魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0459:猫背の魔術師さま。

 共和国の富める方々のリーダー格の女性と一悶着あった数日後。

 

 いつも通り子爵邸の執務室で午前の仕事をしている最中である。ソフィーアさまと家宰さまの報告がなされ、セレスティアさまと私は耳を傾けて聞いていた。ジークとリンも壁際で話を聞いている。クロは私の肩の上で機嫌良く尻尾を振っているし、毛玉ちゃんたちは私の足元で寝息を立てていた。

 

 お金持ちグループのリーダー格の女性は共和国に戻され、共和国政府は問題児を連れてきて申し訳ないとアルバトロス上層部に平謝りで私にも謝罪の手紙が届いている。個人の行動だし共和国政府を追い詰める気はなく、私は共和国側の謝罪は受け入れている。本人や親御さんから届いても知らぬ存ぜぬを通す予定である。

 

 女性を送還するためにアルバトロス側の指揮を執ったのはエーリヒさまだったそうだ。無事に務めを果たしてほっとしていたとのこと。私のトラブルに巻き込んでしまい申し訳ない限りだが、外務部に配属された時点で忙しいことは確定していたから頑張って欲しい。

 

 「もし来期があるなら、今回の件は手本にされそうだな」

 

 「ソフィーアさん、それは手本と言えるのかしら?」

 

 一通りの報告を終えたソフィーアさまが小さく息を吐きながらご自身の意見を呟いた。彼女の言葉を聞いていたセレスティアさまが不思議そうな顔を浮かべて問い返す。まあ、今回の富める方々のリーダー格の女性は反面教師として語り継がれそうである。

 ある意味、研修第一期生で伝説の星となって共和国の歴史に残ることだろう。残った一期生はこれから妙な行動を起こせば彼女のようになると示せたので、もう変なことは考えまい。真面目に学び無事に資格を得て、共和国で治癒師として名を上げて欲しい。

 

 「悪い意味で、ということだ」

 

 「ああ、そういうことでございますか。それならば納得です」

 

 ソフィーアさまの回答にセレスティアさまは納得して小さく頷いた。家宰さまはいつもの表情で私たちのやり取りを聞いている。口を挟まないということは問題はなく、この件は解決したと判断して良いだろう。

 

 「ナイ」

 

 「はい?」

 

 ソフィーアさまが思い立ったように私の名前を呼んだので、どうしたのかと視線を合わせた。

 

 「先生が連れてきた魔術師の面倒を引き続き見るのか?」

 

 副団長さまが連れてきた猫背の魔術師さんに施した治癒は一度で快癒するものではない。というか、長年研究室に引き籠って同じ体勢を取っていたことと、食事をマトモにとっていなかったのでガリガリだった。

 放っておけば直ぐに息絶えそうだし、魔術師団の皆さまに任せておくと忘れ去られそうである。失礼だが、自己管理ができていないので面倒を見ないと、直ぐに治癒を施した意味が吹っ飛んでしまう。再度治癒を受けて頂くことを約束したし、少しでも外に出るようにと治癒を施す場所は騎士団の隊舎を借りることにしている。乗りかかった船だから、きちんと治るまで面倒を見るつもりだ。

 

 「そうですね。週に一度は魔力補填で登城しているので、ついでと言っては申し訳ないですが魔術師の方の治癒を施してしまおうかと」

 

 私が週に一度登城していなければ、猫背の魔術師さんは放置していたかもしれないとは言えない。魔術師団の隊舎はお城の中だから簡単には踏み入れられないし、教会にきてくださいと伝えても完全な引き籠もりである。きてくれそうにない。

 そういえば副団長さまと同期ということは彼と同じ年齢だろうし、最悪はまた副団長さまに引っ張り出して頂かねば。

 

 「あ、私が差し出した提案書はどう判断されたのでしょう?」

 

 猫背の魔術師さんの治癒の件で思い至ったことがあり、提案書を初めてアルバトロス王国に出してみた。最初は嘆願書で良いのかなと考えていたけれど『嘆願』では重い話に捉えられそうなので『提案』の文字にして意味を軽くしてみた。

 無事に陛下方の下へ届いたようで協議に入ったとは聞いていた。提出して数日が経っているので、却下されたか検討するかくらいの判断はされているだろう。

 

 「定期的な健康診断? だったな。悪い話ではないから、前向きに検討すると聞いている。騎士団や軍に官僚たちにも実施して良いかもしれないと陛下が仰っていたそうだ」

 

