魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0466:エーリヒくんの心配。

 帝都の商業区画。聖女三人寄れば無敵……なんて言わないけれど、お買い物を楽しむ分には良い面子なのだろう。たとえ、大量の護衛の方々が控えていたとしても。周りの方々が驚いて少し距離を置いているのだが、営業妨害にならないのか少々心配である。まあ、その分私たちが買い物をすれば地域貢献となるはずだ。

 

 フィーネさまはどのお店に入ろうかと吟味しているし、アリサさまはそんな彼女に『お姉さまはなにが欲しいのですか?』と至極真っ当な言葉を掛けていた。私も私で食べ物関係のお店はないかなあと、周りを見渡しているのだが少々フードが視界を塞いでいるし、錫杖を持っていないので身体の中にある魔力の流れが気になってしまう。

 飴屋さんがあったり、調味料屋さんがあったり、武器屋に防具屋に呉服店に反物屋、はては下着専門店もあるものだから、ごった煮感が凄かった。それでもフィーネさまとアリサさまは二人で楽しそうに入りたい店を吟味しているので、楽しいのであればなによりだ。私は護衛として付いてきてくれている、リンとソフィーアさまとセレスティアさまに入りたい店はあるかと視線で問えば、こちらは気にするなと無言で返事が戻ってくる。

 

 「ナイさま、あちらのお店に入りましょう! アガレス帝国で有名なデザイナーが手掛けた衣装を買えるそうですよ!」

 

 フィーネさまが私に振り向き声を掛けた。有名なデザイナーの方のデザインから仕上げた服を買えるようだが、お値段が張りそうだし、店員さんから前衛的な衣装を勧められそうだけれど大丈夫だろうか。

 断る理由はないのでフィーネさまとアリサさまの後ろに付いてお店の中へと足を進めれば、凄く上品な中年男性が私たちを迎え入れてくれ、一瞬にして一般人ではないと理解したようだ。まあ、眼光鋭い護衛の皆さまがいるのでお店の方の反応は仕方ないだろう。

 

 お店の中に入って展示されている服に目をやると、質の良い布で作り上げたシンプルな衣装が並んでいる。前衛的な衣装がたくさん並んでいそうと思ってごめんなさいと心の中で謝る。フィーネさまとアリサさまは周りの衣装を見ながら店員さんに顔を向けた。

 

 「展示されているご衣装が素敵でお店に入らせて頂きました。他にもあるのでしょうか?」

 

 「いらっしゃいませ、高貴なお方。当店を選んで頂き感謝致します。部屋の奥に我が店自慢の職人たちが手掛けた品を並べております故、どうぞこちらへ」

 

 フィーネさまの言葉に店員さんが恭しく頭を下げて、別室に案内してくれる。高級店が立ち並ぶエリアだから、店員さんはお金持ちの方ややんごとなき方の相手は慣れているようだ。奥の部屋に入ると先ほどの場所よりも、更に服の質が上がっているしデザインも洗練されている。

 完全に富裕層狙いであり、特別感が凄いというか……なににしろ私の目には眩しいのだが、フィーネさまとアリサさまは目を輝かせながら飾られた衣装を見ている。

 

 「女性ものでよろしいでしょうか。贈り物として男性ものをお望みであれば別室にご案内致します。ごゆるりとご覧くださいませ」

 

 店員さんはしつこい接客を良しとしていないようだ。案内が終わると直ぐに後ろに控えて、お客さんに呼ばれれば対応するというスタンスである。あまりにしつこいと断れなくなる口なので有難い対応である。まあ、このお店はフィーネさまとアリサさまが選んだので、私は彼女たちの同道者だから気楽なもの。でも後ろのお二方から私に向けられている視線が厳しい気がするのは何故だろう。

 

 「アリサ、なにか興味を引くものはある?」

 

 「えっと……私はこの衣装ですね。フィーネお姉さまに凄く似合いそうです」

 

