魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0465:アガレス帝国戴冠式。

 少し騒がしいアガレス帝国の皇宮にある賓客室で一夜を明かし、ウーノさまの戴冠式が始まる。

 

 謁見場には多くのアガレス帝に仕える貴族の皆さまが集まっており、私たち来賓組は一番良い場所にいる。時折『黒髪黒目のお方だ!』と言いたげな視線を受けるが突撃してくる方はおらず、流石に場を弁えられている方々が集められているようだ。

 毛玉ちゃんたちも参列したかったのか、私の隣に五頭がちょこんと床に座っている。ウロウロできないし我慢できるのかとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんに聞いて貰ったのだが、できるとのことだったのでアガレス側に許可を頂いた。

 

 緊張した面持ちのアルバトロス王国の王太子殿下と王太子妃殿下とエーリヒさま。フィーネさまはキラキラとした会場に目を奪われ周囲を見渡していた。西大陸から参加している方々はアガレス帝国の規模の大きさに感心しているし、西大陸と東大陸とでは趣が違うため見るもの全てが珍しいようだ。ディアンさまとベリルさまは式が執り行われるのを静かに待っている。エルフのお姉さんズはにこりと笑みを携えて周りに愛嬌を振りまいているけれど、後が怖いなと考えてしまうのは失礼だろうか。

 

 係の方の声が上がれば、ウーノさまが会場に姿を現してステージの上に進む。

 

 厳かな空気の中、凄く豪華な格好をしたふくよかな小父さまが床に膝を突いたウーノさまに帝冠を被せると、アガレス帝国の皆さまがわっと沸き立った。

 私は沸き立つ空気の中で拍手を送るだけである。周りの来賓の方々もにこやかに拍手を送っているので問題はあるまい。ウーノさまが立ちあがり平場の方たちと向き直り、腰に佩いている長剣の柄に左手を添えた。彼女と私との距離が少しあるので確信はないが、私が贈った長剣ではなかろうか。大事そうに剣の柄を持ったウーノさまが右手を挙げると、盛り上がっていた方々は一斉に口を閉じ会場がしんと静まり返る。

 

 「皆、此度はアガレスの各地から良く集まってくれた! まだ至らぬ身であるが、更にアガレスが発展していくことを約束しよう!」

 

 ウーノさまが大きな声を張り会場の方々に決意表明を告げると、平場の方たちは閉じていた口を次々に開いていく。

 

 「アガレス帝国、万歳!」

 

 「アガレス帝国、万歳!」

 

 「ウーノ帝の繁栄を!」

 

 「アガレスに栄光あれ!」

 

 謁見場に集まった大勢の方々が思い思いに声を張り上げると、空気が振動して耳が少し変な感じになった。流石に他国の人間なので一緒に唱えることはできないが、アガレス帝国が盛り上がっていくのであれば、帝国に住まう方々には良きことである。アルバトロス王国と始めた交易も順調だし少々国力が違い過ぎるが、良い関係が長く続けば良いなあと願うのだった。

 

 ――戴冠式後。

 

 戴冠式が終わってもウーノさまは忙しそうである。アガレス帝国の有力貴族に挨拶を行っているし、来賓である私たちにも声を掛けている。ウーノさまはアガレスのお貴族さまとにこやかに談笑していることもあれば、パリっと紫電が飛んでいることもあるので割と分かり易い。

 そういえば先帝さまはどうなったのだろうか。ヒロインちゃんがどうなったのかも暫く聞き及んでいないし、元第一皇子殿下と銀髪くんは仲良く鉱山労働しているのだろうかとふと思い至る。そろそろウーノさまと話をする順番となるので聞いてみれば良いかと大人しく会場で待っていると、ウーノさまご一行がこちらにきて王太子殿下と妃殿下と話を終えて私の前に立った。

 

 「ナイさま、退屈ではありませんか?」

 

 にこりと笑ったウーノさまと視線を合わそうとすると何故か合わない。いつもであれば確りと私の目を見ながら話す方だというのに一体どうしたのだろうか。いつもより下がった彼女の視線は私のお腹の位置に刺さっている気がする。グリフォンさんの卵さんが気になるようで、それは仕方ないと苦笑いを浮かべた。

 

