魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0426:次の国へ。

 南大陸へ初上陸した国から隣の国へ行く手筈は直ぐに整った。黒髪黒目のお方の望みであれば、直ぐにでも手配いたしましょうと隣国から返事がきたそうだ。こちらも直ぐに渡る準備はできているので、凄くご機嫌な様子の……A国の王族の方々に見送られながら、B国へ渡った所である。

 

 A国の王族の方々、特に男性陣が安心した表情であったので不思議に思い、詳しい事情を聞いていた外務官さまに『何故、急に好意的になったのか』と聞いてみると、碌でもない話を聞いてしまった。私、あの方たちに浄化魔術を施さなければならないのだけれど、追加で妙な依頼を出されないよねと少々心配になってしまった。

 

 とはいえ今はA国の事情より、黒い竜と怪しい魔術師の情報である。

 

 で、今度はB国上層部の方々と面会することになったのだが、随分と私に気を使って……というか冷や汗を掻いているんだけれど大丈夫だろうか。

 会議室で彼らと面と向かっているのだが、落ち着かない様子である。私は南の女神さまよりは温厚なはずだし、手も出さないので安心して欲しい。チビは攻撃性が高いと誰かが言い放っていた気がするが、個人の性格の差かたまたまチビの人が切れやすい性質で目立ってしまっただけだ。

 

 「よ、ようこそおいでになられた。黒髪黒目のお方よ。本来であれば陛下と面会を執り行うべきであるが、どうしても外せぬ用があった故に許して頂きたい」

 

 「お気になさらないでください。わたくしは、情報を得られれば良いのです。陛下がお忙しい身であることを我々は重々理解しております」

 

 にっこりと笑顔を張り付けると、何故かびくっとなる相手国の面々。海千山千の曲難を越えてきたであろう方々が、そんなにビビり倒す女神さまって一体どんな方なのか。それに……女神さまが恐ろしいのか、私が恐ろしいのか、どちらか分からないけれど、なにも王さまに直接会いたいと無理は言わない。

 

 「で、では、怪しい女の情報を……――」

 

 私の目の前に座るB国のお偉いさんが、少し言い淀みながら教えてくれた。曰く、随分とお腹の大きい女で、身籠っていることは明白。出産間近の妊婦であるのに、B国からC国へ渡ろうとしていたこと。

 旅の理由が『方々を回ってみたい』というものなのに、同行者もいないのはどうみても怪しい人物であると判断されたようだ。A国からの問い合わせで、やはり怪しい者であったと確信したとのこと。

 

 「女はC国へ出立しております。黒髪黒目のお方の身元照会は確かなものなので、C国へ渡る手配を直ぐに行いましょう」

 

 「お手数を掛けてしまい申し訳ございません」

 

 目の前の彼は私から早くB国から出て行って欲しいのだろうか。凄くこちらを伺いながら言葉を選んでいるようにみえる。

 

 「恐れながら……く、黒髪黒目のお方は我々の国に報復はなさりませんよね?」

 

 「……そう質問された意図や経緯をお聞かせ願いたいのですが……先にお伝えしておきます。わたくしが貴国に手を出すことはございません。手を出せば、わたくしが忠誠を誓うアルバトロス王国に迷惑を掛けてしまいます」

 

 私が怖くて怖くて仕方ないようなので、私が先に彼らの意味や意図を掴むことよりも、先に相手の方々を安心させた方が良いだろうと私の考えを述べておく。

 二年前はアルバトロス王国に忠誠心なんてなかったが、陛下や皆さま方にはお世話になっているので国が滅ぶようなご迷惑は掛けられない。ただ、南の国がルカと空飛び鯨さんを襲ったのであれば、話が変わってくるのだが……多分、愉快犯だろう。そもそも竜と結託している国があれば、ディアンさまが知っているだろうし。

 

 「さ、然様でございますか」

 

