魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
物事が纏めて引き起り、状況が掴み辛い。目の前のグリフォン(仮)さんのことを対処するのか、困った顔で助けを求めているリンと孵ったばかりの竜さんと、面白い~とケタケタ笑っている親竜さんとの話を付けるべきか……。とりあえず、と深く息を吸ってクロに視線を向けたあと、グリフォン(仮)さんへと顔を合わせた。先ずは転がりっぱなしの卵さんを産みの親である彼女の下へ戻さなければ。
「グリフォンさんで宜しいのですよね? 初めまして、アルバトロス王国所属ナイ・ミナーヴァと申します」
人間の常識がグリフォン(仮)さんに通じるか分からないけれど、名乗って頭を下げる。
『……』
グリフォンさんが横たえた身体を起こして、スフィンクスの像みたいな恰好を取った。ぺたっと地面に頭を付けようとしているので、私を真似て敬意を払ってくれようとしている。話し合いは順調に進むであろうとクロに視線を向ければ、通訳を始めてくれる。
『グリフォンで良いって。名前はついていないから名乗れないけれど、よろしくって言っているよ』
「不躾な質問で申し訳ないのですが、産み落とされた卵にわたくしが触れてもよろしいでしょうか?」
卵さんを放置したままなので、温めなくて良いのかハラハラしているのだ。卵の中身が無受精であれば孵ることはないけれど、確かめる術はない。大きくなれば陽の光に透かせて中身を確認すれば良いが、そもそも宝石に見紛うばかりの卵さんである。中身が透けるかどうかも分からなかった。
『構わないって』
「では、失礼致します」
持っていたハンカチで卵さんを包み込み、親グリフォンさんの胸元へ置く。親グリフォンさんは不思議そうに卵さんを見つめて、四本の脚を器用に使いずりずりと後ろに少し下がったあと、前片脚でぺいっと卵をこちらへ投げた。
「どうして……」
こてん、と私の足元に黄色い卵さんがぶつかって、ころりと寂しく転がった。ロゼさんが興味が湧いたようでスライムボディーを伸ばしてツンツンしている。
『えっと……卵をお腹の中に抱えたから育ててくれる他の種がいないか探していたって。大陸中を飛び回って魔素が多い場所を見つけたんだけれど、育ての親を見つける前に生まれちゃった』
少し困った声で通訳を続けてくれるクロと目の前でふふん、と自慢気に鼻を鳴らしたグリフォンさん。ロゼさんが卵さんを掴んで、もう一度グリフォンさんの下へと返した。
「それって托卵と称されるものでは?」
つい直球で言葉を放ってしまったが、間違えてはいなはず。しかしグリフォンさんたちは托卵で自分たちの種を増やしていくのか。ということはカッコウの雛鳥のように、巣の中では割とサバイバルな事件が起こってしまう。悲惨だなあ、と情景を思い浮かべるが自然の摂理なのでなんとも言えず、自然の摂理故に卵さんがまたこちらに戻ってくる。どうしてぇ……?
