魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0429:女魔術師の最後。

 ジークとリンは黒い竜に深い傷を負わせて、地面にゆっくりと着地した。無事でなによりと視界の端で確認して、黒い竜と女魔術師の下へと歩いて行く。

 その際にソフィーアさまとセレスティアさまに『危ないぞ!』『あまり近づかない方が良いのでは?』と止められたが、首を横に振って断りを入れていた。地面に横たわる黒い竜は息も絶え絶えに、視線だけを私に向けて無言でなにかを訴えている。

 

 ざ、と土を踏みしめる音が聞こえて横を見れば、ジークとリンが私の下へ戻ってきた。

 

 「ジーク、リン、怪我はない?」

 

 「大丈夫だ」

 

 「ナイの支援があったから平気」

 

 ゆっくりと頷いたそっくり兄妹。そして鞘に納められた二振りの剣はご機嫌なご様子。ジークとリンに怪我はなさそうだし、レダとカストルも問題ないのであればと黒い竜の下へ彼らと一緒に歩いて行く。地面にはぬるりとした赤黒い大量の血が流れていた。

 

 「ルカ、黒い天馬の苦しみを理解して頂けましたか?」

 

 『知らんよ。強ければ喰い、弱ければ喰われるだけだ……』

 

 黒い竜の意識はまだあるが呼吸が浅い。大きな瞳を瞼が何度か閉じたり開いたりを繰り返して、私を捉えている。女魔術師は転がり落ちたショックから立ち直れていない。少し黒い竜と話をしたくて、魔術師が動けないように周りに障壁を施す。小さな障壁に囲まれた魔術師は『な、ちょっと! どういうことなの! 出しなさい!!』と叫んでいるが放置で良いだろう。

 

 「私は貴方を喰べることはありません」

 

 『じゃあ、どうするんだ? 俺がこのまま朽ちればこの地を呪い人間を恨むだろう。そして人間は俺を殺したアンタを憎む』

 

 なるほど。まだ寿命が尽きていない黒い竜は、自身の命が消えることを惜しんでいるようだ。ならばルカを遊びで怪我を負わせたりしなければ良かっただろうに。ベリルさまから聞いたところによると人間を食べているようだし、性根が曲がっている個体だから亜人連合国に必要ないと言い切っていた。

 

 「であれば、浄化か葬送儀式を執り行うだけです」

 

 恨みを抱いて大地を呪うなら浄化儀式を執り行うだけ。抵抗するのであれば、魔力を更に注ぎ込み強制的に空の上に還す。

 

 『……クソ。俺の命も此処までか。長く生きてきたが、まあ……最後にお前を殺すくらいの力は残って――』

 

 ぐっと巨体に力を入れた黒い竜は口を私に向けてブレスを吐こうと試みるが、真っ赤に滾る炎はぷすん、と不発で終わってしまった。ジークとリンがレダとカストルを抜いて、黒い竜の心臓部分と脳天に突き刺していたのだ。

 

 「……ジーク、リン」

 

 「生かす必要はないだろう」

 

 「兄さんと同じ。ナイはいろいろと考え過ぎ。この竜は『死』しか選べない」

 

 二人は一足飛びで距離を詰め、私の下へとやってきた。止めを私が刺さなかったことで、二人には嫌な役を押し付けてしまった。副団長さまと王家と魔術師団が管理している領地に魔術の実戦と称し冒険者登録をして、魔物狩りに行ったことがある。

 その時は攻撃系の魔術を行使することに躊躇いはなかったというのに、竜が喋るというだけで倒すことに抵抗感を感じてしまうのは自分勝手なのかもしれない。ごめん、と謝るとジークとリンは小さく笑って『気にするな』『気にしない』と伝えてくれる。一言二言、彼らと言葉を交わして、今度は女魔術師の下へ足を進める。彼女の前に立って張っていた障壁を解除した。

 

 「さて、貴女が頼れる子供も竜もいなくなりました。さあ、どうぞ、立ち上がってください」

 

 「…………」

 

 膝を突いて無言で私を見上げていた魔術師は、ゆっくりと立ち上がった。彼女を見下ろしていた立場から、見下ろされることになった。

 

 「貴女が小柄なのは魔力量のお陰のようね。羨ましいわ。魔術師として学んでいれば、私より大成していたでしょうに。聖女というくだらない存在になったばかりに、貴女が昇りつめる理由を失ってしまっているもの」

