魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
新ヤーバン王がそそくさと母国へ戻って行き数日が経っていた。
ユーリのお世話とアンファンとグリフォンの卵さんの様子見に、子爵領の運営、各方面の皆さまとのやり取りに、共和国の研修生たちの授業の参加と忙しい日々が続いているが静かで穏やかな日々が過ぎて行く。
ぽかぽか陽気のお昼過ぎ、子爵邸の東屋でお貴族さまらしく紅茶とお菓子を嗜んでいた。ジークとリンも一緒に席に腰を下ろしているし、クロと幼竜さんと仔竜さんに、ロゼさんとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちに、エルとジョセとルカとジアにグリフォンさんと番の竜さんたちも顔を出している。
一堂に会しているので、お仕事で東屋の近くを通った方はぎょっとした顔を見せるけれど、私の姿を確認してほっと息を吐いていた。テーブルの上には袋から出した黄色い卵さんが鎮座して、外の空気を感じて頂いている。
セレスティアさまが上階の執務室の窓からとんでもない視線を飛ばしていたので、今し方目線で『こちらにきますか?』と問うと一瞬で窓から姿が消えた。
彼女が消えたあと、ソフィーアさまが窓からこちらを見下ろして、凄く長い溜息を吐いていたから呆れられているに違いない。まあ、ミナーヴァ子爵邸は平常運転だなあと笑みを浮かべ、グリフォンさんたちへと顔を向ける。
「グリフォンさんと竜さんたちはエル一家と一緒に過ごしているけれど、不便はない? 逆にエルとジョセもなにか問題はあったりする?」
皆、知性が高く穏やかだけれど種族が違えばルールも違う。問題があるならば、子爵邸と子爵領に分かれて過ごす手も取れるし、新しい爵位を賜る予定だから時間が経てば、そちらの領でも暮らせることになる。そろそろ叙爵式があると噂が流れているけれど、正式なお知らせはまだ届いていなかった。
『ありませんねえ。天馬殿も竜殿も良くしてくださいます。お邪魔しているのは私ですから、文句などありませんよ。人間の小さな子供も可愛いですし、普通の人間も私に礼を尽くしてくれています』
グリフォンさんは大陸を始終移動しながら生活しており、卵を産みたくなった時だけヤーバン王国方面に赴いていたそうだ。ふらふらと大陸を移動していると、何度か冒険者に追われたことがあり彼らのことは苦手と仰っていた。
子爵邸にいる限り襲われることはないので、安心して欲しいところである。サフィールが託児所の子供を引き連れてエルたちと遊ぼうと外に出ると、天馬とグリフォンと小型の竜さんたちが出迎えたことに驚いていたけれど、いつものことだよねと半笑いになっていた。
子供たちとは直ぐに仲良くなり、背中に乗せて子爵邸の庭を凄い勢いで走る姿を最近見てしまった。子供が落ちてしまわないか不安だけれど、落下しそうになれば自然とスピードを緩ませているので大丈夫らしい。
『不便ないよ! ここ楽しい!』
『魔素が濃い!』
ケタケタと笑う番の竜さんたちは、子爵邸で過ごすことになり亜人連合国の竜の皆さまから羨ましいと言われているそうだ。ディアンさまとベリルさまに許可を頂きに行くと、彼らも番の竜さんたちを見て微妙な顔を浮かべていた。
グリフォンさんと竜さんたちの様子を見にくると、副団長さまと約束を交わしているので、セレスティアさまと副団長さまが揃えば賑やかになりそうである。
「えっと……こういうことを聞くのは不躾だけれど、エルとジョセは次の仔をどうするの?」
お客さまがくるまで気になる話を進めておこうと、エルとジョセに聞いてみる。天馬さまが増えること自体は良いけれど、増えると名付けをしなくちゃならなくて結構大変なのだ。
