくなかったということだろう?」

 

 彼女の言葉にジークとリンがうんうんと頷く。

 

 「それは、そうですが……」

 

 二人に対する信用は一ミリどころか十ミクロンだって動いちゃいないけれど。

 

 「そう拗ねるな。何事もなくて良かったよ。珍しくナイの大きな声が聞こえたからな」

 

 「お騒がせしました」

 

 「良いさ、気にするな。ナイの心配をするのは侍女の役目だ」

 

 ふっと笑うソフィーアさまに笑みを返し、視界の端では一人しれっと毛玉ちゃんたちの方へと吸い込まれていた方の髪がぶわっと広がった。

 

 「セレスティア、もう死んでも構いませんわ。わたくしの短い人生において一片の悔いなどありませんもの」

 

 しれっと仔たちと戯れていたセレスティアさまが悦の境地に至ったようで、変なことを口走る。彼女の言葉を聞いたヴァナルと雪さんがよっこらしょっと腰を上げ、セレスティアさまを囲う。それ、彼女に止めを刺していないかなとソフィーアさまの顔を見ると『どうにもならん、とりあえず見守ろう』と視線で訴える。なら彼女に従おう。

 

 『セレスティア、死んだら駄目』

 

 ぐりぐりとセレスティアさまの顔に顔を摺り寄せるヴァナルの破格の行動に、お目々をぐるぐる回し始めた彼女。そうして雪さんたちが三つの顔を並べて、お目々ぐるぐるな彼女の視線を捉えた。

 

 『まだ仔たちの成長を見届けてください』

 

 『主殿であれば、他にもたくさん魔獣や幻獣とお会いするでしょうし』

 

 『まだ若いのです。まだまだ貴女は生きなければ』

 

 ぺしぺしと尻尾でセレスティアさまの背を叩いて死んでは駄目だと、言葉と行動で訴えると、セレスティアさまは限界に達したのかパタンと絨毯の上に倒れ込み、仔たちのペロペロ攻撃に晒されるのだった。

 

 ――後悔はありません。またペロペロ攻撃されたいです!!

 

 目を覚ました彼女がいの一番に私に訴えた言葉だった。

 

 ◇

 

 ――アルバトロス王国・王都・教会。

 

 教会会議室で、アルバトロス王国教会を束ねる主だったメンバーが集まていた。参集者はお世話になっている枢機卿さまとリーフェンシュタール枢機卿、そして枢機卿五席の一角を担うことになった私、アウグスト・カルヴァイン。

 

 残りの二席は空座である。この二年で随分と教会の状況が良くなっているのに、未だに誰も就かないのは何故だろうか。私はまだ未熟者で口煩く告げることも好きではないから、流れに逆らわず己ができることとやるべきことを真っ直ぐに取り組んできた。

 

 今日は大事な話があるからと先に名を上げた枢機卿のお二人から声が掛かり、皆が集まっている。私以外にも神父殿やシスターたちも席に座し、一体何事かと話を待っていた。

 

 「皆、忙しい中集まって貰い感謝する」

 

 「呼び出した理由は、アルバトロス王国教会のこれからのことを話したい」

 

 枢機卿さまとリーフェンシュタール枢機卿が我々の顔を順に見た。いつもより重い雰囲気を感じ取り、なにかあるのだろうとごくりと息を呑む。

 彼らは腐敗していた教会を憂いていた。少なくとも私がお世話になっている枢機卿さまは、地道に活動をして信仰を厚くしていた。そんな方たちが折り入って話があるとは……。私以外の参集者も真剣な表情でお二人を見ている。

 

 「私とリーフェンシュタール枢機卿は新たな筆頭聖女が決まれば、枢機卿の座を退く」

 

 「そして、現在五席ある枢機卿の位を三席に減らし、新たな二名に担って頂こうと考えている。カルヴァインは継続だ」

 

 お二人の言葉に集まった方々がざわめき立つ。唐突な宣言に驚き、困惑しているのだ。一体どうして彼らはこんな結論に至ったのか分からない。

 

