魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0441:池のほとり。

 ロゼさんにお願いして人工池のほとりまで転移して貰った。池は目一杯に水が溜まり、キラキラと陽の光を反射して水鳥が飛来している。完成したばかりだから、水鳥の餌になる魚やエビが住み着いているか分からないが、時間が経てば自然と池に居つくことだろう。

 絶滅危惧種、という概念のない世界なので魚を放流しても問題ないけれど、やはり自然に任せておいた方が生態系への影響が少ないはずだ。時折、不自然に光が輝いては消えるので、陽の光や目の幻覚ではなく妖精さんの姿なのだろう。 

 

 「番のあの子たち元気かなあ……」

 

 卵を産んで結構な時間が経っているけれど、孵るまでにかかる時間は個体差が大きく孵ったという報告を待つしかなかった。度々、家宰さまに問い合わせて状況を教えて頂いていたものの、以前と変わらずと彼の口から漏れるだけだった。本当に、子爵領に寄ったタイミングで卵が孵りそうと報告を受けるとは。世の中、不思議なことばかりである。

 

 『大丈夫だよ。卵を産み育てる気力があるなら生命力に満ち溢れている証拠だから。安心して、ナイ』

 

 ぐりぐりと顔を顔に擦り付けるクロは随分と嬉しそうだ。絶滅危惧種の概念のない世界でも、竜の個体数が減っていると危ぶまれていた。もしクロが産まれていなければ、ご意見番さまを失った悲しみで竜の皆さまの個体数は激減していたかもしれない。自然に影響しない範囲であれば、沢山増えてと願うばかりである。ただし、私のあずかり知らぬところで増えて欲しい。

 

 「竜の卵を盗もうとする馬……愚かな者は現れませんでしたし、無事に産まれるようで嬉しい限りですわ。生きている内に二度も卵から孵るところを見られるなんて……わたくしはこれで運が尽きてしまうのかもしれません」

 

 セレスティアさまが鉄扇をばっと広げて笑みを浮かべる。今、馬鹿と言いそうになったけれど既のところで堪え、言葉を変えた。突っ込むのは野暮だなと笑みを浮かべるだけに止めたのは、私なりの優しさだ。

 

 「今、馬鹿と言おうとしたな。よほど卵が孵ることが嬉しいのか」

 

 ソフィーアさまが微妙な視線をセレスティアさまに向けて、小さく息を吐いた。貴族のご令嬢さまであれば、馬鹿という直接的な言葉よりも迂遠的な言い回しの方が好まれている。セレスティアさまが言葉の選択を誤ることは珍しいので、ソフィーアさまの言った通り卵が孵ることによりテンションが妙な方向へと走っているようだ。

 

 「ナイ、竜は最初に見た者を親と認識する傾向がある。少し遠い場所で見守っていた方が良いだろう」

 

 「うん、そうするつもりだよ、ジーク。幼竜さんの時みたいにブレスを吐いても困るから、頂いた魔術具で魔力を抑えておけば二度目は防げるはず……」

 

 傾向があるだけで確定ではないけれど、人間を親と勘違いすれば産まれた卵を産み育てた番の方々には申し訳ない。魔力封じの魔術具を身に着けるのは、単純にまたブレスを吐かれても困るからだ。私の『ブレス』という言葉に幼竜さんがぴくりと反応して、ジークの首筋に顔を擦り付ける。もしかして気にしてくれていたのかなと幼竜さんをみれば、恥ずかしかったのかリンの肩へと移動した。

 

 「流石に産まれたばかりの竜を斬るのは可哀そう」

 

 リンがぼそりと幼竜さんを撫でながら呟いた。そっくり兄妹は邪竜殺しの英雄の二つ名を頂いたので、真っ先に討伐に声が掛かる候補になってしまっている。堕ちてもいない竜を倒すのは気が引けるし、リンの言葉は間違っていない。産まれてくる仔がすくすくと成長して、竜の方たちと馴染めますようにと願う。

 

 「産まれた仔が暴れたら、クロにお話をお願いしよう。そうすれば斬らずに済むはずだよ。お願いしても良い、クロ?」

 

 『もちろん。産まれたばかりで周りの状況を理解できずに暴れることもあるからね~力の強い仔が暴れると大変だから。そうなったらキミもボクに協力してね~』

 

 クロがリンの肩の上にいる幼竜さんを見上げる。幼竜さんは首をこてんと傾げたあとに、翼を力一杯広げて『くえ!』と一鳴きした。その様子を見た約一名がアワアワしているけれど、いつものことだと歩を進める一行。