彼らは気楽に名付けてくれれば良いと言うが、名は体を表すと格言があるのでおいそれとポチやタマと名付けることができない。天馬さまが『わん!』とか『にゃ~』と鳴いても困るし……きちんとした名を贈りたい。
『暫くは控えようかと。この場所に住まわせいただいているので体調に問題はありませんが、連続で仔を成すのは大変でしょうし』
『頑張れば産めますが、念のために期間を空けようとエルと決めました。ルカとジアの番探しもありますので、丁度良いかと』
エルとジョセが顔を見合わせながら教えてくれた。繁殖ブリーダーでもないし、彼らが決めたことに文句はない。むしろ間を空けて貰った方が、子爵邸の皆さまとアルバトロス上層部の皆さまと私の精神面に優しい。
「あ、そっか。ルカはお嫁さん探ししてたものね。ルカとジアにお似合いのお嫁さんと旦那さんが見つかると良いけれど」
私に名前を呼ばれたルカとジアは器用に顔だけを近づけて、撫でてと要求する。手を伸ばして順に撫でていると、気持ちよかったのか前脚で地面を掻いていた。兄妹で同じ行動を取るものだから面白い。
黒い竜の件も片付いたし、エルとジョセは他の天馬さまたちを探したり、ルカとジアは番探しの旅に出ても良いかもしれないと呟いた。
日差しが暖かく、侍女さんが淹れてくれた紅茶も温くなって飲みやすくなっている。ティーカップを持ち上げて一口、二口と嚥下する。フソウから頂いた緑茶も美味しいけれど、侍女さんたちは紅茶を私に勧めたいようで希望しない限りは自動的に紅茶となる。
緑茶は苦いと感想を零していたので、砂糖を少し入れてみてはと助言すれば彼女たちの評価が変わった。緑茶の苦味と渋味は苦手だったようだ。品種にもよるから甘い緑茶葉を取り寄せても良いかもなあと庭を見渡す。
「平和だねえ。ゆっくりいろいろなことが進んで行くと良いけれど……メロンさんの種をどうにかして入手できないかなあ」
一度、食べ物を手に入れられる環境にいると知れば、どうしても手に入れたくなってしまう。だがプリエールさんは共和国の方である。共和国に黒髪黒目信仰があるので、私が迂闊に近寄ると信仰対象にされかねない。
共和国上層部がマトモでも取引相手の商人さんが過度な信仰者だと大変なことになるだろう。誰か代理で共和国へ赴いてくれる方がいればお願いできるけれど伝手がない。フェルカー伯爵家が北大陸と商売を始めたらしいけれど、共和国にも手を伸ばすとは聞いていないので話を持ち掛け辛いし……。
「フソウの越後屋のように伝手ができれば良かったが、共和国で伝手は築けず仕舞いだったからな」
「黒髪黒目も注目を浴びてしまうからね」
ジークとリンが苦笑いを浮かべて私のぼやきに答えてくれた。
「ぼったくりされることはないと思うけれど、崇められるのは勘弁して欲しい……普通に接してくれれば良いんだけれど難しいよね」
憧れのアイドルや有名人が目の前にいれば騒いでしまう気持ちは理解できるので、強くは言えない。慣れれば普通に接してくれるだろうけれど、私はアルバトロス王国の住人だから共和国の方と仲良くなるのは難しそうだ。
プリエールさんにお願いすることもできるが、一年間はアルバトロス王国に研修生として派遣されている。勉強の邪魔をしては申し訳ないし、雑用をお願いするようなものだから無理を言えない。
ふいにジークとリンが私から視線を逸らして、お屋敷へと続く道に顔を向けた。私も二人に倣うとセレスティアさまと副団長さまの姿があった。私たちの視線に気付いた副団長さまがにこりと笑って小さく手を振り、セレスティアさまも笑みを浮かべる。
「ミナーヴァ子爵さま。お邪魔しております」
東屋まで足を進めた副団長さまにロゼさんが『ハインツ!』と声を上げて彼にぴょーんと跳び込んだ。副団長さまはロゼさんを難なくキャッチして『お元気なようでなによりです、ロゼさん』とにこにこ顔で答える。セレスティアさまは副団長さまとロゼさんを横目に見ながら、私の方へと顔を向けた。