 「広がってる……まあ、良いことですし、教会を巻き込んでアルバトロスからお金を引っ張って貰いましょう」

 

 働いている皆さまの健康維持は大切なことである。引き籠もって痩せ細った彼の姿を見た時に、長年放置されていたことに気付いてしまったし、第二、第三の彼を生み出さないためには管理する誰かが必要だと考えてしまったのだ。

 

 悪い話ではないし、簡単に痛い所や気になることはないかと聞くだけでも違うだろう。痛みを我慢して発見が遅くなり、聖女さまの治癒をもってしても治らないということもある。早く申し出てくれれば治るはずだったのにと後悔している聖女さまを何度も見てきた。そんなことも回避したかった故の提案書である。どうやら陛下とアルバトロス上層部の皆さまは前向きに捉えてくれているようで良かった。

 あとは教会の皆さまが納得してくれれば良いのだが。仕事を増やした形になるが確実な資金源となるから、彼らにも悪い話ではないはず。あとは国と教会で話し合って、健康診断の開催頻度やどこまで詳しく診るかが焦点になる。

 

 「ナイ、最近思い切りが良くないか?」

 

 「そうでしょうか?」

 

 ソフィーアさまが妙な顔で問いかけた。でも以前の私であれば、こんなに前向きに捉えていなかった気がする。侯爵位を賜った自覚が出てきたのではなく、爵位に驕っているのだろうか。地位を盾にして、力を振るう人はあまり好きになれない。権力に溺れないように気を付けておかなければ、いつかどこかで足を掬われそうだ。

 

 「以前までなら『どうしてそうなるのですか!』とか仰っていませんでしたか?」

 

 セレスティアさまがにやにやと笑いながら私を見る。確かに以前までなら『広がっている、なんで!?』とか言っていたはず。ここにきてようやく腹を決めたというか、もうどうにでもなーれ! というか……良く分からない心境の変化が私の中にあるようだ。自覚できていない所が自分らしいといえば自分らしいのだろうか。

 

 「言っていましたね。でも、今更言ったところで状況が変わる訳でもないですし平民には戻れません。それに我が儘なのかもしれませんが、貧民街で一緒に過ごした仲間やクロたちと一緒にいたいなら今の環境でなければなりませんし……今まで出会った方たちとも縁を切りたくはないですから」

 

 私の言葉を聞いたクロが尻尾で背中をぺしぺし叩いている。喜んでくれているのかは分からないけれど、三年近く一緒にいるのだから今更離れるとなれば寂しいし、ジークとリンとは教会宿舎で一緒に過ごし、クレイグとサフィールとは別で過ごしていた。

 同じ屋根の下でもう一度暮らすようになるとは全く考えていなかったが、やはり小さい頃に一緒に過ごしたあの時間は忘れられないものだし、今一緒にいる時間も大切である。もちろん彼らが近い将来誰かと婚姻して別で暮らすことになるかもしれないけれど、今はまだ。

 

 「そうか」

 

 「良いことですわ」

 

 「ご当主さまが前向きになられたならば良いことですね」

 

 ふふふ、とお三方が柔らかく微笑む。そんなに良いことを言ったつもりはないのに、嬉しそうな顔をされるとむず痒くなるのだが。壁際では凄く嬉しそうに笑っているリンもいるし、なんだこの状況と首を傾げる。まあ、良いかと話題を終えて再度執務に取り掛かるのだった。

 

 ――数日後。

 

 アルバトロス城の一角にある騎士団の隊舎に辿り着いた。先程、お城の魔術陣に魔力を補填を終え、飛竜騎士団のワイバーンさんたちの様子を伺ってから赴いた。騎士団の隊舎にある外のベンチでジークとリンと私で猫背の魔術師さまを待っている所だ。

 さて、引き籠もりの猫背の魔術師さまは約束通りいらっしゃるのだろうかと待ち合わせ場所で待っていると、何故か副団長さまと魔術師団のお方が二名と件の魔術師さんがこちらに歩いてくる。一週間前に治癒を施しているので猫背は少しマシになっているし顔色もマシである。

 

 「聖女さま、お待たせして申し訳ございません。どうにか彼を説得して連れて参りました」

 

 「副団長さま、約束の時間前なので大丈夫です。しかし説得が必要だったのですか?」

 

 珍しく副団長さまは疲れた顔をしていた。というかいつもにこにこ笑ってなにを考えているか分からない彼の疲れた顔なんて初めて見た。猫背の魔術師さんを両脇に抱えているお二方もげんなりした顔をしていて、アンデッドみたいなやせっぽっちの方を運んできたとは思えないほど疲れた様子であった。

