魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0468:加工依頼。

 ルカに早く天然石が欲しいと急かされた日の夜。

 

 アガレス帝国で買い付けた天然石をルカの額飾りを作ると約束すると、エルとジョセとジアも同じ物が良いとお願いされ、グリフォンさんは脚輪が良いとお願いされた。ポチとタマも首から掛けるよりは、角に引っ掛けられるタイプの物で大丈夫と教えてくれたので、腕輪に近い物に加工して贈ろうと考えている。

 お猫さまとジルヴァラさんにも無事に渡せたし、明日は亜人連合国の皆さまにお土産を渡しに行こう。一緒に行動していたけれど、三日目は完全に外交組とお出掛け組に分かれてしまい、彼らはアガレス帝国の商業区に赴くことはなかった。

 

 自室でゆっくりとした時間が流れており、あとは寝るだけとなっている。私は椅子に腰を下ろして領地経営の手法を記している本を読んでいた。少し難しいけれど、ゆっくりと落ち着いて読めば理解できるし、参考になることや役に立つことが沢山記されている。

 面白いことが記述されていれば、いつかの機会に領地で試してみようとメモを取っている所だ。私の足元では毛玉ちゃんたちが五頭みんなが集まってすやすやと寝息を立てている。

 ヴァナルも大あくびをしているし、雪さんと夜さんと華さんは彼を見てご機嫌そうに尻尾をばふばふ振っていた。クロも籠の中でこっくりこっくりと船を漕いでいるので、そろそろ灯りを落として寝ても良いかなと私は笑みを浮かべる。

 

 「ナイ」

 

 開いたままの自室の扉からひょっこりとそっくり兄妹が顔を出した。私の名を呼んだのはリンであり、嬉しそうに笑って部屋の中に足を進める。二人の肩に乗っていたアズとネルはクロがいる籠の中に無理矢理入って、すし詰め状態になっていた。

 

 「どうしたの、リン?」

 

 読んでいた本を閉じて姿勢を少し変えてリンと向き合うと、ジークは彼女の後ろに立って苦笑いを浮かべていた。なんだろうと少し首を傾げると、リンは小さな袋を差し出した。

 

 「天然石のお店でナイの分を買っていなかったから……これ、あげる」

 

 「いつの間に買ってたの? 全然気づかなかった。開けても良い?」

 

 袋を受け取って大事に抱える。そういえばリンからなにかを貰ったのはこれが初めてかもしれない。平民は一年が明けるとみんな一斉に一つ歳を取るから、誕生日を祝う習慣は薄くお金持ちの一部の人のみのイベントである。

 お貴族さまは産まれた日を誕生日として盛大に誕生祝のパーティーを開くけれど……そういえば貴族になってからも誕生祝は開いたことはなかった。孤児仲間みんな貴族籍に入ったから、イベントとして開いてみても良いのかもしれない。

 しかしまあ、彼女はいつの間に天然石のお店で会計を済ませたのだろうか。私の護衛に就いているからそんな暇はなかったはずだ。袋の封を丁寧に解いて中身を確認すると、真っ黒な天然石が入っていた。私がみんなの瞳の色に合わせたから、リンも気を使って黒色の天然石を選んでくれたようだ。

 

 「ナイが一生懸命選んでいる間に私の代わりにあの二人が買ってくれて、あとでお金を返した」

 

 なるほど。ソフィーアさまとセレスティアさまが気を使ってくれたようだ。真剣に選んでいる最中なら私は他の方の行動を気にすることはないので、こっそり会計を済ませたのだろう。リンの懐事情もあるから、彼女に無理のない額の品をチョイスしてくれたようだ。この手の品の良し悪しは私もリンも良く理解していないので、ベストな方法かもしれない。

 

 「ナイが買った物と比べれば品質が落ちると、渡すかどうかさっきまで迷っていたからなリンは」

 

 「あの人と一緒に買い物に出掛けたから兄さんは狡い……私もナイになにか渡したかった。同じものでごめんね」

 

