魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ジークとリンの制服からボタンをかっぱらった。前世では第二ボタンは好きな人の心臓の位置に近いから、記念として頂くものである。貰った意味は深く考えてはおらず、三年間、二人が身に付けていたものだから、思い出として丁度良いなと考えただけ。ジークとリンにも私のボタンを渡したし、彼らのボタンは部屋の片隅に飾った。
卒業式の夜、子爵邸の食堂では屋敷で働く人たちも集まってジークとリンと私の卒業を祝う会が始まっている。
仕事中の方々はこれないけれど、非番で予定が入っていない方や晩御飯を作るのが面倒な方は顔を出してくれている。
立食形式なので、誰がなにを食べたなんて気にしないだろうから私が沢山食べても問題ない。アルバトロス王国料理とフソウ国の料理に他国の料理が混じっているから、料理長さんたちには本当にお世話になっている。
食堂の端っこにはぶすくれた顔のアンファンがサフィールの隣に立っている。赤子もベビーベッドの中できょろきょろと周りを見て、侍女さんと下働きの女性に囲まれていた。
アリアさまは実家の領地は王都から離れているうえに、王都にタウンハウスはない故に子爵邸のお祝いに参加している。ロザリンデさまは卒業生だし、暇ならご参加くださいと誘ってあるので顔を出してくれている。
アリアさまとロザリンデさまはアンファンと赤子に挨拶をして、アリアさまのコミュ力の高さに感心していると、アンファンとするすると打ち解けていた。ロザリンデさまもぽつぽつとアンファンと会話をしているようだし、解せない状況だった。
ディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんもいらっしゃっているのだが、彼らも端っこで四人固まっている。先程挨拶を交わしたけれど、無理矢理に参加させて貰ったから気遣いは不要だと言われてしまった。後でまたお喋りをしましょうと約束して別れている。
ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんも亜人連合国の皆さまの下で、ちょこんと腰を下ろしているし、毛玉ちゃんたちも五頭一緒に固まっていた。
ロゼさんは私の影の中だし、お猫さまは賑やかな場所は苦手なので『魚料理があればくれ!』と言い残して屋敷のどこかにいるはずだ。ジルヴァラさんは料理運びやお皿の引き取りなどを担ってくれている。
有難い限りだと目を細めると、他の方々も視界に入った。
クレイグは家宰さまの補佐として今夜の指揮を執っているようだ。楽しんでこい、と言っていたのでお屋敷で働く皆さまとコミュニケーションを取れという気遣いなのだろう。私の挨拶は終えたので、各人自由行動となっている。お料理に目を輝かせている方もいれば、私の下へとやってきて『おめでとうございます』と告げて、心ばかりの贈り物を頂いてしまった。
どうやって皆さまにお礼を返そうかと頭を捻っているのだが、平民の皆さまの誕生日は一緒だし、貴族の方々の誕生日は個々にある。難しいなあと一旦思案することは止めて、お料理の前に立った。
「美味しそうだね、なにを食べようか?」
普段も料理長さんたちが作るご飯に文句はないし美味しいけれど、今日は一段と輝いて見える。手間暇かけて拘っているのが素人でも分かるし、涎が垂れてきそうである。三年前の建国際ではお料理を食べ損ねているし、夜会に数度参加しても会場の端っこで過ごしていただけだった。今日は存分に食べるぞーと気合を入れて、ジークとリンの顔を見上げた。
「主役はナイだろう。好きなものを選んで食べれば良い」
「なにか取る?」
「ジークとリンも主役だよ。一緒に学院を卒業したんだし、今は私の護衛のことは忘れて一杯楽しもう」