 

 「ええ。どうやら新術式の開発に嵌ってしまい、聖女さまとの約束をすっかり忘れていたようで……彼の研究室から無理矢理連れてきた次第です」

 

 いやはや参りました、と仰る副団長さま。一体、猫背の魔術師さんの研究室でどんな攻防が繰り広げられていたのだろう。

 

 「邪魔をしてしまったようですが……でも、酷い猫背や食事を摂らないと若くして命を落としてしまいます」

 

 作業を中断させたことは申し訳ないけれど約束もしていたし、こうして無理矢理に連れてこられたのならば治癒を施して猫背を改善させつつ肉体の活性化もさせなければ。動けば自然にお腹が空いて、お粥や軽い食事を摂れば活力がでるはず。そしてそこから食事量を上げて食べることを習慣化させれば……本当に大丈夫だろうか。

 

 「ええ、もちろんです。団長には許可を頂いておりますし彼を連れてきたことに問題はありません。ですが、面倒なことに拗ねていますねえ」

 

 「じゅつしき、いいところにきていたのに。さいこうに、きもちよかったのに……どうして……」

 

 猫背の魔術師さんはぶつぶつと呟いているが、若干言葉の端々が怪しい気がする。何故術式開発が最高に気持ち良いのか意味が分からない。いや、人様の趣味や好きなものを貶めるのは良くないが、疑問に思って問いかけて回答を聞いてしまえば後悔しそうなのだ。

 

 「えっと。術式の開発は治癒を施して、ご飯を食べてから行いましょう? 副団長さま、彼は普段一体どのような生活を?」

 

 まだぶつぶつとつぶやいている猫背の魔術師さんと私から目を逸らす副団長さま。

 

 「目を逸らさないでください! 魔術師団の隊舎から死人がでれば、問題視されて予算を削られればどうなるか分かっているのですか!?」

 

 ご自身の好きなことを追及できなくなりますよ、と副団長さまにも猫背の魔術師さんにも一緒に付いてきている魔術師さんにも語気を強めて伝えた。

 

 「ほとんど食べておりませんし、机に座ったきりで運動など皆無です。睡眠もまともにとっておりませんし、僕より日常生活が荒んでいると言えば伝わり易いでしょうか。予算が削られるのは困ります!」

 

 「おかねないとじゅつしきかいはつできない……それは、こまる……」

 

 良い歳をした大人二人がしょぼんとした顔になる。どうしてこんな方が魔術師団の副団長を務めているのだろう……って火力ではアルバトロス最高峰だし、知識量も凄いし、人として若干やばいけれど頼れる方だ。

 猫背の魔術師さんは魔術師団の中でどんな立ち位置なのかわからないが、副団長さまがこうして世話を焼いているから無能ではあるまい。

 

 「困るのであれば、ちゃんと治療を受けご飯を食べて寝てください! お風呂にも入ってくださいと言いたいですが、体力が落ちている方に無理は言えません」

 

 ああ、もう。言葉を荒げて喋るのは好きではないし聖女としてみっともないが、言葉を荒げないと伝わりそうもない。

 

 「兎にも角にも、治癒を施します! 以前より丸い背中はマシになっていますが、普通ではありませんよ。自覚しておられますか?」

 

 「はじめておこられた……」

 

 「話を聞いてください!」

 

 怒っているのに何故か猫背の魔術師さんは照れながら笑っている。なんだか調子がズレるなあと、猫背の魔術師さんにまた治癒を施す。寄付金、たらふく頂こうかな……。

 

 ◇

 

 猫背の魔術師さんに治癒を施した帰り道。ジークとリンと話しながら、子爵邸の魔術陣部屋に戻ってきた。そうして上階に上がり、ジークとリンと私たちは長い廊下を歩いている。

 

 猫背の魔術師さんは私の治癒を受けると嬉しそうに笑って『ありがとうございます』と告げた。お礼を言われれば悪い気はしないのだが、生活環境を改善しなければ同じことの繰り返しだし猫背のままであろう。副団長さま曰く、好き嫌いが激しくて食べること自体を好んでいないそうだ。

 

 私の真逆だと猫背の魔術師さんを見上げると、彼はへらりと顔を緩ませる。なんだ、この反応と訝しみながら好きな食べ物はなにか聞いてみると『魔素含有量が少ない食べ物』という、凄く無理難題なことを仰られたが手に入れられないことはない。