 アリサさまはご自身が纏う衣装ではなく、フィーネさまに着て欲しい服を選んだようだ。濃紺の落ち着いた色合いの服で、髪色が銀髪のフィーネさまに似合いそうだった。フィーネさまと初めて出会った頃より、彼女の身長が七センチほど伸びているので、もう少し伸びれば成人女性の平均身長に届きそうである。なんて羨ましいとお二人のご様子を伺っているのだが、私が関われば服を選ばなくてはならないので後ろで気配を消している。

 

 「確かに良いデザインだし、日常使いにできそうね。アリサにはこちらが似合うのではなくて?」

 

 「……凄く良いですが、少し手が届き辛いですね」

 

 「なら私がアリサに贈るわ。いつも一緒にいてくれて有難う」

 

 「いえ、そんな! 恐れ多いです!」

 

 まあまあ、そんなそんなとフィーネさまとアリサさまがやり取りをしている姿は、まさにお姉さまと妹という感じである。お二人は同い年なので変な表現であるし、アリサさまの方が背が高いためちぐはぐ感があるものの話の内容だけを聞いていると本当に姉妹のようだった。

 

 私が微笑ましく彼女たちを見守っていると、背後でソフィーアさまとセレスティアさまがお店の方と話し込んでいた。どうやらドレスを買い付けるようで、支払いは私の財布からである。何故、私の財布から彼女たちが支払いをするのだろうとソフィーアさまとセレスティアさまに視線を向けると『ナイが着る衣装だ』『ドレス、全く買いませんからねえ……』と呆れられている。何着も買ったため荷物は明日中にアガレス皇宮に届けて欲しいとお願いしている。

 

 「す、凄い量ですね」

 

 「本当に」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまとお店の方のやり取りをフィーネさまとアリサさまがいつの間にか見ており、フィーネさまが私に『ナイさまが選ばなくても良いのですか?』と問われた。

 私が決めると値段が安い品を選ぶ上にセンスもないので、ソフィーアさまとセレスティアさまと子爵邸の侍女さまたちに私チョイスの服は白い目で見られている。そんな理由があるので専属侍女のお二人に任せておいた方が無難という事実があった。そうして服飾店での買い付けを終えて店の外に出る。

 

 「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

 

 ほくほく顔の店員さんに見送って頂き次はどの店に入ろうかと迷っていると、フィーネさまがとあるお店を指差した。私にはあまり用のない場所であるが、フィーネさまもアリサさまも胸が立派だし……重要度が高いのだろう。

 

 入りたくないとは言えないし、諦めて入ってまた後で買い付けの様子を眺めていようと足を進めると、クロが空気を察したのかネルと共にソフィーアさまとセレスティアさまの腕から飛び立って『外で待っているね~』と告げた。

 それならばとセレスティアさまも外で待つことになり、残った面子でお店の中に入る。少し妖艶な雰囲気を漂わせる店内はお香を焚いており、良い匂いに包まれていた。すけすけ下着やら、レースが凄い下着に、布面積が少なくて下着の役割を果たしていないものも置いてある。普通の下着はないのかなあと視線を彷徨わせると普通の下着も置いてあり私の身体に合うもの……と足を進める。

 

 「あ、これなら……」

 

 身体が小さいものだから、合うサイズを探し当てるのに苦労をする。下着は他の方から見えないし、侯爵ともなれば特注品が普通だけれど。とはいえ偶にはお店でお買い物をしたい気分にもなるわけで。

 少し選択肢が狭まってしまうが、私の趣味に合う品をいくつか選ぶ。後ろで控えているリンも『これナイに似合いそうだよ』と笑うので、リンが選んでくれた下着も買っておく。

 リンも欲しい品はないのと問うてみれば良く分からないと微妙な顔になるため、リンの胸のサイズに合いそうな場所へと移動していくつかチョイスして買い付ける。ソフィーアさまが『なぜジークリンデに向けた品は普通に選べるのに、自分のものを選ぶとなれば迷ったり、斜め上のセンスを発揮するんだ……?』と頭を抱えていた。