 そうしてまた目の前の彼から齎された話はA国と似たような話だった。黒髪黒目を馬鹿にした人が凄惨な最後を迎えたことがあり、それも大勢の目の前で亡くなった、と。

 それからというもの、この国では黒髪黒目の者には見ているだけで、触れてはならないと暗黙のルールができた。……本当に南大陸の女神さまは、なにをやっているんだろう。いや、まあ……格下相手となる人間だから、私たちに価値を見出していない可能性もある。でも、それなら黒髪黒目として生まれてきた人たちの懇願を聞き届けるはずはない。

 

 派閥抗争に負けて南大陸から西大陸へ逃げた彼らは、どうして黒髪黒目を畏怖せず崇めているのだろう。

 

 凄く不思議である。もしかして一族の誰かに黒髪黒目が生まれて、女神さまが大層気に入っていた……とかであれば彼らが崇めるのも理解はできる。

 東も東で黒髪黒目を崇めていることが不思議だったけれど、南は南で崇めつつも畏怖しているのも不思議な感じだ。大陸を創造した女神さまが違うようなので、なんとも言えなくなってしまったが。

 

 ――ふう、と息を吐く。

 

 びくっとした相手の皆さまに私も驚いた。うーん、南大陸では気持ちを切り替えるための息を吐くことすら、時と場所を選んだ方が無難であるようだ。

 驚かせて申し訳ありませんと礼を執れば、急いでC国への入国許可書と相手国への連絡を入れてくださる。あとは竜の方々とエルたち天馬さまが南大陸を飛翔するための前準備もお願いして。では、行って参りますと告げて彼らと別れる。別れ際、B国の特産品を聞くことは忘れなかった。

 

 「く、黒髪黒目のお方の気性が荒くない……」

 

 「言い伝え通りのお方ではなかったな。しかし食べ物に興味を持っておられるところは同じなのだな」

 

 私たち一行が去ったあと、B国上層部の皆さまがこんな台詞を呟いていたことを知らないままだった。

 

 「やっと手掛かりが見つかったかな」

 

 B国上層部の方に送り届けられて、C国との国境付近に辿り着いている。馬車での移動だったのに、国境まで数時間しか掛からないのは地政学的に問題では……と疑問を掲げてしまう。遷都できなかったのか、はたまた極小国家だったのか。どちらにせよ、手掛かりに近づいているのだから文句は言うまい。

 

 『大丈夫?』

 

 私の肩の上に乗るクロが、首に尻尾を巻きつけながら問うてきた。

 

 「クロは心配なの?」

 

 『どうだろう。みんなに危ない目に合って欲しくないから、変な人にわざわざ手を出さなくても良いんじゃないかなって」

 

 とはいえ、ジークとリンと私がいれば戦力的に問題はないし、クロも緊急時には参戦してソフィーアさまとセレスティアさまも加勢できるのである。護衛の方も一緒だし、大抵のことは乗り越えられるはず。一番心配なことは、怪しい魔術師と黒い竜の強さが不明なこと。私が大きく動けば、南大陸の女神さまが現れる可能性を残していることだろうか。

 

 「変な人が暴れれば、その時は私が責任を持ってみんなを守るよ」

 

 私が魔力全開で対応すれば、ある程度の時間稼ぎができるはず。竜と一緒となれば分が悪い気もするが、魔術の並列展開も習っているのだから。

 こんな展開になるなら子爵邸にあった魔導書を読み込んでおくべきだったか。アルバトロスに戻ったら図書室に行ってロゼさんと一緒に魔術の勉強をしようかな。なにか言いたげなクロの顔面すりすり攻撃を受けていると、私の背後から気配を感じて顔をそちらへと向ける。

 

 「馬鹿を言うな。ナイを守るのは俺たちの役目だ」

 

 「兄さんの言う通りだよ。私たちはナイの騎士だよ。守るのは当然」

 

 ジークとリンが真面目な顔で気持ちを伝えてくれる。そっくり兄妹は私の盾であり剣だ。攻撃手段に乏しかった私にいつも付き従って、真っ先に危険な場に足を踏み入れてくれた。私が討伐遠征に赴いて、生き延びたのは彼らのお陰である。これからも私たちの関係が変わらないようにと願いながら、へへへと笑って頷いた。

 

 「私も忘れてくれるな。主人を置いて逃げる侍従など、どこにいるんだ」

 

