魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――南大陸では黒髪黒目の人は畏怖されている。
そして、わたしが生まれたC国でも同じだと先生に教えて貰った。先生が生んだ赤ちゃんを怖いなんて思ったことはないし、お世話をしていると小さな小さな手でぎゅっとわたしの指を握りしめて離してくれない。
確かに宿の人たちは黒髪黒目の赤ちゃんを見て凄く怖がっていた。どうして怖がっているのか不思議で先生に聞いてみると、黒髪黒目は大きな力を持っていることが多く、その影響は計り知れない。
ある者は、凄く力が強く魔物を素手で倒すことができた。ある者は、魔術に長け大勢の人の命を奪うことができた。ある者は、南の女神さまと意志を交わすことができた。それが原因なのか、黒髪黒目の人は気性が荒かったり、大人しかったり、怒り易やすかったりして、周りの人たちは凄く気を使っているのだとか。
わたしは頭が良くないから、先生の言うことを半分くらいしか分からないけれど、可愛い赤ちゃんは凄い力を持っているかもしれない、ということだけははっきりとしている。
もし、赤ちゃんが虐められたら、強い力でやり返せば良いし、魔術で脅しても良い。南大陸の女神さまとお話しできるなら、悪い奴ら全員を消して欲しいとお願いすることだってできる。わたしも先生から魔術を教わって筋が良いと褒められて、逆らう相手は容赦なく術を使って良いんだって。そうして先生と赤ちゃんを守ってねと、優しく笑っていた。
きっと赤ちゃんの将来は明るいだろうなって考えていたら、別の黒髪黒目の子供が姿を現して……先生を虐めていた。
その前日の夜。先生の機嫌が突然おかしくなった。時々、先生は変になるから、またか、と宿屋の部屋の片隅で様子を伺っていたけれど、目を見開いてくつくつ笑っていた。
『ああ……ああ! この魔力は! アルバトロスの黒髪の聖女は私を探し求めていたのね! 貴女が私を選んだというのであれば、なにも遠慮する必要はないでしょう! その身体、貰い受けます! そして魔術の深淵に辿り着くのだわ!!』
先生は両手を広げて涙を流している。そんなに嬉しいことがあったのかと、彼女の下に進んで行き理由を聞いてみようとわたしは口を開く。
――先生、どうしたの?
くくく、と笑っている先生はぎょろりとわたしを見下ろして、懐からお金を渡してくれた。
『アンファン、先生は用事ができました。子の面倒を頼みます。当面の資金はこれだけあれば大丈夫。あと魔力を抑えている魔術具を外しては駄目。…………――決戦は明日、陽が真上に昇る少し前、が良いでしょう!!』
先生はその後、凄く機嫌が良くなって魔導書と呼んでいる本に綺麗な石を沢山くべていた。あんなことをしてなにになるのか分からないけれど、先生のしていることだから、なにか意味があるのだろう。赤ちゃんが泣くから、先生から貰っている緑色の液体を飲ませると赤ちゃんはすやすやと寝息を立て始めたから、わたしも眠くなって床で丸くなって眠りに就いた。
朝ご飯を食べると先生はまた魔導書の前で、ぶつぶつと呟きながら、いきなり高笑いを始めたり、ひひひと笑ったりして忙しそうだった。そうしてお昼のご飯の前に、先生は宿屋を出て行った。
宿の部屋の窓から外を眺めて先生の姿を追っていると、歓楽街の外に差し掛かった時、黒髪黒目の白い服を着た子供となにか話し始めた。先生の肩の上には小さな黒い色の鳥のようななにかが乗っていたし、先生の前に立っている子供の肩にも小さな銀色の鳥が乗っている。
子供の後ろにいる赤髪の背の高い男の人の肩にも鳥が乗っていたから、肩に鳥を乗せているのはお腹が空いた時に食べるためなのかもしれない。確か、非常食って言うんだっけ?
先生と子供はなにか言葉を話している。もしかして、わたしは先生に見捨てられてしまったのかと心配になって……宿の外へと走り出た。先生から言いつけられた魔力を抑えるという魔術具も外して、魔術を詠唱しながら必死に走って、先生と子供の間に魔術を打ち込んだ。
そうしたら先生が褒めてくれた!