 リンを見ながらくつくつと笑うジークに、彼女がむっと抗議の声を上げながら最後はへにゃっと情けない顔になった。

 

 「リン、ありがとう。大事な物がまた増えた。嬉しい」

 

 片方の手にはリンから贈られた天然石を大事に握って、私は手を伸ばしてリンの頬に添える。

 

 「ううん、私もナイから貰ったよ。他にも沢山貰ってる」

  

 リンは言い終えるなり両手を伸ばして私を抱きかかえる。いつもであれば降ろして欲しいと抗議するが、今日くらいは良いかとリンの首に腕を回して彼女と視線を合わせる。

 

 「いろいろなことがあると思うけれど、これからもよろしくね、リン。ジークもよろしく」

 

 これから先、グリフォンさんの卵さんが孵るのは確実だし、南の島でバカンスを楽しむけれどなにか起こりそうだし、夏を越えると南大陸の王族の方の浄化儀式が待ち構えている。

 他にも共和国の研修生がきちんと学べているか、猫背の魔術師さんの引き籠もり具合が少しでも改善するのか、ヤーバンの元第一王子殿下はきちんと冒険者として生活できているのか、領地運営は上手く軌道に乗るかとか沢山気にすることもあるのだ。

 

 「うん。ナイと一緒ならどんなことでも乗り越えられるし、大丈夫だよ」

 

 「ああ。離れてくれとナイに言われても付いて行くからな」

 

 ぎゅっとリンの腕に力が入ってお互いの顔が近づくと同時に笑みを浮かべる。ジークは私たちを見ながら片眉を上げていた。未来はどうなるか分からないけれど、できるだけ彼らと一緒に過ごせたら良いのになあと願ってしまう。

 

 「私もジークとリンとクレイグとサフィールがいるなら、なにがあっても平気だし、どこまでも行けるよ。きっと」

 

 私はリンに抱えられたまま笑って、もう遅いから寝ようとジークとリンに告げる。ジークはおやすみと言い残して、リンは私と一緒に寝ることになった。アズとネルもクロと一緒に籠の中で寝るようで、三頭で器用に尻尾を絡めている。

 開けっ放しにしていた部屋の扉を閉めて灯りを落とす。窓から星明りが煌々と差し込んで、部屋は丁度良い暗さになっていた。いつも首から掛けている卵さんを机の上に置いて、ベッドに潜り込み目を閉じて暫く、隣にいるリンの体温がゆっくりと伝わって眠気が私を襲う。

 

 「おやすみ、ナイ。良い夢を見てね」

 

 リンの柔らかい声が耳に届いたけれど、彼女の言葉に返事をする間もなく眠りに就くのだった。

 

 ――翌朝。

 

 「……ん?」

 

 寝返りを打って隣で寝ていたはずのリンがいなくなっていることに気付いて、ベッドから身体を起こして背伸びをする。リンが私よりあとに寝て先に起きるのはいつものことだ。クロが籠の中から私を見ていることに気付くのだが、アズとネルも起きてそっくり兄妹の下へ行ったようで籠の中にはクロしかいなかった。

 

 『おはよう、ナイ。リンは先に起きて自分の部屋に戻ったよ。そろそろ誰かが起こしにきてくれる時間かなあ?』

 

 「クロ、おはよう。教えてくれてありがとう」

 

 私はクロにお礼を伝えると、ベッドにもう一度寝転がる。朝は侍女さんがいつも起こしにきてくれるのだが、それよりも先に主人である私がベッドから抜け出していると良く思われないらしい。

 ヴァナルと雪さんたちも既に起きているけれど絨毯の上でまったりとしているし、毛玉ちゃんたちは五頭揃って部屋の扉の前でお座りをして侍女さんがくるのを待っている。セレスティアさまが見れば凄く喜びそうな光景だけれど、彼女は辺境伯家のタウンハウスで過ごしている。

 残念だなあとベッドから魔術具で写真に収めて、今度見せてみようと笑っていればクロが籠の中から飛び立ち私のお腹の所にちょこんと乗っかる。そこから私の胸に移動して、クロは首を伸ばしながら顔を私の頬に擦り付ける。

