魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0046:馬車の中。

 ――朝。

 

 移動二日目。日が昇る前から行動を始めるために随分と早起きをしたけれど、就寝時間が早かったので難なく起きられた。これをまだ八回繰り返すのかと、白み始めた空を見上げる。

 

 「おはよう、ナイ」

 

 掛けられた声に視線をそちらへと向けると、ジークとリンの姿。

 

 「リン、おはよう。ジークもおはよう」

 

 「ああ、おはよう。二人共、ちゃんと眠れたか?」

 

 「うん。でもちゃんとベッドで寝たいかも。まだまだ続くから、先が思いやられるねえ。ジークとリンは?」

 

 通常の遠征よりも部隊数が多いし、日数も増えている。慣れているとはいえ、やはり落ち着いて部屋で寝たい気持ちが強い。

 

 「夜番があるが、問題はない。いつものことだな」

 

 「うん。十分眠れたから、心配ないよ」

 

 私は騎士でも軍人でもないので夜番に編成されていない。専用の天幕で一人で過ごしていたから、二人に申し訳ない気持ちがあるのだけれど、謝ると二人は決まって『気にしなくていい』という。

 自分たちの仕事を奪うなとも言われてしまうし、私は聖女なのだから気にしなくていい、と口癖のように言われてしまうから、最近はなるべく口にしないようにしていた。

 

 「片付けてご飯食べたら、出発だね」

 

 「ああ、毎度繰り返さなきゃならんが仕方ない」

 

 「楽しいよ。三人で作業するんだし」

 

 朝ごはんは後回しにして、出発のためにいそいそと作業を開始する。とりあえず天幕の中の荷物を外へと出して、天幕の幕を外し骨組みをバラす。

 力仕事になるとジークとリンに分があるので、その手合いのモノは二人に任せる。私は天幕を畳んだりと軽作業を担当。無言でそれぞれのやるべき作業をこなしていれば、慣れもあるのかそれなりに早く終わる。

 

 「終わったね」

 

 「ああ。飯、貰いに行くか」

 

 「うん」

 

 そうして三人揃って料理番の人たちの所へと歩いて行くと、既に準備は終わっていて良い匂いが辺りに漂っている。

 出発の準備を終えた人たちが既に並んでおり、受け取りを終えた人たちは各々好きな場所に腰を据えて食事を取っていた。お昼ご飯は準備されないので、時間に遅れたり確りと食べておかないと夜までひもじい思いをする羽目になる。

 

 列に並び雑に配膳された朝ごはんは『粥』。まあ妥当だよねと苦笑いをしながら受け取り礼を伝え、その辺りの空いている場所に三人で腰を下ろす。

 

 「味付けなんだろうね」

 

 「期待はしないほうがいいだろうな」

 

 「お腹が満たせればなんでもいいかも」

 

 出発の準備もあるし、料理番の人たちも朝から凝ったものを作るつもりはないようで、手早く作れるものを選んだようだ。作ってもらったんだし贅沢を言っちゃ駄目だよなと自分を諫め、スプーンを握って口へと運ぶ。

 

 「あ、美味しい」

 

 行軍中の食事の味はあまり期待していなかったのだけれど、どうしたのだろうか。作った人が料理上手なのかもしれないなあと、ぼそりと言葉を零す。

 

 「珍しいな、味がちゃんとついてる」

 

 「ね」

 

 味のしないものより、こうして味がちゃんとついている方が箸が進むので有難い。味を噛みしめながら食事を終えて、係の人へ器を返却。そうしている間に、御者の人たちは馬を馬車へと繋いで待機していた。

 天幕等の荷物もいつの間にか回収作業を終えており、あとは出発するだけ。自分たちが乗り込む馬車を探しあてると、幌馬車の中には既に乗っている人もいた。

 

 「お待たせして申し訳ありません、皆さま」

 