『そうだよって言っている』
「ではグリフォンの子育ては他の方々に任せる形を取っている、と……?」
『自然に生きる者だから、当然だって。竜の卵と一緒に育てて貰おうと試みたけれど、大きい竜たちの下で産み落とすのは危険だし、ふらふらしていたら此処を見つけたけれど……』
当然、なのかなあ。子育てが下手糞で他の種にお願いしているだけのようにも見えてしまうけれど……当のグリフォンさんがそう仰っているのだから間違ってはいないのだろう。
大きい竜さんたちは辺境伯領の大木の下で子育てをしている方々のことか。方々を探し回っていると、子爵領を見つけたようだ。そして産気付くまで待っていた、と。胎生ではなく、卵生なのですぽーんと産み落とすことができるが、産み落とす場所がないことで、中々産めずに空を飛んで気を紛らわせていたと。
「卵さん、孵っちゃったからね」
『うん。だからナイに育てて欲しいって』
だからってなに、だからって。竜さんたちはもう卵を温めることはないからって、私に托すのは如何なものだろうか。
「私は卵を抱けないよ」
そりゃ意識して手に抱えていることはできるけれど、お腹で温めるとか無理難題である。
『魔力が漏れているから関係ないし、ナイの下で育った方が強い仔に育ちそうだって。認められて良かったね、ナイ』
ぐりぐりと顔を擦り付けるクロになにも言えなかった。とりあえず話が進まないから卵さんの処遇については、あとできっちりと決めよう。
「貴女は今後どうされますか?」
私の言葉にこてんと首を傾げるグリフォンさん。顔が厳ついので可愛らしさは皆無だけれど、仕草自体は愛らしいものだった。
『魔力を貰って強くなったから、もう一度交尾して卵を産もうかなって。グリフォンって一生に一回から三回卵を産めれば良い方だけれど、あと十回くらいは産めそうだって~』
言い方、言い方がストレートです。そういえばグリフォンさんの二本だった尻尾がいつの間にか三本に増えていらっしゃる。まさかお猫さまのように、尻尾の数で強さや格が決まるのだろうか。グリフォン界のことに詳しくないし、魔獣や幻獣についても詳しくない。
『あ、でもナイの下で暫く過ごすのも良いかも。魔素を取り込んで確りと力を付けて産んだ方が、もっと強い仔を望めるよ~』
『!』
クロの言葉に目をかっぴらいたグリフォンさんがすくりと立ち上がり、私の横に並んで尻尾を足に器用に巻きつけた。まるで離さないと訴えているようだが、ずっと尻尾で私を掴んでいるつもりなのか。
クロはクロで良いこと言った! と胸を張って顔を上げてふふんと息を吐いている。これ、子爵邸に新たな住人が増えることが決定したけれど、アルバトロス王国上層部の皆さまにまたご迷惑を掛けるパターンでは。目の前の彼女がどこかの神獣さまや国獣さまであれば、フソウの時のように大騒ぎとなるのは確実だ。どうか、せめて……どこにも所属していない野良――例えが失礼だけれど――さんでありますようにと願う。
「ナイ、助けて。どうすれば良い?」
リンが珍しく困った声で私に助けを求める。リンの足元では手のひらサイズの竜さんがよたよたとしながら一生懸命に顔を足に擦り付けながら甘鳴きをしている。孵ったばかりでしわしわの身体だし、翼も綺麗に伸びていない。でも一生懸命に生きようと……母親と認識したリンに助けを求めるように行動に移していた。
「リンに懐いちゃっているね。触ってあげないの?」
「それを言うなら、ナイも卵を抱えないの?」
リンが自分の足元から、私の足元に視線を向けて目を細めた。
「…………」
「……」
お互いなにも言えず黙って立ち尽くすだけ。ジークとソフィーアさまは口出しはせず状況を見守るようで、セレスティアさまは幻獣の仲間が増えたとドリル髪がわさぁと広がっていた。顔は緩まないように必死に整えているけれど、髪で感情がバレバレである。
ロゼさんは事態がどう転んでも受け入れてくれるし、ヴァナルも群れの仲間が増えたという認識。雪さんたちは『増えました』『また増えましたね』『本当に不思議です』と三頭で話をしている。
『子育て、リンがする!』
『僕たち、見守る!』
