魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――日が昇る少し前。
王城の広場には軍人や騎士団の高官の人たちや現場指揮官が集まっている。王都外の城壁側にも階級の低い平場の兵士たちが、待っているそうな。討伐遠征に同行する聖女も王城の広場に召喚されていた。教会の関係者も見送り役として、位の高い人たちが参加している。
「凄い人数だね」
周りを見渡すと、人、人、人。一堂にこんなに集まるのは本当に珍しい。学院でも全生徒が集まって終業式を行ったが、ここまで人数は多くなかった。
「ああ。この規模に参加するのは初めてだな」
「うん。――ん?」
顔見知りの多い部隊だと嬉しいのだけれど。騎士団の方だと平民上がりだと言われ、蔑ろにされることが時折あるので、平民出身の人たちが多く所属する軍の方が気楽だったりする。
「どうしたの、リン」
「あの人、前に見た人だね」
背が高いから私よりも周囲が良く見えるのだろう。顔を大きく左右に揺らしてようやく、前にソフィーアさまとのお茶会に同席していた侯爵令嬢さまが見えたのだった。確か聖女さまだと言っていたので、今回の討伐遠征に参加するようだ。
「本当だ。凄い格好だけれど、大丈夫かな……」
恐らく今後、どこかで築くであろう拠点も良い場所に設置させるとは限らないし、道なき道を進む場合もあるのだけれど。白を基調とした遠目でも上質なものを纏っていると分かる服装は、すぐ駄目になりそうだった。
今の私は王城の中ということで聖女の格好だけれど、途中で隊列を一度離れて教会で平民服へと着替える予定である。割とサバイバルな環境なので、生半可な気持ちで参加すると痛い目をみる。
「良い所のお嬢さまだからな。汚れても侍従たちにやらせるはずだ」
「……彼女の周りに居る人たちも同行するのか」
彼女の後ろにはクラシカルなメイド服を着ている女性や執事っぽい人も控えているので、世話役として一緒に向かうのだろう。
一度だけ低位のお貴族さま出身の聖女さまと討伐に一緒したことがあるが、彼女は一人だけだったが侍女を同行させていた。着替えや身の回りのことはある程度出来るけれど、洗濯や食事の用意は無理だからと苦笑いをしていたのをよく覚えてる。
「だろうな。一人で身の回りの世話を出来んだろうし」
なんの為に討伐に同行するのやらと呆れた言葉は口には出さず。侯爵令嬢さまなので、自分の着替えすら出来ないのではないだろうか。学院だと着替えが必要になった際は、用意された部屋で学院が雇っている侍女に着付け作業を頼むらしいから。
三人で少し呆れつつ、侯爵令嬢さまご一行を見つめるのを止め、次へと視線を移す。
これまた若い聖女さまが同行するようだ。侯爵令嬢さまが二十歳前後らしいから、それより少し下だろう。
身なりも良いのでお貴族さまっぽいのだけれど、学院では見たことがないので卒業生だろうか。こちらのご令嬢も人数は少ないが、彼女の周りに侍女たちを控えさせており、残り数名もお貴族さまの聖女のようだった。
「聖女さま、お久しぶりでございます」
「お久しぶりです、副団長さま」
久しぶりと言ってもそう時間は経っていない気がするけれど、声を掛ける切っ掛けにしたかったのだろう。
小さく礼を執って頭を下げる副団長さま。日が昇る前なのでまだ少し暗い広場で、彼の銀髪は目立つなあと目を細め言葉の続きを待つ。
「ええ、本当に。――今回は貴女が参加なさると聞いて僕も志願したのですが、楽しい行軍になりそうですねえ」
副団長さまは楽しいのかもしれないが、私は彼の餌食になってしまうのだろうか。いや、魔術で障壁を張るくらいならば問題ないけど、他の事となると困るのだ。
魔力の扱いが下手糞らしいから、その部分が改善するのは正直嬉しいが、攻撃系の魔術を覚えるとなると嫌な予感しかしない。きょろきょろと周囲を見渡す副団長さまの視線は、私以外の聖女さまが居る場所で数瞬とまっていた。彼が他の聖女さまに興味を持ってくれるならば、僥倖だけれど。
「先生」
「お師匠さま」
「おや。貴女たちも参加なさるので?」
私たちが確認できたのか、聖女や教会関係者が集まっている場所へとソフィーアさまとセレスティアさまがやって来た。最近、一緒に行動していたマルクスさまが居ないので、違和感を少し感じつつ三人の会話に耳を傾ける。
