魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

469 / 740
0469:みんなを誘おう。

 休暇を楽しむために南の島へみんなで赴くまで、あと二週間弱となった。お貴族さまと聖女のお仕事を毎日捌きながら、ちょこちょこと南の島に持って行くものを準備している。亜人連合国のダークエルフさんたちが森を拓いてロッジを建ててくれたから野宿はしなくて良くなった。

 水源も確保しているし、灯りは魔術具か魔法具があるので夜でも大丈夫だ。ご飯の食材は数日分のお米と小麦を持ち込むから飢えることはない。魔物に襲われる心配もないので、きっと楽しいお休みになるはずだ。

 

 今日は教会に赴いて研修生が受けている授業を後ろから眺めている。勿論錫杖を抱えて。少し前に某女性がやらかしたためなのか空気が硬い気がするのだが、授業自体は順調に進んでいるそうだ。もう少しすれば治癒院で怪我や病気の方に術を施してみようと、教会側は考えているそうで副団長さまからも『そろそろ良いでしょう』とGOサインは出ているとのこと。慣れて重い怪我や病気の方に施さなければ経験とならないし、時期的に丁度良い頃合いなのだろう。

 

 神父さまの授業が終わり、私は共和国の研修生たちの前に進み出る。私が赴いたことによって、研修生の皆さまがばっと頭を下げた。どうやら強制送還されてしまった例の方の影響で、私に不敬を働けば首と胴体がおさらばすると捉えられて――事実であるが――いるようだ。顔を上げた皆さまは緊張が身体が硬くなっている。その様子に私は苦笑いを浮かべながら口を開いた。

 

 「皆さま、失礼致します。突然ですが、七月から二ヶ月間は教会の皆さまも魔術師団の皆さまも長期休暇に入ることは知っておられますよね?」

 

 正しくは一ケ月毎に交代制である。流石に全員が留守になれば運営に支障が出るため、予定を組んで長期休暇を楽しむことになっている。教会は清貧を旨としているし、シスターと神父さまは神さまに身を捧げているため教会住まいだけれど、事務方さんや職員さんは長期休暇を使って里帰りやバカンスを楽しむのだ。もちろん魔術師団の皆さまも一緒で、交代制で休暇を取り領地の家族に会いに行ったり、避暑地に出掛けて楽しんだりと様々なのだそうだ。

 

 「はい。飛竜便を手配するので、わたしたち研修生も共和国に里帰りしたければ帰国しても構わないと、共和国政府から通達がきております」

 

 私の疑問にプリエールさんが代表して答えてくれ、他の方たちは私がなにを言いにきたのだろうと少し困惑している。研修生なので流石に二ヶ月間も休むのは憚れるので半分の一ケ月間となっており、教会の皆さまも魔術師団の方々もその予定でスケジュールを組んでいるそうだ。

 

 アルバトロス上層部と教会からの情報によると、プリエールさんたちはアルバトロス王国に残って自主勉強を行い、富裕層の皆さまは一旦帰国するらしい。それなら、一週間でも良いから短い夏休みを楽しんで貰いたいと、教会とアルバトロス王国に行きたい人を南の島へ連れてって良いかと打診すると、本人たちが納得しているなら良いよと返事がきたのである。プリエールさんには是非とも参加して欲しい。番の鸚鵡さんの里帰りとなるので、きっと喜んでくれるはず。

 

 「突然ですが、里帰りされない方はわたくしたちと一緒に南の島に赴きませんか? 残って自主勉強を行うと聞いたので、島にこられる研修生の皆さまは一週間の滞在を見込んでおります。観光地ではないので、いろいろと不便なことがあるかもしれませんが」

 

 一応、着替えを持ってきてくれればあとは問題ないと伝えておく。サバイバルな環境となるけれど、寝泊りできる場所と調理場と水場があるのでキャンプを楽しむという認識で良い。

 