親竜さんがケタケタと楽しそうに笑い、子育てをリンに丸投げするようだ。いや、クロの場合もジークの肩に乗っている幼い竜さんも勝手に育つから手は掛からない。手は掛からないけれど、今以上に子爵邸に生き物が増えると、屋敷で働く方たちの人数より生き物の数が多くなってしまいそうで怖いのだ。
増えるものは仕方ないし、時間が経てば巣立っていくだろう。貴族位を持っているので、こうした竜と一緒に過ごしたり、フェンリルを横に連れていたりすれば、名前が自然に売れて目立ち地位を確立していく。お金もある程度入るようになるから、悪い話ではない。地面に転がっている黄色い卵さんを拾って手の中に収めた。ハンカチで触れたから多少はマシになっているけれど、ところどころ濡れているのは体液か。
私を見たリンも孵ったばかりの竜さんを抱えると、彼女の腕を伝って肩の上に移動した。親竜さんが『よろしくねー』『強く育ててね~』とリンに言い放ち、リンはどうしたものかと困り果てている。私は少し温かみのある卵さんをグリフォンさんの前に差し出して『お預かりいたします』と頭を下げた。
『よろしくお願い致します。私は貴女の下で力を溜めますので、暫くお世話になりますね』
グリフォンさんから柔らかい女性の声が漏れて私の顔を見上げた。あれ、と違和感を抱くとクロが代弁してくれる。
『え、あ、あれ? もう喋れるの、君』
『不便だと感じてしまい、進化を遂げたようです。人間の言葉は理解しておりましたし、竜の貴方の喋り方を真似てみましたら割と簡単でした』
『そっか。喋れる方が自分の考えを伝えやすいし、良かったね~』
『はい、とても』
クロとグリフォンさんが穏やかに会話を繰り広げていると、竜さんたちがぬっと私の脇の下から顔を出して話に加わろうと試みる。
『グリフォン、喋れた~』
『お喋り、楽しいー!』
グリフォンさんが言葉を喋れたことが嬉しくて、親竜さんたちがくるくると私たちの周りを走る。可愛いなあと卵を手に持ったまま見つめていると、グリフォンさんも目を細めている。
『お可愛らしい竜たちですねえ』
『可愛いでしょう? ナイのお陰で竜が増えているんだよー』
『おや、それはそれは。我々グリフォンもお零れにお預かりしたいものです』
グリフォンさんが立ち上がって、私の顔に嘴をすりすりと当てる。クロの顔の肌触りとはまた別の、つるつるの嘴の冷たさが新鮮だった。む、とクロが唸って私の頬にすりすりと顔を擦り付けると、グリフォンさんが苦笑いをして嘴すりすり攻撃を取り止める。
「そういえばグリフォンさんはどこからきたのですか?」
元々はどこに住んでいたのだろうか。他にもグリフォンさんがいるのだろうかと質問してみる。おそらく副団長さまがグリフォンの生体調査を始めるだろうから、少しでも情報を集めておけば進めやすくなる。
『そう畏まらずとも良いですよ。西の端からですねえ。向こうに雄が数頭おりました。故に、仔を成すことができました』
グリフォンさんの個体数も気になるが、とりあえずの確認をしよう。
「西の端って、今いる西大陸の西の端ってことで良いんだよね?」
『はい。他にも大きな土地があるのですか?』
「海を隔てて、北と東と南に大陸があるよ。ここは西大陸って呼ばれていて、この辺りはアルバトロス王国が所有しているって言えば分かり易いかな」
『世界は広いのですね。いつか行ってみたいものです』
グリフォンさんに雪さんたちが『フソウに行ってみましょう』『楽しいですよ』『主さまがいれば問題ないですし』と伝えていた。これはフソウに近々赴くことになるのだろうか。まあ、それも楽しそうだから良いかと私の隣に立った雪さんたちを撫でた。
「ご当主さま」
「どう致しました?」
ソフィーアさまが少し青い顔で私に声を掛けたのだが、珍しく呼び方が敬称である。なにかあるな、と感じてソフィーアさまの言葉を促した。
「西の端というのは、もしかしてヤーバン王国という場所でございませんか?」
彼女は胸に手を当てて小さく頭を下げたあと、グリフォンさんに向けて問う。グリフォンさんは畏まっているソフィーアさまにこてんと首を傾げ、少し考える様子を見せた。
ヤーバン王国……確か地理の授業で西大陸の端に割と大きめの国がある――西大陸は小国の集まりで、大雑把にヤーバン王国は三つほど国を足した規模。アルバトロスは二つほど、リームは一つくらい――と教えて貰っている。頭の中に仕舞われていたので私が思い出すには切っ掛けが必要だったが、ソフィーアさまは『西の端』というワードで記憶の引き出しを開けたようだ。