とはいえ彼らとはいつも一緒だから、護衛もなにもないけれど。七年か八年も付かず離れずで一緒にいられたことは奇跡である。ジークとリンに取り分け用のお皿を渡して、食べたいお料理を選ぼうと誘う。二人は困ったように笑って、それぞれ自分が食べたいものを選びに私の下から離れていく。
『ナイはどんなお料理が好きなの?』
クロが私の肩の上で聞いてきた。
「料理長さんが作ったものならなんでも美味しいけれど……お肉を使ったお料理も美味しいし、お野菜一杯使ったお料理も美味しいよ。フソウの調味料が手に入って料理長さんたちの味の幅が広がっているから、ご飯が美味しくて仕方ないんだよね」
辛いお料理と熱いもの、そして臭いが独特なお料理は苦手な部類に入るかも。食べられないことはないけれど、口にするとあとで大変な目に合いそうである。
『そっか』
「クロは食べたいものある?」
流石に私ばかりが食べるのも申し訳ないので、クロにも聞いてみる。幼竜さんはジークと一緒に付いて行っているのだが、まだお喋りできないしクロに好みを聞いた方が良いだろうか。
『果物あるかなあ?』
「探してみよう。デザートとして出されているはずだから。あ、幼竜さんはなにが良いんだろう?」
『ボクと一緒で大丈夫だよ』
クロは相変わらず果物が好みのようだ。幼竜さんも果物が好きなようで、果物が並べられている場所に行き新しいお皿の上に取って並べる。私が食べたい分も取り分けていると、ジークとリンがこちらに戻ってきた。
ジークとリンのお皿の上はお肉とお野菜がバランス良く載っている。対して私のお皿へ目を向けるとお肉料理が大半を占めていた。こういう時にバランス良く食べないから身長が伸びないのかな、と再度お野菜が沢山使われている品をよそいに行けばジークとリンが苦笑いを浮かべている。
「ジークとリンは身長伸びているから羨ましい……私、三年間で一センチしか伸びてない」
ジークとリンは三年間で百八十センチの後半から百九十センチ半ば、百七十センチの後半から百八十センチ半ばを超えて、高かった背が更に伸びている。私は三年間で微々たる成長なのに二人はどうして更に身長が伸びているのか。二つ名の『黒髪聖女の双璧』感が更に増しているので、私もせめて百六十センチ台に突入したいのだけれども。
「まだ伸びる機会はあるかもしれないだろう」
「そのままでも良いよ。ナイをぎゅってすると丁度良い抱き心地だから」
ジークが未来に賭けようと言い、リンが現状でも問題ないと諭してくれる。不都合は少ない。背が届かない場所は誰かを頼れば良いし、最近は背の低さを馬鹿にする方は少なくなっている。
ソフィーアさまとセレスティアさまに同じことを愚痴れば、リンのように諭してくれるだろう。公爵さまなら大きな手で頭をぐりぐりされて、逆に私の身長を縮めようとするかもしれない。不条理だ、と嘆いて、取り分けた料理を口に運ぶ。
「美味しい……」
自然と声が零れて目が細くなる。ジークは『そうか』と笑い、リンは『こっちも食べる?』と聞いてくれる。私のお皿の上の料理も提供して、三人でお料理を突っ突いていると直ぐに中身がなくなった。またお料理が並べられているテーブルへと近づいて、食べたいものを取り分ける。
ふいに視線を感じて顔を上げると、私付きの侍女さんが微笑ましい視線を向けていた。食べ過ぎて申し訳ありませんと心の中で謝りつつ、今日は沢山食べると決めたのだし、料理長さんたちが気合を入れてくれている。楽しまなければ損だと頭を振って、いろいろな料理をお皿の上に並べた。クロと幼竜さんも空いているテーブルの上で、果物を美味しそうについばんでいる。
