魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

453 / 740
0453:叙爵式と陞爵式。

 ジークとリンの褒章授与式が終わり、次は叙爵式となる。

 

 叙爵式はジークとリン以外にも、アルバトロス王国で功績を上げた方々も参加するので二人だけではない。私も先ほど参加を請われたし、待機室には叙爵する方が集まっていた。その中には見知った顔もあり彼に爵位が授与されるとは全く考えておらず、意外だなあと驚いているとご本人が照れ臭そうに私たちへと視線を向ける。少し気が早いけれど、おめでとうを伝えようと件の方へと歩を進めた。

 

 「メンガーさま。メンガーさまも叙爵するのですね。おめでとうございます」

 

 私とジークとリンはメンガーさまの前に立って小さく目線を下げた。今、待機室にいる方たちは叙爵する方しか控えていない。壁際には護衛の方々がいるけれど、叙爵者と彼らとの線引きははっきりとしているので分かり易かった。

 まさか彼が叙爵するとは露知らず、祝いの品も用意していない。学院の同級生だし、なにを贈れば彼は喜んでくれるだろうかと思案しながらメンガーさまと視線を合わせる。

 

 「ミナーヴァ子爵、ありがとうございます。ハイゼンベルグ公爵閣下のご厚意により、今回の授与となりました。法衣を賜る予定なので領地運営には手を出さずに済みますが、当主を務めることになりますので今後ともよろしくお願い致します」

 

 「こちらこそ、よろしくお願い致します。学院では沢山のご助力を頂き、役立たせることができました」

 

 メンガーさまが頭を下げた。爵位を考えると彼の方が下の立場となるので当然の振る舞いだが、どうにも落ち着かない。謙る方に慣れてしまっているなあと苦笑いを浮かべるけれど、他の方々もいらっしゃる場なので致し方ない。

 

 「いえ、どうぞお気になさらず」

 

 お互いに笑みを浮かべていると、メンガーさまが視線の矛先を変えた。彼はジークとリンへ身体を向けると、そっくり兄妹が半歩前に出る。

 

 「おめでとう、エーリヒ」

 

 「おめでとうございます」

 

 ジークが胸に手を当てて礼を執り、リンも目線を下げて礼を執る。メンガーさまとジークはそれなりに言葉を交わしているけれど、リンが彼と声を交えるのは初めてではなかろうか。リンが他の方におめでとうと伝えている姿に、大きくなったなあと感動を覚えているとメンガーさまも小さく目線を下げて礼を執った。

 

 「ありがとう。ジークフリードとジークリンデさんもおめでとうございます。今後ともアルバトロス王国の貴族家のひとつとして、よろしくお願い致します」

 

 ふっと笑みを浮かべるメンガーさまに、ジークも小さく笑いリンは再度目線を下げる。彼らの交流が続いていけば良いなと願いながら、待機室で時間がくるのを待っていた。

 

 暫く待っていれば全員が呼ばれて、謁見場へと進み入る。公爵さまと辺境伯さまにラウ男爵さまも見学席にいらっしゃっていた。お二人は私の後ろ盾であるし、ラウ男爵さまはジークとリンの書類上の父親だから見学は当然できる。

 

 メンガー伯爵さまも見学席に控えており、ご子息さまの晴れ舞台を緊張した様子で見守るようだ。あとジークとリンと私の家族枠としてクレイグとサフィールも一張羅に身を包んで会場の隅っこで見てくれている。少し気恥しいけれど、クレイグとサフィールも誘いたいとアルバトロス上層部に相談を持ち掛け快諾を頂けたのは感謝しかない。

 二人は謁見場に引っ張り出されて迷惑かもしれないが、私が貴族家の当主として道を踏み外さないように見張っていて欲しいから……だから二度目の出発点となる今回は参加して欲しいと二人に請い、私の願いが叶った形となる。

 

 陛下から一人ずつ名を呼ばれて玉座の前へと進む。緊張して上手く歩けない方を見ていると微笑ましく見えてしまう。そうしてメンガーさまの名が呼ばれると、メンガーさまが近衛騎士さまの案内によって陛下の御前に立った。

 

 「エーリヒ・メンガーには準男爵位を与え、今この時よりエーリヒ・ベナンターと名乗れ。今後の働きに期待する」

 

 陛下が短剣を差し出し、メンガーさまが受け取った。今後、彼のことをメンガーさまと呼べなくなってしまった。お貴族さまについて詳しくないので、法衣の爵位を賜る際に改名を余儀なくされるのだろうか。

