魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0446:出迎え。

 朝。お出かけ前に少し時間ができたのでジークとリンと一緒に赤子、ユーリの様子を見に行くとアンファンと鉢合わせした。

 私の姿を視界にいれた途端に彼女が気を張ったことが分かってしまい、つい苦笑いを浮かべてしまう。私の肩の上に乗っているクロはこてんと首を傾げ、尻尾をゆらゆらさせている。毛玉ちゃんたちも一緒に付いてきていたので、ぴしっと張った空気に首を傾げていた。

 

 「おはようございます、アンファン」

 

 「……おはようございます。ごとうしゅさま」

 

 私が朝の挨拶をすれば、アンファンも答えてくれるようになっている。少し前はどうして良いのか分からず、黙って私を睨んでいたのだが随分と進歩した。

 ご当主さまが言い辛いようでたどたどしいのだが、そのうち慣れるだろう。時折、子爵邸の庭に出てエルとジョセ一家と話していることもあり、楽しそうに笑っているアンファンを見て安堵した。サフィールにも気を許しているし、ユーリの面倒を見てくれている乳母さんたちとも打ち解けている。

 

 「ユーリの様子はどうですか?」

 

 「いつも通り。でも、手を伸ばせば握ってくれるようになった」

 

 アンファンはユーリの顔を覗き込んで小さく笑う。アンファンにとってユーリは大事な妹なのだろう。二人を引き離さず、子爵邸で引き取って良かった。おそらく会えない状況に持ち込んでいれば、今のアンファンよりも私は彼女に嫌われていたはずだ。一瞬の判断の違いで大きく未来が変わることもあると、起きているユーリの顔を覗き込んだ。

 手を伸ばしてふにふにの頬に触れる。相変わらず反応が薄いけれど、気持ち良いのか目を細めて受け入れてくれていた。もちもち肌だよなあと感心しながら、指一本で彼女の頬に軽く差してみる。嫌だったのか、顔を左右に振って逃げようとしている。

 

 「ごめん、ごめん」

 

 新しい反応に嬉しくなるけれど、嫌なことだったなら申し訳なかったと謝罪になっていない謝罪を口にした。指を一本だけ出している手でユーリの小さな手に触れると、アンファンが教えてくれた通りに私の指を握ってくれる。軽い力で振りほどける程度の握力だけれど、無理に解くのは申し訳ない気がしてそのままの状態にしておく。

 

 「なにやっているの。ユーリの嫌がることはしないでください」

 

 ジト目でアンファンに注意された。駄目な大人で申し訳ありません、とアンファンと視線を合わせると彼女はへの字に口を曲げていた。

 

 「……ごめんなさい」

 

 視線に耐えきれず目を逸らすと、リンが私の横に並びアンファンを見下ろした。アンファンの背丈は私と同じくらいなので、リンが前に立つと聳え立つ山みたいな威圧感があることだろう。

 現にリンは彼女に対して凄く厳しい視線を向けている。リンが身内以外の誰かと話をしようと試みるのは珍しい。とりあえず相対する二人を黙って見届けようと場を譲る。

 

 「貴族のご当主さまにそんな口調で話しては駄目。貴方は一言多いし、もう少し丁寧な言葉使いをして」

 

 リンがアンファンに向かって正論を口にした。ぴりっとした空気が流れ、ジークにこの状況をどうしようかと無言で問いかけると、とりあえず静観だと彼から無言の視線が飛んでくる。大丈夫かなあと見守りを続けると、今度はアンファンが言葉を紡ぐ。

 

 「貴女もごとうしゅさまに対して普通に喋っているじゃない」

 

 「私はご当主さまの護衛騎士の立場がある。それに十年近く一緒に過ごしている。でも貴女に立場なんてない。ご当主さまの庇護下に置かれ、保護されているだけの無能で甘えている立場。今すぐ屋敷から追い出されて路頭に迷っても、誰も助けてくれないこと……分かっているの?」

 

