魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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 面倒な話はするすると進み、ジークとリンのC国からの勲章授与は学院卒業後となり、赤子と少女の引き取り先は――魔術師の魂が宿っていると危険なので監視付き――私となり、黒い竜の死骸は亜人連合国の火山口に放り込まれて処分が終わった。

 

 今回、私が訪れた三ヶ国は西大陸と交易を始めたいと、各国の上層部は仰っているとのこと。王妃さまの母国が南の国から最初に訪れる国となるので王家は気分が高揚していると、彼女から教えて頂いた。

 

 学院に赴けば、特進科三年生の皆さまが心配そうな顔で迎えてくれ『無茶はしなかったのか?』と揃って問われる。私が無茶をしている前提なのがおかしく感じるのだが、ソフィーアさまとセレスティアさまも否定してくれない。南大陸で起こったことはアルバトロス王国にとって大きな影響はないと判断されている。だから、割と多くのことを語ってOKということだ。

 

 気になるならばと放課後の時間にサロンで説明会を執り行うことになったのだが、いつものメンバーであるフィーネさまとメンガーさまプラス、ギド殿下とマルクスさまが同席している。

 

 殿下に情報を渡すとなれば当然リーム王国も知ることになるから、アルバトロス王国と彼の国の関係は上手くいっているようだ。最初の関係はよろしくなかったけれど、王さまの交代で劇的に関係が変わるのは不思議な感じ。

 

 ルカを傷付けた黒い竜をジークとリンが倒したと伝えるとみんなが驚いたし、ギド殿下のスイッチが入ってしまった。子爵邸でルカの背に乗せて貰っていたので、天馬さまに思い入れがあるらしい。

 優しく温和な天馬さまを弄ぶために襲ったことは到底許せないと怒ったのちに、ルカの傷が癒えていなければ自分は無茶なことを強要してしまったのではと凄く凹んだ。

 リーム王国の殿下の感情のジェットコースターに驚いてしまうけれど、ルカを気遣ってくれてのことだし問題はない。傷は綺麗に癒えていたし、もしルカの体調が悪いなら騎乗は無理だとはっきりと断っているから心配しないで欲しいと伝えると、微妙に泣きそうになっている殿下が安堵の表情を浮かべる。

 

 「女魔術師が生んだ赤子と一人の少女を子爵家で預かることになりました」

 

 と、南大陸で起きた事柄を伝えると皆さまぎょっとした顔になるのである。少女と赤子はまだ王家預かりとなっているが、受け入れ態勢が整い次第子爵邸にくる手筈となっている。女魔術師の分身が憑依しているかもしれないと危惧されたが、意外なところで問題解決方法が提案された。そう、子爵邸に施している結界だ。

 敵意のある人は子爵家に踏み入れられないのだから、女魔術師の魂も入ることはできないのではと魔術師さんから声が上がった。現状では心許なく少し改良を施した。副団長さまとダリア姉さんとアイリス姉さんにお婆さまが結界改良に加わって、にたりとみんな笑っていたから……もうなにも言うまい。

 

 「え、えっと……話を聞く限り、半分血の繋がった妹さんとなりますよね?」

 

 フィーネさまが驚いた顔で仰った。私にとって黒髪黒目の赤子が妹という実感は薄いけれど、周りから見ると驚かれることなのか。半分血の繋がった十五歳以上歳の離れた妹を姉が世話するとなり、その話を他の人から伝え聞けば確かに吃驚するのかもしれない。

 ただ今の私は平民ではなく貴族の地位にある。困っている人を助けるのは、貴族の務めでもある。南大陸で彼女たちの境遇を考えると、私が預かる他ないとも言えるが。

 

 「生後半年も過ぎていない子供を預かるのは大変なのでは?」

 

 メンガーさまも微妙な表情で私を見ながら心配してくれている。

 

 「確かに大変ですが私一人で育てるわけではありません。乳母さんを雇いますし子爵家には託児所もあります」

 

 大変であることは覚悟している。夜泣きもあるだろうし、トイレのお世話もしなければならないし、そろそろ離乳食へ切り替わる時期だ。一般家庭なら悲鳴を上げなければならないが、いろいろな方の協力を仰げるので問題は軽くなる。

 