 私の場合は平民上がりの叙爵だったので、陛下が悩みに悩んだ末に『ミナーヴァ』という家名を贈ってくださった。ベナンター準男爵、ベナンター準男爵と何度も復唱していると、次はリンの名前が呼ばれて彼女が一人で陛下の前に立つ。大丈夫かと心配になるが、教会騎士として礼儀作法は仕込まれているから大丈夫と自分に言い聞かせる。

 

 リンは陛下に対して失礼な態度は執らないだろうが、顔に感情が出辛いタイプなので陛下に機嫌が悪いと勘違いされないか心配である。お願いだから陛下の関心がリンではなく、彼女の肩の上にのる仔竜さんに向いて欲しいと願う。

 私がそわそわしているのが伝わったのか、クロが尻尾で私の背中をばしばし叩く。心配ないよと言いたいのか、気にしすぎと言いたいのか、リンを信頼してあげてと言いたいのか……分からない。ジークの顔をそっと見上げるといつも通りの顔なので、妹の心配は全くないようだ。

 

 「ジークリンデ・ラウには邪竜を屠ったことを讃え男爵位を与える。今この時よりジークリンデ・ガルと名乗り、黒髪聖女の剣として仕える主を守りなさい」

 

 陛下がまた短剣を差し出して、リンが受け取る。彼女も新たな家名を陛下から頂けたようだ。今後はジークリンデ・ガルと名乗ることになるようで、家名が短いのはラウ男爵さまへの配慮だろうか。覚えやすいから良かったし、リンも独立してお貴族さまの仲間入りとなる。

 

 法衣なので領地持ちの方々より下に見られるかもしれないが『邪竜殺しの英雄』の二つ名があるので、ジークとリンを馬鹿にする方は早々出ないだろう。ジークとリンは馬鹿にされることや見下されることを気にしないが、そっくり兄妹を馬鹿にする人がいれば先に私がキレ散らかす。確実に……。そしてジークとリンに『放っておけ』『言わせたいだけ言わせておけば良い』と窘められるのだろう。起こるかもしれない未来を想像していると、入れ替わりにジークの名前が呼ばれて陛下の前へと進む。リンが戻ってきて、照れ臭そうな笑みを私に向けていた。

 

 「ジークフリード・ラウには邪竜を屠ったことを讃え男爵位を与える。今この時よりジークフリード・ロウと名乗り、黒髪聖女の剣として曲がらず、折れず仕える主を守りきれ」

 

 陛下が短剣を差し出して、ジークが受け取る。ジークも新たな家名を名乗ることになるようだ。リンと違う家名だけれど、それぞれに与えられた叙爵だから当然か。ジークの新しい家名も覚えやすくて良かったと胸を撫で下ろす。

 

 付き合いは長くなるので心配はしていないけれど、長い家名だと呂律が怪しくなるから単純なものが楽なのだ。お貴族さまの振る舞いは大変だけれど、ラウ男爵さまの所でいろいろと学んできたはずだから大丈夫だ。

 功績によって法衣の叙爵であれば、夜会やお茶会を開く機会は少ないはず。でも、逆に『邪竜殺しの英雄』の二つ名を賜ったから、有名税で社交界に呼ばれる頻度は上がりそうだ。社交界にどれくらい二人は踏み入れるつもりなのかも聞いておかないと。参加したい夜会とかお茶会があるなら、私の護衛なんて担っている場合ではない。護衛は代役が立てられるけれど、参加したい夜会は一度キリだ。ジークとリンが私と一緒にいないのは寂しいけれど仕方ないし、二人はお貴族さまとして振舞わなければならないのだから。

 

 「ナイ・ミナーヴァ子爵、前へ」

 

 係の方に名を呼ばれると近衛騎士さまが私の下にきて、彼の後ろをついて行く。そうして陛下の前に立ち膝を突いて礼を執れば、陛下が一拍置いて静かに口を開いた。

 

 「ナイ・ミナーヴァ子爵、これまでの功績を鑑みて新たに侯爵位を与える」

 

 ついに陞爵してしまうのだなあと、陛下の声に耳を傾けていた。聖女だから伯爵位がせいぜいだろうと構えていたのに、今、陛下はなんと言ったのだろう。

 

 公爵位はあり得ないので、侯爵位と言ったのであろうか。どうして伯爵位をすっ飛ばして侯爵位を私が賜るのか。男尊女卑が大いにまかり通る世界で、女の私が侯爵位に昇りつめるのはお貴族さまの男性陣が良く思わないのではなかろうか。