 そうして竜の番の方の下へと辿り着く。じっと卵を見つめている二頭の竜さんたちが首を上げてこちらを見れば、てってってと走りだして私たちの周りを何度か回る。行動が毛玉ちゃんたちと似ているなあと目を細めると、一頭の竜さんが私の腕と身体の間に顔を突っ込んだ。

 

 『聖女さま! 久しぶり~卵が孵りそうなの! って、毛むくじゃらが沢山いる!』

 

 顔を突っ込んだ竜さんが私を見上げて、地面の毛玉ちゃんたちへと視線を変えた。確かに毛が生えているから毛むくじゃらには違いない。毛むくじゃらと聞いたヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが微妙な顔をして、訂正したそうな雰囲気で竜の方を見つめている。

 

 『聖女さま、聖女さま! 卵、孵る! 嬉しい! 毛むくじゃら一杯! わ、匂い嗅いでる!』

 

 毛玉ちゃんたちは桜ちゃんを先頭として、竜さんたちの匂いをくんかくんかと嗅いで胴の下に潜ってみたり、揺れている尻尾の先を脚で押さえてみたりと好奇心旺盛である。

 竜さんたちは毛むくじゃらちゃんたちを踏んではいけないと、片脚を上げてみたり脚を伸ばして顔と顔との距離を離してみたりと、おっかなびっくりな状態だ。

 

 「卵が孵りそうと報告を受けてきてみたんだけれど、見学させて貰っても大丈夫かな?」

 

 毛玉ちゃんたちの危機察知能力は高いから放っておいても大丈夫と、今回の目的を竜さんたちに伝える。

 

 『大丈夫! 見守ってくれるの嬉しい~』

 

 『聖女さま、ありがとう~』

 

 竜さんたちがもう直ぐ卵が孵ると教えてくれ、それは大変だと言って彼らには元の場所へと戻って貰う。私たちは遠間で見させて貰うと伝えて、近場にあった岩に腰を下ろした。

 

 「緊張するね」

 

 『大丈夫だよ。無事に孵るから』

 

 卵が孵ればディアンさまとベリルさまに報告を行って、お祝いのメッセージも送らなければ。きっと亜人連合国の竜の皆さまは我がことのように喜んでくれるはず。

 天気も良いし、卵が孵るには良い日だなあと空を見上げると『ピュエ―――――!』と凄い威勢の良い聞き慣れない鳴き声が響く。岩の上で卵が孵るのを待っていた一行は、ぎょっとして声が聞こえた方へと視線を向けた。

 

 「な、なに今の?」

 

 とりあえず状況を整理するために声を上げる。私より視力の良い方はなにか見えているかもしれないし。

 

 「空の上だな。割と大きな鳥……いや尻尾が二本生えているか?」

 

 「空を飛ぶ獣みたいだね。グリフォンだっけ……に似ているかも?」

 

 ジークとリンが陽が昇る方角へ顔を向け、目を細めて言葉を紡いだ。疑問形なので確定ではないようで、視線は固定されたままだ。

 

 「良く見えるね。私はまだ見えない」

 

 『リンが言ったとおりかなあ。グリフォンぽいねえ。昔は良く見たし、沢山住んでいたけれど……』

 

 クロがふふふと笑って顔をすりすりしてくる。ヴァナルと雪さんたちも空の上をじっと見て『獣が飛んでる……』『初めて見ますねえ』『二千年前ほどに偶に見た程度でした』『生き残っておられたのですね』と呑気に声を零している。毛玉ちゃんたちもしっぽをぶんぶん振りながら空の彼方を見ているので、確認できたのだろうか。脅威があればクロとヴァナルとロゼさんが警戒しているはずである。

 

 「あまり詳しくないから聞くけれど、グリフォンって強いの?」

 

 知識が偏り過ぎているので、グリフォンに詳しくはなかった。確か鷹の顔と翼を持ってライオンだか虎の身体を持っている生き物だったような。キメラとどこが違うのか分かっていないし、聞きかじり程度の情報しか持ち得ていなかった。

 

 『個体によるとしか……人間相手ならかなり強い部類じゃないかな。ジークとリンでも敵うかどうか……うーん、こればかりは分からないなあ』

 

 クロが悩ましそうに答えてくれ、ジークとリンが空を見上げたまま教えてくれる。

 

 「幻獣に部類されるからな。強いさ」

 

 「大規模討伐遠征の時みたいに、軍と騎士団の大編成になる……かも?」

 