 集合時間までにはあと少し余裕があるものの、先に待っていた人がいるのならば、一言あった方が良いだろうと軽く頭を下げる。

 刺さる視線に苦笑いをしつつ空いている席へと座って、昨日お店で布を買いボロ布を詰め込んだクッションもどきをお尻の下に敷いて感触を確かめる。元から敷いていた布と合わせると幾分か衝撃が和らぎそうで、それなりに期待が出来そうだ。私の隣に座ったリンも一緒で、買ったクッションもどきを敷いてお尻に敷いて座り心地を確かめていた。

 

 「ちょっとはマシかな?」

 

 「うん。作って貰って良かった。兄さんの分も買えば良かったね」

 

 リンと言葉を交わしていると、ジークへと話題が移る。

 

 「俺はいいさ。これだけあれば十分だ」

 

 一応ジークの為に分厚い布を数枚買っておいた。必要ないと言われれば、リンと私で使えばいいだろうと相談して買ったものだ。

 乗り込む前に彼に渡しておいたのだけれど、元々使っていた物の上に敷いていたので、悪くはないようだ。迷惑にならないように気を付けながら、三人でお喋りをしながら時間が経つのを待っていると、ようやく馬車が動き出す。

 

 辺境伯領までまだまだ掛かるなあと、幌馬車の隙間から見える景色を眺めながら、馬車はゆっくりと進むのだった。

 

――そんなこんなを繰り返し。

 

 明日でようやく辺境伯領に辿り着く、というところまでになった朝。天幕を片付け朝ご飯を済ませて馬車へと乗り込む。

 そうしてまた馬車に揺られ始める。カラッとした夏風が幌馬車の中を駆け抜ける。辺境伯領へと近づいてくると、王都近郊の景色とはまた違った雰囲気がある。

 王都近郊は真っ平らな野原、ようするに平原がずっと続いているのだけれど、こちらは高い山々が近くにそびえ立ち並ぶ。山頂付近は雪がまだ残っているので、標高が高いのだろうと想像できる。

 

 本当に遠くまで来たものだ。

 

 今までの遠征は王都の近くだったから、こんなに移動時間が掛るのは初めての事だ。どうにかお尻の危機は免れそうだと、ほっと息を一つ吐いた、その時。

 

 「あ、あの!」

 

 「はい?」

 

 軽妙な蹄の音を馬が奏で長閑な道を進みながら、私たちの対面に座る同じ年ごろの少女――聖女さまを運ぶ馬車なので、目の前の彼女も聖女さま。そんな年若い女性に突然声を掛けられたのだった。

 

 ◇

 

 長閑な道をひたすら馬車に揺られ、運ばれていく。ドナドナの曲が良く似合いそうな道だよなあと、余計なことを考えそうなくらい時間を持て余していたその時。対面に座る聖女さまに声を掛けられた。おそらく年の頃は同じくらいだろう。長い金糸の髪を纏め上げ、アイスブルーの大きな瞳を私に向けていた。

 

 何度か馬車で一緒になっていたけれど話す機会は今までなかった。

 

 ジークとリンも何事だろうと、目の前の彼女を一瞬だけ見る。あまり見続けると失礼になるので、直ぐ止めていたけれど。そうして対面に座っている彼女の護衛騎士も、何事かと少女を見ていた。

 

 ある意味で同業他社でありライバルとなるものだから、自分の地位を確立するために基本話しかけたりはしないものだ。特にそれはお貴族さま出身の聖女さまに顕著なのだが、目の前の彼女は平民出身なのだろうか。

 

 「黒髪の聖女さまとお見受けします!」

 

 恥ずかしいからその二つ名は止めて欲しいと願うも、分かりやすい符号となっているし聖女で通すから私の名前となると知らない人の方が多い。

 

 「周りの方々からは、そう呼ばれておりますね。――如何なさいましたか?」

 

 身なりはそれなりのようだから、おそらくお貴族さま。そんな方が私に一体何の用だろうか。暇だし問題はないなと判断して彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 「あ、そのっ! お噂はずっとお聞きしていて……こうして遠征でご一緒することが出来たのでいつかお話を、と!」

 

