魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0047:呼称問題。

 あと少しでヴァイセンベルク辺境伯領というところで、一人の少女、聖女仲間に話しかけられた。どうやら聖女になったばかりで、今回の遠征は初めてとのこと。大変だなあと他人事のように考えていたのがいけなかったのか。

 

 「"お姉さま"、とお呼びしても宜しいでしょうか!?」

 

 なぜそうなるのだろうと頭を抱えそうになるのを我慢しながら、彼女へ視線を向ける。とにかくソレは回避しなければならないから、説得を試みる。

 

 「いえ、歳も同じですし男爵家のご令嬢さまが平民をそのように呼称するのは問題があるかと」

 

 やんわりと首を振りながら、理由を告げる。

 

 「ですがお姉さまは聖女です。聞き及んでいる噂と、実際にお話をして素敵な方と判断させて頂きました。ですから、私はなにも問題はありません!」

 

 彼女はお貴族さま教育をキチンと受けているのだろうか。聖女という役職持ちなので彼女とは同格であるが、お貴族さま出身のご令嬢と平民だと立場が違うというのに。

 確かに聖女としての実績ならば私の方が上だろう。ただそれは、私が四年間聖女として働いたからで、彼女も同じように務めはじめれば同じように評判を得ることができるだろうに。

 

 あとは聖女としての振舞い方次第である。お貴族さま出身の聖女さまは、我儘な人が多いから、汚れ仕事やこうした遠征に積極的に参加すれば教会からの評価は簡単に得られ、騎士団や軍からの覚えも良くなるし。平民の人たちからの支持を得たいのであれば、あまりぼったくらないようにすれば良いだけだ。

 

 医者の数が少なく民間療法くらいしか病気や怪我に対しての治療方法が確立されていないので、治癒を施術できる人間は貴重。

 

 だからみんな教会を頼って治癒依頼を出したり、時折に教会が開く診療所に人が殺到するのだ。その時、聖女さまの胸先三寸でぼったくられることがある。あまりに高すぎると教会からストップが掛かるけれど、妥当だと判断されれば治癒代として寄付を迫られる。払えない場合は借金となるし、余裕のない人たちは生活に困る羽目になり路頭に迷うこともあるのだ。

 

 こんなことがあるから、頓着していない聖女さまは平民の間で噂になる。

 

 私は教会が定めた料金以上に取る気はないし、払えないのならば別の払えるもので良いとしている。

 魔力が多いので一度に治癒できる人数が多い為、他の聖女さまとは違う薄利多売路線。それが評判を呼んだのか、なんだか噂に尾ひれ背びれがついて王都で広まってしまった……のだろう。

 

 そういう聖女さまを他に何人か知っているし。

 

 彼女も真っ当に仕事をこなしていれば、いつかは得られるものである。あとはお金に執着しなければ、か。ただ実家の男爵家が困っているようなので、かなり頑張らないと無理そうだ。

 

 既に『お姉さま』と呼んでいることに苦笑を浮かべ、さて彼女の言葉にどう返すべきかと思案して。

 

 「聖女さまに問題はなくとも、周囲の方々は良しとしません。聖女は……筆頭聖女さま以外は皆、同格扱いです。明確な上下関係を指している呼称は避けるべきかと」

 

 彼女の両隣に居る教会騎士の人がうんうんとしたり顔で頷いているので、間違ったことは言っていないようだ。

 聖女になったばかりだと聞いているので、彼女専属ではなく教会が持ち回りで就けている騎士とみた。言いたいこともあるだろうに、黙っているのは彼女の為になるからだろうか。

 

 「ではっ、では! 何とお呼びすればいいのですか!? ずっと憧れていました! お噂を耳にするたびに素敵な方だなって。今日こうしてお話ができたっていうのに……!」

 

 「…………」

 

 どうしてそんなに盲目的なのか。奉仕精神に溢れた聖女さまは存在するし、孤児院などに慰問をしている人だっている。そういう聖女さまにはもちろん二つ名がついているし、それを踏まえれば私もそんな聖女さまたちと同じだろうに。――仕方ない、か。

 

