魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0448:鸚鵡さんは元気かな。

 研修生の歓迎会を終えてから二日後。教会の部屋を借りてプリエールさんと鸚鵡さんたちと顔を合わせていた。鸚鵡さんの様子が気になるので、私が無理を言って場を整えて頂いたのである。

 プリエールさんは研修生として参加しているので、私と関わりを持つことで他の研修生からやっかみを受ける場合もあるため、注意を払って欲しいとアルバトロス上層部と教会と共和国には告げてある。プリエールさんたちと別れて歓迎会に参加していたグループ然り、人間の心理は本当に面倒なものだ。

 

 『元気で良かったよ。前にお話しした時より毛艶も良くなっているし、夫婦仲良く暮らせているならプリエールの所にいて良かったねえ』

 

 クロが番の鸚鵡さんがいる止まり木に並んで声を上げる。鸚鵡さんよりクロは小さいので彼らの嘴で突かれれば痛そうだが、あまり気にしてないようだ。

 鸚鵡さんはクロの身体に嘴を器用に動かして、虫を取る仕草を取っている。おそらく親愛の証なのだろう。クロも目を細めながら、鸚鵡さんの行為を受け入れていた。

 二羽の鸚鵡さんは以前に会った時より毛艶も良く、心なしか大きくなっているような。しかも南の島にいた番の鸚鵡さんの語彙が増えており、プリエールさんと普通に話を交わしている。きちんと人間の言葉を理解しているのか分からないが、凄く早い成長振りだった。

 

 『アルバトロス王国の気候は大丈夫? 環境が変わったから無理はしないでね~』

 

 『大丈夫。ニンゲン、優しい。馬鹿じゃない』

 

 クロが鸚鵡さんを気遣っていると、答えが返ってきた。アルバトロス王国の気候は夏が暑いくらいで、残りの季節は過ごしやすい方である。適応できているなら問題は少ないだろうし、大丈夫と鸚鵡さん自身が告げたならあまり気にしなくても良いのかも。

 あとは一年間、アルバトロス王国での生活を楽しんで頂きたい、と鸚鵡さんに視線を向ければ二羽が揃って首を傾げる。私の隣ではプリエールさんが毛玉ちゃんたちにすんすんと匂いを嗅がれていた。飛びつき攻撃はしないのだが、身体を彼女の足に擦り付けたり、真ん前にお座りして前脚を上げて『構え!』とアピールして大忙しである。プリエールさんも五頭の毛玉ちゃんたちをどう相手にして良いのか迷っており、最終的にこう声を上げるのだ。

 

 「た、助けてくださいー!」

 

 やはりそう声が上がるよねえと、プリエールさんの救助要請を聞いている。毛玉ちゃんたちの興味はプリエールさんに集中しているので私に被害はない。乙女の貞操を奪われているわけでもなく、囲まれて『遊べ!』と毛玉ちゃんたちが主張しているだけなので、助ける必要はなかろうと見守るだけにしていた。

 

 『相手、嫌がっている。駄目』

 

 私の影から外に出ていたヴァナルが毛玉ちゃんたちの側に寄り、身体を呈して五頭の行動を止めた。ヴァナルが入ると毛玉ちゃんたちも不味いと感じたようで、プリエールさんの前に五頭並んでしょんぼりしている。いつも元気いっぱいな彼らがしょんぼりするのは珍しいと目を細めると、ふうと息を吐いたプリエールさんが私を見た。

 

 「あ、あのミナーヴァ子爵さま? 以前にお会いした時よりドラゴンさんが増えていますし……こちらの方々は……」

 

 彼女が困惑しつつも私に問うてきた。そういえばヴァナルたちとは会っていなかったと、すっかりと忘れていた。最近、イベントが多く催されて記憶が薄くなっていることもあるから仕方ない。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんを紹介して、彼らがフェンリルとケルベロスであることと、雪さんたちはフソウ国の神獣さまであること、二頭の間に仔を五頭成したことを告げた。

 

 「え、えっと……詳しくはありませんが、フェンリルとケルベロスの間に仔が成せるものなのですか?」

 

 「成せるようですよ。現に産まれていますしね」

 

 フェンリルは狼、ケルベロスは犬と言われているのでイヌ科で一括りにできるはず。交配しても種族差で受胎しないこともあるが、本人たちが『番』と言っていたので深く考えていなかった。