 「ミナーヴァ子爵。彼の者や……実家の者たちが出てくればどうするのだ?」

 

 「あんたが一代で築いた家だ。なんで面倒な問題を抱え込む?」

 

 フィーネさまとメンガーさまは子育てに掛かる苦労を心配し、ギド殿下とマルクスさまはお貴族さま的な側面で心配してくれていた。しかしマルクスさまはお貴族さま世界における面倒なことを考えられたのか。失礼なのかもしれないが、二年前の彼と同一人物とは思えない。セレスティアさまにシバかれ捲った効果がやっと効いてきたようだった。

 

 「切り捨てることができれば簡単でしたが私には無理でした。なら、これから起こり得る面倒も頭の片隅にはあります。全てを計算できているわけではありませんが、父親と母親については赤子が成長した際に打ち明けます。実家の方々に会わせる気はありませんが、それも育った赤子の意志しだいでしょうね。祀り上げられることを望むならば、ですが」

 

 私の言葉に同席している面々がふうと息を吐く。面倒に巻き込まれているのだから、今更一つ、二つ面倒なことが増えても変わらないだろう。少し沈んだ空気を打ち払うために、南大陸で買い付けた品の話に無理矢理変えた。

 

 「南大陸から珍しそうな品を買ってきました。香辛料がメインになりますが、他にもいろいろと……と言いたいのですが、料理の指南書とか必要ないですよね……庶民向けのものですし」

 

 お店に寄って買い付けた品は香辛料がメインである。日持ちのする品なのでお土産に最適なのだが、私の場合ロゼさんという強い味方がいる。ロゼさんの体内では状態保存が利くので、お肉を買っても腐らないというチートが発揮されるのだ。南大陸では豚肉と牛肉は好まれておらず、お肉と言えば羊さんとなるそうだ。

 

 なので羊肉を多く買い付けた。最初に上陸したA国では、王族の方々が食しているというお肉を買い付けることができたので、アルバトロス王国のお貴族さまに渡しても問題はあるまい。

 もちろんギド殿下にもお渡しするんだけれど、私、お土産を渡す方々がどんどん増えているような。魔術師団にも立ち寄ったので、副団長さまにもお土産を渡しているし、学院でフィーネさまとメンガーさまにもと考えている内にギド殿下とマルクスさまにも用意することになっている。あれ、と不思議に思うけれど将来、お付き合いが続いて行くし問題ないかと割り切った。

 

 「別大陸の料理だろう? 俺には必要ないものだが、城の料理人は喜ぶ。頂けるのであれば有難い」

 

 「俺も要らねえが、野外で簡単に作れるものとかあるのか? 遠征で上手い飯が出てこないと問題だからな」

 

 ギド殿下はカラカラと笑い、マルクスさまは少し面倒そうな顔で仰った。セレスティアさまが『まあ!』と仰っている辺り、大分進歩した会話ではなかろうか。以前なら『要らねえよ、そんなもの』と断られていそうである。

 お城の料理人さんに本を渡して、ご飯が美味しくなるなら嬉しいことだし、遠征先で調味料でお肉を味付けして臭みを誤魔化すこともできるなあと、男性陣にも料理本を渡すことになった。受け取って貰って良かったと安堵して、説明会はお開きとなった。メンガーさまにカレーを作れるか聞きたかったけれど、また次の機会である。

 

 各々席から立ち上がって、家路に就くときのことだ。ギド殿下がおもむろにジークの下へと歩いて行く。

 

 「ジークフリード。竜殺し、いや邪竜殺しの英雄殿との手合わせをお願いしたい」

 

 ギド殿下はにこやかに笑っているので、丁寧な言い回しは冗談の範疇であり、今回活躍したジークを褒めてくれているんのだろう。

 

 「殿下、私は教会騎士に過ぎません。斯様な対応は過剰かと」

 

 ジークもジークで立場はただの騎士だから、殿下に畏まった態度を取られてしまうと困る。いつもの表情を読み取り辛いジークだけれど、彼も彼で殿下の言葉は冗談であるというのは理解しているようだ。とはいえやはり二人には身分と立場が付いてくる。他の方に示しが付かないというパフォーマンスの意味合いもあったようだ。

 