 

 「くすぐったいよ、クロ」

 

 ご機嫌な様子のクロには申し訳ないが、少しくすぐったいので手加減をお願いしたい。ぺしぺしと長い尻尾でシーツを叩いて良い音を出している。

 

 『駄目?』

 

 上目遣いで私を見ながらクロがこてんと首を傾げた。相変わらず凄い角度で首が回るものだから、もげてしまわないか心配だ。

 

 「駄目じゃないけれど……起こしにきた侍女さんに見られるのは恥ずかしいかな」

 

 『そうなの?』

 

 部屋にきた侍女さんが凄く微笑ましい顔を浮かべて『仲が宜しいですねえ』としみじみと声を零すのだ。クロは無意識の行動なのかもしれないが、侍女さんの私に向けられている視線が生暖かいというかなんというか。

 

 「まあ、クロより毛玉ちゃんたちの攻撃の方が凄いけれどね」

 

 『あの仔たちはねえ~ボクでも勝てないから』

 

 毛玉ちゃんたちの攻撃を防げる方はいるのだろうか。五頭一斉に掛かられると防ぎようがない上に、上目遣いで鼻を鳴らしながら甘え鳴きされた時は少し罪悪感を抱いてしまう。毛玉ちゃんたちは深く考えていないだろうけれど、それが私たちの心に刺さるのだ。

 セレスティアさまが特に効果は抜群で、胸を押さえてなにかを耐えている所をよく見る。第三者として見ていると面白いが、当事者となると少し恥ずかしい。クロと視線を合わせて笑っていると扉をノックする音が部屋に響いた。私は返事しないまま待っていると、侍女さんがゆっくりと扉を開けて部屋に一歩足を進めたようだ。

 

 「ご当主さま、起床の時間でございます」

 

 「……おはようございます」

 

 侍女さんの声にむくりとベッドから起き上がって、返事を少し遅らせて寝起きを装った。今日の起床当番は三年前から侍女を務めてくれている、騎士爵家出身の方である。

 

 「起きられますか?」

 

 彼女は綺麗な笑みを浮かべて、ゆっくりとベッドに近づいてくる。その後ろを毛玉ちゃんたちがちょこちょこと着いてきて、立ち止まった隣に五頭が並んでお座りをした。

 

 「はい」

 

 「では、お召替えを手伝わせて頂きますね。申し訳ありませんが、皆さま退室をお願い致します」

 

 侍女さんの声に反応して、毛玉ちゃんたちもヴァナルと雪さんたちが歩き始め、クロがベッドから飛び立って行く。影の中にいたロゼさんもポーンと飛び出して何度か跳ねるとヴァナルの頭の上に乗った。

 毎日見ているけれど、知らない人には凄い光景だろうなと侍女さんと一緒に笑ってしまう。桜ちゃんが器用にドアノブに脚を掛けて扉を開くと、みんなが出て行き最後にヴァナルが尻尾を上手く使って部屋の扉を閉めた。

 

 そうして侍女さんの手を借りて着替えを済ませ、グリフォンさんの卵さんを首から下げて朝ご飯を食べようと食堂に足を進める。いつも通りのメンバーで料理長さんたちが丹精込めて作った料理を楽しみつつ、雑談を交わしてそれぞれの持ち場に就く。

 

 午前中は執務をこなして、お昼からは亜人連合国の領事館に顔を出すことになっている。ソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまに挨拶をして、執務を開始すれば直ぐにお昼がやってきた。

 ご飯を済ませて、ジークとリンと私たちは亜人連合国の領事館へお邪魔すると、ダリア姉さんとアイリス姉さんが直ぐに迎え入れてくれ、お二人の後ろで呆れながらディアンさまとベリルさまが見守っている。

 

 お貴族さま的な挨拶は必要なく、アイリス姉さんに背中を押されながら来客室へと通された。そうして正面にダリア姉さんとアイリス姉さんがソファーに腰を掛け、ディアンさまとベリルさまは彼女たちの後ろに立っている。私は一人でソファーに腰を掛けて、肩の上にはクロが乗り背後にはジークとリンとアズとネルが控えてくれた。