 胸の前で手を組んで、緊張した様子で私に必死に語りかけている。マイナスの感情は感じ取れないし、とりあえず話をしてみるべきだろうと居住まいを正す。

 

 「そうでしたか。私も皆さまとお話しする機会はなかなか持てないので、こうして会話を交わせることは喜ばしいことです」

 

 とりあえず猫を百匹ほど用意して被る私。

 

 「はっ、はい!」

 

 私の言葉に頷いて嬉しそうな顔を浮かべる聖女さま。

 

 リンとはまた違った大型犬のようだねえと目を細めると、馬車がガタリと揺れると同時、彼女の胸も同時にばいんと揺れた。

 その光景に、舌打ちしたくなるのを我慢する。ただの脂肪の塊だけれど、無い人間からすればやはり羨ましい代物で。リンに胸が大きくて良いなあと愚痴を零すと、大きくても邪魔なだけだよと詮無く言われるのだけれど、やっぱりあるのとないのじゃあ大違いな訳で。 

 

 「私……男爵家出身の聖女なのですが、家が貧乏で出稼ぎのようなものなんです。今回の討伐も教会から支給されるお駄賃が良くて……」

 

 聖女として働きながら実家にお金を入れているのか。お貴族さまにもいろいろな人たちが居る。私腹を肥やしている人も居れば、清貧をむねとして領民と共に生きている人。大領地を束ねる人に王宮で職を得ている人。

 

 王家に税を納められなければ爵位を返上したり、廃爵もありえるから彼女の家は必死なのだろう。

 

 「それは……大変ですね」

 

 「いえ、領民の人たちには苦労を掛けているので、私が聖女として召し上げられたことは運が良かったんです。少しでもみんなが楽になるのならば、貴族として努めるべきですから」

 

 「志、尊敬致します」

 

 「ありがとうございます!! それで、あの……聖女さまのお噂をずっと聞いていたんです。黒髪黒目の心優しい聖女さまが居ると!」

 

 うぐっと心に何かが刺さる。この子、私のことをいろいろと勘違いして覚えているんじゃないかな。黒髪黒目の聖女は私しか居ないから、噂の内容はいざ知らず本人であることは確定だけれど。

 

 「心優しい、は言い過ぎのような気がしますが……」

 

 「いいえ、いいえ! 高飛車で傲慢な貴族出身の聖女さまたちは勇名を馳せておりますが、黒髪の聖女さまはその真逆を行くお方!」

 

 う、うん……。確かに貴族出身の聖女さまの良い噂はなかなか聞くことはないけれど。真逆っていったいなにさ、と心の中で冷や汗を掻く。彼女の護衛騎士の人、報告に上げないよねと視線を飛ばすと、微妙な顔をしている。どうやら判断に困っているらしい。

 

 「治療代は貴族からはきちんと取り、お金のない者からはその者たちが払える額や品物へ変えて請求していると!」

 

 私すごく感動したんです、と目の前の少女。いや、お金がない所からふんだくっても意味がないし、貰えるものを貰えば何の文句などないけれどね。

 それに魔力の量が多いので、他の人たちと比べると施術できる回数が全く違うから、価値も違ってくるだろうし。ちょっと表現が雑だけれど、薄利多売とでも言えばいいだろうか。

 

 まあ、農家の人とかには野菜でお布施代わりにしたりするから、妙な噂が広まったのだろう。どうにも食に関することになると、目の色を変えてしまうから。あと新鮮な野菜とかって王都だと貴重だから。

 芋とか頂くと、蒸かしてお塩を掛けて食べるのは贅沢だし。もっと豪勢にするならバターを付けるけど。 

 

 随分と持ち上げられているものだと、まだ私の噂を口にしている聖女さま。珍しいな、お貴族さま出身で私のことを煙たがっていない聖女さまって。

 

 「失礼ですが、聖女さまのお歳はいくつでしょうか?」

 

 そう変わらないはず。ヒロインちゃん並みに可愛い子だけれど、学院で見たことはないと記憶を漁る。  

 