 「今の場は身内と呼べる者しかいないから、少しくらい構わないだろう。おめでとう、と言いたいがジークフリードの気性では嬉しくないか?」

 

 「聖女さまの支援があったからこその勲章です。私だけの力では成し遂げられませんでした」

 

 ジークの言葉にギド殿下がちらりと私の方を見た。今回のことはジークとリンに良い結果を齎してくれるはず。

 面倒が少し増えるかもしれないが、子爵家の名前を出せるなら問題を避けることができるだろう。そっくり兄妹であればミナーヴァ子爵家の名を落とす行為は取らないと確信できる。ギド殿下には視線で『もっと言ってやってください』と応援を送っておいたが伝わっただろうか。

 

 「聞いた話だと、C国は二人の手柄と判断しているし、アルバトロス王国も教会もジークフリードとジークリンデの功績と認めたのだろう? なら、素直に受け取っておけ」

 

 ギド殿下はジークの肩に軽く手を置いて、ジークとリンの名が上がれば私の名も必然的に上がると仰った。なして!? と驚くが、ジークとリンは『邪竜殺しの英雄』と呼ばれる度に私のお陰と言葉を付け足すのだろう。私のことは気にせず、自分たちの功績として誇って欲しいところだが律儀な二人は認めないのだろう。

 

 「立場があれば、腕っぷし以外でミナーヴァ子爵を守れる――……子爵の壁は厚い。ジークフリード、壁を壊すのは竜を倒すより難しいぞ?」

 

 「……」

 

 ギド殿下が最後になにかをジークへ告げたようだけれど私には届かなかった。そうして手合わせをすることを約束して、子爵邸に戻るのだった。

 

 ◇

 

 冬の寒さは随分と和らいで、そろそろ学院の卒業式が間近に迫っている。日向ぼっこをするのが気持ち良いのか、仔たちが部屋の大きな窓際ですやすやと寝息を立てているところを良く見るようになった。

 

 女の子と赤子を迎え入れる許可と準備が終わった。

 

 子爵邸の結界の改良も済んでおり、彼女たち二人の体内に魔術師の魂が入っていれば、入れない仕組みになっている。

 王城で過ごしていた二人を引き取り顔を合わせると、少女は私のことを警戒していた。ジークとリンもソフィーアさまとセレスティアさまも二人を警戒していた。お互いに致し方ないけれど、いつか打ち解けると良いのだが。

 

 もしも女魔術師がいた場合に備えて、副団長さまが同行してくださる。彼にお世話になります、と挨拶をしたのちに馬車に乗り込んだ。

 馬車に暫く揺られていれば、子爵邸の門扉前に辿り着く。経過を見届けるため、屋敷内へ入って直ぐに馬車から降りた。ジークとリンが私の下へと歩いてきて三人一緒になる。門の外には少女と赤子を乗せた馬車が待機しており、副団長さまも一緒に控えている。そろそろかなと口を開こうとすれば、目の前がぱっと光ってお婆さまが姿を現した。

 

 「お婆さま、どうしてここに?」

 

 彼女と視線を合わせると、周囲にも妖精さんたちが姿を現し始めた。門扉の向こう側で控えている副団長さまが凄く羨ましそうな視線を私へ飛ばしてくる。

 

 『悪い魂を捕まえるの! 揶揄うの楽しそうってみんなと話してたら、ここにこようってなったのよ!』

 

 お婆さまが空中を飛びながら面白そうな顔で笑う。もし仮に女魔術師の魂が捕まえられると、妖精さんたちから一生揶揄われることになるのか。素直に成仏しておけば地獄に落ちていただろうに、悪足掻きしたことで更に苦しみを味わうとは。

 

 「それは構いませんが、妖精さんたちにご迷惑が掛かりませんか?」

 

 『大丈夫、大丈夫。貴女の話を盗み聞きしていたら、人間ではない存在に成り果てているんだもの。人間の方が怖いわ~』

 

 お婆さまが言うのであれば大丈夫だろうと門扉を見る。

 

 「では、お願い致します」

 

 私が音頭を取ると、門扉前にいる馬車がゆっくりと動き出した。大丈夫だろうかと視線を門へと向ける。そうして馬車が門扉に差し掛かると、ピシッと紫電が走って驚いた馬が嘶く。