 リンも幼い頃に大人の洗礼を受けている。ジークとリンのお母さんが亡くなって、住んでいたアパートから容赦なく追い出され、王都の街を何時間も彷徨っていた。

 大人は誰も助けてくれず、厄介者が現れたと厳しい視線を向けるだけ。ようやく辿り着いた貧民街でも余所者扱いを受けてしまっていた。誰かが手を差し伸べてくれることは奇跡に近いことをアンファンに知って欲しいようだった。

 

 「……誰も助けてくれないなんて決まってない! 先生みたいな優しい人がいるんだから!」

 

 下心なく孤児に近づく大人は稀有な存在だ。私もその点で言えば公爵さまに救われたのだから運が良かった。まあ公爵さまの場合はお貴族さまなので、私を助ける価値があると判断は下していただろう。

 

 「貴女は運が良かっただけ。本当なら貴女みたいな子供なんて誰も助けてくれない。赤子を抱いて誰かに助けを求めても無視されるか、攫われて奴隷になるのが普通」

 

 リンの言葉は厳しいものがあるけれど、貧民街の子供であれば日常茶飯事の光景である。お腹が空いて食べ物を恵んで欲しいと訴えても、無視されるのが当たり前だ。

 王都に住んでいる人たちと毛色の違う空気を纏った人が貧民街に現れたなら、アルバトロス王国では認められていない職業の人たちだった。仲間内で逃げろと情報を共有して物陰に隠れ息を殺し、仲間以外の子供が連れ去られていった。リンも私と同じ光景をその目で見ている。だからこそアンファンに厳しいことを言っている。

 

 「…………」

 

 黙り込んだアンファンも貧民街に住んでいたから、リンの言葉を理解できるはずだ。というか身に染みて分かっているはず。

 

 「ご当主さまに反抗的な態度を取り続けるとどうなるか……確りと考えた方が良い」

 

 私はアンファンに対して強気にでることはない。そのうち理解してくれて、きちんとした態度になるだろうと楽観視している。でも、子爵邸で働いている皆さまはアンファンの私に対する態度に眉をひそめていた。まだ十歳の子供と判断するか、もう十歳の子供だと判断するかで考えの違いがはっきりとしている。私は前者、皆さまは後者であり人数も多い。

 

 「……っ!」

 

 アンファンがリンに反論できず、ばっと走って部屋から出て行った。追いかけて説得を続けても反抗心を抱くだけと、暫く放っておくことにした。

 

 「リン、ごめん。嫌な役回りさせた」

 

 リンの顔を見上げて謝る。あとでサフィールにも事情を説明して、アンファンにフォローを入れて貰わなければ。本当はリンではなく、当主である私がアンファンを説得すべき場面だった。

 

 「ううん、大丈夫。あの子は現実をきちんと見るべき」

 

 リンは顔を左右に振って気にしていないと教えてくれる。現実を教えるならば、暴力で解決するのが一番簡単だが、暴力は最終手段だし歳の離れた子供に放つものでもない。

 

 「まだ甘い所があるな。早く気付けば良いが……意固地になっているようだから難しいぞ」

 

 ジークが片眉を上げながら私を見た。ジークもアンファンを危ぶんでいるようで、道は長いと肩を竦めた。

 

 「もう少し厳しい態度の方が良いのかなあ。公爵さまみたいな威光を私は放てないし……魔力ぶっ放しなら簡単なんだけれど」

 

 私は公爵さまのような貴族然とした雰囲気は放てない。公爵さまは生粋のお貴族さまとして、小さい頃から覚悟を持って育った証だろう。私はお貴族さまとして立ち上がったばかりだから、ソフィーアさまのようなどんと構えている雰囲気や、セレスティアさまのような華やかな雰囲気は全くないし……。

 

 「それは止めておけ」

 

 「妖精と幻獣がまた増えるよ、ナイ」

 

 ふふ、と短く笑うそっくり兄妹に、私も笑みを返す。そろそろ時間が押し始めているからとユーリのお世話を乳母さんにお願いして、サフィールに部屋から逃げ出したアンファンのことをお願いする。