 

 私にそんなに高い爵位を与えて大丈夫か、と問いたくなるがアルバトロス王国最高位に位置する陛下が決めたことである。そもそも法衣か領地持ちのお貴族さまかまだ分からないし。功績によって与えられるならば法衣貴族だろうし、豪華な年金生活を送れるのだから侯爵位は有難く受け取って、頂いた年金を子爵領に注ぎ込むのが正解だろう。

 

 「今この時よりナイ・アストライアーと名乗り、新たに所領する地の当主としてアルバトロス王国を盛り立てよ」

 

 新たに領地を賜るようだから領地貴族だった。しかし侯爵位が治めるほどの空いた土地がアルバトロス王国は所持していただろうかと首を傾げる。もしかして誰か私のために犠牲になった方がいらっしゃる?

 でも、陛下がそんな横暴な振る舞いをするはずもないから、王家が管理していた土地を賜るのだろう。陛下が近衛騎士さまが差し出した長剣を受け取って、私に近づいて腕を伸ばす。

 

 「謹んで、拝領致します」

 

 膝を突いたまま両手を掲げて長剣を受け取った。子爵領を頂いた時にも長剣を陛下から賜っていたけれど、その時の長剣より装飾が多く施されていてかなり豪華な仕様となっている。

 私が腰に佩くと引きずりそうなので、確りと両腕に抱えて元の位置へと戻ると公爵さまがによによとこちらを見ていた。公爵さまは事前に私が賜る爵位を知っていたようだから、私を驚かせるために周囲に黙っていて欲しいとお願いした可能性は十分にある。

 

 そもそも陞爵の話は陛下が自ら教えてくださっていたので、賜る爵位を聞かなかった私も悪いのか……。前向きに考えるのであれば、広い領地を賜ることになるので幻獣のみんなが喜んでくれるはず。

 栄えている場所なのか、問題のある領地なのかも分からないから、子爵領の収入と聖女の収入で、賜る侯爵領を盛り立てることはできるのだろうか。この辺りは家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまと相談になるし、新しい領主邸で働く方を雇わなければならない。子爵領の領主邸が完成したばかりだというのに、お披露目会も終わらぬまま叙爵するとは思ってもいなかった。

 

 やるべきことが増えたけれど、土地が広いなら農地を開拓して野菜作りに精を出すのも有りである。頑張ってみますかねえ、と謁見場を見渡して叙爵式を終えるのだった。

 

 ◇

 

 新たに爵位と領地を頂いた上に、陛下から新たな家名まで下賜されてしまった。

 

 貴族として頑張って行こうと決めたし、お野菜沢山作ろう計画を発動させたなら広い領地を賜ったことは有難く、侯爵位を頂けたなら私に文句を付ける人もそうそういまい。爵位を受け取ったことに対するプラス面とマイナス面を考えると、得をする要素が多い気がする。とはいえお仕事が増えてしまうし、新しい人員を雇わなければいけないけれど。

 

 今は謁見場の見学席にいたクレイグとサフィールと合流して、人気が少なくなるまで待機部屋を借りて時間を潰している。

 

 「ナイが侯爵位を持つなんてな。でも、他国と国交を開いているんだから、当然っちゃあ、当然なのか」

 

 「僕は偉い方々の考えに詳しくないからあまり言えないけれど、竜とフェンリルとケルベロスと天馬とグリフォンをお屋敷に住まわせる貴族なんて聞いたことないからね……」

 

 クレイグとサフィールが託児所と奨学金制度に賞与のこととか、新たな制度を作り出したことを褒めてくれる。二人は凄いと褒めてくれるけれど、前世であったシステムを借りているだけなので威張ることでもない。

 立場と地位とお金さえあればメンガーさま、もとい……えっと……ベナンターさまが制度を提唱してもおかしくはないのだ。だから私は日本の社会基盤を真似しただけだし、他に転生者がいて私と同じことを考えて行動に移す人がいるかもしれない。

 

 「クロたちと一緒に過ごすようになったのは彼らの意思だから、私が凄いって訳じゃないよ」

 

 とりあえず、クロたちと一緒に過ごしているのは運命のいたずらとか、流れに身を任せていたらそうなっただけである。もちろん彼らと一緒にいると楽しいし、癒されることもあるので全然問題はない。

