魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0428:よく喋るば……。

 ――次からは本気を出しましょう。

 

 怪しい魔術師の名前を知ることはなかったので、女魔術師さんとでも心の中で呼ぼうと決めたのだが、本気を出すならロゼさんに転移をお願いしたい。ただ周りに人がちらほらいること、民家やお店に被害が及ぶことを考えると無茶はできないと、ロゼさんの転移を躊躇ってしまう。

 

 名乗りは上げた、相手に逃げる気配はない、それなら魔術具で魔力を制御していることが露見しても構わないと、指に嵌めていた魔術具五個を取り外した。道具で抑えていた魔力が私の身体から漏れて出てくる。肩の上でクロが『いつものナイだねえ』とご機嫌に長い尻尾を揺らしていた。

 

 「あら? 魔力が戻ったわね……そう、魔術具で抑えていたのね……ああ! 貴女の魔力は全ての魔術師にとって魅力的だわ! 魔力量の高さ! そしてなにより親和性が良いもの!」

 

 近くにいるから分かり易いと、女魔術師がご機嫌に口上する。テンションが高くなった女魔術師の機嫌が良い間に、護衛の騎士さまたちが歩いている人たちを剣で脅して、この場から遠ざかるように指示を出している。

 一応、C国の上層部に許可を取っているので問題はないのだが、街に被害が及ぶと私が修繕費を負担することになっているので、被害は最小限に留めたい。

 

 護衛の皆さまの働きにより、私たちがいる通りに人はいなくなった。避難をお願いした人たちにお金を握らせ、他の人が入ってこないようにしていることも一つの要因だけれど。これで状況が整った。私はその間に無詠唱で障壁を周囲に展開し、女魔術師と黒い竜が逃げられないようにした。相手に見えない障壁魔術を展開したので、彼女たちは気付いていない。

 

 「一つ、貴女さまに、いえ……貴女の肩に乗っている竜のお方に聞きたいことがあります。よろしいですか?」

 

 今現在張っている障壁は特殊なものである。一定の魔力量が備わっていなければ、中には入れず弾き飛ばされる代物だ。南大陸の方たちの魔力量が低くて助かった。アルバトロス王国の貴族階級の方々であれば大半が中に入れるものだから。まあ、中に入れるけれど外には出られない仕組みだけれど。

 

 「あら、私の竜に? 良いわ、答えるかどうかは竜の気分次第だけれど、問うてみれば良いじゃない」

 

 女魔術師は最初に立っていた場所から動かず私を見ている。ジークとリン、ソフィーアさまとセレスティアさまには目もくれない。標的、というか興味の対象は私だけのようだ。それはそれで好都合だから文句もなにもない。話し合いに応じてくれるなら良し、駄目なら戦闘に発展するだけ。

 

 「ありがとうございます。――黒い六枚翼の天馬を襲ったのは貴方でお間違えないでしょうか?」

 

 彼女の肩の上に乗る黒い竜が話を振られると思っていなかったのか、小さく首を傾げていた。

 

 『……そうだ。俺が飛ぶ空をウロチョロして目障りだったからな。後ろから襲って喰おうとしたが逃げられた』

 

 「そう、でしたか……天馬さまたちは大人しいと知っていて?」

 

 竜の答えは強者の言葉である。でもだからと言って襲って良い理由にはならないし、ルカの身体には必要以上に傷が付いていた。あれは弱い者を見つけて、遊んでいた証拠だろうに。

 

 『知っているからこそだ。あんな臆病で弱い生き物はこの世から駆逐されれば良い』

 

 「臆病で弱い、ですか。貴方も白い竜に追われ、町を盾にしブレスを吐いて逃げたのでは? 良く、そのようなことを堂々と吐けますね。恥ずかしくはないのでしょうか?」

 

 竜の言葉を聞いて、イラっとした魔力が漏れると女魔術師はにやりと笑う。何故、と問いたくなるが今は竜に質問を投げている。終わってからで良いだろうと、肩の上の竜から目を背けない。報告書を読んで、ベリルさまの相手を務められないから町を盾にして逃げたと推測している。卑怯だし、臆病者が取る手である。決して、頭の良い戦いとは言えない。

 

 『…………』

 

 「黙る、ということは図星なのでしょう。空飛び鯨の子供を襲ったのも貴方では?」

 

 私はにやりと不敵に笑い相手を挑発した。

 