 

 「聖女の仕事をくだらない、と評したことは一度もありません。私が魔術師を目指した場合、今の地位を手に入れていない可能性がありますね」

 

 おそらく魔術師を目指していれば、魔術師団で高い地位を望めたかもしれないが、貴族として成り上がっていたかは微妙なところである。浄化儀式や葬送儀式は教会の専売特許のようなものだから、ご意見番さまの遺骸を見つけても浄化儀式の方法を知らない。

 

 「そう。お喋りに付き合ってくれてありがとう……! お陰で貴女の身体に乗り移る準備が整ったわっ!!」

 

 魔術師の身体からぶわりと魔力が漏れ始め、私を包み込むように覆う。彼女の手元には魔導書が一冊あって、その書を媒介に大量の魔力を捻出しているようだ。

 

 ――でも。

 

 蒼く仄暗い魔力の色がゆっくりと私の身体を覆っていく。

 

 「魔力量の勝負でしたら、私はある程度の自信があります」

 

 アルバトロス王国を護る障壁に魔力補填を担っているのだ。今であれば、リームとヴァンディリア方面もカバーできそうな気がしているのだが、試したことはない……というか試すときっと怒られる。

 限界まで放出すると、また南の島のような結果になりかねないので、魔力補填を担っている時に供給している量より倍くらいの魔力を練って放出させた。

 

 「なっ! 化け物!?」

 

 溢れ出た私の魔力を意識して、魔術師の魔力を打ち払う。相手の魔力を跳ね除けて霧散させた様を見た魔術師は目を見開きながら、私を『化け物』だと称した。

 

 「人間ですよ。貴女のように、なにかに心を売り渡してはいませんので。その証拠に……――」

 

 化け物はどちらだろうか。数百年生きた彼女の顔の肉が削がれ落ちている。魔力を放出し過ぎたのか、それとも魔導書に見放されたのか、人の形を保てなくなっているようだ。

 

 「なっ! どうして! 私はまだ死にたくない! 魔術の深淵を覗いていないのっ! 魔導書五冊の内の一冊しか見つけていないのに!!」

 

 ぼたぼたと肉が落ちても、痛みを感じていないのか悲鳴すら上げない魔術師は異常な存在だろう。目の前の魔術師を野放しにしても、誰かの役に立つことも、誰かを救うこともない。

 命の価値を推し量るのは無粋かもしれないが……貧民街に生きる子供の命を軽く見ている彼女には不快感しか湧かなかった。それに彼女の人としての命は尽きている。意識を保てているのは、手元にある魔導書のお陰だろう。――それならば。

 

 「――"我は神の御使い""魔を払う者也""魂は空に""体躯は地に還れ"」

 

 「………………」

 

 浄化儀式の呪文を唱えれば、跡形もなく女魔術師は消え去った。無事に天へと還ることができたのか、それとも地獄に落ちたのか。結果は彼女にしか分からないけれど、ルカと空飛び鯨さんを傷付けた黒い竜と、厄介の種をこさえた女魔術師はいなくなった。

 

 ぽつん、と落ちている一冊の魔導書を拾い上げ、着いた土を払いのける。子爵邸の図書室で見た魔導書と装丁が良く似ていると目を細めた。この後は、C国上層部との話し合いに、王都の街に残してきた子供と女魔術師が生んだ赤子のこと、黒い竜の死骸の処理方法についても相談しなければ。

 

 『ナイ~、大丈夫?』

 

 クロがぴゅーと私の下に飛んできて肩に止まる。幼竜さんも一緒に飛んできて、急いでジークの肩の上に乗った。

 

 「うん。傷一つないから平気。ジークとリンも大丈夫?」

 

 「俺は問題ない」

 

 「私も問題ないよ」

 

 良かった、と安堵していれば、状況を見守っていたソフィーアさまとセレスティアさまが急ぎ足でこちらへとやってくる。

 

 「ナイ!」

 

 「ナイ、浮かない顔でございますわね」

 

 心配そうな顔をしているソフィーアとじっと私を見つめてなにを考えているのか見透かそうとしているセレスティアさま。

 

 「この先のことを考えると少し面倒だな、と」

 

 彼女の言葉に答えたけれど、浮かない顔をしている理由はこの先に起こり得る話し合いのことではない。ただ単に、黒い竜も魔術師に対しても、斬る覚悟ができていなかった情けない自分に呆れているだけだ。言葉と勢いは良かったものの、黒い竜はジークとリンに止めを刺される羽目になったし、魔術師に関しては自爆しただけだ。