 「質問をよろしいでしょうか?」

 

 分からなければ本人たちに聞けば良いだけと、小さく手を挙げ私は声を上げる。私の顔を見た彼らは一つ頷いて言葉を促した。

 

 「何故、急にそのようなことを……アルバトロス王国教会の枢機卿の座は発足当時から五席あるのが常です。席を減らすことに意味を見出せませんが……」

 

 枢機卿という立ち位置は皆に尊敬され、教えを説く立場である。沢山の信者の方や救われない者が集まり、枢機卿さまの話を涙ながらに聞いている場面を良く見ていた。そんな方々が突然引退してしまうとなれば……教会にどれほど多くの影響があるのか分からない。

 

 「意味はあろう。聖王国から派遣された枢機卿はアルバトロスで好き放題していた。聖女たちが集めた寄付を使い込み放蕩三昧だ」

 

 「見ているだけしかできなかった私も彼にも責任はあるが、二年前の騒動で教会の権威が地に落ち、皆が大変だった。だが今現在の状況を鑑みれば五席もの枢機卿は必要はない。そして我らはもう引退しても良いだろうと彼と話していた」

 

 お二人は以前から決めていたようだ。二年前の件――私が渦中にいたので申し訳ない限りだが、後悔はない――で聖女さま方の預かったお金を枢機卿三名と彼らの配下が使い込んでいたことにより、教会は大きく揺らいだ。

 

 存在が危ういところまで追いつめられてしまったが、ミナーヴァ子爵さまのお心遣いによって教会は持ち直した。彼女は悪には怒り、弱き者にはとてもお優しい方である。お金を使い込んでいた枢機卿三名と関係者しか罰しないで欲しいとアルバトロス王国に願い出てくれたようだし、我々教会に対する信徒や民からの疑惑も彼女の好意により随分と収まったのだ。少々強引だったように思えるが、今思えば最善の結果だったのだろう。

 

 「若い世代に託し、新しい風を教会に吹き込ませて欲しい」

 

 「とはいえ、筆頭聖女選定の儀はまだ少し先だ。今少し世話になる」

 

 ふっと笑うお二方に、私たちは確りと頷いてこれからの教会は任せて欲しいと彼らに無言で気持ちを伝える。そうして暫く時間が経ち。

 

 「我々の進退は先に国へ伝え許可を得ている。そして、今日の本題だ」

 

 世話になっている枢機卿さまが、隣に座るリーフェンシュタール枢機卿に視線を向けた。

 

 「筆頭聖女候補を幾人か候補に上げ、アルバトロス上層部に伺いを立てよう」

 

 筆頭聖女選定の儀は、現筆頭聖女さまが座を退きたいと願い出れば執り行われるものである。数年前から筆頭聖女さまは年齢を理由に表舞台に姿を現していない。情勢が安定しており他国へ赴く必要性が低く、新たな筆頭聖女を急いで据える必要はないと判断され今まで引き延ばされていた。

 アルバトロス王国も関わるために、教会が勝手に新たな筆頭聖女を決めることはできない。教会が聖女として相応しい方を国に知らせ選定を受け、更にそこから選び抜かれる。

 

 「推薦したい聖女は誰か?」

 

枢機卿さまの言葉に、皆一様に『ミナーヴァ子爵』の声を上げた。

 

確かに実力と功績を考えれば、彼女が筆頭聖女の座に相応しい方である。だが、爵位を持つ現役聖女が筆頭聖女の座に就いては、負担にしかならないのではないだろうか。領地の運営だけであれば代官を立てて領地を任せれば良いが、ミナーヴァ子爵は国をまたに掛けて活躍しているお方である。今はまだ学生の身分であるので、子爵家当主として全ての仕事を担ってはいないだろう。

 

 卒業をすれば領地運営に亜人連合国とアガレス帝国他の国々と縁を繋いでいかなければならず、筆頭聖女の任はご負担にしかならない気がする。小柄でお優しいミナーヴァ子爵が倒れている所など見たくない。私が見たいのは治癒院で患者さんたちに優しく微笑む彼女の姿だ。

