魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0447:研修生歓迎会。

 共和国の研修生がやってきた夜。王都の教会で、彼ら彼女らの歓迎会が始まった。

 

 教会の主催ということで派手さと豪華さはないけれど、精一杯のおもてなしで共和国の方々を迎えようという意思は凄くはっきりと見える。王城の料理人さんが派遣され、夜会で提供される軽食がズラっと並んでいるし、アルバトロス王国では見たことがない料理も並んでいるので共和国の品であろう。

 

 レシピを取り寄せることができれば作れるだろうし、共和国の皆さまがアルバトロス料理に慣れない場合を考慮されていた。大人組にはワインも用意されており、神父さま曰く教会地下で保存していた秘蔵のものだとか。私が成人したことを知っているので、飲めるなら楽しんでと伝えられたがアルコールに良い思い出がないので我慢の予定である。

 

 参加者は共和国の研修生全員と監督者、アルバトロス王国の教会関係者と講師を担うシスターと聖女さまたちだ。アリアさまとロザリンデさまも参加していて、少し特殊な状況に硬くなっている気がする。

 魔術師団の方も数名参加なさっているし、副団長さまの姿もある。何故、と首を傾げつつも彼らは魔術の基礎を師団の方に手解きするから、研修生に教える予定なのかもしれない。

 

 教会の裏手にある会議室を急遽会場に仕立て上げ、飾り付けを施した部屋に少し窮屈ではあるが大勢の人が集まっていた。アルバトロス側、共和国側の主要メンバーの自己紹介を終えて、無茶ぶりくん、もといカルヴァインさまが乾杯の音頭を取るために前に立つ。

 

 「――一年間、共に過ごすことでお互いに精進できれば嬉しいです。慣れぬ地で不便を感じる時は、遠慮なく我々に声を掛けてくださいね。では、乾杯!」

 

 少し緊張した面持ちでカルヴァインさまがワイングラスを掲げる。参加者も手元のグラスを掲げて、くどくどと長くない乾杯の音頭で歓迎会が始まった。教会の皆さまは知り合い同士で軽くお話を始め、お偉いさん方は共和国の監督者と話を始めている。共和国の研修生で顔に『緊張』という文字を張り付けている方が数名いらっしゃる。

 一応、貴族位を持っているので私が誰に声を掛けても失礼にはあたらないし、共和国には身分制度はないので話したいことがあれば声を掛けるのだが、私が話したい人はプリエールさんくらいだ。鸚鵡さんの様子と彼女の近況は聞き出しておきたい。どのタイミングで彼女と話をしようかと、机の上に並べられているお料理に視線を向ける。

 

 「ナイ、食べることに注力するのか?」

 

 「うん、基本的には。喋りかけられたら対応する、くらいかな。あとはプリエールさんとお話したいのと、研修生でかなり緊張している人がいるから声を掛けられたら掛けてみる」

 

 ジークが私の視線がお料理に向けられたことを悟り、声を掛けてくれる。とりあえずの方針はお料理を堪能しつつ、プリエールさんとお喋りする機会を設けること。緊張してカチカチになっている研修生に軽く声を掛けられると良いのだが、私は共和国で信仰の対象となっている黒髪黒目である。真面目な方であれば緊張を更に高めてしまいそうだ。

 

 「凄く分かり易い……」

 

 「ね」

 

 リンが研修生の方を見て目を細めた。リンの肩で過ごしている仔竜さんは大人しい。白金色の鱗にくりくりとした真ん丸の目を持ち可愛い顔をしているのだが、やはり竜なので脚はがっちりしている。リンに懐いて側を離れないことをうっとうしく思わないのか聞いてみたが、彼女はまんざらでもないらしい。

 人間の言葉を既に理解してお風呂やお手洗いの際には外で待っていてくれるし、子爵邸の侍女さんや下働きの方にも懐いている。暇そうな方の肩の上に飛び乗ってみたり、ユーリの顔を覗き込んでくりんと首を回してる。

 

 ただ一番懐いているのはリンとクロで、お顔すりすり攻撃は彼女とクロにしかしない特権だった。そんな仔竜さんに刺激を受けたのか、ジークに懐いている幼竜さんの気配が少し変化している。