 

 すべてを選び終え支払いを済ませると、下着店の方にはアガレス皇宮に送って欲しいとお願いして店を出る。

 

 「ナイさま、行きたいお店はありますか?」

 

 「えっと……あのお店が気になります」

 

 フィーネさまの言葉に私はあるお店を指差した。私が指差す方にみんなが視線を向けると食べ物関連のお店ではなかったので驚いている。たまたま食べ物以外で興味が引かれただけなのに、そんなに驚かなくても。良い品があれば良いなあと、私もみんなと一緒にお店に入るのだった。

 

 ◇

 

 アガレス帝国滞在三日目。戴冠式を無事に終え、いろいろと細かいイベントも終えているので今日と明日を過ごせば、アガレス帝国からアルバトロス王国に戻ることになっている。やはり慣れない土地は少し緊張するので早く帰って日常に戻りたい気持ちもあるが、今回は俺だけで海外に足を向けていない。仲の良い人たちと一緒に旅をするのは楽しいと改めて感じさせてくれているので、今回の戴冠式に誘われたことを感謝しなければ。

 

 「ジークフリード、俺に付き合って貰ってすまない。本当はアストライアー侯爵閣下の護衛に就きたかっただろう?」

 

 俺の隣を歩く赤毛の背の高い青年の顔を見上げる。俺はアルバトロス王国の成人男性の平均身長――百八十センチ――に届いているのだが、隣を歩くジークフリードは百九十センチを余裕で超えている。周りより頭半個分背の高い彼と視線を合わせるのは案外大変だ。ナイさまがジークフリードを見上げる時は顔を凄く上げているから、凄く微笑ましい光景だと口が裂けても言えないが。

 

 「気にしなくて良い。エーリヒを一人にするわけにもいかないし、お前が誰かに襲われたとなればナイが気を揉むし、大聖女も心配するだろう」

 

 学院卒業生のみんなでアガレス帝都で買い物をしようと決まったのだが、お互いに行きたい所に差が出たため男女別行動となった。となれば俺は一人で行動しなければならず、ナイさまが気を使ってくれてジークフリードを派遣してくれた。

 俺は武力に難があるので彼を就けてくれるのは有難いけれど、ジークフリードはナイさまの傍にいたかっただろうに嫌な顔一つ見せず、彼は俺と一緒に行動を共にしている。肩の上に乗っている竜はみんながいないけれど、嬉しそうにジークフリードと一緒にいて時折彼に顔を擦り付けてご機嫌なようだ。

 

 「俺、侯爵閣下にそんなに気にして貰えているのか?」

 

 「同郷だろう。それにエーリヒがマメだから、お礼をどう返そうかと悩んでいるな……覚悟しておけ」

 

 ジークフリードが俺の言葉にふっと笑った。どうやらお土産を渡していたことで、ナイさまがなにを返そうかと頭を悩ませているらしい。亜人連合国のドワーフ職人が作った品を渡そうと試みていたが、ハイゼンベルグ嬢とヴァイセンベルク辺境伯嬢に止められたそうだ。今は子爵領で採れた野菜を贈ろうかと考えを改めてくれたとか。

 

 「ジークフリードも閣下を止めてくれ。ドワーフの職人が作った品を頂いても、俺は使いこなせないから勿体ないだけだ」

 

 「善処はするが、ナイだからな。いつか渡される可能性が高い」

 

 また柔らかく笑うジークフリード。俺に向けられたものではなく、ナイさまに向けられているのではと勘繰ってしまう。ナイさまの後ろで控えている時の彼は、本当に厳しい視線を周囲に向けて誰も近寄らせはしないという雰囲気を持っている。

 彼女の専属護衛騎士だから、ナイさまかジークフリードの気が変わらない限りその立場は変わらない。ジークフリードは実力のある騎士だ。他の女性や偉い方の護衛に就くこともできるだろう。