 私たちは二週間の滞在予定であるが、大型の竜のお方が常駐してくれるので帰りたくなれば直ぐ帰れるという贅沢な仕様であった。フィーネさまとエーリヒさまもくるし、ディアンさまとベリルさまとダリア姉さんにアイリス姉さんもくるそうだ。

 クレイグとサフィールもくるし、エルとジョセとルカとジアにポチとタマ、グリフォンさんも同行する。ソフィーアさまとセレスティアさまもくるから、ギド殿下とマルクスさまも誘っている。大所帯なので、人数が増えても構わないと亜人連合国の皆さまは仰ってくれた。

 

 「閣下、大変嬉しいお誘いですが、わたしたちが赴いても良いのでしょうか? お邪魔になってしまいませんか? それに申し訳ないのですが旅費も捻出できません」

 

 プリエールさんがとても行きたいけれど、お金もないとしょぼんとした声で答えてくれた。私が誘ったしお金の心配は必要ないのだけれど。律儀だなあと苦笑いを浮かべて、私はもう一度口を開く。

 

 「その辺りは気になさらなくて良いかと。観光地ではないとお伝えした通り、寝泊りする場所はありますが食べ物は現地調達と持ち込みとなります。着替えさえ持参して頂ければあとは問題はないかと。虫や獣が苦手な方は参加を避けた方が良いかもしれませんが……」

 

 キャンプでは虫や獣が苦手な人は行かない方が良いだろうと苦笑いになる。取った獲物を捌くこともあるのだが、四足歩行の動物を捌くには少し抵抗感があるかもしれない。食べるなら遠慮なく捌いて毛皮まで有効活用させて頂くが、果たして共和国の研修生さんたちは大丈夫だろうか。可哀想だからお肉を食べられないと言い出しそうな方がいなければ良いけれどと、プリエールさんたちの顔を見ればみなさん参加することを迷っている様子である。

 

 「移動日まで時間があるので、お返事は一週間後とさせて頂いても宜しいでしょうか?」

 

 「は、はい! アストライアー侯爵閣下、お気遣いありがとうございます」

 

 ぴっと背を伸ばして声を張ったプリエールさんと共和国の研修生の皆さまに私は『では失礼致します』と告げて部屋を出て、歩きながら後ろを振り返りそっくり兄妹の顔を見上げた。

 

 「みんな参加してくれると良いけれど」

 

 プリエールさんだけ誘えば、研修生の皆さまから彼女が贔屓されていると勘違いされて不利益を被りかねない。それに一人だけの参加は寂しいから、全員誘ってみたけれど果たしてどうなるのやら。

 

 「随分と大所帯になるが、大丈夫なのか?」

 

 ジークが小さく首を右に傾げると、リンも同じことを考えていたのか彼女も小さく首を右へと傾げる。ついでにアズとネルもそっくり兄妹と同じ方向に首を傾げていた。二人と二頭が首を傾げる可愛いけれど、私が心の中でにやにやしていることを悟られると次がないかもしれないと頑張って顔を引き締める。でもにやりとしてしまいそうだから、さっさとジークの疑問に答えてしまおう。

 

 「その辺りはディアンさまに許可を貰っているから大丈夫だし、大蛇さまもダークエルフさんたちも私たちが遊びにくることを楽しみにしているって教えてくれたよ」

 

 会うのは久方ぶりだし私も楽しみだ。島にはまだ発見していない未知の果物とかありそうだし、アルバトロス王国に流通していない草花もあるだろう。持って帰って良いならば種から育てて、お貴族さまの間で流行してくれるなら一儲けできる……って、商売しようと考えるのはお貴族さま思考に染まってきた証拠なのだろうか。

 まあ、自然破壊さえしなければ悪いことではないだろう。持ち込んだものと出たゴミは、きちんと持って帰って処分を行うのだから。

 

 「ナイ、たくさん遊ぼうね。いつも頑張っているんだから息抜きも大事」

 