 『お前、人間の癖に竜に盾突くのか。良い度胸だな。俺の真の力はこの女によって封じられている。解放されれば、その減らず口を叩けぬように喰ってやっても良いんだぞ』

 

 竜は短気なようで私の簡単な煽りに乗ってくれるが、空飛び鯨さんについては答えは頂けなかった。致し方ないと諦めて、更に追い打ちを掛けようとしたところで女魔術師がぱん、と音を鳴らして手を叩く。

 

 「はいはい。もう良いでしょう? 天馬が自然に淘汰されるのであれば、その種の宿命よ。弱い者であれば当然の結果だわ」

 

 ふふふ、と笑う女魔術師。肩の上に乗る黒い竜と同様に、他者の命に価値を見出せない人のようだ。

 

 「確かに弱者であれば、自然でも人の世界でも淘汰されましょう」

 

 弱いからといって、遊びで相手の命を奪って食べる行為は好きになれない。私も幼い頃は貧民街で弱い立場だったけれど、公爵さまと教会によって救い出された。いろいろとあったし、流されるまま爵位を得て立場を確立したけれど、私の下に就く人たちを蔑ろにして良いとは思えない。

 

 「だからと言って、目障りだったと襲われた者の気持ちを理解できますか?」

 

 息も絶え絶えに生きたいと願って、空を必死に飛んで私たちを見つけたルカの気持ちを彼らは理解することは一生ないのだろう。

 

 『知らんよ。この世は強い者が生き残る、それだけだろうに』

 

 「そうね。聖女としてはご立派だけれど、魔術師としてなら二流どころか三流の考え方だわ」

 

 ふーん。……副団長さまがいれば魔術師の手本を目の前の女に見せて頂いたところだけれど、この場に彼はいない。ならばアルバトロス王国の聖女として実力をお見せしよう。言葉が通じない苛立ちとルカを襲った相手が判明した苛立ちで、身体の中の魔力が渦巻いていく。漏れ出た魔力は淡白い光を発して私の周りを照らし、眼前の敵に右腕を上げる。

 

 「――"曲がらず""折れず"」

 

 私の理性がまだ残っていたことに驚きながら魔術を発動させた。相手には犯した罪を吐かせて、罪を償って頂かないと。魔力の流れによって、はたはたと揺れる自分の髪がうっとおしい。

 

 『うっは! キタコレ!! すっげえ魔力が流れてきた! ジークリンデのお嬢ちゃん、今なら俺はなんでもできる気分だ!』

 

 『ああ、マスターの魔力が! ふふふ、ジークフリードさん……貴方の腕前があれば竜など一刀両断できましょう。マスターに私の実力を示してください!』

 

 カストルとレダの声にジークとリンが無言で抜刀した、その時。障壁の中に侵入者がいた。ソフィーアさまとセレスティアさまが気付いて対処しようと動こうとしたが、相手の容姿に驚いて動けなかったようだ。相手から放たれた魔術は私と女魔術師の間に打ち込まれた。大した威力はないので、おそらく牽制、本気ではない。

 

 「先生っ!」

 

 先生、と叫んだ声高い音の持ち主は十歳くらいの少女だった。細身の少女は心配そうな顔で女魔術師の顔を見ており、魔術の行使によって息が上がっている。

 

 「アンファン! もう一度、機を見計らって放ちなさい!」

 

 「はいっ! 先生に指一本触れさせません!」

 

 少女は女魔術師を心配しているが、女魔術師の方は彼女にちらりと視線を向けるだけであまり気にしていない。自身の子供であれば状況的に『逃げろ』と真っ先に指示を出すはず。戦いの場に残すということは、少女が死んでも良い駒と考えているからではないだろうか。

 

 「……あの子供は……?」

 

 疑問が自然に私の口から出ていた。

 

 「ああ、貧民街で拾ったのよ。痩せ細っていたけれど、食料を与え知恵を授けたら私に懐いたの。可愛いでしょう? 私を信じて、先生なんて呼ぶんだもの」

 

 ――死ぬ運命にあるのにね。

 

 と、少女に聞こえるように女魔術師は言葉を紡ぐ。

 

 「え……先生?」

 

 少女の顔から色が消えた。少女にとって今の女魔術師の言葉は想定外のものだったのだろう。

 