 でもずっとナイさまの傍で護衛を続けているのは、幼馴染以上のなにか特別な感情があるように感じてしまう。でも、ジークフリードとナイさまに告げるのは、お節介だし、奥手そうな二人だから、まだ言わない方が良さそうだ。

 

 「エーリヒ、行きたい店はどこなんだ?」

 

 俺が考え込んでいるとジークフリードが俺に声を掛けてきた。

 

 「ん、急いで行くような店じゃないから、ジークフリードが行きたい所が先で構わない。どうする?」

 

 お互いに視線を合わせて遠慮し合う。そういえばジークフリードが行きたい店はどこなのか知らないし、俺が行きたい店を彼に告げていない。なら行きたい場所が重なる場合もあろうと『装飾店』に行きたいとジークフリードに伝えた。彼は『そうか』と呟いて、照れ臭そうに『俺も行きたい』と零した。ジークフリードであれば武具類を取り扱う店だろうかと予想していたのに、失礼かもしれないが意外な反応だった。

 

 「なら真っ先に行こうか。他の店に先に寄れば時間を取られるかもしれないし、悩む時間も欲しいしな」

 

 「分かった」

 

 俺の言葉にジークフリードが頷いて、案内役の方にお勧めされた装飾店に足を踏み入れる。俺たちの爵位と懐事情を理解してくれており、高級店でも少し下に位置する店だった。

 さて、己のセンスは排除して贈る相手が喜んでくれる品を選べるだろうかと頭を悩ませ始める。ジークフリードも慣れない店に緊張しつつも、店員と話しながらなにか誰かに贈る品を見繕っている。あの様子なら俺が心配しなくても良いだろうと、目の前にある髪留めが並ぶ場所で店員と話しながら悩みに悩んで、ようやく選ぶことができた。会計を済ませて店の外に出ると、ジークフリードと一緒に大きく息を吐くのだった。

 

 「ジークフリード。ちゃんと渡せると良いな」

 

 「エーリヒもな」

 

 選んだ品を大事に抱え、俺とジークフリードは苦笑する。さて、アガレス帝国から旅立つ前に彼女に渡せると良いのだが。しかしジークフリード……君が目指す道は果てなく遠い気がする……というかまどろっこしい上に少し心配だと俺は息を吐いた。

 

 ◇

 

 そろそろ陽が沈む頃、アガレス帝都の商業区から戻ってきた。フィーネさまとアリサさまは凄く衣装を買い込んでおり、どうしてそんなに買うのだろうと首を捻れば『聖王国の商業区と規模が違い過ぎて……』と教えてくれた。

 聖王国は宗教で成り立っている国家だから観光地の側面が強い。商業区は観光客に向けたお土産店で構成されているので、国民向けの日用品や高級店がかなり少ないそうだ。アルバトロス王国の王都は平民向けの商業区もお貴族さま向けの商業区もあるし規模もそれなりだ。国ごとに特色がでるから面白いなあと、馬車から降りたところである。

 

 「ナイさま、フィーネさん、アリサさん、おかえりなさいませ」

 

 リンのエスコートを受けながら馬車のステップを踏み、地面に足を付けたところでウーノさまから声が掛かった。五姉妹揃って私たちのお迎えに顔を出してくれたようで、沢山の護衛の兵士を連れている。護衛のリンが半歩下がり、黒髪を隠すために被っていたフードを取って彼女に小さく頭を下げると、フィーネさまとアリサさまも聖王国式の聖女の礼を執った。

 

 「ただいま戻りました。ウーノさま、お迎え、ありがとうございます」

 

 一旦外れた視線を合わせると彼女はにこりと笑っている。他の方の名も上げるべきか迷ったが、名前を告げると告げた方ともお話を交わさなくてはいけないため、ウーノさまだけに絞っておいた。

 

 「いえいえ。アガレスの商業区をお気に召されたなら幸いです。たくさんご購入頂いたようで感謝致しますわ。あら? クロさま素敵な首飾りですね」

 