お皿の中が空になると、クロは果物が置かれているテーブルへ移動して近くの方に取り分けて欲しいとお願いしていた。クロは誰とでも話すことができるので、邸で働く方々と三年弱の時間で打ち解けている。かしこまりました、と下働きの方が新しいお皿を取って果物はどれが良いのか聞いていた。暫くするとクロと下働きの方が一緒にこちらへきて、テーブルの上にお皿を置いてくれる。
「ありがとうございます」
『ありがとう~』
「いえ。クロさまのお役に立てて光栄です」
礼を執って去っていく下働きの方の背を見送って、クロへと視線を向けて『良かったね』と告げれば『うん』とご機嫌な様子で返事をくれ、また幼竜さんと一緒に果物をついばみ始めた。
クロたちに負けてはいられないと三度目のお代わりをしようと、またお料理の下へと歩いていく。ジークとリンはほぼ満足しているようで、一緒にお料理を取り分けてもお皿の上には半分も載っていない。燃費が良いなと感心していると、家宰さまが私の下へとやってきた。
「ご当主さま、ジークフリードさんとジークリンデさんにお届け物がございます」
私とジークとリンが一緒に名前を呼ばれることは珍しい、と家宰さまと視線を合わせる。後ろには大きな箱を抱えた方たちが四名も侍っている。なんだろうと首を傾げると、家宰さまがにっこりと笑い口を開いた。
「ご当主さまにはハイゼンベルグ公爵閣下とヴァイセンベルク辺境伯閣下から。ジークフリードさんとジークリンデさんにはラウ男爵閣下からです」
「ありがとうございます。ジーク、リン、一緒に開けてみよう?」
目の前に箱が四つ置かれると、クロと幼竜さんがそれぞれの定位置に戻って顔をすりすりしてきた。
「それは構わないが……良いのか?」
「一緒に卒業したんだし、良いと思う」
ジークの問に答えて家宰さまの顔を見ると、小さく頷いてくれたので問題はないようだ。なら、とそれぞれの箱の前に立ち、一つしか開けられないので辺境伯さまからの贈り物は家宰さまに開けて頂くことになる。ジークとリンと家宰さまの顔を順に視線を向けて箱に手を掛けた。
「じゃあ……せーの!」
ひょいっと開かれた箱の蓋の中身はドレスである。ジークは男性なので燕尾服だった。かなり凝った作りのようだから、職人さんも名のある方が関わってくれたのだなと分かる。
「凄いね」
開いた箱の中身に感嘆の声を漏らす。まあ、ドレスの善し悪しはイマイチわからないけれど。
「ああ。気を遣わせてしまったな」
「ドレスを贈られるなんて考えていなかった」
あとでお礼状を贈ろうと三人で決める。生地はエルフの方々が織った反物ではないだろうか。布の染め方がエルフの方々の独特なもののような気がするし、どうなのだろうと首を傾げているとディアンさまたちが私の下へとやってきた。
「公爵を始めとした者たちに相談されてな。君たちの卒業祝いでドレスと燕尾服を贈りたいから、エルフの反物を仕入れができないだろうかと請われたんだ」
ディアンさまがエルフの反物であると教えてくれた。
「妖精が協力してくれた反物は出せないけれど、エルフが織ったもので質の良いものであれば構わないって」
「ナイちゃんと二人が喜んでくれると良いな~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんも柔らかい笑みで私を見下ろし、きっと似合うよと最後に告げてくれた。そして最後にベリルさまが腰を折って、私ににこりと笑みを浮かべた。
「人の集いにあまり興味はありませんが、貴女が踊っているところを見てみたいものです」
そうしてベリルさまがジークとリンの方へ視線を変え小さく頷いた。どうやら公爵さまも辺境伯さまもラウ男爵さまも、亜人連合国の皆さまに頭を下げたようである。夜会やお茶会に出る機会はこれから増えるだろう。いつか袖を通すことになるのかな、と箱の中のドレスへと視線を向けるのだった。