 「あら、聞こえてしまったのね。まあ、良いわ。アンファン、私の身体が駄目になっているから、貴女は受肉先の予備だったの。可哀想なアンファン。この名前も古い言葉で『子供』という意味なのだけれど、私を妄信するだけで自ら調べようなんて行動に出ないのだから」

 

 貧民街の子供を騙して、都合の良い駒として扱っていたのか。しかし少女が予備であるなら本命がいるのでは…………騙されている子を巻き込むわけにはいかなくなった。

 そして肩の上に乗っている黒い竜にも変化が現れる。黒い靄を纏って、身体のサイズが一回り大きくなっている。巨大化する前触れだろう。この場で元のサイズに戻られると、王都の街が大変なことになると口を開いた。

 

 「ロゼさん! 子供と護衛数名以外を例の場所へ!! 残った方は子供の保護をお願いします!」

 

 ならば、強くて頼もしいロゼさんに状況を打破して頂こう。少女の魔力量は多い方であるが、護衛として就いてきてくれた魔術師であれば問題なく対応できる。

 

 『分かった! ロゼ、頑張る!』

 

 「な、ス、スライムが喋った!?」

 

 驚く女魔術師と黒い竜と私たちの足元に大きな魔術陣が浮かんで直ぐ、ひゅっと内臓が浮く感覚に襲われると、一瞬にしてC国王都の壁の外へと転移していたのだった。

 

 ◇

 

 一瞬にして目に映る景色が、街中から少し寂しい雰囲気が漂う野原になっていた。ロゼさんの転移はきっちりと成功して、女魔術師と黒い竜、ジークとリンと私にソフィーアさまとセレスティアさまと一部の護衛の皆さまが相対する形となっている。

 お互いの距離は先ほどと変わらず、十メートルほど。ジークとリンなら一足飛びに距離を詰めることも可能だが、こちらが可能であるならば相手も可能であると考えておいた方が良いだろう。

 

 「ロゼさん、助かりました」

 

 あの一瞬にして、距離が開いていた相手もきっちりと転移させているのだから、ロゼさんの転移の技術は素晴らしいものである。私は自身の周囲にいる方しか一緒に転移できないから。

 

 『ん! マスター、マスターは強いから、ロゼがいなくても大丈夫! でも、アイツら嫌な感じがするから気を付けて』

 

 ぽよん、とスライムのつるつるボディーを揺らしたロゼさんが、私の影の中へと戻って行った。ロゼさんは加勢しなくても、私たちだけで勝てると踏んで応援だけ残したのだろう。

 信頼してくれているから、ロゼさんは私の影の中に戻ったのだ。ならば、きっちりと勝ってロゼさんに『マスター、弱い』なんて言われないようにしなければ、と目の前の魔術師と竜を視線に収める。

 

 「スライム如きがどうして転移魔術を使えるの?」

 

 「ロゼさんは優秀ですから」

 

 驚く女魔術師にロゼさんは優秀だ、とだけ伝えておく。元が魔石だとか、その魔石にはディアンさまの血を混ぜた特別製とか知らなくて良い情報である。

 

 黒い竜は魔術師の肩から地面に降りて、黒い靄を纏いながら体を大きくしていた。おそらく魔術師が饒舌なのは、時間稼ぎが目的だろう。

 ジークとリン、ソフィーアさまとセレスティアさまは早く事を片付けたいようだが、女の目的がはっきりしていない。時間稼ぎをしたいなら付き合って差し上げるのも構わないと、即座に魔術を発動できる準備だけをして魔術師と視線を合わせる。

 

 「……ふふふふふ。アンファンも生まれた子供も私の受肉先だったけれど。やはり、貴女は別格よ! その大量の魔力と親和性の高さは私が産んだ子供より質が良いのだから!」

 

 愉快そうに嗤っている女魔術師に対して不快感が走る。彼女の寿命はとっくの昔に尽きているのに、他人を犠牲にしてまで何故生きたいと執着しているのだろう。

 

 「まだ、子供がいるんですか?」

 

 それよりも、問題発言が彼女の口から発せられた。女魔術師に付き従う子供はまだいるようだ。時間稼ぎに付き合って良かったと少し安堵した。

 この先どうなるのか分からないが、倫理観が不味い女魔術師の下にいるよりC国に保護された方が万倍良さそうだ。

 