 「では、こうしませんか。――公の場で聖女さまが告げられた呼称は周囲の目もありますから、避けましょう。そして、こうした自由な時間は名前で呼び合うことにしませんか?」

 

 「え?」

 

 「ナイと申します、以後お見知りおきを」

 

 基本的に聖女が名乗ることは滅多になく、聖女自身である彼女が驚いている。

 

 名乗らないようになったのは、教会が定めた筆頭聖女さま以外の聖女はみんな同格というルールがあるからだろう。

 明確に記されている訳ではないが、みんな空気を読んで名乗ることが少なくなっていった。聖女さまが拠点としている教会の名前を上に付けて呼んだりするし、お貴族さまならば~家の聖女さまと呼ばれる。なので名前がなくとも分かるんだよねえ。二つ名も付く時があるし。

 

 だからこうして名乗る機会は数少ないのだけれど『お姉さま』呼びだけは回避したいので、自己紹介という訳である。名前を知ればそう呼ぶ必要性はなくなるから、彼女も納得してくれるだろう。

 

 「え…………すごく嬉しいです!! アリアと申します。若輩者ですが、よろしくお願いいたします!」

 

 ああ、家は関係ないという意思表示なのだろうけれど、家名も名乗って欲しかったなあ。困窮している男爵家といえど、おろそかには出来ないから公爵さまへの手紙に報告として上げておきたい。

 寄り親も存在するだろうから、どこでどんな繋がりがあるか分からない。今更、家名を聞けるわけはないので、いつかどこかで機会があるはずと願う。

 

 嬉しそうに金糸の髪を揺らし、にっこりと無邪気に笑う可愛らしい少女を見る。

 

 「はい。――これから、よろしくお願いいたします」

 

 無難にそう返して、今日の終着場所までこれが続くのかなあと遠い目になるのだった。

 

 ◇

 

 とりあえず『お姉さま』呼びは回避した馬車の中。太陽の位置はまだ真上。

 

 終着場所まであと半分かあと、にこにこと笑っている聖女さま……アリアさまを見る。ただただ前へと進む幌馬車の中、目の前に座る彼女はニコニコ顔になったり、はっとしたり、眉根を寄せたりと忙しない。私はそろそろお尻が限界なので、休憩時間が早く来ないかなあと願っているのだけれども。

 

 「あのっ! ナイお姉さまは今回の遠征にどうして参加されたのですか?」

 

 「今回はヴァイセンベルク辺境伯さまからの指名依頼でしたので……――呼び捨てで構いませんよ。護衛の騎士の方がいらっしゃいますが、他の方が居るという訳ではありませんので」

 

 なんでこの子は『お姉さま』にこだわるのだろう。しかも名前を名乗ったからか進化しているし……。どでかいため息を吐きたくなるのをぐっと堪え、彼女の言葉を待つ。

 

 「凄い、凄いです! 指名依頼だなんてっ!」

 

 討伐遠征への参加方法は教会からの要請と募集の二つの形がある。要請は更に細かく依頼主となる軍や騎士団に今回のように依頼主からの要請によって教会から声が掛かり、ほぼ拒否権がない。募集は文字通り参加者を募るもの。既定の人数に達しなければ、強制的に教会からお声掛けとなる。

 私がよく討伐遠征に参加していた理由はお金の為と時間を持て余していたこと。ジークとリンもお金が稼げるからと、命の危険があるにも関わらず私と一緒に参加していた。

 

 そんなことをしていたからか、軍や騎士の顔見知りの人が増えていった。もちろん全てを把握できるわけもないので、ほんの一部の人たちとである。

 

 「いえ、今回はヴァイセンベルク辺境伯家のご令嬢さまと学友だったことが大きいのだと思います」

 

 魔獣を倒したのは魔術師団副団長さまだけれど、その間は障壁を張っていたのでセレスティアさまから辺境伯さまへと報告されたのだろう。聖女として使える奴を見つけた、くらいで。

 