 「ありがとう、リン。あとお魚さん食べたいなあ。アルバトロス王国は内陸部だから川魚しか手に入らないから。釣り竿は売っていないから、自前で作るしかないのかな」

 

 私がお礼を伝えるとへにゃと笑ったリンが魚の話に変わると、更に笑みを深める。おかしなことを言ったつもりはないけれど、海産物を食べる機会は内陸国だとめっきりと減ってしまう。望めば食べることができるけれど、干物とか燻製とかになるので新鮮なお魚さんは超貴重だった。

 どうにか新鮮なまま保存ができると良いのだが、副団長さまに超速冷凍機みたいな魔術具制作を依頼しても良いだろうか。彼も彼で忙しいようだから少々気が引けるけれど、他の魔術師の方を紹介して貰うのもアリだから話だけでも通してみようと決意する。ロゼさんにお魚さんを預けても良さそうだけれどちょっと怖いし。

 

 「泳ぎを覚えれば、銛か槍で突くこともできるんだが……」

 

 「ジーク、そんなことどこで覚えたの?」

 

 アルバトロス王国は投網か仕掛けで川魚を取るのが一般的だ。泳いで取るという感覚は薄いので、ジークはどこで知ったのだろう。海があれば漁師さんが潜って銛で突くことはあるだろうけれど……はて。

 

 「九条殿だな。一緒に南の島に赴いた時に、海に潜って銛で魚を突きたいが女性の前で裸と下着姿は駄目だからと我慢していたな」

 

 「あー……褌一枚で銛を持った姿は確かに見せられないね」

 

 なるほど情報源は九条さまかと納得しつつ、妙な姿を想像してしまう。褌姿で銛を持ってにかっと笑う九条さま……フソウのお武家さまなのに、銛突きなんてするのだろうか。でも潜水ができるなら銛を持って海に潜るのもアリだろう。

 漁業権とか資格は必要ないので、食べる分だけは取り放題だ。少し楽しそうなので銛も買うか作って貰おうかなあと考えていると、リンが私の服の袖を軽く引っ張った。

 

 「フンドシってなに?」

 

 「フソウの男性用の下着だよ。ヤーバンの元第一王子さまがいたでしょう?」

 

 こてんと首を傾げたリンに分かり易い例えを出した。ヤーバン王国の男性の正装が一番分かり易い気がする。

 

 「うん」

 

 きちんと想像できたリンがひとつ頷いた。

 

 「その姿で、外套を取り払った感じかな。前は隠れているけれどお尻は丸見えだしね」

 

 ヤーバン王国の元殿下のお尻は、布面積は小さいもののほとんど隠れていた。褌の種類にもよるけれど、お尻は丸見えである。

 

 「……それは遠慮願いたいな」

 

 「…………」

 

 ジークが微妙な顔を浮かべリンは無言を貫く。あまり想像はしたくないがフソウの文化なので否定はできない。だからこそ九条さまは理解した上で我慢していたのだろうし。

 まあ、なににせよ。もう直ぐ長期休暇で南の島を満喫するのだから、お仕事を頑張って捌いていこうとジークとリンと共に教会をあとにするのだった。

 

 ◇

 

 夜。聖王国の大聖女に用意されている部屋――ようするに自室――のベッドに寝転がっている。

 

 アガレス帝国の戴冠式に参列した私は聖王国に戻っていた。同行していたアリサも大国の一大行事に参加できたことは、聖王国以外の国を知る良い機会となったようだ。思い込みで行動をすることはなくなったし、相手の気持ちに立って考えられるようになっている。あとはご実家のお父上との仲が良くなるのなら安心だが、こればかりは手も口も出せないので祈るばかりである。

 

 帝国に派遣されている聖王国の宣教師とも話をして、アガレス帝国での布教活動はゆっくりと進んでいると教えてくれた。アガレス帝国の宗教派閥の最大手は東大陸を創造した女神信仰と黒髪黒目信仰なので、浸透させるにはかなり時間が掛かりそうである。