 アガレス帝国か共和国から食料を輸入すれば、彼の食事事情が改善されそうな気がする。向こうで食事を摂ったとき、満足感を得られ難かったのは食べ物に魔素量が少なかったからと推測できる。好き嫌いが多いというより、体内に自分以外の魔力や魔素が入り込むと拒否反応が現れるようだった。だからこそ治癒魔術は痛いから嫌いと仰って、治癒を拒否していたのだろう。

 私の場合は他の方の魔力の親和性が高いから、猫背の魔術師さんは痛みも感じず受け入れられた。面倒極まりない体質だけれど、アレルギー反応のようなものと考えればそういう方もいると納得できる。

 

 「ナイ」

 

 自分たちの部屋に戻る途中、ジークが私の名を呼んだ。

 

 「どうしたのジーク。リンも渋い顔してるね、大丈夫?」

 

 そっくり兄妹が妙な顔を浮かべて、私を見下ろしている。クロも彼らの感情が良く分からないようで、こてんを首を傾げながら尻尾をゆらゆらと揺らしていた。

 

 「あの魔術師はナイの優しさに付け込んでる」

 

 むうと口を尖らせたリンが唸った。優しさにかこつけているなら寄付代を踏み倒すだろうけれど、魔術師団と猫背の魔術師さんはきちんと寄付を支払ってくれると約束している。口約束なので心許ないが、約束を破って立場が悪くなるのは魔術師団と彼だ。だから寄付代に関しては心配していないのに、リンはどうしたのだろうか。

 

 「アガレス帝国や共和国に掛け合って食料を融通して貰うのは構わないが、ずっと続けるのは大変だろう」

 

 ジークがリンの言葉に補足するように、彼もむうと口を真一文字に結んでいる。確かに大変かもしれないが、アルバトロス王国とアガレス帝国は国交を開いて物資の行き来はある。日持ちする食べ物しか運べないけれど、食事が苦痛で食べられないのは辛い。

 猫背の魔術師さんが食事を嫌う理由を聞いて、どうにかしたいと考えてしまった。乗りかかった船だし、途中で降りるのは無責任だ。副団長さまは私の性格を見越して、猫背の魔術師さんを講義の場に連れてきたのだろうか。ジークもリンも妙な所を気にするのだなと、二人と視線を合わせる。

 

 「優しくはないよ。ただ、ご飯を食べることが苦痛なんて辛すぎない? お腹が空いている辛さは分かるから、どうにかなれば良いなって考えたんだけれど……甘いのかな?」

 

 「確かに食べられないのは辛いしキツい。しかし、会ったばかりの人間にそこまで肩入れする必要があるのか? ナイにしては珍しい気がするが……」

 

 ジークの言葉にリンがこくこくと頷いている。嗚呼、確かに私が出会ったばかりの人を気に掛けるのは珍しいのかもしれない。でも、今の立場であれば遠い異国から食べ物を輸入する術を持っているし、成功するかどうかさえ分からない段階だ。行動に起こさないまま猫背の魔術師さんが現状を維持するだけなら、行動を起こして彼の猫背と生活環境の改善を試みて元気になった姿を見たい。

 

 「そうかな?」

 

 私が首を傾げると、リンが後ろからひょいと私を抱き上げた。むーと顔を顰めているので彼女はなにか思うことがあるらしい。ジークはリンの行動を見て、やれやれと肩を竦める。それ以上彼らはなにも言わず、それぞれの私室に戻って着替えを済ませるのだった。

 それにしても……私が誰かに情を向けるとリンが嫌がることはあった。けれど今回は珍しくジークも言及している。いつもはリンが拗ねて私が諫める形になるのに今日はジークを諭すことになった。珍しいこともあるものだと考えながら着替えを終えて、明日は雪でも振るのだろうかと窓の外を見上げるが、凄く綺麗に晴れ渡った空だった。

 

 ――数日後。

 

 ジークの肩の上に乗っている幼竜さんとリンの肩の上に乗っている仔竜さんの名前を決めたと、そっくり兄妹が執務室で告げた。ソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまもこの件は周知しているので、ようやく決まったかと安堵の息を吐いている。

 

 発表はどこで行おうという話になって、みんなを集めて子爵邸の東屋でお披露目しようとなった。竜の皆さまはお互いに認めた方たちにしか名乗らないが、クロ曰く幼竜さんも仔竜さんも気にしていないし子爵邸のメンバーなら良いらしい。