「はい。今回は見識を広めるために陛下や辺境伯閣下にご許可を頂きました」
「ええ、当然ですわ。今回の依頼主は父であるヴァイセンベルク辺境伯ですもの。その名に連なる者としての義務を果たします」
セレスティアさまは今回の討伐依頼主である辺境伯家の娘としての義務を果たす為に参加するようで、気合が入っている模様。
彼女の特徴的なドリル髪が、いつもより巻いてある。
これ、朝とか自分でセットするのか、それとも放置するのか。いやでも辺境伯のご令嬢さまだし、身の回りのことは侍女の人たちの仕事である。
侍女の仕事を奪うことはご法度みたいなものだから、行軍から日数が経つと一体彼女はどうなってしまうのか。みっともない所は見せないだろうから、トレードマークとなっているドリルから緩いウェーブくらいになっていたら見物だなあ、なんて考えている。
「そうでしたか。しかしまあこうして特進科の、しかも高位の子女の方々が参加なさるとは。聖女さまも彼女以外に参加なさっていますし、楽しみですねえ」
いやいや。前回の魔獣討伐のようにはならないで、平穏に討伐を終えて欲しいけれど、無理だろうなあ。長丁場だから怪我人は出るだろうし、途中でリタイアする人も出てくるだろう。
――陛下御成り!
高らかに声が上がると、この場にいる人たちが一斉に平伏する。しばらくすると『顔を上げろ』の声が響く。
陛下の御前に立つのは二度目だけれど、討伐依頼でこうして顔を出すこともあるのか。おもむろに口を開いた陛下は今回の経緯について話し始めた。
魔物の出現報告が多くなり困った辺境伯さまやその周辺の領主たちの嘆願で今回の遠征が決定したとは聞いていたけれど。原因究明も含まれていたとは驚きだ。てっきり間引きをして安全を確保するだけだと考えていたのだが。
もしかして副団長さまが参加した理由は、それも含まれるのではないだろうか。魔術には愚直な人間だし、魔物の発生が多発している原因に魔術が関係しているとあれば嬉々として参加しそうだものな、副団長さま。
「皆の者、王国を支える身として全霊を尽くせ!」
その言葉に短く『はっ!』と答えると、一段高い場所にいた陛下が片手を挙げてこの場から去るのだった。
◇
陛下からの激励を受け、ようやく動き始めた討伐部隊。一旦、王都の城壁で待機している人たちと合流する為に、少し時間が空く。
途中で隊列を抜け、教会の宿舎に戻り動きやすい平民服へと替え、教会が用意してくれた馬車で城壁手前まで送ってもらった。もちろん教会騎士服を纏っていたジークとリンも着替えて、軽装ではあるものの革鎧を身に着けて冒険者のような格好になっていた。
「手を」
日がようやく昇り始め、朝日を浴びながら手を伸ばす。
「ありがとう」
馬車から降りるときは必ずと言ってジークが手を差し伸べる。一応、聖女と護衛騎士という立場なので問題はないのだけれど、男の人にエスコートされるのって少々気恥ずかしい気持ちがある。
幼馴染で付き合いも長いけれど、相手はイケメン、顔が良い。背も高かく手足も長い、騎士として鍛えているから腹筋が割れてるのも知っている。
そういう理由がある所為か、今回同行している聖女さまご一行の視線が痛い。この世界の顔面偏差値は高めだけれど、ジークは平均を軽く超えているので視線を浴びるのは仕方ない。
けど、その視線を私にも向けるのは間違っているのではないだろうか。あからさまに嫉妬の眼差しである。欲しけりゃ、自分でアピールしてジークを射止めてみなよと言いたくなるのだが、ジークが好む異性ってどんな人なのだか。
「兄さん」
「どうした?」
馬車から荷物を下ろしていたジークにリンが声を掛けた。
「次は私がその役やる」
「……そりゃ、構わんが」
どうやらリンはエスコート役を自分もやりたかったようだ。時折、こうしたやり取りをしている双子を微笑ましく見ていると、二人してため息を吐かれる。
エスコート役は基本男性だから、ジークが渋るのは無理はない。とはいえリンも騎士なので、そういう役回りをしてもいいのだが、周りは良く思わないかも。