 ナイさまが帝国に拉致されたことで生きている黒髪黒目のお方がいると盛り上がり、黒髪黒目信仰教の活動が活発になっているとかいないとか。新皇帝陛下も勿論把握しているので、妙なことにはならないと願いたい。

 

 久しぶりにエーリヒさまとナイさまにお会いしたけれど、お二人ともなにも変わっていないので安心したし、以前のように接してくれている。エーリヒさまは叙爵を、ナイさまは陞爵されたので立場は少し変わっているけれど、私的な時間であれば転生者同士の気安いやり取りができる。

 

 ナイさまは相変わらず幻獣や幻想種の皆さまに囲まれながら食を探求している。エーリヒさまは忙しい外務部に配属されたが毎日が充実しており、聖王国でなにかあれば彼の下へと情報が渡るようになっているとのこと。

 困っていれば助力しますと仰ってくれたことが凄く嬉しいし、アガレス帝国滞在最終日前の夜に『フィーネさまに似合いそうな品を偶然見つけまして』と照れながら伝えてくれたこと、みんなに分からないようにこっそりと渡してくれたことが凄く嬉しかった。

 

 ぶっちゃけると、エーリヒさまはこの世界におけるイケメンには少し届かない。けれど前世の記憶も加味して良いなら、十分にカッコ良い男性になる。穏やかに話をする姿は安心して会話ができるし、私が変なことを口走っても笑って許してくれる。交換している手紙もお仕事のことやナイさまのことを記してくれているのだが、いつも丁寧に書かれた文字で便箋に書かれ、手紙を読む私が楽しんでくれるようにと気を使ってくれている文面だった。

 

 「……えへへ」

 

 エーリヒさまから頂いた髪留めを手に取って見ていると勝手に笑みと声が零れた。琥珀でできた髪留めは不思議な色合いだけれど味が出ている。部屋には誰もいないので聞かれても問題はないし、大聖女にあるまじき態度や声を出しても問題はない。

 アガレス帝国の帝都にある商業区は聖王国の商業区とは全く違って、かなり規模が大きく栄えていた。規制が敷かれていたのでいつもより人通りは少なかったそうだが、それでも行きかう人々は多くいたし活気に満ち溢れていた。男女に分かれて視察と銘打ち買い物に出掛けたのだが、まさかエーリヒさまから贈り物を頂くとは全く考えておらず、私は彼になにも用意していなかった。

 

 「なにかお渡ししないと……でも、なにが良いんだろう?」

 

 聖王国は宗教国家なので観光地と変わりない。西大陸のさまざまな国から信徒の皆さまがやってくる。お土産物として女神さまの像や教会のシンボルマークのロザリオに聖水などはたくさんあるし、値段もピンからキリまで存在する。

 

 でもエーリヒさまはそんなものを貰っても嬉しくはないだろう。聖王国の産業が発展していないことが悔やまれる。お仕事をしているならば懐中時計や腕時計を贈っても良さそうだけれど、取り寄せるとなれば聖王国のみんなに目的を聞かれてしまう。

 なにか良い方法は……聖王国以外に他国へ渡る機会なんて皆無だし、アルバトロス王国で買い付けてもエーリヒさまには珍しくもない品となる。私が刺繍を施したしたハンカチ……は重いし、花を贈っても枯れてしまう。難しいなあと頭を捻るが、とりあえずお礼の手紙を認めなければとベッドから移動して机に座る。

 

 ――いっそのこと、ナイさまを頼ってみようかなあ。

 

 そうすれば亜人連合国のドワーフさんを紹介して貰って、なにか男性が好きそうなプレゼントを用意できるかもしれない。よし、ナイさまを頼ろうと決め、さっそくエーリヒさまとナイさまに向けた手紙を記すのだった。

 

 ◇

 

 ――気に入ってくれただろうか。

 