 亜人連合国のディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんも呼び、庭だからエルとジョセとルカとジアに番の竜さんたちとグリフォンさんも一緒にいてくれる。

 クレイグとサフィールに託児所の子供たちも一緒だから東屋では少し手狭だけれど、それはそれで面白いのでGOサインを出した。副団長さまも誘うと『是非に!』と返事をくれたので、そろそろ約束の時間だしうっきうきでやってくるのだろう。

 

 「緊張するな」

 

 「緊張するね」

 

 教会騎士服を纏ったジークとリンが緊張した様子で私の部屋にやってきていた。お客さんがやってくるので私も聖女の衣装を纏っている。ディアンさまたちなら気にしないけれど、流石に竜さんたちの大先輩である彼らに失礼があってはならないだろうと着替えたのだ。

 

 「大所帯になるからね。でもみんなに見守られながらこうして名前を発表するのは新鮮かも」

 

 クロの名前は亜人連合国で付けたし、ヴァナルの名前は私の部屋でヴァナルに教えて貰った。ルカとジアの名前は学院で特進科の主だった面子が集まって、あーでもないこーでもないと決めた。発表の時の人数は限られた人たちだったので、聞いている方は少なかったのだ。今回のように大所帯で発表するのはクロ曰く珍しいとのこと。

 

 『この仔たちはジークとリンに名前を付けて貰えて喜んでいるし、みんなに知って欲しいって願っているからね。良かったね~これから君たちのことを名前で呼べるよ』

 

 今から名前が発表されると聞いて幼竜さんも仔竜さんも上機嫌だ。ジークとリンの肩の上で顔をすりすりしながら甘え鳴きしている。その姿は愛らしく、セレスティアさまが見れば凄く恨めしそうな視線をそっくり兄妹へと向けそうだった。

 

 「庭に行こう。侍女さんたちが、お客さまもくるしお祝いだからって美味しいお菓子を一杯用意してくれるって。楽しみ」

 

 今日はお客さまもくるので、侍女さんと料理長さんたちが張り切ってお菓子を用意してくれている。王都の流行りのお店から取り寄せた品と料理長さんたち手作りのお菓子が沢山並ぶ。お店のお菓子も料理長さんたちが作ってくれたお菓子も美味しいので、いつも食べ過ぎてしまうのが難点だ。私は機嫌良くジークとリンに庭に出ようと促せば二人は微笑んだ。

 

 「ナイは相変わらず食い気が優先か」

 

 「ナイらしいよ、兄さん」

 

 ジークとリンが視線を合わせたあと、私に視線を移してまた笑う。食い気が優先されるのは致し方ないし、美味しいお菓子が悪いのである。さあ行こう、そら行こうと二人に告げて、開けっ放しの扉を三人で出て行くと毛玉ちゃんたちとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが私たちの後に続く。

 

 廊下を歩いているとソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまも列に加わり、暫くあとでクレイグも加わる。なんだか大名行列みたいと笑いながら庭にでると、サフィールと託児所の子供たちにアンファンも一緒だった。

 そうして彼らも列に入って、庭の東屋を目指す。五月晴れの青空の下は、空気が澄んでいて心地よい風が吹いていた。庭で過ごしているエルとジョセとルカとジアに番の竜さんたちとグリフォンさんが顔を出し、彼らとも一緒になって歩いて行く。先頭を歩いているので、なんとなく後ろを振り返ってみる。そこには錚々たる面子が並んでおり、お貴族さまのお屋敷で見られる光景ではないようなと首を傾げた。

 

 「大所帯……」

 

 なんとも言えない光景にぼそりと呟いてしまう。私の声が割と大きかったのか、ソフィーアさまとセレスティアさまに聞こえていたようだ。

 

 「こうなると手狭に感じてしまうな。決して子爵邸が狭いわけではないのだが……」

 

 「侯爵位を賜って良かったですわ、ナイ。子爵邸より庭も屋敷も広くなるので、幻獣の皆さまが増えても問題ありませんもの」

 

 苦笑いになっているソフィーアさまと、ドヤ顔で言い切ったセレスティアさま。流石に幻獣の皆さまはもう増えることはないと願いたいが、一年後がどうなっているかは未知数である。東屋に辿り着くと、勝手知ったるミナーヴァ子爵邸となっている副団長さまが待ってくれていた。私たちに気付いた副団長さまが小さく頭を下げた。

 

 「副団長さま、遅くなってしまい申し訳ございません」

 