 彼の下をなかなか離れようとしなかったのに、他の人に興味を示すようになっていた。おっかなびっくりではあるけれど、気になる方の足元にすり寄って抱き上げて欲しいと上目遣いでおねだりする姿に子爵邸で働く数名の方が腰砕けしていた。

 

 『本当だ。カチカチだねえ』

 

 肩の上のクロが研修生を見た感想を口にした。ロゼさんとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちは影の中で過ごして頂いている。毛玉ちゃんたちが出たいと訴えているけれど、ヴァナルと雪さんたちの説得により諦めていた。子爵邸に戻ったらたくさん遊ぼうねと心の中で唱えるけれど、届いているのかいないのか。

 人間の中で生活するなら、影の中で過ごすことも覚えて貰わなければ困るので、外に出させてあげたい気持ちをぐっと我慢している。服の中のお腹の辺りにはグリフォンさんの卵さんも確りと鎮座してる。いつ孵るのか未知数だけれど、ほのかに温かいので生きている証拠だった。

 

 「ナイが喋りかけたら余計に緊張するんじゃないか?」

 

 「プリエールさんに間に入って貰えば少しはマシになるのでは……と言いたいですが、この会場で身分が一番高いのはナイでございましょう。いろいろとナイが率先して動かねばなりませんよ」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが私を見ながら苦笑を浮かべていた。身分制度のない国で過ごしてきた方に、貴族という身分を持っている私が声を掛けたら緊張するのだろうか。

 前世の感覚であれば『貴族位持ち、凄そう』くらいで済ませられたが、この世界で生きるようになってお貴族さまの怖さは知っているつもりだ。共和国の方々も身分制度はないけれど、明確な区別を受けている。お二人が仰るように私が話しかけると余計に緊張してしまうかも、と考えを改める。

 

 「やはり私が真っ先に動かねばなりませんか……」

 

 歓迎会といえど政治の場である。いろいろと愛想を振りまいておいた方が良いようだ。お城の料理人さんが心を込めて作ってくれたお料理を頂きたいけれど後回しだなあと、会場に集まっている方々へ視線を向ける。

 カルヴァインさまも共和国のお偉いさんと言葉を交わしている。私も挨拶をした方がアルバトロス王国と共和国のためになるのかなあ、とソフィーアさまとセレスティアさまに顔を向けた。

 

 「立場が高いのは枢機卿だが、身分という括りではナイだからな。ナイと同じ子爵位の者もいるが知名度や家格を考慮すればナイが一番上だ」

 

 「そういうことでございますので、挨拶回りを済ませましょう。円滑な貴族生活を送りたいならば大事なものです。その間に珍しい食べ物や食料の話を聞けたなら、縁を繋いでいるのですから取引を持ち掛けても問題はないですわ」

 

 「上手く言葉を交わせる自信はありませんが、頑張ります」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまは私のことを熟知している。生粋のお貴族さまだから、こういう場の身の振り方に詳しい上に私の扱いも詳しかった。飴と鞭を使った実践教育だよなあと苦笑いを浮かべながら、輪の中に加わるため歩を進める。

 

 「プリエール嬢と話したいなら最後にしておけ。妙なやっかみを防ぐことができる」

 

 ソフィーアさまが顔を近づけ私の耳元で囁いた。確かに私がプリエールさんに真っ先に声を掛ければ、お偉いさん方の面子が丸潰れだ。研修生の間でも見えない序列があるかもしれない。ソフィーアさまの機転に感謝しながら、教会の枢機卿さまの方へと足を向けて声を掛ける。軽く挨拶をして教会の様子を聞き出して、お二人の枢機卿さまとは離れた。

 次はカルヴァインさまだときょろきょろと周囲を見渡すと彼がいる。丁度共和国のお偉いさんとの会話を終えて離れるタイミングだった。彼と視線が合い小さく目線を下げると、ぱっと顔を輝かせてこちらへきてくれる。なんだか主人を見つけた犬みたいと思ってしまったのは失礼だろうか。

 

 「カルヴァイン枢機卿、お久しぶりでございます」

 