良かった。見捨てられたわけじゃないって凄く安心していたら、先生も子供も他の人たちも一瞬で消えてどこかに行っちゃった。
一人取り残されたわたしは知らない大人の人たちに囲まれて、指輪を填められた途端に全身の力が抜けて動けなくなった。訳が分からないまま大人に捕まって歓楽街で待っていると、白い変な服を着た子供がたくさん人を引き連れて私の前に立つ。
『……先生は?』
嫌な予感がしたんだ。だって、いつもわたしの目の前から消えた人は戻ってこない。貧民街でわたしの面倒をみてくれていた大人が兵士に捕まって戻ってくることはなかった。なんとなく気が合って一緒に過ごしていた男の子が目を閉じたまま動かなくなった。貧民街の大人たちが無言で、男の子をどこかに連れて行って、もう顔を合わせることはなくなった。
『死にました』
そこからのやり取りはあまり覚えていない。ただ無表情で私を見る黒髪黒目の子供は、凄く力の籠った目をしていた。
――気付けば、暗い牢の中で目が覚めたのだった。
石の床からがばりと身体を起こして周りを見た。小さな窓から差し込む光は薄暗い。立ち上がって鉄格子を掴んで、きょろきょろと周りを見ても誰もいない。なんだか無性に怖くなって、先生と赤ちゃんのことを思い出す。わたしは捨てられたのだろうか。
「先生!? 赤ちゃんは!?」
わたしの声が響くと、どこかの扉がゆっくりと開く音が聞こえて、足音がいっぱい近づいてくる。ごくりと息を呑むと、また黒髪黒目の子供がわたしの前に立ったのだった。
◇
――黒髪黒目の赤子は引き取ることになった。
南大陸で生活しても将来は明るくなさそうというのが、子爵邸メンバーで話し合った際に出した結論である。赤子が成長して周りの方々に畏怖されて、ストレスで伝承と同様な事態となればさらに黒髪黒目は恐怖の対象になってしまう。
各国の王族の方々ですら恐れている始末だから、黒髪黒目の赤子は南大陸では生き辛い。それならアルバトロス王国で生活した方が、人として扱われ人として生きていくことができる。
「女の子とも話をして、今後のことを聞いておかないと。――申し訳ありませんが、案内をお願い致します」
私と魔術師の間に魔術をぶっ放した子のことである。ジークとリンもソフィーアさまとセレスティアさまも、私が決めたことならば従うというスタンスなので、アンファンと呼ばれた女の子は魔術師がいなくなってこれからどうするのか聞きたかった。
C国上層部は魔術を扱うことができる女の子を危険視している。今いるC国は魔術が発展しておらず、禁忌の術として取り扱っているそうだ。そんなことから、C国上層部の皆さまにお願いして女の子が捕らえられている牢屋まで赴いたところである。
完全拒否されたから話し合いは無駄に終わるかもしれないが、後悔はしたくないのでもう一度赴いた次第であった。薄暗い廊下を進み大きな鉄扉の奥に女の子はいるそうだ。
ゆっくりと鉄扉が開いて蝶番の音が響く。C国の兵士さん二名が前を歩き、その後ろを私が。そしてソフィーアさまとセレスティアさま、ジークとリン、アルバトロス王国の護衛の皆さま、さらに続いてC国のお偉いさん方が歩く。
――先生!? 赤ちゃんは!?
少し離れた場所から女の子の声が聞こえてきた。さて、きちんと話ができると良いのだけれど、王都の街で言葉を交わした時は完全に敵として見られていた。落ち着いていれば良いなと、希望を抱きながら鉄格子を挟んで女の子の前に立つ。
「お会いしたのは二度目ですね。アルバトロス王国、ナイ・ミナーヴァ子爵と申します。C国上層部の方々にお願いして、この場に立たせて頂いております。少しお時間をよろしいでしょうか?」
「先生は? 赤ちゃんは!?」
少女が鉄格子に寄って、勢いよく顔を近づけてくる。流石に無礼はよろしくないと、C国の兵士さんが少女に私が他国の貴族であり、許可を得てこの場にいること、少女の立ち位置は一番下であることを説明した。
話を聞いた少女は驚いた顔になるものの、女魔術師と赤子のことを気にするのみ。黒い竜については知らなかったのか、なにも問いかけてこなかった。もう一度同じ話をすることになるが、女魔術師はもうこの世にいないことを伝え、赤子のこれからを伝えなければ。