 そうなのか、と納得しているとセレスティアさまのテンションがマッハになっている。キラキラな瞳で遥か向こうの空を見ているので、ジークとリン同様にグリフォンの姿が見えているのだろう。ソフィーアさまも『ああ、やっと見えた』と仰っているので、グリフォンさんはこちらへと近づいているご様子。

 

 「あ、私も見えたかも。でも黒い鳥、くらいにしか分からない」

 

 青い空を背景に黒い塊が飛んでいた。良く声が届いたなあと感心していると、また『ピュエ――――――――!』と珍妙な鳴き声が響く。近づいている証拠なのか、先ほどよりも音量が大きい。まさか竜さんたちの卵を狙いにきたのかと頭に過れば、ぶわっと魔力が溢れだす。

 

 「ジーク、リン、なにが起こるか分からないから警戒を。皆さんも十分に気を付けて、自身の命を真っ先に優先させてください。ロゼさん、飛んでいるなにかが竜さんたちの卵を狙うようであれば、死なない程度の魔術を放つことを許可します」

 

 非戦闘員の方もいるのだ。私が引っ込んでいては当主として示しがつかないし、危ないことの対処には討伐遠征に参加経験のあるジークとリンと私が一番慣れている。

 

 『ん、任せて! ロゼ、ハインツに教えて貰ったとっておきを放つ!』

 

 影の中からぴょーんとロゼさんが跳ね出た。副団長さまの固有名詞がロゼさんの口から漏れると途端に不安になるのは何故だろう。ヴァナルと雪さんたちにもお願いして、毛玉ちゃんたちは強制的に私の影の中へと入って貰う。卵が孵るところを見守ろうとしていただけなのに、どうして明後日の方向な事態が明後日の方からやってくるのだろうかと叫びたくなる。

 

 問題が起こりませんように! と心の中で唱えて、視界に映るなにかがどんどんと大きくなっていくのを見据えるのだった。

 

 ◇

 

 ――ピュエ――――――――! 

 

 と、大きな声で鳴く鳥っぽいなにかが近づいてくる。竜の卵を狙っている可能性もあるのでジークとリンとロゼさんには、警戒を怠らないようにと伝えた。クロとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんは空の上を見てなにも言わない。

 毛玉ちゃんたちには念のために私の影の中へと入って貰っていた。それにしたって私がいる時に騒ぎが起こって良かった。竜さんたちと卵さんに被害があれば、他の方が責任を取ることになる。私もいろいろな方に頭を下げなければならないけれど、亜人連合国とアルバトロス上層部の方々は既知である。まだ頭を下げやすいというか、なんというか。

 

 「きたな」

 

 「うん」

 

 ジークとリンが上空を見上げたまま、レダとカストルの柄に手を伸ばした。自分たちが抜剣されるのが分かったのか、二本の剣がやんわりと光る。

 

 『へいへいへいへーーーい! 俺ちゃん、竜の次はグリフォンを斬るのか!?』

 

 『マスターのご命令さえあれば、竜でも化け物でも斬ってみせましょう!』

 

 ドヤる二本の剣に使い手はなにも告げず、黙って視線を空へと向けているだけ。相手をして欲しかったのか、気合を入れていたのに『ぷすー』と空気が抜けたように剣がたわんでしまった。大丈夫かと眺めていると、クロがレダとカストルへ視線を向けて口を開く。

 

 『レダ、カストル、事情は聴いてあげて~』

 

 『まあ、良い奴を問答無用で斬るのは問題があるなあ』

 

 『マスター、マスターのお考えは?』

 

 クロの言葉に考えを変えてくれたカストルと、私の考えを優先させようとするレダに苦笑が漏れる。グリフォン(仮)はまだ少し先の空を飛び、こちらを目指しているのでまだ少し余裕があった。

 

 「クロの言うとおり、相手の事情と行動次第だよ。竜の方たちや領に被害を受けたり、敵対するなら打ち払わなきゃいけないし、ね」

 

 なるべくやりたくはないが、被害を受けるならば致し方ない。セレスティアさまが残念そうな気配を醸すけれど、なにも言わないのは彼女も理解しているからだ。どんどん大きくなる謎の鳥の姿に目を見張っていれば、ゆっくりとこちらへ下降して……くるのかと思いきや、竜さんたちの方へと向かっていく。

 

 「卵を狙っているの!? 急いで向こうにっ!!」

 

