魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0462:二度目のお土産。

 エーリヒさまは共和国へ飛んでいたようだ。外務部も大変だなあと他人事で済ませたいところだけれど、私が国交を開いたようなものだし黒髪黒目が原因で起こったことなので、ご迷惑を掛けて大変申し訳ない限りである。

 

 だというのに、また彼からお土産ですと告げられチョコレートを頂いた。本当に感謝しなければ。

 

 今、午後のお茶の時間なので頂いたチョコレートを侍女さんにお願いしてお茶請けとして出して貰った所だ。共和国のチョコレートは富裕層向けに作られており、砂糖をふんだんに使用して凄く甘いのが特徴である。現にジークが椅子に腰を掛けながら渋い顔をしてチョコレートを見下ろしている。

 無理に食べるのは宜しくないし、ジーク用に別の品を用意して貰っているのだが前回食べた味でも思い出したのだろう。微妙な顔を浮かべているジークを見た幼馴染組は苦笑いを浮かべ、私室で他愛のない話を繰り広げている。チョコレートに手を伸ばして、ひょいと一口含んで咀嚼する。甘い砂糖の味が口に広がるぞと覚悟していた。

 

 「あれ、前より甘くない。美味しい」

 

 不思議なことに強烈な砂糖の味がしない。エーリヒさまは前回を反省したのか、甘くないチョコレートを選んでくれたようだ。気が利くなあと感心しながら、私と同じように手を伸ばしたリンの顔を見た。

 普通に咀嚼し嚥下しているので、不味くはないというか美味しかったようで次のチョコレートに手を伸ばしている。丁度良い甘さだしチョコレートの不思議な味は美味しいよねと目を細めて、私も次のチョコレートに手を伸ばした。それを見ていたクレイグとサフィールもチョコレートに手を伸ばして口に含めば『前よりマシだな』『美味しいね』とお互いに顔を見合わせていた。

 

 「ジークは……どうする?」

 

 「すまん、エーリヒには悪いが俺は良い」

 

 念のためにジークに声を掛けてみるが、前回の記憶が今の彼にチョコレートに手を伸ばすことを躊躇わせているようだ。無理に食べなくても良いし他のお菓子も用意して貰っている。まだ微妙な顔のジークを見て私は苦笑いを浮かべた。

 

 「そっか。違うお菓子用意して貰っているからそっち食べてね」

 

 青い顔のままのジークは私の言葉に小さく頷いて、他の甘くないお菓子に手を伸ばす。そんなやり取りを見ていたクレイグが声を上げる。

 

 「つか、共和国から貰った謝罪の品はどうするんだ?」

 

 エーリヒさまがチョコレートを届けてくれたと同時に共和国からお詫びの品も頂いたのだ。日持ちする共和国のお菓子からお野菜に果物を頂き、中にはアルバトロス王国では手に入れ難い品もあった。

 有難いことなので、お礼状と今回の件をあまり気にしないで欲しいと認めた手紙も送っている。私が黒髪黒目でなければ、こんなに気遣う必要はなかったはずだから、大統領や共和国上層部の皆さまが気にしなければ良いけれど。

 

 「種が確保できるお野菜は裏にある畑に植えて育ててみる。果物は子爵領の専用の果樹園で育ててみようかなあ。美味しいお野菜と果物が確保できるようになれば嬉しいけれど……」

 

 共和国から頂いた品の中にはチョコレートも含まれていたが、お野菜もあったのだ。お野菜といっても果物に類する品があった。前にプリエールさんに教えて貰ったメロンがあったし、他には苺もあった。食べてみると控えめな甘さであるが、アルバトロス王国内において十分な甘さである。

 メロンさんの種は確保できたので畑の妖精さんにお願いして育てて貰う予定だ。お世話の必要がなく、摘果もしなくて良いし成長点を切らなくても良いのでかなり楽である。

 

 「あの畑は反則だよな。妖精のお陰でなんでも育つんだから……託児所の子供に悪い影響がなきゃ良いけどな」

 

 クレイグが呆れ顔を浮かべて託児所の子供たちを心配する。確かに子供たちが農業は超簡単! なんて思い始めるのは困る。農家さんが丹精込めて育てた品を粗雑に扱う人に育って欲しくはないと、サフィールの顔を見た。