 ウーノさまは膝を屈めながら私の肩の上でご機嫌な様子のクロと視線を合わせ、出発前にはなかったクロの首に下がっている物に気付いて興味深そうに見ている。

 

 『良いでしょう。ナイに買って貰ったんだ~。ボクの瞳の色と同じだよ』

 

 天然石を買ってクロの首に掛けた瞬間からクロはご機嫌だった。形に残る物をプレゼントした機会が少なかったし、私もクロに物を贈ることはなかった。なんとなく興味を引かれて入った店に、クロと同じ瞳の色をした天然石を見つけて買って革紐も購入して括り付けただけのものだけれど……。

 

 私の顔にすりすりとクロの顔を擦り付ける時間が長くなっているので、甚く気に入ってくれたようだ。まあ、クロに渡したということはロゼさんの分とヴァナルと雪さんと夜さんと華さんに、毛玉ちゃんたちの分、エル一家とポチとタマにグリフォンさんの分にお猫さまとジルヴァラさんの分も購入している。アズとネルの分はリンが購入して渡す予定だ。

 

 「皆さんにお土産をと考えて、天然石を売っているお店に立ち寄りました。気に入って頂けるか分かりませんが、あとでウーノさまにもお渡ししますね」

 

 仲間内にも用意してあるし、交友を持っている方にも贈ろうと割と大量に買い付けたのでお店の方は大変だっただろう。品揃えの良いお店だったし、値段もピンからキリまであったから贈る相手により差をつけることができる。その辺りも考えて購入したのだが、果たして喜んでくれるのかどうか。

 

 「まあ、私に! よろしいのですか、ナイさま!?」

 

 私の言葉に両手を合わせて口元に添えたウーノさまは満面の笑みを浮かべている。私は良かったと安堵して確りと頷く。良いもなにもウーノさまに贈る予定として買ったから問題ない。

 

 「凄く嬉しいですわ! ですが頂いてばかりで申し訳ない限りです」

 

 「大丈夫です。ウーノさまにはお世話になっておりますし、アガレスの美味しいお料理もご紹介頂けたので」

 

 私の言葉に彼女は遠慮しているけれど、情報って大事なものだしアガレスの文化を頂いているようなものである。なぜ郷土料理のレシピを他国の者に売り払ったと責める方が出てきてもおかしくはない。不満を抑え込める位置に座しているからこそ、私は安心してお料理のレシピやお野菜さんを頂くことができるのだから本当に有難いし、こちらが感謝しなければならない。

 

 「ありがとうございます。大事に致しますね!」

 

 ふふふと笑うウーノさまに大袈裟ですと伝えると、彼女はフィーネさまとアリサさまにもお帰りの挨拶をしている。外交って大変だなあとウーノさまとフィーネさまとアリサさまを見ながら、借りている来賓室に戻るとジークとエーリヒさまも戻っていたようで私たちを待っていてくれた。身内だけしかいないので気楽に対応できるのは有難いと、椅子から立ち上がった二人と視線を合わせた。

 

 「エーリヒさまとジークの方が早く戻っていたのですね。お待たせすることになり申し訳ありません」

 

 部屋に入って声を上げると、ジークはそのまま私の警護に戻る。彼の行動を見たエーリヒさまが苦笑しながら口を開いた。

 

 「いえ、お気になさらず。ナイさまとフィーネさまとイクスプロードさまが気に入られる品はありましたか?」

 

 これは私が答えるよりもフィーネさまに譲った方が良いだろうと彼女に視線を向ければ、エーリヒさまにフィーネさまは顔を合わせてに嬉しそうな顔を浮かべる。

 

 「聖王国より規模が大きくて沢山買ってしまいました! 聖王国の皆さまからお小遣いを頂いていたので、破産せずに済みましたよ」

 

 フィーネさまはご自身で使えるお金と、お小遣いと称して聖王国の先々代の教皇さま――今は新しい教皇さまが誕生しているので三代前となるが――や、仲の良い方からお小遣いを頂いたようである。