「ナイ、お師匠さまと途中で合流しましたので、こちらまで案内をさせて頂きました」
副団長さまにとって幻獣の皆さまがいる王都のミナーヴァ子爵邸は勝手知ったる場所である。来訪の連絡さえ寄越してくれれば、後はご自由にお過ごしくださいと告げている。
彼もお貴族さま的なしきたりに縛られる方ではないし、子爵家で雇っている騎士さまと一緒に行動してくれれば良いだけ。お屋敷で働く方々も知っているし、私と話がある時だけ前もって手紙をくれる。今日は副団長さまがグリフォンさんと卵さんの様子を知りたいと要望が入ったので、東屋で休憩を取っていたという理由があった。
「ありがとうございます。お茶を用意して頂きますので、少しお待ちを」
私が侍女さんへ視線を向けると、彼女もひとつ頷いてくれる。副団長さまが訪れるのは分かっていたので、彼の分の用意は済ませてあった。
「ああ、僕のことはお気になさらないでください。ジークフリードくんとジークリンデさんとお話をされていたのでしょう? 邪魔をする気はありませんし、僕は彼らの様子を伺えるなら十分です」
エルとジョセ一家が副団長さまの下へと移動して挨拶をしていた。副団長さまは魔術師として変態であるが、銀髪金眼のイケメンなので凄く似合う絵面になっている。
私がエルとジョセ一家と触れ合っていると、彼らは首を下げて視線を合わせてくれる。長く顔を下げていると大変なようで、時折元の位置へと戻しているから。副団長さまはジークより背が低いけれど、一八〇センチを余裕で超えているので羨ましい限りである。エルの背中にひょいと乗る姿もみたことがあるので運動神経も良いようだ。
「ナイ、わたくしのこともお気になさらず。この極上の空間がわたくしにとって至上の喜びです。お茶を摂取するよりも、彼らと一緒に過ごす貴重な時を堪能しなければ!」
ふふふと笑ったセレスティアさまは番の竜さんたちとお話を始めた。竜さんたちは『セレスティアー!』『遊ぼー』と誘っているので陽気なものだ。辺境伯令嬢さまというのに、彼らの背に乗って凄い勢いで子爵邸の庭を爆走し、ソフィーアさまに怒られていた。
番の竜さんたちはソフィーアさまの言葉はどこ吹く風で『ソフィーアも一緒に乗ろう!』『走ろう!』と誘われて、しどろもどろになって彼女は凄く困っていたが、ソフィーアさまも彼らの背に乗って爆走されても、落馬……ならぬ落竜はしないはず。
「グリフォンさんとはお話をさせて頂いておりますが、卵さまとお話しするのは初めてですねえ。ハインツ・ヴァレンシュタインです。後学のために貴方さまを観察させて頂きます。よろしくお願いしますね」
エル一家と話を終えた副団長さまがグリフォンさんと言葉を交わして、テーブルの上に鎮座している卵さんに挨拶をした。人間の言葉が分かるか疑問だけれど、彼なりの心遣いなのだろう。
「文献や伝説を記している書物で読んだことはありますが、実物を見るのは初めてです!」
うふふ、と嬉しそうに笑う副団長さまにグリフォンさんが彼の隣に立つ。
『人間に卵を託した仲間はそういないかと。ナイさんの魔力は偉大ですよ』
「ミナーヴァ子爵さまが持ち得る魔力の親和性が高いですからねえ。だからこそ、こうして幻獣の皆さまが集まっていらっしゃるのでしょう。僕は嬉しい限りです」
副団長さまが懐から手帳を取り出して、卵さまの絵を描いていた。マッドで変態な方が描く絵は独特なセンスを持っているというのがイメージにあるけれど、副団長さまは写実レベルで画力が高い。
そこでマッドな方のイメージを崩してくるのかこん畜生めと思ったのは秘密である。まあ、一人で寂しく部屋で過ごすよりも、こうしてみんなが揃って賑やかなのは良いことかなと卵さまを見た。
「いつ頃、孵化するのでしょうか?」
「流石に文献にも書物でも記録に残っていませんでしたから……未知のことが解き明かされるのは本当に有難いことです」