 プリエールさんは驚きつつも毛玉ちゃんたちと視線を合わせて『一年間、こちらでお世話になります。よろしくお願いしますね』と挨拶を交わす。桜ちゃんが代表して右脚を上げてお手のポーズを取った。彼女はどうして良いのか迷い私の顔を見上げるので、握手をお願いしますと伝えた。

 

 「大きな脚ですね。仲良くできると嬉しいです!」

 

 プリエールさんはアリアさまと似ているのか、あまり物怖じをしないタイプのようだ。ふふふ、と笑みを浮かべて毛玉ちゃんたちと挨拶をしている。言葉は話せないけれど、毛玉ちゃんたちは身体を使って感情を表してくれる。

 五頭みんなで『よろしくね~』とプリエールさんに一生懸命に伝えている姿は可愛い過ぎる。ヴァナルもプリエールさんに『よろしく』と言っているし、雪さんたちも好意的で『よろしくお願い致します』『フソウに興味があれば教えてくださいね』『帝とナガノブに連絡しますよ』と政治の話になっていた。

 

 「え、えっと……共和国政府との繋がりを持ちたいということで宜しいのでしょうか?」

 

 流石に共和国政府を差し置いて、プリエールさんだけがフソウ国と繋がるという考えを彼女は持っていないようだ。おっかなびっくりとした姿で彼女がフソウの神獣さまである雪さんたちと身体を合わせる。雪さんたちは堂々としたもので、尻尾を器用に振りながら彼女にどうするかと問うようだ。

 

 『貴女の意志次第でしょう』

 

 『個人でも国でもどちらでも構いませんよ』

 

 『フソウに益があり、貴国にも益があるのであれば悪い話ではありません』

 

 「……さ、流石に私だけで決められることではないので、共和国政府の方々と相談してからの返事でも良いですか?」

 

 驚きつつも、共和国政府に話を付ける辺りプリエールさんは確りしている。フソウと共和国との物理的距離をどう詰めるかが一番の問題であるが、アガレス帝国を経由できるなら時間が掛かっても交易は可能となる。フソウ国から東大陸を隔てる海は、西大陸ほど距離はない。上手くいけば、アガレス帝国も巻き込まれるし、共和国との関係改善が見込めると良いのだが。

 

 『勿論です』

 

 『急いだ話ではありませんしね』

 

 『帝家と幕府の考えもありますので、破談になることもございましょう』

 

 雪さんたちがダメ元で話を通しただけと仰るが、共和国政府はフソウとの関係をどう取り持つのだろうか。興味があるけれど、他国同士のことなので首を挟むわけにはいかないと黙って聞いておく。話が一段落したところで、これからのことを聞いてみようとプリエールさんと私は椅子へ腰を下ろした。

 

 「魔術が普及されていない国の方へ教育を施すのは初めてのことになります。アルバトロス王国も教会も魔術師団も手探りの状態なので、上手くいくとは限りません」

 

 教会も魔術師団も魔術を知れば、共和国内で力を得る者が必ず出てくるだろうと警告はした。魔術の術式を書き換えることができれば、治癒の魔術を攻撃用に転用することもあり得る。

 

 「はい。アルバトロス王国の方から失敗する可能性もあると伝えられています。それでも……共和国の貧民が立場を得られる機会となります。地位が欲しいというわけではありませんが、治癒魔術がお金以外で価値あるものと認められれば共和国内に新しい風が吹き込むでしょう」

 

 もちろん、悪用された場合はアルバトロス王国に責任はなく、共和国内で問題を解決すべきだとプリエールさんは真剣な顔で告げる。

 大統領閣下も魔術の利便性と危険性は確りと理解しており、治癒魔術の普及と同時に法の整備も進めていくそうだ。彼女と一緒に魔術の危険なところ、便利なところを示し合わせつつ、アルバトロス王国と共和国との繋がりが強くなっていけば良いと願う魔術の普及にも時間が掛かるだろうけれど、共和国との繋がりが強固になるのも時間が掛かるだろう。それでも共に進み始めたのだから、より良い未来が目指せるならお互いに損はしない。

 

 「あ……共和国のお土産でとある方からチョコレートを頂いたのですが、他にも共和国名物はありますか?」

 