 時間ですと告げにきた家宰さまに頷いて、馬車回りへと導かれる。お腹の辺りにグリフォンさんの卵の温かさを感じながら開かれた馬車の扉に進み、ステップを踏んで中へと乗り込むのだった。

 

 ――馬車に揺られ、目的の場所に辿り着いた。

 

 馬車を降り空を見上げると、アルバトロス王都の晴れた空を大きな赤い竜の方が旋回している。竜のお方は亜人連合国の国章と共和国の国章を掲げており、今日は共和国の研修生の受け入れ日だ。

 ゆっくりと高度を落としながら、竜の方は王都の外壁にある広場に降り立つ。私は研修生のお出迎え役として広場に赴いており、竜のお方からおっかなびっくり降りている研修生たちの姿を微笑ましく見守っている。

 

 「遠い地までお疲れさまでした」

 

 私は真っ先に共和国の方々の移動に尽力してくださった赤い大きな竜さんに声を掛けた。

 

 『いえいえ。空を飛ぶのは楽しいですし、海を渡り潮風を浴びるのは気持ち良いですから。いつか黒髪の聖女さまにも私の背に乗って頂き、どこか知らない地を目指してみたいものですねえ』

 

 少し低めの女性の声で答えてくれた赤い竜のお方が顔を下げて視線を合わせてくれる。竜のお方の瞳には聖女の衣装を纏った私が映り込んでいた。失礼します、と一声かけて目元に触れさせて頂くと今度は目を閉じて、私の手を受け入れてくれている。

 ありがとうございました、と心の中で念じて魔力を少しばかり練る。胸の奥底から腕を伝い、手を通り指先に流れて竜のお方へと魔力が渡っていった。移動のお礼と称して魔力を譲渡しているため、受け渡しがスムーズになっている気がする。慣れるって大事だなあと、閉じていた目を開いた竜のお方に『どこかにご一緒できると嬉しいです』と伝え、研修生の方へ身体を向けた。

 

 「プリエールさん、お久しぶりです」

 

 一行の方へと足を向け、いの一番に見知った顔であるプリエールさんに声を掛けた。彼女の手には鳥籠が下げられており、中には鸚鵡さんが二羽静かにこちらを見ていた。

 

 「ミナーヴァ子爵さま、お久しぶりでございます。アルバトロス王国にて治癒魔術を学ばせて頂くことになりました。暫くの間お世話になります!」

 

 ぱあと顔を輝かせてプリエールさんが思いっきり頭を下げる。頭を地面に突き刺しそうな勢いで下げるものだから、少し怖い。その時は魔術の出番かなあと、プリエールさん以外の共和国ご一行に顔を向けた。

 

 「初めまして、ナイ・ミナーヴァ子爵と申します。此度は共和国の皆さまの案内役を務めよと陛下から命を受け馳せ参じております。若輩者の案内となりますが、よろしくお願い致します」

 

 共和国の使節団一行さまには私より年上の方が確実にいらっしゃる。監督役の男性も四十代ほどであるし、挨拶の内容に間違いはないはずだ。

 黒髪黒目の私をキラキラとした視線で見ているけれど、アルバトロスの生活に慣れれば扱いが普通であることに気付くはず。少しでも東大陸の黒髪黒目信仰がマシになりますようにと願わずにはいられない。

 

 「よろしくお願い致します。我々を受け入れてくださったアルバトロス王国と西大陸の各国の皆さまには感謝申し上げる」

 

 スーツをびしっと着こなした男性が代表して私と言葉を交わす。私が黒髪黒目であること、肩に竜を乗せていること、ジークとリンも竜を乗せていること、地面には五頭の毛玉ちゃんたちが興味深そうに使節団ご一行さまを見つめていることに驚いているけれど……口には出せず堪えていた。

 

 私の影からロゼさんとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが姿を現せば、彼らは腰を抜かすだろうか。妙なことを考えながら、飛竜便を担ってくれた赤竜さんが戻っていくところを見送り、使節団と私たちはアルバトロス城を一度目指すのだった。

 

 ◇

 