 

 「えっと、ドワーフの職人さんにお願いしたいことがありまして」

 

 「またドワーフの連中に?」

 

 「私たちエルフも頼って~」

 

 むーと口を尖らせているダリア姉さんとアイリス姉さんは少し不満げだった。でも装飾品系となるとどうしてもドワーフの職人さんの領域となってしまう。デザインとなればエルフの方々のセンスが発揮されるけれど、今回はシンプルな品を贈るつもりだ。何故かディアンさまとベリルさまは微妙な顔になっている。どうしたのか気になるけれど、話を進めなければとエルフのお姉さんズを見た。

 

 「すみません。エルたちに天然石を渡したいのですが、首に掛ける方法が思いつかなくて額飾りにしようとなりまして」

 

 「ああ、なるほどね」

 

 「確かに天馬やグリフォンには難しい話だね~」

 

 天然石は私が仲の良い方々に贈っているので、お姉さんズの話の理解が早かった。もちろん亜人連合国の皆さまにもお渡ししてある。身に着けなくても部屋に置いて飾ることもできるから、装飾品として加工はしていない。

 

 「じゃあ、ナイちゃん。こうしない?」

 

 ぱんと手を叩いたダリア姉さんが素敵な提案をしてくれた。金具の部分はドワーフの職人さんにお願いして、紐の部分はエルフの方が編んだものを額の部分に付けようとなった。

 どうやら魔法を施して伸縮自在にできるそうだ。クロにもお願いすれば良かったねと少し話が脱線すると、あれよあれよという間にクロたちとヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたちの分も用意してくれることになった。あとはリンから貰った天然石を首から下げられるようにと発注を掛けて、よろしくお願いしますと黒い天然石を預けたあと、お土産を先に渡すべきだったのに最後になってしまったことを謝る。

 

 ディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんは凄く喜んでくれ、この場にいない赤竜さんと緑竜さんと青竜さんの分もお願いしますと渡せば、何故か微妙な顔になるのだった。

 

 ◇

 

 エルとジョセとルカとジアとポチとタマとグリフォンさんの飾りをドワーフさんとエルフの皆さまにお願いした次の日。

 

 執務を終えて昼食を取り、それからアルバトロス城の魔術陣に魔力補填を行って騎士団の隊舎に向かっている所である。お城にきたついでに猫背の魔術師さんに治癒を施す約束を取り付けていた。

 

 先ほどまではワイバーンさんたちの調子を聞きに行っていたけれど、体調に問題ないようだし騎士の方ともキチンと連携が取れているし前より仲良くなっているので順調そのものだろう。

 

 で、一筋縄ではいかないのは猫背の魔術師さんの件である。

 

 十年近く引き籠っていたせいか、栄養不足と猫背が酷い。貧民街の子供と大人でもなかなか見かけない、割と厄介な症状である。せめて魔力アレルギーがなければ、栄養不足状態はマシだったかもしれないけれど嘆いても仕方ない。地道に通って治していけばどうにかなるだろう。あとは猫背の魔術師さん次第である。寄付代はきちんと頂いているし、彼が支払いを拒否すれば魔術師団に請求するだけだ。

 

 暑さと湿度が高くなって不快感を覚え始めている六月中旬。辿り着いた騎士団の隊舎にあるベンチに座ってジークとリンとクロたちで話していると、暑さでうっすらと顔に浮き出た汗を錫杖片手にハンカチで拭っている所だった。

 

 「聖女さま、お待たせいたしました」

 

 「せいじょさま、おくれてごめんなさい」

 

 にっこりと笑みを浮かべている副団長さまと、猫背の魔術師さんがこちらに歩いてくる。以前よりも猫背の魔術師さんの足取りは確りとしているし、長く伸びたぼさぼさの前髪を後ろに結んで顔が見えている。襟足もぼさぼさに伸びているのだが、お風呂に入ったのか髪の状態がマシになっていた。