 

 「一応、あの畑は特殊で普通は凄く手間暇が掛かるって伝えているよ。ちょっと不安だけれどね」

 

 私の視線に気付いたサフィールが肩を竦めながら教えてくれた。言わない、伝えないより全然良いし、妖精さんが目に見えているので特殊な畑であると伝わっているはず。もし理解できないならば子爵領で農家さんの仕事を体験して貰うのも良いだろうか。

 王都暮らしだと畑がほとんどないので、農家さんの苦労を知らないまま育つ。それを言ってしまうと私も農家さんの苦労は分からない。明日にでも家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまに、農業体験学習を開催してみたいと相談しよう。

 

 「果物はクロと竜さんたちが気に入るおやつになると良いけれど。もちろんエルとジョセたちにグリフォンさんもだね」

 

 頂いた果物にはマンゴスチンやデーツがあった。デーツは陽の光を浴びて自然にドライフルーツとなってくれるし、マンゴスチンは包丁がなくても食べることができるし、それぞれ栄養価も期待できそうである。味見をした他の果物も美味しかったので、種を取って子爵領の私専用の果樹園に植えるつもりだ。

 

 『そういえば果物も貰っていたねえ。亜人連合国やアルバトロスで見ない物もあったし、美味しかったから楽しみにしてるね~』

 

 クロがふふふと機嫌良く笑った。特にデーツを気に入ったようだから沢山実ると良いのだが。子爵領のオレンジの苗も植えてから三年が経っていて、美味しい実を付けてくれる優秀な苗木となっている。接ぎ木をして増やすのもアリだなと考えているものの、果物を子爵領の特産品にする気はない。

 あくまで甘いとうもろこしさんを特産品として売り出し、メインは家畜用のとうもろこしの生産に力を入れる。子爵領は黒字運営だし特に問題はない。あとは領の皆さまの識字率や基礎教育を充実させたいことと、教会を運営して聖女の輩出を願うことくらいだろう。

 

 「あ、クロが美味しいなら亜人連合国の竜の皆さまは喜んでくれるかな?」

 

 『どうだろう。でも果物が好きな竜は喜んでくれるよ』

 

 亜人連合国の皆さまにはお世話になりっぱなしだし、今度果物を贈ってみよう。喜んでくれれば嬉しいし、育てる間の楽しみにもなる。ぐりぐりと私の顔に顔を擦り付けるクロと視線を合わせると機嫌良く尻尾を揺らしているようだ。

 背中に伝わる感触に目を細めて、部屋に設置している時計に目を向けると約束の時間が近づいている。そろそろ呼び出しが侍女さんから掛かるかなあと部屋の扉を見ると、丁度侍女さんが私の部屋に顔を出し来客を告げるのだった。

 

 「ジーク、リン、行こう。クレイグとサフィールはどうする?」

 

 私たちは庭の東屋でお客さんと面会する。クレイグとサフィールはこのまま部屋でお茶を楽しんでも構わないし、お客さんに興味があるというのならば後ろに控えて貰っていても構わない。ただ同席は難しく、きっちりとした線引きは必要だった。

 

 「俺は仕事に戻る」

 

 「僕も仕事に戻るね」

 

 「じゃあ途中まで一緒に行こう」

 

 席から立ち上がりみんな一緒に私室から歩き始める。廊下を歩きながら私の少し後ろを歩くクレイグに顔を向けた。

 

 「つか、来客の予定なんてあったか? いつも通りの面子だった気がするんだが」

 

 クレイグは家宰さまのお仕事を手伝っているので子爵邸に訪れる方を把握している。今日はいつも通りの面子、というか某人物くらいしかおらずクレイグは不思議そうに首を傾げた。彼の質問は仕方ない。いつもの予定通りの面子が来訪するとしか知らないのだから。ただ、その中にいつも通りではない人物が紛れ込んでいるだけである。

 

 「副団長さまの連れの方だよ。魔術師で引き籠もりが酷くて背が丸くなっていて、ご飯もマトモに食べていないから治るまで時間が掛かるかなあ」

 