 セレスティアさまの行動を恨んではいない。むしろお貴族さまとしては真っ当な行動だし、父親である辺境伯さまから私の後ろ盾になると約束を取り付けてくれたようだし。

 平民である私ならば使い潰されてもおかしくはないというのに、ギブ&テイクの関係を構築しようとしてくれているのだから、文句は言えない。苦労は増えるかもしれないけれど、辺境伯さまの後ろ盾は魅力的。

 

 「あ、お見かけしたことがあります。確か巻髪が素敵なお方でしたよね?」

 

 あの特徴的なドリル髪だと一発で覚えられるよね。背も高く美人だし、セレスティアさま。しかしあの特徴的な髪を素敵と申すのかアリアさまは。あ、いや独特な巻髪とか言えないから、誤魔化した可能性もあるな。

 

 「ええ」

 

 「ナイお姉さま――」

 

 「――呼び捨てで構いません」

 

 「お姉さま……」

 

 「呼び捨てで。きつい言い方になって申し訳ありませんが、貴族さまと平民では取り払えない壁があるのです。人目がある場所で貴族さまである貴女と平民である私の上下関係が覆っている発言ですから」

 

 お貴族さまの籍に入っているのだ。彼女はもう少しこの辺りを意識すべきである。貴族制度を採用している国なのだ、どこでどんな横槍が入るかわからない。

 ジークとリンは私の味方なのでその心配は必要ないが、彼女の護衛騎士が駄目だと判断した時、処分を受けるのは彼女とそれを許した私も処分を受けることになる。

 

 「う……ナイ……はヴァイセンベルク辺境伯のご令嬢とお知り合いなのですね」

 

 少し気圧された様子だったけれど、改めてくれたことに安堵する。

  

 「はい。同じクラスで、運よくお話しできる機会がありましたから」

 

 「あれ? 辺境伯家のご令嬢なら特進科クラス……」

 

 気が付かなくても良いことを気が付いたなあ。まあ高位貴族はほぼ特進科へと編入されるし、彼女はお貴族さまなので学院のことに関しては詳しいのだろう。自分から喋ると墓穴を掘りそうなので、苦笑いをして誤魔化しながら考える様子を見せる彼女の言葉を待つ。

 

 「凄いです、ナイ! 特進科へと入るのはかなり勉強をしなければならないのに!」

 

 公爵さまから家庭教師を派遣され必死に頑張ったし、落ちたら後は怖い状況。公爵さまのご厚意を裏切ったと言われかねないんだもの、そりゃ必死になるってもんだ。

 

 「ありがとうございます」

 

 彼女はそんな事情は知らないだろうから、適当に相槌を返してしまう。私も学院へ通えたらなあと遠い目をするアリアさま。今回の遠征で結果を出せば教会が学費を出してくれるようなので、真面目に聖女として働けば大丈夫だろう。他のお貴族さま出身の聖女も今回は同行しているので、普通に動けば確実に差が出る。

 

 「アリアさま、今回の遠征は通常より規模が大きいものになっております。魔物との遭遇機会も多くなることでしょう」

 

 とはいえ命を失ってしまえば元も子もない。命大事、最優先事項は生き残ることである。

 教会から召し上げられたのならば、魔力値は高いはずだ。あとは何処まで聖女として仕込まれ、才能があるのか。防御系の魔術やバフデバフ系の魔術が使えるならば、前線へと配置される可能性が高くなる。

 

 「功を焦る必要はありません。やるべきことを成していれば必ず結果は出ます。まずは生き残ることを最優先にお考え下さい」

 

 一応、聖女としてならば先任となる。私も初陣の時はビビッて満足に動けなかった記憶がある。怪我をした人を見て治癒を施そうとしても手も口も震えてまともに詠唱が出来なかったり、切られた魔物の死体を見て吐いたこともあった。おそらく聖女ならば通過儀礼のようなものだろう。そして騎士や軍人たちも。

 

 お金が目的で遠征に参加したと言っていたし、無茶をしなければいいのだけれど。私の言葉に恐怖を抱くより、感心しているようすでうんうんと頷いている彼女はちゃんと初陣を越えられるのだろうか。

 

 「――着きましたぜ。聖女さま方」

 

 御者の人の声が幌馬車の中に響いて、ようやく残りの移動日があと一日となるのだった。

 

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