 

 「皆さん。黒髪の聖女さまを推しておられますが、王国から爵位を賜っていることを考えれば我々の意思だけで推薦するのは不躾かと……!」

 

 手を挙げて、ミナーヴァ子爵だけを推している状況を危惧しておく。私の言葉にはっとした顔をする方もいれば、異なことをと呆れた表情を見せる方もいて反応は様々である。

 

 「しかし……他に有力な聖女が……」

 

 「いや、王都のミナーヴァ子爵邸に身を置く、アリア・フライハイト嬢とロザリンデ・リヒター嬢もいらっしゃる。他にも城の魔術陣に魔力を補充する聖女が幾人かいるな」

 

 リーフェンシュタール枢機卿の言葉に、枢機卿さまが黒髪の聖女さま以外の方を何名か上げた。フライハイト嬢は王太子妃殿下の妹さまに残った傷を綺麗に治した功績やリーム王国の聖樹に魔力を注いだことがある。

 

リヒター嬢は侯爵家出身であること、この二年間の活動で貴族であれど、民に等しく治癒を施しており評判が上がっている人物だ。惜しむらくは、治癒より攻撃魔術の適性が高いことだろう。治癒魔術が得意であれば、聖女としてもっと名を上げていたに違いない。現在のアルバトロス周辺国は争いを是としておらず、聖女が戦場に立つことはない。

 

 「ミナーヴァ子爵の活躍に隠れておりますが、今、名の上がった皆さまは十分に筆頭たる資質を持ち得る方々です」

 

 ミナーヴァ子爵だけではないと、リーフェンシュタール枢機卿を始めとした方々に主張しておく。確かに、と納得している方々がいらっしゃるので、教会からの推薦はミナーヴァ子爵の名前だけではなく、フライハイト嬢とリヒター嬢に他の聖女さま方の名も載ることだろう。

 

 ふう、と安堵の息を吐き、これから先の打ち合わせを行う。

 

 冬が終わり春を迎えれば、筆頭聖女選定の儀が執り行われ代替わり式もある。確か、陛下がミナーヴァ子爵へ錫杖を下賜すると聞いているのだが、一体いつになるのだろう。

 卒業後とは聞いているが、製作が順調なのか滞っているのか耳に入らず情報が掴めていない。下賜するのであれば代替わり式が一番適しているけれど、ミナーヴァ子爵以外が筆頭の座に就いた場合、王国はどの機会に錫杖を子爵へお渡しするのか。

 

 初夏にはアガレス帝国で新皇帝の即位式が催されると聞いている。ミナーヴァ子爵はアガレス帝国のウーノ第一皇女殿下と交友があり、即位式の招待を受けるのは確実だ。 

 東大陸の六割を統治するアガレス帝国である。きっと盛大な式になるに違いない。最初こそアルバトロス王国と聖王国のやんごとなき方々を攫い、争いに発展するのかとハラハラしていたがミナーヴァ子爵の取り計らいによって難を避けている。共和国から魔力持ちの方がアルバトロスに魔術を習いにくるとも聞いているし、協力要請がアルバトロス上層部から教会に下りている。

 

 ミナーヴァ子爵は本当に規格外の方であり、聖女の器で収まる方ではないと私は認識している。

 

 竜を従え、スライムを侍らし、フェンリルとフソウの神獣さえも共にしていた。教会の不正を暴くべく、王立学院で彼女が歩く前を遮って頭を下げた私は首と身体が繋がっているのは奇跡なのだろう。

 そして、若くして私が枢機卿の座に就いていることも奇跡だ。最初はどうなることかと心配だったが、周りの支えによって不格好ながらも枢機卿の職務を全うしている。

 

 少しばかりミナーヴァ子爵に関わった者として、彼女の軌跡を記しているのだが私以外の誰かに読ませるつもりはない。いつか私に死が迎えにきた時、彼女の破天荒な策に翻弄され人生で一番波乱だった日々の記憶を共に棺の中に忍び込ませたいものだと、小さく笑うのだった。

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