 

 「仕方あるまい。私たちもできうる限りでナイを助ける」

 

 「ええ。しかし、竜の死骸をどう取り扱えば良いのか……」

 

 これ以上、彼女たちを心配させるわけにはいかないと、小さく息を吐いて気持ちを入れ替える。これからは子供と赤子に会って話をしないと。それからC国上層部とも。

 

 「それはC国上層部が方針を定めるかと。それにお迎えがきたようです」

 

 王都の入場門から大勢の軍人がこちらを目指していた。その中には所謂制服組の方々もいるので、彼らと話し合うのだろう。

 

 「そのようだな」

 

 「こちらから接触するより、話が早くすみそうですわね」

 

 竜の死骸についてはクロから説明して貰えば彼らは納得してくれるだろうと、肩の上に乗っているクロを見ればこくりと頷いてくれる。そうして兵士の方々は綺麗に隊列を組んで、代表者二名が私の前に立って敬礼を執った。

 

 「お、お迎えに上がりました! 黒髪黒目のお方! そして、竜殺しの英雄殿!」

 

 「お二人のご活躍、しかとこの目に焼き付けさせて頂きましたっ!!!」

 

 相手国の方々が大勢きて頭を下げたのはジークとリンに対してだった。黒髪黒目の私に対しては、怖いけれど、竜を倒せる二人がいるということで、私に対する恐怖心が若干薄れているような気がする。

 

 「…………」

 

 「……」

 

 ジークとリンは珍しく困った顔で私に助けを求めている。どうしようかと迷っていると彼らの一人が『失礼ですがナイ・ミナーヴァ子爵さまでしょうか?』と私に問う。

 

 「はい。この度は大変ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」

 

 「いえ、竜が暴れれば我々では対処のしようがありませんでした。閣下の後ろに控えておられる騎士殿二人には、我が国から勲章を授けたいと陛下が申しております。急ぎ城へとご案内したい」

 

 如何でしょうかと問われるけれど、先にやらなければいけないことがある。

 

 「先に、街へ残してきた我々の護衛と、魔術師と竜が連れていた関係者と話がしたいのですが可能でしょうか?」

 

 お城に登城する前に残してきた護衛の方々と『アンファン』と呼ばれた少女と魔術師の赤子の確認をしたかった。彼女たちの処遇はC国が決めることだけれど、聞きたいことがある。

 

 「なるほど。では我々も同行させて頂いても?」

 

 「もちろんです。貴国にご迷惑を掛けるつもりはありませんので」

 

 大所帯になるけれど致し方ないと割り切って、彼らと共に王都の街へと戻るのだった。

 

 ◇

 

 C国の王都に再度入った。歓楽街にある宿屋前に残した護衛の方たちと子供の姿があり、アンファンと呼ばれた少女は目元が真っ赤になっている。女魔術師と彼女がどんな関係だったのかは知らないが、魔術師の言葉を聞く限り、利用するために生かされていたと言わざるを得なかった。

 

 お昼も過ぎ、人通りの多い歓楽街のど真ん中で黒髪黒目の私とジークとリンと護衛の皆さま、そしてC国上層部の兵士の皆さまと制服組がいるのは異様な光景なのだろう。道行く人たちは私たちをじっと見ているが、立ち止まると怪しくなるので関係ないとばかりに通り過ぎて行く。

 

 少女に女魔術師がどうなったかを説明しなければ、と彼女の前に立つ。彼女の手には副団長さまが作成した魔力を抑える魔道具を身に着けているので、護衛の方々の手によるものだと直ぐに分かった。

 

 「…………先生は?」

 

 アンファンと呼ばれた少女は、ぐっと泣きそうになるのを堪えて私を厳しい視線で捉える。身長は私とそう変わらず、彼女の方が少し低い。貧民街から拾い上げたというのであれば、彼女にとって魔術師は命の恩人なのだろう。例え、身勝手な理由で少女を拾ったとしても……。

 

 「死にました」

 

 嘘を吐いてもしかたないと正直に答える。

 

 「っ! 貴女が殺したの!?」

 

 かっと目を見開いて私へ食って掛かろうとした少女は、護衛の方に止められて顔を顰めた。C国兵士の方々も少女の行動に問題があるとして、彼女の周りを囲い込む。

 