 今日で三回目の施術となるが、少しずつ状況は改善している。ただ引き籠っていた期間が長いし、栄養不足に陥っているから無茶ができない。ゆっくりと何度も分けて治さなければ危ないと判断したのだ。アリアさまであれば一度で治ったことだろう。最初に会った聖女が私だから諦めて欲しい所である。

 

 「ナイはまた妙な奴の相手してるな。でもまあ、病人を悪く言うのは駄目だし金を貰っているなら問題ないか」

 

 ふうと息を吐いてクレイグが肩を竦めると、彼の少し後ろを歩いているサフィールが私に顔を向けた。

 

 「大変そうだね。大丈夫なの、ナイ?」

 

 「大丈夫って?」

 

 「面倒なことに巻き込まれていないかなあって」

 

 サフィールは私がなにかに巻き込まれる前提で考えているようだ。でも今まで巻き込まれ過ぎているので反論もできない。

 

 「今のところは。あ、サフィールは問題ないの? アンファンは私に壁を作っているから任せたきりにして申し訳ないけど……」

 

 「アンファンはナイにどう接して良いか分からないだけだよ。最初の最初にナイに噛みついちゃったからどんな態度を取れば良いのか迷っているんだろうね。一緒に謝ろうって誘ってみたけれど、まだ本人は納得できていないからもう少し先の話かな」

 

 一瞬のことだけれど、アンファンは私を見ると顔を強張らせている。子爵邸の皆さまに私には逆らっては駄目だと言い聞かされて、余計に苦手意識を持ったようだ。最初は私を『利用してやる!』と彼女は啖呵を切っていたが、自身が置かれている状況を少しずつ理解してきているそうだ。

 だからこそ、彼女が頭を下げるにはもう少し時間を必要とするのだろう。謝ってしまえば楽になれるが、無理矢理に頭を下げても意味はない。もう少しサフィールに預けておくのが一番だろうとアンファンをお願いしますと告げて、クレイグとサフィールと別れて庭に出る。

 

 「良い天気だね」

 

 空を見上げると雲もなく晴れ渡っている。クロも一緒に空を見上げて、翼を伸ばして陽の光を浴びている。ジークとリンの肩に乗るアズとネルも翼を伸ばしているし気持ち良い昼下がりだ。

 

 「そうだな」

 

 「もう直ぐ夏に入るね」

 

 ジークとリンが私の声に答えてくれて東屋を目指す。お客さまを待たせているので急がなければと少し早足だった。そうして東屋に辿り着くと特徴的な紫色の外套を身に纏う二人の男性。

 一人は銀髪の長い髪を靡かせながらこちらを向いてにこにこと笑みを浮かべ、もう一人は背を丸くして庭にいるエルとジョセとルカとジアに凄い視線を向けている。まあ彼もまた幻獣や幻想種に興味があるのだから致し方ないと考えていると、彼らの下へと辿り着く。

 

 「お待たせいたしました」

 

 「いえいえ。お邪魔しているのは僕たちなのでお気になさらず。皆さん元気ですので嬉しい限りですよ」

 

 「せいじょさま、てんまと竜とぐりふぉんがいる! ここはてんごくなの!?」

 

 いつも通りの挨拶を副団長さまと交わせば、猫背の魔術師さんが子供のように目をキラキラさせながら私を見た。どうやら天馬さまたちと竜の方たちとグリフォンさんの飼い主は私と認識してしまったようで、妙な勘違いをしている。

 

 「ここは天国ではなくミナーヴァ子爵邸です。先ずは治癒を施しましょう。治癒を終えれば、庭を散策しても良いですし彼らと自由に言葉を交わしても問題はないですから」

 

 興味深そうにポチとタマが見ているし、エルとジョセもこちらを気にしている。グリフォンさんは日向ぼっこをしているようで、大きな翼を広げて庭でくつろいでいた。

 私の言葉に目を輝かせた猫背の魔術師さんは、子供のように元気よく返事をくれ素直に施術を受ける。そうして副団長さまと共にみんなの下へと嬉しそうに駆けていく姿は子供そのものであった。

 

 「まあ、元気になるなら良いか」

 

 今後も副団長さまと一緒に彼は子爵邸に顔を出すことだろう。幻獣や幻想種の生態が知れ渡るならば良いことかと、妙な人に懐かれているような気がするのは無視して、庭でヒャッハーしている彼らの姿を見守るのだった。