 アガレス帝国最終日前日に視察を銘打って立ち寄った帝都の商業区はアルバトロス王都の商業区よりもかなり規模が大きかった。貴族向けの店の種類の多さに驚きながら、ジークフリードと立ち寄った店で悩みに悩んで決めた髪飾りをフィーネさまにこっそりと手渡したのだが、彼女の趣味に合っているのか不安だ。

 爵位を賜り少しお金に余裕ができているから奮発はしたものの、相手は聖王国の大聖女を務めるお方である。宝石類は見慣れているだろうし、琥珀の髪飾りは地味過ぎたかもしれない。外務部の自分の席でふうと息を吐くと同時に誰かが俺の後ろに立った。

 

 「どうしました、ベナンター卿」

 

 「あ、いえ。すみません、仕事中なのに」

 

 もう直ぐ仕事を終える頃、俺に声を掛けてくれたのはシャッテン外務卿だ。にこりと笑みを浮かべて俺を見下ろしているのだが威圧感はない。もし仮にハイゼンベルグ公爵閣下であれば、威圧感に晒されながら俺はすぐさま椅子から立ち上がり礼を執っていただろう。職場の上司なので必要以上の貴族のやり取りや関係は不要と、最初に言われているので立っていないこともあるけれど。

 

 「構いませんよ。今日の業務は殆ど終えていますし、アストライアー侯爵さまが領地開発や屋敷のお引越しに向けて準備を行っているため外に出ていらっしゃいませんから。それで、どうしました?」

 

 シャッテン卿が暗にナイさまがやらかしていないから業務量が普通だと仰った。まあ、彼女がひとたびやらかすと外務部の者は、右往左往しなければならないので大変なのは事実である。ただナイさまはやらかしたくてやらかしているのではなく、巻き込まれたから仕方なくの側面が強いので誰も文句は言っていない。

 

 彼女の凄く早い出世を疎んでいる者は少なからずいるものの、窓際部署であった外務部が三年で花形部署に変わっているので外務部の方たちは好意的である。忙しいと言いながら嬉しそうな顔をしているのだから、以前がどのような状況だったのか少し気になるところだが。

 

 「業務と関係ないことになりますが……」

 

 「おや。ではワインでも飲みながら話をしましょうか」

 

 ふふふと笑ったシャッテン卿はワイングラスを掲げる仕草を取った。俺は十八歳になったのでアルバトロス王国の飲酒は認められている。

 

 「あ、すみません。凄く申し訳ないのですがアルコール類は苦手で……」

 

 俺は職場で飲み過ぎて失態を犯したくはないので断ってしまった。気を悪くしないだろうかと上司の顔を見上げる。

 

 「ふむ。無理強いはしませんが、少しくらいは慣れておいた方が良いですよ。貴族の先輩としてアドバイスしておきます。今度、飲み口の良いワインを贈りましょう」

 

 小さく顔を傾げたシャッテン卿は苦笑いを浮かべながら『真面目ですねえ』と零して、俺を席から立ち上がらせて彼の執務室へ導いてくれた。途中、緑髪が特徴のユルゲンが心配そうに俺を見るので、大丈夫なんでもないと首を振っておいた。

 執務室の扉が閉められると、シャッテン卿が城で働く侍女の方にお茶を淹れるようにと指示を出す。彼の補佐役である年若い外務部の方が『おかえりなさい』と軽く声を上げ、彼も同席することになる。

 

 「さて、ベナンター卿。本題ではありませんが、仕事には慣れましたか?」

 

 ソファー腰掛けたシャッテン卿が対面のソファーに手の平を向けて俺に進める。素直に腰を下ろすと凄く座り心地の良い椅子で、補佐役の彼も俺の隣に腰掛けてにっこりと笑う。

 

 「はい。外務部の皆さまが良くしてくださいますので、問題なく業務を行えております。しかし……新入りである私が他国へ頻繁に赴いても良いのかと悩みます。先任の方が向かうべきでは、と」