 彼女は聖王国を立て直した功労者だから、お金がなくて欲しい物が買えない状況を回避したかったのだろう。アリサさまも周りの方からお小遣いを頂いたそうで懐が温かいと教えてくれた。衣装や日用品を買い込んでいたので、随分と散財したが楽しい時間だった。

 

 「そうですか。あ、えっと……」

 

 エーリヒさまがフィーネさまと合わせていた視線を逸らして、ポケットの中に手を突っ込もうとして止めた。彼らしくない行動にどうしたのかと首を傾げるも、今話をしているのはフィーネさまとエーリヒさまの二人である。口を挟むのは失礼だろうと黙っておいた。

 

 「どうしましたか?」

 

 フィーネさまも彼の行動を見て不思議に感じたようだ。こてんと彼女が首を傾げると銀色の長い髪がさらさらと揺れる。

 

 「いえ、なんでもありません。俺もジークフリードも欲しい物が買えたので良い機会でした。皇帝陛下に感謝しなければなりませんね。普通は他国の貴族が帝都をウロウロするなんてできないでしょうし……」

 

 エーリヒさまがアガレスを慮る発言をすると部屋にいる警備の兵士の方々が『ドヤ!』と決め顔になる。ウーノさまは兵士の皆さまに慕われているのだなと感心する。アガレス国内をほぼ掌握しているようだから彼女の手腕は本物だ。先帝さまの血を引いているとは思えないので、母方の血が色濃く出たのだろう。先帝さまの血は確実に半分引き継いでいるから問題ないし。

 

 「ですね。関わる切っ掛けは最低でしたが、こうして戴冠式にご招待頂けましたから」

 

 フィーネさまが無意識でドヤ顔を披露した兵士の方に釘を刺すと、彼らはその節は申し訳ありませんでした! と言いたげな顔になっていた。元皇子組の暴走の果ての結果だから致し方ないし、他の世界から黒髪黒目の人が拉致されなくて良かったから結果オーライである。

 

 「わたしまで招いてくださり、アルバトロス王国以外の国を見聞することができました。機会に恵まれているので幸せです」

 

 アリサさまは聖王国から出られること自体が想定外だったようだ。国から出る、というより住んでいる場所から外へと出ることなく一生を終える方が大勢いる。私も討伐遠征以外で王都を出ることはなかったから、今こうして各地を飛び回っている状況が稀有なことだ。

 

 「もう少しすれば、南の島にお出掛けなので凄く楽しみにしているんです! ね、アリサ」

 

 フィーネさまがアリサさまに話を振って『はい、とても楽しみです』と仰るアリサさま。そうしてフィーネさまはエーリヒさまを見上げると、少し照れが入っているような気がする。やはりフィーネさまとエーリヒさまの間には甘い空気が流れている。

 でも邪魔をすれば馬に蹴られて死んでしまうからおっかない。黙って見届けるか影で支えるかの二択が一番平和で安全だ。

 

 「俺もです。ナイさまが誘ってくれなければ、王城の官舎で一人寂しく過ごすところでしたから」

 

 エーリヒさまが私にキラーパスを寄越した。黙って見届けるつもりだったのに話に加わらざるを得なくなった。

 

 「島には海産物、森の中に入れば果物がたくさん生っているので食べ物には困らないですからね。バーベキューもしたいですし、泳ぎも満喫したいです。ヤシガニさんを前回頂けなかったので、リベンジして捕まえられれば良いのですが」

 

 私が食い気全開の島での行動を口にすれば、みんなが『ナイさまらしい』と笑う。やはり一番の娯楽は食べることに集約されてしまうので致し方ない。南の島にゲームを持ち込むには少々手間だし、それなら海で泳いだり砂浜で遊んだりする方が楽しいだろう。

 

 「海で泳ぐのは久しぶりです」

 

 「楽しみですよね」

 