 

 ◇

 

 今日はナイが休みの日で、俺は用事を済ませるために貴族街の一角にあるとある伯爵家の敷地内にある別館に足を進めた。糊の効いた白シャツとスラックスを着て、いつもの教会騎士服ではないことが少々落ち着かないし、最近俺の肩に乗っているアズ、アズライトがいないことも少し違和感を覚える。

 

 玄関で扉をノックすると、執事が館の中へと招き入れてくれとある部屋に通された。テーブルには老齢の男女が椅子に腰かけ俺を見て深い皺を更に深める。

 

 「よくきたね、ジークフリード」

 

 「ジークフリード、いらっしゃい。今日も私たちの相手をよろしくね」

 

 ラウ男爵夫妻が小さく笑い、客である俺を迎え入れてくれた。客というのはおかしいが、週に一度の俺の来訪を彼らは楽しみにしてくれている。面倒なことを頼んでしまったのに、こうして世話を焼いてくれるのだから良い人たちなのだろう。

 俺たち兄妹はラウ男爵家の籍から抜けてしまったが、今までと変わらぬ付き合いをと望んでくれている。孤児上がりの平民騎士を疎まず受け入れてくれるのは本当に感謝しかない。

 

 「いえ、私の方が世話になっている形です。遅くなり申し訳ありません」

 

 俺はラウ男爵夫妻に目線を下げる。時間に遅れてはいないが、先に部屋で待たれていれば頭を下げるしかない。俺は彼らと同じ爵位を持っているが、生粋の貴族と成り上がりの貴族ではやはり格が違う。

 

 「気にしなくていいさ」

 

 「ジークリンデは元気にしている?」

 

 席に腰掛けた俺の顔を見た夫妻が、妹のリンを気遣ってくれる。

 

 「はい。屋敷でナイの……アストライアー侯爵閣下の傍に控えております。いつも通りです」

 

 ナイは休日に屋敷から外に出掛けることは珍しく、基本屋敷の自室でゆっくりと流れる時間を楽しんでいる。今頃、リンも彼女と一緒に同じ空間で休みを満喫しているはずだ。

 

 「そうか。偶には爺と婆の茶飲み相手を務めて欲しいと伝えてくれるかな?」

 

 「不器用で喋らないけれど優しい子よ。きっときてくれるわ」

 

 夫妻が視線を合わせた。ラウ男爵家から籍を抜けて俺たちは自分の貴族籍を持つことになったから、今の俺のようにラウ男爵家にリンが足を向けることは減ってしまった。リンがどう考えているかは分からない。

 偶にはナイから離れて、ナイが一人になれる時間を作らないと疲れは溜まる一方だ。本人は気付いていないかもしれないが、限界まで動き続けて疲れを溜めてしまうこともある。いつも誰かが側にいては落ち着くものも落ち着けないだろうから。偶には……な。

 

 「分かりました。次は妹を誘ってみます」

 

 リンが素直に首を縦に振ってくれるのか。ナイが一緒にくるなら迷わず決めるだろうが、俺と一緒にこの屋敷にきてくれるかと問えば微妙な返事をしそうだ。もちろん妹はラウ男爵夫妻に感謝している。三年という短い期間だったが、貴族というものを俺たちに確りと教えてくれたし、ナイが爵位を得てからは護衛の立ち居振る舞い方も仕込んでくれた。妙な相手が主人に絡んだ時の対処に厄介な相手と絡まない方法、本当に二人からは沢山のことを学ばせて頂いたのだ。

 俺の厚かましい願いもこうして叶えてくれているのだから、夫妻の小さな望みを叶えるためにも妹を連れてこないといけない。

 

 「さて、ジークフリード。今日も領地経営について学んで行こう。君は吸収が早いから教える私も楽しいよ」

 

 「騎士の道をずっと歩むのかと考えていましたが……でも貴方も爵位を得て領地を賜る可能性があるのです。無駄にはならないわ。詰め込み過ぎは良くないけれど、旦那さまが仰る通りジークフリードは直ぐに覚えてしまうもの。少しつまらないかもしれないわ」

 