頭の回転の違いを見せつけられているが、今はなんでも良い。違う国であればまだ良かったのだが、彼の国が相手では少し不味いことになりそうだとグリフォンさんの顔を見る。グリフォン、と名前が出たときに気付けば良かったが……遅かれ早かれ事態は動く。今はただソフィーアさまが、間を見定めて声を掛けてくれたことに感謝しよう。
『確か、そのような名前だったと記憶しておりますが……どう致しました?』
「……ヤーバン王国は国獣にグリフォンを据えております。ナイ、急いでアルバトロス城に連絡を取ろう。事態が不味いことになりかねん」
ソフィーアさまが私に声を掛け、周りの方々にも視線を向け『構わないな』と無言で問うている。状況を理解し誰も反論する方などおらず、アルバトロス城が鎮座する方向へ顔を向けるのだった。
◇
とりあえず代官さまにお願いしてアルバトロス城に第一報を済ませ、返事待ちの状況である。旧子爵領邸の庭でグリフォンさんとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんたちと、卵が孵った親竜さんたちと挨拶を交わしていただき、王都には天馬さまや猫又に妖精がいると伝えると彼女は凄く驚いていた。
亜人連合国の方々も紹介したいので彼の国について話したのだが、ご意見番さまの存在を知っていたけれど、お世話になれば迷惑が掛かるとグリフォンさんたちの間で囁かれていたそうだ。
話を聞いたクロが微妙な顔になって『迷惑なんかじゃないのに……』とぼそりと零していた。グリフォンさんは竜とフェンリルとケルベロスと天馬さまと妖精さんたちがいる状況に驚き、会ってみたいものだと零す。そうして彼女が過ごしていた国の話に戻った。
ヤーバン王国はグリフォンを国獣に指定している。
確かヤーバン王国の国章を思い出せば、鷹の頭にライオンの身体をモチーフにした幻獣が真ん中に大きくデザインされていた記憶がある。当のグリフォンさんは頭の上に疑問符を浮かべている状態であり、勝手に決められても困ると愚痴を零した。
西大陸の西方はグリフォンの生息数が少ないながらもあり、そちらで卵をお腹の中に抱えたそうだ。どうやら雄同士で彼女を巡る争奪戦を起こしており、勝ち残った相手とやることをやったそうな。
グリフォンさんが私に顔を寄せて嘴でぐりぐりと頬をなでる。手の中の卵さんが落ちちゃうよ、と伝えると『落ちても割れないので問題ありません』と言い切った。彼女がヤーバン王国でどう過ごしてきたのか話を聞いていれば、彼女は不思議そうな顔を浮かべて首を傾げる。
『大怪我を負いながら私を奪い合っておりました。もう少し優雅に雌を求められないものでしょうか?』
「それは……でも、貴女は強い雄の仔を残したいから勝ち残った雄と卵を成したのでしょう?」
『あら? そうでした。どうしてこのような考えに至ったのか……』
それを言われてしまうと負けた雄のグリフォンさんが報われない。自身の遺伝子を残すために怪我を負うまで必死になって権利を得ようとしたのだから。
『格が上がった証拠かなあ? 不思議だよねえ』
時折、こういうことが起こるらしい。会話を交わせるようになったのも格が上がった証拠の一つだそうで、野性味が抜けて知性が増えるとのことだ。良いことなのか悪いことなのかは、グリフォンさんが決めることなので口出しはしないが大丈夫かなあと不安になってくる。
『魔力の譲渡が切っ掛けでしょうか。ナイさんには感謝致します。仲間内で争い、同族が減ってしまうことは由々しき事態です。私が沢山産めば、少しはマシな状況になりましょう』
グリフォンさんが言い終えると、私の影の中から毛玉ちゃんたちがひょいっと飛び出してきた。彼女の前に五頭並んで一頭ずつ順番に鳴いて挨拶を交わしていた。どうやら雪さんたちが望んだようで、私の下にいれば確実に増えるという証拠を提示したようだ。
『聖女さま。王都に戻る?』
『寂しいよ』
親竜さんの片割れが私の腕と身体の間に顔を突っ込み、もう一頭の親竜さんがリンの腕と身体の間に顔を突っ込んでこちらを見上げる。うっ、と妙な声が聞こえて手で口元を抑えた方がいるのだが誰とは言うまい。