「先生という方が、黒い外套を羽織った女性の魔術師であるならば、わたくしが殺めました。黒髪黒目の赤子は保護され、アルバトロス王国で過ごすことになります」
「先生を殺したの!?」
「はい。もう一度言いますが、あのまま魔術師の側にいれば、貴女の命はなかったとご理解なさっていますか?」
魔術師が死んだことを少女は認めたくないようだ。貧民街から拾ったと言っていたし、目の前の女の子にとって頼れる人が女魔術師しかいないのだろう。縋って当然だ。
「…………それは」
「貴女の魔力量は多い。きちんと学べばまだ増えるでしょう。魔術師の女性は何百年も生きていると言いました。そして身体が持たず、魂の依り代を探し求めていた、とも」
せめて女の子が女魔術師からの呪縛を逃れ、前を向いて歩けるようにならないと。今のままでは彼女はきっと新しい道に進めない。
だから事実だけを。女の子が自分で考えて、自分でどうしたいか結論を出さないといけないはず。貧民街から抜け出したばかりなら、進むべき道を見誤ることもあるだろう。それでも、ちゃんと自分で歩む道を選ばなければ。
「じゃあ、どうすれば良かったの? 先生はわたしにご飯をくれて、魔術を教えてくれた。先生と赤ちゃんを守れば、寝床とご飯はくれるって言ってくれた……初めてわたしに優しくしてくれた人なのに……!」
「どうするべきか、どうすれば良いのかは、貴女が決めるべきことです。貴女にはいくつか道が用意されております」
ひとつ、このまま牢の中で暮らすのか。ひとつ、わたしと一緒にアルバトロス王国に行き生活基盤を築くか。ひとつ、この国から追放されるのか。
「……赤ちゃんはどうなるの?」
「赤子がこのまま南大陸で生活を営むのであれば、周りから畏怖され疎まれる存在となりましょう。国王陛下にお願いして赤子は西大陸のアルバトロス王国へ向かうことが決定いたしました」
誰が面倒をみるか、どうするのかはまだ決まっていないけれど、最悪は子爵家で引き受けるつもりだ。赤子が大きくなれば、私が母親の女魔術師を葬ったことを伝えなければ。
「先生と約束したの。赤ちゃんの面倒をお願いって。お金の使い方は分からないけれど、しばらく一緒に暮らせるお金も貰ってる! だからここから出て、赤ちゃんと一緒に暮らす!」
少女のなけなしの意地なのだろう。
「無理です。赤子の行先は決まっています。仮に赤子を貴女が引き取ったとしてこの国で生活するのであれば、貴女が魔術師から預かったお金は半年間、節約して暮らせば可能という額です」
聞いた話によると、そう大した額ではなく三ヶ月ほど宿に泊まってご飯も不自由なく食べられる程度だったそうだ。お金の使い方が分からない少女では、誰かにカモにされるだけと否定しておく。
「…………」
「アルバトロスに赴けば、貴女が成人するまで衣食住の保証はしましょう。このまま南大陸のこの国で誰にも頼らず生きていくか、西大陸のアルバトロス王国にて私の下で赤子と一緒に生きていくか……今この場で選んでください」
私は少女に右手を伸ばす。私の手を掴めば、少女はアルバトロスへと赴くことになるだろう。しばらく難しい顔で考えていた少女は私の目を確りと見据えて。
「先生を殺したことは許せない! でも、先生と赤ちゃんの面倒をみるって約束した! だからわたしは貴女を利用する! 利用してやるんだっ!!」
少女は牢屋全体に響く声を出し、私の右手を掴むのだった。
◇
少女を引き取ることになった。とりあえず、細かい話をしようとC国上層部の皆さまに願い出たのだが、黒髪黒目の私がいると落ち着かないようなので、遅れてC国へ入国した外務官さまに細かい詰めの話をお願いした。決して丸投げではない……と思いたい。
私は、C国の来賓室を借り赤子との面会を果たし、宿屋で見つけた黒髪黒目の赤子を覗き込む。
C国の皆さまは黒髪黒目の赤子が怖いようで、おっかなびっくり接している。私に対しても同じだから致し方ないけれど、怯えすぎではないか……というのが本音である。アルバトロス組は黒髪黒目の人を恐れていないので、生後四ヶ月ほどの赤子に対して『可愛い』と感情が湧いているようだ。
「小さいなあ……」
『小さいねえ』
赤子は大きな籠の中に寝かされている。大勢の見知らぬ人に囲まれても驚いて泣かないし、私たちに対しても反応が薄い。単純に物怖じしないのか、感情が薄いのか。