 何故か私は彼らに気に入られて一緒に過ごしているだけなのに、周りの方々が驚くことが一番の問題なのかもしれない……でも卵さんを二個に増やしてしまったことは確実に私の責任である。今も私のお腹の所に袋に下げた卵さんを抱えており仄かな温かみを感じていた。

 

 「でもナイが受け入れてくれないと叶わないことでしょう」

 

 「だな。みんな話が通じるんだから、ナイが嫌がれば屋敷に住み着くなんてしないだろ」

 

 サフィールが苦笑いで、クレイグが少し真面目な顔で問うてくる。

 

 「多分、説得すれば一緒にはいないかなあ……どうなんだろ?」

 

 みんなとは話が通じるので、一緒に過ごすのは諦めて欲しいと私が願い出れば叶うと思う。そこの所はどうなのかと、クロに視線を合わせると小さく首を傾げて答えてくれる。

 

 『ナイが嫌がればボクは諦めるけれど……会いたいなあって願っちゃうからアルバトロス王国に何度も足を踏み入れることになるかなあ。そっちの方が迷惑になるかもしれないよ?』

 

 亜人連合国とアルバトロス王国までは距離があるから、速く飛べるように大きなサイズになって行き来をするらしい。確かに大きな竜が何度も王都の空を飛べば、皆さま驚くことだろう。最近は慣れたようで、竜の方が亜人連合国の徽章を掲げていれば『飛竜便か』と納得してくれるようになっているそうだ。

 王都の方々が竜の皆さまに慣れてしまったのは、私が移動手段としてお願いしているから、というのが一番大きな理由となるかもしれない。大陸を渡るには陸路と海路ではなく、一直線に目的の場所を目指せる空路が一番早いのだ。あと制空権の概念が希薄で、空を飛んでも領空侵犯だと他国から苦情がこないから。

 無断で飛べば現地の方々が驚くのは必然だ。連絡を入れられる国には『何時いつに上空通過します』とお知らせしているけれど。

 

 私の影の中から毛玉ちゃんたちがびゅっと出てきて、わらわらと私の周りに集まって床にお尻を付けた。私は立っているので毛玉ちゃんたちの顔が下の位置になるのだが、彼らは上目遣いで私と視線を合わせてなにかを問い掛けている。

 どうしたのだろうか、と首を傾げるとクロが『ナイとはまだ暫く一緒にいたいって訴えているよ~』と教えてくれた。しゃがみ込んで彼らと顔を近づけると顔を軽く舐められる。無差別ベロベロ攻撃ではないので、どうやら気を使ってくれているようだ。毛玉ちゃんたちは日々成長しているなと感じていると、公爵さまと辺境伯さまが待機部屋にやってきた。

 

 「ナイ、侯爵位授与おめでとう。まさかここまでの地位を得るとはな。三年前は学院に通わせて卒業すれば、貧民街出身の聖女と蔑む者に対抗できると考えていたが、ワシの予想を遥かに大きく超えていったのは驚きだ!」

 

 くくく、と面白そうに喉を鳴らす公爵さま。確かに学院に通わないまま聖女を務めていたら、貧民街出身の聖女だとずっとついて回っただろう。お貴族さま出身の聖女さまは家柄を気にする方が多いし、平民の聖女を下に見ている。貧民街出身なんて以ての外……みたいな風潮もあったから、公爵さまが私を学院に通わせたのは箔を付けたかったからのようだ。彼の場合、私がやらかすことも期待していただろうけれど。

 

 「ありがとうございます、閣下」

 

 私も流石に他国に飛び回るとは全く考えていなかったし、爵位を賜って領主貴族の一員になるとは露とも考えていなかった。本当になるようにしかならないというか……乙女ゲームの世界だったからこそ、王子さま方に縁を持ち波乱に巻き込まれてしまったというか。なににせよ、公爵さまの期待も裏切れないから、これからも聖女とお貴族さまとして頑張っていかないと。

 

 「ジークフリードとジークリンデもだ。邪竜を屠り爵位を得た者は、過去のアルバトロス王国に存在しない。胸を張って誇りなさい」

 

 公爵さまの声にジークとリンが『ありがとうございます』と告げ、胸に手を当て礼を執る。過去のアルバトロス王国で竜を倒した方はいないのか……ゲームの世界だから、割と多くいるだろうと考えていたのに私の感覚と世間の常識が乖離していた。

 亜人連合国のドワーフさんたちが造ってくれた品も珍しいようだし、気を配っておかなければまたソフィーアさまとセレスティアさまに苦言を頂くことになるのだろうか。前世の記憶があるものだから、イマイチ今住んでいる世界の価値観の正しさが把握しきれていないのは問題である。