 午前中に案内役として彼と言葉を交わしたが、必要最低限のものだった。

 

 「お久しぶりです、ミナーヴァ子爵」

 

 先ほど声を掛けた枢機卿さま二名より、カルヴァインさまに声を掛ける方が気楽だった。年齢が近いし、話した回数も彼の方が多い。根が真面目なのか、腹黒さというか……彼が裏の面を持っている気配を感じ辛いので、視線の動きや声の雰囲気にアンテナを張らなくても大丈夫な人とでも言えば良いか。

 なににせよ、真っ直ぐな方なので逆にこちらが大丈夫かと心配しなければならないから、割と気軽に話せる貴重な相手である。とはいえ、お仕事関係の話しか交わさないけれど。

 

 「教会信徒になり礼拝に参加するとお約束したのに、足を向ける機会が減ってしまい申し訳ございません」

 

 「いえ。子爵がお忙しい身であることは我々も承知しております。予定をやり繰りして教会へ足を向けてくれていたことも分かっておりますので、どうかお気になさらず」

 

 カルヴァインさまとはそのまま教会信徒さんの増減の話や、治癒院のこと、教会の今後に研修生をどう導いていくのかと言葉を重ねる。

 手探りな部分もあるけれど、お互いに意見を出し合うのは楽しい。時折、お貴族さま的な面で情報や知識が必要になると、ソフィーアさまとセレスティアさまに助言頂き話を続ける。最後に『ご無理をなさらぬように』と心配してくれた彼と別れて、次は共和国のお偉いさん方と監督者にご挨拶に向かう。

 

 「あ……選定の儀について聞きそびれた」

 

 割と大事なことを聞き忘れていた。いつ選定の儀が始まるのか聞いておくべきだったのに、研修生と教会の運営の話で盛り上がってしまったのだ。ジークとリンは『いつものこと』と私の後ろで空気を発しているし、ソフィーアさまとセレスティアさまも『ナイだから抜けていたな』という雰囲気である。

 

 「ミナーヴァ子爵殿。この度は共和国から研修生を受け入れて頂き感謝いたします」

 

 カルヴァインさまの下へ戻ろうかと踵を返そうとした時だった。共和国のお偉いさんが笑みを浮かべて私に声を掛けてきた。確か彼は政治屋さんだったはず。共和国の与党で割と強い影響を与える方だったはず。そして今回の派遣に尽力した方の一人でもあった。下手な態度は取れないな、と彼と視線を合わせて礼を執る。

 

 「いえ。今回の受け入れでアルバトロス王国と共和国がより強固な繋がりとなることを心から願っております」

 

 「始まりは唐突なもので驚きましたが、ミナーヴァ子爵のお陰で国交を開くことができました。お互いに良い関係でいたいものですなあ!」

 

 アハハ、ウフフと表面上だけの会話を交わして、彼の下から去っていく。やはり政治的な会話は苦手だと笑い、次は研修生を監督する方と話をするためにきょろきょろと顔を向ける。

 監督役の方は凄く堅くなっている研修生たちの下にいて、丁度プリエールさんも一緒にいた。少し不躾かなと思いつつも、話すタイミングを逃すと歓迎会の間に言葉を交わせないかもしれないと、彼らの方へと足を向けるのだった。

 

 ◇

 

 お偉いさん方への挨拶がようやく終わり、プリエールさんと会話を交わしても問題はなくなった。さてプリエールさんはいずこに……と周囲をきょろきょろと見まわせば、アリアさまとロザリンデさまが研修生たちの輪に加わって話し込んでいる。

 緊張して固まっていた人たちは、少し硬さが抜けており流石お二人であると感心しつつ、アリアさまとロザリンデさまとプリエールさんがいるなら話しかけ易いと近づいていく。

 

 「魔力が備わっていると判定され、研修生として参加することになりました。貧民なので学もなく、先生を務めてくれる皆さまが仰っていることを理解できるのか不安がありますが……頑張ります」

 

 プリエールさんではない研修生がアリアさまとロザリンデさまに決意表明をしていた。

 