どちらにしても、もう少し様子を見てみようとみんなで話したところである。そうして私は籠の中を覗き込み、一番最初に漏らした言葉が『小さい』である。生後四ヶ月程度なのだから、小さいのは当たり前だ。健康状態は悪くなく、いたって普通の女の子。女魔術師は赤子に対して、母乳ではなく自作の栄養ドリンク――ポーションみたいなもの――を飲ませていたとアンファンと呼ばれる少女から聞いた。
髪の毛も瞳も黒色なので、私以外の黒髪黒目の人を始めて見たなあと感慨深く覗き込む。
「クロよりは大きいよ」
私の肩に乗っているクロは、私の肩に乗れるサイズなので結構小さいし生後三ヶ月の子供より小さいのだ。それなのに『小さい』と抱いた気持ちを妙に感じて思わず突っ込んでしまう。
『それはそうだけれど、ボク、こんなに小さい人間を初めてみたから』
「まあ、クロが元の大きさになれば豆粒ほどの大きさに見えるから、間違えじゃないか」
赤子の頬を指先でつんつんしても、笑ったり嫌がったりしない。不安要素はあるけれど、子爵邸でたくさんの大人と託児所の子供たち、ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと仔たちと、エルとジョセ家族と触れ合えば情緒はきっと育つはず。
アンファンと呼ばれる少女も馴染んでくれると良いのだが、私を敵視しているようなので少し難しいかもしれない。
「少しナイに似ているか?」
「どうでしょうか。髪と瞳の色が同じなので、似ているように感じるだけかもしれませんよ?」
ソフィーアさまとセレスティアさまも籠の中を覗き込み赤子の様子を伺う。女魔術師曰く私の父親の種を仕込んで赤子を産んだと聞いているが、果たして本当なのだろうか。
その辺りもアルバトロス王国上層部と相談して、血液判定を行うことになるかもしれない。しかし、また父親の立場が危うくなっているのだが、彼はどうして魔術師と関係を持ったのか謎である。魔術師が嘘を吐いている可能性もあるし、報告書にありのままを記すだけである。
「ナイが育てるのか?」
「話が本当なら、妹だよね?」
ジークとリンも気になるようで、私の側で問うてきた。
「アルバトロス王国の判断次第だけれど、私の下で暮らすなら乳母さんを雇おうかなって考えてる。流石に子育てはしたことないし、お金に困っている未亡人の方を雇えば社会貢献になるかなって。妹かどうかは二の次というか、アルバトロス王国の判断で調べることになるんじゃないかな?」
上層部の判断で、教会預かりとか国が直接預かることもあるだろう。魔力量が多いようだから、引き取り先として魔術師団が名乗り出る場合もあるのだろうか。
魔術師団の方々が総出で赤子を育て上げると、副団長さま第二号となってしまいそうである。できれば魔術師団預かりになりませんようにと願っていると、話を終えた外務官さまと書記官さまたちが戻ってきた。
「いやはや。南大陸の黒髪黒目のお方を畏怖していることを実感致しますね……C国との話し合いは、ミナーヴァ子爵の提案を全て飲むということになりましたから」
にこやかな笑みを浮かべた外務官さまが私の横で、会議の結果を教えてくれる。無事に話し合いは終わり、細かい調整などは国に戻って連絡をやり取りするとのこと。
「お疲れ様でした。話し合いをお任せする形になり申し訳ありません」
「気にしないでください。子爵殿が気になされていたことは問題なく進みましたし、あとはC国は西に興味を持っているようで諸国との調整を行うことになりました」
私も本来は参加すべきだけれど、C国の皆さまがやり辛かろうと私たちに同行していた外務官さまに会議の出席をお願いしたのだ。特に大きな問題なく終了し、私の要望を全て叶えてくれるようだから本当に南大陸の女神さまさまであった。
「ああ、あと亜人連合国の代表殿もそろそろやってくるかと。黒い竜の亡骸をC国から運び出し、ご提案通り活火山の火口へ投げ入れるそうです」
外務官さまの話によると、ディアンさまとベリルさまと数頭の大型の竜の皆さまが南大陸に挨拶も兼ねてやってくるとのこと。
一応、西大陸で竜の皆さまが増えており、移住先や各大陸の空を飛びたいと願っていると伝えているから大丈夫なはず。最初は竜が空を飛べば驚くかもしれないけれど、慣れてしまえば『ああ、今日も竜が空を飛んでいる』となるだけだし。