 彼の下へと辿り着き挨拶を交わす。

 

 「いえいえ。僕は滅多に立ち会えない場面にいますので、気分が高揚して少し早くきてしまいました。謝らなければならないのは僕の方です。それと……アストライアー侯爵閣下、この度はお誘い頂き感謝致します」

 

 「副団長さまには幼竜さんの体調管理や天馬さまやグリフォンさんの生態について調べて貰っていますから。お気になさらないでください」

 

 何気に副団長さまにはお世話になっているのである。ヒャッハーな方ではあるが、知識は豊富でいろいろとアドバイスも頂いているのだから。あとは猫背の魔術師さんの様子やらを聞きつつ、ディアンさまたちを待っていると彼らもやってきた。

 

 「最後になってしまったようだ。待たせてしまい申し訳ない」

 

 「お待たせいたしました」

 

 ディアンさまとベリルさまが申し訳なさそうな顔でこちらにやってきた。ダリア姉さんとアイリス姉さんも一緒にやってきて、亜人連合国の皆さまも揃った。

 

 「ごめんなさいね。少し遅れてしまったわ」

 

 「ごめんね~」

 

 お姉さんズは私に『久しぶり』と声を掛けてくれた。そして私は彼らに礼を執る。

 

 「ディアンさま、ベリルさま、ダリア姉さん、アイリス姉さん、お呼び出しをして申し訳ありません」

 

 皆さまと少しずつ言葉を交わして、東屋の椅子に腰を下ろして頂いた。ジークとリンは少し緊張しているようで、珍しく顔に感情を滲ませている。

 

 『あ、えっとね。ちゃんとした名前はジークとリンだけが知っていて欲しいって。愛称をボクたちに教えてね』

 

 クロが私の肩の上で教えてくれた。どうやら幼竜さんと仔竜さんのフルネームはジークとリンしか聞けないらしい。ディアンさまとベリルさまはなにも言わないので問題はないようだ。ダリア姉さんとアイリス姉さんも口を挟まないから問題ないのだろう。なるほどなあと感心しているとお婆さまがどこからともなくやってきて、クロがいる反対側の肩の上に乗って『間に合ったわ!』と言っている。

 

 幼竜さんがジークを私たちから少し離れた場所に誘い、仔竜さんもリンを少し離れた場所へと誘った。暫く待っていると、ジークとリンと幼竜さんと仔竜さんがこちらに戻ってくる。

 ぐりぐりとご機嫌にジークとリンの顔に顔を擦り付けている幼竜さんと仔竜さん。セレスティアさまが羨ましそうに見ていることに気付いて、番の竜さんたちが彼女を構っている。そんな光景に笑みを浮かべていると、ジークとリンがみんなの前に並ぶ。

 

 「この仔はアズと呼んでください」

 

 「こっちの仔はネルと呼んで欲しいです」

 

 ジークの肩に乗る幼竜さんがアズ、リンの肩に乗る仔竜さんがネルと愛称を付けたようだ。ジークとリンの声が上がると同時に、アズとネルが嬉しそうに一鳴きする。可愛いし良いんじゃないかなとみんなの顔を見渡すと、何故か私の魔力が減った。なんで、と疑問に感じていると番の竜さんたちが私の下へやってきた。

 

 『なまえー!』

 

 『いいな~、いいな~』

 

 番の竜さんたちが名前、名前と声を上げながら私の周りをえっさほいさと走っている。どうしようとディアンさまとベリルさまに視線を向けると柔らかく微笑んでくれるだけだ。どうして誰も助けてくれないのだろう。名前を付けるのは大変なことなのにと、走っている竜さんたちと視線を合わせた。

 

 「ポチとかタマじゃあ……――」

 

 格好がつかないから考えさせてと伝えようとしたのに。

 

 『ボク、ポチ!』

 

 『タマ! タマ!!』

 

 やった、やった、名前貰えたー! と大はしゃぎする番の竜さんたち。それは駄目だと喜んで走っている彼らを止めようとするけれど、竜さんたちは広い庭を駆けていく。

 

 「え、待って! それ違うから! 犬や猫に付ける名前だからぁ!!」

 

 手を伸ばして追いかけるも、人間の足で竜の脚の速さに追い付けるわけはなく。私の魔力が微妙に減っている気がするけれどきっと気の所為だ。諦めてディアンさまたちに彼らを説得してくださいと願い出るも、気に入っているなら問題ないと言われてしまうのだった。

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