 ふふふ、と笑う夫妻に俺はなんとも言えない顔になる。お二人にはどうして俺が領地経営を習いたいと申し出た理由は告げてある。彼らは俺の考えを認めてくれ、こうして当主夫妻から直接教わることになった。

 

 「つまらない、というのはジークフリードに失礼じゃないかな?」

 

 「あら、そういう意図はなかったのだけれど……ごめんなさいね。少しくらい手が掛かる子の方が可愛いもの。わたくしの子供にはできなかったことですしねえ」

 

 貴族が受ける教育は家庭教師が施すものである。夫妻に今回の件を断られたなら、家庭教師を紹介して欲しいと願い出るつもりだった。けれどこうして茶を飲みながら教えを乞うている。彼らの話は理解し易いし、俺が望めば更に詳しく教えてくれるし難しいことも学べる。家庭教師に習っていたのは学院に入学する前の一時だけだから、比べるのはおかしいのかもしれないが……。

 

 「私たちばかり喋っても仕方ない。今度こそ始めよう」

 

 ラウ男爵の声に頷き、真面目に授業を受けることになる。彼らは俺の気持ちを知っている。しかし俺の気持ちが叶うことがない未来があり得ると諭してくれた。俺も勿論、望む未来がこないこともあると覚悟している。

 俺だけで決められることではないし、そもそも相手の意思が一番大事だ。もし彼女が望まぬ婚姻を求められた時、俺が手を挙げることができるなら逃げ道を用意してやれる。

 そのための爵位を得ることはできた。少し心許ないが、護衛騎士だけの立場より確りとしたものだ。生粋の貴族であれば、俺が今学んでいることは幼い頃から学び身に着けていただろう。だが、その事実に悲観してなにも行動に起こさない方が悪手だ。遅い出発かもしれない。俺の願いは叶わないかもしれない。

 

 この先がどうなるかなんて未知数だけれど……どうか彼女の未来が明るいものであるようにと願うのだった。

 

 ◇

 

 ――東大陸の共和国に赴いていました。

 

 エーリヒさまから届いた手紙にはそう記されていた。そしてナイさまから届いた手紙にもエーリヒさまが問題解決のため共和国に赴いていたと綴られていたので本当の話である。アルバトロス王国から聖王国へ届いた書状にも同じことが記されており、ナイさまがまたトラブルに巻き込まれて、最後の仕上げをアルバトロス上層部の皆さまが必死に処理をしているようだった。

 ただ今回の件を聞く限り悪いのは共和国側なので、エーリヒさまとアルバトロス上層部の心配はしていない。むしろ怒っているであろうナイさまの気持ちが、共和国の大統領さまの胃に直撃していないかなという心配の方が大きかった。

 

 「大丈夫かしら?」

 

 聖王国教会の大聖女に宛がわれた部屋で椅子に腰かけていた私は、手紙を読み終え天井を見上げると自然と声が零れていた。

 

 「どうしましたか、フィーネお姉さま」

 

 部屋にいたアリサが私の声を拾い、不思議そうな顔を浮かべて声を掛けてくれる。私は視線をアリサに向けて息を小さく吐いた。私を見ていたアリサが小さく首を傾げたので、きちんと説明した方が無難だろうと判断する。

 

 「いえ、少しだけ共和国の皆さまに同情を……でも悪いのは問題を起こした本人だから同情する必要がないのかもしれないけれど……」

 

 研修生に寄贈された本を共和国に戻って売るのは勝手――頂いた本を売るのは抵抗があるものだけれど――だが、ナイさまから譲り受けたとなれば少々話は変わってくる。黒髪黒目のお方から頂いたとなれば東大陸では価値が上がるだろう。東大陸で黒髪黒目の人は現時点で確認されておらず、数百年単位で現れていないとか。

 東大陸では価値のある方が西大陸のアルバトロス王国に存在していて、とあることが切っ掛けで関わることになっている。ナイさまのお陰もあって聖王国も共和国と関わっているので、彼の国が潰れると利益を得られなくなる。

 

 「?」

 

 「アリサは詳しく知らないものね」

 

 こてんと首を可愛らしく傾げたアリサに笑みが零れた。海を越えた国の話は情報を得辛いのだから、知らないのは当然だろう。

 

 「ええ。しかしわたしが聞いてしまっても良いのですか?」

 