 「ソフィーアさんのおっしゃる通りですわ。守るべき主を置いて行けば、臆病者と皆に誹られましょう」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまも名乗り出てくれた。普通、戦闘状態に陥れば侍従ではなく、護衛の方が前に出る気がするのだが……優秀なお二人は戦闘もきちんとこなせるようだ。頼もしい限りです、と告げればB国からC国へ渡る準備が整ったと、国境警備員の方が教えてくれる。

 

 「えっと……気を引き締めていきましょう」

 

 「ああ」

 

 「うん」

 

 「わかった」

 

 「承知致しました」

 

 私の声に、ジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまが答えてくれる。影の中でロゼさんも反応してくれているのだから、頼もしい限りだ。気を引き締めていきましょうと言ったけれど、私には似合わない台詞だと苦笑いしながらC国へ足を踏み入れたのである。

 

 ◇

 

 C国王都に辿り着きました。ちょっと試したいことがあるので、王都を囲う壁の外で魔術を行使しておいた。ソフィーアさまとセレスティアさまも、魔術を使用するにあたって文句はないのでなにも言わない。

 私が間違ったことをしていれば苦言が入るはずだし、アルバトロス上層部にも相談済みの案件だから迷惑を掛けることはないはず。ただ使用制限を設けている魔術なので、覚えるのに苦労したけれど。

 

 「魔術の使用によって喋り辛くなります。申し訳ありませんが、対応をお願い致します」

 

 新たに覚えた魔術は、術を行使する者に対して負担が大きい。その弊害は脳の思考領域を半分以上使っているので、疲れる上に脳味噌の反応が鈍くなる。

 並列思考が得意な方は難なく術を行使できるのであるが、シングルタスクな私に合わない術なので、どうしても術の行使による害が現れてしまう。

 魔力量は問題ないけれど、まさか頭の悪さが術の仕様に影響が出るとは。王家直属で雇っている影の方――術を教えて貰った――からすれば、私の豊富な魔力量は魅力的とか。動けなくとも術を行使できる時間は長い上に、効果が彼らより大きいので羨ましいと零していた。

 

 「分かった。基本、買い付けをして情報を聞き出す、だな」

 

 「店に入って、情報を頂くだけでも良い気がしますが……ナイの評判を落とすわけにはいきませんし、承知いたしました」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが私の代わりにお店の方との対応を担ってもらう。今回は商人として買い付けにきた、という体にしているのだが着ている服が聖女の衣装であるし、ソフィーアさまとセレスティアさまの令嬢然とした雰囲気はごまかせないだろう。

 ジークとリンは騎士だから『護衛』ですと伝えれば納得してくれるはずだ。商人の方々は盗賊などの無法者に備えて、腕自慢の方々を雇うと聞いているし。それに私の肩の上で興味深そうにきょろきょろと周囲を見ているクロが珍しいから、普通の一団には見えない……と言いたかった。

 

 王都の方たちから一番注目を浴びているのは、黒髪黒目の私である。なんで、と思うが致し方なく、受ける視線を我慢するしかない。南大陸に住まう方々は私に対して引いている感じがヒシヒシと伝わってくる。用事を済ませれば直ぐにアルバトロスに戻るので、少しの間辛抱してくださいと適当な商店の前に立つ。

 

 「この店で良いのか、ナイ?」

 

 ソフィーアさまが半歩後ろで私に問うたので、お店の看板を見上げながら私は短く『はい』と答えた。

 

 「ナイらしいですわ。最初に赴く店が食料関係ですもの。次は、衣装を取り扱う店に入りましょう」

 

 彼女の後でセレスティアさまが、次に入る店を絞ってくれた。反論する気はないので『……はい』と伝えておく。参りましょう、と声に出し私たち一行は店の中に踏み入れる。護衛の方が店の扉に手を掛けて、店の中へと促してくれる。最初にソフィーアさまが入り、直ぐ後にセレスティアさまが入った。

 私はセレスティアさまの後に入り、店の中を隅々までチェック。ジークとリンも私と付かず離れずの距離で入店するのだった。お店に入ると独特な匂いが直ぐに鼻孔をくすぐる。

 