 

 「クレイグとサフィールも己のできる範囲でナイを支えてやってくれ」

 

 公爵さまはそっくり兄妹からクレイグとサフィールへと身体を向けて視線を合わせる。

 

 「承知致しました」

 

 「はい、閣下」

 

 クレイグとサフィールは公爵さまの雰囲気に慣れていないのか、少し緊張した面持ちで返事をしていた。公爵さまの短い言葉だったけれど、遠回しに無理はするなよと告げているように感じられた。二人は戦闘面で無力だ。彼らが私を守ろうとしても、逆にジークとリンと私が守ろうとする。だからこそ、公爵さまはいろいろと見越して無理はするなと伝えたのだ。己のできる範囲で十分だと。

 クレイグとサフィールをお荷物だと一度も感じていない。貧民街から一緒に過ごしてきた仲間であり、お互いに足りないところを補っている。公爵さまは私たち五人の関係をきちんと慮ってくれ、問題に巻き込まれないようにと貴族籍へ入る手配をしてくれた。やはり公爵さまには敵わないし、逆らう気は起きない。今まで私たちを見守ってくれた保護者だよなあ、と彼と視線を合わせた。

 

 「閣下、八年間私たちに目を掛けて頂き感謝いたします。この御恩はアルバトロス王国へ還すことが一番の恩返しになると考えております。これから侯爵家の当主として恥じぬよう、前に進んでまいります」

 

 お別れ会の席で同じことを彼に告げた気もするが、言葉は何度でも伝えても問題ないだろう。私の言葉ににかりと笑った公爵さまが、持っていた杖で軽く床を叩いた。

 

 「ああ。これからもワシらを驚かせてくれ!」

 

 目の前のお方はいついかなる時も面白いことに貪欲だなあと安堵する。そうしてヴァイセンベルク辺境伯さまが半歩私の前に出る。

 

 「アストライアー閣下、侯爵位授与おめでとう。今回の陞爵で立場が同じになりましたな。ヴァイセンベルク家が其方の後ろ盾を続けても意味はないと私は判断するが、どうするかね?」

 

 辺境伯さまに畏まった態度を取られると違和感が湧く。そもそもアストライアー侯爵家としての歴史は数時間なのだから気にしないで欲しい。お貴族さまとしてなら辺境伯さまの方が格上だし、これからも相談事があれば乗って欲しいのだから。

 セレスティアさまが辺境伯さまの言葉を聞いて『嘘でございましょう!?』と驚いている。私が後ろ盾を断る気は全くないのに、辞退を申し出た父親に反論をしたいのに公爵さまが同席しているのでなにも言えないらしい。

 

 「できうるならば、このまま後ろ盾を続けて欲しくあります。新興の侯爵家です。歴史の長い家々には敵いませんし、わたくしは貴族として未熟です」

 

 私、お貴族さまのしきたりとか凄く苦手というか、なにも知らないというのが本音である。聖女として子爵位を賜ったので、お貴族さま的な活動は全くしていなかった。流石にこれからは少しずつでも社交界に足を踏み入れなければならないだろう。私的な場なら今までと同じ対応で構わないと辺境伯さまにお願いすると、ふうと彼が息を吐いた。

 

 「承知した。これからも良き関係を築きたいものですな」

 

 「はい。よろしくお願いしたします」

 

 辺境伯さまの言葉に小さく礼を執り、そういえば家と家との関係を強く持つべき人って誰だろうと考える。一番はアルバトロス王家だろう。次に私の後ろ盾であるハイゼンベルグ公爵家とヴァイセンベルク辺境伯家だ。

 あとはジークとリンがお世話になっているラウ男爵さまと本筋である伯爵家に、ベナンター準男爵さまとご実家であるメンガー伯爵家もか。それを考えるならば、ソフィーアさまが新たに賜るお家とも関係を強化しなきゃいけないし、セレスティアさまが輿入れするクルーガー伯爵家も繋がりを持たなければ。アリアさまとロザリンデさまとも関係を切るつもりはないので、フライハイト男爵家とリヒター侯爵家も忘れないようにリストアップしておこう。

 

 他国であれば亜人連合国は真っ先に上げなきゃいけないし、フソウ国の帝室と幕府にリーム王家とウーノさまが継ぐアガレス帝家も入る。アストライアー侯爵家が仲を取り持たなければいけないお相手が沢山あるぞと目を細めるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。