 「ええ。貴女の父親の種を私の胎に仕込んでみたの。そうしたら黒髪黒目の女の子が生まれたわ! 貴女の胎違いの妹ね! おめでとう! そして十ヶ月以上胎の中で安穏としていたから、古代人に近しい存在だわ!!」

 

 何故、目の前の女は私の父親のことを知っているのだろう。

 

 嗚呼、そういえば怪しい魔術師を見たのは、一年近く前の父親騒動の時だった。私の父親を知り、黒髪黒目の子が生まれる可能性に賭けたのだろう。自分の胎で試す度胸は凄いな。羊水……いや、なにも言うまい。それより生まれた子がいるならば見つけ出さないと、将来どんな子になるか分からないし誰かが真っ当な子に育てなければ。

 しかし本当に自分勝手な人間である。副団長さまとは違うベクトルの迷惑さであるし、彼が時折発症する『ヒャッハー』が可愛く見えてしまう。

 

 「へえ。他に言い残したことはありますか? 遺言、とも言いますね」

 

 女の身勝手さにイライラしつつも、竜の準備が整っていないので優しい私は待ってあげることにした。何故かクロが私の肩からセレスティアさまへ移り、幼竜さんもジークからソフィーアさまの肩に移って行った。彼女たちの下の方が安全だろうとなにも言わず、にこりと笑い魔術師を見る。

 

 「……貴女、私を煽っているの?」

 

 「それ以外になにが?」

 

 「…………貴女は大量の魔力を所持しているけれど、魔術師としては未熟も未熟。私のように数百年の時を経ていない小娘に、何故煽られなければいけないの!」

 

 ぷんすかぴーと怒った女魔術師の魔力が跳ね上がっていく。多分、今の状態でアルバトロス王国の優秀な魔術師さんたちと同じくらいの量だろう。あとは魔術師の腕次第で、プラスにもマイナスにも振られるけれど。

 

 「生きた年月では負けていますが、貴女は精神が未熟です。強い言葉で声を荒げるのは、幼い子供が虚勢を張る姿と一緒です」

 

 「は? ――"地獄の炎よ、滾れ"」

 

 私の言葉は魔術師に刺さったようで、一瞬にして沸騰した顔になり魔術を行使した。

 

 「リン。斬って」

 

 確かに威力は凄いけれど、障壁を張る気力が湧かずリンに任せた。彼女とカストルであれば問題なく『斬れる』のだから。

 

 「ん」

 

 『俺の出番キターーーーーーーーーーーー!』

 

 轟、と低く唸る炎の音を聞いていると、リンが私の目の前に立ってカストルを右斜め下から左斜め上へと斬り上げれば、深紅の炎が二手に分かれて霧散した。

 

 「うるさい」

 

 『ごめんなさーい……でも、俺の出番少ないんだもん! お嬢ちゃんが馬鹿魔力で解決して、俺を使ってくれないんだもん!』

 

 緊張感が溢れる中、リンとカストルの凸凹コンビがノリツッコミ……というか、リンさんのえげつない一言がカストルの心を抉っている。

 

 「黙らないと、海に沈める」

 

 『あ、塩だけは止めてぇ! 流石の俺でも錆びるからぁ! ……すみません黙ります』

 

 リンが視線を手元のカストルに移すと、流石に彼も空気を読んで黙ることを決めたようだ。単に、リンが怖かっただけのような気がするけれど。

 

 「――"一粒の雫が水となり、川となる""全てを飲み込み大海へ"」

 

 炎を斬られて魔術師は焦ったのか、今度は水系統の術を発動させて私を狙う。ジーク、と心の中でお願いすると彼が前に出て、レダを鞘に納めたまま走って行く。

 

 『マスターの魔力を纏った私に斬れぬものなどなし! ジークフリードさん、貴方に合わせます!』

 

 「ふっ!」

 

 ジークは出現した大量の水とぶつかる直前に、レダを鞘から抜いて横薙ぎに空を斬った。すると不思議なことに、目の前の水が横にズレて地面と空に舞い散る。細かくなった水の雫がキラキラと光れば、幾筋もの虹が掛かっていた。

 

 『魔力で現象を再現しているだけですから、こちらも魔力を使い現象を斬れば良いだけのこと。流石マスターの魔力です。ジークフリードさんの腕が良いのもありますが、綺麗に斬れました!』

 

 レダが言い終えると、カツンと良い音がしてジークは刀身を鞘に納めた。

 

 「ナイに手を出すなら」

 