 まだ頬がコケているし目に隈もあるのだが、一番最初に彼を目にした時とは随分と違い改善している。前髪を後ろで纏めているので顔が見え表情も読み取り易くなり、へにゃっと笑っている姿はリンを彷彿とさせた。だから私は彼のことを放って置けないのだろうか。

 なににしても、一度で治らないのは確定しているのだから、こうして何度も顔を突き合わすことにはなっていた。ベンチから立ち上がり、お二人を前にして小さく目線を下げる。

 

 「いえ。この度は治療を遅らせてしまい申し訳ありませんでした」

 

 本来は三日前に彼と顔を突き合わせていたのだが、アガレス帝国の戴冠式に参列していたため、猫背の魔術師さんに術を施す日程をズラして貰っていた。戴冠式に参加することは前々から決まっていたし、猫背の魔術師さんと関わることになったのは決まったあとのことだから致し方ないけれど。

 

 「いえいえ。聖女さまがお忙しいのは我々も承知しております。どうかお気になさらないでください」

 

 「せいじょさまがもどってさしいれてくれたお野菜、おいしい。ありがとう」

 

 ふふふと笑う副団長さまとてれてれと笑っている猫背の魔術師さんの機嫌はとても良さそうだ。アガレス帝国で買い付けた、日持ちするお野菜を魔術師団付きの給仕の方にお渡ししたのだが、効果があったようで良かった。

 お野菜の話になると副団長さまが微妙な顔になったので、他の方には物足りないのかもしれないが、酷くなるまで同僚を放置していた罰である。それくらいは耐えて欲しい。

 

 「調子は如何ですか? なにか変化があれば細かく教えて欲しいのですが」

 

 聖女の常套句を放って猫背の魔術師さんを見上げる。

 

 「ごはん、たべるようになったから……すこし元気でた。せなかいたくない。けんきゅうはかどってる」

 

 まだ丸い背中を伸ばせないけれど、彼と合わせた視線の位置が高くなっているような。自分がチビである事実を突き付けられるので自覚したくはないが、今回に限っては良いことだろう。しかし元気になったことで更に研究に打ち込んでしまえば、術を施した意味が薄くなる。むむむと口を真一文字に結んで、猫背の魔術師さんから副団長さまに視線を移した。

 

 「僕に厳しい視線を向けられても、彼をお約束の場に連れてくるくらいしかできませんよ。ただ珍しく彼が外に出ているので良い傾向ではないかと。聖女さまにご迷惑を掛けてしまっていることは申し訳ないですが」

 

 「副団長さま」

 

 「はい?」

 

 「どうして彼を気に掛けていらっしゃるのですか?」

 

 私が投げかけた疑問に副団長さまはこてんと首を傾げたあと、くつくつと笑い始めた。副団長さまが興味のあること以外に時間を割くのは珍しいことだ。魔術師の方たちは基本そんな人が多いのだが、副団長さまはその傾向が顕著である。だから猫背の魔術師さんが例え同期だったとしても、忙しなく面倒を看ていることが珍しい。

 

 「おや。それではまるで僕は誰も気に掛けない非情な人間であると仰っているようなものではありませんか」

 

 多分、きっと間違えではない。副団長さまは無能な人とか使えない人を好きになることはないだろう。欲望に忠実な方だし、無駄なことはしないタイプと踏んでいる。

 

 「副団長さまは使える人間にしか興味がないのでは?」

 

 「おやおやおやおやおや。聖女さまに僕が鬼畜な人間と思われていたなんて。悲しくて泣いてしまいそうです」

 

 副団長さまがよよよと目元を拭う仕草を見せるが、涙は出ていないし顔は笑っている。演技が下手だなあと眺めていると、猫背の魔術師さんが呆れた様子で副団長さまを見た。

 

 「はいんつ、おおげさ。せいじょさまの言葉はあたってる……」

 

 「バレてしまいましたか」

 

 「つきあいながいから。わかる」

 