亜人連合国に所属している竜の皆さまが空を飛ぶときは、亜人連合国の国章を掲げているから野良竜さんとの区別がつく。他の地域に住んでいる竜の方々と邂逅することもあるだろうと、ディアンさまたちは楽しみにしていると仰っていた。
「では、亜人連合国の皆さまをお迎えしないとですね。それにドワーフさんがいるかもしれないので、そのことについてお伝えしなければ」
ドワーフの皆さまが喜んでくれると良いなあ。別の地域に住んでいるであろうドワーフさんたちと意気投合できると良いけれど、と外務官さまと話しながら、ディアンさまたちを迎えるべく外に出る許可を頂いた。
――C国王都・外壁の見張り台
王都を囲う壁の上に立って、ディアンさまたちがやってくるのを待っている。夕方に差し掛かり陽が地平線へ沈みかけている。もう直ぐ夜になるけれど、竜の方って夜目は利くのだろうかとクロの顔を見た。
「竜って夜は空を飛べるの?」
『うん。暗闇にいるとだんだん目が慣れてくるよ。でもやっぱり見え辛いから、お陽さまが出ている時間の方が良いかな。晴れている空の下を飛ぶのは気持ち良いしね』
夜に飛んで、鳥や空を飛ぶ魔獣や幻想種とぶつかることがあるからなるべく避けるらしい。確かに竜とぶつかったら、ペシャンコになるから鳥さんたちも可哀そうだなあと納得してしまった。
『あ、みんながきたよー』
「よく見えるなあ」
クロが一定の方向を見つめているけれど、空にはなにも浮かんでいない。目が良くて羨ましい。ジークとリンもなんとなく見えるようで、クロと同じ方向に視線を向け目を細めていた。
『ナイなら、目で見るより魔力で探れば良いんじゃない?』
「できなくはないけれど……効率が悪いかな。探知系の魔術が得意な人はそれで良いかもしれないけれど」
どうにも探知系の魔術は苦手だから、才能がないのだろう。そうこうしていると、黒い小さな粒が空の彼方に浮かび、どんどんと大きくなっていく。
赤い竜の方と青い竜の方だから、ディアンさまとベリルさまは人化しているようだ。C国とも話し合いをしなければならないし、竜の姿でくると大変なのだろう。護衛として付いてきているC国の兵士の方々が、空を指差しどよめきを上げた。
『珍しいんだね~。慣れて貰えると良いなあ』
「うん。みんな穏やかな方ばかりだから、直ぐに慣れて貰えるんじゃないかな」
そだねー、ねーとクロと話していれば、赤と青の竜の方が黒い竜の死骸の側に降り立った。二頭で運べるのか微妙な所だけれど、どうにかなるのだろうか。
ディアンさまとベリルさまと赤と青の竜の方と合流して事の顛末を話せば『同族が迷惑を掛けた』『私があの時仕留めていれば……』とお二人は少し凹んでいる様子だった。大丈夫です、と伝えたけれど真面目な彼らの心境は複雑なようで。それでもC国と話し合いをしなければならないし、お二人と一緒に謁見場へと赴いた。
「亜人連合国の者よ。そしてアルバトロス王国、ナイ・ミナーヴァ子爵。我が国へよく参られた」
玉座に腰を下ろすC国国王陛下に礼を執る。ディアンさまとベリルさまも一緒で、私の横で小さく頷いていた。
話は事前に通しているので、今回の謁見は事情を知らないC国の皆さまに向けての説明である。私たち一行は黒い女魔術師と黒い竜を追っていたこと。黒髪黒目の赤子と少女をアルバトロス王国に迎え入れること、黒い竜を倒したのは私の護衛騎士の二人であること、女魔術師も倒して魔導書を残していること。もろもろの説明を終えると、C国の皆さまは不安を口にしている。
「竜の死骸は如何される!? このまま放置すれば腐って大変なことになりましょう!」
この声が一番大きい気がする。確かに竜の死骸の処分なんて前代未聞だろう。でも、そのためにディアンさまとベリルさまが出張ってきたのだ。野良竜の始末をしなきゃいけないのは大変だろうけれど、交渉次第で南大陸の空を竜の方々が飛べるようになる。その辺りも国王陛下が説明して、ようやく納得してくれた。
「まだ細々とした問題は残っているが、新たに西大陸の国々と関係を持つことができた。悪い話ではあるまい」
きりっとした顔で国王陛下が言い切った。私の前で冷や汗を掻いていた時とは大違いである。あとは無事に竜の死骸を運び出すことができれば、南大陸に用事はなくなるだろうと謁見場から下がるのだった。