 「いえ、戴冠式に参加した機会は少ないので良い経験となりました。ウーノさま、いえ、アガレス皇帝陛下。この度はおめでとうございます」

 

 リーム王国の戴冠式に出席したが、やはり王国と帝国とでは規模が違うし参加者の人数も随分と違う。ずっと立ちっぱなしとなるので、じっとしていることが苦手な方には苦痛だが、リーム王国の戴冠式と比べながら参加していたので時間の流れは気にならなかった。少しリーム王国には申し訳ないけれど。

 私の言葉でようやく彼女と視線が合い、ウーノさまは嬉しそうに目を細めるも、直ぐに微妙な顔になる。

 

 「ありがとうございます。しかし、ナイさまに畏まった呼ばれ方をするのは気が引けますので、どうか名前呼びでお願い致します」

 

 どうやら彼女は私が皇帝陛下と称したことに違和感があったようだ。確かにウーノさまのことをずっと皇帝陛下と呼ぶのは舌が絡まりそうである。有難い提案だと一つ頷き、口を開いた。

 

 「では、時と場合に応じて」

 

 「はい、よろしくお願い致します。ところでナイさま、ごか……ドラゴンとフェンリルが増えているとは聞きましたが実際の目で見ると凄い光景ですね。宮の者が驚いておりましたから、さぞ視線が鬱陶しかったでしょう。申し訳ありません」

 

 流石にアガレス帝国の面々がいる公式な場で名前呼びはできない。彼女も私の意志を汲み取ってくれ反論することなく受け入れてくれた。

 

 「宮の皆さまに、お騒がせをして申し訳ありませんとお伝えください。私も驚いていますが、毎日楽しいですよ。小さい仔たちは可愛いですし、みんな良い仔ですから」

 

 ウーノさまはクロたちに言及する前に言い掛けた声を飲んだ気がする。気になるからと聞き返せば失礼になるので、彼女の謝罪を受け流しつつ本来の話題に繋げた。三年間で竜と天馬とフェンリルとケルベロスと猫又さんや妖精さんが増えている。大変だったこともあるけれど、今は彼らといるのは楽しいと感じるようになれた。

 

 「東大陸も西大陸のように魔素が多ければ、アガレス帝国にもドラゴンやペガサスが居着いてくれるのでしょうか? ヴァエールさまに巨大魔石を土に埋め戻せば魔素濃度が高くなる可能性があると教えて頂きましたが、流石に全ての飛空艇を破棄できませんし悩ましい所です」

 

 ウーノさまが悩まし気に口にする。そういえばヴァエールさまはどこに行ったのだろうか。いつもであればウーノさまの後ろに控えていそうだが、流石にアガレス帝国の皆さまが集まっている場に姿を現すのは憚られるのかもしれない。

 

 『どうだろうね? 魔素に関してはお婆にでも聞くと少しは分かるはずだけれど……こっちにきていないみたいだから』

 

 クロが私の代わりに彼女の疑問に答えてくれた。アガレス帝国の巨大魔石は空気中の魔素を随分と吸い取っているようだから、私が破壊した巨大魔石二十五個が消失して皇宮の魔素が濃くなって、ヴァエールさまがはっきりと存在できるようになったらしい。

 確かに以前訪れた時よりも魔素が濃いような気がするが、微々たるもののような気もする。測定機器が存在しないし、魔力や魔素に敏感な方に調べて貰う他ないが、アガレス帝国の皆さまは魔術に詳しくない。廃れた技術と言われているので、副団長さまが耳にすれば凄く怒りそうだ。

 

 ウーノさまとクロが少し話し込み、毛玉ちゃんたちにも声を掛ける。銀髪くんは鉱山で元気に働いているそうで、元第一皇子殿下をぶん殴ったとかなんとか。ヒロインちゃんは元陛下のお相手を務めるのは嫌なようで塞ぎ込んでいるそうだ。まあこの話が本当かどうか調べる術はないので、ウーノさまの言葉を信じるしかない。

 

 一通り話を終えてお互いに小さく礼を執る。

 

 「クロさま、お話ありがとうございます。おちびちゃんたちもお相手ありがとうございます。ではナイさま、今宵の宴は楽しみにしていてください。アガレス自慢の料理を沢山ご用意いたしましたので」

 