 アリサはアルバトロス王国の王立学院に留学してから随分と物腰が落ち着いた。以前なら問答無用で話を聞き出そうとしていただろうに、自制することができるのは本当に成長した証である。

 

 「構わないわ。共和国にもアルバトロス王国にも手紙に記された件を広めてくれとお願いされているもの。共和国は王政を執っていないのはアリサは知っている?」

 

 「少しだけ耳にしました。聖王国も特殊ですが、王政ではない国も珍しいですよね」

 

 聖王国は宗教国家だから、アリサの言う通り特殊だ。西大陸の国々も北大陸も東大陸のアガレスも王政制度だから、民主主義国家は本当に珍しい。というか南大陸もほとんどの国が王政を執っていると聞いたので、共和国の文化は進んでいるのだろう。

 アリサに分かり易いように順を追って事態を説明すれば、彼女の顔色がどんどん悪くなっていく。おそらく聖王国上層部の皆さまもアルバトロス王国からの情報提供によって事態を知っているから、アリサのようにどんどん顔色が悪くなっただろうと容易に予想がついた。全て説明し終えるとアリサはどっと疲れた様子で口をどうにか開く。

 

 「……そんなことを望んだお方がいたのですね。怖いもの知らずというか、ただの馬……あ、いえ、素敵な夢を見ている方なのだなあと」

 

 「まあ、庇い切れないと判断した共和国は件の人物を本国に送還したから、これ以上悪化することはないでしょうね。次に問題が起こればそれこそ共和国の立場が悪くなるもの。ある程度、問題行動が見逃されていたのは今回が初めての取り組みだからでしょうね」

 

 現場に居合わせていないので安易なことは言えないが、当事者の皆さまは肝が冷えていたことだろう。ナイさまが怒ると怖い。割と容赦のない所がある上に、諸共自爆しても良いと考えていそうなのだ。

 おそらくジークフリードさんとジークリンデさんと孤児仲間がいなければ、好き勝手に暴れていた可能性もある。言い方は悪いけれど、ナイさまが大切にしている皆さまは無茶と無謀を起こさないための彼女に付けられた枷だろう。本当に仲間と共に貧民街から生き抜いてくれて良かった。一人だけで生き教会から救い出されていれば、ナイさまは今頃世界征服をしていたのではと思えてしまう。

 

 「耳の痛い話だけれど……進むべき道は間違わないように選ばないとね」

 

 「はい、お姉さま」

 

 私の言葉にアリサが綺麗に笑う。乙女ゲームのシナリオはもう過ぎてしまっている。これからなにが起こるのか未知数だけれど私はこの世界で生きている。ちゃんと前を向いて進んで行かなければならないし、後輩の聖女の育成や教会のこれからも考えなくてはならない。やらなければいけないことが沢山あって大変だけれど、お陰で充実した毎日を送っている。でもまあ、仕事と遊びのメリハリは大事なわけで。

 

 「アガレス帝国の戴冠式が終われば、次は南の海ね。凄く楽しみだわ」

 

 アガレス帝国で皇女殿下の戴冠式がもう直ぐ行われる。私もウーノ殿下から招待状が届いており参加すると返事をした。エーリヒさまとナイさまに再会できるし、東大陸のアガレスで教会を開く手筈にもなっている。

 それらを終えれば次は南の島でバカンスに入るのだ。初めて南の島に訪れた時はなにもなかったけれど、亜人連合国のダークエルフさんたちのお陰で寝泊りする場所が完成している。海で泳ぐこともできるし温泉もあるので本当にリゾート気分で遊ぶことができるだろう。みんなが一緒だし本当に楽しみだ。

 

 「しかしお姉さまの珠の肌が陽の光で焼けてしまうのは……」

 

 「大丈夫よ。魔術で解決できるもの。アリサも一緒に楽しみましょうね」

 

 貴族令嬢や聖女が陽に焼けるのは問題がある。白い珠のような肌を信条としているのでアリサは心配になったようだが、この世界には魔術だってあるのだ。問題ないとお互いに笑って、夏に向けた話を広げてみる。さて頂いた手紙の返信にはなにを記そうかと、アリサといつもの日常を過ごしながら、彼と進展できると良いなと願うのだった。

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