 少し離れたことが仇になってしまった。竜さんたちも爪と牙を持っているので戦えるけれど、卵さんが孵りかけている所で大乱闘は繰り広げられない。舌打ちしそうになるのを我慢しながら走りだそうとした時だった。

 

 「ジークフリードさん、ジークリンデさん、ナイはわたくしが運びます! 先をお急ぎくださいませ!!」

 

 私の後ろから手が伸びて、リンだろうと思いきや耳の近くでセレスティアさまの大きな声が聞こえた。ひょいっと抱えられて、視界が随分と高くなる。

 

 『ヴァナルに乗って!』

 

 『では私にも』

 

 『人の脚より速いでしょう』

 

 『さあ、遠慮なく! 急ぎましょう』

 

 ヴァナルと雪さんたちがジークとリンの前に出て、乗ってと誘いそっくり兄妹も自分で走るよりヴァナルたちにお願いした方が良いと判断して、ひょいっとヴァナルの背にジークが、雪さんたちの背にリンが乗る。

 乗って直ぐにぶおっと空気が鳴る音が聞こえて、一瞬にして竜さんたちの下へと辿り着いている。私の肩の上からクロも勢い良く飛び立って、ヴァナルたちに追い付いた、ソフィーアさまとセレスティアさまが顔を突き合わせて確りと頷いた。

 

 「ナイ、舌を噛まぬように!」

 

 セレスティアさまの声が上がれば、慣性が働いて今いた場所に置いていかれる感覚を味わう。かなり速い速度で走っており、自力で走るよりも凄く速い速度である。リンにはしょっちゅう抱えられているけれど、他の方の抱っこは慣れない上に凄く恥ずかしい。重くなければ良いけれど、と願っていればソフィーアさまが遅れ始めた。

 

 「やはり置いて行かれるな」

 

 ソフィーアさまが悔しそうに離れた位置で呟いていた。それでも私が走るより速いし、一歩の幅も大きいけれど。全員が竜さんたちの下へと集まって、空を見上げる。相手の姿は大きくなっており、もう少しで降り立ってくだろう。

 

 「そろそろだね……って下ろしてください!」

 

 「軽いので忘れておりました。失礼を」

 

 セレスティアさまの腕を軽く叩けば彼女が気付いてゆっくり地面に下ろしてくれた。

 

 『ピュエ―――――!』

 

 眼前で大きな鳴き声が響いて、耳に衝撃を受ける。もしかして音で攻撃しているのだろうかと、魔術で軽い障壁を張った。これでまた鳴いても衝撃が多少なりとも緩和されるはず。竜さんたちは卵をずっと見守っていたせいで、空の状況を分かっていなかったようだ。どうしたの、と不思議そうに私たちを見ている。

 

 「きた。相手が先に手を出すまでは攻撃を控えてくださいね」

 

 真剣な顔でみんなが私の言葉に頷いてくれる。流石に勝手に幻獣を倒すのは問題がある気がするし、暴れない限りは正当防衛と言い張れない。こういう時は障壁展開術に慣れていて良かった。火力一辺倒であれば、倒すしか道がないのだから……決して副団長さまをディスっているわけではない。彼ならばギリギリまで相手を観察してから屠りそうである。

 

 地面へと降り立ち広げていた翼を折り畳んで私たちを見据える。じりじりとヒリつく視線を感じ、目の前で相対している珍しい生き物が只者ではないと悟った。

 

 「……動かない」

 

 『どうしたんだろう。ナイ、お話聞いてきても良い?』

 

 痺れを切らして漏らした私の言葉に、クロが肩の上で問いかける。

 

 「有難いけれど、大丈夫?」

 

 問題はないし、話し合いができるなら一番良い方法だろう。でもクロに危険が迫るのであれば、話し合いをしなくても様子を伺って膠着状態に陥る方が幾らかマシだ。

 

 『うん。いざとなれば大きくなるから大丈夫。それにナイがいるから怪我を負っても安心だしね』

 

 クロが私を安心させるように顔を擦り付けた。他の皆さまは警戒態勢を取ったまま、気を抜いていない。番の竜さんたちも卵さんに危険が及ぶと不味いから、卵さんの前に立って盾になっている。どうか不味い事態になりませんようにと願い、クロに顔を向けたその時だった。

 

 『ピュエ~』

 

 短く力のない鳴き声を漏らして、グリフォン(仮)が地面に横倒れになってしまった。張り詰めていた空気が弛緩して、みんなで顔を合わせていればクロがグリフォン(仮)の下へと飛んで行った。クロはグリフォン(仮)の顔の近くに降りて、こてんと首を傾げたあと、逆の方向へこてんと首を傾げなおし、長い尻尾で地面の土を叩いている。