共和国の研修生が陛下との謁見を終えて、安堵の息を吐いていた。アルバトロス王からは『研鑽に勤しむように』とお言葉を賜っており、共和国の皆さまは静かに頭を下げて耳を傾けていた。

 

 共和国には身分制度が存在せず、表向きは人に格差はなく平等を謳っている。でも差別は存在して富める者と貧する者がはっきりと分かれ、上と下に綺麗に分かれていた。

 肌の色、貧富、容姿、頭の良さ、身分、まあなんでも良いから、人間という生き物は差を生み出して、己が優位な立場にあるという事実が必要なようだ。私も今であれば貴族という地位を得ているので、優位な立場に立っている。己の立場に驕らないようにしなければと、アルバトロス王を見て呑まれている使節団ご一行を見て強く考えさせられた。

 

 謁見場から馬車回りを目指して廊下を歩いているのだが、共和国の方々には城内の雰囲気や近衛騎士の方が珍しいようで、きょろきょろと周りを見渡しながら歩いている。先頭に立つ案内役の近衛騎士さまの後ろに私がいて、共和国使節団の代表さんが続き、次にプリエールさんが歩いていた。

 

 魔力測定の結果によると、プリエールさんが魔力が一番多く備わっており、共和国の皆さまから治癒師として成功することを期待されているらしい。プリエールさんはプレッシャーを感じているものの、周りの方々の期待に応えられるように頑張りますと意気込んでいる。真面目な人なので根を詰め過ぎて倒れなければ良いのだが……その辺りは教会のシスターと教師役を担う聖女さま方に気を配って頂く他ない。

 

 「次は教会への挨拶ですね。アルバトロスに着いたばかりなのに、忙しなくて申し訳ありません」

 

 「今現在、アルバトロスは忙しいと聞き及んでおります。我らは貴国にご厄介になる身、文句などありませんよ」

 

 代表さんの言葉にお気遣い感謝致しますと返して、馬車回りに辿り着き王都の商業地区にある教会を目指す。そうして辿り着いた教会の大扉の前では、教会関係者が勢揃いしていた。枢機卿さま二人に、カルヴァインさまと神父さまにシスター・リズとシスター・ジル、他のシスターさんに事務方の人たちや信徒さんまでが、共和国の使節団を出迎えにきている。

 

 てっきり使節団の代表さんに挨拶をするのは、以前から枢機卿を務めていたお二人のどちらかだと踏んでいたのに、カルヴァインさまが代表さんと硬い握手を交わしていた。

 本来、魔術を教わるのであれば魔術師団の方に教わるのが一番であるが、あの変態の巣窟に足を踏み入れるのは如何なものかとアルバトロス上層部は考えたらしい。

 で、白羽の矢が立ったのが聖女候補に魔術を教えている教会であった。治癒魔術や補助系の魔術に特化している面があるので、丁度良いとも考えたのだろう。副団長さま方に魔術を教わると、アーパーな方が誕生してもおかしくはない。教会が選ばれたのは無難と言えよう。

 

 「では、研修生たちをよろしくお願い致します」

 

 「はい。治癒魔術の適性がある方には確りと学んで頂き、芽が出ずとも魔術に頼らない治癒の方法や薬草の知識を学んで頂きたいと考えております」

 

 カルヴァインさまが教会の方針を伝えた。治癒魔術は初級以上になると適性のある方しか扱えないので、適性がなければ薬草学と基本的な怪我の手当を学んで頂こうと決めている。

 共和国にはお医者さまが存在しているけれど、富める方が勉強をして医療知識を身に着け医者として振舞っているそうだ。そんなことから貧しい方たちは医療を受けることがなかなかできず、痛みに耐えきれなくなり医者に掛かると手遅れな場合が多いとか。治癒魔術が広がることで、お医者さまが廃業に追い込まれるのではと危惧されているそうだが、そもそもお医者さまの数が少ない上に競合しないと結論付けられた。

 