『どうなのでしょうか。私も孵るところは見たことがないので』
私の疑問に副団長さまとグリフォンさんが答えてくれる。そうしてグリフォンさんの卵にジークとリンとクロたち竜の方とヴァナル一家とエル一家に侍女さんたちの視線が集まった。大勢の視線に晒されたことで吃驚したのか、卵さんがかたん、と小さく揺れる。おや、という声が上がると同時――こてん、と卵さんが二つに分かれた。
「え?」
「な」
「ん?」
私とジークとリンの声が上がる。
「おや」
『まあ』
副団長さまの気の抜けた声が上がり、グリフォンさんの他人事のような声も上がった。
『卵が』
肩の上に乗っているクロが驚いて。
『二つになったー!』
『分身した~!』
番の竜さんたちがケタケタと笑い。
『これはこれは』
『初めて見ましたねえ』
エルとジョセがぱちくりと大きな目を閉じたり開いたりして。
『グリフォン、増える。群れの仲間増えた』
『このお屋敷は不思議ですね』
『主さまの力でしょう』
『次に産まれる仔たちがどのような仔なのか楽しみです』
ヴァナルと雪さんたちが呑気に話していた。え……割れたのではなく増えたのか、とあり得ないできごとに口元が歪に伸びるのだった。でも、まあ……めでたいのかな?
◇
グリフォンさんの卵さんが二つに増えた……一個の卵が二個になったのだから増えたで大丈夫なはず。グリフォンさんは目を細めて嬉しそうにしているし、クロとエルとジョセとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんたちは増えて良かったねえ、と呑気なものだし、番の竜さんたちは『面白ーい!』と笑っている。
ジークとリンの肩の上が定位置の幼竜さんと仔竜さんはなにが起こっているのかイマイチ分かっていない様子だ。毛玉ちゃんたちも良く分かっていないようだし、ルカとジアも卵をじっと見つめて首を傾げていた。一番テンションが高いのは、卵さんを産んだグリフォンさんではなく、副団長さまとセレスティアさまだった。
「まさか奇跡の瞬間をこの目で見られるとは。子爵邸に足を運んでいて良かったです!」
「お師匠さま、わたくしも奇跡の瞬間に立ち会うことができました! ナイの側に四六時中侍っていたい所ですが、流石に迷惑でしょうしねえ……」
師弟揃って目をキラキラさせながら机の上に転がっている黄色い二つの卵さんを見ている。触れてみようという気はないらしく、彼らは卵の側でめでたいめでたいと零していた。卵さんが二つになったことで問題が生じてしまうのかとグリフォンさんと視線を合わせれば、彼女は嘴を私の頬に寄せてぐりぐりと押し付ける。
『卵を二つ産むことはあるでしょうけれど、一つの卵から二つに増えるとは聞いたことがありません。魔素が多い証でしょうし、増えたことで不都合はありません。むしろ我々グリフォンはナイさんに感謝をしなければならないのでしょう』
「二つになったけれど本当に問題はないの? 未熟なまま孵ったり、卵の中で成長しないままとかあり得るんじゃあ……?」
卵の中に黄味が二つ入っていると、卵の中で成長することはない……とか耳にした記憶が残っているのだけれど。でも魔力とか魔素がものを言う世界である。問題なく育ってしまう、どころかルカとジアのように特殊個体として産まれてくる可能性もあるのか。
『そのような心配は必要ありません。卵が二つになったのは、魔素が十分に足りていたからと安易に推測ができましょう。きっと強い仔になりますし、二頭一緒に育つ姿を見守ることになるので楽しみが増えました』
べしんべしんと地面に勢いよく尻尾を振っているグリフォンさん。やはり托卵で産み育てるのが一番のようですねえ、とグリフォンさんが呑気に仰ると同時に、執務室にいたソフィーアさまが東屋にやってきた。毛玉ちゃんたちが近づいてくる彼女を迎えに行き、足元を何度か回って五頭とソフィーアさまが私たちの下へと辿り着いた。