 状況が変わり、レダとカストルが活躍の場を失ったといわんばかりに魔力の光を収め、ジークとリンが最大警戒から少し空気を緩めた。ソフィーアさまとセレスティアさまもふうと息を吐き、番の竜さんたちはグリフォン(仮)の心配を始めてしまっている。

 

 『ナイ、大丈夫。こっちにきて~というか、魔力を譲ってあげて~』

 

 クロが困ったように言って私を呼ぶ。クロが言うなら危険はないと、歩を進めてグリフォン(仮)下へと近づいて行く。

 

 「なにがあったの?」

 

 『卵を抱えているみたいなんだ。卵を産むために適した場所を探していたら、産気付いちゃったみたい。大きな声は痛みに耐えられなかったって。あっちに魔素が高そうな場所を見つけたけれど、こっちにも魔素と魔力の大きい反応を見つけて飛んできたって』

 

 クロの言ったあっちというのはアルバトロス王都の方面を指していた。まさか子爵邸のことを指しているのではないだろうか。いや、まさかと地面にしゃがみ込んでグリフォン(仮)のお尻付近を確認すると、とある場所から卵の一部が見えていた。黄色い宝石のような不思議な卵が少し光っているのは、魔力が高い証拠だろうか。なににせよ母体であるグリフォン(仮)の力が尽きれば、卵を産み落とすどころではなくなる。

 

 「触れますね。ご容赦を……!」

 

 グリフォン(仮)の胸の辺りに右手を添える。体の中の魔力を意識しつつ右手に伝わる熱と私の体温を感じ、練った魔力を右腕を通して流し込んでいく。

 どのくらい受け渡せば良いのかは勘だった。すう、と魔力を吸われている感覚を受け、まだ足りないなと判断する。私の髪が放出された魔力により揺れている姿を番の竜さんたちが『良いな~』『欲しいな~』と小さく零していた。

 

 『!』

 

 横たわっていたグリフォン(仮)が頭を起こすと、後ろの位置からポロリと卵が零れ落ちた。良かったと安堵していると、私の背後でセレスティアさまが『竜が孵りましたわ!』と喜色に溢れる声で仰った。まさかグリフォン(仮)から卵が産まれると同時、竜さんたちの卵から竜が孵るとは。天文学的な確率ではなかろうかと後ろを見たい気持ちを抑えて、グリフォン(仮)と視線を合わせた。

 

 「えっと、人間の言葉が分かりますか?」

 

 『!?』

 

 びくりと目を見開くグリフォン(仮)に苦笑いが漏れる。戦えばきっとグリフォン(仮)さんの方が強いだろうし、過剰に恐れなくても良いのに。

 

 『分かるけれど、喋ることは難しいって。もう直ぐできそうだけれど、今は無理みたい』

 

 「クロに通訳をお願いしても良いかな?」

 

 『勿論だよ。この子のお話を聞いてあげて』

 

 どやあと胸を張ったクロが翼を広げて私の肩へと飛び乗った。ジークとリンは警戒をしつつも様子を見守り、ソフィーアさまも危険は去ったと息を吐く。

 

 『――!』

 

 なにか鳴いたような気がしたのは、孵ったばかりの竜さんの声だろう。ただ状況的に後ろを振り向くわけにもいかず、そのまま前を見続けた。セレスティアさまは竜とグリフォン(仮)さんどちらへ視線を向けていれば良いのか迷い、ヴァナルと雪さんたちはぺたりと地面にお尻を落として座っている。

 

 さて、どんな話が聞けるのやらとグリフォン(仮)さんに視線を合わせると、誰かが私の服の袖を引っ張った。どうしたのかと顔を上げると、リンが凄く困った顔を浮かべ『助けて、ナイ』と、声に出していないのに彼女の声が聞こえてしまった。リンの足元へ視線を向ければ、孵ったばかりの竜さんがリンの足に顔を擦り付け甘えている。産まれたばかりで足元が覚束なくておっかない。

 

 『懐いちゃった』

 

 『初めて見た者を親と認識したみたい~』

 

 番の竜さんたちが面白そうに笑っている。いや、今の今まで卵さんの面倒を見てきたのだから、嫉妬や怒ったりしないのかと頭が混乱し始める。えっと、とりあえず。一気に押し寄せたこの状況、どうすりゃいいですか!? と叫びたくなるのだった。

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