 ちなみに私は治癒魔術について教えるには適していないと、シスターから告げられている。前世の記憶があるせいか、この世界では特殊な魔術式らしく、解析が難しいとシスターがぼやいていたのである。

 どうにも『傷を治す』という概念に違いがあり、私の場合『怪我を治す』という意識が強く、他の聖女さまは『怪我をなかったことにする』という意識が強いらしい。もちろん『怪我を癒す』という意識で術を放つ方もいらっしゃるのだが、変わり者に位置しているようだった。

 

 「夜は歓迎会を催します。皆さま、是非ご参加くださいね」

 

 カルヴァインさまが共和国の方々に告げた。来たばかりだというのに、イベントが目白押しである。とはいえ、移動の疲れもあるだろうと、明日、明後日は休養日としてゆっくりと宿舎で過ごして頂き、三日目からは王都の街を散策して日常に必要な物の買い出しやお金の使い方を学んで頂く。

 一年間の期限付きの研修となり、結果が良ければ第二弾、第三弾と続いていくとのこと。魔術が存在していなかった国、もしくは衰退した国で勃興するのか、という試験的な側面もあるらしい。上手くいけばアガレス帝国も話に噛むと耳に挟んでいるので、どうなることか。

 

 教会の面々と共和国の方々がそれぞれ挨拶を交わして、宿舎の方へと案内されていく姿を見送る。暫くの間は自由時間だなあと教会の聖堂にある信徒席に腰を掛け、ふうと息を吐いた。

 

 「大丈夫か、ナイ」

 

 「ヤーバンに急遽赴いたから、疲れてる?」

 

 ジークとリンが心配そうに声を掛けてくれた。二人はずっと立ちっぱなしだし、警護も務めなければならないので疲労という意味合いでは負担が大きいはずだ。体力に差があるので私の方が疲れやすいけれど、二人は護衛として気を抜けない立場である。

 

 「ジーク、リン、心配ありがとう。気が抜けただけで、疲れていないから大丈夫。慣れなくて少し緊張してただけ」

 

 心配は掛けられないと、ジークとリンの顔を見上げて笑う。

 

 『いろいろとあったからねえ』

 

 クロも私のことを気に掛けてくれて、すりすりと顔を寄せた。毛玉ちゃんたちも影から飛び出てきて私の顔を見て『大丈夫?』と首を傾げている。大丈夫だよ、と五頭の毛玉ちゃんたちの頭を撫でれば、私の足元で固まって寄り添ってくれる。優しいなあと感動していると、ソフィーアさまとセレスティアさまも私の側に近寄った。

 

 「学生ではなくなったからな。授業なら少し気を抜いても構わないが、表に出ている場だと周囲に気を配らなければいけないしな……こういう時はゆっくりしておけ」

 

 「皆の前に立たなくてはならぬのはナイですもの。子爵家の者しかいませんし気を抜いても問題はありませんわよ」

 

 お二人の言葉にありがとうございますと告げる。でも……。

 

 「それは、ここにいるみんなが同じ条件なので、我が儘はあまり言えないかと」

 

 当主として気張っていかなければならないし、共和国でいろいろとやってしまったのだから使節団の方々を最後まで見届けなければ。東大陸から西大陸へ渡り、一年間という時間を消費して未知の技術である『魔術』を学んでいくのである。

 今回アルバトロス王国に訪れた共和国の皆さまは並々ならぬ覚悟を背負っているはずだ。できれば、良い結果をと望んでしまうのは贅沢なのだろうか。

 

 「ナイ。気負うのは良いが、倒れては元も子もない。私たちのことは気にしなくて良いから、休める時は休め。誰もナイに文句は言わない」

 

 「ナイに文句を告げる者がいるならば見てみたいですわねえ。そんなことを口走れば、どうなるかなど火を見るよりも明らかですが」

 

 うんうん、と頷く四人と子爵家の護衛の皆さま。時折、ミナーヴァ子爵家の方々はかなり過激な発言をなさる時がある。みんな己の立場を弁えているので問題にはならないが、過剰ではと頭を悩ませることもあった。とりあえず少し休憩時間を頂こうと、そのまま椅子に腰を掛けていれば、シスター・リズとシスター・ジルが水差しとコップを持って、聖堂に再度姿を現した。