◇
――卒業式を終えた次の日。
子爵邸で侍女の皆さまに手伝って貰い、昨夜公爵さまから贈られたドレスに袖を通した。どうして服のサイズを知っているのかと首を傾げたのだが、三年前の亜人連合国へ向かう際に聖女の衣装を新調したことを思い出した。背丈は変わっていないので、サイズが合っていたことに少し悲しみを覚えながら、ジークとリンの場合はどうしたのだろうと聞いてみた。
どうやらラウ男爵さまから衣装の贈り物を受けると前々から知っており、その時に身体の細かい測定を行ったそうだ。私には黙っていて欲しいと頼まれていたので言えなかったと二人共苦笑いを浮かべ、贈り物がドレスと燕尾服とは聞いていなかったので驚いたそうだけれど。
準備を終えて部屋の外に出ると、ジークとリンもラウ男爵さまから贈られた燕尾服とドレスを纏って待ってくれていた。教会騎士服に身を包んでいるそっくり兄妹を見慣れているから、彼らの正装姿は凄く新鮮である。
濃い群青色の衣装が似合っているよ、と声を掛ければ少し照れ臭そうに『そうか?』『ちょっと落ち着かない』と気持ちを正直に吐露してくれる。そうしてジークとリンも私のドレス姿を褒めてくれ、クロから可愛いよ~とお言葉を頂き、ロゼさんも似合っているとぴょーんと跳んで、ヴァナルは衣装の善し悪しは分からないけれどドレス姿が特別であることは雰囲気で察しているようだ。
雪さんと夜さんと華さんからもお可愛らしいですね、と褒めてくれている。毛玉ちゃんたちは私たちがどこかへ行くことを察して、一瞬にして影の中へと入って行った。
桜ちゃんもようやく影の中に入れているので、心底ホッとした。落ち込んで、尻尾をお腹側に丸めている姿を見るといたたまれなかったのだから。そして、ふいに姿を見せたお猫さまとジルヴァラさんには、どこかへ行くのかと問われてお土産を乞われ、いってらっしゃいませと恭しく告げられた。
夜会の席でミナーヴァ子爵家ご一行、と分かるように黒薔薇をみんなの胸に挿して、屋敷地下にある転移陣を目指す。
「ジーク、リン。今日は卒業のお祝いだからあまり気負わないでね。参加される方も随分と数を絞られているから、変な方はいないだろうし」
子爵邸の廊下を歩きながら、ジークとリンへ振り返る。やはり二人の正装姿は見慣れない。でも、高身長で小顔で美男美女の組み合わせだから雰囲気は凄くある。服の皺の入り方とか綺麗だし羨ましい限りだった。
「ああ。ナイは食い過ぎるなよ」
「うん。楽しもうね」
ふっと笑うジークとへへへと笑っているリンに私も笑みを返す。楽しもう、と言ってくれたけれど騎士として気を抜くつもりはないのだろう。正装だから帯剣はできないけれど、そっくり兄妹は無手でも強い。いや、まあ王家主催の会で、妙な事件が起こること自体が凄く稀有なことだから心配は必要ない……はずである。
王城へ転移できる子爵邸の地下室にある魔術陣へ移動すると、アリアさまが護衛の方と一緒に私たちを待っていてくれた。顔を合わせるなりお互いにドレスを褒めあっていたのだが、アリアさまが纏っているドレスの生地はエルフの反物ではないだろうか。
気になって聞いてみると、王家から下賜されロザリンデさまを頼って仕立て屋さんを紹介して頂き一着作成していたとのこと。
いつの間にと驚いていると、少し慌てた様子のアリアさまが『へ、へへ、陛下が良く頑張ってくれたと仰って下さりました!』と視線を合わせず明後日の方向を見て教えてくれた。アリアさまの行動を全て知っているわけではないし詮索は無粋なのだろう。
「昨日学院を卒業しましたが、今日のお祝いの席があるので特進科の皆さまと顔を合わせるのも変な感じですね」