 副団長さまがすかさず胸元から魔石を取り出し、お婆さまが『きたわね!』と私の耳元で声を上げた。馬車の中から黒い靄の塊が出てきて、護衛の方たちがざわめき立つ。そうしてお婆さまの指示により妖精さんたちが黒い靄を取り囲み、副団長さまの魔石へ導き黒い靄が吸い込まれていく。術が成功したことで上機嫌な副団長さまは妖精さんたちに顔を向けた。

 

 「ありがとうございます。初めての共同作業、とてもとても嬉しいです! ――っ、どうしてお逃げになるのですか!?」

 

 副団長さまが大きな声を上げ、逃げていく妖精さんたちに手を翳した。彼が伸ばした手は届くことなく、妖精さんたちは私の方へとやってくる。お婆さまの『仕方ないわね』という声が聞こえ顔を向けると、ぱっと光って消えたと思えば副団長さまの下へ転移していた。

 

 『貴方の嬉々とした気持ちがみんなに伝わって驚いたのよ! 本来なら見えないんだし、諦めなさいな。あと良い歳した男が情けない顔をしないの!』

 

 副団長さまの前でお婆さまが説教なのか説得なのか分からない、微妙な慰めの言葉を投げる。妖精さんに逃げられてショックを受けていた副団長さまがお婆さまが現れたことにより、少し気を持ち直した。

 

 「お婆さまは僕のことをお嫌いにならないので?」

 

 『変わり者だとは思うけれど、私が嫌がると貴方は行動に出ないでしょ? だから平気。ああ、でも魔術に拘り過ぎて、道を踏み外さないのかって時折怖くなるわ』

 

 会話の内容が物騒だなあと聞き耳を立てつつ、彼らがこちらにくるのを待つ。

 

 「そこの所は弁えておりますよ。堕ちてしまえば、この魔石の中の魔術師と同じになってしまいます。っと、子爵さまの下へ行きましょう。待たせてしまい、出入り禁止になると僕は凄く困ります」

 

 『はいはい。移動、よろしく~』

 

 お婆さまが副団長さまの肩に流している髪を握って、手綱に見立ててぱしんと跳ねさせた。副団長さまは、妖精の長とされるお婆さまに悪戯されたのが嬉しいようで『承知しました』と伝えて歩を進め始める。

 流石に嘶きはしないかと安堵していれば、女の子と赤子が乗っている馬車もゆっくりと敷地内へ入ってきた。

 

 「お待たせしました。やはり魔術師は分身を仕込んでいたようですねえ。でも、質が悪いので少女か赤子の身体を乗っ取れたかと問われれば、判断が付かないというのが答えです」

 

 「では、少女と赤子の意識が魔術師に乗っ取られることはないと」

 

 私は、にこにこと笑みを浮かべている副団長さまの顔を見上げた。

 

 「ええ。でも魔力量が多いのできちんと学ばないと魔力暴走等の危険があります。再度になりますが、魔術師団でも面倒を請け負いますので覚えていて下されば幸いですねえ」

 

 きちんと魔力の扱いを学ばなければ身を滅ぼしてしまうのか。教会に保護されたことは幸運だったと改めて思う。

 少女にも赤子にも明るい未来があると良いと思い描いていると、クロの尻尾が私の背中を叩いた。気負い過ぎと言いたげなクロが顔を擦り付けて、気を紛らわせてくれる。

 

 「ありがとうございます。魔術に関してならば、魔術師団の方々に問うのが間違いないでしょう。頼らせて頂く場合もあるかと思いますので、その時は宜しくお願い致します」

 

 私が小さく礼を執ると、副団長さまがふふふと笑みを深めた。彼は変態ではあるが、魔術に関してならば真摯な態度である。少女と赤子を妙な道には導くまいと信じ、魔術師団を頼ることを頭の片隅に入れておく。

 屋敷に入ろうと副団長さまへ伝えれば、蹄の音が耳に届く。複数あるから、エルたち一家だろうと音の方へ顔を向けた。

 

 「ああ、エルさんにジョセさん! ルカくんにジアさんも! もしかしてお迎えに来てくれたのですか!? 凄く、とても嬉しいです!」

 