「ごめんね、もう少し滞在するつもりだったけれど、事情が変わったから」
孵ったばかりの竜さんのこともあるので一緒に過ごしたいが、親竜さんたちの意志もある。
「王都に一緒にくることもできるけれど、お屋敷の中に入るのは無理かなあ……庭で天馬さまたちと一緒に過ごすことができるなら、暫く一緒に過ごすって聞けるけれど……代表さまの許可も頂けていないし……」
親竜さんたちの大きさはエルたちと同じくらいである。骨格が違うので比べるのはおかしいが、馬車を引く馬より少し大きいくらいなので子爵邸の庭で過ごすだけなら問題は少ない。外へと飛び立つことができるだろうし、自由に出入りできるなら不便はないだろう。
『悩む必要はないよ。代表の考えよりこの仔たちの意志が大事だからね~』
クロは簡単そうに仰るけれど代表さまの面子だってあるだろうに。事後報告になるけれど許可を貰おうね、と小さな親竜さんたちと約束してリンの肩の上で嬉しそうに肩をふみふみしている仔竜さんに顔を向けた。
「これからよろしくね」
声を掛けると小さく一鳴きしてくれる。嫌われなくて良かったと安堵しながら、ジークの肩の上で後ろ脚を使ってカイカイしていた幼竜さんがピタリと止まり私を見下ろした。
にへら、と笑って見せると妙な鳴き声を発してぷいっと顔を背ける。やはりまだ苦手意識を持たれているなあと視線を外せば、クロがすりすりしてくる。
『恥ずかしい所を見られたって。ナイは悪くないからね』
そっか、と息を吐くとグリフォンさんが『皆さま仲が良いのですねえ』と目を細めてこちらを見ている。グリフォンさんも暫く一緒に暮らす予定のようだから、仲良く共に過ごしましょうと伝えればこくりと返事をくれた。庭で話していると、代官さまが小走りでこちらへとやってくる。
「ご当主さま、城から返事が。直ぐに王都へ帰還して欲しいとのことでございます」
ふう、と息を整えた代官さまに頷いて、連絡してくれたことの感謝を述べ私の影を見た。
「承知しました。急ぎ戻ると再度お伝えください。ロゼさん、行きより人数が増えちゃったけれど転移をお願いできますか?」
影に声を掛ければロゼさんがシュバっと飛び出て何度か跳ねる。ご機嫌な様子のロゼさんは転がって離れたあと、私の前にころころと戻ってきて止まった。
竜さんもグリフォンさんも私の影には入れない。先程恐々と私の影へ後ろ脚を突っ込もうとしたのだが、入ることはできなかった。得手不得手があるようで、竜やグリフォンさんの間でもできる方とできない方に分かれるそうだ。
『大丈夫! お城に行けば良いの?』
「いえ、子爵邸でお願いします。地下の転移陣を使って直ぐに城へ行こうかと」
登城のために着替えもしなければいけないし、親竜さんを連れていけば騒ぎとなる。まあリンが肩の上に孵ったばかりの仔竜さんを乗せているので今更であるが、騒ぎになっているところでネタを追加させるわけにはいけないから。
集まって、とロゼさんの声に従い、みんなが側に寄れば魔術陣が展開する。そうして子爵邸の庭に転移を終える。
『ちょっと重かった……』
竜が二頭とグリフォンさんとの一緒の転移は流石のロゼさんでもキツかったようだ。べちょっと伸びたロゼさんは私の影の上で丸さを取り戻し、身体の一部をちょろりと伸ばしている。
「ロゼさん、無理を言ってごめんなさい。お礼はあとで。竜さんたちは庭で過ごして欲しいんだけれど、大丈夫?」
私はしゃがんでロゼさんに魔力を気持ち渡せば、ロゼさんが綺麗な丸味を取り戻して機嫌良く影の中へと戻っていく。そうして親竜さんの方へ顔を向けて、エルたちと一緒に過ごして貰うようにとお願いした。
『大丈夫! 天馬と仲良しになる~』
『魔素たくさん!』
竜さんたちが庭を駆けエルたちがいる方向へと走って行く。そのタイミングで家宰さまが急いでこちらにやってきた。
「ご当主さま、話は領の代官より聞き及んでおります。急ぎ……支度を……」
彼が言い終える寸前にグリフォンさんに気付いて、ぎょっと驚いている。グリフォンさんは『世話になることになりました』と告げ、家宰さまと簡単な挨拶を交わす。