学院を卒業したので、フィーネさまとメンガーさまとギド殿下とマルクスさまとは顔を突き合わせる機会は減るはずだった。それなのに今日またお会いできるのは面白い感じだ。でも学校を卒業して仲の良かった面子と旅に出ることもあるのだし、旅行の延長線のようなものだろう。予定が合うならお花見や南の島へ遊びに行く予定なのだし。
「き、緊張してしまいます……粗相をしないように気を付けなければなりませんね」
「アリアさまなら問題ないかと」
アリアさまは先ほどから少し動きがぎこちない。主催者である陛下とのご挨拶を無事に済ませれば、あとは失礼な態度さえ取らなければお祝い会を乗り越えられるはず。真面目な彼女らしいと笑みを浮かべて励ましたのだが、彼女の顔が更に難しいものになる。
「陛下とリーム王国の王さまと、ハイゼンベルグ公爵さまとヴァイセンベルク辺境伯さま、ラウ男爵さまとクルーガー伯爵さまと名だたる方々がいらっしゃいますから……どん、と構えていらっしゃるナイさまが羨ましいです」
今回の参加者の名前がズラリと上がる。他にも外務卿さまが参加なされるそうだから、リーム王のお相手を務めるのだろう。それなら宰相さまがいらっしゃってもおかしくはないし、本当に豪華な面子だ。
「皆さん独特な雰囲気をお持ちですが、お話をすれば至って普通の方々ですよ?」
一国を背負う王さまと貴族家の当主を務める方々だから、並々ならぬオーラを持っている。陛下は『静』公爵さまは『覇』辺境伯さまは『豪傑』ラウ男爵さまは『厳』みたいな雰囲気だと、私が勝手に感じている。リーム王は『若い』で、クルーガー伯爵さまはまあなんでも良いとして、本当にそれぞれに特徴があるし彼らを敵に回したくない。
「ナイさまはそうおっしゃいますが、それが難しいのです…………」
コミュ力が満点のアリアさまがしょぼんと沈んでいるが、本番に超強いタイプの方なので心配はしてない。顔を広めるならば、皆さまと会って面通しをしておけば今後に頼り易くなる。
『アリア、大丈夫だよ。心配ならナイの側にいれば良い』
「っ! そうさせて頂いてもよろしいですか?」
クロの言葉にアリアさまがぱっと顔を輝かせた。クロは良いこと言った、というように胸を張っている。アリアさまなら問題行動は起こさないし、そもそもはギド殿下とフィーネさまとのお別れ会のようなものである。気軽に参加しましょう、とアリアさまにもう一度声を掛けてアルバトロス城へと転移するのだった。
――あ、あれ?
気軽に参加しましょうと先ほどアリアさまに伝えたばかりだが、近衛騎士さまに会場へと案内された先は気合の入ったホールである。参加人数こそ少ない――夜会に参加したことは数度なので感覚であるが――けれど、用意されている料理に楽団の皆さまもいらっしゃる。
よくよく考えればアルバトロスの陛下主催だし、リーム王も参加するのである。そりゃそうだなあ、とアリアさまに若干悪い気を抱きながらジークとリンとアリアさまと私は会場入りを果たした。私の肩の上にはクロが乗り、横にはヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんズ、ジークの肩の上には幼竜さんも一緒である。ロゼさんは影の中にいて『変な奴がいたらマスターを守る!』と言い残している。
会場入りして直ぐ給仕の方々がぎょっとした顔を見せたけれど、一瞬だけこちらに視線を向けただけであとは仕事に取り組んでいるからプロだなあと感心した。流石にど真ん中にはいられないと隅っこへ歩いて行こうとすると、カツンと靴音を鳴らして私の前で立ち止まった方々を見上げる。
「ナイ、ジークフリードとジークリンデとアリア嬢もごきげんよう。皆、ドレスと燕尾服、様になっているじゃないか」
ソフィーアさまとギド殿下が腕を組んで私たちの下へとやってきた。深い青色のドレスに首には立派なネックレスを身に着け、背の高いギド殿下と並べば丁度良い雰囲気のお二方である。ギド殿下は鍛えているので胸と腕の筋肉が発達しているのが燕尾服の上からでも分かる。