 一番大事なことを聞くのを忘れるところであった。私の背後でジークとリンが『最後は食べ物の話になるんだな』という雰囲気を放ち、ソフィーアさまが小さく溜息を吐いて、セレスティアさまが『ナイですものね』と呆れているようである。

 

 「チョコレートは富める方々の間で嗜好品として好まれていますね。ミナーヴァ子爵さまに合う品と問われると……裕福ではない家で育った私が答えるのは難しいかもしれません……時間を頂けるなら、大統領閣下や政府高官の皆さまに問い合わせてみますね」

 

 流石に共和国政府高官の方々にまで、私が腹ペコ食欲魔人と知られるのは憚られる。一応、聖女でお貴族さまだから品位を気にしなければ。

 

 「ああ、いえ。特に拘りはないので、珍しいお野菜や各家庭のお料理でも構わないのです。共和国独特のお菓子なども興味がありますし、お砂糖が安価と聞いておりますので、それに由来する料理などがあるなら情報を頂きたいなあと」

 

 共和国政府の皆さまに話が伝わらないように、プリエールさんへ伝えたつもりなのだけれど阻止できただろうか。

 

 「小さい頃、母が時折作ってくれたドーナツが御褒美でしたが……アルバトロス王国の方のお口に合うのでしょうか……?」

 

 ドーナツであれば小麦粉が材料だろうし、あとはお砂糖とバターと卵と油があれば作れるだろう。そういえばドーナツなんて食べたいと暫く考えていなかったなあ。共和国のチョコレートを乗せれば甘過ぎる代物と化してしまうのかも興味がある。

 

 「こればかりは試してみないことには分かりませんから。機会があれば、料理人の方からレシピを買い取って作ってみますね」

 

 アルバトロス王国のお貴族さまの間ではクッキーとかスコーンにパウンドケーキにマドレーヌ、珍しいとカヌレなどの焼き菓子がメインである。揚げたお菓子は珍しく、ドーナツは見たことがない。

 フソウから餡子を取り寄せて、餡ドーナツとか作れないかなあと思考が活発になってくる。胡麻団子とかも揚げたお菓子になるのだっけ。プリエールさんから良いことを聞いたなあとにんまりと笑みを深めて、共和国の農家さんが育てているお野菜の話になった。

 

 「んー……なにか……あ。最近、メロンという野菜を発見したと聞き及んでいますが、美味しいのでしょうか?」

 

 メロンという名をアルバトロス王国で聞いたことはないし、共和国でも最近発見したようで美味しさの真意はまだ分からないようだ。メロンを買って、種を回収すれば芽吹いてくれるだろうか。

 途中で成長点を切り落としたり、摘果をして美味しさを凝縮させたりして、手間を掛ければ美味しいメロンさんが食せそうである。子爵領は育てる品種が決まっているし、新しく賜る領地で育ててみるのもアリだろうか。どうにかして共和国からメロンさんを手に入れようと、画策を始めるのであった。

 

 ◇

 

 共和国の研修生たちの授業が始まった。初回ということで、私も教会の一室に顔を出して見学させて頂いている。副団長さまも顔を出しているし、アルバトロス王国の外務部の方と共和国のお偉いさん方もいらっしゃっていた。アリアさまとロザリンデさまも講師を務めるので、一緒に教会へと赴いている。

 

 アルバトロス王国の王都には魔術学校が存在しており、入学したての一年生が最初に学ぶ内容と同じことを教会で習うとか。

 私の場合はシスター・リズとシスター・ジルから魔術の基礎を教わり、中級、上級の魔術は先任聖女さまから手解きを受けた。研修生たちは緊張した面持ちではあるものの、未知のものを学ぶ意欲は十分に備わっている様子で講師役の方の登壇を待っている。誰が初回の先生を担うのだろうと私も興味を持ちながら、部屋の一番後ろで見守っている。

 なんだか授業参観みたい、と子供もいないのに保護者になったような気分になってくる。そうして神父さまが一番最初に部屋に入ってきて、そのあとにシスター数名と聖女さま方も部屋に入ってきた。

 

 「では、始めましょうか」

 

 大所帯となった部屋で初めての授業が始まった。先ずは魔力が外に放出できるようになるための訓練から始めると聞いている。これができなければ魔術が扱えず、不合格の烙印を押された方は薬学や怪我の手当を別授業で習う予定だ。