 「はい」

 

 魔術師の最後は自爆した、と表現する方が正しいのかもしれない。浄化儀式を施したのは私である。ならば魔術師を殺したのは私で間違いない。ソフィーアさまが止めに入ろうとしたけれど、大丈夫と伝えてこの場は譲って頂く。

 

 利用するために拾ったと言った魔術師の言葉は、彼女の耳に届いたはずである。それでも怒りを露わにしている彼女に真実を伝えても、きちんと理解して貰えないだろうし、間違った方向へ進むこともあるだろう。

 

 「どうして! 先生は優しい人だった! 貧民街で死にそうになっていた私を拾って、ご飯をくれて、魔術を教えてくれた!! 赤ちゃんの面倒をみて、良い子ねって褒めてくれた人なのに!」

 

 彼女はきっと事実を認めたくないのだろう。認めてしまえば、自分は死ぬ運命にあったと自覚しなければならない。

 そして、温かい食事と寝床がある環境を彼女は一瞬にして失ってしまったことは、また貧民街での生活を余儀なくされると突き付けているようなもの。だから、目の前の少女は魔術師が死んだ事実を受け入れたくないのかもしれない。

 

 「貴女にとって優しい人だったかもしれません。ですが、機を伺い貴女の命を奪おうとしていた事実から目を背けてはなりません。そして街中で攻撃魔術を行使したことは、C国では罪とされております」

 

 彼女は歓楽街で魔術を放った。被害は地面を穿ったくらいだけれど、禁止事項を守っていない事実は残る。私も街中で魔術を行使したけれど、先手を打ってC国には『相手が先に手を出してきたら魔術を行使する』と伝えてある。

 もちろん被害は最小限に留めると知らせていたけれど、私が黒髪黒目と知って言いたいことを言えずにいた様子だから申し訳ないことをしてしまった。

 

 「え? そんなこと知らないっ! だって先生は街中で魔術を使ってはいけないって教えてくれなかった。私と生まれた赤ちゃんを守ってねって……嘘でしょう……」

 

 少女から力が抜けて、地面に膝を突く。反省ができるならば希望はある。事情があったならばC国も、子供に厳しい処分は下すまい。

 ぽたぽたと少女の目から涙が零れ落ち、暫くするとすすり泣く声が聞こえてくる。彼女が今後どうなるかは分からないが、出来得る限りのことはしようと息を吐くと、護衛の方が私の下へきて顔を近づけた。

 

 「子爵殿、魔術師が取っていた部屋に赤子が……黒髪黒目の子です」

 

 「そうですか。C国の皆さまと共に保護をお願い致します」

 

 「はっ!」

 

 そうして宿で寝ていた赤子を保護した後、少女と私たち一行は、C国の王城へと入ることとなる。C国の城の規模はアルバトロス王国のお城と同じくらいだろう。広い中庭や各施設が王城内に点在している。謁見場へ招かれる前に、陛下と面会することになった。

 

 「く、黒髪黒目のお方にお会いできる日がこようとは……恐悦至極でございます」

 

 い、いや。待って欲しい。一国の王さまが簡単に頭を下げないで頂きたい。本当に南大陸の女神さまは、手あたり次第に神罰とかを下していたのではなかろうか。私は黒髪黒目であるが、神さまではなく一個人に過ぎない。盛大に溜息を吐きたくなるのを我慢して、陛下と確りと目を合わせ礼を執る。

 

 「C国国王陛下にお会いでき光栄でございます。アルバトロス王国から参りましたナイ・ミナーヴァ子爵でございます。此度は貴国への入国、ならびに王都での行動をご許可頂き誠に感謝致します」

 

 「い、いや。我々は構わない。黒髪黒目のお方には好きにして頂ければ良いのだから……」

 

 陛下は汗を拭いながら、私を見ながら告げる。

 

 「滅相もございません。王都にはわたくしが探していた黒い竜と魔術師が潜伏しておりました。貴国と陛下のご協力がなければ、わたくしの目的は達成されることはありませんでした。此度の件、誠に感謝しております」

 

 ひっ、と息を呑む陛下の声が聞こえた。本当に大丈夫かという心配と話が通じるのかという心配に、ここから妙なことにならないかという心配が同時に湧いてくる。

 