「ソフィーアさま、ごきげんよう。夜にお会いするのは少し違和感がありますね」
私が声を上げると同時にジークとリンが礼を執る。南大陸のC国からの褒章とアルバトロス王国からの爵位授与はもう少し先の話だが、そっくり兄妹が爵位を得れば畏まった場では少し状況は変わってくるのだろうか。
「ごきげんよう、ソフィーアさま。ドレス、素敵です!」
ありがとう、とアリアさまに言葉を返したソフィーアさまが隣のギド殿下へと視線を向けた。
「皆、昨日ぶりだ。制服姿に慣れているから新鮮だな!」
にかっと笑ったギド殿下に、殿下の燕尾服姿も新鮮ですと返していると、深紅のドレスを纏ったセレスティアさまと黒の燕尾服を着たマルクスさまが並んでこちらへとやってきた。ギド殿下とソフィーアさまのペアよりぎこちない感じがするのは気の所為だろうか。
「皆さま、ごきげんよう。今宵は楽しみましょう」
「ま、気楽に行こう。緊張したところでなにも得られやしないんだ」
セレスティアさまが鉄扇を開いて告げ、マルクスさまが声を上げる。以前のマルクスさまであれば『夜会なんて面倒だ』とか言いそうなのに、一体どうしたのだろう。学院を卒業して社会人――少し違う気もするが――になるから、心を入れ替えたのかもしれないと彼をまじまじと見れば、セレスティアさまもまじまじとマルクスさまを見ながら驚いている。
「な、なんだよ」
「いえ。少々、マルクスさまを見直しただけですわ。ほんの少しだけ、ですが」
開いていた鉄扇を閉じてマルクスさまから視線を外したセレスティアさま。今までであればセレスティアさまの鉄扇がマルクスさまへクリティカルヒットしていたはずなのに、見慣れた光景が訪れないのは違和感があった。
「ん、ああ。エーリヒが会場に入ったな。気後れしているようだから、こちらへくるように誘ってこよう。ソフィーア、構わないか?」
ギド殿下の視線の先には、きょろきょろと会場を見渡しているメンガー伯爵さまとメンガーさまがいた。伯爵さまはそれなりに様になっているが、メンガーさまは燕尾服を着こなしているというより着られている感じがする。私もドレスに着られているから人のことは笑えない。ギド殿下はソフィーアさまに視線を向け、彼女も彼を見上げる。
「ギド殿下、もちろんです。参りましょう」
お二人はくるりと回って、颯爽とメンガーさまの下へと歩いて行く。背をぴっしりと伸ばした姿はカッコ良いと眺めていると、アリアさまが身体の向きを変えた。
「あ、フィーネさまとアリサさまもいらっしゃいましたよ! せっかくですから、お二人をこちらへご案内いたします! 行ってきますね!」
アリアさまの視線の先に倣うと、フィーネさまとイクスプロードさまが並んで歩いている。彼女たちもドレスで着飾っての参加のようだ。
メンガーさまと同様に会場内をきょろきょろと見渡していて、誰かを探しているようだった。そんな二人をアリアさまが素早く迎えに行って、彼女たちと合流してこちらを見た。フィーネさまが嬉しそうな顔を見せたあと、ゆっくりと歩を進めて合流し、遅れてメンガーさまとギド殿下とソフィーアさまも戻ってくるのだった。
暫くみんなで雑談をしていると、大人組の入場が始まり会場の熱が上がっていく。
――陛下、お成り!
大きな声とともに、アルバトロス王国を統べる陛下がやってきた。主賓席に座し卒業おめでとうの言葉と共にアルバトロス王国、聖王国、リーム王国の絆がより強固なものになるようにとワイングラスを掲げて、祝いの席が始まるのだった。
2023年、魔力量歴代最強な~を読んで頂き感謝です! 来年もよろしくお願い致します!(ギリギリ間に合った!)