 全員が乗りきって欲しい所だが、こればかりは適性とセンスが重要になってくるのでどうなるか。私の場合は魔力量が多すぎて、講師を担ってくれた皆さまが口を揃えて『馬鹿魔力』と零していた。あとシスター・リズとシスター・ジルには『操作が雑』『魔力を無駄に消費している』と苦情がなんども届いた。随分と懐かしい記憶が蘇ったと前を見ていると、神父さまが右腕を伸ばした。

 

 「魔力は全ての生きている物に備わっております。人間、動物、植物。果ては鉱石などにも備わっておりますよ」

 

 魔力と魔術に馴染みのない共和国の研修生には基礎的なことからだった。私も貧民街出身で魔力と魔術についてなにも知らずにいたので、一番最初に神父さまとシスターたちから聞いた記憶が残っている。

 自身の体内にある魔力を掴むには、先ず集中しなければならない。慣れれば体内にある魔力を意識せずとも、術式展開によって術を発動させる、なんてことも可能になる。

 

 「これは個人によって違いますが、お腹の辺りを意識を向けて魔力を感じる方もいれば、胸の鼓動を意識して魔力を感じる方もいらっしゃいます。珍しい方だと額に意識を向けて魔力を操作している方もいますので、ご自身の魔力を感じる際はいろいろと試してみてください」

 

 額を意識して魔力を感じている人がいるとは驚きである。私は鳩尾辺りに魔力を感じ取り、身体全体に巡らせるイメージや右腕を通して魔力を放出する癖がついている。器用な方は足先から魔術を放ったり、胸の辺りから高威力の魔術を放つ方もいた。個人の差が出るのは面白いし、時折突拍子もない魔術を開発する方もいらっしゃる。

 その集団が魔術師団の方々なわけだが、基礎の基礎を説明している授業を彼らが聞いて得る物があるのだろうか。にこにこ顔で神父さまの説明を聞いている副団長さまを横目でちらりと覗いていると、研修生たちが自身の魔力を感じてみることになる。

 

 「ああ、ちなみに。いきなり魔力を覚醒させると御せなくなる可能性もありますし、強い感情に囚われると魔力が暴走する場合もあります。平常心は大事ですよ」

 

 と、神父さまが仰って私の方へと視線を向けた。いや、うん。脱走を図って上手くいかず、魔力暴走をさせたことがある身としてはご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありませんでしたと平謝りするしかない。

 事情を知っているシスターたちも苦笑いを浮かべているし、ジークとリンも教会の方から話を聞いたことがあるので微妙な顔になっている。クロは私の肩の上で首を傾げているのだが、是非知らないままでいて欲しい。

 

 「さあ、試してみましょうか。やり方はなんでも構いません。席に腰を下ろしたままでも、立った方が意識を集中できるなら立ってください」

 

 神父さまが意識を集中して、体の中にある温かいものを感じてくださいと仰った。凄く抽象的な言い方であるが、魔力生成器官は第六器官となるため目を閉じて意識をすれば、不思議と感じることができる。

 暫く様子を伺ていれば、研修生の一人の方から魔力が放出されて髪が揺れていた。次にプリエールさんの長い髪が揺れて、魔力が生成されている感じを掴み取ったようだ。

 魔力量は個人差があるので、あまり髪の毛が揺れない方もいらっしゃるが、研修生全員が身体の中にある魔力を覚醒させ、外へと出すことができている。何人か自身の魔力を掴めずに終わるかもしれないと危惧していたけれど、全員習得ができたなら先が明るい。

 

 「皆さま、素晴らしいです。これほど早くご自身の魔力を掴むことができるとは。では次の段階に進んでみましょうか」

 

 にこりと笑う神父さまに、安堵の表情を見せる研修生たち。共和国の今後を担う逸材になるかもしれないのだから、彼女たちが背負うプレッシャーも半端ないものなのだろう。

 真面目に取り組んでいるようだし、手を抜いている方もいないようなので安心だ。授業は順調に進み、魔力操作方法や術式の説明に移っていく。復習しているようで懐かしいうえに、必死になっていた当時の記憶も蘇る。

 

 そうして一番簡単で、威力の少ない魔術を発動させてみようという段階になった。

 