 いや、本当にマジで過去の黒髪黒目のお方はなにをしたのだろう。そして南の女神さまも。黒髪黒目のお方が悲しんでいると、報復とばかりに南の女神さまが出張ってきたり、黒髪黒目のお方の気性が荒かったりと南大陸に住まう方々は凄く被害を受けていないだろうか。

 先ほどの少女は貧民街に住んでいたから、黒髪黒目についての知識が乏しいのだろう。だからこそ私に反論できたし、黒髪黒目の赤子にも普通に接することができた。

 

 「さ、左様で……黒髪黒目のお方は……ミナーヴァ子爵は我が国に不満はないと?」

 

 「全くございません。それより王都内で魔術を行使したこと、王都の外で竜と魔術師と戦闘を行い被害が出ております。先ずは竜の死骸をどう処理するのか陛下のお考えを伺いたく」

 

 王都内は障壁を張っていたので被害は最小限に留まっている。ただ王都の外では黒い竜が巨大化したために、地面が抉れてクレーター状になっている所があるし、死骸の処理もどうするのかも決めておかないと。

 クロ曰く、恨みを持って死んでいたら、作物が成長しなくなったり魔物を呼び寄せたりして、後が大変なことになると教えてくれた。

 

 「竜の死骸の処理など前代未聞です。我々もどう行って良いのか全くの未知。肉を食べて良いのであれば、王都の民に振舞いますが……」

 

 「……それは」

 

 人間を食べていた竜の肉を人間が食べるって如何なものだろう。そもそも竜の肉を人間が食べて良いのか判断がつかない。私の肩の上にいるクロに視線を向けると、ぐりぐりと何度か顔を擦り付けて口を開いた。

 

 『食べない方が良いよ~竜の肉を食べると不老不死になれる、なんて人間の間で噂があるみたいだけれど、お腹を壊すだけだから。土に還してあげてって言いたいけれど……』

 

 人を喰べていた竜だから碌なことがない、と教えてくれた。ディアンさまに頼んで、活火山の火口に落として貰うのが一番良い方法のようだ。もし、土に黒い染みが現れれば浄化儀式を行えば良い、とも。

 

 「なるほど、と言いたいところですが、我々には亜人連合国との繋がりはありません……どうすれば良いのか……」

 

 陛下は途方に暮れている顔になっていた。竜が自国で死に絶えるなんて滅多にない事例だろうから、かなり頭を抱える事態のようだった。亜人連合国との連絡は私が担うと申し出ると、それなら王都と外の被害は気にしないで欲しいと仰ってくれる。有難いことだし、お互いに文句もないので直ぐに話はついた。

 

 「魔術師が連れていた子供と赤子の処遇はどうなりますか?」

 

 「魔術師自体が珍しく、魔術を使える者は危険人物とみなしております。どこか僻地に送り、その地で一生を過ごす他ないかと。あ、あ、赤子は……黒髪黒目と聞きました。我が国では畏怖される存在ですが、畏怖されている故に殺すこともままなりません……」

 

 陛下の口ぶりからすると……あれ……?

 

 「お待ちください! その話だと、過去に黒髪黒目の赤子を殺めたことになりませんか!? そして恐ろしさから、赤子は放置するとも!」

 

 「お、お、おお許しをっ!! 女神さまの怒りを恐れるあまり、我々は大昔に幼い子の命を奪いました! しかしながら、それすらも許されず、お怒りになられた女神さまは我らに罰を与えられましたっ!」

 

 その後の数十年間、C国では農作物が育たず飢饉に見舞われたとのこと。だから赤子は殺せない。でも怖い、と。大汗を吹きながら陛下が仰った。これではマトモな話ができそうにないし、下手をすれば赤子は放置され死んでしまう運命にある。

 黒い女魔術師という保護者を失った赤子を育てようという奇特な人物がC国にいるとは思えなかった。

 

 「陛下。貴国の風習や文化、しきたりに口を出す気はありません。しかしながら生まれたばかりの命を……見殺しにされる可能性があると知り、放置することもできません……黒髪黒目の赤子を我々が預かり受けても良いでしょうか?」

 

 「ほ、本当に!? 感謝いたします! ミナーヴァ子爵!!」

 

 陛下が心底ほっとした顔になるけれど、私も貴方が恐れている黒髪黒目なのですが、と言いたくなる。本当に南の女神さまのやらかしには頭を抱えたくなるなと、天井を仰ぐのだった。

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