 エーリヒさまとフィーネさまは問題なく泳げるようだ。前世の学生時代にプールの授業で学んでいるから、大体の日本人は泳ぐことができる。アルバトロス王国は海がなく川で泳ぐしかないのだが、王都の近くに大きな川が流れているものの泳ぐには適していない。

 

 「皆さま、泳げるのですか?」

 

 アリサさまが驚いていることに苦笑をしつつ、私たちは肯定の意味を込めて一つ頷いた。

 

 「凄いです! 泳ぐ機会は滅多にありませんし、泳ぎを教えてくれる方もいないのでわたしは泳げません……」

 

 聖王国もアルバトロス王国と似た事情のようで、泳げない方がほとんどのようだ。アリサさまの運動神経は良さそうだし、一度習えばさっくりと泳げてしまえそうだけれど……どうなることやら。フィーネさまがアリサさまに泳ぎを教えることを約束して、今日は解散となる。それぞれ借りている部屋に戻り、あとは夜ご飯を終えて寝るだけだ。陽が昇ればアルバトロス王国に戻ることになる。

 

 買い付けた一部の商品は既に部屋に届いており、天然石が入った箱も届いていた。

 

 部屋に戻るなり、毛玉ちゃんたちが私の影からひゅばっと出てきて、ロゼさんがぴょーんと出て、ヴァナルと雪さんたちがぬっと出てきた。どうしたのだろうと首を傾げると、どうやら私が買った天然石を早く首に掛けて欲しいらしい。彼らを見たクロはふふんと胸を張って胸元の天然石を主張させると、毛玉ちゃんたちが鼻を鳴らして甘え鳴きをし始めた。

 

 「ちょっと待っててね。でもロゼさんはスライムだから掛ける首がないんだけれど……どうしようか」

 

 毛玉ちゃんたちが辛抱たまらないけれど、我慢しなければと五頭一斉に伏せをして前脚を床に擦り付けたり、顔を床に付けてべっちょりと身体を伸ばしたりと表現力が凄い。私は彼らの圧に耐えつつロゼさんに問い掛けた。

 

 『ロゼの身体の中に仕舞っておく! マスターからの贈り物大事にする!』

 

 「そっか。じゃあ、これはロゼさんに。ロゼさんの元となっている魔石と同じ色の天然石だよ」

 

 私は箱の中から一つ天然石を取り出して差し出せば、ロゼさんは私の膝に飛び乗って天然石を身体の中に取り込んだ。

 

 『ありがとう、マスター!』

 

 ロゼさんのお礼の言葉にどう致しましてと告げると、膝の上から床へと戻ってぽよんぽよんと何度も身体を動かしている。喜んで貰えたならなによりと毛玉ちゃんたち用の石を取って、買った金具に天然石を取り付けた。あまり器用ではないので少し不格好になっているけれど、遠目で見る分には綺麗であろう。

 

 そうして革紐を通して毛玉ちゃんたち用の首飾りができた。ペンダントトップの形は様々で丸い物もあれば長方形に菱形や五角形もある。面白いよねえと笑い、どれが良いかなと問えば五頭みんなで悩み始める。

 桜ちゃんが一番初めに選んで次に椿ちゃんが選び、続いて楓ちゃんも決めた。早風と松風はそれぞれおっとりとしているのか、それともなんでもよかったのか、女性陣に譲る気遣いができたのか余り物の二個をそれぞれ選ぶ。

 

 「うん、素敵だよ」

 

 私の声に毛玉ちゃんたちが答えてくれて、次はヴァナルの首に掛け、雪さんと夜さんと華さんの首にそれぞれ掛ける。あとはエル一家とポチとタマとグリフォンさん用なのだが、彼らの首回りは結構あるのでどうしようかと悩む。まあ、話を聞いてから決めても良いし慌てる必要はないと、部屋で控えてくれているジークとリンの顔を見た。

 

 「ジークとリンの分もあるけれど、アルバトロスに戻ってから渡すね。ちゃんと首飾りとして加工して貰いたいから」

 