 「いらっしゃいま、せ……当店を選んで頂き誠に感謝致します」

 

 良い衣装を着た男性が私たち一行を出迎えてくれる。ソフィーアさまとセレスティアさまを見て、私を視界に入れた途端にどもった。

 今の私はポンコツだからお店の方と交渉できないので、前に立つお二人にお店の方との交渉は任せる。私たちが足を踏み入れたのは、所謂富裕層向けのお店だ。店内に私たち以外のお客さまはおらず好都合だった。

 

 「突然申し訳ない。一見だが、買い付けは可能だろうか?」

 

 「もちろんでございます。当店は王都のどこの店よりも質の良い香辛料をご用意しております。美容に良いとされる品も扱っておりますので、是非ご覧ください」

 

 ソフィーアさまの言葉に店の方がセールスポイントを伝える。手をすりすりしながら、こちらのご機嫌を伺っているのは万国共通なのかもしれない。

 ちなみに私はソフィーアさまとセレスティアさまの妹設定である。で、お二方は腹違いの姉で、年齢は一緒という体だ。凄く複雑な家庭では……と彼女たちに疑問を投げれば、貴族家では普通だし、もっと関係のややこしい家もあるとのこと。

 

 「良き品を置いていらっしゃるのですね。これは期待しなければ」

 

 ふふふ、とセレスティアさまが鉄扇を開いて笑えば、お店の方がくわっと目を見開く。何事だろうと首を傾げると、すかさず店の方はドリル髪が特徴の彼女の前に立つ。営業用の笑みを携えて。

 

 「お綺麗なお嬢さま。興味を抑えきれぬ私の無礼をお許しください。――貴女がお持ちになっている鉄扇は、どちらの店で売っておりましたか?」

 

 「おや。わたくしの鉄扇にご興味を持たれるとは慧眼ですわね」

 

 お互いににこりと笑い合っている。ソフィーアさまが小さく溜息を吐いているが、口を出す気はないようだ。私はゆっくりでも構わないし、頭が回らないので状況を見守ろう。ジークとリンは店の中に不審な人がいないか警戒しているので、なにか変化があれば直ぐに気付く。

 

 「食料品を取り扱う店でありますが、私も商人の端くれです。目敏く良い品を見つけることも、商人の資質でございましょう」

 

 にこりと笑うお店の方。私の存在を忘れている気がするけれど、まあ良いか。商人魂が黒髪黒目がこの場にいることを上回ったようだから。

 

 「竜の鱗で鍛えた鉄扇ですわ。残念ですが、南大陸では売っておりませんの」

 

 セレスティアさまの言葉にクロが『ドヤ』と胸を張った気がする。クロのドヤ顔は可愛いけれど、お店の方は鉄扇に目が行ってクロの『ドヤ』な態度に気付いていない。ぷすん、とクロから空気が抜けて私の首に長い尻尾が巻き付いた。どうやらお店の方に気付いて欲しかったのか、顔を下げて気落ちしている。

 

 「おや、それは残念です。どちらでお売りしているか伺っても?」

 

 お店の方は笑みを携えたままである。新たな取引先を得られると踏んでいるのだろうか。

 

 「ふふ、情報を無料で頂けるとお思いですか?」

 

 セレスティアさまは簡単に教える気はないようだ。ちなみに亜人連合国のお店は誰でもウェルカムなお店である。身分を問わないし、払えるお金があるならば善人でも悪人でも取引できる。

 ただし、ハーフエルフのカルミアさんとシスタスさんの厳しい査定を受けることになるし、買いたい品次第でダリア姉さんとアイリス姉さんが対応するのだ。ラスボス感の凄いお二人に妙なことを働けば、ケツの毛まで毟り取られることだろう。実際に、西大陸の南東の国のあの方たちはダリア姉さんの口車に乗って、アワアワしていると外務官さまから聞いたことがある。一体、エルフのお姉さんズがなにをしたのか気になるが、怖いので内容は聞いていない。

 

 「……いえいえ。そんなことは」

 

 「では、こちらも情報を頂きましょう」

 

 少し反応が遅れたお店の方。セレスティアさまも気付いており、にこりと笑って開いていた鉄扇をぱちんと鳴らして閉じた。そしてお店の方は彼女の言葉に頷く。

 