 魔力を外に出して指先に止めて周囲を照らす魔術である『灯火』だ。この魔術ならば誰も怪我を負わないし、暗闇で勉強をする際に便利なものである。

 繊細な魔力操作も必要となり、私が発動させると『眩し過ぎる!』と苦情が出たことがあった。周囲一メートルほどを照らせば良いのに、十倍以上の範囲を明るくさせたものだから、苦情が出てしまったのだ。本当に私の魔力操作は下手糞だった。

 

 「こんな感じでしょうか?」

 

 プリエールさんが一番最初にコツを掴んだようで、指先に魔力の塊を具現化させて光を放っている。

 

 「お上手ですよ。では次に、指先の魔力の塊を机の上へ移動することはできますか? そうですねえ、指先に集中している意識をゆっくり机の上へと変えてみてください」

 

 感心している神父さまがプリエールさんの側に近づき、彼女が座す机の上を指差した。プリエールさんは言われるまま、指先の魔力を机の上へと移動させている。

 神父さまの言葉だけで理解をし、実行に移せるセンスは貴重だろう。私の場合はもう少し時間が掛かって、なんどか失敗した記憶がある。

 

 「……」

 

 神父さまに褒められたプリエールさんへ異様な視線を向けている女性が数名いた。確か歓迎会でプリエールさんたちとは別行動を取っていた女性たちだ。彼女たちも魔力の放出を上手くこなしていたのに、プリエールさんが先に褒められたことが気に入らないのだろうか。

 

 なににせよ、そんなことで嫉妬しても始まらないし、プリエールさんにもできないことやこなせないことがあるだろうに。富める方たちと聞いているので、自分たちより下に位置するプリエールさんが気に入らないのかもしれないが……見返したいならば実力を示せば良いだけだ。遅れて彼女たちも神父さまの手解きを受け成功させているのだが、プリエールさんたちのグループに抱いている対抗心は消えないようだった。

 

 魔術師団の方と副団長さまも説明役として教壇に立つと、富める方たちのグループはあからさまに猫なで声で彼らと接していた。美人に類する方たちなので普通の男性であれば鼻の下を伸ばしていたことだろう。だが魔術師の方々は総じて変態である。美人な女性より魔術に興味を向ける方たちなので、靡くことはなかった。

 

 「いやあ、困りましたねえ。僕を恋愛対象として見る方がいらっしゃるとは。他の方にも色目を向けていましたし……どうしたものでしょうか」

 

 とまあ、副団長さまが授業終わりに困った顔を浮かべ――本心は全く困っていない――ていたので、アルバトロス上層部へ苦情が入っているかもなあと溜息を吐くのだった。

 

 「真面目に手解きを受ける気がないのであれば、実地訓練になった際に実力の差が如実にでるかと」

 

 あとは魔術だけに頼らず、医学書を読んで体の仕組みを覚えたり内臓器官の位置の把握と役目を覚えれば術の効果が上がる。天才型の人には意味のないものだが、天才なんて一握りだから真面目に学んだ人が得をする。魔術という不可思議なものだけれど、怪我を負ったり病気になるには原因があるわけで。その辺りを把握しておけば、むやみやたらに治癒魔術を試さなくて済むし魔力の節約となる。

 

 「おや、聖女さま。手厳しいご意見ですねえ」

 

 ふふふ、と笑みを浮かべて私を見下ろす副団長さまと視線を合わせる。爵位で呼ばず、聖女として呼ばれたのは副団長さまなりの心遣いだろう。

 

 「そうでしょうか。術の扱いに慣れて、治癒院で患者さんたちに術を施すことになれば違う問題も露見しそうです」

 

 治癒魔術は万能ではない。救える命と救えない命に分かれて、誰かの死に直面することになる。心が弱ければ耐えられない方も出てくるだろうと、副団長さまへ告げる。

 

 「確かに治癒院での実地訓練が一番の正念場でしょうか。僕たち魔術師も、討伐遠征の参加で分かれ道になる場合がありますからねえ」

 

 混乱した現場で錯乱する方も時折出ることがある。恐怖を堪えて魔物と対峙し、実践を重ねて慣れていくものだ。共和国の研修生の皆さまが無事に乗り越えられるかは、本人の意志次第だろう。なににせよ、無事に一年間が終えるようにと祈るばかりだった。

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