 「得手不得手もあるので治癒魔術を全く使えない可能性もあります。その場合は薬学について学んで頂こうと教会の皆さまが仰っておりましたので、これから一年という時間が無為になることはないかと。共和国の内情に詳しくないので大きなことは言えませんが、薬学を習えば一つの道となり得ると良いのですが」

 

 ロザリンデさまが研修生へ声を上げる。術者の適性もあるので、治癒魔術を使えない可能性もある。個人の適性は共和国側が判断できることではないし、アルバトロス王国側も見た目で判断、なんてことはできない。

 魔力を覚醒させて、魔力を外へ流す感覚を身に着けてから、魔術の基礎を学ぶ、という手順があるのだ。魔力持ちと判断された方の中で治癒を使いこなすことができるのは、果たして何人いるのやら。

 

 「わたくしは治癒魔術が得意ではありませんが、魔力量の多さで中級の治癒術であれば使いこなすことができます。幼き頃、どうして治癒魔術に適性がないのかと悩んでいたこともありました。悩むことがあれば誰かにご相談を持ち掛けてください。ご相談を受ければ、わたくしも一緒に悩みます」

 

 ロザリンデさまは攻撃系の魔術の方が得意と仰っていた。彼女も聖女として悩んでいた時期があったのか、と動かしていた足を一旦止める。今、彼女たちの輪に加われば話が逸れてしまうし、邪魔することになってしまう。言い終えたロザリンデさまはアリアさまの方へと顔を向けた。

 

 「もし悩んでいることがあるなら、私も一緒に考えます! 術式もいくつか存在して、使い手の方に合う合わないもありますので! 一年間という期間限定されていますから、お互いに後悔のないように過ごせると嬉しいです!」

 

 頑張りましょう! と研修生に声をかけたアリアさま。研修はまだ始まっていないけれど、講師陣が優しい方で良かったなあと安堵していると、プリエールさんと視線が合う。小さく目線を下げて、気が付かれたならば合流しようと止めていた足をもう一度動かす。

 

 「お話し中に申し訳ありません」

 

 輪の中に入れるようにと声を掛ければ、アリアさまとロザリンデさまが私たちの方へと顔を向ける。プリエールさんは私と面識があるので問題ないけれど、他の研修生は『黒髪黒目のお方だ……』と私の髪と目の色に視線を釘付けにさせていた。

 

 「ナイさま!」

 

 「ナイさま、他の方々への挨拶を終えられたのですか?」

 

 ぱあっと顔を輝かせるアリアさまと、ロザリンデさまはお貴族さまとして顔合わせや挨拶を終えたのかと心配してくれた。教会の方と共和国のお偉いさんと挨拶は済ませてきたと告げて、輪の中へ加わらせて頂く。

 

 「本当は一番に皆さまとお話をしたかったのですが、遅れてしまい申し訳ありません。教会で聖女を務めております。ナイ・ミナーヴァ子爵と申します。これから皆さまとお顔を合わせることになるので、その際はよろしくお願い致します」

 

 私の挨拶にプリエールさんを始めとした研修生たちが名乗ってくれる。この場にいる方は貧民の方々で家名はないと仰っていた。家名持ちの方ももちろんいらっしゃるが一緒に行動を共にしておらず、離れた位置に数名が固まっている。

 ロザリンデさまとアリアさまは、もう彼女たちと話をしたそうだ。直ぐに交わす言葉がなくなってしまい、こちらの皆さまと話すことになったとか。

 

 「富める方と貧民の融和を唱えていますが、難しいですね」

 

 片眉を上げたプリエールさんが、向こうにいる研修生にチラリと視線を向けてから私を見た。

 

 「プリエールさん、お久しぶりです。文化や風習として根付いているものを変えるのは並大抵のものでは動きませんし、時間も掛かりましょう」

 

 先ずは土いじりから始めて種を蒔かないと芽吹かないし、根付きもしない。意識を変えるのは難しいと、プリエールさんの顔を見て苦笑を浮かべる。

 きっと彼女はいばらの道を進み、これからも大変なことがあるだろう。少しでも彼女の手助けができると良いが、結局は他国の人である。力添えできる方法は限られており、どこまで手を貸せば良いのか難しい判断が迫られる。ぶっちゃけ、共和国を更地にしても良いのならそちらの方が早い。そして文化そのものを変える教育を施せば、二世代か三世代時間を経ることができれば文化的価値観は挿げ替えられるだろう。