 「えっと……十五になります。本当なら王都の学院に通っているのが普通ですが家があまりにも困窮していて……兄を通わせるのが精一杯でしたので」

 

 そっか。なら最近聖女に執り立てられたのかな。お貴族さまはなるべく王立学院へ通うべし、というのが王国の方針だもの。聖女さまとして働いている時間が長ければ、教会が後ろ盾について学費は払ってくれるはず。 

 

 「でも、今回の遠征で結果を出したら学院に編入することもできるって、教会の神父さまが仰って下さったんです!」

 

 成果を出したらという条件付きなのか……。

 

 「それは……さすがに酷くありませんか? 聖女として務めていたのならば、教会が支援して春から通うべき案件だと思うのですが……」

 

 「あ、それは私が入学を過ぎた時期に聖女になったので、仕方ありません。それに結果をまだ出していないので、教会としても判断が付かないんだと思います」

 

 聖女として価値があるのか、ないのか……かあ。世知辛いなあと思うけれど、慈善事業で教会を運営している訳じゃあないから強くは言えない。

 けれど目の前の少女からは嫌な感じはしないし、きっと真面目な子なのだろう。聖女になったからと言って有頂天になったりしていないし、結果をまだ出していないと冷静な判断が出来ている。

 

 「そうでしたか。失礼なことを聞いてしまいましたね、申し訳ございません」

 

 小さく頭を下げると慌てた様子でアワアワしている。その姿を見て笑うと、顔を赤らめる聖女さま。

 

 「あ、いえ、その! 私なんかに頭を下げないで下さい! 私はまだまだ駆け出しで、聖女さまはちゃんと結果を出して二つ名まで頂いているお方なのですから」

 

 「偶々ですよ。――歳は同じですが、私は平民出身です。私に畏まって接していると貴族さまとしてのお立場を悪くされてしまいます」

 

 彼女の護衛騎士の人が私の言葉にうんうんと頷いているので、彼らはお貴族さま出身なのかも。

 

 「吹けば飛ぶような男爵家出身の四女なんて、そのようなものはないも同然です」

 

 領民の人たちと野良仕事も一緒にしていたそうだ。こんな手は貴族ではないと自嘲交じりに笑って手を見せてくれる。確かにマメが手にできているし、王都に住んでいるお貴族さまならばあり得ないことである。

 

 「卑下をなさるべきではありませんよ。――私はどんな形であれきちんと努力や結果を出すことのできる方を尊重したいのです」

 

 そう言って左腕の袖を少し捲る。

 

 「あ……傷が……」

 

 「平民出身といっても孤児だったのです。こんな小さな傷が体の至る所にあります。貴族の女性からすればあり得ませんよね」

 

 聖女としてみっともないから傷を消せと教会から言われたけれど、ずっと固辞している。

 

 「……」

 

 「でもこの傷は貧民街の仲間と共に死なないようにと必死に生きた証なのです。見る方によっては恥ずべきものなのかも知れません。ただ、貴女は心に芯のある方とお見受けします」

 

 少しだけ、時間を置いて口を開く。

 

 「ですので、そのように卑下をなさらないで下さい。共に田畑を耕したその人たちをも卑下することになるのですから」

 

 「――う、あ……。はい、はい!」

 

 「説教臭くなってしまいましたね。私の悪い癖なのかもしれません」

 

 年寄り臭いんだよねえ、前世の記憶もちだからか。ジークとリンは目の前の聖女さまにそこまで肩入れする必要はあるのか、という雰囲気を醸し出している。

 だけど、関りを持つことは早々ないだろうし、いいんじゃないのかな。私の言葉が届いていない可能性だってあるのだし。

 

 「あ、あの!」

 

 「どうしました?」

 

 真剣な顔で私の顔を見つめている聖女さま。一体何だろうと首を傾げると右手を彼女の両手がそっと包み込む。

 

 「お姉さま、とお呼びしても宜しいでしょうか!?」

 

 なんでそーなるんやっ! と心で突っ込みを入れて、座っていた場所から崩れ落ちそうになる私だった。

 

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