 ぱあ、と表情を光らせた副団長さまがエルたちの下へ歩いて行く。彼を放っておいても、そのうち屋敷にくるだろうと他の方々に指示を出す。

 再度、馬車に乗り込むのは面倒なので、屋敷の馬車回りまで歩いて行くことになった。ジークの肩に乗っている幼竜さんが穿った地面は元に戻っているし、庭師の小父さまの手により春に咲く花の蕾が大きくなっている。

 

 「ゆっくり庭を眺める機会もなかったから、こうして歩くのも偶には良いね」

 

 歩く機会はめっきり減っているので、運動しないと筋力が落ちてしまいそうだ。討伐遠征も学院に通っていたことで参加の機会を逸していたから、体力は前より減っているはず。

 転移は便利だけれど、運動しなくなるのは問題だ。学院を卒業すれば、お貴族さまとして本格的に働き始める。デスクワークが主となるし、聖女のお仕事も治癒院参加とお城の魔術陣への魔力補填がメインとなりそうである。

 

 『気持ち良いね~』

 

 「もう直ぐ、過ごしやすい季節になるな」

 

 「どこかに出掛けたいかも」

 

 クロが機嫌良く尻尾を私の首に回し、ジークとリンも子爵家の整備された庭を見ながら微笑みを浮かべている。

 そういえば、お弁当を持ってピクニックに行こうと計画していたのに、一年生の長期休暇から怒涛の時間が流れて実行できずにいた。

 卒業すればきっと時間が捻出できるし、幼馴染組とお休みを合わせて出掛けよう。職場は子爵家なので、お休みの日を合わせやすいのだから。時間が取れたらお出掛けしようと約束すると、ジークが不意に立ち止まる。どうしたのだろうと、私もリンも足を止め彼と視線を合わせた。

 

 「ナイ」

 

 「どうしたの、ジーク」

 

 見上げたジークの顔はいつも通り、感情の読み取り辛い表情である。でも抱えている雰囲気が真剣そのもので、どしたのだろうと背筋を伸ばした。

 

 「ナイはいろいろなものを背負い過ぎじゃないか?」

 

 今回の少女と赤子の件は、アルバトロス上層部や教会に預けても問題なかったのではとジークは言いたいようだ。

 必要のなかった乳母さんを雇うこと、赤子と少女のための部屋を用意したこと。フソウから神獣さまを預かっているし、仔たちも預かっている。私の肩に乗っているものが、どんどん重くなっていないかと心配になっているそうな。

 

 「そうかな? 自分ができる範囲しか背負っていないし、みんながいるからできることだよ。私一人じゃあ、本当に背負いきれないし」

 

 巻き込まれて私が関わるようになり、背負ったものはいくつもある。負担に思うこともあるし、大変だと思うこともある。でも、みんながいてくれるから私は潰れていない。

 それにジークとリンには私のために背負って貰ったものがあった。彼らの『黒髪聖女の双璧』は私がいなければあり得ない二つ名だし、今回の『邪竜殺しの英雄』も私がいなければ頂けなかったものである。私のために背負ってくれた看板でもあるのだから、二人に恥じない生き方をしなければ。

 

 「辛くなったら、重くなったら言えよ。俺もリンも少しくらいしか背負ってやれないが……」

 

 「ありがとう、ジーク。私の側にいてくれるだけで軽くなっているから。ジークとリン、クレイグとサフィールは私のことを最後まで見捨てないって信じているから」

 

 だから私もみんなを見捨てない。多分、どんなことがあっても。そして、私のことを信頼して一緒にいてくれる人たちも。

 

 「ナイ、逃げたくなったら教えて。どこにでも連れて行ってあげる」

 

 「大丈夫、逃げるなんてしないよ。でもありがとう、リン」

 

 逃げた先に楽園なんてありはしない。それは彼女も知っているはずだ。それでも逃げ道を用意してくれるのは、リンなりの優しさである。まだまだジークもリンも私も未熟だけれど、この先の人生は長いからゆっくりと歩いて行けば良いとお屋敷に向かって歩を進める。

 

 馬車回りに辿り着き、馬車から降りてきた少女と赤子を迎え入れる。ぶすくれた顔で立ち尽くす彼女に、教会と公爵さまに保護された頃の私にそっくりだなあと苦笑いを浮かべるのだった。

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