 

 プリエールさんたち曰く、別グループの方々は富める方たちの中でも下位に位置する家の方々なのだとか。上位の方々も魔力測定を受けたのだが、魔術に興味はなく渡航しなかったとのこと。

 

 治癒を覚えて医者の道に入れるならば、お金に困ることはないと踏んでいるらしい。確かに彼ら彼女らより上のお金持ちの方に治癒を施すようになって、教会のように料金表を提示すればがっぽりと稼げるようになる可能性はある。どこにでも自分が優位に立てるようにと考える方がいるのだなあと、プリエールさんの顔を再度見た。

 

 「鸚鵡さんのお話を近いうちにお聞かせくださいね」

 

 流石にこの場で鸚鵡さんの近況を話すのは憚られた。落ち着いた頃にお茶会の招待状でも出すか、教会でお互いに暇な時間にお話をさせて頂くかだろう。

 

 「はい! ミナーヴァ子爵さまが届けてくださるお野菜のお陰で、ソルくんも番の鸚鵡さんも元気ですよ!」

 

 「良かったです。鸚鵡さんたちもアルバトロスへ?」

 

 元気なら良かった。でもアルバトロスへ渡った場合、環境がいきなり変わることになるから大丈夫だろうか。

 

 「ソルくんの番さんが一緒に行きたいと仰ったので、ご許可を頂いて共に海を渡りました」

 

 そういうことであれば環境の変化に強いのだろう。しかし鸚鵡さんの番はプリエールさんと普通に会話をしているのでは、と訝しんでしまう。南の島にいた時はクロの通訳がなければ詳しい話の内容は分からず仕舞だったのに、もしかしてプリエールさんが沢山喋りかけて会話を楽しめるようになったのかもしれない。

 

 『本当? じゃあ、また彼らとお喋りできるね』

 

 私の肩の上のクロが目を細めて声を上げた。プリエールさん以外の研修生が驚いて、クロがこてんと首を傾げる。

 

 『そんなに驚かなくても……?』

 

 「共和国だとドラゴンさんはかなり珍しいですから。それに御伽噺ではドラゴンさんは畏怖の対象です」

 

 プリエールさんが苦笑いを浮かべてクロに共和国での竜の立ち位置を教えてくれた。確かに昔話や御伽噺だと竜は神聖な存在で、恐怖の対象でもあるなあと今更ながらに思う。ゲームだと大剣でぶった斬られたりして大変な目にあっているけれど、神話や御伽噺では確かに厳かな存在である。

 

 『そうなの? えっと、ボクはクロ。みんなとたくさんお喋りしたいから、これからよろしくね』

 

 怖くないからね~とクロが言葉を付け足すと、研修生の方たちが『よろしくお願いします』と声を上げた。ジークとリンの肩の上に幼竜さんと仔竜さんが乗っているし、亜人連合国の代表さまたちもいる。

 飛竜便で大陸間移動を担う竜のお方もいれば、子爵邸で暫く一緒に過ごすことになった小型の竜さんたちもいる……珍しいという感覚がどこかへお出掛けしているなあと目を細めると、別グループの研修生たちから『きゃあ!』という黄色い声が上がった。

 

 なんだろうと振り返ると、副団長さまと魔術師さんが彼女たちに挨拶をして言葉を交わしたようだ。話を終えて彼らはこちらへと足を向けている。

 

 「先生の顔は良いからな」

 

 「ええ。お師匠さまの顔の造形は整っておられますもの」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが割と酷い言い方で副団長さまのことを仰っている。確かに副団長さまは女性受けする顔の造りである。でもそれを言うならジークもカルヴァインさまも顔は凄く整っていて彫が深い。

 鼻もすっと高ければ、薄い唇も綺麗に弧を描いている。ギド殿下もカッコいいタイプだし、身内の贔屓目かもしれないがクレイグとサフィールだって顔が良い。陛下も公爵さまも若ければ、女性にかなりモテる顔の造形である。乙女ゲームの世界だから男性陣のレベルが高いし、声も良い方が多い。女性陣も美人さんが多いし羨ましい限りであるが、副団長さまに黄色い声が上がるのは違和感があった。