「ナイ、騒がしいから様子を見にきたが、なにかあったのか?」
どうやら騒いでいた声が執務室まで届き、真面目なソフィーアさまは様子が気になり問題がないか確認を取りにきたようだ。グリフォンさんの卵さんが増えたと告げる前に、彼女の視線がテーブルの上に向けられた。説明は必要なさそうだと黙ってソフィーアさまを見守っていると、彼女が眉間に眉を寄せた数瞬後綺麗な形の目を広げる。
「どうして卵が二つに増えているんだ、ナイっ!?」
ソフィーアさまはわなわなと唇を震わせて、私に強めの口調で何故と問う。どうしてと問われても私も答えが知りたい所であるし、理由を識者の方から聞いても『魔素が多いから』と教えてくれるだけ。彼女もきっと理解しているはずなのに、私に聞いたのは常識から外れた出来事が起こってしまったからだろう。ソフィーアさまを責めることはできないなあと悩んでいると、番の竜さんたちが彼女の後ろに回って脇の間に顔を挟んだ。
『どうしてだろう?』
『増えちゃった~!』
番の竜さんたちはソフィーアさまの顔を見上げている。尻尾を機嫌良く振って、彼女が困っている姿を楽しんでいるようだ。名指しで問いかけられたから、私が彼女へ答えるしかないと腹を括る。
「その……お茶を飲んでいたら、こてんと卵さんが分かれまして」
事実だけを告げるなら、こう言うしかない。本当にお茶を飲んでいたら、こてんと卵が分かれて二個になったのだから。
「こてん、と卵が分かれてたまるか! またアルバトロス城へ説明に赴けば白い目で見られる……ナイ、そろそろ打ち止めにしておかなければ、外務部の者から仕事を増やすなと言われるぞ! メンガーも外務部に配置されたばかりなんだ。せめて加減をしてやれ!」
白い目で見られる、云々の所はかなり小声だった。全くやらかすなと言わない辺りはソフィーアさまの優しさなのかもしれない。確かにお城に説明に赴けば、公爵さまと外務卿さまは楽しそうに私の報告を聞いてくれるけれど、宰相さまと他の面々は顔を引き攣らせていることが多いような。
陛下は静かにどんと構えて話を聞いてくれるけれど、王太子殿下は唇の端を歪にしている時がある。私がトラブルに巻き込まれると、アルバトロス王国まで巻き込んでしまうのは百も承知である。これからは領地で活動予定なので早々問題は起きないはずなので、今回は? 今回も? 許して頂きたいところだ。
「まあまあ、ソフィーアさん。ナイを責めても仕方ありません。それにナイを強く責めると、彼女よりも周りの皆さまが落ち込んでしまいますわ」
「そうですねえ。外務部の皆さまは今の今まで日陰者でした。外務卿殿が国のために働けることが嬉しいと、仰っているところを聞きましたよ。それに幻獣の皆さま方は自然に生きているのです。自然に卵が増えたのであれば、喜ばしいことですよ。ねえ?」
セレスティアさまと副団長さまが加勢してくれた。少し納得がいかない気もするけれど、悪気がある訳じゃない。クロとエルとジョセと、ヴァナルと雪さんたちはソフィーアさまの言葉を聞いて少し落ち込んでいる。グリフォンさんも『ご迷惑だったのでしょうか?』と首を傾げていた。
「うぐっ……その、ナイと皆さまが悪い訳ではありません。ただこれ以上、幻獣の皆さまがナイの下へ集まってしまえば騒ぎになります。皆さまは人間と意思疎通が可能なために、国と国が争わずに済んでおりますが……――」
また幻獣などが現れて私に懐くのは良いけれど、フソウ国とヤーバン王国のように讃え奉っている存在かもしれない。もし、言葉を交わすことができなければ、ややこしい事態に発展することは確実である……とソフィーアさまは仰った。確かにみんなと意思疎通できているから、フソウでもヤーバンでも問題なく雪さんたちとグリフォンさんを子爵邸に迎えることができた。