 猫背の魔術師さんのことばにケロッとした顔で答えた副団長さま。やはり魔術師は変な方が多いと私は呆れ顔になってしまう。

 

 「まあ、彼にはお世話になっていて、いなくなられては困るのです」

 

 「ぼくもこまる。はいんつはぼくが考えたじゅつしきを直ぐにりかいしてくれて、さいげんしてくれる。他の人、すこし時間がかかるからじれったい」

 

 「面白おかしい魔術を開発してくれるのですよ。時折、失敗して酷い目にあいますがねえ。六年ほど前でしたか、彼が考えた術式を再現したのですが少し失敗しまして、爆発の影響で僕の髪がちりぢりになってしまいました」

 

 副団長さまと猫背の魔術師さまはwin-winな関係のようだが、魔術関連でしかないことが魔術師らしいというか。お互いに利用し合っているという言葉の方がしっくりくるのは妙な感じである。

 副団長さまは爆発に巻き込まれて髪がどうしようもなく痛み、ジークくらいの長さに短く切ったそうだ。短い髪の副団長さまのイメージが湧かないし、似合わなさそうである。

 

 「なにを考えているのですか、聖女さま?」

 

 「短髪は副団長さまに似合うのかなあと」

 

 どうやら副団長さまの髪の短い姿を思い浮かべていることがバレたようで、彼は珍しく微妙な顔になっている。

 

 「あ、すごくにあっていなかった。はいんつは今のかみがたがいちばん」

 

 猫背の魔術師さんが止めを刺しながらも、上手くフォローを入れている。確かに副団長さまは今の髪型が一番だろう。顔は凄くイケメンだし、長く伸ばした髪を肩に流している姿は様になっている。

 副団長さまは貴方が開発した術式に綻びがあったから爆発してしまったと言いたげな顔を浮かべながら無言を貫いた。

 

 「と、話が逸れていましたね。施術を行いましょう。ご飯が美味しいのであれば、きっと直ぐに良くなります。子爵邸と子爵領で採れたお野菜を魔術師団に届けることも考えたのですが……」

 

 無理して西大陸の魔素が多く含まれた野菜を食べて苦しむならば、東大陸で育った魔素の少ない野菜を食べる方が良いのだろう。シスター・リズによると、子爵邸と子爵領で採れたお野菜は魔素が多く含まれていると教えてくれた。

 魔力感知に長けた方だから、おそらく間違えてはいないだろう。子爵邸で働くようになってから、風邪を引きにくくなったとか持病が改善したとか耳にすることがある。魔獣と幻想種の皆さまも魔素が多いと子爵邸を気に入ってくれているので、なにかしら効果があるのだろう。私の魔力の影響を確実に受けているそうで、親和性が高いと言われている私の魔力で育ったお野菜であれば猫背の魔術師さんは食べることができるのではと考えている。

 

 「本当ですかっ!?」

 

 「あ、たべてみたい」

 

 どうして猫背の魔術師さんより副団長さまの食いつきが良いのだろうか。とはいえ魔術師団全員分となると少々量が多くなってくる。アガレスで買い付けたお野菜は大量購入したので問題ないが、子爵領と子爵邸で採れる量はおすそ分けできる程度で、基本は家畜用のとうもろこしさんと甘いとうもろこしさんがメイン産業だから。

 

 「流石に魔術師団全員分の量は確保できないので、お弁当を料理長さんに作って貰って届けるか、お屋敷にきて貰うかのどちらかですね。でも、運動しなければならないですし……お散歩がてらに子爵邸にきますか?」

 

 考えながら喋っていると、なんだか妙な方向に走り出しそうな予感がする。あとはなにか良い方法はないかなと考えていると、目の前のお二人がぱあっと明るい顔になった。

 

 「行きます! 是非!! 聖女さまが育てたお野菜を食べる機会なんて滅多にありませんから!」

 

 「いく。えるとじょせとるかとじあとポチとタマとぐりふぉんさんに……えっと、ほかにもたくさんの幻獣にあえるから。動くのたいへんだけれど、うれしいしたのしい」

 