ジークが横にいるのに突っ立ってるだけならば、男の癖になにをぼーっとしているのだと言われるのだから。世知辛い世の中……というかお貴族さまの慣例というべきか。面倒だと思うこともあれば、良く考えられているなと思うこともあるので、一長一短である。
「なんで二人ともため息吐くかな……」
「ナイが笑うからだろう」
「うん。――エスコートの回数は兄さんの方が多いから……偶には私がやってもいいと思う」
むぅとリンが小さく唸って私の側へと来る。ジークが私をエスコートしていると彼女はいつも羨ましそうな視線を寄越していたから、憧れているのだろう。騎士の人が主人を敬っている姿はカッコいいものね。
「無駄話はもういいぞ。そろそろ出発みたいだからな」
遅れて来たからか、どうやら部隊は移動を開始するようだ。先頭を行く騎士団は馬に騎乗し整備された辺境伯領への道をゆっくりと進み始める。沿道には騎士団や軍の人たちの家族が見送りに来ていた。手を振り合っている人もいれば、照れくさそうにしている人もいる。
長閑で平和な光景。
その一言に尽きるなと、幌馬車に乗り込んだ私たちは隊列の真ん中ほどの位置で、長き旅路が開始されたのだった。
「流石に今回は時間が掛かるな」
辺境伯領まで十日間。道中、街に寄ったりできるけれど、この規模の人数を泊めることができる施設なんて存在していないし、野宿がデフォだ。野宿は野営するからいいとして、お風呂に入れないのが最大の問題か。
「仕方ないよ辺境伯領までは遠いから。それに転移魔術を使える人は限られているし、この物量を転送できる人も限られるもんね」
転移魔術なるものが存在するので人や物の移動は一瞬で済むのだけれど、人数や物の制限があるので、こうして大量になってしまうと地道に移動するしかなくなる。おそらくソフィーアさまにセレスティアさま、侯爵令嬢さま当たりは転移魔術を使用しての移動だろう。
家お抱えの魔術師が居るはずだし、転移を使える魔術師を確保していてもおかしくはない。費用は掛かるが効果が高いから。国を超える程の距離を確保するとなればかなり数が限られてくるけれど、王家や公爵家レベルならば絶対に居るはず。
高位のお貴族さまたちは転移を使用しているだろう。もちろん軍や騎士ならば、立場があるので行軍に参加しているだろうが。
「まあな」
「お尻痛くなりそうだね。敷物、もう少し用意しておけば良かった」
「だね……。途中で他の領都に寄るみたいだから、そこで買い足せばなんとかなるよ、リン」
クッションもないからなあ。木の板に直に――ある程度の布は敷いてあるけれど――座っているだけだし、馬車の衝撃緩和装置もお粗末だ。
お尻に衝撃を加えすぎて痔になるのは頂けない。水洗トイレはあるもののウォシュレットまでは存在していないから、お尻は大事にしないと大変な目に合うことになる。他の聖女さまに治癒を依頼できるけれど、ねえ? 無理すぎる案件だ。よし、やはり途中で寄り道してお尻の安全を確保しようと、リンと確り頷きあうのだった。
転移用の魔術陣を気軽に使えれば嬉しいけれど、あれは秘法中の秘法らしいので秘匿しておきたいのだろうし、まだ状況は切羽詰まってはいないということだ。本当に不味い事態だと転移陣を使用していたはず。
「んー! 背伸びできるのがありがたい」
何度か休憩を挟みながら今日の最終目標地点である、とある子爵さまが治める領都へたどり着き馬車から降りる。
片手を腰に片手を天へと突きあげて、思いっきり背を伸ばすとぼきぼきと背骨が伸びる感覚が頭に伝わって、少し気分が良くなった。休憩を挟んではいるものの、ゆっくり休んでいる暇はないし、人間が休むというより馬の水分補給や餌をやる時間という側面の方が強い。
しばらくこの場に待機していると最後尾の部隊がたどり着く。ほどなく輜重部隊や工作兵の人たちが野営用のテントをテキパキと張っていく。この人数を領都の中へと全員入れるのは無理があるので、本日は野営となっていた。
買い出しなどは町の人たちから歓迎されているので、許可を得て領兵へ伝えれば入領賃を払わずに町へ入ることができる。野営を嫌う聖女さまだと、買い出しを兼ねてそのまま町の宿屋で過ごすこともあるが、私たちは野宿で十分。
「さすがに持ってきた敷物だけじゃきついから買いに行こうか」