 「怪しい女が王都に入り込んだ、と聞いてはおりませんか? 黒尽くめの女です」

 

 「怪しい黒尽くめの女……ああ、暫く前に聞いたことがありますな。黒尽くめの女が王都をウロウロしていると。この国は元より周辺国は黒色の衣装をなるべく避けますから、噂が流れておりました」

 

 お店の方は微妙な顔で語ってくれた。少し前に噂が流れたが、今はもう人々の記憶から消えつつあるとか。噂が収まった原因は、単純に黒尽くめの女が現れないから。ここでも逃してしまったのだろうか。でも、せっかく情報を掴んだし、噂を信じて他の国へ行のもアリだけれど……判断が難しい。

 

 「ああ、最初は腹が大きかったと聞き及んでおりましたが、子が生まれたようです」

 

 暫くこの国に滞在しており、お腹が凹んだ途端に姿を消した、とのこと。生まれたばかりの子供を連れて、各国を訪れるのは無謀だ。ただでさえ子供の生存率が低い世界なのに、ウロウロするのは子供の命などどうでも良いと主張しているようなものである。

 

 「子が生まれたのか」

 

 「……面倒が増えましたわね」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが難しい表情になる。生まれた子供に罪はないが、敵対する可能性の高い相手が子供を盾に使うと私たちは動きが取れなくなってしまう。

 セレスティアさまがぼやいた通り面倒な展開だと、黙ったままお店の方とのやり取りを終える。鉄扇は亜人連合国のお店に向かえば手に入りますよ、とセレスティアさまがお店の方へ情報交換という形を取った。あとは聞いたことがある香辛料を適当な量を買い付けて貰い。

 

 「ソフィーお姉さん、セレ姉さま、帰りましょう」

 

 「あ、ああ、分かった」

 

 「ぷっ。ええ、参りましょう」

 

 口元が引き攣ったソフィーアさまと笑いを堪えたセレスティアさまに、口元がへの字になってしまった。一応、家族設定だからお店の中での呼称を決めておいた。

 で、今言った台詞が取り決め通りだったのだけれど、お二人は呼ばれ慣れない言葉に違和感を覚えたようだ。

 香辛料と情報が手に入ったから我慢しようと、お店の方に『ありがとうございました』と伝えて店を出た。香辛料は値が張るけれど、美味しい料理を作る時に欠かせない代物だ。アルバトロスに戻るのが楽しみになってきて、口元が緩んでいたらしい。お店の前でソフィーアさまとセレスティアさまが少し呆れて私を見ていた。

 

 「そこまで畏まらなくても良いのではないか?」

 

 「ええ。他国の商人という体で店に赴きましたが、身形でわたくしたちの方が上と店の方は判断したでしょうに」

 

 人通りの多い雑踏を眺めながら、お二人の疑問に答えるべく顔を見上げる。

 

 「どうにもまだ癖が抜けきらなくて……」

 

 まだまだ日本人としての感覚が抜けていないようだ。フソウと交流を持ったことも大きい理由だろう。あの国は日本を模しているので、西洋式の礼儀作法よりもしっくりとくる。話が終わると私の服の袖を握る人がいて、そちらへ視線を変える。

 

 「……私も呼んでみて欲しい」

 

 リンが妙な顔をして私を見下ろしていた。自分だけ呼んでくれないのが嫌だったのか、彼女なりに声を掛けるタイミングを見計らっていたようだ。私の中でリンはリンだし、どう呼ぼうか迷った末に。

 

 「リン姉?」

 

 孤児院の子供たちと同じ呼び方であるが、彼女を姉として呼ぶのであれば今のが一番言いやすい。

 

 「ん」

 

 へへへと笑ったリンが私を抱き上げた。そうして外で待っていた馬車にソフィーアさまとセレスティアさまが乗り込んで、私も抱き上げられたまま馬車へと入って腰を下ろす。今日は一日で三ヶ国を回る大移動だったけれど、手掛かりが掴めるかなあと本日の宿へゆっくりと進むのだった。――まだ術を発動したまま。

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