 テンションがはち切れている副団長さまは放置して、猫背の魔術師さんと視線を合わせた。

 

 「まだ動くの辛いですか?」

 

 動いていなかったから仕方ないけれど、まだ辛いというならばもっと運動をして貰わないと。無理に動いて倒れられても困るのが、加減が難しいところである。

 

 「せいじょさまに術をほどこしてもらったから前よりらくだけれど……ちょっとたいへん」

 

 「筋肉が落ちている証拠でしょうね。十分でも二十分でも良いので、一日のどこかで運動する時間を設けてくださいね」

 

 ずっと椅子に座っていることが苦痛ではない方なのだろう。普通なら四時間も座っていれば肩が凝って腰に痛みを感じて、軽くストレッチや運動を行い解消させる。でも猫背の魔術師さんはぶっ通しで術式開発に精を出しているようだ。

 最近は私がアルバトロス上層部に報告を入れたために、近衛騎士団の方が見回りに入っており、やべー方がいれば強制で研究室から外に連れ出して休憩を取って貰っているらしい。

 

 「うー……術式かいはつのじかんが……」

 

 「厳しい言葉になりますし何度も言っていますが、死んでしまえば術式開発もなにもありませんよ。あと見回りの騎士の方に無理矢理に中断されるより、キリの良いところをご自身で判断して休憩を取る方が効率が良いでしょう?」

 

 開発や研究の良い所で中断されると『あー!』と奇声を上げる魔術師さんがいるとかいないとか。

 

 「……それは困るから、がんばる」

 

 「そうしてください。あとアガレス帝国に赴いていたので、お土産を皆さんにお渡ししているのですが……こちらを」

 

 一応、猫背の魔術師さんの状態は少しづつ改善している。ご本人も子供のような文句を垂れつつ前に進んでいるので、いつかは改善するだろう。それならお土産を渡しても大丈夫かなと私の懐から紙袋を取り出して魔術師さんに渡した。こてんと首を傾げながら袋を受け取った彼は、べりっと遠慮なく袋を開けて中を覗き込む。

 

 「これはなに? ませき?」

 

 「魔力が宿っていないので、魔石ではなく普通の天然石ですね。お渡ししたものは健康を齎すと言われているそうです。気休めですが、貴方の健康が回復することを願っております」

 

 猫背の魔術師さんの瞳の色と同じ天然石を渡したのだが、丁度効果の意味合いが『健康』を齎すと言われている石だった。皆さんの瞳の色と同じ物をお渡ししていますとは告げず、天然石が持つと言われる効能を教えてみた。

 少しでも彼のやる気に火が付けば儲けものだろう。興味深そうに天然石を陽の光に透かして、色々な角度で覗き込んでいる。魔術師さんの隣で微妙な顔をしながら私へ視線を向けた副団長さまにも、彼の瞳の金色と同じ色の天然石をお土産として渡す。

 

 「聖女さま、ありがとうございます! クロさまとアズさんとネルさんとお揃いにできますねえ」

 

 にっこりと笑みを浮かべた副団長さまのテンションが凄く高い。お貴族さま向けの普通の価格帯を選んだから、そう喜ばれると恐縮してしまう。

 

 「クロたちは自然のままが良いらしいので加工しておりませんが……職人さんに預けて装飾品にできますよ」

 

 お土産なので渡したあとは自由にすれば良い。加工して指輪や耳飾り等にするも良し、必要ないなら私に知られないようにこっそりと処分して頂ければ良いのだ。

 

 「いえいえ。きっとこのままが一番でしょう。先程聖女さまが仰ったように魔力が宿っていない状態なので、いずれは魔石と化すこともありましょう。どうなるのか楽しみですねえ」

 

 ふひひと怪しく笑った副団長さまに、私の後ろに控えているジークとリンが『大丈夫なのか……?』『いつも通り』と無言で気配を発している。確かにいつも通りだよなあと笑って、猫背の魔術師さんに治癒を施した。治癒とお土産のお礼を告げられて、今日は解散となるのだった。

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