 ウーノさまが『では』と言い残して、エーリヒさまや聖王国のフィーネさまに亜人連合国のディアンさまたちへ声を掛けていく。国の頂点に立つのは大変だなあと横目で観察しながら、アガレス帝国の戴冠式を無事に終えたのだった。

 

 ――陽が沈み夜の帳が降りた。

 

 晩餐会は前日に執り行われたため、戴冠式後の祝いの席はウーノさまが仰った通り宴に近い様相である。まあようするにアルバトロス王国でいうところの夜会であるが、他国の方々も参加しているのでワールドワイドな規模になっていた。

 

 アルバトロス王国の王太子殿下と妃殿下に、亜人連合国からはディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さん、聖王国からはフィーネさまと官僚のお偉方がいらっしゃる。

 エーリヒさまもいるのだが、何故皆々さまは私の側にいるのだろうか。ディアンさまとベリルさまには『一緒にいても良いか?』とお願いされたし、ダリア姉さんとアイリス姉さんには『美味しい料理を食べていて良いから、ナイちゃんの側にいさせてね』と言われているから問題はない……はず。

 エーリヒさまは『アガレス帝国側は雲の上の地位を持っている方ばかりで緊張するから』と私の側にいることに決めたらしい。フィーネさまは『エーリヒさまとナイさまがこちらにいるので』と、久方ぶりに揃った転生者組の時間を大切にしているようだ。

 王太子殿下は苦笑いを浮かべながら『アストライアー侯爵の側にいれば面白いことが起こるかもしれぬ』と冗談を口にし、彼の横にいた妃殿下があらあらと苦笑していた。

 

 流石にこの面子ではいの一番に料理にありつくのは駄目だと判断して、会場の目立つところに移動する。そうしてアガレス帝国の位の高い皆さまとお喋りに興じて、ある程度の時間が経った。

 会場には豪勢な料理が沢山ある。どれも美味しそうだし、少し中華っぽさが漂っている餡掛け料理もあるし真っ赤な色をした激辛料理もある。激辛料理はパスだなあと、数々の料理を覗き込んでいるとリンとジークが私の背後で笑っている雰囲気を感じ取り後ろに振り向く。

 

 「ナイ、美味そうな品はあったか?」

 

 「美味しい料理、一杯食べられると良いね」

 

 むっとした私の顔を見たそっくり兄妹は片眉を上げながら、そんなことを言った。美味しそうなお料理は沢山あるけれど、ジークとリンは護衛だから食べられない。かといって私が遠慮していると、二人は私を料理がある方へと導いてくれる。どちらにしろ食べるしかないのだから、心行くまで楽しもうとジークとリンの顔を見上げる。

 

 「錫杖を持っているから食べ辛いのが難点かなあ……どうしようか」

 

 陛下から下賜された錫杖を持っていると、身体の中にある魔力の流れが良くなった。なんとなく分るし、魔力に敏感な方は揃って『荒々しい魔力が穏やかな清流のようになった』と仰るので、錫杖の効果は抜群のようで外に出る時はなるべく持つようにしている。

 

 『ジークかリンに持って貰えば? ナイの認めている人が持てば問題ないんでしょ』

 

 私の肩の上でクロがこてんと首を傾げると、足元にいる毛玉ちゃんたちもこてんと一緒に顔を傾げた。どうやら毛玉ちゃんたちは私たちの話を聞いている上に、多少の理解をしているようだ。

 

 「話を聞く限り大丈夫みたいだけれど、ちょっと怖いなあって。ジークとリンがしおしおになると困る……というか、そうなれば私は人目を憚らず盛大に泣くよ」

 

 そんな理由で錫杖を誰彼に渡さず自分で持っている次第である。ジークとリンがしおしおになれば私は盛大に泣くし悲しむ。クレイグとサフィールが同じ状況に陥っても泣く。大丈夫かもしれないが爆発してもしおしおに枯れても困るし……。

 

 『ナイが泣いているところなんて見たくないなあ』

 

 「私もクロとみんなが悲しんでいるところなんて見たくないねえ」

 

 私はクロと視線を合わせると、喉を鳴らしたクロが顔を擦り付けてくる。その様子を微笑ましそうに私の側にいる皆さまが見ているので少し恥ずかしいのだが、錫杖を抱えているとご飯を喰いっぱぐれるのは由々しき事態だ。