「だね。移動はまだまだ掛かるし、無駄になるものじゃないから」
また次の討伐で使えるとリンは言いたいらしい。さて、目的の物があればいいのだけれどリンからジークへ視線を移すと、荷物を
「ジークはどうする?」
「俺は野営の準備を手伝ってくる。二人で町へ行ってこい」
男手は多い方が良いのだろうし訓練も受けている。軍や騎士の人たちの足手まといにはならないだろうと、考え一度頷き。
「わかった。欲しいものはある?」
「特には。――ナイ、無駄なものを買ってくるなよ」
「か、買わないよ……多分……」
ジークは私の行動を見越していようだ。美味しそうなものがあったら買い食いしようと考えていたのに、見破られていた。なんだか悔しいと感じつつ、町へ入れない人もいるのだしジークにお土産を買ってくるのは諦めて、聖女組を管轄している指揮官の人に町への入場許可をリンと二人で取りに行くのだった。
◇
指揮官の人から頂いた許可証を持って、子爵領の門側に立っている衛兵へ提示する。差し出したままになっている紙の文字を追って、衛兵さんの視線が動きこくりと頷くと。
「ようこそ、領都へ!」
にかっと笑った厳つい顔の衛兵は、リンと私を子爵領領都の中へと促してくれたのだった。
「奇麗に整備されてるね」
王都よりも随分とこじんまりとしているが、碁盤のように張り巡らされている道とその間に設けられた石造りの家々は手入れが行き届いている。窓には花鉢があったり、三階建ての集合住宅からはロープが張り巡らされており、昼日中には洗濯物が空に泳いでいただろう。
「うん。お店とかどの辺りだろう」
王都暮らしが長いので、違う領主が治める街や村に入る機会は少ないけれど、この子爵領は王都にも近いということもあって、結構栄えているようだ。
討伐部隊が一日目の野営の場所に選ぶのだから、立地に恵まれて発展してきたのだろううな。とはいえ領主の手腕がなければ、ここまで発展はしていないだろう。この感じだとメインストリートが今いる場所なので、先に進めば商業区画に辿り着きそう。広場があれば露店があるだろうけれど、時間も夕暮れ時だから少なくなっていそうだ。
なら店舗営業している所を探す方が先決だなと、リンと雑談を交わしながら歩を進めていると意外な人物に出会うのだった。
「おや」
「副団長さま。どうしてこちらに?」
私が先に声を掛けてしまったことを気にもせず、微笑みを浮かべながら副団長さまがこちらへとやって来る。どうやら買い出しに来ていたようで、魔術具を取り扱う店を覗いていたようだ。
「いやあ、魔術転移で辺境伯領まで行くのも芸がないと思いまして。希望者だけを転移させて僕は軍や騎士の方とご一緒したのですよ」
「術者の方だけ残る方法もあるんですね」
本当に意外だった。術者と術者の魔力量で転移可能人数が決まるハズなのだけれど。おそらく行軍したくないお貴族さまたちを転移させたのだろう。
「ああ、既存のものを改良して新たな術式を僕が組んだので。今回は実用段階の前試験でしたが上手くいって良かったです」
にんまりと笑みを浮かべているけれど、副団長さま……高位のお貴族さまたちを実験道具にしていないかな、これ。
転送事故が起こったならば、副団長さまは今この場には居ないはずなので、とりあえずは問題はなく終わっているのだろう。本当に、魔術師の人たちは変態というか自分の欲望に忠実な人たちが多い。
「そうだ。――この後、聖女さまの野営場所を訪ねてもよろしいでしょうか?」
「天幕に入ることは出来ませんので、外での対応となってしまいますが……」
プライベートな部分となるので教会関係者以外が入ることをあまり良しとしていない。護衛の男性騎士でも天幕の入口は開放したままという条件があったりするので、来客ともなると外で迎えるのがルールとなっている。それに夜間にウロウロしていると、いろいろと疑われる要素を増やすだけで、良いことなんてないから。
聖女を取り巻く環境を知っていて、副団長さまは話を持ち掛けてくれているので、有難い。夜に『俺の天幕に来い!』と命令した人も居て、それを聞いていた周囲の同僚たちに責められるわ、教会からも抗議の手紙が届くわで涙目になっていたけれど、その人。
「ええ、結構ですよ。聖女のしきたりも大変ですねえ」