 

 初手からシャッテン卿と同行してヤーバン王国に赴くとは全くの予想外だった。その次に共和国にも赴いたし、私情でアガレス帝国に招かれている。俺を妬む者がいてもおかしくはないし、俺に仕事を取られたと思う人間もいるかもしれない。

 

 「それは無用な悩みではないですかねえ。外務に携わる者が無能であれば国に不利益を齎します。そのような人選を私は行いませんよ。貴方はきちんと任務をこなし成果を齎している。そこに新入りも先任もないのです」

 

 「ハイゼンベルグ公爵閣下の命で外務部へ配属されたましたからねえ。あのお方が便宜を図ることは稀なので、ベナンター卿に向ける期待は大きいですよ!」

 

 シャッテン卿と補佐役の彼は満面の笑みを浮かべながら俺を見る。丁度、侍女の方がワゴンを引きながら部屋に戻ってお茶を用意してくれる。

 

 「ありがとうございます。ご期待に添えられるよう微力ながら職務に臨みます」

 

 湯気が立っている茶を見ながら良いタイミングだと礼を告げると、シャッテン卿は侍女の方を部屋から下がらせ俺と視線を合わせた。

 

 「さて、ベナンター卿。少し憂鬱な顔になっておりましたが如何なさいました?」

 

 シャッテン卿は少し心配した様子だった。しまった顔に出てしまっていたかと反省をするが既に遅い。でも、俺の小さな変化を見逃さない彼は部下に対して情が深いのだろうか。相談するか少し迷った末にアドバイスを貰えるかもしれないと意を決する。

 

 「貴族としては失格なのかもしれませんが……気になる女性がおりまして」

 

 「おや。ベナンター卿に婚約者がいないのであれば、好いている女性がいても良いのではないでしょうか。もちろん、お相手の女性にも婚約者がいないことが前提ですが」

 

 目の前の彼は俺の過去を知っているので、恋愛婚が普通だったことを加味してくれているようだ。俺の隣に座っている補佐役の彼も、俺に気になる人がいることを問題にしていない。

 

 「アプローチというわけではないのですが、先日、髪飾りをお渡ししました……私の好みで選んでしまったため気に入って頂けるか不安になりまして」

 

 「なるほど。それで先ほどの溜息ということですね」

 

 小さく笑うシャッテン卿と少し顔を赤くしている補佐役の方。ふむとシャッテン卿がひとつ頷いて言葉を続けた。

 

 「気に入る、気に入らないの前に貴方の気持ちが大事になるのでは。贈ったという事実が残りますし、それを切っ掛けに次へ繋げれば良いのではありませんか? まあ、私は恋愛経験がないので偉そうなことは言えませんが」

 

 「俺が贈り物を渡したことによって彼女が不利益を被らなければ良いのですが」

 

 唯一の心配がコレだ。聖王国の大聖女さまに他国の男が贈り物を贈ったとあれば、聖王国上層部は良いことだと捉えない可能性がある。

 

 「流石に考え過ぎでしょう。ベナンター卿が諦めずにアプローチし続ければ振り向いてくれることもあろうかと。もしお相手の女性が興味を持っているならば、劇でも観に行く約束を取り付けてみては如何ですか?」

 

 シャッテン卿がふっと笑いながら俺を見る。フィーネさまと劇を一緒に観に行けば、話の内容に一喜一憂しそうだ。悲しい話であれば会場から出たあとも泣いていそうだし、楽しい話ならずっと笑みを浮かべて劇の内容を面白そうに話をするはず。今はお互いの立場があるから彼女と観劇を楽しむのは難しいけれど、いつか叶えば良いなと願ってしまった俺である。




すみません、明日(3/23)から、4/2まで投稿をお休みします! 申し訳ありません。再開は4/3~となります。まさか、一週間でまた休止するとは……。いろいろ頑張ってきますー! ┏○))ペコ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。