 「私たちがナイを守る」

 

 あれ、ジークとリンが口上するなんて珍しい。貧民街の子供を都合よく利用しようとした魔術師に怒ってくれているのだろうか。もし一緒の気持ちであれば嬉しいと、私の前に立つ彼らの背を見る。

 

 「魔術師でもない癖に、どうして術を霧散させているのっ!?」

 

 剣が喋った時点で色々とおかしいと気付いて欲しいものだが、術を無効化されたショックで魔術師は頭が回らないようだ。

 

 『いやあ、俺たち強いから! 婆のアンタじゃあ若え、ジークフリードとジークリンデに勝てねえだろ! あと魔術師で強い奴って、銀髪の兄ちゃんじゃねえの? 俺、相手したくない』

 

 『ええ。そこにいる黒い竜も大したことはありませんし、マスターが動かずともジークフリードさんとジークリンデさんでも十分に対応できます』

 

 やっちゃう、良いよね、雑魚だもんね、と魔術師と竜を煽りまくるカストルとレダの調子に押されて、私の最大まで上がっていた怒りゲージがどんどん下がっていく。

 ジークとリンも怒りが削がれたようで、先ほどまでの鬼気迫るものは消えていた。後ろではソフィーアさまとセレスティアさまが、ほっとしているので私たち三人はかなり機嫌が悪かったようだ。

 

 『あ? 喋る剣ごときが竜の俺に勝てると思っているのか。自惚れも良い所だ。相手をしてやろう』

 

 五十メートルほどの大きさになった黒い竜がぐぐぐと顔を下げながら、ジークとリンに話しかけた。黒い竜は大きくなったけれど、威圧感は皆無だしディアンさまとベリルさまの方が強いという印象である。まだ力を隠しているかもしれないし、覚醒してないのかもしれないけれど。

 

 「ちょっとっ! 勝手を言わないで! 私を乗せて空に上がりなさい! 空中戦なら私たちが有利よ!」

 

 『……仕方ない、乗れ』

 

 大きな黒い竜が身体を地面に付けて、魔術師はふわりと身体を術で浮かして竜の頭の上に立つ。そうしてゆっくりと浮上する竜を暫くぼーっと眺めながら、体の中に渦巻く魔力を練った。

 

 「――"細く編まれた糸は千切れない""空を巡れ"」

 

 私は空に飛ぶ竜に手を翳して、魔術を発動させた。魔力を物質化させて竜の脚に絡ませるという、簡単な捕縛系の魔術である。するすると空に伸びていく魔力の糸が、黒い竜の大きな脚に何本も絡まる。

 

 『む。うっとおしい。斬ってくれ』

 

 「力で捻じ伏せれば良いじゃない。貴方、竜でしょう?」

 

 『ちっ!』

 

 みっともない喧嘩は見るに値しない。脚に力を入れて逃げようと試みる竜に、これ以上の好き勝手はさせない。もちろん、女魔術師も。

 

 「――"硬質" ……ジーク、リン! ――"吹け、一陣の風""彼の者たちの追い風となれ""飛く翔けよ""吹け、吹け、吹け"」

 

 竜の四つの脚に糸を巻き付け、魔力の糸を固めて動けないように施した。そっくり兄妹の名を呼べば、彼らは自身の脚力で三メートルほど飛び上がり、身体強化の魔術によって更に十メートルほど空を駆けた。

 

 『ヒャッハー! 竜を斬るなら流石に刀身が足りねえな! お嬢ちゃんの魔力を貰っといて良かったぜ!』

 

 『流石マスター! この展開を読んでおられたのですね!』

 

 機嫌が良さそうにカストルとレダが声を上げれば、一メートルほどの刀身が、ぐぐぐと三倍くらいに伸びていく。そうしてジークは竜の右側面を、リンは左側面に剣を突き刺して余力で竜の肉を斬り割いていった。

 

 「――"風よ、吹け"」

 

 重くならないのかなと上空を見上げて、ジークとリンの勢いが落ちないようにと追加の魔術を重ね掛けする。

 

 『嘘、だろう……俺が人間に殺されるなんて……』

 

 「な、落ちる! きゃあああああああああああああああ!」

 

 落下した竜はべちょりと嫌な音を立てて地面に転がり、頭の上に乗っていた魔術師は石が多く混じっている土の上をごろごろと転がって、竜から放りだされるのだった。




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