グリフォンさんには玄関ホールで待っていて欲しいと告げ、みんなは登城の準備に各々取り掛かった。ちなみに卵さんは私が持ったままである。四六時中温めなくても問題ないし、私の側に置いてあれば良いとのことだ。ちなみに本来の子育ては托卵であるが、人間に預けるのは初めてと仰っていた。でも他の雌グリフォンが人間に預けたこともあるかもしれないと仰っていた。微妙な心境に陥りながら自室に戻って、侍女さんたちに聖女の衣装を着付けて貰い部屋を出る。
「また騒動に巻き込まれたな」
「いつものこと……」
ジークとリンは教会騎士服を最初から纏っていたので、準備をいの一番で終えて待ってくれていたようだ。ジークの頭の上で着替えを待っていたクロが私の肩に飛び乗り、ロゼさんとヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたちは私の影の中へと戻る。そうして私は苦笑いを浮かべてそっくり兄妹に視線を合わせた。
「だね。今までどうにかなっているから、今回もどうにかなる、はず。頑張ろう」
アルバトロス上層部と連携を取って、いろんな難事を解決してきたのだから今回もどうにかなるはず。ヤーバン王国が理性的な国であれば話し合いができる。諍いに発展すればどうしようかと考えるが、アルバトロス王国とヤーバン王国とは距離があった。空を飛べることができるなら別であるが、地政学的に争いを起こしてもお互いに損を被るだけ。
で、あるなら国益のために外交ルートを盤石に築き上げる方が得である。あとは上層部同士の交渉次第だ。ソフィーアさまとセレスティアさまも同行し、玄関ホールで待っていてくれたグリフォンさんと一緒にお城へと転移した。
「ミナーヴァ子爵、お待ちして……おりました。参りましょう」
「あのグリフォンさんも一緒に赴いても宜しいでしょうか?」
お迎えの近衛騎士さまがグリフォンさんを見て一瞬だけ言葉に詰まる。私の問には快く返事をくれ、グリフォンさんとアルバトロス城内を一緒に移動することになった。
『人間の建物に入るのは初めてです。面白いもの、興味を引くものが沢山ありますね』
きょろきょろと周りを見ながら廊下を突き進むグリフォンさんと無言で私たち一行。卵さまを手で持っているのだけれど、ちょっと疲れてきた。クロの時のように巾着袋を用意すれば良かったと反省しつつ、グリフォンさんと視線を合わせた。
「えっと、ヤーバン王国の国獣なら保護されていたんだよね。向こうのお城に入ったことはないの?」
国獣であればグリフォンさんたちは保護対象だろうと、グリフォンさんに聞いてみる。
『いえ、自然に生きる獣ですから、我々が人間と関わることはほとんどありませんよ。確か一頭の雄が人間を気に入り、共に過ごしていると聞いたことがあります。私が貴女の下で過ごすと決めたのは、貴女の魔力の心地良さが魅力的だから仕方ないのです』
「ではヤーバン王国の方々とは関わりが薄いのですね」
『ええ。ですが人間が襲ってこないので、過ごしやすい土地ではあります。他の地域で牛や馬を狩ると人間が攻めてきますから。ただこの地は魔素が濃いので狩りをする必要はなさそうです』
どうやら一か所で狩りを続けると、冒険者の方々が討伐にやってくるらしい。倒されることは滅多になく追い払われるのが精々で、グリフォンさんたちの間では人間が襲ってくれば他の地域に移動すると暗黙の掟があるとかないとか。お互いに生きるためだから恨んではいないとグリフォンさんが仰るが、世知辛い事態であるなあと頭を悩ませる。
「今回の件で、人間とグリフォンさんたちが共存できる道があれば良いのですが……」
『そこまで考えてくださるのですか?』
「無駄な争いとなりますし、言葉を交わせるなら避けたくはありませんか?」
面倒事のついでに、他に解決できることや願いが叶うのであれば一緒に済ませた方が得だろう。交渉の場に立つのだし、提案するだけならタダである。
『貴女の言葉が叶うのであれば我々にとってどれだけ有難いことか』
「上手くいくかは分かりませんが、西大陸の国々と交渉できると良いですね。ただ、グリフォンさんには少し負担して頂かなければなりませんが」
『私のできうる範囲で協力いたしますよ。無駄に死ぬ者が減るならば種の存続に繋がります』
ふふふ、と笑うグリフォンさんに私も笑みを返す。そうして近衛騎士さまに案内された先は会議室。あ、これはなにか問題が引き起っているのだなあと開かれた扉の先へと足を進めるのであった。