 リンにお料理をよそって貰うのも手だが、護衛の騎士が主人のために料理を取る姿を周りの方々はどう解釈するだろうか。私が食いしん坊だと知っている方であれば、いつものことだと分かってくれるだろう。

 でも知らない方からすれば、護衛が主人のために料理をよそうなんてみっともないと評する方がいてもおかしくはない。難しいなあと考えるけれど、美味しそうな料理の誘惑には抗えず錫杖を持ちながらお皿を手に取りお料理を取った。邪魔にならない場所へと移動して料理を口に運ぶ。

 

 「辛い…………」

 

 私は辛いものが苦手なので、辛さに敏感なのだろう。アガレス料理を口にしている方々は平気な顔をしている。エーリヒさまとフィーネさまもアガレス料理に手を伸ばしているのに、平気そうな顔で食べていた。

 以前アガレス帝都の食堂で食べたご飯はそんなに辛くなかったから、貴族階級の方々にだけ辛い料理なのかもしれない。でも、辛さを除けばどうにか旨味を感じることができる。辛くないヴァージョンの料理を子爵家の料理長さんに作って頂こうと、ひーひー言いながら料理を食べ進めるのだった。

 

 ◇

 

 ――帝国滞在三日目。

 

 アガレス帝国のお貴族さま向けの料理は辛い、という事実を一つ知った。辛いお料理が得意な方は平然と食して――エーリヒさまやフィーネさまにアリサさまである――いたから、私の舌がお子様仕様なだけかもしれない。でも偶に辛いお料理が食べたくなるのでウーノさまにお願いして、今回食べた品の中で気に入ったものの作り方を買う予定である。

 

 朝、帝都の商業区にお出掛けする準備を終え、子爵邸の面子でちょっとした雑談を繰り広げていた。いつも通り毛玉ちゃんたちは外に出ているし、ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんも影の中から出ている。クロとアズとネルはそれぞれお気に入りの肩の上で私の話を聞いてくれている。

 

 「辛い料理は苦手なのに調理法を買い付けるのか?」

 

 「わたくしたちは美味しく頂きましたが、ナイは随分と辛い辛いと仰りながら食べていましたのに」

 

 ウーノさまからレシピを買うと私が告げれば、ソフィーアさまとセレスティアさまが目をぱちくり開いて少し驚いた様子を見せている。確かに辛いお料理は苦手であるが、私以外にも食べる方はいるしみんなは『辛いけれど美味しい』と言って食べていた。

 食べ物に含まれている魔素が低いのか、満腹感はあるものの、満足感が少ないのがアガレスで食べることの問題点である。でも、それはアルバトロスに戻れば解決することなので、美味しいに貴賤はない。私が苦手だからと買い付けしなければ、美味しいと言って食べていた人たちの楽しみを奪ってしまうことになるし、アガレス帝国に赴ける機会は少ない。ならば、やはりレシピを買っておくべきだろうし、アルバトロス王国風のアガレス料理が誕生してもおかしくはないのだ。全部、料理長さんに丸投げだけれど。

 

 「私は少し苦手ですが、辛さを抑えて頂ければ美味しく食べられます。それに辛いお料理が好きな方もいるようですし、料理長さんにレシピを渡しておけばアルバトロス王国でアガレス料理が広まって別のお料理が誕生するかもしれません」

 

 なにか新しいお料理が誕生して、それが美味しければ尚良いのだが……どうなることやら。

 

 「なるほど。そういう意図か」

 

 「ナイらしいですわ」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが私の言葉に納得してくれたようで一つ頷けば、扉をノックする音が聞こえた。ジークが代表して取次ぎを行ってくれる。

 

 「ナイ、アガレス帝と聖王国の大聖女さまとエーリヒがきている。部屋に入っても構わないかと」

 

 「大丈夫だよ。ご案内お願いします」

 

 ジークの声に了承すると、彼は分かったと言って扉を開いた。そこには大勢の護衛の兵士を連れたウーノさまとフィーネさまとエーリヒさまとアリサさま――ついでにヴァエールさま――が立っており、私の姿を確認すると『失礼しますね』とウーノさまが告げて部屋へと入ってくる。