「暴れている幻獣ならば魔術で対処致しますし、討伐隊を編成するだけですよ?」
副団長さまであれば暴れている魔獣を難なく倒してしまうだろう。討伐隊に彼を組み込めば被害を最小限に喰い止めることができるはず。
「先生。確かに暴れている魔獣や幻獣であれば討伐隊を組み、被害を最小限に留めるべきですが……我々が対処できない相手の可能性もありましょう」
ソフィーアさまが少し困ったような顔で副団長さまの顔を見た。彼女が言った通り、これから先に私たちでは手に負えない大きな存在が出てくる可能性だってある。そうなってしまえば、どうにか踏ん張るしかないけれど……誰かが犠牲になることだってあり得るだろう。想像したくはないが、失う物があるかもしれない。
「そうなれば、弱い者が淘汰されるだけです。自然な流れですよ。しかし、まあ、貴女の言いたいことも理解できます。ミナーヴァ子爵さまの魔力に惹かれて多様な方々が集まっておりますから」
好意を持っている者ばかりではないだろうと副団長さまは仰った。もし仮にそうなってしまえば、ジークとリン、そしてクロとロゼさんとヴァナルたちが私を守ろうとするだろう。副団長さまも、ソフィーアさまとセレスティアさまも私を守ってくれるはずだ。だから私も彼らを守らなければならないし、負けてなんていられない。
『お城の方々への説明は私が執り行った方が良いのでしょうか?』
グリフォンさんがソフィーアさまにこてんと首を傾げながら問うた。グリフォンさんが報告に赴けば、お城の皆さまは驚くのではないだろうか。
「あ、いえ。そういうわけでは。ナイの悪い癖で、細かい部分を記し忘れたり、伝え忘れることがあるのです。本人に悪気はなく、報告自体に問題はないのですが……特殊な個体が誕生したというのに、無事に産まれたとだけ伝えてしまう癖があります」
ソフィーアさまがナイの悪癖で何度我々が驚かされたことか、と渋い顔になっていた。それについては真にごめんなさい。ソフィーアさまが仰った通り、無事に産まれたことが嬉しくて、ルカのことを黒い馬体で翼が二対あるということをうっかりと書き忘れていたのだ。ジアの時は同じ過ちは繰り返すまいと、きちんと赤い馬体の天馬さまと報告したのに……ソフィーアさま的には帳消しにはならなかったようで。
『そして、アルバトロス上層部の皆さまや子爵邸で働く方々が驚いてしまうのですね』
グリフォンさんがくすくすと笑いながら私に視線を向けた。なんだか『私の卵が孵った時はどう報告してくださるのでしょうか。楽しみですね』と言っている気がしてならない。
「はい。めでたいことですし、良いことなのですが、関係各所へ知らせを入れねばならぬので、二度手間になる場合がありますから」
ソフィーアさまが申し訳なさそうに私を見ながら言葉を発した。
「うっ……!」
妙な痛みが私の胸に走った。確かに一度連絡を入れたのに追加で報告を上げなおさなければならないから、二度手間になっている。幻獣さんたちに懐かれて大変だと思えど、やはり新たな命が誕生した瞬間は嬉しい。
無事に産まれてくれたことや、すくすくと成長している姿を眺めるのは楽しいし嬉しい。でも嬉しいだけで報告をきちんとできないのは、成人したお貴族さまとして駄目である。次からはもっと気を付けようと心に刻み込むが、何度かやらかしているので少し不安である。
『お茶目な所もあるのですねえ』
「お茶目で済めば良いのですが、彼女の立場が立場故に困る者がいるのです」
まだくすくすと笑っているグリフォンさんの顔と、今日は妙に手厳しいソフィーアさまの顔を交互に視線を向ける。もしかしてソフィーアさまは私の抜けている所のせいでストレスを抱えているのだろうか。苦笑いを浮かべて私たちのやり取りを見守っている面々に、後でソフィーアさまについて相談してみようと心配になるのだった。