知っている人と知らない人の差が大きい。副団長さまは魔術以外のこととなると、割と紳士的である。
「正直、どうしてそこまで徹底しているのかと言ってしまいそうになりますが、慣れれば対応はしやすいですよ」
覚えて実践して慣れればどうってことはない。慣れないことは……特にない、かも。孤児生活で凍死しなかったのは王都の気候が穏やかだからだし、食事も洋食中心でゲテモノ料理とかは出たことがない。
時折、妙な魔物が出て『グロい』と零したくなって、それくらいだろうなあ、この世界に生まれて慣れないことって。スタートが最底辺だったので、ある程度のことに耐性が付いてしまったのが幸運だった。もし仮にお貴族さまのご令嬢の出発だったら、こんな環境に慣れていなかった可能性だってあるのだし。
「僕も貴族としての習わしなんて放り出したいですが、簡単に捨てられるものではない……まあ有難いこともありますし、なんとも言えないですねえ、こればかりは」
「そうですね」
「さて、聖女さまのお買い物を邪魔をしてはなりませんし、僕はこれで。――よく眠れる茶葉を持ってお邪魔することにいたします。ではまた夜にお会いしましょう」
「はい、また夜に」
副団長さまと別れて、目的の店を探す。布屋さんにでも行けば生地は手に入るだろうけれど、どうせならクッションや座布団のようなものが欲しい所。
ボロ布を布屋さんで安値で買って、服飾系の店に持ち込み詰め込んで貰えば、クッションが代わりにはなるだろうと、とりあえず布屋さんを目指す。恰幅の良いおばちゃん店員に声を掛けると、気さくに対応してくれる。王都のお店の人よりのんびりしている感じが漂っていて、場所で人柄の違いが出ているのが面白い。
「確りとした生地を何枚か頂きたいのですが、おすすめはありますか?」
「おや。小さいお嬢さんだねえ……お姉さんとお遣いなのかね。どのくらいのサイズがいいか言えるかい?」
確かに同年代の人たちよりもチビだし、童顔だけれども! 心にナイフが突き刺さったような痛みを覚えるけれど、リンが笑いを堪えている気配を感じて後ろを向いてジト目を向けて抗議しておいた。訂正するのも面倒だし、目の前の女性にはあまり関係のないことで、目的は布の購入と心の中で自分に言い聞かせる。
「馬車で移動をするのでお尻に敷くものが欲しいんです。ボロ布があればそれも購入して、縫って敷き物代わりにしたいなって」
「ボロ布ならあるけれど、詰め物にするほどはないねえ……」
「なら、安い布切れを長尺頂けますか?」
「切って詰め込むのかい?」
「はい。ないよりはマシですので」
「確りしたお嬢さんだねえ。お姉ちゃんを頼らずにあたしと話ができるんだから!」
呵々と笑って女性は店の奥へと引っ込んで、物音を立てながら何かを物色している様子。『リンがお姉さんって……』『私の方が背が高いからね』と視線で会話をしていると、店員さんがお店のカウンターに現れて、こっちへ来いと手招きされた。
「はいよ。生地が分厚いものを選んだから早々破れたりはしない。あと詰め込むボロ布もこれだけあれば大丈夫さね」
そう言って大量のボロ布を出してくれたのだった。
「ありがとうございます。これだけあれば十分な物が作れます」
「お礼はいいよ。代金をきちんと払ってくれりゃあね!」
そうして店員さんの言葉通りに金額を払って、店を出る。こういう店だと値引き交渉も醍醐味だけれど、時間もないのでお金は渋らなかった。次は服飾をしている店舗に急いで作ってもらえるか確かめようと、リンと一緒に数軒先のお店へと入る。
味のある内装に、並べられた服の数々。ゆっくりと眺めたい所だけれど、今は店員さんの下へと足を運んで。
いらっしゃいませと、落ち着いた声色で喋る男性店員さんに経緯を話すと、丁度職人の手が空いているので急いで作らせるとのこと。作り方は簡単だし少し待っていれば出来上がるとの事で、前金を払って店を出てリンとそのまま町を探索。
きょろきょろと町の中を歩くだけ。それでも目新しいものが多くて楽しく、指定の時間まで直ぐだった。
「ありがとうございました」
またしても『おつかい偉いね』と言われてしまって、微妙な心境になりながら町の外、野営をしている場所へと戻るのだった。