 これからフィーネさまとエーリヒさまたちと一緒にお出掛けするので、お二人が私が借りている部屋にくるのは理解できるけれどウーノさまは一体どうしたのだろう。ソフィーアさまとセレスティアさまとジークとリンは、帝国トップの来訪に丁寧に頭を下げた。

 

 「ナイさま、突然申し訳ありません。廊下でフィーネさんとエーリヒさんに出くわして、ナイさまの下へ向かうとのことでしたのでご一緒させて頂きました」

 

 なるほど。廊下でお二人に出くわしたウーノさまは挨拶がてらに一緒にきたようだ。律儀な方だなあと彼女の顔を見上げる。

 

 「大丈夫ですよ、ウーノさま。しかしお忙しいのではありませんか?」

 

 ここはアガレスの皇宮なので管理管轄をしているウーノさまが自由に闊歩できる場所だから私はなにも言えない。帝国の頂点に座す方であれば朝から忙しそうだが、彼女から疲れた様子は感じ取れなかった。

 

 「忙しいですが、ナイさまにお会いできれば執務が十倍捗ります。お見送りをさせてくださいませ」

 

 ウーノさまは言い終えると柔らかい笑みを浮かべた。私に会えば彼女の執務が十倍捗るのは誇張だろう。凄い冗談だなあと私は口を開く。

 

 「ウーノさま自ら……ありがとうございます」

 

 アルバトロス王国からきた来賓なので陛下が持て成すのは当然なのかもしれないが、それにしたって破格の待遇ではなかろうか。まあ、私はアガレス帝国で暴れた本人だから監視の意味合いもあるのかもしれない。

 私たちがお出掛けしたあとは各国と細かい打ち合わせに入るそうだ。国交が開かれて貿易が開始されているから、お互いに利益を齎せる関係であると良いのだけれど。亜人連合国は竜のお方がアガレス帝国の飛行許可の継続を願い出て、エルフの反物やドワーフさんが造った品を出すと聞いている。ダリア姉さんとアイリス姉さんに気合が入っていたので、アガレス側に変な人がいないと良いけれど。

 

 「いえ、私がやりたくて行っていることですから、ナイさまはお気になさらず」

 

 ウーノさまは身体をずらしてフィーネさまとエーリヒさまとアリサさまに場を譲った。元々ウーノさまの来訪予定はなかったから、邪魔をして申し訳ないという意思表示であろう。彼女にお三方は頭を下げて、私の前に立った。

 

 「ナイさま、今日は楽しみましょう!」

 

 フィーネさまがふんすと少し鼻息荒く私に告げる。今日はみんなと一緒に行動するので、フィーネさまは気合が入っているようだ。一応、行きたい場所はアガレス側に申請しており、お勧めの店を紹介してくれるとのこと。男性陣と女性陣は分かれて行動することになった。異性と一緒で入り辛い場所に赴くため今回は別行動となった。

 

 「はい。アリサさまも半日、よろしくお願い致します」

 

 「大きな街に慣れていないのでご迷惑をお掛けしてしまうかもしれませんが、よろしくお願い致します」

 

 アリサさまに目線を下げると、へにゃりと笑って彼女は頭を下げる。王立学院の終業式以降、彼女は凄く物腰が柔らかくなった。良い傾向だし、仲良くできるならばみんなと仲良くしたい気持ちはあるので、今回一緒に買い物をして距離がさらに縮まると良いのだが。話を終えるとフィーネさまとアリサさまがエーリヒさまへと顔を向けた。

 

 「ナイさま、ジークフリードをお借りして申し訳ありません。ですが、心強いです」

 

 「アルバトロスの男性陣は少ないですからね。誰かと一緒に行動するなら知り合いの方が気楽でしょうし、ジークも行きたい所があるそうなので引率よろしくお願い致します」

 

 女性陣と男性陣が分かれて行動することになったので、エーリヒさまにはジークと一緒に赴くことになった。お互いに爵位持ちなので護衛の方もいらっしゃる。ジークが一緒であれば誰かに絡まれても対処できるし、逆にジークに困ることがあればエーリヒさまがフォローをしてくれるだろう。割と良いコンビのような気もするが、私の背後でジークが『子供扱いするな』という気配を醸し出しているような。