 

 だって、副団長さまは魔術に恋に恋をしているお方だから、人間への興味が薄そうである。人のことを悪く言うのは良くないが、研修生のことは『魔術を知らない国の方はどう成長してくれるのでしょうか?』くらいに捉えているのではないだろうか。

 

 「ご歓談中に失礼いたしますね」

 

 噂をすれば、にっこりと笑みを携えている副団長さまが部下の方と一緒にこちらへ顔を出した。

 

 「僕たち魔術師団の魔術師も研修生の皆さまへ手解きをすることになりました。治癒魔術に関しては教会の担当となりますが、他の面で補助を担うようにと陛下から下命されております。お困りごとがあれば魔術師団にも声を掛けて頂けると嬉しいです」

 

 ふふふ、と笑ったままの副団長さまの姿に、研修生の女性陣が顔を赤らめていた。副団長さまに女性をどうこうしようという気はなく、単純に魔術のことならば教会よりも魔術師団を頼ってくださいというアピールなのだろう。

 営業も大変だなと彼らと研修生の会話を静かに聞いていると、話を終えた副団長さまがぐるりと顔を私に向ける。

 

 「子爵さま」

 

 「はい?」

 

 なんだろうと小さく首を傾げれば、腰を折った副団長さまが顔を近づけた。

 

 「グリフォンの卵を預かったとお聞きしております。お時間がある時に話を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 「はい。副団長さまにお伝えできるようにと、グリフォンさんから生態を聞いております。話せた時間が短くて、ほんの少しだけですが……」

 

 ヤーバン王国との会談まで二日の時間を要したが、その間に福団長さまが子爵邸に訪れたり手紙を寄越したりのアクションはなかった。おそらく仕事が忙しくてコンタクトが取れなかったのだろう。

 一応、グリフォンさんから簡単な話を聞いているので、伝えられることは伝えておかないと。この先に怪我を負ったグリフォンさんやアルバトロス王国に舞い込むグリフォンさんがいれば、情報として役に立つだろうし。

 

 「本当ですか!?」

 

 「本当にさわりだけですよ。副団長さまが事細かく調べ上げるだろうと、簡単なことを聞いただけです。暫く一緒に過ごすこととなりましたが、予定が変わりましたから」

 

 私の言葉に福団長さまが『少しだけでも本物の情報です!』とテンションが上がっている。確かにグリフォンさんから聞き出した生の声ではあるけれど、素人が簡易的に聞き出しただけである。

 副団長さまのように専門的なことは分からないので、役に立つのかどうかは微妙なところだ。お城の魔術陣の魔力補填のお役目があるので、その時に魔術師団へ足を運びますと告げ、一度プリエールさんたち研修生と副団長さまとは別れる。さて、次はもう一つの研修生のグループに挨拶をしなければと身体を向けて動き出す。

 

 「失礼致します。少しお話をよろしいでしょうか?」

 

 「お初目に掛かります! ナイ・ミナーヴァ子爵さまでございますね!」

 

 研修生グループのリーダー的存在の方が私を見て確認を取った。名乗る必要はなくてい良いけれど、私を見た彼女たちのテンションが凄く高い。

 黒髪黒目信仰の国なので私を見て慮る態度は仕方ないが、共和国政府の皆さまには過度に謙る必要はないと伝えていた。現にプリエールさんたちのグループは、私に対して緊張しつつも普通に接してくれていたのだが。妙な展開になりませんようにと、テンションの高い彼女たちと視線を合わせた。

 

 「はい。共和国の皆さまと治癒魔術について研鑽できる日を心待ちにしております。これからよろしくお願い致します」

 

 「お会いできたこと凄く嬉しいです。これからよろしくお願い致します! 是非、ミナーヴァ子爵さまとたくさんお話をさせて頂きたいです!」

 

 にこりと笑う研修生リーダーに少しばかりの不安を覚えつつ、共和国からの研修生受け入れが始まったのであった。




 昨日投稿するつもりが忘れておりました(汗 申し訳ありません┏○))ペコ
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