 天然石のお店の方によると、キチンと加工すれば購入時以上の価値を持つ天然石もあるそうだ。技術を持っている職人さんに加工して貰うから今は渡せない。クロは加工した品よりも自然そのものの方が好みだと教えてくれたので、お店で首から下げたのだけれど。

 ジークがなにか気まずそうな顔になり、リンはへにゃりと笑っている。むっと口元を伸ばしたジークが私と視線を合わせた。

 

 「ナイ……」

 

 「どうしたのジーク」

 

 問い返してもなにか考えているようで、なかなかジークの次の言葉がでない。一体どうしたのかとリンに視線を向ければ、ふるふると小さく顔を振っているので彼女も分からないようだ。

 

 「…………これを。いつも世話になっているから買ってみた。気に入ってくれるか分からないが、ナイに似合うと思って俺が選んだ」

 

 ジークが少し早口で懐から長細い箱を取り出して私に差し出す。つい受け取ってまじまじと箱を見つめるのだが、一体なんだろう。でもジークから贈り物を頂くなんて考えていなかったし、なんだか照れ臭い。

 

 「開けても良い?」

 

 「ああ」

 

 ジークに許可を貰って丁寧に包装紙を解いていく。そうして割と高級感漂う箱が顔を覗かせ蓋を開いた。

 

 「シルバーのアクセサリーだ。シンプルで良いデザインだね」

 

 どうやら考えることは似ているようで、ジークも首飾りを選んでくれたようだ。それに指輪は苦手なので、魔力制御を担っている魔術具以外はなるべく付けたくない。以前、ぼそりと零したことがあるのでジークは覚えていたくれたようだ。

 

 「あまり派手な物は好きじゃないだろう。俺とリンとクレイグとサフィールの分もあるんだが、先ずはナイに渡したかった」

 

 少し顔を赤くして私から視線を逸らしたジークの顔を見上げる。

 

 「今までこういうことはなかったから新鮮だし照れるね」

 

 言い終えると箱から首飾りを手に取って、身に着けようとするのだが留め具が中々留まらない。あれ、と首を傾げるとジークが私の後ろに回り、やんわりと私の手から留め具を取って着けてくれた。

 

 「ありがとう、ジーク」

 

 私もなんだか照れ臭いけれど、お礼はキチンと伝えておかなければ。重くないし、小さな首飾りなのでずっと着けていても問題はないだろう。

 

 「兄さん、私にも」

 

 リンがジークの腕の袖を引っ張って催促すると彼は苦笑いになる。そうしてまた懐から取り出して、長細い小箱をリンへと差し出した。

 

 「ん、ああ。ほら」

 

 「ありがとう、兄さん。ナイ、私にも着けて」

 

 ジークから箱を受け取ったリンは中身を確認もせずそのまま私に渡す。ジークと私はリンの行動に苦笑いを浮かべながら、私はリンの顔を見上げる。

 

 「良いけれど、普通は贈った人が着けるものじゃない?」

 

 「ナイに着けて欲しい」

 

 「リンが問題ないなら良いんじゃないか? 俺は気にしないぞ」

 

 ジークが気にしないのなら良いかと、箱の中身を取り出してリンに椅子に腰かけて貰い彼女の首に掛けて留め具を掛けた。

 

 「うん、リンに似合ってる。ジークのセンスは良いね」

 

 「ありがとう、ナイ。兄さんもナイに着けて貰えば良い」

 

 リンが良いこと言ったとドヤ顔になった。なにをしているのやらと苦笑いを浮かべ、ジークは自分で着けるだろうと彼を見上げる。

 

 「いや、俺は……あ、いや。すまない、ナイ、頼んで良いか?」

 

 ジークは少し考えたのち、結局リンのアドバイスに従うようだ。ジークにしては珍しい行動だと感じつつ、気にする相手でもないと彼から箱を受け取り中身をだして、ジークの首に掛けるのだった。

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