 

 アルバトロス王都の商業区よりもアガレス帝都の商業区の方が規模が大きく割と楽しみだ。フィーネさまは特に楽しそうにしており、お小遣いを目一杯持ってきたと仰っていた。

 私もお金はたくさん持っている身なので、買い過ぎないように注意しないと。子爵邸の皆さまにアガレス土産を買って、美味しそうなお野菜や食べ物を見つけたら買うし、リンとソフィーアさまとセレスティアさまの欲しい物も聞いてみないと。

 

 初めて訪れた街、もしくは慣れない場所ではぼったくりが心配だけれど、目利きができる方をウーノさまが紹介してくださったので大丈夫だろう。ジークとエーリヒさまにも私たちと同様にアドバイザーが帯同するから騙されることはないはずだ。

 

 一通り話を終えて、ウーノさまに視線を合わせると彼女はにっこりと笑って行先を指して歩き始めた。私たちも彼女の後ろを歩いて、アガレス皇宮の長い廊下を闊歩する。

 そうして馬車回りに辿り着くとお見送りの方が増えていた。何故か、アルバトロス王国の王太子殿下と王太子妃殿下に、ディアンさまとベリルさまにダリア姉さんとアイリス姉さんもいる。人化したままの赤竜さんと青竜さんと緑竜さんもいるし、エル一家とポチとタマにグリフォンさんもきてくれており、グリフォンさんが卵さんが気になるのか私のお腹にぐりぐりと顔を擦り付ける。

 

 「!?!?!?」

 

 誰かが気を張った気がするけれど勘違いだろう。グリフォンさんたち視線を合わせて『行ってくるね』と告げ、殿下と妃殿下に亜人連合国の皆さまと子爵邸の幻獣の皆さまは『気を付けて』『護衛の傍を離れないように』『楽しんできて』と口々に仰り、私も『行ってきます』と返した。

 皆さまにもなにかお土産をお渡ししたいけれど、なにが良いだろうか。少し悩んでいるとヴァエールさまがエーリヒさまに近づいて、にかりと笑う。

 

 『ごっほん! 少年、楽しんでくるが良い! 帝都は広いぞ!』

 

 「ヴァエールさま、ありがとうございます。なにか欲しい物はありますか? あまり高い品は買えないので、俺の懐に優しい品となってしまいますが……」

 

 『少年が無事に戻ってくれば良いさ。優しさが骨だけの胸に染みるわい。なにか面白いことがあれば教えてくれ!!』

 

 がははと笑うヴァエールさまに困ったようにはにかむエーリヒさま。前もだけれど彼らは何故か仲が良い。男の人同士だし波長が合うのかもしれないなと、用意された馬車に乗り込み一路帝都の商業区画を目指す。

 三十分ちょい移動すると商業区に辿り着き、リンのエスコートを受けながら馬車から降りた。ジークとエーリヒさまは私たちとは少し離れた場所に着いているはずだ。

 

 護衛の方を沢山引き連れている所為で一般の皆さまからの視線が痛いが、黒髪黒目を隠すためフードを目深に被っているので騒ぎにはなっていない。クロとネルはソフィーアさまとセレスティアさまの腕の中である。肩の上にいるより騒ぎにならないだろうという配慮だった。

 

 「大きいなあ……」

 

 「前もきたはずなのに、今の方が広く感じてしまいます」

 

 「凄く栄えています。アガレスは帝国を名乗るだけはありますね」

 

 私とフィーネさまとアリサさまがお上りさん丸出しで、商業区の貴族用の店舗が並ぶ区域を見渡す。高級店が多いので店構えも凄く豪華だし、かなり確りとした造りの建屋が多い。出ている看板も豪華だし、ふと見た店員さんの格好はお洒落な装いであった。

 

 さて、今回のことはフィーネさまが手紙で言いだしたことである。話を聞いて私がウーノさまにお願いしたのだが……目的の品は見つけられるのか。そして私に降り掛かるであろう災難から逃れられるのかと少し遠い目になるのだった。




【お知らせ】突然ですが、次の更新を3/16にしたいと思います。少しリアルが立て込んできたので、お話を考えられない状況となってしまいました。申し訳ありませんが、よろしくお願い致します! ではでは~!┏○))ペコ
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