 

 「ナイちゃん、ご休憩中に失礼しますね。お水は如何ですか?」

 

 「ありがとうございます、シスター。丁度喉が渇いていたので、頂いてもよろしいでしょうか」

 

 二人のシスターのご厚意に甘えてお水を頂いた。護衛の皆さまにも代わる代わる休憩を取って頂き、水分補給も済ませて貰う。

 

 「しかし、ナイさん。暫くお会いしていない間に強い魔力の方々が増えておられませんか? それとナイさんのお腹の部分に魔力の塊があるような……気の所為ではないでしょうし……」

 

 魔力感知に長けているシスター・リズがこてんと首を傾げた。目隠しをしているので視線を追えないけれど、確実に私の姿を捉えている。

 

 「……あ、えっと……その」

 

 シスターズにどう説明したものかと、しどろもどろになってしまった。そんな私を見て、少し考える素振りを見せたシスター・リズは再度口を開く。

 

 「アルバトロス上層部からのご報告では、ナイさんがフソウの神獣さまをお預かりになったとお聞きしております。そしてフェンリルと神獣さまのお仔もお生まれになった、と」

 

 私の足元にいる五つの魔力の集まりが神獣さまのお仔ですよね、とシスター・リズが確認を取る。私は彼女の言葉に同意をするけれど、まだ不思議なことがあるようだ。私の肩の上にある大きな眩しい魔力はクロで、影の中に三つの魔力の塊がロゼさんとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんとシスター・リズが言い当てる。

 

 「ジークフリードさんとジークリンデさんの肩の上にある魔力の光は以前感じることはありませんでした。そちらは?」

 

 再度こてんと首を傾げたシスター・リズ。彼女の横に控えているシスター・ジルはにっこりと微笑みを浮かべて、話を聞いて口出しする気はないようだ。

 

 「竜のお方の卵が孵り、ジークとリンに懐きました。亜人連合国の皆さまから許可を頂いて、一緒に暮らしております」

 

 「あら」

 

 「まあ」

 

 妙な声を漏らしたシスター二人。そうしてまたシスター・リズが不思議そうに首を傾げる。

 

 「では、ナイさんのお腹にある魔力の塊は一体?」

 

 私が着ている聖女の衣装の下にはグリフォンさんの卵を首から下げている。魔力感知に長けているシスター・リズにはバレバレのようで、再会したときから気になっていたようだ。

 

 「数日前にグリフォンの出産に立ち会い、卵を預かることになりました。私に肌身離さず持っているようにと雌のグリフォンが告げ、今はとある国にいらっしゃいます」

 

 時系列をいろいろと端折っているけれど、正しく話せばややこしくなるだけなので大雑把な説明で済ませる。

 

 「なるほど。しかしナイさんの魔力は竜のお方や妖精に幻獣の方々を引き寄せてしまうのですねえ。仲良く過ごせているのは、ナイさんのお人柄でしょうか」

 

 『ナイはボクたちのことを受け入れてくれるから。嫌がっているなら、ボクもヴァナルもグリフォンも側にいたいって願わないよ』

 

 シスター・ジルの疑問にクロがえへんと胸を張りながら答えてくれた。私が嫌がっているならクロもみんなも懐くことはなかったのかと不思議な気分になる。

 お世話をどうすれば良いのだろうとか、自然に生きる生き物が人間の側にいても良いのかという不安があるだけで、一緒に過ごすこと自体に問題はない。エルとジョセ一家も優しく穏やかだし、クロとも楽しく過ごせている。ヴァナルも一緒にいてくれて、雪さんたちも子爵邸のみんなと打ち解けているのだ。

 私の人徳というより、クロたちが人間を敵視せず付き合ってくれているだけである。グリフォンの卵さんが孵って、どんな仔に育つのか気になるところだけれど……楽しく過ごせているのだから、まあ良いかとシスター二人の顔を見るのだった。

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